タイトル:【実験】 姉妹のジレンマ
ファイル:仔実装石姉妹.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:3547 レス数:0
初投稿日時:2010/08/04-21:54:13修正日時:2010/08/04-22:03:51
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「お帰りなさいテチー、ゴシュジンサマー」
「お帰りテチ」

 コンビニに行って帰ってきたら、仔実装が二匹待っていた。アパートの狭いキッチンの
床で、両手を伸ばして俺にアピールをしている。

「何だお前ら?」

 靴箱の横にあったリンガルを弄りながら、俺は仔実装を睨み付けた。

「ゴシュジンサマの飼い実装テチッ」
「だから、ご飯食べさせてほしいテチ」

 当然とばかりに言ってくる。こいつの頭の中では、既に飼い実装らしい。

 言うまでもなく、俺は実装石なんて飼っていない。
 これは、託児の一種である居着だな。家宅侵入とか呼び方色々あるけど。

 勝手に人間の家に入って、飼い実装石であるという既成事実を作る。……というか作っ
た気になる。かなり前に法改正がなされから、飼い実装生物には証明書と登録が必要なん
だが、野良にそんな社会システムなど知らん。

「はいはい」

 俺は適当に頷きながら、割り箸で仔実装をつまみ上げた。








 虐待前処置を行ってから、十回ほどデコピンを決めて身の程を弁えさせる。

「何でこうなるテチ……」
「痛いテチ……」

 二匹は小さな水槽の中に放り込まれていた。打たれた所を押さえながら、涙を流してい
る。中央に厚紙の仕切りを置いているので、お互いに姿は見えない。姿が見えないだけで、
隣にいることは分かるし、声も聞こえるが。

 この二匹は姉妹のようである。親からはぐれてしまい、どちらとなく飼い実装石になる
ことを言い出したらしい。そこら辺には興味ない。

「さて、これからお前らにはみっつの選択肢を与える」

 俺は二匹を睨み、にやりと笑った。
 右手の指を三本立てる。

「選択肢テチ?」
「一匹が無傷で解放されて一匹がここで虐待用として苦しみ抜いて死ぬか、二匹とも解放
されるか、もしくは二匹とも破滅するか。どれかだ」

 と、用意してあった箱を見せる。中には色々な虐待用の器具が並んでいた。拷問用具を
小さくしたような見た目で、実装石をひたすら苦しめるための道具である。

「テェェ……。怖いテチ……」
「痛いの嫌テチ……」

 姉妹は揃って顔を青くしていた。

 さすがにここに至って飼い実装になれるとは思っていない模様。自分の未来が暗いこと
を自覚する程度のお頭はあるようである。この状態でも飼いになれると幸せ回路動かすヤ
ツはいるけど、この姉妹はそこまでアホではないようだ。

「ルールを説明する」

 俺は虐待W用具を片付けてから、

「二匹交互に俺に差し出すものを言え。髪とか服とか腕とか目とか。同じものを言うのは
駄目だ。最終的により多くを差し出した方が無傷で解放され、もう一匹は虐待用になる。
お互いに同じ価値のものを言ったら、両方からそれを奪って二匹とも解放する」

 そう説明してみる。

「どういうことテチ?」
「よく分からないテチ……」

 二匹は首を傾げた。ま、予想通りだ。

 頭の鈍い仔実装相手に一回の説明で分かるとは思っていない。人間だって一回では理解
できないだろう。しかし、理解するまで説明するつもりもない。要点さえ伝わればいい。

「無傷で解放されたいなら、相手よりも大事なものを捨てろ。姉妹仲良く解放されたいな
ら、お互い同じくらいのものを捨てろ」
「テェ……?」

 やっぱり分かってないか。

 いわゆる囚人のジレンマである。お互いに裏切った方が自分は有利な結果を得られる構
造。協調した方が結果的には双方に有利な結果を得られるが、裏切った方が自分には有利
な結果を得られる。

