タイトル:【【観】【虐】】 何だかんだ言って年末って忙しいデスよねぇ
ファイル:或る商店街の年末風景.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:4650 レス数:0
初投稿日時:2010/12/31-18:12:04修正日時:2011/01/02-20:20:42
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 「ただいま〜」
 いつものようにドアを開けるとウチの赤黒コンビがいつもとは違う勢いでやって来た。

 『ダワ!ダワダワ!(「」、オカエリナサイナノダワ!グリュン・コンフェットサンからお届け物が来てるのダワ!
オ茶の用意は…)』

 「あ〜、ハイハイ。分かったから落ち着きなさいよ、とりあえず着替える時間くらいもらってもいいでしょ?」
 そう言って着替えている間もロッソとパルタのやたらハイテンションな気配はこちらにまで伝わってくる。
いつもは斜に構えている二人(?)だがこういうときは手乗りサイズだった頃と変わらないんだよね。

 「そっか、いよいよ師走ですね。」
 洋菓子グリュン・コンフェットさんからのお届け物はこの商店街の年末体制スタートの合図でもある。あれこれと
忙しくなるのは分かっているんだが何かワクワクするんだよなw


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 『ダワー。(「」、モウチョット分厚く。)』

 「あのね、これはクリスマスまでチビチビ食べる物なの。それくらいでちょうどイイんだよ。本来は…」
 ペット相伴可のグリュン・コンフェットさん特製シュトーレンをパクつきながらも不満そうなロッソに毎年おなじみ
の説明をする。当然途中からは聞いていないロッソはこれまた一飲みでたいらげ皿を舐めまわすパルタにダワダワと
愚痴を言っている。また明日も食べられるんだからイイじゃんと思うのは僕が歳クッタからなのかな?

 「で、ロッソは明日から?」
 食器を片付けながら声をかけると、

 『ダワッ。(そっ、グリュン・コンフェットサンでアルバイトナノダワ)』
 パルタをひっくり返して遊んでいたロッソが僕の方を向いて少し自慢げに胸を張った。グリュン・コンフェットは
この商店街に昔からある小さなケーキ屋さんだが味の良さと材料に対するこだわりで知る人ぞ知る隠れた名店である。
特に3代目になる今の御主人になってからは抗アレルギーケーキなんかも作ってどっかの病院から感謝状を貰ったり
もしている。それでも折からの不況と規模の小ささ故の宣伝力の無さはいかんともし難く、僕がここに事務所を
借りた頃はドン底で赤字の月のほうが多いくらいだったらしい。

 別にそのことを聞いていたわけではなかったのだが、グリュン・コンフェットさんの4代目(現在本場ドイツで修行中)
が寒い中駅の改札の前でビラ配っているのを見て「ウチのロッソにやらせたほうが目立つよ。アイツ赤いし。」と
声をかけたのが確か4年ほど前、以来12月になると駅前に現れ、クリスマスには店先でケーキを手渡してくれる
巨大実装紅(サンタバージョン)はちょっとした風物詩になり“実はキグルミ”なんて噂も流れたりして師走の商店街
にお客を呼び戻すキッカケになったとグリュン・コンフェットさん始め商店街のみんなから感謝してもらい、正直アレが
あってやっとこの商店街に根づけたと僕は思っている。
 
 ところが一昨年あたりからそれが思わぬ弊害をもたらすようになってしまったのだ。
 どこかの局のローカルニュースでその様子が紹介されたそうで、途中下車してビラを受取ってくれるくらいなら
イザ知らずわざわざ車でやって来てついでに記念撮影までする人まで現れたもんで只でさえ狭い商店街の道路は
大渋滞、クリスマス前のケーキの引渡しの日には他府県ナンバーの車までが往来を邪魔してくれ遂にはちょっとした
事故が起きてしまったのだ。
 これにはグリュン・コンフェットの御主人もかなり責任を感じたらしく“クリスマスケーキの販売を中止する”と
言い出し町内会の皆で説得して思いとどまらせたのだった。
 とは言えあのパニックだけは何とかせねばという訳でケーキの引渡しの際は線路の反対側の市営駐車場に車を停めて
もらい、公園内を通って商店街には徒歩で入ってもらうことで一件落着となるかと思われたのだがここで一つ大きな
問題があったのだ。そう、公園にはあの緑色のアンチクショウがウジャウジャしているのだから。


 「じゃ、今年のローテーションはこれで問題ないですね。もし都合が悪くなったらなるべく早く連絡ください。」
 喫茶hyahha!のマスターの指揮のもと今年も“対緑蟲クリスマス特別警戒”の作戦会議が行なわれた。とは言え
元(?)虐待派のマスターの作戦に今のところ落度は無く、作戦会議と言っても持ち場とローテーション決めるだけ
のことなんだけど。

 人ごみをなるべく商店街から遠ざけるためとは言え実装石が棲み付く公園内をお客さんにケーキの大きな袋を
持って歩いてもらわなければならないのだから用心に用心が必要である。只でさえ大きく口の開いた紙袋は託児
の格好の標的になる上、冬場は比較的賢いとされる実装石でさえ飢えて託児に走る傾向がある。もちろん二重の
ビニールその他ケーキが仔蟲に喰われない為の対策は万全だが楽しいクリスマスパーティの最中に小汚い仔蟲の
顔を見て喜ぶ人などまずいないだろう。
 また託児してくる実装石はまだマシなほうで冬場飢えた実装石の中には半ば発狂してしまい“袋を持ったニンゲン”
=“食べ物を持っている”=“アレはワタシに献上させる物”と言う短絡的な発想しかできなくなった結果ヨダレ・
鼻水・糞まみれで盲目的にニンゲンに突っかかりそのやっすい命と引き換えに遠方から来てくださったお客さんに
精神的・物理的被害を与える糞蟲もいる為注意が必要だ。その為毎年商店街の有志が実装石対策にあたるのだが
今年は特に寒そうだなぁ・・・
 「皆さん、本当に毎年毎年申し訳ありません。」
 とは言え心底申し訳なさそうに頭を下げるグリュン・コンフェットの御主人の前で嫌な顔をする人間は少なくとも
ここには一人もいない。最大で参加しても3日限りのボランティアだしグリュン・コンフェットさんの評判のお陰で
12月の商店街全体の売り上げがあがったのも事実だ。皆家族みたいなものってのは流石に言いすぎだろうけど
僕たちが仲間なのは事実なんだから。

