道実装 第2話 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 観察もはや3日目。 時折、小雨が降る薄暗い中も仔実装は朝から元気である。 勿論、カラスの襲撃から親の死体を守るためである。 元気に叫び声を上げ、木の枝を振り回し、みすぼらしい格好で汗だくになって振り回さ れている。 昨日、守りきったと思っていたのは、ただ単にカラスが満足して帰ったに過ぎなかった。 流石に大きな親実装の死体は持ち運びできないので軽い仔実装の死体から持っていった に過ぎなかったようだ。 1匹が上手く死体を狙う振りをして仔実装の気を引き、追いつきそうで届かない距離で 挑発しながら逃げる。 仔実装がそれを追いかけたら、距離をとっていた数匹が親の死体に群がって啄み出す。 それに仔実装が気が付いたら群がっている中から1匹が、わざと追いつけそうな距離を ”歩いて”逃げるという悪ふざけ振りで、それを満足するまで繰り返した後に飛んで去っ ていくのだ。 後には、頭や裂けた腹部から内臓を残して沢山の肉を食われて原型のない親実装の死体 と、走り回らされてクタクタになって、親の死体にすがるように突っ伏して泣き続ける仔 実装が取り残された。 ただ、幸運なのは、そこまで執拗に狙われながら、その気になって襲えば一瞬で倒せる 仔実装が直接狙われていない事。 ただそれは本当の意味で幸運なのかどうか…。 もしカラス達が、自分たちの娯楽のために仔実装を生かしているとすれば幸運ではない だろうが、流石のカラスでもそこまで出来るとは思えない。 それからの仔実装は流石に元気がなかった。 親実装の死体は、もはやどんな理由を付けても生きていると言い聞かせる事は出来ない 有様。 元々の臭いが強烈な内臓や腐敗の酷い部位を除いては、かなり食べられてシルエットと しても実装石とは考えづらい形状である。 ガスを溜めて大きく膨らんでいた胃袋も損傷したのか、先程まで風船のように見えてい たピンクの膨らみも、僅かな肉塊と肋骨らしい物の中に埋もれている。 もう、音を発して仔実装に希望をもたらす事もなく、異臭を発するだけの迷惑な”物体 ”として落ちているだけの物になってしまっていた。 ただ、朝までは動けない親がそこにいたから、コレは親なのだという自己暗示によって 親の姿には見えているのだろう。 そう言い聞かせられる知能があるとして、分かって無理をしているのだとすれば、その 分だけ余計に気持ちが沈む物だ。 そして、その仔実装の気分のように雨はやや強めに降りだし、仔実装は家の中に入り膝 を抱えて時間を過ごした。 昼が過ぎると仔実装はようやくショックから立ち直ったのか、時折、親指の死体を抱え て家の外に出ると、その死体を抱え上げながら自身も大口を開けて天を仰ぐ。 憂鬱な雨も水場のないこの場所にとっては恵みの雨なのだろう。 しばらく雨を浴びながら飲むと、急いで家の中に入り服を脱いで絞り、親指の服も脱が せて絞り、服を拡げて家の中に置くと、親指の死体と語らいながら雨降る外を眺める。 そして、しばらくそうしていると再び服を身にまとい外に出て水を仰ぎ飲む。 いちいち服を着たり脱いだり律儀… と言うにはあまりにも不効率な行動ではあるが。 それが、この親子が割とまともに飼われていてしっかりと親実装の教育が行き届いてい る事を物語っていた。 野良に落ちても、そうした律儀な生活を続けていたのだろうか? そして、何度か繰り返すウチに良いことを思いついたという顔で裸のまま飛び出すと、 雨の中、身体を擦りだした。 鼻歌でも歌っているのだろう。 足もピョコピョコ交互に上がって踊っているようだ。 さらに、親指も服を脱がせた状態で持ち出してくるとしばらく高く掲げ、胸元に戻すと 抱き締めながら手を動かし洗っている。 天気の所為で暗くてよく見えないが、ライトに照らされ一瞬見える親指実装は血の気が 失せ腐敗している紫の肉体。 