 そういう小難しい本を読んだので、実装石で試してみたくなった。

 この仔実装姉妹は、互いに会話することも可能である。ちゃんと頭が回れば、最小限の
損失で解放される。だが、そう上手くはいかないだろう。

「まず、姉だ。何を捨てるか言え」

 アクリル板越しに、俺は姉仔実装に指を突きつけた。

「テェ……」

 狼狽える姉仔実装。まずはここで流れが決まる。泥沼化していくか、もしくはあっさり
抜け出すか。あっさり抜け出す答えを口にしても、それは仕方ないだろう。

 だが、予想は裏切っても期待は裏切らない我らが実装石。泥沼化する答えを口にしてく
れると、俺は信じている。

 姉仔実装は右手でぽふと自分の腹を叩いた。

「エプロンテチッ!」

 エプ……?

 あー。前掛けね。

 エプロンと言えば、確かにそう見えなくもない。実装石が首から提げている白い布。律
儀に赤いリボンまでくっついている親切構造だ。存在すること自体時々忘れかねない実装
服のパーツである。

 ともあれ、泥沼化の先手は打たれた。

「さ、妹。捨てるものを言え」

 俺は続けて妹仔実装に指を向ける。

「姉よりも大事なものを捨てるなら、無傷に解放してやる。姉と同じくらいのものを捨て
るなら、それぞれ言ったものを奪って解放してやる。価値の大小は俺が決める」
「テェェ……」

 両手で頭を抱え、狼狽える妹仔実装。

 ここで取るべき選択肢は、姉仔実装が口にしたエプロンと同じ価値のあるものを捨てて
一緒に解放されることだろう。エプロン——というか、前掛けと同じ価値となると……実
装靴辺りかな? 少なくとも、パンツは前掛け以下だ。

「なら、頭巾テチッ!」
「テッ」

 妹仔実装の答えに、姉仔実装が狼狽える。

 なるほど。姉仔実装にとっては、前掛けよりも頭巾の方が価値があるようだ。律儀に反
応してくれるから分かりやすい。妹仔実装も前掛けよりも価値があるものとして、頭巾を
上げたのだろう。勝ち誇った顔をしている。

 協調する気は無いらしい。

「今のまま終わりにするなら、姉は虐待コース」

 俺は姉仔実装に目を向け、そう告げた。
 続けて、妹仔実装に目を向ける。

「妹はそのまま解放だ」
「嫌テチィィィ……! ギャクタイは嫌テチィィ!」

 アクリル板を叩きながら、姉仔実装が涙を流していた。仔実装が必死に叩いたところで
水槽は壊れない。今のまま終わりにするなら、妹は解放され、姉は虐待コース。

「ごめんなさいテチ、お姉チャ」

 妹仔実装は頭を下げている。
 それは無視して、俺は姉仔実装に尋ねた。

「追加するものあるか?」
「テ……?」
「今ので終わりじゃないテチ……?」

 アクリル板を叩くのを止める姉仔実装と、冷や汗を流しす妹仔実装。両方ともてっきり
一回のやり取りで終わると思っていたらしい。実装石が勝手に思い込むのはよくあること。
いちいち気にしてはいられない。

 俺は人差し指で卓袱台を軽く叩いてから、

「終わるまで続けるに決まってるだろ? さて、何を追加で捨てる?」
「前髪テチ!」

 問いかけに、姉仔実装はすぐに自分の頭を示した。

 よしよし、予想通り一気に踏み込んできたな。仮に前掛けと前髪のふたつを失った状態
で解放されたら、他の実装石に虐められるのは確実だろう。仔実装の生存率はただでさえ
低いのはさておいて。

「妹は?」
「服テチッ!」
「テェ……!」

 さらに踏み込んだ答えに、姉実装は驚いていた。








 実装服全部、髪全部に加え、腕や脚、目や耳、声まで捨てることを宣言していく二匹。
この流れになったら、相手よりも価値のあるものを捨てることを宣言し、無傷で解放され
るしかない。妥協して一緒に解放という選択肢は消えていた。

