タイトル:【観虐】 昆虫採集瓶
ファイル:好奇心実装石を殺すか?.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:11708 レス数:0
初投稿日時:2010/06/15-22:41:50修正日時:2010/06/15-23:59:04
←戻る↓レスへ飛ぶ

 六月某日、天気快晴。
 何の変哲もない午後一時半。
 照りつける日差しと、空に浮かぶ入道雲。

「いいお天気テチー」

 公園の片隅を、仔実装石が一匹歩いていた。仔実装が無防備に一匹で出歩けば、他の実
装石に襲われるのが常だが、今この公園に実装石はほとんど残っていない。

 五日前の日曜日に駆除が入り、公園の実装石はほぼ全滅。

 この仔実装は駆除を生き延びた一匹である。賢い親実装があらかじめ作っていた避難用
の穴に隠れて助かったのだ。駆除を行ったのが専門業者でなく、近所の住人とレンタル実
蒼石三匹ということも幸いしただろう。

 それでも、親実装が仔を一匹で歩かせることはない。賢い親ならなおさらである。仔実
装は隠れて待っているようにと言った親実装の言いつけを破り、こっそりと巣を抜け出し
ていたのだ。引き留めた姉妹の言葉も聞かず。

 一匹だけの公園探検である。気が済んだら帰るつもりだった。親実装には怒られるだろ
うが、探索の楽しさには変えられない。

 それが仔実装にとっての最大の過ちだった。

「テッ」

 足元の地面が消える。

 浮遊感が身体を包み、次の瞬間には足から脳天まで突き抜ける衝撃が走った。ほんの十
センチ程度の落下。しかし、無防備状態の仔実装にはその衝撃が響いていた。

「何テチィ……」

 何が起こったのか分からず、仔実装は疑問符を浮かべる。軽く挫いた足をさすろうと手
を下ろすが、手が下ろせない。

 すぐ目線の下に地面があった。それが顔にぶつかっている。

「テェ?」

 足の痛みも忘れ、仔実装は目の前の地面を見つめた。

 ほどなく、自分が地面の穴に落ちたことを理解する。

 深さは仔実装の口元が地面から上に少し出るくらい。普通の穴だったら、なんとか抜け
出せていただろう。しかし、その穴は仔実装の力では出られるものではなかった。

「この穴は何てテチィッ」

 仔実装は混乱しながら、その場でくるくると回る。

 穴は仔実装がすっぽり入れるくらいの円筒型で、表面はつるつるのガラス。しかも、地
面に向いている口の部分が、少しだけ細くなっていた。底の方には、砂や小石、昆虫の死
骸などが落ちている。

「誰の仕業テチッ!」

 それは地面に埋められた瓶だった。

 昆虫を捕獲するための採集瓶である。瓶口まできれいに地面に埋め、中に入れた餌で昆
虫をおびき寄せ、中に落として出られなくする仕組みだ。誰かが仕掛けたまま放置されて
いたものに、仔実装は気付かず嵌り込んでしまったのである。単なる偶然だが、その採集
瓶は大きさ深さともに仔実装一匹を捕まえるのに最適だった。

 傍目には、仔実装の生首が地面から生えているように見えるだろう。

「誰か助けてテチィィィ!」

 仔実装は叫んだが、誰も助けは現れなかった。








 午後二時半。

 仔実装が瓶に落ちてから一時間が経つ。

「テェ……。疲れたテチ。誰か助けてテチ」

 あれから何とか脱出しようと色々と試みたが、全てが無駄に終わった。狭い瓶の中では
満足に手足を動かすこともできず、狭い口も相まって手を外に出すことさえもできない。
両手両足を瓶の内側に突っ張っても、狭い口に阻まれ身体を持ち上げることもできない。

 仔実装が瓶に入れたのは、体型や姿勢が偶然重なったからだ。
 入るのは簡単、出るのは困難。

「誰かいないテチィィ!」

 声を上げても反応は無い。

 駆除前だったら、どこかの成体に見つかり捕まっていただろう。駆除後では仔実装を捕
獲しようとする実装石はいない。生き残った個体は賢い者が多く、仮に仔実装の声が聞こ
えていても不用意に近づくことはないだろう。

