第一夜 巨肉に群がる蛆虫共 実装石がこの世で一番穢れた存在と言われる、一番醜い存在だと言われる、一番傲慢な存在だと言われる はたして本当にそうだろうか?それが正解なのだろうか? 答えは「ある意味正解」であり「ある意味間違い」である。ではなぜそうなるのか? それは時として人間が実装石以上に醜く、傲慢で残忍な一面を垣間見せる事にある 場合によって自分の愉悦や欲望だけでなく明確な目的もなく他者の財産や幸せすらも貪り喰らう外道だっている しかし彼らは守られる、法律によって、法律を逆手にとって、法律を利用して身の安全を守る 結局この世は狡賢い悪人に住みやすいだけの世界なのか・・・・・・・・ 都会の片隅のどこにでもある一戸建ての古い家、ここに一人の老人と一匹のアオイと言う名前の実蒼石が暮らしていた 「おはようございますボク、おじいちゃん」 変換リンガル越しに朝の挨拶をした実蒼石のアオイは簡単な朝食を作り老人の座っているテーブルまで運んでいる 「おはようアオイや・・今日もいい天気になりそうだなあ」 老人はアオイの作ってくれた朝食を受け取り、一緒に朝食を始めた 老人とアオイの出会いは今から3年前、妻に先立たれた寂しさを紛らわせる為に 老人がペットを買い求めようとした時に処分品としてアオイが売られていたのが出会いの始まりだった 別にアオイに落ち度があった訳ではない、たまたま店での商品の並べ方が悪くて他の客の目に入らなかったのと 店のオーナーがいい加減で自己中な性格で売れなかった理由を「こいつが糞蟲だから」と勝手に決めつけて どうせ糞蟲なら保健所に捨てに行くより実蒼石専門の虐待派に売り飛ばした方が経済的だと考え 1000円の値札を付けて、初めてショーウィンドウに飾られた所を偶然通りがかった老人に買われたのだ 購入当時のアオイは店にいた時に 「なんでコイツはいつも売れ残んだよ」 「けっ、売れないくせに飯だけは食うのかよ。役立たずの実装石と変わんねえなあ!!」 と、店長にさんざんなじられ続けられたせいでとても暗い性格の仔になっていたが 優しい老人との生活の中でだんだん本来の明るさを取り戻し、 又、つらい思い出しかないペットショップから拾ってくれた老人に少しでも恩返しがしたいと 自分の身の回りだけでなく家の掃除や買い物、他にも出来る限りの家事を一生懸命に取り組んで老人の為に頑張った 老人も毎日クルクルといろんな事に一生懸命に頑張るアオイが大好きだった 老人はアオイを自分の孫のように可愛がり、一人と一匹は仲良く暮らしていた・・・・・・・のだが・・・・・ ピンポ〜ン・・・・ピンポ〜ン・・・・・・ 朝食を食べ終わり、アオイが食器を洗っていた時、誰かが尋ねて来た アオイは慌ててエプロンで手を拭きながら対応しようと台所から出てくると 「ああ構わん、ワシが出るからお茶を用意してくれ、いつもの渋茶をな」 少し眉間にシワを寄せながら老人はアオイに渋茶を注文した 「ボクー・・・・」 アオイは少し困ったように呟くと台所に戻って渋茶の用意を始めた 「またあの人達が来たボクー・・・・・・・」 「いい加減にしろ!!口を開けばその話ばっかりしおってからに!!」 台所の向こうで老人が凄い剣幕で二人の男に怒鳴っている 「ですからお父さん、俺達はお父さんが一人暮らししているのが心配なんだって」 「そうだよ、一人暮らしなんて物騒極まりないって。だからこんなボロ家さっさと売り払って施設とか・・・・・」 老人をお父さんと呼んでいるのは老人の息子の高男(次男)と時男(三男) かれこれ20年以上前に独立してそれぞれ自分の家庭を持っているが故、老人と同居はできないと言い この家を売り払って老人ホームに入るようにといつも説得に来ているのだが 「何が家を売ってだ!!この家は絶対に手放さん!!それにワシにはアオイがいるから問題なんぞない!!」 老人は頑として耳を貸そうとはしない。なにせこの家は戦後間もない頃から妻と二人、 がむしゃらに働き続け、苦労の末に手に入れた大事な思い出の詰まった場所だから・・・・ 「でもお父さん、最近また高血圧症で正人の病院に掛かってるんでしょ、それを考えるとさあ・・・」 「黙れ時男!!ワシはどんな事があってもここから出て行かんからな!!」 