タイトル:【虐?】 みんな実装石
ファイル:笛を吹くニンゲン.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:2218 レス数:0
初投稿日時:2010/10/06-22:29:41修正日時:2010/10/07-07:56:27
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 悪質な愛護派、悪質な虐待派。
 最近ではめっきり見なくなったが、いるところにはいる。そして、悪質という言葉通り
に、周りに迷惑をまき散らしていた。



「ほーら、実装ちゃ〜ん」
「デスーデスゥ」
「デッスデッスー!」

 金平糖を袋から豆まきのようにばらまく愛護派の女性。
 そして、それに群がり我先にと金平糖を頬張る実装石たち。



「ヒャッハー、死ね糞蟲ィ」
「デギャァァァ!」
「デヒャー!」
 バールを振り周り、逃げまどう実装石たちを追い掛ける虐待派の若者。
 L字の金属が振り回されるたびに、肉片が飛び散る。





 重度の愛護派と虐待派が入り交じった市の緑地公園。一日中実装石の悲鳴と歓声が響き
渡り、なんとも言えぬ実装臭が漂っている。しかし、それらを気にすることなく、愛護派
は実装石を甘やかし、虐待派は実装石を虐げる。

「はぁ……」

 三十歳ほどの眼鏡をかけた男。疲れた表情で公園の狂乱騒ぎを眺め、ため息をつく。
 この緑地公園を管理する環境整備課の職員だった。
 実装石のせいで、連日苦情が舞い込んでいる。愛護派と虐待派を追い払うために色々と
やってみたが、どれも一時的なものに終わった。

「仕方ない、かー」

 ふと顔を上げ、職員は頷いた。








 日が傾き、辺りが暗くなった頃。

 〜〜〜♪ 〜♪ 〜〜♪

 きれいな笛の音が公園に響いた。
 それほど大きくはないが、遠くまでよく届く。楽しげで優しい音色。実装石のせいで一
般人の寄りつかなくなった公園に、場違いに澄んだ笛の音が響き渡った。








「デッ?」

 一匹の実装石が囓っていた生ゴミから口を離した。これといって特徴も無い、どこにで
もいるような実装石その1である。段ボールハウスの中で夕食の最中だった。

 〜〜〜♪ 〜〜♪ 〜〜♪

 遠くから聞こえてくる、楽しげな笛の音。

「デ……? いい音デス〜」

 思わず耳を傾ける実装石。
 と同時に、気分が高揚してきた。心臓の鼓動が早まり、意識が軽くなる。笛の音を聞い
ているだけで、物凄くいい気分になっていた。まるで体重が消えてしまったような心地よ
さ。無意識に身体を動かし、リズムを取っている。

 そこで我に返った。

「これは、ご飯デス? これが、ご飯デス?」

 実装石は自分が持っている野菜くずに目を落とす。
 ゴミ捨て場から拾ってきた、生ゴミのひとかけら。実装石の食事としてはそれなりに上
等なものだが、決して立派なものではない。飼い実装などの食事に比べれば、文字通りゴ
ミである。高貴な自分が食べるには、明らかにクズな料理……。

「デシャァ!」

 湧き上がってきた怒りに野菜クズを放り捨てる。

「こんなの間違ってるデェス! こんな場所でゴミクズのような生活をするのは、絶対に
間違ってるデス! ワタシにはこの高貴な身に相応しい生活があるはずデス!」

 ひとしきり騒いでから、実装石は段ボールハウスから飛び出した。

 〜〜〜♪ 〜〜♪

 外に出ると笛の音はよりはっきりと聞こえる。
 怒りを忘れ、実装石は音色に聞き入った。

「いい音デス〜♪」

 明るく楽しそうで、それでいて優しく柔らい不思議な音色。流れるような美しい旋律。
この笛の音を聞いているだけで、得も言われぬ幸せな心地になってくる。この笛を吹いて
いる者はきっと素晴らしいヒトだ。
 そのヒトのところに行けば、きっと憧れの飼い実装になれる。いや、飼い実装石以上の
素晴らしいお姫様実装石になれる。なれるはずである。
 そんな確信が実装石にはあった。

