タイトル:【観察】 だいぶ長く書いた気でいたけど、他の人にはかなわないなぁ
ファイル:実装ホテルの青年2 客.txt
作者:放浪石 総投稿数:8 総ダウンロード数:1651 レス数:0
初投稿日時:2010/11/03-01:51:46修正日時:2010/11/03-01:51:46
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「またどうぞー」
「またどうぞテスー」

一匹の実装石を連れて行くおっさんに、俺とフカミドリは手を振る。
そろそろ客も見知った顔が出始め、今、手を振ってるおっさんもその一人だ。

今回の話は、うちの実装ホテルの客の話になる。



「いらっしゃいませー!」

とびっきりの笑顔で客であるお姉さんに向かう。
前回も出てきた、近所兼うちの初めての客のお姉さんである。

「いつもすみません。この仔をお願いします」

お姉さんも笑顔で、飼い実装のミドリをこちらに渡す。
やっぱり美人だ。これで預ける理由が恋人とのデートじゃなければorz。


「いらっしゃいませ」

普通の営業スマイルで、客であるおばさんに振り向く。
やはり近所に住む愛護、いや愛誤といえるおばさんだ。

「エメラルドちゃんをお願いするざますよ」

俺はこのおばさんが苦手だ。いや、エメラルドのほうか。
エメラルドは典型的な愛誤派の糞蟲ですぐに文句を言い、逆らえば飼い主のおばさんに告げ口する。
幸い愛誤派おばさんは実装リンガルを使っていないが、それでも態度である程度わかってしまう。
少し躾けてやりたいが、おばさんは貴重な金づる。下手なことしたらまずい。現在、どうするか悩み中である。


「いらっしゃ——」
「よ!」

慣れたように入ってくる男が一人。
としあき。俺の昔からの友人で虐待派だ。

「今日も受け取りに来たぜ」
「ああ、少し待ってろ」

俺は店の奥に引っ込み、1つのケージを運び出す。当然、中には実装石。

「こいつだ。受け取れ」
「おう。じゃ、これは俺からの謝礼な」

としあきから、千円札数枚を受け取る。
2ヶ月ほど前から、このやりとりは始まった。



「はぁ、そうですか。わかりました」

俺は電話を切り、フカミドリを呼んだ。

「フカミドリ、庭からグリーンを呼んでくれ」

フカミドリに連れられ、俺の前に立つ預かり仔実装の『グリーン』。
比較的賢く、飼い主とも仲がよさそうだった預かる時の様子を思い出し、俺は若干言葉を躊躇った。

「グリーン……ちゃん。聞いてくれ」

どうでもいいが、ちゃん付けになれないのは秘密だ。

「君の飼い主が、交通事故で亡くなったそうだ」
「テチッ!?」

一瞬「何を言ってるの」といった様子だったがすぐに理解し泣き始めた。
だがだがこちらもグリーンのことを気にする余裕はない。引き取りが不可能になったときの処理を考えていなかったからだ。
とりあえず数日預かり別の飼い主を探すことに決めたその時、奴はやってきた。

「よ、久しぶりだな「」」
「としあき……か。本当に久しぶりだな。どうしたんだ突然」
「なに、元虐待派の親友が『実装ホテル』なんてものを創めたと聞いて観に来てやったのさ」

そんなことだろうと軽く受け流し、昔のことを話しつつ、俺はグリーンのことを相談した。

「そんなことなら俺がもらうぜ」
「おまえが?」

としあきは昔からの実装石虐待派で、飼い実装すらもその対象だった。
そんなとしあきにグリーンを渡せば結果は見えている。

「どうせ他に当てはないんだろ? 少しくらいなら金も渡すぜ?」
「はぁ、仕方がない。少し待ってろ」

俺はグリーンに新しい飼い主が見つかったことを説明する。
前の飼い主との思い出があるグリーンは当然首を横に振ったが、このままだと保健所か野良だと告げると仕方なく了承した。
グリーンをとしあきの元へ連れて行くと、驚いたことにとしあきとフカミドリが何か話している。