最早説得は無理、老人は完全に興奮していまにも二人に殴り掛かからん勢いだ、その時 「お茶をどうぞボクー」 渋茶を用意したアオイが二人と老人に渋茶を配り、老人はやっと落ち着きを取り戻した 「全く・・・・(ズズッ)・・・・・・話はそれだけならもう帰れ・・・・」 「兄さん、今日の所は・・・・」 「(チッ)仕方ないか・・・お父さん、今日はもう帰るけど・・」 「何度来ても同じだ!!とっとと帰れ!!」 それだけ言うと老人は二人を追い出した・・・・ 「おじいちゃん・・・・・・」 客用の湯のみ茶碗を片付けながらアオイは心配そうに老人に声を掛けた 「気にするなアオイ、何もそんなに心配しなくても大丈夫じゃから。それよりもアオイ、そろそろ『見回り』の時間じゃないか?」 老人はアオイの頭を優しく撫でながら時計を指差した、時計はもう10時前を指している 「いけないボク!!いそがないと遅刻するボク!!」 「今日は正人が往診に来る。ワシはどこにも出掛けんから早く行っといでアオイ」 アオイは急いで靴を履いて玄関に立て掛けてあるハサミと帽子を取ると慌てて家を飛び出した 「おじいちゃん、行ってきますボクー」 この街の役場にはある特別な役職がある その名は「実装総合管理課」と言われ、他の街みたいに駆除メインの役職ではなく 実装を管理して実装被害を減少させるのが目的で作られた役職なのである まず実装石の繁殖している公園とかに特別な教育を施した『指導実装石』を配置してまず各コロニーの改善を行わせる この改善の際『指導実装石』や役場の人間が糞蟲と判断したモノは問答無用で駆除、もしくは虐待派に提供される こうしてコロニーの質を良質なモノとして、実装石に公園の掃除などをさせその代わりに 最低限の生活維持を保障する、一見愛護派寄りの考えに見え、多数の市民からは反対の声もあったが 一度軌道に乗ると予想以上に実装被害が減少してその効果の高さが立証された そもそも実装石の根絶なんて不可能もイイとこ、いくら念入りに駆除しても1週間もしないうちに他所から渡って来たり 誰かの不法投棄で元通りの数に戻ってしまう。だからこそ元から住んでいる人間を甘く見ない実装石を管理した方が年間の駆除費の5分の3程度で済む さらに街の人で実蒼石や実紅石などを飼っているブリーダーに渡り実装の監視と駆除のアルバイトを募集して 『見回り実装』の職を作った結果、実装被害はますます減少して市民から賞賛された つまり『指導実装石』『見回り実装』の二つの管理して 駆除オンリーから全く別の方法で実装被害根絶を目指すのが「実装総合管理課」の仕事なのだ 「どうにか間に合ったボクー・・・」 家からずっと走ってきたアオイは息を切らしながら集合場所の空き地の入り口に辿り着いた 「おはようナノダワアオイ、今日は珍しく寝坊でもしたのダワ?」 実紅石の「ティアラ」がアオイを見るなり一声掛けてきた 「おはようボクティアラ、今日は僕達だけボク?」 「ワタシモイル・・・気付イテ貰エナイワタシカワイソウ・・・・」 公園の木の上から薔薇実装の「アジサイ」がフワフワと降りて来た 彼女こと「アジサイ」はごく普通の家に居候している薔薇実装、居候の理由はその家の一人娘の「詩織」を気に入ったからとか 「集まった事だし早速出勤ナノダワ」 ティアラは二匹のそう言うと仕事用の手押し車を押し始めて見回りの仕事に出発した この手押し車は役場が用意した物で彼女達の仕事の効率を上げる為にいろいろ工夫してある 荷台部分は広く浅く作ってあるが上に返しが付いているので投げ込んだ仔実装などの脱出を防いでくれる さらに実装が簡単に押せるが総重量は15キロもあり、仔を取り替えそうとする親が台車をひっくり返す事はできない 他にもブレーキや盗難防止の鍵、実装処理スプレー(大分の天然水が主原料)用のポケットなど見た目にそぐわぬ多機能な台車である もっとも、ここ最近はほとんど流れ実装の姿もあまりなく「見回り」と言ってもただの散歩のようなモノだったが 「ぎゃああああああああ!!!!」 「誰か助けてーーー!!!!」 三匹が「第7公園」に差し掛かった時、野太い悲鳴とともに二人組のバールを持ったメタボ男が公園の出入口から飛び出してきた 二人とも顔や体に青痣を作り、着ている服はボロ雑巾のようにズタズタに裂けている 「オマエタチ!!