白保市の郊外に大きな空き地があった。 その空き地には実装石が居着いている。 「テッテレ〜♪」 「テッテレ〜♪」 空き地の水場にて、一匹の実装石が出産をしていた。 仔は六匹。数や体格、賢さともに普通である。保護粘膜を舐め取られて仔実装となり、 それぞれテチテチと元気に鳴いていた。 「元気な仔たちデスー」 親実装は仔実装を眺め、気付いた。 一匹変な仔実装が混じっている。背丈は普通だが、やや身体が引き締まっていて、手や 足に茶色い毛が生えていた。いわゆる獣装石である。 「ケモノ石デス……」 親実装は仔獣装を見つめ、一度小さく頷いた。 仔実装が生まれて十日が経つ。 「コンペイトウとステーキ持ってくるテチッ」 「持ってくるまで帰ってくるなテチ!」 「手ぶらだったらお仕置きテチ!」 口々に好き勝手な事を言う姉妹。 「テェェン……」 姉妹に追い立てられ、仔獣装が段ボールハウスを後にする。 仔獣装はその外見から恰好の標的となり、姉妹から虐げられていた。 無理難題を言いつけ、それが実行できなかったら、お仕置きと称して殴る蹴るの暴行。 仔獣装が姉妹から受けていた虐めだった。親実装に言っても何もしてくれず、告げ口した と姉妹からまた虐められる。 どこにも味方はいなかった。 金平糖とステーキを持ってこい。 そんなことができるはずもなく、仔獣装はあてもなく歩いていた。このまま帰ればリン チされるのは確実だ。かといって、そんなご馳走を手に入れることはできない。 不幸なことに、仔獣装は少し賢かった。 「ん、獣装石か? 珍しい」 「テ?」 いきなり聞こえた人間の声に、仔獣装は立ち止まって顔を上げた。 背の高い人間が立っている。背が高いと言っても、仔獣装視点で高いだけで、ごく普通 の成人男性である。外歩き用の服装で、右手にはデジカメを持っていた。いわゆる観察派 である。 男はデジカメをポケットにしまい、リンガルを取り出し、仔獣装の前に屈み込んだ。 「どした、お前?」 「ふーん。そりゃ大変だな」 「酷いテチィ……」 仔獣装は泣きながら、姉妹のいじめを告白した。親実装も助けてくれず、ただ虐げられ る日々。このままでは死んでしまうと。実際今のまま仔たちが育ったら、仔獣装は成体に なる前に殺されてしまうだろう。 「お前の手」 男が人差し指で仔獣装の手を示した。 「テチィ?」 仔獣石は自分の手を見る。茶色の獣毛に覆われた小さな手。先端からは爪が四本生えて いる。姉妹に虐められるのは、その毛や爪のせいだと、仔獣装は理解していた。 男は近くに生えていた草に指を向け、 「その爪、あの草に思い切り叩き付けてみろ」 「テェ?」 仔獣装は男の示した草に目を向ける。 仔獣装の二倍くらいの丈がある草だった。一本の太い茎に、三角形の葉っぱが沢山くっ ついている。仔獣装も人間の男も名前は知らないが、シロザという草だ。 訳が分からず、仔獣装は男を見上げる。 「何でテチ……?」 「やれ」 低く唸るような男の声に。 「テェェン……」 仔獣装は泣きながら草に近づいた。反論することはできない。逆らったら酷い目に遭わ される。相手は人間だ。姉妹のいじめよりも酷い事をされるだろう。 「思い切りだぞ。手抜いたら殺すからな」 「テェェン!」 仔獣装は右手の爪を泣きながら思い切り草に叩き付けた。 サクッ。 草の茎が切れる。 「ただいまテチー」 仔獣装は段ボールハウスへと戻った。 今までの虐められていた仔獣装とは思えない、自信に満ちた姿である。観察派の男の助 言によって、仔獣装は獣装石として覚醒していた。獣装石特有の力や俊敏性、持久力、頑 丈さ、爪や牙の切れ味、それらをしっかりと自覚する。 