「デッス〜ン♪」

 実装石は笛の音に引かれるように、歩き出した。








 遠くから聞こえてくる笛の音。

「駄目デス……。この音を聞いちゃ駄目デス——!」

 賢い実装石が一匹、段ボールハウスの奥で震えていた。外から聞こえてくる楽しげな笛
の音。聞いているだけで、気持ちよくなる。それと同じくして、この段ボールハウスにい
る自分が悲しいほど惨めに思えていた。

「ママ、一緒に行くテチ〜♪」
「ワタチたちお姫様になるテチ〜♪」

 仔実装二匹が外を指差している。笛の音を聞いた仔実装は、自分の置かれた状況に怒り
狂い、そして笛の音の元に行けば幸せになれると、希望に充満ちていた。既に幸せになっ
た自分の姿を想像し、元気にはしゃいでいる。

 悲壮から激怒、そして希望への変化。明らかにおかしい。
 丸まって震えながら、親実装は擦れ声で叫んだ。

「駄目デス……! 行っちゃ駄目デス!」

 この音に従っていれば、お姫様のような実装石になれる。幸せ回路によって作り出され
た結論は、恐ろしいまでに甘美だった。大皿山盛りの金平糖のように。しかし、親実装は
必死に耐えていた。

 〜〜〜♪ 〜〜♪ 〜〜♪

 聞こえてくる軽快な笛の音。
 目の前の美味しそうな金平糖は、猛毒かもしれない。猛毒でないわけがない。絶対に猛
毒である。でも、もしかしたら、美味しい金平糖かもしれない。美味しい金平糖だろう。
美味しい金平糖である。

「……デッ! そんなわけないデス!」

 ぎりぎりの理性で、親実装は身体を押さえ付ける。
 仔実装を引き留める余裕は無かった。

「ママは意気地無しテチッ! 糞蟲テチィッ」
「ママはここで惨めに暮らすテチ、ワタチたちはお姫様になるテチッ」

 そう吐き捨て、仔実装二匹は段ボールハウスを出て行く。

「テッチュ〜ン♪」

 仔実装は笛の音に合わせて歌っていた。楽しそうな鳴き声が遠ざかっていく。
 そうしてほどなく聞こえなくなった。導かれるままに行ってしまったらしい。

 〜〜♪ 〜〜♪

「ごめんデスゥ……」

 親実装は涙を流して謝罪の言葉を口にした。








 〜〜〜♪ 〜〜♪

「デッス〜♪ デッス〜♪」

 不器用なスキップをしながら、実装石が笛の音に導かれて進んでいく。
 暗い夜の公園に、場違いな笛の音が響いていた。聞いているだけで楽しくなる不思議な
音色。聞いているだけで疲れも何もかも全て吹っ飛んでしまう。

「デッデ〜♪ デッデ〜♪」

 近くの茂みから、一匹の実装石が現れた。
 お互いに顔を合わせてから、

 〜〜〜♪ 〜〜♪ 〜♪ 〜〜♪

「あなたもあっちに行くデス〜♪」
「お姫様になりに行くデス〜♪」

 満面の笑顔で頷き合う。普通の実装石が複数でいいものを見つければ、所有権を争って
罵り合いになったり、乱闘になったりする。
 しかし、この笛の音は違った。

 〜〜〜♪ 〜〜♪

「一緒にお姫様になるデス〜♪」
「デッスデッス〜ン♪」

 二匹は揃って、笛の音に導かれていった。








 公園の実装石の九割が、中央の広場に集まった。これだけ実装石が集まれば、些細な事
からケンカになったりするのだが、どの実装石も大人しくしている。そこにいる実装石全
てが、至福の笑顔を見せていた。

「いやぁ、みんーな、集まったーね?」

 奇妙な口調の男が、広場に立っていた。
 赤黄緑のカラフルな衣装を纏い、これまた赤黄緑のカラフルな羽根飾りを付けている。
頭には大きな三角帽子を乗せたピエロのような男だった。
 右手には銀色の横笛を持っている。

