昨日まで散々可愛がった仔実装のピチを今日から無視することにした。 そろそろ「上げる」のも飽きてきたところだった。 ピチももうすぐ中実装になる。可愛い盛りは卒業だ。 次の実装石を仕入れる前に、ピチには面白い最期を楽しませてもらおう。 準備は昨日のうちに仕込んだ。 総排出口を瞬間接着剤で止めておいた。 これで泣こうが喚こうが癇癪おこそうがピチが糞を漏らす心配は無い。 「テチュゥ!」 仕事から帰ると玄関でピチが待っていた。 こいつは毎日こうして俺の帰りを出迎えるために玄関で張っているらしい。 しかし帰宅しても声はかけない。完全無視でピチの横を通り抜ける。 いつもはここで優しく抱き上げてやるのだが、今日からは違う。 「テチー?」 ピチが鳴くが知らん顔。 「テチャテチャー」 ピチが追ってくるがやはり知らん顔。 服を着替えてる俺の足元でピチが擦り寄ってきた。 「テチューテチュー」 軽く蹴り。転がっていくピチ。 この辺までくると邪険にされてるのが分かってくるのか、ピチの様子も変わってくる。 「テェェエン、テェエン」 尻餅をついたままピチは泣き出した。 それでもやっぱり無視なのだ。 俺はクルリと踵を返し、ピチとは逆方向の冷蔵庫へ向かう。 麦茶を取り出すと軽く一杯。 その間、ピチは座り込んだまま泣き続けていた。 「テェェェーン!テェェェーン!」 そんなのお構いなしに俺はソファーに座るとTVをつける。 ピチはしばらく座り込んで泣いていたが、らちがあかないことに気づいたのか、 俺のそばへ近づいてきた。 ソファーに登り俺の腿に擦り寄ってくる。 「テチューテチィー」 そこでピチを引っ掴む。 軽くぽいと放り投げるとまたもやピチは転がっていった。 「テチャー!」 もんどりうって尻餅をついたまま呆然としているピチ。 しばらくすると激しく泣き出した。 「テチャーアアン!テチェーエエン!」 そんなの放置。今日からは無視すると決めている。 ピチも座り込んでややしばらく泣き続けていたが、 やっぱり諦められないのか、やにわに立ち上がった。 「テッチューン!」 こちらに向かって駆け寄ってくる。 そこを掴んでまた放る。 3度目の転がるピチ。 それでもピチはめげなかった。 「テチュー!」 すぐに起き上がるとすぐさま俺に向かって駆け寄ってきた。 昨日までの自分の定位置だった俺の膝の上に執着があるらしい。 しかしやっぱり途中で掴んで投げられるのだった。 駆け寄る。 投げられる。 駆け寄る。 投げられる。 何度も繰り返してピチは俺の膝の上に上ることは不可能だと悟ったらしい。 投げられた先で蹲ると、ひときわ大きな声でまた泣き始めた。 「テェェェーン!」 「テェェェーン!」 「テェェェーン!」 それでも俺は相変わらずの無視。 分かっているのだ。 この泣き方が俺の注意を引こうとする、わざとらしい嘘泣きだということは。 時折、ちらっちらっとこちらの様子を伺っているピチ。 そんな茶番には付き合わない。 今日からガン無視するというのは決定事項だ。 じき、嘘泣き作戦も通じないことがピチにも分かってくる。 「テチュ…」 こちらを見つめてべそをかいているピチ。 先ほど程の勢いではないがことらに近づいてきた。 ソファーの傍までやってくると、 「テッチューン♪」 と媚びた。 「テチュテチューン♪」 さらに媚びた。媚びまくりだった。 右手だけじゃなく両手を頬にあて媚びてきた。 だからどうした、それがなんだ。俺の答えは無視しかない。 視界の端で仔実装がくねくね媚びるのを確認しながら、俺は黙ってTVを見ていた。 媚び作戦は失敗に終わった。 肩を落としてうなだれるピチ。 弱弱しい足取りで俺に近づいてくる。 そこで俺の掴みの間合いに入った。間髪いれず引っ掴み、俺はピチを放り投げた。 またもや転がっていくピチ。 「テチュ…」 こちらを潤んだ目で見つめてくる。 そんなに見つめられても対応を変える気はない。 ピチがまた近づいてきた。 一定の距離まで来ると立ち止まる。 「テチュン♪テッチュン♪」 今度はへんてこな歌声とともに踊りだした。 歌と踊りで関心を引こうってか。