新幹線ゲート下の草むらに実装石の一家が住んでいた。 近くには管理の甘い集積所があり、親実装はいつもそこから食糧を調達していた。 今朝もなんとか家族全員の腹を繋ぐだけの収穫を確保し、ダンボールハウスに帰還した。 現在、仔は三匹。 しかし、実は昨日まではもう一匹いた。 仔のうち二匹はさして気にも留めず親が配分を終えるのを待っていたが、もう一匹——三女は親実装に疑問を投げかけた。 「朝起きたら四女チャがいなかったテチ。どこに行ったテチ?」 四女は我儘だった。 自分は特別だというのが口癖で、いつだって勝手気ままに振る舞っていた。 親の言いつけを無視して留守中にダンボールハウスの外で遊ぶのは日常茶飯事。親がいざという時の為に確保した、保存のきく木の 実などにも平気で手を出す。 昨日もゴハンの分け前が優遇されないことに癇癪を起し、喚き散らしていた。 仔実装の甲高い声は人間や同族、鴉と言った天敵を呼び寄せてしまうから、親から禁じられていたにも関わらず。 ついにやむなしと判断した親により、四女は夜のうちに集積所に運ばれ、今や収集車の中でたくさんのゴハンに囲まれていた。 もっとも彼女の偽石は親実装によって既に砕かれていたので、それを口にすることはできなかったが。 次女はおおらかだったから細かいことにはこだわらなかった。 六女は四女に苛められていたからむしろ清々していた。 だが、三女は優しかったのである。 三女は親実装の服を引く。 「ママ、四女チャにはワタチが言って聞かせるから、どうかお家に戻してあげて欲しいテチ」 …… 一瞬の沈黙の後、親実装は三女をじろりと睨んだ。 「お前にはあとで話があるデス」 朝ゴハンの後はお勉強の時間と決まっていたが、親実装は次女と六女に今日は休みと告げ、遠くでチャイムが鳴ったのを合図に三女 をコンビニ袋に入れてダンボールハウスを出た。 チャイムが小学校の始業の合図なんてことはもちろん知らなかったが、鳴った後からしばらくは自分たちの一番の天敵である小学生 が姿を見せないことは知っていた。 この隙に道路を出て道なりに進む。 三十分ほど歩くと、在来線の線路が見えてきた。 道路と線路の間は少し距離があって、幅一メートルほどの草むらがある。 その中に素早く踊りこみ、息を整えた後、コンビニ袋から三女を取り出した。 「ここなら他の仔に聞かれずに話ができるデス」 「ここはどこテチ?話って何テチ?」 三女はいつもとは違う雰囲気に少々おののいていた。 おそらく察したのであろう、首を振る。 「もう四女チャの事はいいテチ。聞きたくないテチ」 「聞くデス。四女は」 「聞きたくないテチ」 「間引いたデス」 予想はしていても実際に聞かされるとショックがある。 まずは聞き違いであって欲しいと思い、次に何か別の意味があるのではないかと探し、そしてどうにもごまかせないとわかり、日ご ろの言いつけを忘れて叫んでしまっていた。 「なんでテチ!四女チャもママのカワイイ仔じゃなかったテチ?どうしてカナシイコトしなきゃならないテチィ!!!」 火のついたような三女に、それとは対照的な親実装の凍えるような視線が突き刺さる。 「そんなことも分からないんデス?四女はいつかワタシ達を危険にさらしたデス。その前に間引くのが当然デス」 「でもカナシイコトをすることはなかったテチ!四女だってきちんと話せばいつかわかってくれたはずテチ!!!」 「ニンゲンさんならともかく、ワタシ達実装石にいつかを待つ時間はないデス」 「そんなのってないテチ!!!」 駄々をこねる三女を見て親実装はため息をついた。 一縷の望みにかけて見たが、ダメだった。 実装石に過度の家族愛は邪魔だ。 実装石はとにかく増え、とにかく死ぬ。 不良品に構う暇はないし、必要もない。 時には致命的ですらある。 それを理解せず、いらない情にほだされて破滅した実装石を、親実装は何度も見てきた。 日も上がった。そろそろ帰らないと暑さで参ってしまう。 次女や六女も心配だ。 しかたない。見切りをつけよう。 「じゃあそこで泣いていればいいデス」 親実装は三女に背を向け、草むらを出た。 「お前を実装石に産んだママを許してほしいデスゥ……」 (continue?) 【過去スク】 【虐】【紅】 化粧 【あっさり虐紅】 風呂 【託】 奇跡の価値は 【託】 一部成功 【観察】 幸運の無駄遣い 【観察】 禍福は糾える縄の如し 【狂】 月下の詩 【託愛】 特上寿司 【謎】 幻のエメラルド(1) 【謎】 幻のエメラルド(2) 【託狂】 私の子供
