タイトル:【謎】 幻のエメラルド(2)
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作者:qoo 総投稿数:19 総ダウンロード数:1161 レス数:0
初投稿日時:2010/07/22-19:35:12修正日時:2010/07/22-19:36:40
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「ふうん、それで昨日は早々にお眠だったのね」
堀江公園の駆除が終わって次の朝。
卓袱台代りの折りたたみテーブルを挟んで、僕はいつものように萌と情報交換をしていた。
ここは萌のアパート。
元々は大学時代から付き合っていたミュージシャン志望の男と同棲するために借りたところが、だんだん反りが合わなくなって破局。
空いた隙間に親元を離れたがっていた僕がうまいことねじ込まれたって寸法だ。
親元よりはマシとはいえ、萌も母親に似て口うるさい。
本当は一人暮らしをしたかったんだけど仕方ない。
「で、結局見つかったの?」
「いや」
僕は首を振った。
「それらしき個体はなかった。全部生の実装服だったよ」
「そっか。じゃあ私が市役所への報告書を書いたら、さしあたりうちの仕事はお終いね。あとは市役所と保健所と警察がなんとかする
でしょ」
「犯人つかまるかな」
「さぁ?日の丸グループ企業の人達は私たちの血税で食べてるんだから、きりきり働いて貰わないと困るんだけどね」
「ああ、確かに近頃の家畜の伝染病への対応なんか見てると、なんか不安だよね」
萌は僕の言葉に腕組みをしてうんうんと頷いたあと、ふと眉をひそめた。
「そういえば海人。こないだの国政選挙の投票、後から行くって言ってたけど、結局行ったの?投票しない人に政治を云々言う権利は
ないわよ」
ぎく。
「投票するに値する候補者がいなかったので、棄権しました」
「嘘おっしゃい。雨が降ってたからめんどくさかっただけでしょう」
ぎくぎく。
「もう、しかたないわねえ」
萌は深いため息をついた。
「今回は特にこの国の将来を左右する大事な選挙なのに」
僕の一票では大勢は変わらないさ、などとは心に浮かんでも口には出せない。
言えば何倍にもなって返ってくる。
畜生、ひどい藪蛇だ。
それもこれもエメラルドのせいだ。見つけたら禿裸にしてくれる。

その思いが募ったわけでもないのだろうけれど、そのチャンスはすぐに訪れた。

それから二週間後。
トルルルル
事務の電話が鳴る。
萌が受ける。
「はい、ローゼン消毒虹浦営業所です。……はい、いつもお世話になっております。……実装石が昨晩デーストア一郷店を集団で襲撃、
ですね」
「デーストア?」
最初に反応したのは藤真さんだった。
「状況が似てますね」
と僕。
「一郷店か」
所長は一言つぶやくとパソコンのキーボードを叩いた。
「……では殲滅コース、特急で。確かに承りました。またよろしくお願いします」
チン
萌が電話を置くと、彼女が内容を告げるのを待たずして指示が出た。
「5分後に全員ミーティングルームに集合。星崎姉は一郷町のすずかけ児童公園の地図を人数分プリントアウト」

出撃前のミーティングで決まった今回の方針は、できるだけ多くの個体を生きたまま確保することだった。
堀江公園の事件との共通点が多く、エメラルドの仕業である可能性が高い。
そしてエメラルドは(こちらがあまり対策を立てていなかったとはいえ)人間様の包囲を逃れられるほど小賢しい。
飼いの可能性も低くない。もしそうなら証拠を固めないと法に阻まれて手出しができない。
ならばエメラルド本石の確保に固執せず、情報を収集して追い詰めようという作戦だ。

「そろそろいいかな」
僕はバー(ryを握りしめ、すずかけ児童公園に入った。
服はいつもの作業服じゃなく、近くの高校指定のジャージ。洗ってはあるものの、落ち切れない実装石の血と糞が染みついている。
空いている左手にはケージ。中にではシンが鋏をしきりに鳴らしてる。
「……ボキュキュキュキュ♪」
シャキンシャキンという音に乗せて、狂気じみた笑い声を漏らす。
気合入っているな、シン。
しかし噴水の前には女が一人。
Tシャツにジーンズ姿で、長い髪をポニーテールに結わえ、糞蟲共ににこやかに金平糖を捲いている。
常人が近寄らないほどの糞臭の中、ただひとり醜態を晒しまくる緑の害獣相手と戯れる姿は、傍から見ればひどく歪んだ博愛精神の持
ち主に見える。
僕は、ち、と舌打ちをして見せ、彼女に毒づく。
「おい、どけよ愛誤派」
すると彼女は僕をさげすむように一瞥した。
「あら、何か御用かしら?」
「うっせーよ。怪我したくなかったらすっ込んでろ」
「ああ、いやだ。なんて野蛮なんでしょう。大方この愛らしい緑の妖精ちゃんたちを苛めに来たんでしょう?その蒼いハサミ蟲といっ
しょに」
その言葉に、シンが吠えてケージに体当たりをする。
「あらあら、飼い主に似て知性のかけらも感じられないメス犬ちゃんねぇ。でも残念ね。私、この子たちを飼うんだから。飼い実装に
手を出したら……その足りないおつむでもどうなるか理解できるわよね?」
裏手を頬に当て、高笑いをする女。
それを真似てデピャデピャ厭らしい笑い声を上げる糞蟲共。
僕はそれをしばし睨んでから、唾をペッと吐き踵を返す。
「覚えてろよ!」
「ボキャァ!」
調子づいた蟲共による悪臭漂う緑のシャワーの中、最後に悔しそうにゴミ箱に蹴りを入れて退場する。
これで第一幕における僕とシンの出番は終了だ。
愛護派役・星崎萌、虐待派役・星崎海人&シンの小喜劇。
そのストーリーはこう続く。
愛護派が虐待派を退けて当面の危機を逃れたものの、愛護派が去った後でまた虐待派が来るかもしれない。
心配だから保護したいという愛誤派の申し出が導く先には大量の木箱。
実装石達は都合のいい未来を夢見たり、都合のいい話を訝しがったりしながら、結局は多くがその中に身を納める。
頃合いを見て現れるトラックに積まれ、運ばれる先は藤真さんの待つ尋問室だ。