「コンペイトウはどうしたテチ?」 「ステーキとケーキとお寿司はどうしたテチ」 姉妹が騒がしく訊いてきた。出掛ける前よりも注文が増えている。 「そんなものあるわけないテチ」 自分を見つめる長女たちを見返し、仔獣装は小馬鹿にしたように答えた。明らかに弱い ものを見下す目付き。今まで仔獣装が向けられていた目付きである。 その態度に、長女が顔を歪ませる。 「お前、生意気テチ! お仕置きテチッ!」 シャッ。 爪が一閃。 飛び掛かった勢いから一転、長女は段ボールの床に倒れた。顔の左半分から左胸にかけ てを大きく切り裂かれて。傷口から血が流れ出している。 「テ……? テェ?」 いきなりの事に混乱している長女。左目が潰れて身体に傷ができているが、命に別状は ない。大人しくしていれば、一日で消えるような傷だ。 「お前、何したテチ!」 「こんなことしてタダで済むと思ってるテチか!」 残った四匹が、殺気立った目付きで仔獣装を睨み付ける。ドレイである仔獣装が、いき なり主の一匹である長女に逆らった。残った姉妹はそう考えている。 「お仕置きできるものなら、やってみるテチ〜♪」 仔獣装は両手を持ち上げた。 「………」 襲いかかった姉妹たちは、噛み付かれ引っ掻かれ、殴られ蹴られ、ボロボロになって倒 れていた。髪や服も半分近く毟り取られている。一方的な蹂躙。全員倒されるまで、一分 もかかっていない。 全員残らず仮死し、意識のある者はいなかった。 「弱いテチ……。弱すぎるテチ」 仮死した長女の上に立ったまま、仔獣装は自分の強さに驚き、同時に姉妹の弱さに呆れ 返っていた。仔とはいえ覚醒した獣装石とただの実装石。その力の差は歴然である。 「ワタチは……情けないテチ……」 そして、今までこの弱い相手に虐げられていた自分の情けなさが身に染みる。 「お腹いっぱいテチ〜」 長女の上に座り、段ボールハウスの奥にしまってあった保存食を食べ尽くす。今までま ともに食事すら貰えなかった仔獣装は、生まれて初めての満腹感を味わっていた。 お腹をさすって幸福にひたっていると、親実装が餌を取って戻ってきた。 「デッ、これは何デス……! どうなってるデス」 ハウス内の惨状に、ビニール袋を取り落とす。 仔獣装は自分の胸を叩き、言い切った。 「ワタチがやったテチ。みんなワタチを虐めるから、仕返ししたテチ!」 「保存食が何やってるデスゥゥ!」 親実装が叫ぶ。 「保存、食……テチ?」 予想外の言葉に、仔獣装は胸を叩いた手を落とした。 保存食。ご飯が食べられない時のためにしまっておく日持ちのする食べ物。その程度の 知識は、仔獣装にもある——とういか、ついさっきまで食べていた。箱の上に仔実装では 動かせない石が乗っていたが、仔獣装の力ならそう苦労せずに動かせた。 それは今はどうでもいい。 「ワタチのことテチ?」 呆然とする仔獣装に、親実装は癇癪を起こしながら叫ぶ。 「そうデス、お前は保存食デス! ご飯に困ったらシメてみんなで食べるつもりだったデ ス。それまでは、娘たちのストレス発散用として生かしておく予定だったデス! それな のに、何でワタシの大事な娘たちを……」 「ッ! テェェヂャァ、アアアアアァァッ!」 咆哮とともに、仔獣装は親実装へと襲いかかった。 「テッ……。テェ……」 折れた左腕を右手で押さえながら、仔獣装は荒い息を繰り返していた。 全身に傷を負い、血を流している親実装。うつ伏せに倒れて仮死している。 さしもの仔獣装でも、成体実装石を倒すのにはかなり苦労した。成体は大きさも力もし ぶとさも、仔とは比べものにならない。およそ三分の死闘である。 一歩間違えば殺されていた。だが、倒した。