「またどうぞー」 「またどうぞテスー」 一匹の実装石を連れて行くおっさんに、俺とフカミドリは手を振る。 そろそろ客も見知った顔が出始め、今、手を振ってるおっさんもその一人だ。 今回の話は、うちの実装ホテルの客の話になる。 「いらっしゃいませー!」 とびっきりの笑顔で客であるお姉さんに向かう。 前回も出てきた、近所兼うちの初めての客のお姉さんである。 「いつもすみません。この仔をお願いします」 お姉さんも笑顔で、飼い実装のミドリをこちらに渡す。 やっぱり美人だ。これで預ける理由が恋人とのデートじゃなければorz。 「いらっしゃいませ」 普通の営業スマイルで、客であるおばさんに振り向く。 やはり近所に住む愛護、いや愛誤といえるおばさんだ。 「エメラルドちゃんをお願いするざますよ」 俺はこのおばさんが苦手だ。いや、エメラルドのほうか。 エメラルドは典型的な愛誤派の糞蟲ですぐに文句を言い、逆らえば飼い主のおばさんに告げ口する。 幸い愛誤派おばさんは実装リンガルを使っていないが、それでも態度である程度わかってしまう。 少し躾けてやりたいが、おばさんは貴重な金づる。下手なことしたらまずい。現在、どうするか悩み中である。 「いらっしゃ——」 「よ!」 慣れたように入ってくる男が一人。 としあき。俺の昔からの友人で虐待派だ。 「今日も受け取りに来たぜ」 「ああ、少し待ってろ」 俺は店の奥に引っ込み、1つのケージを運び出す。当然、中には実装石。 「こいつだ。受け取れ」 「おう。じゃ、これは俺からの謝礼な」 としあきから、千円札数枚を受け取る。 2ヶ月ほど前から、このやりとりは始まった。 「はぁ、そうですか。わかりました」 俺は電話を切り、フカミドリを呼んだ。 「フカミドリ、庭からグリーンを呼んでくれ」 フカミドリに連れられ、俺の前に立つ預かり仔実装の『グリーン』。 比較的賢く、飼い主とも仲がよさそうだった預かる時の様子を思い出し、俺は若干言葉を躊躇った。 「グリーン……ちゃん。聞いてくれ」 どうでもいいが、ちゃん付けになれないのは秘密だ。 「君の飼い主が、交通事故で亡くなったそうだ」 「テチッ!?」 一瞬「何を言ってるの」といった様子だったがすぐに理解し泣き始めた。 だがだがこちらもグリーンのことを気にする余裕はない。引き取りが不可能になったときの処理を考えていなかったからだ。 とりあえず数日預かり別の飼い主を探すことに決めたその時、奴はやってきた。 「よ、久しぶりだな「」」 「としあき……か。本当に久しぶりだな。どうしたんだ突然」 「なに、元虐待派の親友が『実装ホテル』なんてものを創めたと聞いて観に来てやったのさ」 そんなことだろうと軽く受け流し、昔のことを話しつつ、俺はグリーンのことを相談した。 「そんなことなら俺がもらうぜ」 「おまえが?」 としあきは昔からの実装石虐待派で、飼い実装すらもその対象だった。 そんなとしあきにグリーンを渡せば結果は見えている。 「どうせ他に当てはないんだろ? 少しくらいなら金も渡すぜ?」 「はぁ、仕方がない。少し待ってろ」 俺はグリーンに新しい飼い主が見つかったことを説明する。 前の飼い主との思い出があるグリーンは当然首を横に振ったが、このままだと保健所か野良だと告げると仕方なく了承した。 グリーンをとしあきの元へ連れて行くと、驚いたことにとしあきとフカミドリが何か話している。 「お、来たか。そいつがグリーンちゃんね」 「ああ。ところでおまえ、フカミドリと何話してたんだ」 「な〜に、おまえの昔話とかだよ」 ニヤニヤ笑っている。一体何を吹き込んだ。 「ほれほれ、金だ。受け取れ」 としあきの手から千円札が数枚空を舞う。 祖母の大きい家に住んでる俺が言えることじゃないが、こいつもかなりの坊ちゃんだ。 金遣いの荒いこと荒いこと。 そんなこんなで、グリーンを連れとしあきは帰っていった。許せグリーン。生きてたら金平糖でもやる。 店に戻ると、フカミドリがこちらをじっと見ている。 「どうした、フカミドリ」 「テスー。ご主人様は虐待派なんテスか?」 「まあ、愛護派か虐待派かでいったら虐待派だな」 否定もせずに答える。 「わ、私たちを飼ってるのは……『上げ』なんテスか?」 「は? あぁ、としあきに言われたのか。心配するな。そんなことは思っていないさ」 フカミドリは安心して息を吐く。 