まだ俺が実装ホテルを創めて間もない頃、俺は見てしまった。 庭の掃除をしていた時だった。 家の庭にある大きめの物置。祖父母が死ぬ前からあるその物置。 何に使われているかわからないそれを前から気にはなっていた。 俺は掃除のついでにと、秘密の物置ともいえるそれに入る。 「……?」 何もない。 祖父母、特に祖父が開けないでくれと願った物置。 いや、物はある。色んな物が置いてある。だがこれといって目ぼしい物はない。 清掃用具、大工道具、その他。別にこんな大きな物置になくてもよさそうな物ばかり。 奥まで行ってみる。そして気づいた。 ほこり臭かった物置のなかで、実装石の臭いがかすかにする。 よく調べ気づく。物置の右奥の隅。床のほこりを払いのけたそこに取っ手がある。 暗い物置の中、好奇心に負けその取っ手を引く。重く響く音と共にそれは開いた。中には階段。 暗い足もとに気をつけ、ゆっくりと下りていく。そして着いた地下室。 「っ……! これは……」 以前、実装石を虐待していたことはある俺だが、地下室の状況に驚きを隠せない。 そこには数々の虐待、拷問道具と、既に干乾びている大量の実装石だった。 実装石の虐待部屋。金持ちな虐待派が音が漏れない専用の虐待部屋を持つことはある。 だが祖父母は優しい人だった。少なくとも俺の記憶ではそうだ。 俺に実装ホテルのきっかけをくれた親実装もいい人だったと言っていたし、近所で昔から住んでいる人たちの評判もよかった。 そんな祖父母の家にこんなものがあるとは信じがたい。 だが……あらためて思う。俺の一家、親戚関係は皆実装石嫌いだ。 その『嫌い』は単に関わりたくない『嫌い』の人から虐待したいほどの『嫌い』の人までいた。 俺の知らないところで祖父母も後者だったのだろうか。近所の実装石には優しかったのは上げだったのか? 今は亡き祖父母を思いながら、俺は一度外に出る。 あまり長居するとフカミドリが探しに来ると思ったからだ。 フカミドリには呼び出し用の実装フォンを持たせていたから大丈夫なのだが、この時はそこまで頭が回らなかった。 「ごしゅじんさま」 ある日のこと、キミドリが俺に話しかけてきた。 頭は悪くないが、仔実装サイズで動きもいまいちのろいキミドリには仕事をあまり手伝わせていない。 キミドリもそれをわかっているのか、暇なときも基本、庭でのんびりしている。 だから店の中で話しかけてきたのには少し驚いた。 「どうした?」 キミドリの方は見ずケージの掃除を続けながら返事をする。 「このごろお姉ちゃんの様子が変な気がするテチ」 「キミドリもそう思うのか」 フカミドリはこの頃、上の空だ。よくぼーっとしている。 以前も、預かり実装のエサやりの時、転んでエサをばら撒いた。 理由はなんとなくわかっている。 この前の客。『黒布のマラ』の来る回数が増したことだ。 どうやらフカミドリは黒布に一目ぼれしている様子。そして黒布も満更でもないらしい。 まあ他人(他石?)の恋愛にケチをつける気はない。 ただ、フカミドリの仕事の手伝いにまで影響がでるのは困る。 さて、どうするか……。 それから数日後。 俺はフカミドリの目を見て気づく。 「フカミドリ……お前妊娠したのか」 「テ! そ、そうテスー。いつの間にかテス」 ……頭はいいくせに誤魔化すのはヘタだな。 俺はフカミドリにもうばれてることを言った。 おととい、夜中にトイレに行ったとき、庭先でフカミドリと黒布がやっているのを見てしまったからだ。 正直、そこまで仲が進展していたとは思っていなかった。 「テスー。ごめんなさい、ご主人様」 ひたすら謝ってくるフカミドリ。まあ、そうだろう。 今まで、実装石とは思えないほど隠し事も怪しいこともしなかったからな。 「まあいいさ。それよりも、今度からそういうことはきちんと言え」 それから俺はフカミドリにいくつか約束させた。 1つめに、黒布と会うのを隠さないこと。 2つめに、子供を産んでもいいが手伝いは今までどおりすること。 3つめに、糞蟲がいたら容赦なく間引くから躾は徹底してやること。 この3つである。 実装石はどんなに賢い親からでも糞蟲は産まれる。 それが実装石の家族に害がでるのはともかく、店にまで影響がでたら冗談じゃない。 それから1週間。いろいろと変わった。 まずキミドリが姉の変わりに積極的に働くようになった。 やはりノロマなのが難点だが、身重なフカミドリに無理をさせまいと頑張る姿は評価できる。 次に黒布も店の手伝いに来た。フカミドリの代わりにいろいろ手伝わせるつもりだった。 が、フカミドリの一生の一度といわんばかりの頼みで街を散歩、いや旅するのは続けさせてやることにした。 ちなみに『黒布』は『クロ』と呼ぶことになった。フカミドリがそう呼んでいたからだ。猫みたいとか言うな。 そしていよいよ出産の日が来た。 風呂場に水を少し溜めてやり、フカミドリを入れる。 俺、キミドリ、クロが見守る中、風呂場に「テッテレー♪」と声が響く。 仔実装6匹、親指実装2匹、蛆実装1匹か。ぎりぎり中実装なフカミドリにしては多く産んだな。 仔実装の名前は、『イチミドリ』『ニミドリ』『サンミドリ』『ヨンミドリ』『ゴミドリ』『ロクミドリ』 親指実装の名前は『ナナユビ』『ハチユビ』。