怒りの後押しもあっただろう。 「命の石テチ……」 親実装の近くには、傷口からこぼれ落ちた偽石が落ちている。 親の偽石を見ながら、仔獣装は冷たく笑った。 「これから、ワタチがご主人サマテチッ」 「ご主人サマ——テチ……」 仁王立ちする仔獣装。その右手には、親実装の偽石を持っていた。 目の前では、姉妹だった仔実装五匹が土下座している。髪と服を毟られた禿裸の姿だっ た。その向こうでは、禿裸となった元親実装が土下座している。成体実装石でも、命の石 を奪われてしまえば手も足も出ない。 今、家族内の順位は逆転していた。 「ところで、ステーキが食べたいテチ〜」 仔獣装はそう呟いた。 「テ?」 「ステーキにコンペイトウ、お寿司、あとケーキとプリンも食べたいテチ〜」 そう言ってから、訝しげな顔をしているドレイ石親子を見下ろす。その顔には、残酷な 表情が映っていた。ゴミでも眺めるような目付きである。 「そんなの無理テ——」 言いかけた四女を、仔獣装は無言のまま蹴り飛ばした。 四女は小さく吹っ飛び、仰向けに倒れる。顎を砕かれ、意識を失っていた。 殺さないように手加減はしたが、それは決して優しさや慈悲のようなものではない。道 具が壊れたら困る、その程度の認識。親実装が仔獣装を保存食と言った時点で、家族のつ ながりは完全に消えていた。 「探してくるテチ。見つからなかったらお仕置きテチ。逃げてもお仕置きテチ」 仔獣装は自分が言われていた台詞を、そのままドレイたちに投げかけた。 「何でテチ、何ですぐに殺さなかったテチ……」 「ママはバカテチ……!」 「うるさいデス! こうなるとは思っていなかったデス!」 適当に放り出された雑草を食いながら、親子が責任の擦り付け合いをしている。 仔獣装はいない。散歩で外に出ていた。 半月が経ち、仔獣装は成体獣装石へと成長していた。 「そろそろ巣立ちの時期デス」 獣装石は生い茂る草を眺めながら、そう呟いた。 成体になった仔は、一匹で暮らすようになる。自然と巣立ちをすることもあるし、親が 追い出すという形を取るところもある。 「ご主人サマ、出ていく……デス……?」 ドレイとして酷使され、ボロボロになった親実装と姉妹五匹。姉妹は栄養状態が悪く、 まだ中実装程度にしか成長していなかった。親実装の偽石は獣装石が中獣装になった頃に 身体に戻されている。 親子の顔には微かな喜びが映っていた。ようやく自由になれると。 「その前に保存食を食べるデス」 「保存食って……なん、テス……?」 長女だった中実装が、尋ねる。しまっておいた木の実や干し草は、既に獣装石が全部食 べてしまっている。もう、保存食と言えるものはない。 「何言ってるデス?」 不思議そうに獣装石は首を傾げてから、親実装から姉妹を指差した。 「お前たちの事デス」 「デッ!」 「テッ」 慌てて逃げようとする親子だったが、獣装石が一瞬にしてその腰を叩き折っていた。 親姉妹だった実装石を殺して巣立ちをした獣装石。 住処になりそうな場所を探し、数日ふらふらと空き地を歩いていた。 「ヂュ……」 獣装石の手で殴られた仔実装が仮死する。目の前を歩いていた仔実装だった。家族とは ぐれたのか、ただの散歩かは獣装石の知るところではない。 獣装石は首の折れた仔実装を持ち上げ、むしゃむしゃと囓り始めた。 「お肉は美味しいデス〜ン♪」 さらに一ヶ月経った、ある夕方。 太陽は地平線下に沈み、空は茜色に染まっていた。東の空には夜の闇が現れている。微 かな冷気を帯びたそよ風が、草の葉を揺らしていた。 「デギャアァァ——!」 引き裂くような悲鳴を上げ、ボス実装石が倒れた。 