 「では今日はこれで。来週は本格的に冷え込むらしいですから皆さんくれぐれも体調には気をつけてください。」
hyahha!のマスターが会議を締めくくると公園内の集会所を後にする。帰る途中僕たちに出くわした実装石一家が
驚いて薮の中に逃げ込んだ。袋持った人間にもそういう態度取りゃオマエ等も長生き出来るんだろうけどなぁ。



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 12月21日
 “カーン、カーン!”
 公園内に金属を打つ甲高い音が響く。公園の管理事務所のおじさん達も一緒になって公園内にお客さんを誘導
するためのガイドロープが準備されていく。その幅約3メートル、人がすれ違うには充分な幅だ。その両サイドに
それぞれ1メートル幅の路肩を設けここはスタッフ以外侵入禁止としておく。散歩や何やらで日頃公園を利用する
人たちには申し訳ないが今日から24日までは公園のメインストリートはほとんどの所が事実上横断禁止になる。

 「マスター、これで最後。」
 
 「あー「」先生ゴクロウサン。じゃいつもどうりに積んでいって。」
 この寒い中白保川で土嚢を作っては公園内に運び込み続けた僕たち(通称工兵隊)にhyahha!のマスターが指示を出す。
しっかし国公認の頭脳労働者になんてことさせるんだコノ商店街はw


 『デギャアアアア!!!』

 「よし、コイツ等で最後かな?」
 例によってトシとアキ達商店街の悪ガキ軍団(通称遊撃隊)が“バールのようなもの(商品名)”を右手に、実装石
が入った袋を左手に植込みの中から顔を出した。こちらも申し訳ないが誘導路脇の植込みはしばらく実装石進入禁止
になる。尤も違反した実装石には問答無用で極刑が申し渡されるあたり気の毒と言えないこともないが。

 「よし、じゃ薬撒くからちょっと下がってて。」
 トシたちと一緒にダンボールハウスの残骸を片付け終えたところに文房具屋の爺さんが噴霧器を手にやってきた。
植込みの中にノズルを突っ込むと中から『レヂャァァァァァ!!』『レビャ〜〜ッ!!』とトシたちが仕留め損なった親指や蛆の
断末魔の悲鳴が聞こえてくる。保護色でトシたちの魔の手からは逃れられてもコロリスプレーからは逃れることは
できんのだ。尤も予算の都合上思いっきり薄めてあり、成体にはほとんど効かないためトシたちにも頑張って
もらっているのだが。

 「じゃ日が暮れる前に終わらせますか。」
 そう言って路肩の外側に土嚢を3段ずつ積み上げていく。50cmくらいの高さだが実装石にとっては断崖絶壁に
等しい高さだ。おまけに積み方にチョイと工夫がされているため実装石の不器用かつ非力な手では押し倒すことも
引き摺り下ろすことも難しい。この土嚢積みの上にクリスマスらしい飾りつけをほどこせば準備は完了だ。ついでに
この飾りつけにもマスター特製の細工がなされている。いつも思うのだが虐待派ってのは色んな意味でホントに実装石
スキーだよね。


 『ダワー、ダワダワー。(「」ー、コッチも終わったのダワー。)』
 誘導路が完成したところにロッソとグリュン・コンフェットの奥さん(因みにhyahha!のマスターのお姉さん)が大きな
台車を押しながら帰ってきた。駅前の混雑を避けるため去年から公園の反対側の大通りにも仮設テントを出して
ビラくばりとケーキの予約をしているのだが、思いがけずこれがヒットしたようで去年の予約数は一昨年の倍近くに
まで上ったらしい。「正直これ以上になったらもうお断りするしか無いヨ」と、去年の暮れにグリュン・コンフェットの
御主人がゲッソリした顔で言ったのをふと思い出した。

 「じゃ、明日からは戦闘準備。明後日からは、ってコトだね。」
 薄暗い中誰が言ったのかも分からない発言に皆が頷いた。さぁ、いよいよ歳末体制の第一ラウンドだ。

 『ダワー!(さぁ、今日でシュトーレン食べちゃうのダワ!)』
 あーハイハイ。そうでしたねw
 

 12月22日
 グリュン・コンフェットとその棟続きになったhyahha!は共に昨日から臨時休業の看板を出して建物全体から甘い匂いを
漂わせ…というより吹き上げている。なにせこの3日ほどで12月の売り上げの何割かを稼ぐのだ、戦場のような忙しさ
とはまさにこのことを言うのだろう。

 「はい、ゴメンナサイ、台車通るヨー!」
 弁当屋の大将が自分の背丈よりも高く箱を積み上げた台車を押しながらグリュン・コンフェットに入っていく。この
期間弁当屋の厨房の一部もケーキ工房の出張所と化してあれこれと下ごしらえをやっているそうな。ついでに賄い
も一手に引き受けこちらもテンテコマイの忙しさである。

 「おぉ「」センセイ、お出掛けかね?」
 大将と入れ違いに弁当屋にやって来た和菓子屋のご隠居に声をかけられる。流石に自分の店の商売もあるので
主力は派遣できないが置物なら貸してやるという和菓子屋の大将の心配りである。昔取った杵柄というのか未だ器用な
その手先をフル活用してケーキの飾りに使うサンタなんかを作るのが本人曰く“ボケ防止を兼ねたボランティァ”
なんだそうな。とは言え毎年数百個の人形を作ってみせるコノ爺さんやはり“枯れてもナントやら”ってやつなんだろうな。

 「ええ、今日は仕事です。僕は明日・明後日が本番ですね。」
 そう言ってご隠居と分かれて駐車場に向かう。今日中に仕事終わらせないといけないからある意味大変だよ。

 12月23日
 をすっ飛ばして

 12月24日
 「昨日だけで捕獲された実装石が家族づれが352匹、半端が41匹、昨年の約2割増の数になっています。恐らく
今年は秋に駆除が無かったのと、例年に比べて急に寒くなったことが原因と思われます。中には飢えて凶暴化している
糞蟲もかなりいるようですので大丈夫とは思いますが皆さんくれぐれも注意するようにして下さい。」
 集会所に集まった僕達午後の警備当番の面々を前にhyahha!のマスターが注意を促す。まぁ言われなくてもミンナ昨日
目の当たりにしてきたんだけどね。
 