「ワタチは……」

 姉仔実装は脂汗を流しながら、頭を巡らせる。

 前掛け、前髪、パンツ、実装服、右後ろ髪、右腕、左足、両耳、右目、声、右肺。

 今捨てることを宣言しているのは以上だった。妹との張り合いの結果、感覚器や内臓ま
で捨てると宣言をしている。体内のパーツについては、俺が解剖図を見せて教えてやった
のだが、仮に引き分けに持ち込めば悲惨な結果になるだろう。

 そろそろ手札が尽きてきた頃だ。

「命の石を捨てるテチッ!」
「テッ!」

 切り札とも言える宣言に、妹仔実装が狼狽える。

 偽石。言わずと知れた実装生物の核。実装生物の命そのものであり、生まれついた知識
の貯蔵庫、さらに謎のエネルギーを秘めた不思議物質。失っても即座にどうこうすること
はないが、外に出された偽石が砕かれれば、死ぬ。

「テププ。これで、ワタチの勝ちテチ……」

 勝利を確信する姉仔実装。

「ワタチは……。ワタチは……」

 妹仔実装が頭を抱えて悩んでいる。

 ここが限界だろう。実装石が自分の偽石よりも価値のあるものを出せるとは思わない。
俺もどっちかが偽石を口にしたらそこで止めようと思っていたところだ。

「ところでお前ら、助かる方法を教えてやろう」

 せっかくなので種明かしをしておく。

「助かる方法テチ?」

 目を向けてきた二匹に、俺は人差し指を立ててみせた。

「一番最初にお互いに小さな損失宣言してたら助かったんだ」
「テチ?」

 首を傾げる二匹。

「最初に"後ろ髪の一本"とか言ってれば、お互いにほとんど何も失うことなく解放された
のに。誰かが"エプロン"とか言っちゃうから」

 と、姉仔実装に非難の目を向ける。

 このゲーム、お互いに無価値なものを上げていれば、引き分けで終わっていた。俺が言
ったような髪の毛一本とか、実装服の糸くず一本とか、そういうどうでもいいもの。

 一番最初に姉仔実装が無価値なものを口にして、妹も無価値なものを口にしていれば、
お互い実質何も失わずに解放されていただろう。

 ……後の祭りだけど。

「この馬鹿姉テチィィィィ!」
「そんなの知らないテチャァァァ!」

 仕切りの厚紙越に叫びあってるけど、おそらく意味は分かってない。
 だけど、俺にとってはどうでもいいことだ。

「じゃ、次で最後だ。最後は二匹一緒に答えて貰う」

 二匹が叫び合うのをやめて俺に向き直る。

「最終的により大きな価値のあるものを捨てると言った方が無傷で解放。残りは虐待コー
ス。引き分けなら双方から捨てると言ったものを奪って解放。しばらく考えてくれ」

 そう告げて、俺は立ち上がった。








 五分くらいだろう。

 トイレに行ったり、水飲んだり、冷蔵庫にあったプリンを食ったりしてから戻ってみる
と、水槽の中で二匹が静かに待っていた。ケンカしたり泣いたりしてると思ったけど、こ
れは面白いことになっている。

「覚悟は決まったようだな」

 卓袱台の前に座り、俺は二匹を見下ろした。
 自然と口元に笑みが浮かぶ。

 作戦があるのだろう。おそらくは二匹で助かる方法が。その場に置きっぱなしにしてお
いたリンガルのログを見れば、何を言い合っていたかは分かる。だけど、それは後のお楽
しみにしよう。

「さて、何を捨てる?」

 俺の問いに、二匹は揃って答えた。

「ワタチの全部を捨てるテチ!」
「………」

 おおー、そう来たか!