辺りでは、ボスの側近三匹が死んでいる。群れのNo.2からNo.4だった。 獣装石は草地の群れのボスを襲っていた。死闘の末に側近三匹を殺し、最後にボスを仕 留めていた。ボス含む四匹は普通の実装石だったが、かなり強い。しかし、覚醒した獣装 石の力は、ボスと側近四匹の合計を上回っている。 「お前に……」 殺したはずのボスが口を開いていた。両目を潰され、片腕と片足を千切られ、全身の骨 を砕かれ、内蔵を引きずり出されているのに、まだ生きている。 「この群れを、まとめる事なんて……できないデス……!」 「まとめる気なんて無いデス。みんなワタシのドレイにするデス〜♪」 無邪気に笑いながら、獣装石は答えた。迷いの無い答え。強者は力で弱い者を好きにで きる。それは、経験から導き出された考えだった。 「デェェ……。みんな、すまないデ……ス……」 ボスだった実装石は、悔しげに呻き息絶える。 群れの安定のために真面目に働いていた優秀なボスだったが、その命は唐突に尽きた。 ボスと考えを同じくする側近たちも、残らず殺されている。 今までの善政は終わり、獣装石の恐怖政治が始まった。 「ご飯出すデス」 散歩の途中ふらりと段ボールハウスを訪れ、獣装石は住んでいた一家にそう命じた。 君臨すれど統治せず。獣装石は悪い意味でその言葉を実行していた。好き勝手に空き地 を歩き回り、腹が減ったら適当な実装石から食料を奪う。 「ここにはご飯無いデスゥゥ……」 「怖いテチ……」 泣きながら首を振る親実装。 獣装石は何もない段ボールハウス内を眺めてから、 「なら、これを貰っていくデス」 「チャァァァァ!」 「放してテチィィィィ!」 仔実装二匹を摘み上げて、その場を後にした。 「三女チャァァアァ、五女チャァァァ」 後ろから聞こえてくる親実装の声。しかし、仔を奪い返そうとはしない。覚醒した獣装 石と、ただの野良実装石ではその力に雲泥の差があった。勇敢にも、いや無謀にも仔を奪 い返そうとした者は、例外なく殺されている。 「チャアァァァ、食べないでテチィィィ!」 「お姉チャァァァ!」 「やっぱり仔の肉は美味しいデス〜」 二匹の仔実装を囓りながら、獣装石は散歩を再開する。 「痛いテチー、やめてテチー」 「黙れテチッ」 「ドレイが口答えするんじゃないテチ」 「デ?」 獣装石が見つけたのは、一匹の仔実装を虐める三匹の仔実装だった。丸くなっている仔 実装を三匹の仔実装が殴ったり蹴ったりしている。 「お前たち、何してるデス?」 獣装石は声を掛けた。 「こいつが生意気だからお仕置きしてるテチ」 「ドレイが偉そうな事言うなテチ」 「テェ……ェン」 仔実装を虐めているのは、姉妹のようだった。よく似た実装臭を持っている。獣装石の 問いかけに答える間も、姉妹虐めは続いていた。 「なら、これはボスであるワタシに挨拶しなかったお仕置きデス」 「テ?」 殺気に気付いて三匹が振り返った時には手遅れだった。 獣装石の爪が三匹の顔を切り裂く。 「チャァァァア!」 悲鳴を上げてて倒れる仔実装。 獣装石はその仔実装たちに、ゆっくりと爪を突き立て始めた。人差し指を立てるように 一本だけ伸ばした爪を、仔実装に突き刺していく。手や足を貫き、だがすぐには死なない ように手加減をして。 「痛いテチィィ!」 「ごめんなさい、ごめんなさいテチャァァ!」 「テッ……テェ……」 虐められた仔実装が、恐怖に顔を歪ませ壊されていく姉妹を見ていた。今まで自分を虐 めていた姉妹たちが、なすすべもなく弄ばれている光景。 獣装石はその仔実装に向け怒鳴りつける。 「お前はさっさと巣に戻るデス!」 「はいテチィィ……!」 糞を漏らしながら、仔実装は一目散に逃げ出した。 