 今年はいきなりって感じで冬になっちゃったもんで公園の実装石の大半は越冬準備が間に合わず、さっさと凍死できた
バカが一番幸運だったんじゃないかというくらいに飢えと寒さに苦しんでいるらしい。そんな中で甘い香りの大口を開けた
袋を持つニンゲンの団体はまさしく“救いの神”か“獲物”にしか見えなかったのだろう。誘導路脇の路肩の更に外側、
土嚢の向う側ではパニック映画のような光景が見られた。あれはゼッタイにお客さんには見せられない。

 「では本日で最終日になりますが皆さんよろしくお願いします。ピークは夕方以降になると思いますがそれまでも決して
気を抜かないようにお願いしますね。」
 マスターがミーティングを締めくくると僕達も先発班と入れ違いに見回りに出発する。先発班の手にした紙袋からは
案の定テチテチと雑音がする。婦人会の皆様がその紙袋を受け取ると集会所の裏へ持っていった。コイツ等はコイツ等で後で
利用するからたくさん集まったほうがイイのだが今年はホントに多いな。



 「はいロープの内側を歩いて駅の方へ向かってください。ケーキを予約されてる方はそのまま商店街の中の引渡会場へ、
予約されていないお客様は改札脇のカウンターでご注文をお願いします。」
 片手にメガホン、片手に結婚式の引出物を入れるような大きな紙袋を持って路肩を何度も往復しながらお客さんと緑蟲
の両方へ注意をはらう。お客さんのほうは公園には実装石がいるのが分かっているからまず誘導路から出る心配は無いので
警備とは言っても実質的には実装石対策だ。わざと土嚢の向うに出した紙袋にはこの1時間で2回ほど仔蟲が入ってきた。
因みに紙袋の中には一昔前のネズミ捕りみたいな金網カゴの中にバニラエッセンスを滲み込ませたスポンジが入っている。
別に空でも良さそうに思うのだが、マスターが言うには中には慎重なヤツもいるのでやはりそういう匂いがしたほうが
カカリが良いそうな。わざわざ金網カゴに入っている理由を尋ねたら「そりゃ目の前にイイ匂いがする物があってソイツを
喰えないほうが面白いだろ。」だとさ。“ドゥォッセイ!”“チュウゥゥゥゥン・・・”お、また掛かったな。

 『デジャアアッ!!デギャアアアアアアアア!!』
 少し向こうで何匹かの実装石がなんとか土嚢の壁を壊そうと無駄な努力をしている。土嚢の重さは一つ約20キロ。
とてもじゃないが実装石ごときがどうこうできる重さでは無い。おまけに最上段は下と直角になるようにのせてあり、
イイ按配のオーバーハングになっているので実装石の不器用かつ非力は手では押し倒すことも、引き摺り下ろすことも
難しい。まっ、せいぜい頑張ってくれや。

 『デチャァァァァァーーッ!!』
 くもぐった断末魔の悲鳴がした方を見ると仔蟲が一匹土嚢の上の飾りに絡まって白目を剥いている。マスター特製の
クリスマスオーナメントに絡まった実装石は何故かほとんど声をあげることも無く地獄へ直行する。見たところ普通の
木の枝に電飾をつけただけにしか見えないのだがこのトラップのおかげで仔投げされた仔蟲がお客さんの視界に入る心配
が無いのは事実。後は枝の中で緑色の一部になるだけだ。以前材料を聞いたら「アレは大分産のモミの枝なのさ」と
ニンマリ笑って答えてくれたんだけどありゃさすがに都市伝説だよな。

 『チュベッッ!』
 お、今年初のK点超えか。まれに土嚢を超えるほど高く仔蟲を投げる猛者がいるが残念ながらその高さから落下して
無事な仔蟲は未だ見たことがない。例によって緑の染みになった仔蟲がお客さんの目につく前に土をかければ終わりだ。

 『デッ、オ・・・オロローーン!』
 仔蟲の悲鳴と僕の動作で土嚢の向う側で何が起きたのかを察したかなり大柄な実装石が大声で泣きだした。周りの仔蟲
もつられて大合唱を始める。

 「あ、やべ。おーいトシーッ!」
 幸いお客さんの流れは途切れている。慌てて少し向こうで土嚢にタックルしていた実装石の集団を始末していたトシに
声をかける。

 「うりゃっ!」
 トシが愛用の“バールのようなもの(商品名)”ではなく金属製の熊手で実装一家を一薙ぎに倒してくれた。親蟲は顔面
に無数の傷を作って、仔蟲も2,3本の溝を体に刻んで気絶してくれた。

 「ダメだよ「」さん。こんなデカいヤツ泣かしちゃ。」

 「いや、ゴメンゴメン。まさか泣き出すとはねぇ。」
 ピクピクと震える実装一家を回収しながらトシに謝った。今回は基本的に実装石は殺さずに回収する決まりだ。エッ?
こんなナマゴミどうするんだって?まぁナマゴミはナマゴミで利用することもあるんですよ。

 『デズォォォォアアアアアアアアア!!!!!!!!!』
 「といやっっ!」
 実装一家を回収中に僕の持った紙袋に特攻をかけてきた糞蟲が某10周年ライダーのような顔になってひっくり返った。
いつも思うのだがトシの奴はこういうことに関しては実に器用なんだよな。



 「爺さん、大丈夫?」

 「ははは、大丈夫も何もこっちは座ってるだけだよ。とは言え今年はホントに寒いねぇ。」
 ガイドロープの切れ目で焚き火に当たりながらその番をしている文房具屋の爺さん相手に少しばかり休憩する。
 本当は公園の入口から駅まで完全にバリケードを築き一本道にできれば問題無いのだけれど、多くの人が行き来する
公園の中ではさすがにそうもいかないため何ヶ所かはどうしても横断用に土嚢の無い場所を作らざるを得ない。そこを
防衛するのが老人会の皆さんの仕事だ。時折雪のちらつくこの寒い中外にいるだけでもキツイと思うのだが皆ホントに
嫌な顔一つせずにこうして番をしてくれている。