腐乱した死体を振り回し、何度も服を着せたり脱がしたりすれば… まして力加減をしても、その皮膚を何度も擦ろう物なら、当然の如く親指の死体は崩れ てしまう。 俺が再び見たとき、仔実装は家の入り口で親指の死体を地面に置き、裸のまま膝を突い て、片手に親指の物だろう小さな服を手にして頭を掻きむしりながら泣き喚いていた。 その死体は首と胴体が離れてしまっていて、時に頭を、時に胴体を持ち上げてみて、何 度かその2つを地面の上でつなぎ合わせようともしていた。 実際には、部品は2つどころではないようなのが分かる。 ついにこの日、仔実装は生きているのが自分が一人きりになってしまった事を理解した 様だ。 それでも仔実装は、夜になってもその親指の死体を家の入り口に置き、その服を上に被 せたまま家の中で裸のままで膝を抱えて眺めていた。 餌もない状況にありながら、仔実装は、親の肉塊にも親指の死体にも手を出すことなく、 孤独に膝を抱えて、その日を過ごしていた。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 観察4日目。 天気は薄曇りながら時折陽が出る状態だった。 昨日よりカラス達には都合の良い天気ではあるが、今日の朝は静かな物だった。 どうやら昨日の雨曝しもあって、水分を持って腐敗が酷いほうに進行したためにカラス にすら親の肉塊は倦厭されたようだ。 と言うか、昨日の時点が限界と踏んだから、小雨という天気の中、肉を啄ばみに来てい たのかもしれない。 ただでさえ動く異臭源、歩く肥溜めと言われる実装石。 時には、その不潔さと異臭故に、そうした捕食者から逃れられる者が居るとすら言われ るほどである。 例え普段身奇麗にしていたであろう者でも、腹に収まっているのはそうした生き物避け の武器にすら使われることがある糞である。 それに腐敗が加われば、寄ってくるのは嗅覚のベクトルが違う昆虫ぐらいの物であろう。 いつになく静かな朝に昨日睡眠が浅かったのだろう仔実装は、形だけ何とかなっている 家の屋根の下で、まだ、膝を抱えたままウトウトと頭を揺らしているようだった。 結局、カラスの鳴き声が聞こえないと言うだけで、騒音激しい中、昼頃まで眠ったまま だった。 そして、昼… ようやく目を覚ました仔実装は、既に陽が高くなっていることに気が付 いて、慌てて脱いでいた服を手に立ち上がり、崩れて高さのない天井に頭を打ち付けた。 形を整えただけの屋根に雨が溜まって、只でさえ崩れて低かった天井が、重みでさらに 低くなっているのに気が付かなかったようだ。 余程勢いよくぶつけたのか這いながら家を出ると頭を抱えてしゃがみ、糞も漏らして震 えている。 頭頂部をぶつけるのは苦痛だろう… 何せ痛くても触って確認したり押さえることが出 来ない。 人間も良くやるが、ぶつけたところを触って確認する行為で精神的に痛みを和らげるこ とが出来る。 ぶつけた近くを圧迫して感覚を感じることで痛覚が分散し、鋭敏になるのを和らげる。 効果としては気休め… だが実装石にはソレすら出来ない。 まったく存在がコントの様な生物だ。 数分、頭を抱えていた仔実装は、ゆっくり涙目で立ち上がると、自分の足下の糞を見て、 自分の股を見て、頭と身体を捻って尻も見ようとする。 昨日、恵みの雨で洗ったばかりの身体は早くも脱糞で汚れる結果となった。 そして、天を仰ぎ見るとカクンといつものようにうなだれた。 昨日みたいに雨が降らないものかと期待したのだろう。 そうそう仔実装の都合良く天気が変わる物ではない。 仔実装は仕方なく、付近の葉っぱをもぎ取るとそれで身体を擦って服を身にまとう。 葉は小さく硬く、身体を擦って拭くにはいささか不向きで至る所に擦り傷が出来た。 それでも、何もしないよりはマシである。 