異変が起こっていた。 産まれてくる実装石すべて、髪も服もない。 そして、何もないところで突然死することがしばしば。 話は数ヶ月前に遡る。 日本には八百万の神様がいる。 月だろうが亀だろうがお構いなしに神は存在する。 この時、実装石の神(以下、実装神)と生ゴミの神が言い争っていた。 「ふざけるなデス! 廃棄物のくせに何言ってるデスか!」 「私は大地の恵みとなるんです! 大罪の塊の如きお前さまに食われるいわれはありませんっ!」 と、そこへ、イザナギとアマテラスが通りかかった。 「何よ、おめぇさんがた、何騒いでんのよ? ちょいとおっちゃんに話してごらんよ」 「イザナギ!こいつを黙らせるデス! 生ゴミのくせに・・・」 ベシッ! と、アマテラスの張り手が飛んだ。 イザナギを呼び捨てなど許されるわけがないのだが、そこは実装石の神。 「父上、こんな最下級の者に関わらずとも・・・」 「まあまあ、いいじゃねぇのよ。 ほら、ちゃっちゃと話してみ」 歯が飛んで喋れない実装神の代わりに、生ゴミの神が説明する。 それは、実装神が放った「クソ不味いのに食ってやってるんだから感謝しろ」の一言に始まった。 さすがにこれには生ゴミの神もカチンときた。 自分は肥やしになることで役に立っている。 それを何の役にも立たないキチガイ生物に食べられること自体が不服だった。 食べるのも苦しいのだろうと我慢していたところに実装神の先の一言である。 そこからは猛烈な罵りあいが繰り返されるだけだった。 「イザナギ様!アマテラス様! 私はもう耐えられません! なぜこんな、何の役にも立たない者に食されねばならないのですか!」 回復した実装神が割って入る。 「デッチャアアアアァッァァ! 何言ってるデス! ワタシは万物をメロメロにするべく生まれて来たデス! 生ゴミごときに文句言わ・・・」 ベシッ! 「黙りなさい。 そのことですが、父上。 最近、伊勢に来る者からも、この役立たずを疑問視する声が出ています。 環境汚染が酷く、喜んでいるのはごく一部の虐待派・愛誤派だけであると。 人間はおろか、全ての動植物にとって害でしかないと思われます。 私もなぜこの者が存在しているのかわかりませぬ」 騒ぎを聞きつけてやってきた他の神々も不満を口にする。 地の神「その者のせいで、いつも糞だらけです」 花の神「その大便が臭すぎて虫も近寄りません。これでは種をつけることもままならない」 動物の神「あれは確かに酷い!鼻がひん曲がってしまいます!」 服の神「体臭や垢だけでも酷いものですよ。どんな綺麗な服も台無しです」 髪の神「いつも脂ぎってゴワゴワですわ。野生の動物だってあそこまでなりませんよ」 風の神「空気がねぇ、汚れちゃうんだよねぇ」 金平糖の神「私も正直、その者に食べられるのは違うと思うんですよ」 鏡の神「醜いものを映すのはもう嫌です・・・」 バー(ryの神「俺様は糞の塊を叩くために生まれたんじゃねえやい!」 「デッデッデッデッ・・・ ふざけンなデスゥゥゥゥ!!! お前らがそんなだから中津国(下界)で意味もなく虐殺されるデス! さあ、ワタシの魅力にメロmブギャッ」 「黙りなさいと言ったでしょう。 父上、そろそろお聞かせ願えませんか? いったい、この者は何のために存在しているのですか? ここまで被害を出して、何の意味もないでは皆、納得などできますまい」 「って、おっちゃんに聞かれてもなぁ」 その一言に神々がどよめく。 「なんと、イザナギ様もご存知ないと!?」 「こいつはおっちゃんとイザナミが産んだヤツじゃあないのよ。 ここ数年、ツンデレの神がかなり増えてるだろ? そん中の一人が神格化された時に、なんでかコイツも生まれちまったんさ。 まあ、存在の意味って言われると、反面教師くらいしか思いつかんわなぁ」 「そういえば、この者が現れたのは最近のことでしたか。 しかし父上、害が酷すぎてもはや反面教師の域を・・・」 アマテラスが言いかけたその時。 ベチャッ。 唐突に、粘状のものがぶつかった音がした。 「え・・・」 神々の視線の先にはアマテラスの顔。 中津国の統治者、太陽神と呼ばれるに相応しい、神々しく、整った顔。 その顔に濃い緑色の物体がベットリとついていた。 