 「「」センセイが持って来てくれた薬がよっぽどイヤなのか近くまで寄っては来るけどここまで近づいてきたのは
ほとんどいないよ。お陰で手持ち無沙汰なんて言ったらバチあたるかな?」
 一斗缶の中に枯れ枝をくべがら笑う爺さんに思わず小さく頷く。万が一にも横断路に実装石が侵入しないよう辺りには
僕が提供した実装忌避剤が撒いてある。ホントなら大通り全体に撒けばここまでの手間は必要無いのはわかっているが、
いろんな意味でそんなにたくさんの忌避剤を用意できないのでこうしてピンポイントのみの散布に留めざるを得ない故
皆で頑張っているのは僕だけの秘密なのかも知れない。

 『デズデギュゥァァアアーーーー!!』
 
 「あっ。」
 「おっ、お客か」
 悲鳴なのか雄叫びなのかわからない実装石の声に二人同時にそちらの方を向いた。涙と鼻水でグチャグチャの顔の成体
が一匹こちらに向かって突っ込んでくる。

 「ホレ。」
 『ギュムゥゥゥーーーー!』
 次の瞬間爺さんが焚き火から取り出した焼き鏝を顔に押し付けられ声にならない悲鳴をあげる実装石。悪いけどお前達が
たとえ全速力で走ったとしてもこの爺さんが立ち上がる必要すらないよ。

 「やれやれ、切羽詰っての行為とは言え無謀な奴…」
 「あっ、爺さんチョイ待ち。」
 『『『『チュチェアァァァァーーー』』』』
 いつまでもジタバタと暴れる実装石がお客さんの目につく前に袋に入れようとした僕達の足元をおかしな声を上げながら
走り抜けようとした仔蟲を蹴り飛ばしながら爺さんに声をかける。どうやら最初の奴は親で囮になるつもりだったらしい。

 「ナルホド、ガスマスクのつもりか。」
 恐らくコンビニ弁当のゴミから拾ったのであろうラップの切れ端を顔に巻きつけ窒息しかかっている仔蟲を回収しながら
思わず笑ってしまった。必死に顔を引っ掻いている様子から見て自分達では剥がせないらしい。つまりコイツ等は仮に
忌避剤ゾーンを命がけで突破できたとしても窒息死するしかなかったのだ。

 「じゃ、僕はゴミ捨てに行ってくるわ。後しばらく頑張ってね。」
 と、特攻家族を回収した袋と紙袋を両手に一旦集会所に向かおうとした僕の足元に一匹の仔蟲が飛び出してきた。家族の
生き残りかと摘み上げようとしたがどうも様子がおかしいのでリンガルを向けてみると…

 『テチュー、テチャァァーテチー!(モウ我慢ならんテチ!クソニンゲンどもはアマアマを持ってるのに何故カワイイワタチに
献上しに来ないテチ!?どこもかしこも入れない上にココは臭くて高貴なワタチが歩くにはふさわしくないテチ!ニンゲン、
オ前にワタチをあの中へ運ぶ栄誉を与えてやるテチ!さっさと連れて行ってアマアマを献上しろテチ!!)』
 …糞蟲か。さっきの家族の一匹にしては頭が悪すぎる。

 「爺さん、ちょっとそれ貸して。」
 火バサミを受け取りソイツをしばらく焚き火で炙って・・・

 『ヂッギャアアアアァァァァーーーーー!!!!!(翻訳不能)』
 頭の前後を熱々の火バサミでプレスして悲鳴をあげさせたが袋の中はたいした反応を見せない。やはり違うようだ。

 『テチャアアーー・・・!』
 『デスッッ!!』
 ふと聞こえた声の方を見るとこっちに飛び出そうとした仔蟲を必死に押さえながら薮に隠れる家族連れの姿があった。
どうやらあの家族のアホが一匹暴走しただけらしい。この状況下で逃走を選択するのは賢明と言えるな。姉妹を助けようと
する仔とそれを制する親・・・賢い、つまり春先に駆除される運命の家族だな。

 「やれやれ、コイツはミソッカスか。」
 そう言って目印に前髪を引きちぎって紙袋に放り込む。これはこれで使うからね。




 「お疲れっすー。」

 「ああ、「」センセイ丁度良かった。本業の出番だよ。例によって車横付けして揉めてる人がいるって。」
 集会所に戻ってきたらhyahha!のマスターが開口一番に言った。これも毎年あるトラブル。わずか100mそこらの距離を
歩けない人がたまにおり、他の商用車なんかは走っているのだからと難癖つけて車をグリュン・コンフェットの前に横付けする
バカが時々現れる。とりあえず交番にいるらしいので説得してくれとのこと。

 「じゃ、後お願いしますね。一応着替えて行ったほうがイイかな?」

 「任せるよ、人間の糞蟲は俺の守備範囲外だ。」
 僕から受け取った実装石の喉に爪楊枝を突き刺し額に番号を書きながら答えるマスターに見送られながら小走りで商店街
に向かう。マスターは実装石の体の構造にやたら詳しく爪楊枝1本で一時的に声を潰すことができる。そうでもなきゃ今頃
この辺りはデスデス、テチテチと五月蝿くて仕方ない。こうして悲鳴をあげることさえ許されない実装石達は集会所の裏へ
運ばれ、家族連れはそのままダンボール箱へ、ミソッカスは専用の仕切りのついた箱へ、託児された仔蟲は後ろ髪を輪に
されて物干し竿に吊り下げられる。こうしてしばらく放っておいて親蟲がかかるのを待つのである。
 
 仔連れでのこのこやって来たアホ家族はそのまま一まとめにダンボールの中へ、1匹でやってきた慎重な親蟲は拷問に
かけて残りの仔の居場所を吐かせる。
 吐かない場合、託児した仔蟲が本命らしき賢そうな個体なら親蟲の片目を焼き潰してから託児仔をジワジワ〆ていく。
 様子見に捨て駒を託児した場合はもっと楽、親蟲を裸にひん剥いて水責めにする様を仔蟲に見せ付けながら前髪でも
引っぱってやればアッサリと姉妹の居場所をゲロする。
 こうして駆除も兼ねて集められた実装石達が次々とダンボール箱に収容されていく。これはこれで見ていると面白いん
だけど今はそんな暇は無いよな。