「まぁ、おまえがいきなり糞蟲にでもなったら虐待するかもな」 「テスー!?」 そして現在に至る。 飼い主の事情は少しながらもあり、そのたびに俺はとしあきに実装石を渡している。 とりあえずまだ、渡した実装石たちがどうなったか聞いてはいない。 さて、今は飼い実装とその飼い主の話をしたが、客はそれだけではない。野良実装である。 ある日、俺はフカミドリ、キミドリに留守を任せ買い物に出ていた。 その帰り、店の前に野良と思われる実装石が数匹いた。 「おい」 「デスッ!?」 いざ店に入ろうとしていた大きめの実装石が驚きながら振り向く。 だが、俺がこの店の人とわかった途端、俺の前で偉そうに座り、「さぁ、早く美しい私と仔達を世話するデスゥ」と言った。 俺が今、一番気にしている問題がこれである。 どこで間違った噂を聞いたか、野良実装が時々、「私を世話しろ」とばかりにやって来るのである。 飼い実装の店と説明しても、諦めるのはごく一部。 そんなこと知らないと言う奴や、なら私を飼えと言う奴など様々である。 この野良実装たちを最初は追い払っていたのだが、 最近は『実装ネムリ』で眠らせて余ってるケージに入れておき、飼い実装と一緒にとしあきに渡している。 色んな虐待をしているらしいとしあきは、賢い実装から糞蟲まで引き取って金までくれる。 野良を渡すときは金は要らないと断ったのだが、気にせず置いていった。 またこんなこともあった。朝、やはり店の前に実装石がいたときだ。 そのときは追い払おうと思い近づくと、親実装と思われる実装は頭を下げて言った。 「私が食料を取ってくる間だけでいいデスゥ。この仔達を預かって欲しいデスゥ」 最初は仔達だけ渡していなくなる託児かと思った。 ただ、その時は預かり実装が一匹もいないで暇だったので、預かってみた。 そして昼ごろ、そいつはちゃんと戻ってきた。たいして入ってなさそうなビニール袋を引きずりながら。 ケージに入れておいた仔達を返す。親仔で抱き合った後、俺に礼を言い帰ろうとする。 「おい」 気まぐれか、貴重な親子愛があり約束を守った奴だったからか、 俺は店から実装フードを取ってきて、少しだけ親子に渡す。 「それだけじゃ足りないだろ。持ってけ」 「デェー。あ、ありがとうございますデスゥー」 親子そろってしつこいほどに頭を下げた後、親子実装は帰っていった。 野良実装で最高に変わった客がいる。いや、客とは言わないか。 そいつはある日、俺の店の近くで倒れていた。 大雨の中、買出しから帰ってきた俺は、店のすぐ近くに黒い何かが落ちているのを見た。 店に入りつつ、なんとなくそれを見て驚いた。黒い布をかぶった実装石だったから。 買い物袋を家の中に投げ入れ、俺はそいつを拾い、実装石用のドリンクを飲ませた。 さすがに実装石だけあって、すぐに回復した。(ん、これ前にも言ったような?) そいつは俺たちを向き礼をした後、すぐに立ち去ろうとする。 「おいおい、起きたばかりでどこへ行く? 外は大雨だぞ」 「そうテスゥ。もう少し休んでいくテスゥ」 フカミドリも一緒に、そいつを引き止めるそいつは無言のまま、こちらに戻ってきた。 「すまんデス」 最初驚いたのは、そいつがマラ実装だったことである。 俺がフカミドリ、キミドリと一緒にそいつを洗おうとしたとき、羽織っている黒い布を取って気づいた。 マラ実装といえば性欲の塊で、他の実装をみればすぐに襲いにいくのが普通だ。 だがこのマラ実装は、フカミドリ、キミドリといても平然としている。 洗い終わり、夜、フカミドリ、キミドリが眠った後、そいつと話をした。 こいつはマラ実装のくせに旅をしているらしい。実装石の遅い足ではたいして進まないと思ったが、 どうやらかなり長く旅をしているらしく、色んな場所に行ってるという。 だが、うちの近くで空腹で気絶したらしい。賢いんだか、馬鹿なんだか。 性欲のことを聞いてみると、さすがにあるらしく、時々野良を襲っていると言う。 フカミドリたちを前に普通にしてたように見えて、結構我慢していたらしい。 次の日、前日の雨が嘘のように快晴な日。 そいつはうちから出て行った。だがこの辺りには来たばかりでまだしばらくいるとのこと。 本当に変わった奴だ。そいつの背中を見て俺は思う。 傷ついた身体と、羽織っている黒い布が厨二心にくる。 そしてそいつは、その後も時々うちに来るようになっていた。 実装ホテルの青年 客 完
