フカミドリの五女『ゴミドリ』を間引いて2週間ほどが経過した。 この2週間で、フカミドリもとうとう語尾が「デス」に変化し、仔実装たちもだいぶ大きくなった。 長女のイチミドリと次女のニミドリは、キミドリよりも大きくなり、仕事の手伝いもするようになった。 「う〜む……」 そんな中、俺は今あることを悩んでいる。 高校時代の教師が突然亡くなり、その葬式に行くことのなっているのだ。 その教師にはいろいろと世話になっていたので行かないと悪いのだが、遠いため1日は絶対帰ってこれない。 この実装ホテルをどうするか。預かる側に暇がないとか駄目すぎる。 「デ? ご主人様。どうしましたデス?」 「ああ、フカミドリ。実はな——」 説明をすると、フカミドリは「私にまかせてデス」と力強く言ってくれた。頼もしい。 フカミドリは賢く優秀だ。2、3日まかせても大丈夫だろう。だがそれは普段の話だ。今は仔達の世話もある。 イチミドリ、ニミドリが手伝うようになったとはいえ、三女、四女、親指七女、親指八女、蛆九女の世話をしつつでは難しいと思う。 しかし悩みつつも、俺はフカミドリたちに任せることにしてしまった。 「じゃあ、行ってくる。しっかり頼むぞ」 店の前に整列して俺を見送るフカミドリたちに手を振りつつ出発する。 3日ほどで帰れるだろう。預かり実装が少しいるが、3日以内に引き取りに来る人はいない。 エサや掃除道具の場所も知っているし、野良実装対策の武器も使えるようにしている。 いざとなったら緊急用に持たせている『実装フォン』もある。 それとフカミドリにも秘密にしているが、監視カメラもセットしてある。問題はないだろう。 そして1日目は無事に過ぎた。 だが2日目の昼ごろ、実装フォンからの着信が鳴る。 四女『ヨンミドリ』と、預かり実装の1匹、ピンクの服の『モモ』が昨夜から行方不明らしい。 しかしあと1日はこっちにいないといけない。どうしようかと考えていると。 「気にしないで。来てもらっただけでも主人は喜んでるはずよ」 先生の奥さんはそう言ってくれた。 実は先生は虐待派、この奥さんは愛護派なのである。反発しないのかと思いきや、意外と上手くやっていたらしい。 高校時代は先生やとしあきたちでよく虐待をしていたものだ。 まあ、そういうわけで先生の奥さんは、実装石のために俺を帰らせてくれた。 しかしそれでも帰ってきたのは夜になってしまったが。 「おかえりデスッ、ご主人様!」 フカミドリが駆けてくる。今もずっとヨンミドリとモモを探していたようだ。 店に入ると、まず実装石全員を一度集合させた。 どうやらフカミドリたちだけでなく、預かり実装も探すのを手伝ってくれたらしい。 今、預かってる実装が賢い個体ばかりで助かった。 1匹1匹に話を聞くが、どうやら昨日の夕方頃からいなくなっているようだ。 店、というか家の周りは囲いがあり、玄関、裏口ともに実装石では通れないくらいの門がある。 外に出ている可能性はおそらくないだろう。しかし実装石数匹で探したのに見つからないというのもおかしい。 俺はとりあえず、夜遅くなってきたので実装石全員を寝かすことにした。 フカミドリが自分はまだ探す、と言ったが続きは明日で大丈夫と説得し寝かせる。 そして俺は、秘密裏にセットしておいた監視カメラを回収した。 いつもだったらフカミドリの言うとおり、まだ手伝わせていただろう。 だが今回はこのカメラの映像がある。これを見ればヨンミドリとモモがどこへ行ったかわかるはずだ。 さっそく俺は映像を再生する。カメラは数個セットしたので全部見るのは大変だ。 最初の方は店の中を再生したが特に目ぼしい映像はない。庭に仕掛けておいたカメラの映像に切り替える。 朝から昼まで、実装石たちはそれぞれ遊んだり会話したりしている。その中にヨンミドリ、そしてモモが見えた。 モモの前に、サンミドリ、ヨンミドリ、預かり実装のミドリがいる。どうやらモモの話を3匹が聞いているようだ。 それからしばらく流れ続ける映像を早送りしつつ見る。映像内が夕方になってきたとき、動きがあった。 「ん……?」 サンミドリがヨンミドリに何か話している。 話し終えたサンミドリが今度はモモに近づいた。また何か言っている。 