 笛吹男は腰の辺りで身体を真横に折り曲げ、左手を夜空に向けた。

「楽園にー、行きたーい、か?」
「デッス〜♪」

 実装石の元気な返事。

「じゃ、行くよー。ハ長調・楽園行深曲♪」

 そして、男は笛を吹き始める。

 〜〜〜♪ 〜〜♪ 〜〜♪ 〜〜〜〜♪ 〜〜〜♪ 〜〜♪

 行進曲のような軽快で明るい笛の音。
 笛を吹きながら、男は歩き始めた。








 派手な恰好をした男の後ろを、百匹以上の実装石が歩いていく。
 それは異様な光景だった。
 しかし、実質実装石に占拠された公園に、その姿を見る者はいない
 そして、行進を行う実装石が一匹ずつ減っているのにも、誰も気付かなかった。







「デッデッス〜♪ デッス〜♪」

 笛吹男に導かれるままに歩く一匹の実装石。

 これから訪れるであろう夢のような生活を頭に思い浮かべながら、手足を動かす。足を
動かしている感覚はなく、手を動かしている感覚もない。だが、感覚の無い手足を動かし
ひたすら前に進む。

 周りには何もない。
 男が消え、他の実装石も消え、木も草も無い、月も星も無い、何も無い暗黒の中を。

「デス〜♪ デッデス〜♪」

 何も知らず、幸せ回路を全開にしながら。








「デッス〜♪」

 笛吹男とその後ろを歩く実装石。

 最初は百匹以上いたというのに、今は一匹だけになっていた。その一匹も、身体が半透
明になり、空中に融けるように消えていく。しかし、実装石は気付かない。周りの仲間が
消えたことも、自分が消えかけていることも。

 〜〜〜♪ 〜〜♪ 〜〜♪ 

「デ……ス〜……」

 最後の一匹が消えた。

 〜〜〜♪ 〜〜♪

 笛を吹きながらしばらく歩いていた男。
 ふと笛から口を放し、

「みんな、楽園にはー行けたー、かな?」

 〜〜〜♪ 〜〜♪

 そして、再び笛を吹きながらどこかへと消えた。








 緑地公園から九割以上の実装石が消えた。

 一応、匿名の有志が駆除活動を行ったということになっている。市行政の仕事は汚れた
公園をきれいに掃除するだけだった。色々と不自然であるが、それを追求する者もなぜか
いない。なんにしろ実装石が激減したおかげで、愛護派も虐待派もほとんどいなくなり、
苦情も数えるほどに減っていた。

 しかし、完全に消えたわけではなかった。








「すいません、実装石に餌をやるのは禁止されていますので」
「実装ちゃんがお腹空かせてるんですよ!」

 職員の言葉に、ヒステリックに叫び返す女性。

 ばら撒かれた金平糖を、数匹の実装石が異様な表情で頬張っている。それは、実装寄せ
金平糖。特殊な甘味料と香料によって、実装石の食欲を刺激する一種の虐待道具だった。
しかも、通常ルートでは手に入らない超強力タイプ。

「そう言うなら、飼ってあげればいいじゃないですか。この子たちは賢いから、ブリーダ
ーに預けておけば、半月くらいで飼い実装証明書取れるますよ?」
「何言ってるのよ。実装ちゃんを人間の都合で拘束しちゃ、可哀想でしょ! こうしての
びのびと暮らすのが、実装ちゃんのためなのよ!」
「はぁ……」