 「おっ、あっちも修羅場みたいだな。」
 駅の階段を降りながらグリュン・コンフェットの店先に設けられたケーキの引渡会場を見て思わず声が出た。中ではロッソ達
がてんてこ舞いしながら引換券と照らし合わせ客を捌いている様子が見える。特にロッソとhyahha!の看板娘のノリちゃん
は記念撮影にも応じなきゃならないので更に大変なようだ。

 「ケーキの到着でーす。」
 演出を兼ねてわざわざ店の裏手からうるさいほど鈴を鳴らしながらトモエちゃん達商店街女子チームがやって来た。続いて
ケーキが積まれた荷車を引っぱりながらやって来たパルタに一瞬人ごみが分かれ、次の瞬間こちらでも撮影会が始まる。
トモエちゃん達は皆これまたサンタ風の衣装だし、僕が苦労して作った木製の荷車とそれを引く大型犬をバックにすれば
こっちはこっちで格好の被写体になる。事実こういった光景撮りたさにやって来るアマチュアカメラマンの人も結構いるのだ。
とは言えパルタももう老犬と言ってもおかしくない歳だし後何年続けられるんだろうねぇ…

 “プゥアァーー!!”
 けたたましいクラクションの音に我に返った。そうそうトラブル発生中だった。この様子でいけばまだ数件は発生するだろう。
幸い商売道具はリュックに入っている、作業服だけどこのまま行っちゃえ!



 「じゃ、お疲れ様でしたー!」
 いつもより早く暖簾をしまった実の湯の脱衣場に響くhyahha!のマスターの声に一斉に缶ビールを開ける音が重なった。
 あれから数時間の間修羅場は続き、例年よりも多く捕獲された実装石は全部駐車場の地下へ、この一戦にお年玉の査定が
かかっていた子供達は家へ、そして最後までアレコレと後始末に追われていた僕達はこうして実の湯に集まってそれぞれの
労をねぎらいあっているのである(イインダヨ…どうせ帰ったってパルタとチキンの取り合いするくらいダモン)…………………………
…………(T∩T)
皆ワイワイと各々の持ち場で見た実装石の狂態を話しながら明日からの年末体制第2ラウンドへと気持ちを切り替えていく。

 「「」センセイ。そっちはどうだった?」
 
 「例年通りですよ。しっかし人間も実装石も毎年糞蟲が増えてるような気がするのは気のせいですかねぇ。」
 あれから2時間近くお巡りさんと一緒にガイキチの処理をする破目になった僕にマスターが聞いてきた。思わず出た本音
だったがホントにここ数年トラブルが増えている。

 「まぁ色々溜まってる人間が多いんだろうな。来週のアレでちょっとは治まってくれりゃいいんだけど。」
 そう言って頭の中で来週の準備を始めたらしいマスターがニンマリと笑った。頼むからその笑顔で横に立たないでほしい。


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 12月25日
 「よっこらせっとぉ!!」
 午前中で仕事を切り上げ公園の後片付けにこの寒い中汗を流す。昨日までは絶対に無くてはならなかったバリケードだが
このまま来年まで持ち越すわけにはいかない。土嚢の土はすべて河原に戻し、袋は使える物は倉庫に、ダメになったやつ
は廃棄して管理事務所のほうでチェックしてもらう。何を隠そうこの土嚢積みマスターの提案で一応防災訓練も兼ねた形に
なっているのでキチンと報告さえすれば資材代くらいは市のほうから補助が出るのだ。

 『デププププ…』
 ふと聞こえた声の方を見ると、何匹かの実装石が広くなった道路を見て笑っていやがった。バリケードが無くなったこと
と昨日までのケーキの行進を幸せ回路の中で組み立てて大方これからはアマアマ食べ放題くらいに思っているのだろう。まぁ
今日はクリスマスだ。せめて今夜くらいは幸せな夢を見ればいいさ。


 12月26日
 「おっ、やってるな。」
 昨日までの喧騒がウソのように静かな空気が漂い始めた公園からその空気とは不釣合いな実装石の悲鳴が聞こえてくる。
とはいえこの年末の慌しい駅のホームで風にのって微かに聞こえてくる程度の実装石の悲鳴を意識して聞いている物好き
など恐らくは僕くらいだろうけど。


  『デギャアァァァァァーーー!!』『デギョオオォーーー!』『テチャアァァァァァーーー!』
 昨日までバリケードが築かれていた公園内の広い通路の中を逃げ回る実装石とそれを追い、締め上げている悪ガキ軍団
withロッソとパルタ。銘々が手にした大きな紙袋からは仔蟲の悲鳴にならない悲鳴が漏れている。
 この間までよりは格段に人通りが減ったとは言えそれでも公園の中を通る人はかなりいる。一応の用心のために“袋を
持ったニンゲンは危険”と実装石に刷り込むためにこうしてワザとトシ達をウロウロさせているのである。因みに紙袋の
中にはガラス片やら古釘やらを入れた上から持続性のシビレをたっぷりとかけてある。

 『デスゥ、デジェエェェーーーン!!』
 『ダワーーッ!ダワッ!』
 「おーし、ロッソまかせろ♪」
 何故か割烹着に買い物籠というスタイルで歩いていたロッソにチョッカイを出した実装石がソレが天敵だと気付き逃げようと
したが時既に遅し、あっという間に禿裸にひん剥かれ、それでもなお少しでも遠ざかろうと数メートル走ったところで
アキに両腕を砕かれていた。

 「おーいアキ、殺すなよ。分かってるだろうけど。」
 念の為に一応言っておいた。それに答えるように手を上げると“バールのようなもの(商品名)”で植込みに放り投げて
しまった。原則としてこれから年明けまでは実装石を伊達にすることはあっても殺すことはない。別に宗教上の理由とか
そう言うのではなく、虐待派の皆さんからの要望を受けた単なる個体数調製だ。ついでにバカをズタボロにし、その姿を他の
賢い個体に見せることでしばらくは人前に実装石が現れるのを防ぐことができる。こうしておけば正月着飾った人の前に
実装石が飛び出す被害をある程度は抑えられるのだ。