考えが単純すぎる。 ピチはこちらの様子を伺いながらテチテチ踊っている。 そんなのに付き合う気は無いから俺は立ち上がった。 「テチ!」 踊りに反応してくれたと勘違いしたピチが歓声をあげたが、 俺はその横をスルーして風呂場へ向かった。 「テッチ、テッチ」 ピチが俺の後を追い、風呂場に入ってくる。 また軽く蹴り。ピチを追い出す。 「ティエーン!テェェーン!」 風呂場のドアをポフポフと叩き、ピチが大声で泣いた。 曇り硝子の向こうに小さな影が写りせわしなく動いていた。 ピチにとって風呂は大好きなご主人様と一緒の楽しいお歌タイムだ。 何より大切な楽しいイベントから締め出され、ピチは必死になって泣いた。 中にいれて欲しい、いっしょに歌いたい、と懸命に泣いた。 「テェエエーン!テェエエーン!」 ピチがドアを叩き続ける。 だがその小さな音は水音にかき消され俺の耳には聞こえない。 とうとう、ピチのためにドアが開く事はなかった。 風呂に入ってからの晩酌を一杯。 また俺はTVを眺めていた。 そこから少し離れてピチが泣きながら下手くそな踊りを踊っている。 「テチーン♪テチーン♪」 俺の反応はやっぱり無視である。 夜も遅いのでそろそろ寝ることにした。 ベッドへ向かうと、同方向にいるピチは、自分に近づいてくると勘違いして喜びの声を上げた。 「テッチューン♪」 しかしぬか喜びしているピチの横を通り過ぎ、 タンスからパジャマを取り出し、俺はピチを寝室から蹴り出しながら着替える。 「テェッ!テェッ!」 俺の蹴る足にしがみつこうと躍起のピチ。 だが仔実装一匹振りほどくのにどれほどの苦労があろうか。 たやすくピチは転がっていく。 「テェッ!テェッ!テェエエーン!」 俺は布団をめくるとベッドに入った。 昨日まではピチが一緒に眠っていたが今日からは気楽な独り寝だ。 ピチ用の小さな枕を放り出し、俺は眠りにつこうとした。 「テチャチャ!テチャチャ!」 うるさい。 また駆け寄ってきたピチは投げ捨てられた自分の枕を抱きかかえると、 自分もベッドに入ろうと脇で飛び跳ねている。 「テチャッチャー!テチャ!」 仔実装のジャンプではベッドのふちにも届かないんだけどな。 「テェェーン!テェェーン!」 自分も入れろと、ピチが飛び跳ね、ベッドの足をポフポフと叩いている。 しかし、ピチのけたたましい泣き声を遮るため、ヘッドホンで耳を塞ぐと俺は眠りに落ちていった。 翌朝、俺が目覚めるとピチは泣き疲れたのだろう、ベッドの傍らで枕を抱きかかえて眠っていた。 頬に涙の跡がくっきり残っている。 そんなピチをまたぐと、俺は朝の支度と食事の準備をする。 しばらくすると物音にピチが目をこすりながら起きてきた。 「テッ!テッチューン!」 俺の足元めがけ駆け寄ってくる。 今日は少し強めに蹴った。ピチが宙を飛んでいく。 跳ね飛ばされ転げた先でピチはこちらを見つめて泣いた。 「テチュ…」 自分の枕を拾うと顔を押し当て泣いている。 何度も蹴り飛ばされて気力が萎えつつあるのだ。 俺が朝飯をとっていても近づいてねだったりはしなくなった。 じぶんが嫌われていると理解できてきたのだろうか。 食器を片付ける俺の足元にきてピチが小さく鳴いた。 「テェエ、テチュ…」 えさが欲しいようだ。しかしそんなものは用意していない。 おれは無視した。 「テェ!テェエ!」 ピチが地団太を踏んで癇癪を起こす。それでも対応は無視。 さっさとピチの脇を抜けて仕事に向かう。 地団太に夢中でこちらに気付き遅れたピチがあわてて追ってくるがもう遅い。 ピチの目のまえで玄関のドアは閉まり、俺は仕事に向かった。 かすかな泣き声とドアを叩く音が聞こえた。 仕事が終わって帰宅するとピチは居間に寝転んでいた。 俺を出迎えるのは止めたらしい。 俺の姿を認めるとプイとそっぽを向いた。無視し返しているつもりらしい。 ちょうどいいのでそのまま放置しておくことにした。 そのうち、ピチはお気に入りの人形をもってきて、わざとらしくままごと遊びを始めた。 時折こちらの様子をチラチラ見ているらしく、独り言を言って気を引こうとしている。 