 身勝手な言い分に、職員はため息をついた。
 つまり、実装石を無責任に甘やかせれば誰が困ろうと関係無いのだ、このニンゲンは。








「デギャァァァ!」
「テッテレー♪」
「テッテレー♪」
「テッテレー♪」

 強制出産で実装石の総排泄孔から、仔実装がこぼれ落ちる。地面に落ちた拍子に薄い保
護粘膜が破れて、手足を動かしていた。

「何してるんですか、あなたは……?」
「出産」

 バールを傍らに置いた不健康そうな男は、無愛想に答えた。

「せっかく減らしたのに、増やさないでください」
「チッ、鬱陶しいな」
「ヂュ」
「ヂュベ」

 男はバールを一振りし、生まれたばかりの仔実装を叩き潰した。ついでに、親実装も叩
き潰す。あっという間に親子七匹の死体ができあがった。

「これでいいんだろ? ったく税金泥棒が……」

 一度職員を睨み付け、男はバールを掴んでどこかへと歩いていった。
 残ったのは、血と糞にまみれた肉片。放っておけば強烈な腐敗臭を放つだろう。

「はぁ……」

 身勝手な行動に、職員はため息をついた。
 ようするに、実装石を殺せれば誰が迷惑しようと関係無いのだ、このニンゲンは。








 日が傾き、辺りが暗くなった頃。

 〜〜〜♪ 〜♪ 〜〜♪

 きれいな笛の音が公園に響いた。
 それほど大きくはないが、遠くまでよく届く。寂しげで物悲しげな、静かなリズム。実
装石が減り少しづつ一般人の戻ってきた公園に、澄んだ音色が響き渡った。








「今日も一日終わったデス」

 段ボールハウスの中、一匹の実装石が眠ろうとしていた。
 実装石が減り、暮らしやすくなった公園。残ったのは賢い個体だけだった。
 何が起こったのかはよく分からないが、競争相手が減ったことで生活にゆとりが出てき
た。これからしばらくは、安心した生活が送れるだろう。
 賢い実装石はそう考えていた。

 〜〜〜♪ 〜〜♪ 〜〜♪

 遠くから聞こえてくる、悲しげな笛の音。

「デ……? 寂しそうな音デス〜」

 思わず耳を傾ける実装石。
 と同時に、気分が落ち込んでいく。心が暗く冷たくなり、形容しがたい悲しさが胸を締
め付ける。笛の音を聞いているだけで、目から涙が溢れていた。

 そこで我に返る。

「ワタシは幸せデス?」

 実装石は暗い段ボールハウスを見回した。狭く冷たい段ボールの家。必死で集めた食事
はゴミや雑草。毎日必死に生き延びて、そのまま眠るだけの日々。いつかは人間に殺され
るか、野良犬や野良猫に戯れに殺されるか、病や怪我で苦しんで死ぬか。

 希望も何も無い未来……。

「辛いデス……」

 実装石は起き上がり、段ボールハウスから外に出た。

「こんな毎日、もう嫌デス……。早く楽になりたいデス……。でも、死ぬのは嫌デス、痛
いのは嫌デス、怖いデス……。ずっと、ずーっと眠っていたいデスー……」

 〜〜〜♪ 〜♪ 〜〜♪

 遠くから聞こえてくる、笛の音。寂しげで物悲しく、聞いているだけで涙が出てくる音
色だ。そして、聞いているだけでうっすら眠くなっていく。普段の眠りとは違う、深く安
らかな眠りの気配。
 この音の元に行けば、ゆっくり眠れる。辛い日々を気にすることもなく、空腹や恐怖を
考えることもない。母実装の胎内にいる仔のように、ただぐっすりと何も考えずに眠るこ
とができる。そんな確信があった。

「デッス……」

 実装石は笛の音に引かれるように、歩き出した。








 〜〜〜♪ 〜〜♪

「………デェ」

 寝ぼけたような足取りで、実装石が笛の音に導かれて進んでいく。
 暗い夜の公園に、場違いな笛の音が響いていた。聞いているだけで物悲しくなる不思議
な音色。聞いているだけで疲れが押し寄せ、目蓋が重くなる。