新陳代謝の速さから垢が出来やすい実装石は、強めに擦って薄皮を剥くぐらいが清潔を 保てる。 勿論、水があるなら水に浸かれば、痛みも無く自身で届かないところの垢も取れるのだ が…。 服を着終わった仔実装は、突然、片手を口の上… 人間なら鼻のある場所を押さえ出す。 穴が開いているようには見えないが実装石もソコで臭いを感じているようだ。 鼻を押さえた仔実装はキョロキョロと辺りをうかがいながら歩き出す。 どうやら、親の末期の一番酷い腐敗臭が辺りに漂っていることに”ようやく”気が付い たようだ。 しかし、どうも親の肉塊がその異臭の元であるとは気が付いていないようで、鼻を押さ え顔をしかめながら、既に何匹かの蠅が舞っている肉塊にに近寄ると、涙を流し両手を拡 げ肉塊に抱きつこうとする。 『 ママー臭いテチ 何か凄く臭いテチィ〜 』辺りを言って泣付こうと言うのだろう。 そのまま、一瞬、時が止まったようにその姿勢で固まる仔実装…。 次の瞬間、どうすればそんな動きが出来るのか理解に苦しむ様な、両手を拡げたままの 姿勢で華麗に背面に跳躍して尻餅をつく。 さらに、2、3度悶絶するように鼻を両手で押さえて卒倒し左右に転がるとガタガタ震 え、目を剥きだし、涙を振りまきながら、親の肉塊を見てズリズリと尻を擦りながら後退 する。 どうやら悪臭の元が親であることは理解できたようだ。 親が死んでいるのが判るのに時間が掛かったのだ、死体が”腐る”という概念もないだ ろう。 それに、それまでも腐敗臭はしていただろうが、それが生きていると信じる気持ちが強 く臭いを感じさせなかった…。 状況的に他の事に思考をとられて、臭いを気にする間もなかったのもあるだろう。 朝、カラスの鳴き声が聞こえないというだけで、車の騒音の中眠り続けていたのと同じ、 自身の都合に合わせて感覚機能がそれなりに麻痺する。 だが腐敗度最高潮の現在、親が死んでいると理解しても、まだそれが親だと認識してい ているのだが、その気持ちではどうにもならない悪臭に仔実装は恐れおののきパニックに 陥った。 仔実装にとって、親が”ただのモノ”にまで墜ちた瞬間である。 油断していただけに、そのカウンターで感じた臭いは壮絶とか程度の語句で表現できな い物だろう。 背面四つん這いで膨らんだパンツの尻を引きずりながら、仔実装はなんでそんなに器用 に出来るのか歩くより速い速度で後退し、家の壁に当たると手探りで家の中に入り、家か ら顔だけを覗かせて肉塊を見つめている。 こんなになっても、アレを親だと思う未練はあるのか…。 結局、この日はそれ以降、家の外に顔を出すこともなくなってしまった。 余程のショックだったのだろう。 昨日と同じく親指実装の死体を前に置き、膝を抱えてしまっている。 親指の死体も相当に腐敗が進行しているだろうに…。 観察の楽しみも無いので、俺も残業をほどほどに切り上げて速やかに家に帰った。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 観察5日目。 翌日、本日は軽く小雨がちらつく空模様だ。 俺が見つけてから5日目… 親の肉片はもはや肉片とも言えない奇妙な色彩となってい た。 実装石の死体は腐敗速度が速いとは言われているが、大抵は腐敗が進行する前に他の動 物や同族によって喰われてしまうために、死体が何日も放置されるのを人間が目にするの は希である。 朝の橋の上からの観察を終えた後、俺がその場を離れると、一人の小さな小学生の女の 子が入れ替わりに俺が立っていた場所から下を覗くのが見えた。 女の子は下を覗いて一瞬で顔を背けると、小走りで去っていったので、俺は、単に俺が 下を覗いていたことに興味を持っただけなのだと思った。 仔実装は崩れかけた家の中から、その肉塊を眺めているようだ。 職場から改めて眺めると、ようやく仔実装は朝の行動に取りかかるようだった。 