「テチーン、テチュー」 「テテチュ、テチュウ」 バカめ、こっちに意識が向いてるのがばればれだ。 「テチュ♪テッチュウ♪」 わざとらしく楽しげな声をあげているがそれも最初のうちだけ。 すぐに飽きて俺のほうをチラチラ見てやがる。 それでもしばらくすると自分の作戦を思い出したのか、楽しく遊んでいるフリに戻る。 「テチュー、テチュー」 「テッチーン…」 「テェ…」 しかし集中力はなかなか続かない。 わざとらしい歓声は途切れ途切れになり、とうとうピチは人形を放り出した。 今は俺をじっと見つめてるようだ。 放置して一時間、仔実装にしては良く持ったほうか。 しかし俺はTVを見ていてピチには視線すら向けない。 「テェ…テェ…テエエン」 ついにピチは泣き出した。 「テェエエーン!」 すっくと立ち上がると俺めがけて駆け寄ってくる。 訴えようとするのは思慕の念か、怨みつらみか。 しかし俺の近くに来た途端に、跳ね飛ばされた。 もちろん俺が平手で弾いたせいだ。 転がっていった先でピチが立ち上がる。 「テッチー!」 威嚇のような激しい鳴き声、ピチは長く続く無視に、どうやら怒り心頭らしい。 その場でパンツを脱ぐと踏ん張り始めた。 トイレ以外の場所での排便はきつく禁じてある、それをあえて破ると言うことは、 飼い主の俺に対する挑発のつもりであろう。 だが、そんな手口など読めている。 とうにピチの総排出口は瞬間接着剤で固めてある。 もうピチが糞をたれることは一生出来ないのだ。 飼い主の庇護を失った孤独な仔実装の一生が、あとどれだけ続くかは知らないが。 「チュウウ…テチュウ…」 ピチは俺の無常な扱いに一矢報いるべく、必死に脱糞に勤しんでいる。 しかし、カッチリ固めた工業用接着剤はピチの尻の穴を完璧に塞いでいた。 「テッチャー!チュアー!」 雄たけびをあげて排便を目指すピチ。 無駄だ、無駄だっての。お前は死んでも糞は出せないよ。 「チュアー!チュワワー!」 額に青筋を立ててピチは踏ん張る。踏ん張る。 なかなか凄い頑張りようだ。 少し感心する。 一瞬、ピチを放置するという当初の目的を忘れるところだった。 しかし結局、ピチの努力は当たり前だが徒労に終わった。 尻丸出しで荒い息を吐きながら転がっているピチ。 無視自体は続行だが、今回俺を挑発しようとしたペナルティは受けてもらおう。 俺はピチの傍に近づく。 「テチューン♪」 作戦が功を奏したと勘違いしたピチが、またぬか喜びの鳴き声をあげた。 俺はピチが脱いだパンツを拾い上げた。 そのまま背を向けるとテーブルに戻る。 目的はテーブル上にある灰皿だ。 パンツを取り上げられたピチがあわてて後を追ってくる。 「テッチャー!チュワー!」 飛び跳ねるピチの目の前でパンツに火をつけてやった。 小さな白いパンツは見る見る灰に変わっていく。 「テェエエーン!」 ノーパンのピチが泣き叫んだ。 しかしパンツは灰皿の上ですっかり消し炭と化していた。 ピチがテーブル傍で飛び跳ねている。 「テェェエン!テェェェン!テェェェーン!」 これまでにない激しい泣き方。 大事な財産を奪われた。 信じていた相手に焼かれた。 今まで優しかったのに。 どうして急に冷たくなったの。 どうして急に酷いことするの。 リンガルを使えばきっとそんなことを言っているのだろう。 今までの実装石達はみんなそうだったから、おそらくはコイツもそうだ。 今までのピチ達はみんなそうだった。だから今度のピチもそうだ。 「テェェェン!」 激しく泣くピチを蹴り転がして隣の部屋に戻す。 だれが近づいてきていいと言った。 「テェェエン!テェエン!」 何度も蹴られたピチは蹲って泣いている。 そんなこと知ったことか。どれだけ泣いてもあとは放置だ。 もはやピチが得るものは何も無い、愛情も財産も失うだけだ。 その晩もピチの泣き声がうるさかったのでヘッドホンを耳栓代わりに寝た。 翌朝、食事を用意していると、いつの間にやらピチがすぐ足元まで来ていた。 「テェェ…」 小さな声で鳴く。空腹なのだ。ピチにはもう丸3日エサを与えていない。 だが俺の返答は無視と決めてある。 