タイトル:【観察】 親指の世界 一章 「食」 【ボックスサム】
ファイル:親指の世界1.txt
作者:中将 総投稿数:51 総ダウンロード数:4308 レス数:1
初投稿日時:2010/12/08-00:38:32修正日時:2010/12/08-00:40:33
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味気無い総合栄養食を、暖かい紅茶で流し込む。
万が一「世界」に匂いが流れてしまっては興ざめだ。
しばらくは食事に潤いがない生活が続く。

簡単な夕食の後、プールの灯りをいくつか灯す。
公園育ちの親指も多いので、夜間もある程度の照明があることには慣れているはずだからだ。
何よりも全くの暗闇だと観察の面白みがなくなってしまう。

さて、親指たちにとっても、もとい、代謝の早い親指だからこそ、
そろそろ動かなければいけない問題があるはずだ。

初日の夕暮れが始まる。


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                 親指の世界 一章 「食」


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茂みに隠れていた裸足チームだが、だんだん集中力が切れてきたのか、数匹が茂みから顔を出してしまっている。
裸足リーダーもそれを止める様子はなく、結局全員が茂みから出てきてしまった。

「テチ」
「テチッチ」
「テテ」
「テェ」

各々が元気なさそうに腹部を押さえ、悲しそうに俯いている。
そう、親指たちがおそらく経験したことがないこと、それは餌集めだ。

完全に親に安全を委ね、ともすれば体温の維持すら放棄できたときと違い、
周囲に気を配り、自立して行動しなければいけない今の状態は、
かなりのエネルギー消費を親指に強いているはず。

ここで重要なのは、最初の行動をいつ起こすかということだ。
能動的に何かをなす事をしなことがない親指であれば、このまま全滅もあるかと思っていたのだが。

「テチ」
「「「テチテチテチ」」」
「テテチ」
「「「テェ……」」」
「テッチ」
「「「テ!」」」

ここでも全員を引っ張ったのは裸足リーダーだった。
全員に何かを呼びかけ、15匹の群れを3つの班に分けてしまった。

群を構成する親指たちも、予想以上に切り替えが早い。
いつでも捨てられる覚悟はできていたということか?
それとも同じサイズの同族に弱みは見せられないということか?

子供が幼稚園や小学校で見栄を張るのに近いものがあるのだろうか。

まあ、なにはともあれ、5匹ひとかたまりになった親指たちは、靴のない足でゆっくりと3方に歩きだす。
どうやら裸足チームは複数の探索班を作り、食糧を探す行動に出たようだ。

なるほど、これなら一本目の姫リンゴの木をすぐに見つけることができるだろう。
いずれのチームのスタート地点からも、かなり近いところに一本だけ食糧補充地点を用意してあるのだ、
もっとも、これ以上はより「世界」の中心に向かうほど食糧入手の機会が増えるわけで、
いずれは両方のチームが遭遇しやすいように作ってあるのだが。

3つの班のうち、リーダー含む班が水場の方へ向かい、
残りの1班が姫リンゴのほうへ、もう1班は「世界」の中心に向かう。

かなり早い段階で裸足チームは食料と水を確保できそうな感じだ。


      *      *      *


視線をハゲチームに移してみれば、そこでは驚きの、ある意味予想通りの状況が起こっていた。

ハゲリーダーが、自ら殴り殺した一匹の肉を食らっている。
それを遠目に見る他の13匹。
恐怖と、空腹による同族食いに対する欲求の間で揺れているのが、こまめに揺れる視線でわかる。

そんな中で一通り腹を満たしたハゲリーダーが、残りの群れに声をかける。

「テチ」

「…テテエ?」
「…テテ?」

「テチ」

その中の数匹が反応する。
その数匹に向い、ハゲリーダーは頷き返す。
恐る恐るハゲリーダーの元に向かったのは、2匹の親指実装。
そして、ハゲリーダーが食べ残した親指の死骸とリーダーの顔を見比べ、
思い切ったように死骸を口にした。

「テチャァァ」
「テテテェ」

「テチ」

空腹と、恐怖からの脱出に成功した2匹は、リーダーに向かって感謝の声をあげているようだった。
それを見て、残りの親指のうち、4匹が新たにリーダーの元に向かう。

「テチ」

その4匹も、ハゲリーダーの許可の元、同族の死骸にかぶりついた。

残った7匹は顔を見合わせる。

「テチ」
「テテ!」
「テチテ!」
「テェ……テッチ!」

リーダーの向かおうとする数匹を、また他の数匹が抑えているような塩梅だ。
しばし揉めていたようだが、結局4匹がリーダーの元に向かい、決心のつかない残り3匹がその場に残る。

「テチィィ……テチェ?」

「テチ」

遅参した4匹も、他の同族が食い残した死骸にありつくことができたようだ。

「テェェェ」

最後まで同族食いに抵抗を覚えていた3匹も、やがて飢えが堪えきれなくなったのだろうか。
恐る恐るリーダーの元へと向かう。

「テテチ? テテチ?」

そんな最後の3匹をハゲリーダーはゆっくりと睨めつける。

「テェ」

そして発された一言は、いままで他の同族にかけた言葉とは明らかに違う響のものだった。
すでに十分に歯肉を喰らい、腹を満たしていた他の親指……計6匹が、リーダーの指示の下、戸惑う3匹に襲いかかる。