残った少数派には虹浦営業所実蒼隊による第二幕が待っている。
ストーリーもへったくれもない、ただのアクションシーンだ。
偽石サーチャーを起動して、すずかけ児童公園全域を検索対象に設定する。
Hit数は31。
よし、これならリアルタイムスキャンモードが使える。(リアルタイムスキャンは追跡対象数が多いと処理が追いつかないのだ)
あとは僕が司令塔となってインカムから指示を出し、一体残らず確保するだけ。
僕はリンガルインカムのスイッチを入れ、実蒼隊のケージの落し錠をあげる。
「番号!」
<いち><に><さん><し><ご><ろく><しち>
「よし、今日は細かい作戦はない。その場その場で指示を出すからそれに従って動いてくれ。ただし、目標を殺さないように、腰骨を
砕くなどして確保すること」
<了解です><了解です><了解です><了解です><了解です><了解です><了解です>
「よし。では出撃!」

結果。
アナが<一人の生き血はちびちび飲まれるのと二つの無礼な悪行だらけです>などとリンガルが訳しきれない見得を切ってカクに突っ込
まれた、なんてちょっとしたトラブルを除けば概ねうまく事は運んだ。

しかし、第三幕—藤真劇場は予想外の展開を見せていた。

次の日。
掃除の為早めに出社したら、雛形が机に頬をつけてデェ〜と実装石みたいな唸り声をあげていた。
「なんだよ、朝っぱらから」
「海人せんぱぁい。おはようございますぅ。昨日は藤真せんぱいに付き合って徹夜だったんですぅ」
「そうか、そりゃお疲れさん。で、結果は?」
「結果が良かったらこんなにだれてませんよぉ」
雛形は身を起こし、そのままデスクチェアの背もたれにもたれかかった。
「首謀者がエメラルドだってことはわかったんですけどぉ、実装石たちはその正体が萌先輩だって言うんですよぉ」
「は?」
萌が主導者だって?
公園の糞蟲共を先導してコンビニを襲わせた?
昨日の猿芝居じゃあるまいし、ありえない。
僕は雛形の襟首を掴んで引きあげた。
「ふざけんな。いくらなんでも言っていいことと悪いことがあるだろう」
「えー、ふざけてなんかいませんよぉ〜」
と、そこへ。
「おいおい、熱くなるな、青年」
陰で寝ていた藤真さんが、机の谷間から身を現した。
「すみません、起こしてしまって。雛形があまりに変なこと言うもんですから」
「変なことを言ったのは雛形じゃない。実装石だよ。説明してやるからまず解放してやれ」
「……はい」
僕が手を離すと、雛形はふにゃぁっと椅子に崩れ落ちた。

「さて、まずは誤解を解いておこう。奴等はエメラルドに導かれていたんだが、実際にエメラルドを見たやつはいなかった。ただ、自
分たちをこの公園から救い出してくれる救世主だと噂されていたんだ。そこにお前たちの寸劇があったから、ついおまえの姉さんをエ
メラルドだと思い込んだらしい」
「なるほど、それでその件は納得できました。けど、見たやつがいなかったっていうのはどういうことですか?」
「つまりだ、エメラルド様が『向こうの家の明かりが消えたらすぐにデーストアに行けば食べ物に手が入る』と言っていたってのが伝
言ゲームで伝わって、目印になった家の明かりが消えたとたんあらゆる個体が個々に訪問し、その結果集団襲撃になったって寸法だ」
「じゃあ、その伝言ゲームの糸をたどっていけば、エメラルドに行きつくってことですか」
「理論上はな。でも無理だ。隣から聞いたとか仔が聞いてきたとか言われたところで、隣や仔がどの個体かなんてわかるもんか。それ
に昨日捕らえた中にはエメラルドはいない。全員他の個体から聞いたと言い張ってて、エメラルドから直接聞いたって証言する個体は
いなかったからな」
「じゃあ、ぶっちゃけまた取り逃がしたってことですか」
「まあそういうことだな」

ふう、なんてやつだ。
この業界入って長……くはないけど、2度も人間様の手から逃れるとは。

「次こそは捕まえて罪を清算させてやりましょうね」
「ああ、虹浦営業所の威信にかけてでも」

僕は藤真さんと誓いあい、そこに「えいえいおー」と気合が入っているんだかよくわからない雛形の気勢が続いた。

(continue...)

[あとがき]
 コメントが付かないなぁ うーん

【過去スク】
【虐】【紅】 化粧
【あっさり虐紅】 風呂
【託】 奇跡の価値は
【託】 一部成功
【観察】 幸運の無駄遣い
【観察】 禍福は糾える縄の如し
【狂】 月下の詩
【託愛】 特上寿司
【謎】 幻のエメラルド(1)

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