ボスとして君臨してから、二週間ほど経つ。、 「あのいじめられっ子が、成長したな……」 「あの時のニンゲン——久しぶりデス〜」 獣装石の前に現れたのは、一人の男だった。以前、虐められていた仔獣装に獣装石の力 を教えた観察派である。右手には実装リンガル。 「ぼくも昔虐められていたことがあったから、同情して力の使い方を教えてはみたけど。 どうだい、自分が虐められる側から虐める側に回った気分は?」 「最高デス! みんなワタシのドレイデス〜♪」 少し悲しげな男の皮肉に、獣装石は胸を張って答えた。 周囲には禿裸が三匹控えている。獣装石の身の回りの世話をする実装石。その目は死ん だように濁っていた。この役割を与えられた時点で死んだも同然。ミスをすればその場で 殺され、新たな世話役が選ばれる。そんな、使い捨てドレイだった。 「そうか……」 男は悲しげに首を振り、去っていく 終わりは唐突にやってきた。 「グゥゥゥゥ……!」 「デシャアァァァ……!」 殺気剥き出しで唸り合う、獣装石と黒毛の柴犬。 柴犬の首には赤い首輪とリードが繋がっている。散歩中の犬だった。獣装石が興味本位 でちょっかいをかけ、怒らせたのである。犬は怒りのままに飼い主を置いて、獣装石を追 いかけてきた。 獣装石は一度逃げ、ホームグラウンドである空き地で対峙する。 犬に恨みなどがあるわけでもなく、獣装石にとってはただの腕試しだった。 獣装石と犬の目線の高さはさほど変わらない。およそ四十センチ弱。だが、獣としての 身体能力には圧倒的な差があった。 「死ねデス!」 獣装石は右手の爪で犬の目を狙う。初手で相手の目を潰して嬲り殺すのが、獣装石の襲 撃スタイルだった。この技で今まで何匹もの実装石を倒してきた。 当然犬にも通じる。 そう考えていたのだが—— 犬は既に獣装石の右肩に噛み付いている。 「デ?」 獣の要素を実装した獣装石。普通の実装石に比べれば十分に強い。人間でも油断すれば 怪我をするほどだ。しかし、その強さも本気で殺しにかかった犬には遠く及ばない。力も 俊敏性も持久力も頑丈さも、爪や牙の力も。 グコ。 肩の骨の折れる音が体内に響いた。 視界が激しく回転して、獣装石は地面に倒れる。 不思議と痛みはない。 「デェ?」 右腕が肩から無くなっていた。牙によって乱雑に食い千切られた傷口は、骨と筋肉が剥 き出しになり、激しく出血している。右腕が草の上に落ちるのが見えた。 「ガゥ!」 短く鳴き、犬が獣装石の胸に噛み付いた。頑丈な牙と強靱な顎が、筋肉と骨をたやすく 噛み潰す。さらに勢いよく首を振り回し、獣装石の胴体をあっさりと引き千切った。 その際に、胸にあった偽石に傷を付く。 上下に分かれて地面に落ちる獣装石。 「クゥン……?」 尻尾を下ろし、犬は呆気に取られて獣装石を見ている。正確には、右腕と頭と下半身の みっつに分かれた獣装石のパーツを。その顔にさきほどまでの殺気は無い。予想以上に簡 単に倒してしまい、拍子抜けしてしまったのだ。 「おーい、クロー。どこいったー」 「ワン」 聞こえてきた飼い主の声に、犬は一鳴きしてそちらへと走っていく。獣装石のことはど うでもいいと考えたらしい。ほどなく気配が消える。 「ワタシが……負けた……デス?」 頭と肩と左腕だけになりながら、獣装石は呆然と呟いた。草の上に落ちている右腕と下 半身が、自分の敗北を知らせている。下半身がデタラメに足を動かしていた。 取り残された獣装石。 無性な悔しさに動かない身体のまま叫んだ。声にならない声で。 「何でデス……こんなのおかしいデス……!」 姉妹を倒し、親を倒し、群れのボスや幹部を殺して、空き地のボスとなった。