「テチャァァァ!」
「テチエェェェン!!」
「テェェェ! テェェェン テェェェン」

数発の打撃に加え、頭巾と服、パンツと靴を奪われ、その場には3匹の禿裸親指が誕生する。
遅参した4匹はその状態を愕然としながら見守っていた。

「テチテチ」

その4匹にも、ハゲリーダーは何かを命令する。
弾かれたように立ち上がった遅参組は、禿裸になってうずくまっている3匹に向い、パンツを下ろすと

ペチャチャ ペブベ ペピピッ ベビッ

と、糞をひりつけた。
リーダーが禿裸達に命令する。

「テチ」

「テェェェ」

「テチ」

「テェェェェ」

「テチ」

「……テェェン テチェ テチェ」

何度かイヤイヤをするように抵抗していた禿裸たちだったが、結局ひり出されたばかりの糞を口にした。

この瞬間、完全に禿裸3匹は、この群れの奴隷として扱われることが決まったのである。


      *      *      *


いつの間にか、ハゲリーダーの手腕に望遠鏡ごしに見入ってしまっていた。
つまり、ハゲリーダーは群れを試したのである。
食欲という欲求を利用し、自分の行動を容認したものを順に賛同派に取り込んでゆく。
それを賛同派がマジョリティとなるまで繰り返す。

そして、最後まで自分に賛同せずに日和見を決め込んだマイノリティに関しては、
厳しいペナルティを加える。

最少数の最大不幸を演出することで、群のほとんどの個体はリーダーの体制に完全に組み込まれてしまったわけだ。
元々が依存型の生命である親指相手だからこそ、より効果的に群れをまとめあげることができたのもあるだろう。

おっと、ハゲチームばかりに集中してもいられない。
裸足チームの方も確認する。


      *      *      *


裸足チームの方と言えば、すでに姫リンゴに到達したチームが、各々戦利品を抱えて元の位置にもどろうとしていた。
姫リンゴのうちいくつかには齧り跡があるが、それはしょうがないだろう。
水場を見つけたリーダーのチームも、最初の地点に戻ってきていた。

腹ごしらえをしながら情報交換をする10匹。
その後、姫リンゴのほうへ向かっていた5匹をリーダーが水場へと案内し、
その間4匹は最初に逃げ込んだ茂みに食料を運び込んだ。



しかし、10匹が再集合しても、「世界」の中心に向かった5匹は戻って来ない。
裸足リーダーの支持のもと、姫リンゴの再収穫班が帰還したあとになっても戻らない。



「テェェ」

見晴らしのいい場所を求め、小さな丘に登った裸足リーダー。

「テ!」

その目が、こちらに戻ってくる親指たちの一団……裸足チームの5匹……いや、3匹の姿を捉えた。
歓声とともに3匹を迎える10匹……しかし、その姿を間近に見るにあたって、全員が絶句する羽目になる。

戻ってきた3匹は、ひどくかぶれてボコボコになっていたのだ。

「世界」の中心に向かった班の進行先には、ウルシの木を植えてあった。
他にも野薔薇やヨウシュヤマゴボウなど、使い方によっては助けになりつつも危険な植物がこの「世界」には複数存在する。
この親指の班はまさにそんな「世界」の洗礼を受けたのだった。

3匹の足跡を辿ってみれば、生姜の形のように膨らんで絶命している親指の死骸が2匹分あった。

そんな中で、流石に裸足リーダーは冷静だった。
息も絶え絶えに戻ってきた3匹を水場に連れて行ったのだ。
腫れ上がって熱を持っている3匹を冷やそうとしたのだろうが、
結果として体を洗い流すことに成功したのだから何が幸いするかわからない。

「テェ…」
「テチテチテチ!」
「テェエ…… … … …     」

ぐったりした3匹をリーダーが看病する。
小さく砕いた姫リンゴを食わせたりもするものの…

結局2匹はそれから快方に向かったが、残りの1匹はリーダーの励ましもむなしく、そのまま絶命した。

「テチャァァァァァァ!!!」

自らの指示で3匹も仲間を殺してしまった裸足リーダーの慟哭が、狭い世界の隅で小さく聞こえた。


      *      *      *


気がつけば、すっかり周囲は暗くなっていた。
観察手帳の裸足チームのほうに×を3つ、ハゲチームの方に△……奴隷マークだ……を3つ書き込む。

ハゲチームは早速奴隷親指3匹に食料と水場の探索を命じたようだ。
夜中だと言うのにあてもなく「世界」をさまよう3匹の姿が見える。
すでに身分システムは完全に機能しているようだった。

一方大幅に数を減らした裸足チーム。
群れとしての戦力は大幅に低下したが、結果として口減らしが起こり食糧事情はよくなった。
さらにウルシという全滅トラップを最小限の被害で知ることができ、その効果のほども漠然と理解できただろう。

全く異なるアプローチでこの「世界」での生活を始めた2チーム。
遭遇は決して先の話ではないだろう。
夜間用の監視カメラを数台セットすると、その日の観察を終了した。



続く


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中将◆.YWn66GaPQ

次は少し時間開くかもです

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1 Re: Name:匿名石 2015/03/17-09:40:09 No:00001678[申告]
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