 背筋にうっすらと鳥肌が立つのが分かる。さすがは予想は裏切るけど期待は裏切らない
実装石。完全に予想外というわけじゃないけど、本当に言うとは考えもしなかった。

 固まる俺を見て、二匹が壁越しに声を掛け合う。

「どうテチ、妹チャ。ニンゲン、驚いてるテチ」
「ワタチたちの作戦勝ちテチ」
「自分の賢さが怖いテチュ〜ン♪」
「ワタチたち、天才テチー」

 脳天気に自画自賛していた。

 一度深呼吸してから、俺はリンガルの録音モードを見てみる。
 最初はケンカしていたようだが、姉仔実装が助かる方法を閃いたようだ。その方法は、
お互いに自分を全部捨てること。そうすれば引き分けに持ち込めると考え、妹を説得した
ようである。確かに全部捨てれば、失うものは同じになって引き分けになる。

「相分かった」

 ログを読み終わり、俺は頷いた。心持ち時代劇風に。

「テププー」
「勝ったテチー」

 人間を出し抜けたことに有頂天になっている姉妹に、きっぱりと告げた。

「じゃ、二匹とも虐待コースな」
「テチ?」

 二匹の笑みが強張る。

 まさか二匹とも助からない選択肢を選ぶとは考えてもいなかった。選択肢の形からどっ
ちかが助かるか、二匹ともボロボロになって逃がされるかの想像はしてたけど、まさか姉
妹揃って自爆するとは、それでこそ実装石。

「テェ……? 引き分けだから逃がしてくれるんじゃないテチ?」
「ニンゲン、嘘ついたテチ……? 騙したテチ……?」

 狼狽える姉妹に、俺は人差し指を向けた。

「引き分けなら逃がすって言ったけど、捨てるって言ったもの奪うとも言っただろ? 二
匹とも"全部捨てる"って言ったんだから、俺がお前らをどうしようと文句は言えないはず
だが? 引き分けの場合は捨てるって言ったもの失うこと忘れてたか?」

 十数秒の沈黙から。

 二匹は同時にぽんと手を打った。

「この馬鹿姉テチィィィィ!」
「そんなの知らないテチャァァァ!」

 忘れてたらしい。
 だが、手遅れである。

 俺は二匹に構わず、虐待用具を取り出した。



  END


過去スク

2152.【虐】しまっちゃおうねー?
2147.【馬虐】最強の虐待法
2142.【パ・色々】刈り取るモノ
2141.【馬】最強の実装石
2138.【観怪】〈紫〉歩き回る刃物
2129.【観虐】昆虫採集瓶
2127.【観察】実装ショップで買い物 
2126.【食】蛆チーズ
2125.【虐】レーザーライフル
2123.【馬】炎のチャレンジャー
2117.【馬】隣の公園のマッスル
2116.【虐駆】〈紫〉広場の実装石駆除
2114.【虐馬】マラ実装石虐待
2111.【虐・怪】〈紫〉黒いニンゲン
2108.【虐】上げて落として
2105.【馬】実装された都市伝説
2104.【哀】希望と絶望
2101.【馬】〈紫〉カツアゲ…?
2099.【観察】〈紫〉幸せな最期とは
2097.【虐】斬捨御免
2089.【実験】レインボー実装石
2081.【観察】Narcotic Addict − 麻薬中毒者 −
2077.【馬・虐】〈紫〉マラカノン砲
2071.【馬鹿】〈紫〉虐待してはいけない…
2066.【虐・実験】ジッソウタケ
2057.【虐・他】中途半端な賢さは…
2038.【虐・愛?】ダイヤモンドは砕けない
2031.【馬鹿】雪華実装は鍋派?
1994.【虐・観】時間の狭間に落ちる
1988.【虐】クリスタルアロー
1983.【馬鹿・薔薇】リベンジ! 完全版
1980.【馬鹿・薔薇】リベンジ!
1977.【虐・観】懲役五年執行猶予無し
1970.【実験・観察】素朴な疑問
1958.【虐・実験】虐待&リリース
1954.【獣・蒼・人間】騎獣実蒼の長い一日
1952.【軽虐】既知との遭遇
1944.【馬鹿・薔薇】水晶ハワタシノ魂ダ!
1941.【色々】実装社交界の危機
1939.【駆除】ススキ原の実装石駆除

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