今度この公園の敷居を跨いだら禿裸にしてやるデス!!」 デニム生地のエプロンを着けた一回り大きな実装石の「みど吉」は公園から飛び出した二人組に変声リンガル越しに怒鳴り散らした 「びええええええん、ママーーーーー!!!!!」 「覚えてい・・・・・いや覚えないでくださ〜い」 一人は子供のように泣き喚きながら逃げ、もう一人は相方の落としたバールを拾って逃げて行った 「二度と来るなデス!!・・・・全く・・・」 みど吉はあきれた顔をして情けない姿の虐待派の二人を見送った 「またナノダワ?全くマナーのない悪虐派ナノダワ」 ヤレヤレと言った感じでティアラはみど吉に尋ねた 「おはようデスティアラさん、全くいい加減にして欲しいデス、こんな平日の昼前からヒャッハーなんてあいつら何考えてるデス」 「ユトリ教育ノ悪影響・・・・カワイソウ・・・・・」 「よりにもよってここを狙うなんて・・・・あいつら無謀もいい所ボクー・・・」 アジサイとアオイは哀れみを込めて呟いた この地域にもモチロン虐待派は存在する、しかしそのほとんどは『人としてのマナーを守り、周囲の迷惑を考えて楽しく虐待』を信条としている が、しかし極一部『俺=正義、ルール・自分以外=ウザイ・街のルール、周囲の迷惑=クソくらえ!!』で暴れまわる悪虐派がいるのも事実だ まあもっとも、最近は警察の取り締まりが厳しくなったので(みど吉、5話参照)以前ほどはいないのだが・・・・一応根絶した訳ではない 現に今表れたのだから 「それにしても、相変わらず豪快なやり方ナノダワ」 逃げ去った二人を見ながらティアラは呟いた 「何がデス?」 「何もあそこまでやらなくてもいいボク、アイツ等が仕返し来るかもしれないボク」 「そんな事考え付かないように徹底的にやっておくのデス、中途半端だとかえって危険だからデス」 「あなたはカワイソウ・・・・復讐の為に人間が仲間を連れて来たら・・・」 「それはないデス、もしそんな事をするのならば人間は仲間に『一匹の実装石にボコボコにされた』事を話さなければならなくなるからデス あのテの人間は無駄にプライドが高いから絶対にそんな事喋れないデス、だから復讐に来ても同じ人間しか来れないデス」 確かにそうだ、そんな事喋れば周りに一生笑い者にされて軽蔑される(因みにここにリベンジに来た人間はまだいない) 「あ・・・そう・・まあいいのダワ、取り合えず私達はもう行くのダワ」 ティアラはそれだけ言って再び見回りの仕事に戻る為に公園を出た 「う〜ん・・・少し血圧が高くなってるみたいだけど・・・・」 所変わって老人の家、往診に来た老人の息子の長男「正人」が簡易血圧計と以前のデータを見比べながら唸っている 「そうか?食べる物には気を付けているつもりなんだが・・」 「あ・・お父さん・・・もしかして今朝高男と時男が来たんじゃない?」 「分かるモンか?」 その言葉に正人は深いため息をついた 「やっぱり・・・しかしアイツら・・・・あんな博打に近い先物取引の仕事さっさとやめればいいのに・・・今はバブルの頃とは状況が違うんだから」 「やめる気はないじゃろ、バブルの頃に一月8000万の売り上げを稼いでた時の事が忘れられんのだろ」 「それで、相変わらず施設に入ってここを売れって?」 「ああ・・まあどうせ売りに出さずにあいつ等自分達の借金の担保に出すつもりじゃろから追い出してやったわい」 その言葉にまた正人の口から深いため息がこぼれた 「何考えてんだよあの二人は・・・・・ねえお父さん、やっぱり俺ここに戻って来た方が・・・」 「おいおい正人、お前までワシをモウロクジジイ扱いか?折角個人開業医が軌道に乗った所じゃろ、病院までここから通うと電車の時間(主に終電)に無理があるだろ それにお前車の免許だって持ってないし」 「病院ならこの近所に引っ越せばいいさ、何も駅前じゃなきゃいけない訳じゃないし」 「う〜ん・・・確かにお前が帰って来てくれれば心強いが・・・・・」 老人は正人の提案に腕組みをして考えた 「クソッ!!あのクソ親父が!!」 