 『『『『チッギャァァァァァァーーーーーーー!!!!!』』』』
 『・・・デズゥゥゥーーーーンン・・・』
 もの凄い勢いでパルタが走って行った後、ドップラー効果を起こしながら響く無数の仔蟲の悲鳴とノロノロとそれを追う
数匹の親蟲の息も絶え絶えの声が聞こえた。パルタの後ろには仔蟲が数匹括り付けられており、親蟲はトシに“バールの
ようなもの(商品名)”で殴りつけられながらそれを追いかけさせられている。隙あらば逃げようとしては頭を凹まされている
あたりもう仔供のことなどどうでも良いから開放してくれというのが本音だろう。

 「トシーッ!もう一周行こうぜー!」
 
 「えーっ、じゃ自転車交代しろよー!」
 ハンドルにパルタのリードを括りつけ前方を走っていた本屋の利昭にトシが大声で言った。あの体力バカが肩で息をして
いる辺りかなり走り続けているようである。事実実装石の方は酸欠状態で泡を吹きながら走っているヤツも何匹かいる。

 「おーし、じゃ交代してもう一周してこい!それが終わったら休憩だ。」
 僕がそう言って肉まんの入った紙袋を掲げると慌ててポジションを代えたトシが凄い勢いで自転車を漕いで走りだした。
慌てて利昭が親蟲達を蹴り飛ばしながら後を追う。何か違うゲームになってないか?


 12月27日
 12月28日
 をすっ飛ばして
 

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 12月29日
 「ハーイ、すいません、ワゴン通りまーす!」
 買い物客で賑わう商店街の中を大きなクリンネスワゴンを押しながら叫ぶ僕の声に人込みが分かれる。昨日で一般の企業
や役所は仕事納めになったので逆にこれから3日間は商店街のかきいれ時だ。どの店も通路一杯まで商品を並べ大賑わいの
てんてこ舞いになっている。普段は郊外の大きなショッピングセンターに行っているお客サンも何故か正月準備となると
こうして昔ながらの商店街で買物してくれるんだよな。
 で、その間僕は何をしているかというと各店の大掃除を手伝うべくこうして掃除道具を満載したワゴン一台を相棒に
孤軍奮闘しているのである。12月に入る前からどの家もそれなりに手をつけ始めてはいるが、水周りや二階の外窓なんか
は商売の片手間ではどうしても手が周らない。ならばこの3日間(に限らないと言うウワサもあるが…)手持ち無沙汰の僕が
その代行を一手に引き受けましょうということになっているのである。別にほっときゃいいのになんてワザワザ言う人も
たまにいるが、別にコッチだって強制されてやってるワケじゃない。昔アーケードがあった頃は文字通り一つ屋根の下に
暮らしてたようなもんだったんだ、後から入った僕が手伝えることを手伝っても何もバチは当たらんだろう。

 「なぁー頼む、ロッソ見逃してぇ…」
 『ダーーワ(問答無用ナノダワ)。』
 路地の奥からロッソに見つかったトシ達がブツブツ言いながら出てくるのが見えた。大方家の手伝いサボってゲームでも
やってたんだろう。とりあえず大晦日までは子供とは言え“働かざるもの喰うべからず”になるのが商店街の不文律だ。
それから逃れるには塾通いか僕の事務所の留守番を兼ねて中で宿題を片付けるかしか選択肢は無い。一応僕の事務所は
“そういうこと”に対する用心のために常にカメラを動かしているから中では遊べないためにこうして寒い中外で溜まって
いたのだろう。まぁ、あんまりサボるとお年玉の査定に響くんだ。せめて後3日くらいマジメにするこった。


 「ところで「」センセイ、お父さん見ませんでした?」
 hyahha!のテラス席と大きな一枚ガラスを磨き上げたところで看板娘のノリちゃんが訊ねてきた。聞けばあのド不良中年
朝からバックレているらしい。

 「あー、多分アソコだわ。ここ片付いたら少し時間できるから引っぱってくる。」
 
 「お願いします。」
 洗いを終えたテラス席にテーブルを並べ終えるとタメ息顔のノリちゃんに見送られながら跨線橋を駆け上がった。



 『デッギャアアァァァーーーー!!』『テジュゥォォォーーーァァアアーーー!』『チェジュチェジャァァァーーー!!』
 市営駐車場の地下から実装石の悲鳴となんともいえない異臭が立ち昇ってくる。中で何が行なわれているのか分かって
いる分入っていくのにはある程度の決心が必要だ。




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 『デッギャアアアアーーーーーーッ!!』
 「ヒャッハーーー!、ナーニが業績不振でボーナス減らしますだぁ!?まずテメーらの役員手当てから減らせやぁ!」
 そう叫びながら大きなバール(本物)で実装石を殴りつけ壁のシミにしているサラリーマン風の男性。


 『デギャギャギャギャギャギャーーーーーーーーーー!!!!』
 「ハハハハハ、車検終わったトコだったんだよー。なのに君のオ仲間が飛び出してスリップしたせいで廃車だってさ。
せめて残ったバッテリー尽きるまでくらい苦しめヤ!!」
 そう言って床でのたうつ実装石の目に煙草の火を押し付ける若い男性。実装石の頭にはコードが突き刺さりそこから
伸びたケーブルの先には大きなバッテリーがつながれている。
 その他にも耐力壁で区切られた各ブースからはヒャッ派ーまがいの喚声と実装石の悲鳴が響いている。


 実はこれもマスターの思いつきの一つ。名目上は公園内の倉庫に保管されている災害時用の工具の年一回の点検となって
いる。そのついでに普段大型の工具になんて縁の無い一般の市民の方達にそれを使う練習をしてもらうイベントという名目
で集めた実装石の処分を行なっているのである。 
 服の汚れ防止の使い捨ての雨合羽と感染症予防のシールド付のマスクのセットを500円で購入しさえすれば後は歳末
助け合いの募金箱に硬貨を入れるだけで駆除名目で好きなだけ実装石を潰せる上にマスクのおかげで基本的にどこの誰かも
わからなくなるため、かなり多くの人がストレス発散の為にこうして立体駐車場に集まってくる。去年からは隣でタコ焼き
売るワゴン車まで出てちょっとしたお祭りみたいになってるんだよな。