「お、来たか。そいつがグリーンちゃんね」
「ああ。ところでおまえ、フカミドリと何話してたんだ」
「な〜に、おまえの昔話とかだよ」

ニヤニヤ笑っている。一体何を吹き込んだ。

「ほれほれ、金だ。受け取れ」

としあきの手から千円札が数枚空を舞う。
祖母の大きい家に住んでる俺が言えることじゃないが、こいつもかなりの坊ちゃんだ。
金遣いの荒いこと荒いこと。

そんなこんなで、グリーンを連れとしあきは帰っていった。許せグリーン。生きてたら金平糖でもやる。
店に戻ると、フカミドリがこちらをじっと見ている。

「どうした、フカミドリ」
「テスー。ご主人様は虐待派なんテスか?」
「まあ、愛護派か虐待派かでいったら虐待派だな」

否定もせずに答える。

「わ、私たちを飼ってるのは……『上げ』なんテスか?」
「は? あぁ、としあきに言われたのか。心配するな。そんなことは思っていないさ」

フカミドリは安心して息を吐く。

「まぁ、おまえがいきなり糞蟲にでもなったら虐待するかもな」
「テスー!?」


そして現在に至る。
飼い主の事情は少しながらもあり、そのたびに俺はとしあきに実装石を渡している。
とりあえずまだ、渡した実装石たちがどうなったか聞いてはいない。


さて、今は飼い実装とその飼い主の話をしたが、客はそれだけではない。野良実装である。

ある日、俺はフカミドリ、キミドリに留守を任せ買い物に出ていた。
その帰り、店の前に野良と思われる実装石が数匹いた。

「おい」
「デスッ!?」

いざ店に入ろうとしていた大きめの実装石が驚きながら振り向く。
だが、俺がこの店の人とわかった途端、俺の前で偉そうに座り、「さぁ、早く美しい私と仔達を世話するデスゥ」と言った。

俺が今、一番気にしている問題がこれである。
どこで間違った噂を聞いたか、野良実装が時々、「私を世話しろ」とばかりにやって来るのである。
飼い実装の店と説明しても、諦めるのはごく一部。
そんなこと知らないと言う奴や、なら私を飼えと言う奴など様々である。

この野良実装たちを最初は追い払っていたのだが、
最近は『実装ネムリ』で眠らせて余ってるケージに入れておき、飼い実装と一緒にとしあきに渡している。
色んな虐待をしているらしいとしあきは、賢い実装から糞蟲まで引き取って金までくれる。
野良を渡すときは金は要らないと断ったのだが、気にせず置いていった。

またこんなこともあった。朝、やはり店の前に実装石がいたときだ。
そのときは追い払おうと思い近づくと、親実装と思われる実装は頭を下げて言った。

「私が食料を取ってくる間だけでいいデスゥ。この仔達を預かって欲しいデスゥ」
 
最初は仔達だけ渡していなくなる託児かと思った。
ただ、その時は預かり実装が一匹もいないで暇だったので、預かってみた。
そして昼ごろ、そいつはちゃんと戻ってきた。たいして入ってなさそうなビニール袋を引きずりながら。
ケージに入れておいた仔達を返す。親仔で抱き合った後、俺に礼を言い帰ろうとする。

「おい」

気まぐれか、貴重な親子愛があり約束を守った奴だったからか、
俺は店から実装フードを取ってきて、少しだけ親子に渡す。

「それだけじゃ足りないだろ。持ってけ」
「デェー。あ、ありがとうございますデスゥー」

親子そろってしつこいほどに頭を下げた後、親子実装は帰っていった。


野良実装で最高に変わった客がいる。いや、客とは言わないか。
そいつはある日、俺の店の近くで倒れていた。

大雨の中、買出しから帰ってきた俺は、店のすぐ近くに黒い何かが落ちているのを見た。
店に入りつつ、なんとなくそれを見て驚いた。黒い布をかぶった実装石だったから。
買い物袋を家の中に投げ入れ、俺はそいつを拾い、実装石用のドリンクを飲ませた。

さすがに実装石だけあって、すぐに回復した。(ん、これ前にも言ったような?)
そいつは俺たちを向き礼をした後、すぐに立ち去ろうとする。

「おいおい、起きたばかりでどこへ行く? 外は大雨だぞ」
「そうテスゥ。もう少し休んでいくテスゥ」

フカミドリも一緒に、そいつを引き止めるそいつは無言のまま、こちらに戻ってきた。

「すまんデス」

最初驚いたのは、そいつがマラ実装だったことである。
俺がフカミドリ、キミドリと一緒にそいつを洗おうとしたとき、羽織っている黒い布を取って気づいた。
マラ実装といえば性欲の塊で、他の実装をみればすぐに襲いにいくのが普通だ。
だがこのマラ実装は、フカミドリ、キミドリといても平然としている。

洗い終わり、夜、フカミドリ、キミドリが眠った後、そいつと話をした。
こいつはマラ実装のくせに旅をしているらしい。実装石の遅い足ではたいして進まないと思ったが、
どうやらかなり長く旅をしているらしく、色んな場所に行ってるという。
だが、うちの近くで空腹で気絶したらしい。賢いんだか、馬鹿なんだか。
性欲のことを聞いてみると、さすがにあるらしく、時々野良を襲っていると言う。
フカミドリたちを前に普通にしてたように見えて、結構我慢していたらしい。

次の日、前日の雨が嘘のように快晴な日。
そいつはうちから出て行った。だがこの辺りには来たばかりでまだしばらくいるとのこと。
本当に変わった奴だ。そいつの背中を見て俺は思う。
傷ついた身体と、羽織っている黒い布が厨二心にくる。

そしてそいつは、その後も時々うちに来るようになっていた。



実装ホテルの青年 客  完

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