サンミドリがヨンミドリとモモを連れ、どこかへ向かっている。 「む……!」 驚いた。サンミドリは俺が気づいてなかった隙間に入っていく。 予想外の位置にカメラの映像はない。どうやら自分で見に行ったほうがよさそうだ。 懐中電灯を手に、映像にあった隙間に向かう。 なるほど、物置と囲いの間に仔実装なら入れるくらいの隙間がある。 その隙間に懐中電灯の光を当てる。そこには——。 翌朝、俺は早々にフカミドリ一家を集めた。 フカミドリが俺を見て身震いしている。そんなに怖い表情だろうか? そういえば以前としあきが「お前が本気で怒ってるときの表情はやばい」とか言ってた気もする。 サンミドリはいつものように、俺の視線から顔を逸らしフカミドリの影に隠れる。 が、そんなのは気にせず、サンミドリを掴みあげた。 「テ、テチー!」 「さて、なにをしたか説明してもらおうか。サンミドリ」 「わ、私はなにもしてないテチー!」 大声出せるじゃないか。 普段、サンミドリはフカミドリと一緒に行動し、俺が来るとすぐに隠れ、大声を出すのを聞いたことがなかった。 単に恥ずかしがりやなのか、警戒心が強いのかと思っていたが、今はわかる。 こいつは自分の糞蟲部分を隠していたのだということが。 俺は昨日の映像を再生し、サンミドリをその映像が見える1番前に置く。 映像内でサンミドリに連れられた、ヨンミドリとモモが隙間に入っていく。隙間内は見えない。 しばらく早送りして数分後、サンミドリだけが出てきた。 「何故、出てきたのはお前だけなのか。答えてもらおうか」 「テ、テチー……」 サンミドリ。いやフカミドリ一家全員が驚いている。 フカミドリが驚いているのはサンミドリの事か、それとも俺が監視カメラを仕掛けていたことか。 まあ、今はどっちでもいいが。 「テ、きっと妹とモモちゃんはご主人様を驚かそうと隠れてるテチュー!」 ……なんだその言い訳は。 俺がいないのに隠れてどうする。しかも他人の飼いのモモが俺を驚かしてなんになるんだ。 しかたない。とっとと切り札を見せるか。 「じゃあこれはなんだ」 サンミドリの前にそれを置く。その瞬間全員、特にサンミドリはかなり驚いた。 俺が置いたのはヨンミドリとモモの死体だ。昨夜、映っていた隙間に2匹は倒れていた。 モモは特徴のピンク服が脱がされ身体中に殴打の後があり死んでいた。 ヨンミドリは胸に釘が刺さっており、外傷は少ないが偽石に当たったのかやはり死んでいる。 「さて、2匹とも死んでいる。これはどういうことだ?」 「テ、テー……」 サンミドリもさすがに言い訳ができないようだ。 片方でも生きていれば責任を擦り付けれたかもしれないが、両方死んでる以上サンミドリが何かしたことは明白だ。 何が起きたか俺がわからない以上、最初から知らぬ存ぜぬで通されたら困ったが、サンミドリのこの様子ではもう決定だろう。 「フカミドリ、いいな」 「デッ!? は、はいデス……、ご主人様」 唐突に自分に向けられ驚いたようだが、すぐに返事をした。 何をするかもうわかっているからか、表情を曇らせている。 「じゃあ、店番と預かりたちの朝食を頼む。少し出かける」 「デ? は、はいデス」 すぐに間引かれると思っていただろうフカミドリに店を任せ、サンミドリを掴み移動する。 この前発見した、虐待部屋へ……。 「テチャァァッ!」 虐待部屋にサンミドリの悲鳴が響く。 実装タタキでひたすら叩いて叩いているからボロボロだ。もちろん偽石は摘出し、栄養剤に漬けてある。 サンミドリは既に理由と殺害方法をはいている。これは間引き兼お仕置きである。 モモは、力の強いヨンミドリを言いくるめて殺させたらしい。 その後、姉だからと警戒しないヨンミドリを拾った釘で一刺しとのことだ。 ヨンミドリ巻き添えかよ。 サンミドリの言い分は典型的な糞蟲だった。 モモの飼い生活の話を聞き、自分との境遇を比べたからだった。 モモは名前通りのきれいなピンク服を着て、飼い主もそこそこ裕福そうでいい暮らしをしてそうだった。 確かに、うちよりもいい飼われ方をしてるのは間違いないだろう。 だがそれでも、きちんとした実装フードはやっているし、風呂にも毎日ではないが入れている。 