 『デスゥ、デッジェエエエーーーェェェン』
 「ハハハ、だから言ってるでしょ、リンガル切ってるから何言ってるか分かんないって。俺の足元まで来たら大事な仔を
殺さないでくれって意思表示だとみなすってさっき説明したろ?髪の毛引きちぎるのがそんなに嫌?仔よりも髪が大事?
自分は何も失わずにイイ目だけしたいの?・・・オ前等も父兄もどんだけ糞蟲なんだよーーーー!!!!」

 『『『『チッギャァァァァーーー!!』』』』
 そう叫ぶと足元にガムテープで貼り付けた仔蟲の脚を一本ずつスコップで叩き潰すかなり年配の男性がいた。周りには
赤緑のシミに浮かぶテープが無数にあるところから見てすでにかなりの数の仔蟲を潰してきたのだろう。
 その様子を見て血涙を流しながら首を横に振る親蟲。確かに髪の毛は柱に括りつけられているがそれ以外はどこも拘束
されていない。あのオジサンが言うように髪の毛さえ諦めりゃ活路が開くかも知れんのにその根性すらないのか・・・

 「“ピンポーン”、51番から60番のお客サマ、後3分でお時間となります。申し訳ありませんが本日は延長禁止となって
おりますのでお帰りの準備をお願いいたします。」
 その声に小さく舌打ちするとオジサンは仔蟲を一気に叩き潰し、返す刀(スコップ)で親蟲の首をはね飛ばした。自由に
なった胴体は勢いで2・3歩前に歩いたがついに仔蟲のところまではたどり着くことなく倒れてしまった。

 「フンッ!」
 その胴体の上にスコップを突き刺すと返り血に染まったマスクをずらしたその顔…ありゃトシ達の学校の校長先生だよ。
前に一回僕の所に相談に来たから間違いナイ・・・・・・・・・まぁ色々大変なんだろうなぁ・・・
 おっとイケナイ、大事なことを忘れてた。さっきの脳天気なアナウンスをした張本人に用事があったんだ。



 「ヒャッハー!汚物は消毒だぁ!」
 駐車場の南側、明かり取りを兼ねた吹き抜けの換気口の下でそう喚きながら金網の中の実装石の群れに草焼きバーナーで
点火するサ〇ザー様親衛隊…ではなくhyahha!のド不良オヤヂ。ご丁寧に公園の管理事務所のおじさん達と“同じような色”
の作業服まで着て集まったお客さん達にあれこれと指示をしている。
 
 「普段の火事ならここまで大きくなる前に消火器などで対応しますが今回は消火栓とホースの使用に慣れてもらうために
あえて大きめに燃やしてみました。このように火は呼吸をしながら少しずつ燃え広がります。どうしても早く消したいという
心理が働くので火元を狙いがちですが、ある程度大きくなった火はこのように全体を覆うように上から消すのが消火のコツ
です。もちろん火事を出さないことが一番大事ですがね。今回は実装石を使うことで不規則に燃え広がる炎を再現してあります
のでかなり実戦的な訓練ができますよ。では皆さんにも練習していただきましょうか。」
 そう言いながら網の中の実装石を交換し廃油をかけている。中途半端に火を消された先発組は声も出せないままビクビクと
火傷の痛みにのたうっている。


 「ま〜す〜た〜〜。仕事は?」

 「ウワッ!「」センセイか。ビックリさせないでよ。」

 「“ビックリさせないでよ”じゃないですよ。マスターがここ手伝うのは最終日の後片付けだけでしょ。今日は自分の店
の店番。明日の午前中は僕と和菓子屋の前で餅つき、昼からは弁当屋に頼まれてるお節の配達・・・」

 「・・・いや、ホラ、シルバー人材の職員さん達に火災訓練は大変かなって思ってさぁ…生焼けの糞蟲処分するのって
慣れてないと結構キツイものがあるし…」

 「・・・問答無用。」 
 そう言ってマスターを肩車してそのまま頭を下に両脚を肩に担ぐように持ち上げると黒コゲのまま呻いていた実装石を
脇のゴミ箱に蹴り込む。周りからは“おおー”って声も聞こえたがこれは別に芸でもなんでもない。

 「おじさーーん、助けてよぉ。なぁ「」センセ、ちゃんと自分で歩くからこの担ぎ方は勘弁してぇ。」

 「悪いけど駆けっこじゃ勝てないからね。このまま店まで運ばせてもらいます!」
 そう言って足を階段の方へ向ける。おっといけない、管理事務所のおじさん達とは今年はこれで最後だ。そう気付いて
一旦振り返ってその旨の挨拶だけ済ませておいた。皆さん良いお年を。



 『テヂィィィィーーー…』
 階段の真横のブースにいた仔蟲と何となく目が合ったら、その仔蟲が急に僕に助けを求めるように泣き始めた。

 「ウフフフ、ダメよ仔蟲ちゃん。ちゃんと私の話聞いてぇ。」
 酒でも飲んでいるのかややロレツのまわっていない女性が仔蟲の首を180度近く捻りながら言った。

 「…ねぇワカル?この気持ち…クリスマス前日に急用できたって怪しいと思ったら妻子持ちだぁ?・・・・・・・・・・・・・・・
ッザッケンジャネェぞ、オラァーーー!!」
 そう叫ぶと猛然と仔蟲の下半身をおろし金でゴリゴリとすり潰していく。仔蟲も大声で泣き叫んでいるようだがそれを
上回る大声で叫ぶ女性の声にその悲鳴もかき消されている。ありゃ一歩間違えりゃ裁判所で見る顔だ。そういう意味では
ここでのストレス発散にもある程度の意味はあるのかもな。

 『テチィィィ・・・』
 それでも尚僕の方を見ては何かを訴えかけるように僕を見て血涙を流す仔蟲…ん?あれ火バサミの火傷の跡…そーか、
お前あの時の糞蟲か。

 『テチュゥゥーーン♪』
 僕の表情が僅かに変わったことに気付いた糞蟲が不細工な顔を更に歪めて笑った。イヤ、僕にどうしろってんだ。仮に
今君の身に起こっていることに違法性があったとしても悪いがあの狂気に満ちた目が相手なら緊急避難の観点から僕は
自分の身の安全を優先する。まして対象が糞蟲の仔蟲一匹ならば尚のことね。
 僕が笑顔で首を掻き切る仕草をすると糞蟲の顔が恐怖と怒りに固まった。その顔を無視して階段を昇っていくと後ろから
甲高い女性の叫び声とそれをも上回る糞蟲の断末魔の悲鳴が響いた。