「疲れたテチ、座りたいテチィ。でも座れないテチ……」

 仔実装は立ちっぱなしのまま、青い空を見上げていた。

 狭い瓶は仔実装が一匹立っているだけの空間しかない。座ろうとしても腰を下ろすこと
もできなかった。瓶が単純な円筒形なら、壁に寄りかかることも出来ただろう。

 しかし、瓶の口が細くなっているため、瓶の壁に寄り掛かることも出来ない。壁により
かかろうとすると、今度は首が瓶の口に引っかかってしまうのだ。それでも無理に寄り掛
かろうとすると、あちこちの筋肉が悲鳴を上げる。

 結果、直立姿勢を崩せない。

「足が痛いテチ……」

 歩いていれば筋肉や血管が動き、痛みを覚えることはない。だが、仔実装はずっと同じ
姿勢で立っていた。そのせいで足の骨や筋肉、血管が痛みを訴えている。しかも、足の下
には小さな石や昆虫の死骸があり、それが足裏に絶えず痛みを与えていた。

 座れもせず、壁により掛かることもできない。

 なによりも。

「暑いテチ……」

 仔実装は空を見上げた。

 太陽の位置が変わり、瓶に直射日光が当っている。仔実装の目には、地面から立ち上る
陽炎が映っていた。梅雨前だというのに、真夏のような暑さ。日の当る場所の気温は三十
度を越えている。

 朦朧とする仔実装の意識。汗で皮膚に貼り付く実装服が気持ち悪い。

「喉乾いたテチ……、お水欲しいテチィ……!」

 その願いはしばらくして叶うこととなった。








 さらに一時間が経った午後三時半。

 さきほどまで青かった空が黒くなる。日の光も遮られ、辺りも暗くなった。冷たい風が
吹き抜け、周りの木々の葉がざわめく。

「テチュ♪ ちょっと涼しくなったテチィ」

 顔を撫でる空気に、仔実装は力無く笑った。

 暑い空気と、上空に入り込んだ寒気のせいで、急激な上昇気流が起こり積乱雲が発生し
ている。その積乱雲は風に流され、仔実装のいる公園の真上まで着ていた。

 ポツポツ……

 水滴が落ちてくる。

「テェェェッ!」

 顔に当った水に、仔実装は空を見上げて口を上げた。熱中症を起こしている身体に触れ
る冷たい水。皮膚に触れた水滴が、蒸発によって火照った身体から熱を奪う。

 時折口に飛び込んでくる雨粒に、仔実装は顔をほころばせた。

「雨テチ……。お水テチ、もっとお水テチー」

 黒い空に向って、叫ぶ。

 ——その願いは叶った。

 ザァッ!

 一気に強くなる雨脚。
 推定降水量30mm越えの豪雨である。 

「テヂュアアァァァ!」

 水の弾丸のような雨粒に顔を打たれ、仔実装はその痛みに悲鳴を上げた。








 十分後。

 雨脚はいくらか弱くなっている。それでも十分に強さを維持していた。降水量20mmほど
の強い雨である。傘を差していても濡れるほどの雨。

「助け……て、テ……チィ……!」

 仔実装はさきほどまで必死に求めていた水に苦しめられていた。

 仔実装のいた場所は運悪く、流れる雨水の通り道だった。雨の日に学校や公園などで見
かける雨水の川、あれである。そのど真ん中に仔実装はいた。

「死ん……じゃう、テチィィ……!」

 容赦なく雨を降らせる空を眺め、仔実装は色付き涙を流していた。瓶が水で満たされた
おかげで、浮力が働き身体の重さはほとんど感じなくなっている。足の痛みは消えている
が、それには気付いていない。気付く余裕もない。

 雨水の川の水面は、仔実装にとってぎりぎりの高さだった。辛うじて頭は水没していな
い。だが、必死に背伸びをして顔を真上に向けていないと、口と鼻が水面下に沈み窒息す
る。誰かが謀ったように生死を分けている高さ。

「苦し……い、テチャァ……ァ……!」

 顔を打つ雨の痛み。口や鼻に流れ込んでくる雨水に呼吸もままならない。

 もう少し水面が低ければ、浮力で楽になっていただろう。もう少し水面が高ければ、窒
息して仮死していただろう。雨の量と流れていく水の量が釣り合い、水位はその中間の一
番辛い数ミリを維持していた。

