「スイ・・・悪いが、僕はもうスイを飼う事が出来ないんだ。」 『デス?』 「散歩」と称して公園へ連れてこられた飼い実装スイは、飼い主に突然の宣告を受けた。 『な・・・何言ってるデス?ご主人様?』 仔の時に怪我をしているところを今の飼い主に拾われ、成体になるまで飼われてきた。 もちろん仔の時は多少の粗相はしたかもしれない。 だが、飼い主の躾を通して、人間社会での最低限のマナーは学んだ。 今は飼い主に逆らうなんてことは絶対にしないし、むしろ家事の手伝いなどは進んで行うようにしている。 『ワ・・・ワタシが悪いことをしていたのなら言ってくださいデス!直すデス!もう二度としないデス!』 「ごめん・・・スイ・・・とにかくもう一緒にいてあげることが出来ないんだ・・・さよなら」 男は踵を返し、公園の出口へ走っていった。 『ま、待ってくださいデスゥーーー!!』 スイは必死に走るが、もちろん人間の足には追いつかない。 公園の外からはブロロローーと車の走り去る音が聞こえてきた。 『そんな・・・デスゥ・・・』 飼い主に乗せられてきた車が去ってしまったことを理解したスイは、本当に捨てられたことを実感した。 だが、かつては飼い主が家事を任せるほどの信頼を得るくらい賢い実装石であるスイはすぐに気持ちを切り替えることにした。 『もしかするとご主人様の気が変わってワタシを迎えに来てくれるかもしれないデス、それまで何としてでも生き延びるデス!』 まだ飼い主は自分のことを愛してくれている・・・そんな希望を胸に秘め、たった一人ぼっちでも生きていくことを決心した・・・が、 『・・・って、ワタシ裸デスゥ〜〜〜〜!!そういえば出かける前にご主人様に外は暑いからって服は脱ぐように言われてたデス!』 嗚呼なんたることだろう!飼い主の粋な計らいが仇になるとは! 野良実装もいくら暑くても自分の命である服を脱ぐなんて真似はしない。裸の実装が自然界でどうなるかは言うまでもあるまい。 『困ったデスゥ・・・とにかくここに居て他の実装石に見つかったら大変デスゥ。そっと隠れるデス・・・』 公園のど真ん中に居たスイは、草むらへ向かってそっと歩き出した・・・が、 ”プッ!プッ!プッ!プッ!プッ!プゥ〜!” 『デェ〜!ご主人様に買って貰った子供とかがよく履く歩く時にプッププップ音が鳴る靴がうるさいデス!これじゃ見つかっちゃうデス!』 神も仏も無いのか!可愛いペットである実装石が何処にいても解るように与えた靴が危機をもたらすとは! 野良実装も裸でしかもおかしな音を出しながら歩く実装石をほっておくはずがなかった。 『デプププ・・・何デス?あの裸は?』 『歩く時に変な音が鳴るデス。お前はタラちゃんかデス。』 早速好奇心を煽られた野良実装たちにスイは取り囲まれた。 『デェ〜困ったデス・・・そうデスこんな時はデス!』 スイはあることを思い出した。以前音の鳴る靴を飼い主に与えられたときにこう言われたのだった。 「もしもスイの命にかかわることが起こったら、この靴の底を破るんだ。きっとスイの力になるだろう。」 この靴はスイと飼い主との間を繋ぐ靴だった。 いくら音が出てスイに危険が及ぼうとも脱がなかったのは、そうすることで飼い主ともう二度と会えなくなるかもしれないからだった。 しかし、今はそうも言っていられない。そうだ、大事なのは目に見える物なんかじゃない。大事なのは・・・ 『ワタシはご主人様を信じるデスゥ〜〜〜〜〜!』 そう、主人を信じる心が大事なのだ。それを悟ったスイに怖いものなど無い。靴の底を一気に破りとった。すると・・・ ”ハズレ” なんたる不運!スイが破った右足の靴からは飼い主のちょっとした茶目っ気で入れた紙切れが出てきただけだった。 なんかすげえかっこいいこと叫んだわりに何も起こらないことが解り、野良達はスイに襲い掛かり始めた。 しかも飼い実装であることをカミングアウトしたため、野良のボルテージは一気に上がる。 『デェ〜〜〜ついてないデス!はずれデス!となると当たりはこっちデス!』 スイは左足の靴を脱ぐと、底を破り始めた。