 「ううっ寒っ!」
 公園の中を吹き荒れる寒風に思わず身を縮める。太陽を追いかけるようになんとなく顔を上げると丁度立体駐車場の影に
太陽が隠れたところだった。31日に地下全体を消火栓の点検を兼ねて水洗いし、屋上からホースがぶら下がると公園内も
初詣客が現れるまでしばしの静寂につつまれる。このシンとした空気もまた年末だよなぁ。

 『デププ・・・』『『『『チププ…』』』』
 なんとなく静寂を味わっていたら不快な笑い声に邪魔をされた。マスターを担いだ姿がよほどマヌケに見えたのかベンチ
の影で実装一家が笑っていやがった。

 「・・・」
 多少はムカついたが今は忙しい。無視して駅の方へ歩き始めた刹那、

 “カシュ、カシュ!”
 『デギャッ!』『『『ヂッ!!』』』
 背中からした異音と実装石の悲鳴に振り向くと・・・

 「ははは、「」センセこっちこっち。ホレw」
 笑いながらマスターが僕の腋の下から差し出したのはガスガン。こんな物持ってたのか・・・

 『ウベベベベ・・・』『『『ジュゲウェェェ・・・』』』
 実装石達は不気味な声を上げながらパンツを膨らませ、口からも緑色の塊が顔を覗かせている。

 「何だありゃ?コロリでもゲロリでもない…」

 「ありゃ研究中の新駆除薬さ。知人から分けてもらったんだが実装石の糞に反応すると3倍程度に膨張してウレタン状に
固まらせるらしい。当然糞だから消化できないし、かと言ってある程度の硬度もあるから糞蟲の力じゃ割ることもできない。
さらにタチの悪いことに膨張する際に発熱して内臓を焼き潰す上に気泡ができるから苦しいながら呼吸だけは確保される。
こうやって腹の中で反応させることで消化機能を完全に潰して餓死させる恐怖の駆除薬なのさw」
 そう言ってフッっと銃口を吹く真似をする音が聞こえた。…たく何でこのオッサンこんなに楽しそうなんだ?

 『チェェェェーーン!テチ!テチュゥゥゥンン!!』
 「ちっ、一匹外したか。」 
 仔蟲の叫び声とマスターの舌打ちに足元を見ると、ジェノサイドを免れた一匹が僕の足をペスペスと叩いては顔を上げて
怒り半分の顔で媚びている。大方家族を痛めつけた詫びに自分を飼えとでもぬかしてるんだろう。

 「マスター、任せるよ。ホンモノの糞蟲は僕の守備範囲外だ。」

 「アイサー♪」
 180度回転して仔蟲の方にマスターを向けるとマスターが手を伸ばして仔蟲を掴むのが分かった。一瞬“チププ”と
小さな声がして次の瞬間、

 『チュベッ!』
 今度は90度回転して首を横に向けると怪しげなヨガのポーズをとった禿裸の仔蟲が家族の近くにひっくり返っていた。
否、ひっくり返っているだけではなく手足を不規則に折り曲げられ、更に背骨や骨盤をひん曲げることで無理矢理
あのポーズに固めてあるのだ。ホント、マスターこんなことだけは器用だよな…

 『チェエエエエエーーーー』
 ひっくり返ったら自分では起き上がれないらしいヨガ実装が風に飛んでいく自分の髪と服の破片を見ながら血涙を流す。
傍らではかろうじて呼吸をすることしかできなくなった家族が苦しみにのたうっている。うんうん、ある意味糞蟲家族には
お似合いの年の瀬かな。

 「んじゃ、帰りますか。マスター、とりあえずママさんとノリちゃんが目ェ三角にしてるのだけは覚悟しといてね。」

 「ヒェェェーーw」
 僕の背中から笑いながら響く悲鳴を聞きながら駅へと向かう。更に後ろで響く悲鳴から察するにあの家族にはどうやら
新年は訪れないみたいだ。

 「へへへへ♪」 
 惨劇を楽しんでいるらしいマスターの声に合わせて思いっきり体を揺らす。さぁ今年も残りあと2日だ。アレコレ全部
片付けて来年こそは!

 「嫁サン見つかるとイイねぇ♪」  “ゴンッッ!”
 後ろで何やら声がした直後脇の車止めに何かぶつかったような気がしたがまぁ大したことではなかろう。
 後ろも静かになったしw
 
 よしっ、今度こそ!アレコレ全部片付けて来年こそは!・・・って毎年言ってる気がするなぁ・・・(ハァ)





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 久しぶりのスク投稿になります。ホントの年末になってしまいましたが。

 実は数ヶ月前に何本か投稿するつもりで書き溜めていたのですが、それらを記録したフラッシュメモリーがデータ破損を
起こしてしまい減量する前とは言え300㌔近い文章が怪しげな文字の羅列に変わってしまい完全に心が折れてしまった
とろにややこしい仕事が舞い込んでそれに追われるうちに気付けば年の瀬になっておりました。

 色んな意味で生活サイクルを元に戻すべくアレコレとやっていることの一環として年末用に草稿を書いていたスクを記憶の中
からサルベージできましたのでお届けさせてもらおうと思います。
 お正月番組等に飽きた際の暇潰しにでもしていただければ幸いかと。


 最後にいつも感想を下さる皆さん、読んで頂いている皆さん、拙い文章にお付き合い下さり本当にありがとうございます。
 文字化けしたスクは記憶を頼りに少しずつサルベージしております。完全に時系列とシーズンは狂ったと思いますが、いつかは
お目に掛けたいと思っておりますのであまり期待をせずに待って頂けるとありがたいです。

 では皆さん良いお年を



過去スク

sc1612. 二種混合 
sc1630. カラーマジック
sc1635. ドレスコード(前編)
sc1636. ドレスコード(後編)
sc1734. 合体!ゴジッソウ 
sc1854. 小さな〇〇のクラッシャー
sc1879. 実装観察(?)日記 
sc2067. ナイショの精錬方法(前編)
sc2068. ナイショの精錬方法(後編)




 

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