はっきりいって野良実装から見れば十分な暮らしだろう。 「なに言ってるテチィー! いつも手伝わせてばかりで『自由』がないテチィー! 野良のほうがマシテチィー!」 ……おいおい、『手伝いばかり』って。その手伝いで十分遊ばせてやってるだろうが。 それに『野良のほうがマシ』? 野良を見たこともないくせに。 まあいい。それならこっちにも考えがある。 昼、俺はサンミドリをダンボール箱に閉じ込め、近所にある『双葉公園』にやってきた。 双葉公園は普通にある小さな公園じゃなく、かなり大きめの公園だ。人間の足でも端から端まで歩くのに時間が掛かる。 その双葉公園の木々の多い場所に、俺はサンミドリの入ったダンボールを置いて開けた。 「テ、テチ〜。ここはどこテチ?」 「野良の方がマシなんだろ? ここはうちの近くの公園だ。じゃあな」 「テエーッ!?」 サンミドリに手を振りつつ俺はさっさとその場を後にする。 そして帰ったふりをして遠くからサンミドリの様子を確認し始める。 本当に公園送りになるとは思ってなかったのだろう。唖然とした表情で固まっている。 が、自由になったと思い直したのか、ダンボールから出て駆け回り始めた。 しかし、楽しんでいられるのも今のうちだ。 少しして、テチテチ鳴きながら駆け回っていたサンミドリの周りを数匹の野良実装が囲みだした。 サンミドリはおそらく自分と遊んでくれると思ったのだろう。笑顔で野良に近づいていく。 そして1匹の成体実装に触れようとした瞬間、サンミドリは蹴り飛ばされた。 何故蹴られたかわからず、ポカンとしているサンミドリ。 当然だ。野良にとって飼いは嫉妬の対象だ。そしてそれは今、捨てられていてもである。 そのためわざわざダンボールを置くとき近くから様子を伺っていた野良にわざと見せ付けながら置いた。 この双葉公園。大きいだけあって野良実装がそれぞれエリアを作っているようで、ある程度住み分けがされている。 その中で、俺がサンミドリを置いた場所は糞蟲な固体が多いと俺が感じてる場所だ。 思惑通り、サンミドリは野良にいじめられ「やっぱり帰るテチー!」などとほざいている。 俺はそれを見て満足し、本当に帰ることにした。後は野良が好き勝手やるだろう。 仮に逃げ出せたとしても、公園の今の場所は俺の家にはかなり遠い方向だ。たどり着く可能性は低いだろう。 じゃあなサンミドリ。せいぜい野良で生き延びるんだな。 それから1週間後。 実装ホテルはいつもと変わらず食事、実装石との遊びで続いていた。 3日ほどフカミドリは、俺が連れて行ったサンミドリが気になっていたようだが最近は普通に戻り、 今は庭で、他の実装たちの遊び相手になっているはずだ。 そして俺が、実装たちが庭に出ている間のケージ掃除をしているときだった。 庭のほうから実装たちのあわてる声が聞こえ始めた。戯れているにしては、やけにさわがしい。 様子を見に行こうと立ち上がると、数匹の実装石がこちらに走ってきた。その身体には糞が付いている。 「おい、お前たち。どうし——」 ベチョッ! 「ご主人様。大丈夫デスか——!?」 フカミドリデス。 庭で遊んでいると、いつもワガママばかりのエメラルドちゃんがウンチを投げてきたデス。 いつもより機嫌が悪かったエメラルドちゃんは、調子に乗ってたくさん投げ始めたデス。 それから逃げ出した他の子たちが家の中に逃げ始めて、エメラルドちゃんもそれを追って投げつけてるデス。 このままではご主人様の家を汚されるので止めに走ったら、ご主人様の顔にウンチが付いていたデス。 「……」 「ご、ご主人様?」 ご主人様は一度私に目を向けた後、エメラルドちゃんを掴んだデス。 「フカミドリ。掃除と他の奴らを洗っておけ」 「は、はいデス……」 ご主人様はエメラルドちゃんを掴んだままどこかへ出かけたデス。 この前、三女ちゃんを間引く時もどこかへ連れて行ったデス。 でも訊きはしないです。ご主人様にも事情があるデス。……虐待でもいいデス。 以前、ご主人様の友人のとしあきサンが言ってたデス。 ご主人様は昔、虐待派だったそうデス。でも昔のことはどうでもいいデス。 ただ、としあきサンはこうも言ってたデス。 