「さっきからバシバシ叩きやがってムカツクおばさんデス! 何が太陽神デス!ワタシはお前なんかよりよっぽど美しいデス! 全てに愛されるために生まれて来たんデス! お前みたいなババアにはウンコがお似合いデス! デギャギャギャギャw」 実装神は悪態をついて走り去った。 他の神が走れば簡単に追いつけただろうが、その場の誰もが固まったまま動けなかった。 「ババア、ですか」 実装神の姿が見えなくなってから、ようやくアマテラスが口を開いた。 「あ、アマテラス様・・・お、落ち着いてください、ね?」 そう言ったのは花の神。 かつて、スサノオが似たようなことをしてアマテラスが岩戸に籠もったことがあった。 (乱暴者のスサノオでさえ、姉の顔に糞をぶつけることはしなかったが) 花の神はその時に日光を浴びられず酷い目に遭ったうちの一人だ。 「そ、そうよ、アマちゃん。まずは落ち着いて。 そうだ! 誰か、風呂の神を呼んできてちょうだいよ!」 イザナギも慌ててフォローした。 「大丈夫ですよ。あの者の言うとおり、私も歳を取りました。 岩戸に籠もって皆に迷惑をかけるようなことは致しません」 そう言ったが、アマテラスの顔は無表情。 「父上。あの者のこと、私にお任せ願えますね・・・?」 「えっ?」 「お任せ願えますね?」 「あ、ああ、モチのロンよ!」 「皆の者も、協力願えますね?」 「「「「「は、はい!」」」」」 そして、冒頭に戻る。 服の神と髪の神は実装石を禿裸で産まれさせた。 たとえ人間が作った服やカツラを身に着けようと、それは数時間でボロボロになる。 実装服は免疫力を高め、寒さを防ぐ役割を持っていた。 それが奪われ、寒さや病気に耐えられない者はあっけなく死んでいった。 「デッスーン♪ 今日はサカナの骨にたくさん身がついてるデス! ごちそうデス♪」 あーん、と実装石が生ゴミを口に入れる。 その直後。 「デ・・・ブ・・・ギャ・・・」 その実装石は泡を吹いて死んだ。 生ゴミの神や金平糖の神は毒の神の力を借り、実装石が口にすると死ぬようにした。 実装石が歩いていると、不意に突風が吹く。 ただし、実装石の顔にだけ。 「ブフ、ブブブ・・・ (なんなんデス・・・この風、どっちを向いても口と鼻に・・・い、息が・・・)」 また、あるときは総排泄腔からも風が送り込まれ、風船のように破裂した。 一番強力だったのは、やはり太陽。 「今日はいい天気デス。お前たち、散歩にデビャ!」 実装石が陽の下に出ると、ジュッ、と一瞬にして燃え尽きた。 賢い実装石は吸血鬼のごとく、太陽を避けるようになった。 「おーい、アマちゃん。 バチがあたるっていうより、ほとんど祟りみたいになってんよ。 あんまやりすぎんなよぉ?」 「父上。 わかりましたよ、あの者たちの存在意義が。 あれらは万物の敵です。反面教師ですって?とんでもない話です!」 アマテラスの剣幕に、イザナギもそそくさと退散するしかなかった。 「でも、太陽の神さんが虐殺なんかしていいもんかねぇ」 ある日の日没間近、今にも消えそうな夕焼けの中に1匹の実装石が現れた。 「そろそろ、外に出られるデス? デ? デッギャアアアアアア!!!」 アマテラスは例によって燃やし尽くそうとした。 が、太陽はほとんど地平線の下。 実装石を殺すことはできないまま、陽は沈んだ。 翌朝、その実装石はまだ同じ場所に、仰向けに倒れていた。 体の前面が火傷を負い、耳は蒸発し、目と鼻は焼けただれて塞がっていた。 口からは「デヒュー・・・デヒュー・・・」とおかしな呼吸音。 右の手足は千切れ、残った左の手足で動こうともがいている。 アマテラスが見ている最中、無理に動かしていた左手もブチッと千切れた。 「そういえば、火傷は回復しないと申していましたね」 一人ごちてから、その実装石を一瞬で蒸発させた。 千切れた手足も消した。 後には何も残らなかった。 先ほどまで確かにあった、苦しみもがく実装石の痕跡は何一つない。 血の一滴すらも。 「何か、変ですね。 空虚感? 物足りないというか・・・」 アマテラスは次に陽の下に出てきた実装石の両足だけを蒸発させてみた。 再び服と髪を纏った実装石が産まれ始めるのは数時間後。
