タイトル:【蒼】 仔実装紅スピンオフ実蒼編2/2
ファイル:ボクは実蒼 完.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:1220 レス数:0
初投稿日時:2010/07/18-02:30:37修正日時:2010/07/21-17:51:44
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ボクは実蒼 2/2




実蒼石のレオは朦朧とする意識の中で、実蒼生での出来事を思い出していた。
殴られ、蹴られ体のあちこちが痛む。
目の前には一匹のマラ実装と五匹の実装石。ルコウと利秋はどこに行ったか。


「ついてねえなあ…」


頬を撫でる七月中旬の生温かい風にレオはそっとつぶやきを添えた。





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思い返せばレオの実蒼生は至って平凡なものだった。
レオは某ペットショップで普通の実蒼石として世に生を受けた。
しかし、彼女は生れ付き鋏と帽子が無かった。


「ママ、どうして実蒼石は実装石を殺すポク? どうしてポクには鋏が無いポク?」

「それはボクにも分からないボク。でも、お前は優しい性格だから
 きっと神様がお前に実装を殺さなくても良いように鋏を渡さなかったのかも知れないボクゥ」

「ポクは優しい実蒼石ポク? でも鋏が無くても人間サンのお役に立てるポク?」

「ボクが保証するボク。お前を必要としてくれる人は必ずいるボク!」

「な、なんだかくすぐったいポク」


照れ隠しか、彼女は母から視線を外し外を見た。



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「ポキュウウ…ポキュウゥ…」

「三女、なぜ泣いてるボクゥ?」

「ママァ、あの実装石がポクを出来損ないって言ったポクゥ」


実蒼石は向い側の水槽に目をやった。セール品の親指が下品な笑みを浮かべこちらを見ている。

実蒼石は深く娘を抱き締めた。


「お前は出来損ないなんかじゃないボク。ボクの自慢の娘ボク」

「でも、でも、鋏の無い実蒼石は蛆の役にも立たないって言われたポキュウ
 生れて鋏を持ってないなんてポクに生きる価値なんて無いポクゥ!」


それを聞いた実蒼石は溜息をついた。


「三女、知っているボク? 人間様は生れたときは身一つで、その他に何も道具を持っていないボク」

「ええっ! 人間様が何も持っていないポク? でも、人間様はいっぱい道具を持っているポク!
 どこから持ってきたポク!?」

「三女、よく聞くボク。人間様はこの世で一番無力な存在ボク」

「ママ! 人間様の悪口は良くないポク!」


泣いたままの顔で今度は怒りだす三女。実蒼石はそんな彼女の頬を撫でつつ続ける。


「悪口ではないボク。人間様には腕力が弱いボク。体の強度も、再生力もあまり無いボク。
 でも、そんな中で人間様は生きるために“工夫”したボク」

「生きるために必要な道具を作り出し、そして、力を得るための道具も作り出し
 足りない再生力は作った道具で治療する事で補ったボク」

「人間様はすごいポク。神様ポク?」

「神様ではないボク。ただひたすらに生きる為に努力した結果ボク
 いつだって諦めることの無かった人間様は今日までいろいろな道具を作り出したボク。
 そして今度はその道具をボクたちにも分けて下さったボク
 鋏がないから生きていけないというのは言い訳ボク。
 お前も人間様に仕えたいのなら、お前も人間様のように諦めず強く生きるボク」

「ポクが人間様のように… ママ、ポクは、ポクは…」


うつむく娘。だが実蒼石には分かっていた。それは落ち込んでいる訳では無いことを。





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「良かったな。お前を買いたいって人が来てくれたぞ」


セール特価であった実蒼の買い取が来たらしい。
青年の店員が明るく実蒼親子に話しかける。親実蒼は別れを惜しみつつ、しかし、悟られぬよう娘を渡した。


「母さん、行ってきます。人間様のお役に立つよう、そして一生懸命生きてきます。
 最後に今まで育ててくれてありがとうございました…」

人間の様な言葉で最後のあいさつを告げる三女。人間のようになるための努力の賜物だ。

三女は人間の文字すらマスターした。


涙ぐむ実蒼石。だが、強面の男に引き取られた娘を見て叫びそうになった。


 その仔は体が弱いボク。大切にしてほしいボク!