 クククッ、クゥキュゥ……

「ヂュ……ィ……!」

 腹から聞こえた異音に、仔実装は思わず目を真下に向ける。その拍子に、鼻まで水面下
に沈んだ。口や鼻に容赦なく入り込む水の痛み。

「ヂボボボ……」

 鼻や喉の激痛に手足を振り回し、あっさりと糞を漏らす仔実装。

 暑さで体温が上がったか身体を、雨水によって一気に冷却。そこに、大量に雨水を飲ん
だことで、下痢を起こしていた。総排泄孔から吹き出した液便を、自らの手足で撹拌して
瓶の中身を汚れた緑色に染める。

 口にも入ってくる、糞混じりの水。

「テェェッ! もう嫌テチィィッ!」

 何とか顔を上げながら、仔実装はただ嘆いた。








 公園の林のやや奥まった所に、実装石の巣があった。

「デェェェッ!」

 ずぶ濡れの親実装が、大慌てで巣に転がり込む。ぱさりと音を立てて放り出されるコン
ビニ袋。中には食べられる草が少し入っていた。いきなりの雨に餌探しを中断し、全速力
で帰って来たところである。

「酷い雨デスゥ……」

 低木の枝の間に草や枯れ枝を差し込んだ簡単な巣である。多少の雨なら防げるが、この
豪雨では雨漏りし放題だった。それでも、遮るものが何も無いよりはマシだろう。

 元々住んでいた木箱の家は、駆除によって持ち去られてしまった。何も無い所から突貫
作業で作り上げたのがこの巣である。邪魔が入らなかったため、作るのにさほど苦労はし
なかった。手頃な箱が見つかるまで、この簡単な巣に住む予定である。

 巣の奥に隠れていた仔実装たちが出てきた。

「ママ、おかえりテチー」
「ずぶ濡れテチ」
「三女チャンが、帰って来ないテチ」
「デ?」

 意識に引っかかった長女の言葉に、親実装は仔実装を見回す。子の数を数え、すっと血
の気が引いた。四匹いた仔だが、今は三匹しかいない。

「三女はどうしたデス?」

 硬い声で尋ねる。

「お昼過ぎに勝手に遊びに行っちゃったテチ」
「止めたのに行っちゃったテチ……」
「まだ帰って来ないテチ」

 口々に答えてくる三匹。
 それで、親実装は大体の経緯を理解した。

「三女……」

 雨漏りのする巣から、大雨で霞む公園を見る。

 元々三女は好奇心の強い仔実装だった。頭の程度はそこそこなのだが、好奇心の誘惑に
勝てない。自分の理性で好奇心を抑えられないのだ。それは下手に頭が悪いよりも危険な
こと。三女の致命的欠点である。

 それを直せなければ三女を間引くと、親実装は決めていた。

(来る時が来てしまったデス……)

 覚悟していた事態に唾を飲み込み、親実装は降りしきる雨を見つめた。三女が生きてい
るか死んでいるか、半々だろう。成体でも辛いこの大雨、仮に生きていたとしても無事と
は思えない。また連れ帰れたとしても今後三女が家族に災厄を招く可能性もある。

「雨が上がったら探しに行って来るデス……」

 残った仔に、親実装はそう告げた。






 午後六時過ぎ。雨脚は弱くなったが、未だ雨は降り続いている。

 夏至が近いとはいえ、分厚い雨雲のせいで辺りは薄暗い。

 流れ込む水が減り、水溜まりの水位は少し下がっていた。顔を上に向けずとも、何とか
呼吸が出来る程度まで。あれから何度か下痢を繰り返し、瓶の中には汚れた緑色の水が溜
まっている。水の浮力が仔実装の足にかかる負担を大幅に軽減していた。

 だが、災難は終わらない。

「さ、寒いテチ……」

 仔実装は身体を蝕む寒さに震えている。

 ずっと水に浸かっているせいで、体温が奪われていた。

 雨の原料は上空で作られた氷。降る途中に気温の影響を受けても、意外と温度は上がら
ない。たとえ夏でも雨水の温度は20℃程度。また水の熱伝導率は0.58w/mKで、空気の熱伝
導率約0.02w/mKよりも遙かに高い。