「テチュ…テチュ…」 涙を浮かべて俺の足にすがり付いてきた。 しかし俺はそれは蹴り、振りほどく。 「テェエーン…」 転がっていった先で蹲るピチ。 それを無視して俺は自分の分の食事を食べた。 背後から媚びる声が聞こえてくる。 「テチュン♪…テチュン♪」 俺はピチの必死の媚を黙殺し続けた。 4日目になった。 帰宅すると、ピチは居間の床で蹲っていた。さすがに元気が無い。 だがそんなのは想定済みだ。ウチでは今まで何匹もの実装石が通ってきた道。 対応は無視だ。 ピチは眠っているらしい。 しばらくすると目を覚まし、俺が帰宅してた事に気づいたようだ。 「テテチュ!」 俺を見つけるとヨロヨロと立ち上がり、また媚び始めた。 しかし近づいてはこない。 近寄ると蹴り飛ばされるということは学習したらしい。 「テッチュウ♪テチュウ♪」 目は涙で潤んでいるのに、ことさら陽気な声を上げてピチは懸命に媚びた。 右手を頬にあて、くいっと首をかしげるポーズ。 両手を頬にあて、左右に首をふるポーズ。 丈の短い実装服からはノーパンになったピチの股間がちらちら見える。 その見苦しさに俺は少し眉をひそめた。 とはいえピチも必死なのだ。このままいくとそろそろ餓死が近い。 なんのサービスのつもりなのか、ピチは踊りながら自分で服の裾をめくり始めた。 乳首が見えるまで服をたくし上げ、腰をふりふりと懸命に振る。 「テッチュ〜ン♪テッチュ〜ン♪」 今までの可愛さを売りにした踊りではなく、セクシーさがメインらしい。 あくまで本人がそのつもりというだけで、実態は単に見苦しいだけなのだが。 心情的に追い詰められて必死なのは分かるが、考え方が斜め上だ。 付き合うのもアホらしいので、俺はTVに視線を移す。 「テ、テチュ〜ン」 俺の視線が合わなくなったのにあせったらしく、ピチが視界に割り込んできた。 TVの台の前に駆け寄ってくる。 「テチュン、テチュン」 ピチは小さいのでTVを見るには妨げにはならないが、 視界の下でちょろちょろ動くのは意外と目障りだ。 そして目障りダンスも佳境に入ってきたようだ。 服を捲り上げ尻を丸出しにし、四つんばいになって大きく振る。 「テチューン♪テチュフフーン♪」 股を大きく開き、股間をさかんに手でこする。 「テッチュ!テッチュ!テッチューン!」 気持ち悪い。 こんなチビのくせに、この色気づき方は何だ。 自分の色気で俺を篭絡しようとでもいうつもりか。バカすぎる。 こっちが無視してる限りこのバカ踊りはいつまでも続くだろう。 どうしようもなく不快になったので、手元にあったビールの空き缶をぶつけてやった。 缶はピチの尻に命中した。 「テチィ!」 ピチはつんのめりTVの台に顔面からぶつかった。 「テチュ…」 こちらを振り返る目には涙がにじんでいた。 缶をぶつけられた痛みか、作戦失敗の悔しさか、あるいはその両方か。 仔実装の分際で色仕掛けなど論外だ。馬鹿者め。身の程を知れ。 だがこれは、ピチとしては最後の切り札のつもりだったらしい。 ぺたりとその場に座り込むと呆然としたまま、涙をほろほろとこぼす。 「テェ…、テェ…」 呟くような小さな泣き声が聞こえる。 それはそうだ。 ピチにはなんの落ち度もない。 俺に拾われ躾けられ、その期待に応えようと必死に生きてきたのだ。 そして俺も大切にピチを可愛がってきた。 それがある日突然俺に無視され蹴られ、食事も与えられなくなった。 ピチとしてはいったい何が起こったのか見当もつくまい。 だが、俺の飼い方とはそういうものなのだ。 急に愛情から引き剥がされた、惨めな仔実装を見るために飼っているのだ。 仔実装は可愛らしくて好きだが、それ以降の成体はいらない。 そして、仔実装が突然飼い主から邪険に扱われ、 混乱して惨めに右往左往する様が何より可愛いと俺は思う。 だから俺は代々のピチを飼って来た。 今回のピチは…まぁ合格だ。 足りない頭で必死に考え、媚も一辺倒でなく、あれこれ手を変え品を替え頑張っている。 もう十分にピチの愛情を求める真摯な姿は堪能した。 あとは餓死を目前にどれだけ切ない表情を見せてくれるか。 