「あいつの本当の虐待面には注意しな」 最初はなんのことかわからなかったデス。 でも今はわかる気がするデス。ご主人様の目が違うデス。 三女ちゃんの時と今、エメラルドちゃんを連れて行くときの目が別人のようだったデス。 しかもエメラルドちゃんはかなりマズイことをしたデス。 としあきサンがご主人様の過去を話してくれたときに言ってたデス。 ご主人様は子供の頃、実装石のウンチが顔に直撃して呼吸困難になりかけたそうデス。 今はあまり覚えてないそうデスが、ご主人様の逆鱗に触れたデス。 夜になってご主人様が戻ってきたデス。 エメラルドちゃんも無事戻ってきたデスが……すごく暗いデス。何されたデス? ふう、この前は久しぶりに虐待のスイッチが入ってしまった。 エメラルドに糞をぶつけられてから2週間、あれから顔を洗う時間と回数が2倍以上だ。 さて今日は朝から買出しに行く準備である。 実装ホテルなんてやってる以上、あまり留守ばかりはいけないのでまとめ買いだ。 祖父母が使っていたボロいママチャリを押しつつ外に出たとき、厳しい顔のクロと会った。横には仔マラのロクミドリもいる 「クロか。どうした?」 「ご主人サン。最近、双葉公園にいる野良を知ってるデズ?」 双葉公園か。この前のエメラルドの時から、預かり実装が多くて忙しく行ってないな。 「公園に少し前から、新しい野良が数匹増えたデズ。その内の3匹がとても賢く力も強いデズ。 その連中がどこかの家を集団で襲おうとしてると聞いたデズ。ご主人さんの家も気をつけるデズ」 「ん、わかった。気をつけよう」 クロに手を振り、ママチャリをこぐ。 聞き流していたつもりじゃなかったが、この時もう少し家の守りを作っておくべきだったと後で後悔することになるとは……。 買出しに時間が掛かってしまった。 途中、エメラルドの飼い主の愛護おばさんに捕まり、すっかり様子の変わったエメラルドについて質問攻めされたからだ。 適当に誤魔化したが。 ん? 実装フォンからの緊急コール? 「ご、ご主人様! 急いで帰ってきて助けデスーッ!」 電話、切れた……。やばい、急いで帰ったほうが良さそうだ。 ボロママチャリを全力でこぐ。ギシギシ鳴っている。頼むからまだ壊れないでくれよ。 家に帰って、俺はゾッとした。家中一面、実装石の群れ群れ群れ。 群れが餌を貪り、いくらか見えるボロボロの預かり実装。 とりあえず玄関に置いていた『実装ネムリ』を片っ端から撒いていく。 俺に気づいた実装がワラワラ逃げ出すが、しょせん実装の足。すぐに追いつく。 家の中にいた奴を片っ端から眠らせ、庭に出る。庭の連中は既に逃げ体勢。再びネムリを撒いていく。 その時、逃げてる連中の方向に違和感を感じる。 庭の隅に植えてある草木。その草木に潜っても塀があって行き止まりのはずだが……。 先回りして草木を掻き分ける。そして驚いた。草木の中に隠れた塀の隅に実装石なら通れそうな穴が開いていた。 いつからこんな穴ができてたか知らないが、侵入実装たちがこっちに逃げようとしてた以上こいつらの仕業だろう。 片っ端から眠らせた野良実装を物置の虐待部屋に放り込み、家に戻り実装たちを確認する。 ひどい有様だ。預かり実装たちは全員生きていたが、どいつもボロボロで傷だらけ。 そして——。 「デー……」 傷だらけのフカミドリ。禿裸にされたキミドリ。この2匹はまだいい。 イチミドリ、ニミドリはボロボロで死亡。 親指のナナユビ、ハチユビは、やはり小さかったからか潰れかけの状態で死んでいる。 潰れかけのナナユビが抱いていたウジキューはなんとか無事だった。 クロに預けたロクミドリと、ウジキュー以外の子は全滅である。 ショックをのせいか、フカミドリは「デー」としか言わない。 その後は大変だった。 野良に荒らされた部屋を掃除し、預かり実装の手当てだ。 幸い、買出し前だったこともあり食べ物系の被害はそこまでひどくなかった。 だが、俺の心には確実に黒い部分が出た気がした。 そして翌日。 俺は『都合によりしばらく休業します』『現在預け中の実装石引取りはこちら』の看板を玄関に立てた。 続く 所々いじったら時間掛かった。いじったのでミスがあったら感想よろしくお願いします。 次あたり、登場人物紹介でもつけるかも。