思えばこの数日、仔実装には衝撃的、俺には笑撃的出来事の連続でまともに食事もとっ ていない様子。 仔実装はすっかり弱り切った様子でヨタヨタと歩き出すと、付近の植え込みから葉っぱ を摘んで取り敢えずの空腹を紛らわせる。 まだ、食べ慣れない葉っぱだけに一気に大量に頬張る事が出来ない。 少量ずつ咀嚼して飲み込んでいては腹が脹れないのか、仔実装はフラフラと家の周りを 歩き出す。 何をしているかと思えば、自分がした糞の山に興味をそそられているようだ。 フラフラと小さな山として点在する糞の周りを歩き、最初は何気なく通り過ぎる振りを して、次第に未練を残して顔を向けながら通り過ぎ、それでもグルグルと家の周りを回り、 やがて覗き込んだり顔を近づけて臭いを嗅ぎ出した。 今までは理性が抑制していたが、いよいよ追いつめられたという感じがプンプンする行 動が、実に観察しがいのある動きである。 そして、ついにその一山に手を伸ばし、手にすくい取り臭いを嗅ぎ出す。 もう、それは糞であると認識しないように自分の意思で押さえつけている表情である。 だが、その糞はまだ時間がそれほど経っていないので臭いが強いのか、どうやら寸前で ”ウンコは食べてはいけない”という事を思い出させたようだ。 しかし、その糞を払ってもすぐに別の山に手を伸ばし、同じように鼻に近づけて臭いを 嗅ぐと…。 今度は何の躊躇いもなく口に手を突っ込み舐め出す。 ソレが大変お気に召したのか、その糞の山の前でペタリと腰を落とすと、笑顔でソレを 両手で交互に掬っては口に運び、あっという間に食べ終えるとしばらく咀嚼を味わい別の 糞を探し始める。 今は、水分が抜けて糞としての臭いがかなり落ちた物が糞の認識から外れるようだが、 いずれ臭いに鈍感になって、やがては糞と判っていても食べるようになる。 実装石は雑食性ではあるが、先のとおり野良や飼い実装の味覚嗜好の基本は人間の風味 で、かつ肉食傾向に偏っている。 糞には、食物の分解をするバクテリアコロニーの死骸や新陳代謝で生じた体内老廃物も 多く含まれるので実装石的には肉寄りな風味で栄養価もゼロではない。 勿論、全体的にはプラスマイナスでマイナスなので、延々と自身の糞だけ食い続けてい れば、流石の実装石も短期で栄養失調だ。 だが、食用ならまだしも食用ではない葉っぱと比較すれば肉的な風味や感覚がある糞の 味の方がマシである。 そして比較区別であっても、一旦、美味しいというイメージが頭に植え付けられると糞 食に抵抗が無くなる。 一旦、こうして糞食を覚えてしまえば、もう飼い実装に戻ることは出来ない。 まぁ、飼い実装に戻る以前の問題が山積みなんだけどな。 こうして、取り敢えず腹だけ膨らませた仔実装は腹が満たされ、早速、パンツを降ろし てしゃがみ嬉しそうに糞をする。 糞を喰って糞を出し、その糞を喰らう… ”糞絞り機械”というあだ名は伊達ではない。 快便をした仔実装は、早速、その糞に顔を近づけて臭いを嗅ぎ出す。 すぐに顔を歪めてその場を離れるが、出した直後の糞に興味を示すという事は、早くも 糞を糞と判って喰うことに対しての抵抗感は失われつつある様である。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− その後、仔実装は汚れた身体を洗うために裸になるが、雨脚は弱い霧雨で身体を洗える 程の雨ではない。 それでも、糞を平気で食い物にしながらも汚れた身体は別に気になるのか、その2日前 に洗っても既に薄汚れ、垢と糞で茶色と緑が斑になった肌… さらに粉塵が付着し濡れて 泥状になり所々が黒くなった肌を露出して葉っぱで丹念に擦り出す。 それでも、葉っぱで薄皮を剥くように磨けば見た目にはすぐに日焼けを知らぬ白い肌が 現れるはずであった。 