言えるわけがない。心の中で必死に祈る。どうかあの仔が平穏無事に暮らせるように。

だが、その期待を裏切ったのは自分の娘だった。


「お前が新しい飼い主だな。こう見えて俺は結構タフだぜ。だからがんがんコキ使ってくれ。
 よろしくな」


人間の心をより理解するために訓練した人間のような話し方。なぜそれを乱暴に使うのか。

実蒼石は最後の最後で娘のことを理解することができなかった。


今生の別れ。実蒼石は不安でやりきれなくなる。だが、そんな不安は一瞬で消し飛んだ。

前を見れば、我が仔の顔は勇気と自信で満ち溢れていた。人間の世界に責任あるペットとして挑戦した我が仔。


「一瞬でも不安に思ったこっちが恥ずかしいボク。三女がんばれ、ボク」





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帰りの車の中で、男は買ったばかりの中実蒼に話しかける。


「まあ、お前に頼みたいのは、ある奴を勇気づけることなんだがな。頼んだぜ」

「まかせてくれ。勇気は得意分野だ」




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マラ実装が警戒しつつもレオに近づく。


「最近、よくこの公園で暴れる実蒼石はオマエデス?」

「そうだが? まあ情けねえ事に一匹も殺せなかったがなぁ」

「よく言うデス。お前がいるだけで仔達は怯えるデス。昨日も二十匹はパキンしたデス。これ以上は群れの存続に関わるデス」


マラを左右に揺らしつつ距離を縮めるマラ実装。


「だけど、もう終わりのようデスね。お前の様な弱い実蒼石は初めて見たデス」

「へっ 六対一でよく言うぜ…」


呟くようにはき捨てるレオ。


「そんなもの言い訳にもならんデス。実蒼石はたとえ一匹でも実装の群れをつぶせるデッス!」


マラ実装のマラ・スイングが的確にレオの頬をとらえる。


「お前は本当にただの糞弱虫デース!」


マラ・アッパーを食らい倒れるレオ。


「弱虫か… 俺、何やってんだろ…」


「これでトドメデス!」


マラを地面にたたきつけるマラ実装。だがそこにレオの姿は無かった


「ありがとよ。大切なこと思い出させてくれてよ…」


ふらふらの体を鋏を支えに起き上がるレオ。


「だよなあ。数は言い訳にすぎねえよな? 危うく諦めちまうとこだったぜ。
 大切なのは諦めない心と努力することだものなあ…」

「オマエ、それはただ単に理屈で言ってるに過ぎないデス!」


マラ・ブローがレオに襲いかかる。レオはクロスカウンターの要領でマラ実装の顔面に鋏を突っ込んだ。
再び倒れるレオ。鋏はマラ実装の額を掠っただけだった。


「お前のそのザマを自分で良く見るデス! まるで人間に蹂躙される私たちデス!
 絶対的な力差の前にはどんな努力も無意味デス! 温室で育ってきたお前はすぐ諦め、すぐキレイゴトを言うデス!」


「言ってることが矛盾してるじゃねえか…」


「お前には分からぬことデス。この世界で生きることがどんなに大変か! 
 諦めなくとも、努力しても人間は圧倒的な力で全てを奪うデス!」

「は、お前の努力が足りなかっただけじゃねえのか…」

「言わせておけばデス!」


マラ実装のマラ・バットがレオの腹部を強打する。一瞬意識が飛びかける。
しかし、レオは気力で持ち直し、そのまま鋏を構え、そしてマラ実装に対し突進する。
だが、もはや気力の限界であった。レオの足がふらつき、マラ実装の目の前で倒れこむ。



———偶然が彼女に味方をした。いや油断がマラに隙を与えたか。



鋏の刃はレオを躱したマラ実装のマラを挟み込み、そしてその鋏の指輪部分にレオが覆い被さるようにして寄りかかる。
地面とレオの体を力点とした、てこの原理のギロチン状態。マラ実装の主力武器はマラであり、手や足はそれほど強くはない。


「デギャアアアッ! 離しやがれデスッ マラが、マラが千切れるデースー!!」

「離すかよ… 俺は負けねえ…」


ゆっくりと、マラの中に消えていく鋏の刃。そしてマラ実装はそれをどうすることもできなかった。



ブチン。



 ジャギャアアアアアアアア———————————!!!