今までの経験上、ピチはあと3日はもたない。 残り少ない命をどう可愛らしく散らせてくれるか。 俺が求めているのはそれだけだ。 それからのピチは静かだった。 体力が落ちてきたのもあるが、 おそらく切り札のセクシーダンスが不評だったのがショックなのだろう。 じっと床に蹲り、時折、 「テェェ…、テェェ」 と小さく呻く。 もうピチは俺の後を追わない。俺の視線も追わない。 楽しかった時期は過去のもの。 飼い主に嫌われたと自覚できたのだろう、もう俺に愛想をふりまくことも無くなった。 その日のピチは夜中に泣くこともなく、俺はヘッドホン無しで眠ることができた。 翌日、起きるとピチの姿が部屋に無かった。 玄関からかすかな音がする。 行ってみるとピチが玄関のドアをぽふぽふと叩いていた。 俺に気づくとピチは動きを止めた。 あいかわらず泣いている。涙垂れ流しだ。 「テチュ」 俺を見上げ、ピチはドアをまた叩き始めた。 どうやら外に出たいらしい。 これ以上、俺のもとにいても無視されるだけと悟ったようだ。 自分が餓死する前に、新天地を求めて外に行こうというつもりか。 今までの奴らは最後まで俺への依存が消えなかったが、今回のピチは違うようだ。 今までろくに外など出たことの無いピチにとっては一大決心なのだろう。 涙を滲ませながらも目には俺への決別を決心した、強い意思の光がある。 「そうか、なら好きにしな」 俺はピチを外に送り出すことにした。 もうピチは俺の所有物であることを止めている。 そんなピチを無視してもつまらない。 俺はドアを開けてやる。 ピチは俺に向かって深々と頭を下げた。 「テチュン」 ピチがドアをくぐる。 一度だけピチはこちらを振り返った。 大粒の涙を溢れさせピチは静かに泣いていた。 この数日は無視されたものの、それ以前の生活はピチにとって理想的なものだったに違いない。 楽しかった思い出を引きずりながら出て行くのは辛いのだろう。 玄関のドアからとぼとぼとピチが少しづつ遠ざかっていく。 何処へ行くつもりなのだろう、行くアテもないだろうに。 小さく震える背中を見送りながら、俺は多少のセンチメンタリズムに浸っていた。 次の瞬間、黒い塊が上空から飛び出して来た。 カラスだ。 カラスがピチの頭をかすめ一端飛び去る。 そしてまた飛来。 「テッチャー!」 突然の襲撃に驚いたピチがひっくり返った。 そこに再度カラスが襲い掛かる。 太いクチバシでピチの頭を乱暴についばむ。 「チュワ!チュワー!」 ピチはパニックを起こしている。生まれて初めて外敵の脅威に晒されたのだ。 実装石には身を守る爪も牙もない。 地上に降りたカラスがピチを弄ぶように突きまわす。 手足をついばまれ、腹にクチバシを突き立てられピチが泣き叫ぶ。 「テチャー!テッチャー!」 早朝の住宅街に狂ったようなピチの絶叫が響いた。 カラスに襲われながら、ピチは俺を見ていた。 俺のほうへ向かって這ってきた。 「テチィ!チィチィー!」 俺に助けを求めていた。 ダメだよピチ。決心して俺の元を出て行ったんだろう? おまえはもう他所の子だ。 出て行くという選択はこういう目に遭う危険も含まれるのだ。 ピチが背中にクチバシを刺され、肉が引き剥がされるところを見たところで、俺はドアを閉じた。 「テッチャーン!」 それから15分ほどピチの悲鳴は聞こえていた。 出勤時に玄関前を確認すると、地面には赤緑の血に染まったピチの頭巾だけが落ちていた。 その小さな頭巾を拾うと、俺はそれをポケットにしまった。 仕事からの帰宅すると、自宅のドア前に見知らぬボロボロの仔実装がいた。 ハゲハダカで左腕も無く、身体中にカラスにでもついばまれたような傷がある。 懸命にドアを叩いていたが、俺の顔を見ると媚びてきた。 「テッチュ〜ン♪」 邪魔だな。 俺はその見知らぬ仔実装を踏み潰した。 足の裏にへばりついた汚い死骸を地面にこすり落としながら、 俺は場違いにも「ありがとうご主人様」という言葉を思い出していた。 終わり ======================================= 以前スレ投下した短編を手直ししてみました。 突っ込みのあった矛盾点を解消してあります。 が、それでも突っ込みどころはあると思います。