「デ〜……?」

 近くの茂みから、一匹の実装石が現れた。
 お互いに顔を合わせてから、

 〜〜〜♪ 〜〜♪ 〜♪ 〜〜♪

「デス」
「デス……」

 ただ無感情に頷き合う。賢い実装石が顔を合わせれば、何かしらの挨拶をして情報交換
を行うのだが、お互いにその気力も無かった。

 〜〜〜♪ 〜〜♪

「デ……」
「デッス……」

 二匹は揃って、笛の音に導かれていった。








 公園の実装石の全てが、中央の広場に集まってた。そこにいるのは、三十匹ほどの実装
石。ほとんどが成体だが、ちらほらと仔実装もいる。皆賢い個体だった。そして、そこに
いる実装石全てが、眠そうな顔をしている。

「いやぁ、みんーな、集まったーね?」

 奇妙な口調の男が、広場に立っていた。
 赤黄緑のカラフルな衣装を纏い、これまた赤黄緑のカラフルな羽根飾りを付けている。
頭には大きな三角帽子を乗せたピエロのような男だった。
 右手には銀色の横笛を持っている。

 笛吹男は腰の辺りで身体を真横に折り曲げ、右手を夜空に向けた。

「みんなー、ぐっすーり眠りたーいかい?」
「デー……」

 実装石たちの虚ろな返事。

「じゃ、行くよー。ホ短調・悠久夜葬曲」

 そして、男は笛を吹き始めた。

 〜〜〜♪ 〜〜♪ 〜〜♪ 〜〜〜〜♪ 〜〜〜♪ 〜〜♪

 静かで悲しげ、それでいて聞いていて落ち着くような笛の音。
 実装石たちは無言でその音色を聞いていた。








 派手な恰好をした男の笛の演奏を、実装石が聞いている。
 それは異様な光景だった。
 しかし、夜の公園にその姿を見る者はいない。
 そして、実装石が一匹ずつ減っているのにも、誰も気付かなかった。








「デェ……」

 安心したように身体の力を抜き、実装石が地面に倒れる。しかし、地面に身体をぶつけ
た痛みは無かった。手足の感覚もいつの間にか無くなっている。身体がふわふわと浮いて
いるような感覚。とても心地よい。

 ここはどこデス?
 ワタシは誰デス?
 ここで何してるんデス?
 デ……なーんか、どうでもいいデスー。
 ずーっとこうしていたいデ……ス、ゥ……

 周りには何もない。
 男が消え、実装石も消え、木も草も無い、月も星も無い、何も無い光の中で。
 実装石たちは安らかに眠り続けた。
 二度と起きる事もなく。








 〜〜〜♪ 〜〜♪

 笛を吹きながら佇んでいた男。
 ふと笛から口を放し、実装石の消えた広場を見渡す。

「みんな、おやすみー……」

 〜〜〜♪ 〜〜♪








 緑地公園から実装石が完全に消えた。

 一応、匿名の有志が駆除活動を行ったということになっている。市行政の仕事は汚れた
公園をきれいに掃除するだけだった。色々と不自然だが、それを追求する者もなぜかいな
い。なんにしろ、実装石が消えたおかげで、迷惑な愛護派も虐待派もいなくなり、苦情も
無くなった。

 それでも、完全に消えたわけではなかった。





「わたしたちの大事な実装ちゃんを返しなさい!」
「市行政の独断駆除に断固抗議します! こうなったら裁判ですよ!」
「お前ら、誰の許可取って駆除してるんだよ、オイ!」
「実装石殺せなねぇじゃねーか! どうしてくれるんだよ!」
「………」

 公園の正面広場にて、視察にきた職員に詰め寄る愛護派と虐待派。
 数は合わせて七人だが、全員揃って壊れた目をしていた。医者に言わせれば、実装石依
存症だろう。愛護型、虐待型の違いはあるが、実装石に魅入られてしまった人たち。しか
も、治療不能レベル。