すると・・・ 『デ?何デスこれ?』 左足の靴の底からは、赤いボタンの付いた発信機のようなものが出てきた。 もちろんスイはこんなもの見たことないし、ボタンを押すとどうなるのかわからない。 しかし、野良実装達は目の前まで迫ってきていた。 選択肢なんかない。このボタンを押すしかないのだ。しかも赤いのならなおさらだ。 『ワタシはご主人様を信じるデスゥ〜〜〜〜〜!ぽちっとなデス!』 スイは力いっぱいボタンを押した。 一見何も起こらないように思えた。しかし、スイは急に頭に衝撃を感じ、思わず地面につんのめった。 何が起こったのかわからなかったが、目の前に野良実装以外の、銀色の、何かが落ちていることに気づいた。 タライだった。 もはや何も言うまい。可愛いペットを外敵から守るために落としたタライが可愛いペットに直撃するとは誰が信じようか。 急に降ってきたタライが裸実装に当たったことにひるんだ野良実装達だったが、 もうタライが降ってこないことを確信した野良達はスイへ襲い掛かった。 『デェ〜やめるデス!髪を引っ張るなデス!痛いデス!もげるデス!』 まさに宴が始まったのだった・・・。 『やばいデス!逃げるデス!』 雨のように降ってきた蹴りや拳が止んだ。ぼんやりした意識の中で、人間の足音が近づいてくるのが解った。 そうか。人間が来たから野良は逃げたのか。奴等が媚びずに逃げるのなら愛護派ではない、虐待派だろう。 ワタシも逃げなければ殺されてしまう。 『デ・・・デェ・・・』 しかし、体中動くところは無かった。手足は全て折られていて逃げることはおろかは歩くことも出来ない。 もう駄目だ・・・殺される・・・せめて・・・もう一度あの主人の暖かい腕で抱かれたかった。 スイがあきらめたその時だった。スイの体が浮いた。この感覚・・・ 「大丈夫かい。スイ?」 その声・・・まさか 「こんなに怪我をして・・・待ってろよ、今助ける。」 間違いない。 『デェェェェェ!デェェェェェェェスゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!』 スイは両目から赤と緑の涙をこぼし、泣きじゃくった。愛する飼い主の腕の中で。 『会いたかったデスゥ!寂しかったデスゥ!』 「ああ、僕もだよ、スイ。」 いつものご主人様だ。いつもの優しいご主人様だ。いつもの赤いヘルメットを被ったご主人様だ。 ・・・赤いヘルメット? よく見るとスイを抱いたもう一方の腕には何やら書かれた看板を持っている。 ”ドッキリ大成功!” 『テッテレ〜』 近くにいた蛆実装が例の音楽を叫んだ。 『ド・・・ドッキリ・・・デス?』 何がなんだかわからないスイに男は、『テッテレ〜』と叫んだ蛆実装の目をよく見るように言った。 右目は自分と同じ赤い瞳だが、もう片方は・・・ 『デェ〜!隠しカメラデスゥ〜!・・・ということはずっと見てたデスゥ!?』 「はっはっは!スイが裸なのに気づいた顔といったらなかったよ!」 『デスゥ〜ご主人様たらひどいデスゥ〜 こんなんじゃテレビに出られないデスゥ〜』 「テレビ?テレビって?」 『何言ってるデスか。前にご主人様がワタシは可愛いから大人気番組”どっちの実装ショー”からオファーが来たって言ってたデス!』 「ああ〜あれね」 男はニヤニヤし始めた。ま・・・まさか・・・。 「そう、コレ!」 男は手にもった看板をスイの目の前に突き出した。 『デェ〜!そ、そりゃないよデスゥ!』 「スイ・・・僕のいない間にサインの練習なんかしてるんだねえ〜」 『デ!?何でそれを知ってるデスゥ!?も、もしかして・・・』 「ああ・・・スイのゲージに仕掛けさせてもらったよ・・・隠しカメラをね!」 『て、天才デス!ご主人様はドッキリの天才デスゥ〜!』 スイは怒りを通りこしてむしろ感心していた。ドッキリにここまで情熱を掛けるなんて! 「じゃあスイ、最後に蛆ちゃんの隠しカメラに向かって一緒に叫ぼうか」 『わかったデス』 『「せ〜の、ドッキリ、大・成・功!」』 その晩スイはゲージの中で、髪の無くなった頭を撫でながらさめざめと泣いた。