ガランとした事務所で高男が事務用椅子を蹴りながら八つ当たりしている 「ちょっと兄さんやめなって、誰が片付けると思ってんのさ」 「・・・悪かったよ、だが金を借りる為には何が何でもあの土地が必要だ、何が何でも・・・・・」 会社を立ち上げた15年前、この会社は順風満帆だった、 しかし、二人の後先考えない無計画なワンマン営業が通用したのはバブル時代の間だけ、不景気になった直後から段々と廃れていき 今では人も雇えず仕事もかなり犯罪じみた危険なモノで食いつないでいる状態だ だからこそ会社再起かつ一発逆転目的に必要な資金確保の為には父親の土地がどうしても必要なのだ 「もう・・・・こうなったら・・・」 「もうって・・・ちょっと兄さんそれはヤバイって、盗みは」 「馬鹿、土地の権利書盗んだってあのクソ親父が生きてたら売り飛ばせねーだろーが」 「まさか、殺すつもりじゃ?・・・・」 「けっ、どっちにしろやらなきゃ俺達はオシマイなんだよ。気にする事か、死んだお袋との再会をちょっと早めるだけだろーが」 高男にとって自分以外の人間なんて金銭的損得でしか評価しない、それがたとえ自分の肉親であろうと・・・・ 「・・・・・・・・と言う事で最近になっておじいちゃんの子供って人が来る度におじいちゃんが怒って怖くなるボク・・・」 その日の夕方、公園のベンチに座って見回りの仕事が終わったアオイはティアラ達にここ最近の悩みを聞いてもらっていた 「なるほど、そのおじいちゃんと子供は仲が悪いみたいなのは良く判ったのダワ」 「聞イタ限リデハ仲直リハ無理ミタイ、カワイソウ」 「そうなんボク・・・それにその子供って人達段々言葉使いが乱暴になってきてるし、そのうちおじいちゃんに・・・」 老父の事を心配しているアオイにとってあの二人は一番の心配の種となっている 「アオイさん、一言だけいっておくデス」 それまで黙って話を聞いていたみど吉が口を開いた 「今まで特訓して得た技は決して人間に使っては駄目デス。あれはあくまでも実装同士でしか通用しないデス。 それに失礼かもしれないデスけどアオイさんの技術はまだまだ未熟、自分より大きな存在に挑むのは。自殺行為デス」 戦いにおいて師匠とも言うべきみど吉の言葉はアオイの心に効いた、それはアオイの未熟さを諭すと同時に 『早まった真似をするな』の意味合いも込められていたからだ 「ボクゥ・・・・・・でも・・・・」 「気持ちは分かるのダワ、でも残酷な事だけど・・・あなたはこの中で一番弱いのも事実ダワ」 悲しい現実がアオイに突きつけられた 実はアオイは平均的な実蒼石に比べてその実力は明らかに劣っていた、 それは身体的なモノではなく精神的、つまり本来実装されているはずの『好戦的』『狩猟本能』の本能が他の者よりかなり弱く、『穏やか』『友好的』な感情の方が大きいので それがアオイ自身を『戦闘に不向き』な実蒼石にしている(本石に自覚無し) だからいくら経験や特訓をしてもいざ実戦ともなると潜在的に体に抑制を掛けてしまい、その枷がアオイを弱くしていた 「病院ノ先生ヲヤッテイル正人サンニ相談スレバイイ、人間同士ナライイ解決法ガアルカモシレナイ・・・」 みど吉達の言葉に落ち込んでいるアオイにアジサイはそれなりに妥当な解決案を提案した 「うん・・・・そうしてみるボク・・・」 アオイはそれだけ言ってため息を一つついてトボトボと家路に着いた 「ソロソロ日ガ沈ム、ジャアサヨナラ・・・・」 アジサイもアオイを見送ってからフワフワと家に飛んで行った 2石が公園を出て行ってしばらくしてからティアラは口を開いた 「みど吉、アナタ・・・元締めの誘いを断ったのダワ?」 「聞いたのデス?雪華さんに」 「エエ・・・あなたの強さの秘密と言うか生い立ちも、でも聞けば聞くほど勿体無いのダワ、宝の持ち腐れナノダワ」 「宝の持ち腐れ・・・デスか、ワタシにとって血まみれの過去が宝と言えるかどうか分からないデス」 この言葉にティアラはさっきの自分の無遠慮な言葉を後悔した 「あ・・ご、ゴメンナノダワ、別にそんなつもりで言った訳じゃ・・・」 「分かっているデス、確かに他の者が見ればそう思うのも仕方が無いデス、でも今はその宝よりご主人様の家族や公園の仲間達の方がずっと大切デス」 「みど吉・・・・」 (そっか・・・これじゃあ元締めが説得出来ない訳ナノダワ、みど吉の今と過去を考えれば・・・・) みど吉とティアラが公園で話している頃、家に帰り着いたアオイに悲劇が降りかかっていた 「おじいちゃん!!しっかりしてボク!!おじいちゃん!!」 TO NEXT 「群がる蛆虫・後編」
