タイトル:【愛】 糞虫達(3)
ファイル:2159_00.txt
作者:qoo 総投稿数:19 総ダウンロード数:2919 レス数:0
初投稿日時:2010/08/05-09:20:09修正日時:2010/08/07-20:49:31
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 それから三ヶ月。
 テチコと名付けられた仔実装は、その名の基になった鳴き声がデスに変わっても糞蟲化しなかった。
 元々の性質の良さもあったが、なにより俊宏が章乃のアドバイスを素直に聞き、妥協なく厳しく育てた賜物だった。
 また、テチコとの生活は俊宏自身をも成長させていた。
 一筋縄でいかない実装石への躾の苦労とそれを成し遂げた達成感が、彼の心に自信と強さを与えていった。
 その為かどうかはわからないが、間もなく小さな会社ながらも再就職を果たしたのだった。
 
「ただいま」
 俊宏が会社から帰ると、テチコはすぐにどてどてと玄関に現れ、両手をあげてデスーと鳴く。
 これはおかえりなさいの意味。
「ただいま、テチコ。今日もいいこにしてたかい?」
 テチコはそれに応えてまた両手をあげてデスーと鳴く。
 これはいいこにしてたデスの意味。
 いつものことなのでわざわざリンガルを通さなくてもわかるし、いいこにしてたことは部屋の中を見れば一目瞭然だ。
「じゃあ、ごはんにしようか」
 するとテチコはキッチンの床に置かれたプラ板の上にいそいそと向かい、ちょこんと座った。
 俊宏は丼に実装フードを盛り、一粒金平糖を添えて彼女の前に置く。
 しかし、まだ食べない。
 俊宏の夕食の準備が終わるまで待つ約束なのだ。
 電子レンジがチンと鳴ると、デスデスと催促するのはご愛敬。
 俊宏は笑ってコンビニ弁当を取り出し、炬燵テーブルに乗せる。
「じゃあ、食べようか。いただきます」
「デスデスデス!」
 フードを手に取り、こぼさないよう行儀よく口に運ぶ。
 
 ごちそうさまの後はお風呂だ。
 俊宏がまず入り、出たあとでテチコが入るのが約束だ。
 湯船で十分温まったあとで、テチコは俊宏を呼ぶ。
 実装石は構造上身体を洗うのに他者の助けを必要とする。
 特に髪は深刻だ。
 手入れをしないとあっさり蚤虱の住処となってしまうのに、実装石の後ろ髪はともすれば引きずりそうなほど長い。
 俊彦はスポンジに石鹸をつけ、テチコの髪と身体を丁寧に洗ってやる。
 こんなことをすれば普通の実装石なら色々勘違いするが、俊宏の根気よい躾のおかげで思いあがることなく済んでいた。
 
 綺麗になったら、テレビを見たり俊宏にダンスを披露したりした後、就寝。
 玄関口に設えたケージの中で、古いクッションを抱きしめて寝る。
 俊宏はテチコよりもっと起きていることもあるが、ずるいとかもっと遊んでとか我儘は言わない。
 よくわからないけど、そういう約束。
 
 約束を守っていれば大丈夫。
 ここにカナシイコトはない。
 
 ……そんなテチコの身体はもうすぐ1メートルに達しようとしていた。
 
 
「テチコちゃん、とし君と秘密の話があるの。悪いけどちょっと席をはずしてくれないかな」
 ある日曜日。
 俊宏の部屋を訪れた章乃は人差し指を立てて口にあてた。
 テチコはデスーと片手をあげてケージに入る。
 カシャンと扉を閉める音を確認してから、章乃は手を組んで机の上に置いた
「ねえ、なんか変よ。実装石って普通はあんなに大きくならないのに」
「特別大柄なんじゃないかな?」
 俊宏はあまり気にしていない様子だ。
「糞蟲化しているわけじゃないし、いいじゃないか。確かに身体が大きい分一週間分のフードを五日で消費しちゃうけど、安いのでも
不満は言わないから思ったほどお金はかかってないよ。それに僕はテチコから食費分以上のものをもらってると思ってる」
「それは幸せね」
 言葉とは裏腹に、章乃はやれやれと肩をすくめた。
「でも、ほんと何か心当たりないの?変な物食べさせたとか」
「うーん、フードと金平糖以外だろ?そういえば神社の境内に連れてった時、ドングリを食べてたかもしれない」
「それは別に変な物じゃないわね」
「僕も食べたしね」
「変な物食べないでよ」
「変なのか変じゃないのかどっちさ?」
「〜〜〜!!」
 なんだか茶化されたような気がして、章乃は怒って席を立った。
「もういいわ。帰って自分で調べてみる」


 実は彼女は知っていた。
 かなりの大きさまで成長する場合もいくつかあることを。
 種によっては確かに小学3年生くらいの背丈になるものもいる。
 しかし、テチコは小型種で、普通は30センチメートルくらいにしか成長しない。
 病気で巨大化することもある。
 栄養過多の実装石が成長する場合もあるらしい。
 しかし、病気や栄養過多の場合は縦より横に大きく膨らむ。
 テチコは実装石の通常体型のまま膨らんでいるのだ。
 他に原因がないか、章乃は必死に調べた。
 とある一つの原因を否定しようとして。
 
 
 ……だが、章乃の祈りは虚しく散った。
 
(continue)


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