| 1 Re: Name:匿名石 2014/10/11-14:16:05 No:00001456[申告] |
| いろいろと可愛くて不憫で酷い話である |
| 2 Re: Name:匿名石 2014/10/11-21:52:55 No:00001457[申告] |
| カラスが飽きるか逃げるのに成功したのか頭巾を落としてその場を去ったんだろうなあ
腕や禿裸はおそらく他の野良からの襲撃 でも、家を出ていくってそういうことなんだよなあ |
| 3 Re: Name:匿名石 2016/03/13-14:55:58 No:00001979[申告] |
| この話好き
超絶ウザい構ってちゃんの権化こと仔実装を無視したおすの気持ちいい |
| 4 Re: Name:匿名石 2016/03/13-23:04:59 No:00001981[申告] |
| 内容的には最高なんだけど、個人的にオチはパキン死がよかったなあ
蛆以上はなかなかパキンしないみたいだけど それはそうと、スクでよく見かける「総排泄口を瞬間接着剤で塞ぐ」って実際にできるのかね? どんな感じで塞がってるのか知らんけど、湿り気のある粘膜なら 糞の圧力でたやすくパリっと剥がれちゃいそうな気がするんだけど |
| 5 Re: Name:匿名石 2016/03/14-02:16:43 No:00001982[申告] |
| 総排泄口を塞いだら口から出るんじゃね?
それとも鬼太郎の見上げ入道みたいに、りきんだら目玉が飛び出したとか構造的にどうなってんだ?みたいな展開でもw |
| 6 Re: Name:匿名石 2016/03/14-08:22:43 No:00001983[申告] |
| 普通の哺乳類とかなら瞬間接着剤はムリっぽいけど
実装はウレタンボディという設定があるのでガッチリくっつくのかもね |
| 7 Re: Name:匿名石 2016/03/14-23:38:44 No:00001986[申告] |
| 人間に依存する実装石をもっとしばこうよ〜。 |
| 8 Re: Name:匿名石 2016/03/15-20:03:15 No:00001989[申告] |
| 人間に依存する実装石をもっとしばこうよ〜。 |
| 9 Re: Name:匿名石 2020/12/29-08:40:31 No:00006304[申告] |
| 何度読んでも良い |
| 10 Re: Name:匿名石 2023/06/16-05:08:53 No:00007299[申告] |
| ニンゲンが糞蟲だった |
| 11 Re: Name:匿名石 2023/06/18-13:35:50 No:00007315[申告] |
| 最初から全然無視してないけど面白い |
| 12 Re: Name:匿名石 2023/06/29-02:45:34 No:00007384[申告] |
| むしろこの男が実装石に依存してる |
| 13 Re: Name:匿名石 2023/08/15-17:45:49 No:00007786[申告] |
| 虐待とは思えない
中実装だろこれもう 成体飼い実装になるなら、これぐらいやられてコビず普通の対応しないと 最後だけそれらしいことしたが 昔の作品なので実装石に対する作者の考えも違うのかもしれないが 実装も飼い主も糞蟲 |
| 14 Re: Name:匿名石 2023/08/15-19:32:33 No:00007788[申告] |
| 懐かしいなこれ
やっぱ色褪せない名作だ |
| 15 Re: Name:匿名石 2023/08/30-22:28:11 No:00007911[申告] |
| 無視ってなんだろう…? |
| 16 Re: Name:匿名石 2023/08/31-06:51:19 No:00007913[申告] |
| カラスに襲われても生き残るガッツに乾杯
踏み潰されちゃったけど… |