マラ実装の悲鳴が公園に木霊する。
同時にレオは鋏の指輪部分から滑り落ち、地面に倒れこんだ。
突然の出来事に誰も動くことはできない。
それでも、取り巻きの実装石の一匹が、色のくすんだ金平糖の様なものを持ってマラに駆け寄る。


「ボス、しっかりするデス! ここに金平糖があるデス!」


元マラ実装は悶絶していたが、それを受け取ると冷や汗を流しながらレオのほうに向きなおった。


「デェデェ… 最後にマラを直接狙われるとは思わなかったデズゥ。だけど、これで…
 これさえ有れば私の勝ちデス!!!」


勝利宣言をするマラ実装。そして金平糖を一気に飲み込んだ。
口の端を釣り上げ、満面の笑みを浮かべる元マラ実装。しかし、何も起こらない。
それどころか顔色が悪くなっていく。


「デエッ? デエッ? デエッ? デエッ?」


元マラの腹が膨らんでいく。



ボンッ



総排泄口から糞を吹き出し、勢いよく空中に飛び上がる元マラ。
三メートルほど飛び上がり、そして地面に吸い込まれるようにして落下していく。


「デギャッ!」


地面に墜落し、上半身のみとなった元マラ。残った力を振り絞りレオへと近ずく。


「こんな勝負… 認めないデス…」


それだけを言い残し、元マラは力尽きた。
見開いた眼、そして憤怒の表情のままじっとどこか遠くを睨んでいる。
マラに分が無いと薄々気がつていた実装石達はとうに散っていた。












利秋はルコウとレオを探していた。飲み物を買ってくるから大人しくしていろ。
そう告げたが帰ってきたとき2匹は消えていた。
公園を当てもなく練り回る。


「くそ、この公園無駄に広いな。あの実装共どこに消えやがった…」


一人愚痴をこぼす。
すると木陰の向こうから仔実装紅がてくてくと歩いてきた。


「おお、ルコウ。お前どこ行ってたんだよ。心配したんだぞ」

「お花を摘みに行ってたのチャワ」


差し出された一輪の青い色の花を見て利秋は溜息をついた。


「お前、花摘みなら俺と一緒でも構わないだろ。一人で行くなよ。危ないから…」

「違うのチャワ。ワタチは…」


 ジャギャアアアアアアアア———————————!!!



ルコウの言葉を実装石と思しき絶叫が遮った。暫くの沈黙。利秋は首をすくめた。


「な? こういう所は時々ああいう人間もいるからさ」


利秋はレオを探すべく歩きだす。ルコウは頭に花を乗せ、それに従った。



「悲鳴がしたのはこっちか。よっぽどタチの悪い虐待派でも来てるんだろうな」 


足元に転がる実蒼石を発見する。
周りに飛んでる実装の血飛沫は考えない事にした。


「あ、コイツこんなところに居やがった。おい、帰るぞー」


レオに呼び掛ける利秋。返事はない。


「おーい。あ、寝てる…」


持てる力すべてを使い切り、体力の限界を超えた戦い。
本人に自覚はないが、レオはようやく狩りを成功させた。


「まあ、いいか。いつもうるさいやつが黙ってくれれば」


そっとレオを抱きかかえる利秋。


「さてと、帰るとするかな」

「ちょ、ちょっと待つデス」


草むらから実装石が飛び出した。


「ん、なんだオマエ」

「私たちのボスはそいつに殺されたデス!」

「マジで、あの実装の死体、コイツがやったの?」

「その通りデス! だからもう群れでは生きていけないデス。責任とれデス!」

「うん。まあコイツが殺ったなら責任は俺がとるよ」


そう言うと、どこからか箒とチリ取りを持ってきた利秋。
そのまま、実装の死骸を箒を使い要領よく集めていく。


「な、何をしてるデス?」

「ああ、実装石を散らかしたら、ちゃんと実装ゴミに出しておかにゃイカンからな」

「そんなことどうでもいいデス。それより責任とって私を飼い実装にするデス!!!」

「意味わかんね。あ、コイツ等に意味を求めることこそ無意味か」


そう言って利秋はリンガルを切った。



「デースデース。デスデスデス!! デエ? デデエ? デーーーース、デーーーーーース!!!」

「うるさい!」


その実装石もチリ取りの中に消えた。


レオたちが汚した場所を丁寧に掃除する利秋。
実装に対する虐待は白い目で見られるが、やむを得ない事態というものもあり、“ゴミ”の処理は最低限のマナーとなっている。

ルコウ達は今度こそ絶対に動くなと言いつけられベンチの上で休んでいる。
爆睡状態のレオの手にルコウはそっと花を置いた。


「母さん、俺は…」


花を抱きしめレオがうれしそうに呟いた。
その表情はどこまでも穏やかで、また満たされていた。





僕は実蒼 完





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