逆らうも のは容赦無く殺し、自分のわがままを貫いた。自分に勝てる者はいない。人間だってその 気になれば殺せる。そう思っていた。自分は無敵だと。 だが、あっさりと負けた。 あっという間にバラバラに壊された。 引っ掻くことすらできずにやられた。 完膚無きまでの敗北だった。 「こんなはずじゃなかったデス……! 反則デス、インチキデス、やり直しデス!」 どこかの誰かに向かって叫ぶが——声は出ず、怪我が治ることもない。 身体に残った血は傷口から流れ出し、残った体組織も急激に死に向かっていく。偽石が 無事だったら、もしかしたら身体が再生したかもしれない。生物離れして生命力の強い実 装石ならば、身体の七割が無くなっても元通りに再生可能だ。 もっとも肝心の偽石が破損しているため、回復する見込みもなかった。 急激に近づいてくる死の気配。 「嫌デス、嫌デス……! 死にたくないデスゥゥッ……!」 動かないはずの左手を持ち上げ、獣装石は空に向かって叫んだ。 いつもと変わらない、暖かく晴れた空だった。青い空にはどこまでも高く、深い。青い 空にいくつも浮かぶ綿のような白い雲。雲はただ自由に空を流れている。南の空では太陽 が白く輝いていた。あと少しすれば昼になるだろう。 しかし、獣装石の身体は冷たくなり、視界も暗くなっていく。 「誰か、助け、て……デ……」 助けを求めるが、喉は動かない。 やがて獣装石は何も見えなくなり、何も感じなくなった。 獣装石の死はすぐさま群れに広まり、みな暴君からの解放を喜んだ。 それから群れのボスを巡り多少ごたごたはあったが、ほどなく新たなボスが決まり、空 き地の群れは以前の安定を取り戻した。 獣装石のことは、一週間も経たずに忘れ去られている。 END 2167.【虐】つまようじ 2157.【実験】姉妹のジレンマ 2152.【虐】しまっちゃおうねー? 2147.【馬虐】最強の虐待法 2142.【パ・色々】刈り取るモノ 2141.【馬】最強の実装石 2138.【観怪】〈紫〉歩き回る刃物 2129.【観虐】昆虫採集瓶 2127.【観察】実装ショップで買い物 2126.【食】蛆チーズ 2125.【虐】レーザーライフル 2123.【馬】炎のチャレンジャー 2117.【馬】隣の公園のマッスル 2116.【虐駆】〈紫〉広場の実装石駆除 2114.【虐馬】マラ実装石虐待 2111.【虐・怪】〈紫〉黒いニンゲン 2108.【虐】上げて落として 2105.【馬】実装された都市伝説 2104.【哀】希望と絶望 2101.【馬】〈紫〉カツアゲ…? 2099.【観察】〈紫〉幸せな最期とは 2097.【虐】斬捨御免 2089.【実験】レインボー実装石 2081.【観察】Narcotic Addict − 麻薬中毒者 − 2077.【馬・虐】〈紫〉マラカノン砲 2071.【馬鹿】〈紫〉虐待してはいけない… 2066.【虐・実験】ジッソウタケ 2057.【虐・他】中途半端な賢さは… 2038.【虐・愛?】ダイヤモンドは砕けない 2031.【馬鹿】雪華実装は鍋派? 1994.【虐・観】時間の狭間に落ちる 1988.【虐】クリスタルアロー 1983.【馬鹿・薔薇】リベンジ! 完全版 1980.【馬鹿・薔薇】リベンジ! 1977.【虐・観】懲役五年執行猶予無し 1970.【実験・観察】素朴な疑問 1958.【虐・実験】虐待&リリース 1954.【獣・蒼・人間】騎獣実蒼の長い一日 1952.【軽虐】既知との遭遇 1944.【馬鹿・薔薇】水晶ハワタシノ魂ダ! 1941.【色々】実装社交界の危機 1939.【駆除】ススキ原の実装石駆除