 ただ一人やってきた職員は、呆れ顔で全員を眺めていた。幸か不幸か、周りに人の姿は
いない。つまりは、助けに入る人が誰もいないということ。

「何とか言えよオイ」
「実装石返せ! 実装石」
「実装石、実装石、実装石!」
「ジッソーセキ、ジッソーセキ、ジッソーセキ、ジッソーセキ!」

 なぜか始まる実装石コール。
 職員は呟いた。

「黙れ、糞蟲」

 低く唸るような声に、全員が声を止める。

 数秒の沈黙から、声が一回り大きくなった。

「あ゛? ケンカ売ってるのか、税金泥棒が!」
「侮辱罪ですよ、侮辱罪。弁護士に頼んで訴えます!」

 だが、愛護派虐待派に構わず、職員は左手を真上に振り上げた。そのまま身体を右に傾
けていく。両足を地面に付けたまま、頭を地面に向ける無茶苦茶な体勢。重心が足裏から
外れているはずなのに、なぜか倒れない。

 その異様な恰好に、騒がしかった男女が口を閉じる。

「あー。分かった、分かったーよ。君たち、実装石大好きーなんだねー」

 職員は満面の笑みを見せた。ピエロのような作り物めいた満面の笑み。見ているだけで
不安を覚えるような、不可思議な笑顔だった。
 奇妙な口調で、職員は続ける。

「いーや、話にーは聞いていーたけど、本当にいるとーは、思わなかっ、た。人間の振り
をーした、実装石。いや、自分を人間とー勘違いした、ジッソーせき」
「は?」

 誰かの呟き。

「うん。願いを、叶えよーう!」

 職員が跳んだ。

 無茶苦茶な姿勢から、人間の骨格と運動能力を無視した動きで跳び上がり、近くの外灯
の真上に降りる。高さ四メートルはある外灯の真上に、直立していた。

 その服装も背広姿から、奇怪なものに変わっている。

 赤黄緑のカラフルな衣装を纏い、これまた赤黄緑のカラフルな羽根飾りを付け、頭には
大きな三角帽子を乗せた恰好。
 右手には銀色の横笛を持っていた。

「じゃ、行くよー。変ホ長調・実装奇騒曲」

 そして、男は笛を吹き始める。

 〜〜〜♪ 〜〜♪ 〜〜♪

 激しく厳しく悲しく、魂を揺さぶるような曲だった。

 デギャァアァアッ!
 デェエエェェッ!








「おー、いなくなったと思ったけど、やっぱまだ残ってたか」

 静かになった緑地公園を歩いていた観察派の男。実装石の数が少なかった頃は、公園で
実装観察をしていたが、デタラメに増えてから近づかなくなっていた。実装石が完全駆除
されたと聞き、久しぶりにやってきたのだ。

「デスー」

 茂みの影にいた実装石が、近づいてくる。
 男はポケットから実装リンガルを取り出した。
 リンガルを見て、実装石が両手を振り上げる。

「デスデース、デースデス!」
『翻訳不能』
「あれ、故障?」

 表示された文字に、男は首を傾げた。相当無茶を言ってない限り、何らかの言葉を表示
するリンガルだが、実装石が何を叫んでも「翻訳不能」しか出てこない。
 実装石が枝を一本取り出し、地面に先端を押し付ける。

「デスデーッ!」

 何事かを言いながら、地面に何か描いている。のたくったような記号のような図形のよ
うな模様だが、それが何かは分からなかった。

「………。変な実装石だな?」

 観察派の男は、再び首を傾げる。








「……えっと、ふえふき、さん?」
「いえ、"うすい"です。"うすい"って読むんです! みーんな間違えますけど、私の名
字は"ふえふき"ではなく"うすい"です。笛吹って書いて"うすい"って読むんですよー!」

 市役所で行われたそんな会話。


  END


 過去スク

2190.【虐】究極のプニプニ
2172.【観】禁忌の実験
2169.【観察】ある獣装石の一生
2167.【虐】つまようじ
2157.【実験】姉妹のジレンマ
2152.【虐】しまっちゃおうねー?
2147.【馬虐】最強の虐待法
2142.【パ・色々】刈り取るモノ
2141.【馬】最強の実装石
2138.【観怪】〈紫〉歩き回る刃物
2129.【観虐】昆虫採集瓶
2127.【観察】実装ショップで買い物 
以下省略


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