蛆実装は『ウジキュー』と暫定的に名づけた。 そして改めて子を手に取りチェックしている時に気づいた。『ロクミドリ』がマラ子実装だったのだ。 野良の実装石はマラ子実装が産まれると、他の子を犯すのを恐れ殺すこともある。 フカミドリもマラに気づきどうしようかと考えていると、クロが手をあげた。 「その子、私がもらってもいいデズ?」 クロはこの仔マラを自分の跡継ぎにしたいという。 異論はない。殺してしまうくらいなら、クロに渡してもいいだろう。ってか、こいつの子でもあるし。 フカミドリは少し悩んでいたが、自分の夫であるクロに仔マラを手渡した。 「お父さんの言うことを聞いて立派になるテスよ」 「テッチー!」 父親であるクロに抱かれながら、仔マラは元気よく返事をした。 ふむ。こいつも賢い奴かもしれない。 そしてクロは仔マラを連れ出て行く。相変わらず風のような奴だ。 俺はフカミドリと子たちを風呂から出し、これからどうなるかを考えていた。 数日間、俺は店の仕事をしつつも、仔実装をまめにチェックしていた。 長女『イチミドリ』は母であるフカミドリに似て賢い。 次女『ニミドリ』も姉に劣らず賢く、そのうえ優しい。 三女『サンミドリ』は頭は良さそうなのだが、なんか俺を避けてる気がする。 四女『ヨンミドリ』は姉と違いあまり賢くはないが、パワーがある。 ……そして五女だ。 五女『ゴミドリ』は名前が『ゴミ』になったのがぴったりの糞蟲だった。 フードの味にケチをつける、かと思ったら他の姉妹のフードを奪おうとする。他の姉妹と違い、俺のことを『クソニンゲン』と呼ぶ。 まさに典型的な糞蟲だ。間引き候補トップである。 六女『ロクミドリ』はクロが連れて行ったので、親指がつぎになる。 七女『ナナユビ』。 こいつもいまいちだ。『ゴミドリ』と違い『クソニンゲン』呼ばわりはないが、 トイレの場所を覚えようとせず、他の姉妹にフードをねだる。間引き候補2だ。 八女『ハチユビ』と九女『ウジキュー』は特に賢いわけではないが、 よく見る仲の良い親指と蛆といったところである。 そしてフカミドリが仔を産んで1週間が経った。 フカミドリ一家のために用意した大きめのケージの前に俺は立つ。 その俺を見て、既にわかっているといった表情のフカミドリはこくんと頷いた。 それを確認した俺はゴミドリを掴む。 「テッチー! 離すテチ、クソニンゲン!」 手の中で暴れるゴミドリに俺はそっと囁いた。 「君の専用の部屋を用意したから移動させてるんだ。おとなしくして」 優しめの声でそう言うと、ゴミドリは偉そうな表情になり暴れるのをやめる。 大人しくなったゴミドリを俺はあるケージに入れた。 「テッチッチ、いい広さテチ。私にふさわしい部屋テチ。あんな狭い所とはおさらばテチ」 ……確かにフカミドリたちがいるケージは家族全員が入るとさすがに狭い。だが仔実装サイズであのケージが狭いとかどんだけだ。 まあいい。始めるか。 ゴミドリが元のケージにいる姉妹を笑っている。俺はそれを無視し、仕掛けを動かし始めた。 音はない。ゴミドリも気づかず、まだ姉妹に好き勝手言っている。 他の姉妹たちは皆、ゴミドリの状況に気づいているも声がでない。いやフカミドリが、静かにさせているようだ。 だが、そんな空気を破り、無垢なウジキューが声をあげた。 「ゴジョオネチャ。上になにかあるレフ」 「テ?」 ウジキューの言葉に反応し上を見上げるゴミドリ。 「テ、テチャー!? 屋根が降りてきてるテチィー!」 そう。ゴミドリを入れたケージは虐待道具の1つ『吊り天井』だ。 少しずつ降りてくる天井でじわじわと恐怖心で責めるものである。 物置の虐待部屋から持ってきたものだ。ネタとしては古いな。 「テチャ、これを止めるテチ! クソニンゲン!」 こいつ、この状況でまだ『クソニンゲン』とか言うかね。 俺はそいつに冷たい視線を向ける。俺の視線をゴミドリはわかっていない。 ただ、俺に止める気がないとわかるとすぐさま元のケージに向き直る。 「ママ、オネチャ、早く私を助けるテチ!」 だめだこりゃ。少しくらい言葉遣いを変えて助けを求めれば考えてやったかもしれないものを。 俺は、吊り天井の速度を上げる。 天井は少しずつ、そしてとうとうゴミドリが潰れだした。 「デェ〜ッ、早く助けろデチ……。テギャッ!」 天井が全て降りた。 俺は天井を回収し、中から潰れたゴミドリを取り出して言った。 「お前たちもあまりわがままだとこうなる。覚えておけ」 仔実装たちは皆怯えた目でこちらを見る。 まあ、しょうがないだろう。吊り天井は少しやりすぎたか。 だがこれも躾のためだ。仕方ない。 「返事は」?」 「「「「テ、テチッ!」」」 一斉に返事をする仔達。 ウジキューはあまりわかってなさそうだが、まあしょうがないか。 こうして間引き1回目は終了した。 最初は皆、悲しんでいたが、きちんと立ち直り生活を始めた。 特に、間引き候補2だったナナユビが、きちんとトイレを覚え、エサも自分の分だけにし、 ハチユビまかせだったウジキューの世話もやり始めた。 これを見た俺は、間引きの成果はあったなと思っていた。 だが、事件が起こるのはそう遠くはなかった…………。 続く