この天気だけに微妙に濡れた葉には粉塵が泥状になって付いてるものもあり、調子よく 擦って垢を落としたつもりが、その泥をパックの様に塗り拡げて汚れていき、ふと気が付 いて、いつものようにカクンと項垂れてしまう。 何事にも調子に乗りすぎ、やりすぎる傾向があるようだ。 それでも、頭の弱い仔実装だけに、すぐに気分を入れ替えて服を身につけると辺りを歩 き出す。 今回は前回とは違い、慌てることなく時間を掛けてウロウロと歩き回っている。 丹念に植え込みの下を覗いたり気になったら植え込みの下に手を伸ばすなりして、むや みやたらと右に左に、奥に手前にと特に目的もなく移動するという事は少ない。 どうやら、今度こそ自分の居る場所や環境を把握しようとしているようだ。 流石に、生き残ったのが自分1匹だけであると言うことが判ってきて、なんとか生き残 るために出来ることをしなければならないという行動に変わり始めた様だ。 すでに、あの分離帯に落ちて最低でも5日が経過してようやく… ではあるが。 それでも、注意して探検したお陰で、色々成果があったようで、虫や小鳥の死骸や捨て られた雑巾など思いも寄らない成果が手に入ったようだ。 それに、仔実装も色々とそれなりに考えて行動するようになってきたのか、一度は捨て た缶ジュースの空き缶を垂直に立てたり、家の中に片付けた思い出の小物も幾つか持ち出 して家の周りに置きだした。 しばらくその小物の容器を眺めると、突然持ち上げフラフラと揺らした後、ペロリと容 器の中を舐めて『 テッチャァ〜ン♪ 』と聞こえるような満面の笑みをする。 どうやら、雨水の確保の方法を思いついたようだ。 そのちょっと普通より賢い感じの行動が、ちょっとありきたりでつまらなくもあり、5 日の観察でドタバタのコント的馬鹿行動に飽きてきた中では新鮮であったりもする。 こうして夕方頃になると仔実装は探索をピタリとやめる。 どうやら、陽の傾き具合とか暗さでの時間感覚ではあるが、時間を決めて1日の秩序を 作ろうというのだろう。 仔実装は崩れかけた家の前で大きく口を開けてパクパクと形を変える。 どうやら何かを大声で叫んでいるようだ。 救いを求めているのか、家族との幸せを思い出でも歌っているのか… ふと見ると歩道橋の上から、今朝逢った小学生がその様子をジッと見下ろしているのが 見えた。 確かに朝の小学生の女の子である。 弱い霧雨とはいえ、傘も差さずに何分もその場で真剣に見つめるまなざしから、単に興 味が惹かれただけという訳でもなさそうである。 結局、仔実装は5分間も絶叫らしき行為を続け家の中に入ると膝を抱えた。 女の子も仔実装が家にはいるまで歩道橋から仔実装を見ていた。 そして、仔実装が見えなくなると小走りに走り出していた。 仔実装の方はそのまま疲れてしばらく寝ると、すっかり暗くなってから再び動き出した。 昼間は明るさを生かして落ちている物を探していたようだが、夜は道路沿いの縁をゆっ くりと歩いていた。 何かを探している様子はなく、通り過ぎる車を眺めてながら歩き、やがて、その縁に座 るとただひたすらに車道を見つめた。 下に降りて怖い目にあったことをまだ覚えているのだろうか? 仔実装は暗くなった世界、僅かな街灯や街の灯りが作る薄暗い世界で、時折、通り過ぎ る車のライトに目を細めたりしながらずっと車道を見続けるだけであった。 既に服は最初の頃の面影はない。 ただでさえ新陳代謝が激しく糞も漏らし放題、まともに洗う水にも事欠く有様で、なお かつ道路の傍と言うこともあり粉塵にも晒される。 服の緑も顔の肌色も、もう元の色を残している部分を探す方が難しい程に薄く色がくす んでいる。 見ているだけなら、その程度で済むだろうが、実際の臭いはさらに大変なことになって いるだろう。 それでも、仔実装はたった1匹でその場所にあり続けた。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− つづく