 つまり、水の中にいれば確実に体温が奪われる。

 カチカチと歯を鳴らしながら、仔実装は何とか体温を上げようと狭い瓶の中で身体を動
かしていた。が、周囲の水になすすべなくその熱も奪われていく。

「ママァ……た、助けに、来て、テチィ……」

 弱々しい声で、仔実装は泣いていた。








 午後八時前。
 雨はほぼ上がり、霧雨一歩手前まで雨脚は弱くなっていた。

 辺りはすっかり暗くなっている。雲は残っているため、月明かりもない。実装石は夜目
が利くわけでもなく、聴覚や嗅覚に優れるわけでもなく、周囲の状況は全く分からない。
普通なら日没後すぐに寝てしまうのが野良実装石である。

「ママ……」
「三女チャン帰って来ないテチ……」
「心配テチ」

 三匹の仔が暗くなった外を見ていた。眠い目をこすりながら、見えない暗闇に目を向け
ている。いつもは眠っている時間だった。

 夜の闇を見つめ、親実装は呟く。

「これじゃ見つけられないデス。夜が明けたら探しに行くデス。みんな、もう寝るデス」
「テチィ」

 仔実装たちは、親実装が三女を見捨てた事を薄々感じていた。








 雨は止んでいる。
 真っ暗な夜闇の中、仔実装は瓶の中にいた。

「テェ……ェェン……」

 力無く泣く。
 だが、何も変わらない。

 暗い、寒い……何よりも怖い——!

「嫌テチ、まだ死にたくないテチ……。テェェン……」

 すぐ近くまで迫った死という状況に、仔実装はただ無力に怯えていた。

 体温が奪われ、体力も奪い取られ、動くこともできず、瓶から出ることもかなわない。
もう震える余力も残っていない。身体が冷え切り、寒いという感覚さえも消えている。

「テェ……ェ……ン……」

 仔実装にできるのは、ただ無力にか細く泣くことだけだった。

 やがて泣く力も無くなって。

「テ……」

 ふと仔実装の足から力が抜ける。元々身体の感覚も消えていたが、不思議と膝が折れる
のが分かった。朦朧とした意識の中、その虚脱感に逆らうこともなく、仔実装は落ちるよ
うに自分の動きに身を任せた。

 その瞬間に襲ってくる痛み。

「ヂュブブ——ブバボ!」

 水面に泡を作りながら、じたばたと暴れる仔実装。

 朦朧としていた意識が一気に覚醒した。

 雨は止んでも、瓶に溜まった水は残っている。雨水の川もかなり細くなっているが、完
全に止まったわけではなかった。仔実装の口の下にはまだ水がある。

 膝を折れば、顔の位置が下がり、水面下に口と鼻が沈むのだ。当然、口や鼻から入り込
んだ水が鼻の奥や喉を刺激し、それは激痛の信号として脳と偽石に送られる。また、自分
の糞が混じっているため、透明な水よりも刺激は強い。

「ベブブブ……。ヂュッ、バァ……!」

 なんとか膝を伸ばして、仔実装は水中に沈んでいた鼻と口を水面上に押し上げた。呼吸
ができるようになり、思い切り空気を吸い込むものの、

「テホッ、テボッ! テーブホッ」

 今度は咳が止まらなくなる。顔を落とした拍子に、水が気管に少し入っていたのだ。加
えて、咳き込むたびに少し水が喉に入り、さらなる咳を作り出す。

 風邪を引いて咳き込んだ経験があるなら分かるだろうが、咳というのはかなり体力を消
耗させる。長い咳は仔実装のなけなしの体力を容赦なく奪っていた。

 仔実装が咳から解放されるまで、五分ほどかかった。

 なんとか呼吸を整えてから、

「テェェ……ン……」

 再び泣きながら、仔実施は暗い空を見上げる。

 しかし、痛みで一時的に覚醒したとはいえ、仔実装の身体に体力はほとんど残っていな
い。今も体力の予備のさらに予備を使って動いているだけ。それもたかが知れている。

 再び意識が身体から離れるまで、さほど時間はかからなかった。

「テッ……」

 再び気を抜いて脱力。

 そして、顔の下半分が水面下に落ちる。
 鼻と口に流れ込んでくる汚れた水。

「ヂュボボボ——!」

 暴れる仔実装。
 それから何とか水面へと頭を持ち上げ、

「テボッ、テゴッ! テッ、ブホッ」

 涙を流しながら咳き込む。





 脱力と窒息と咳き込み。
 拷問のような連鎖を何十度となく繰り返し、東の空が白んできた頃——
 体力の限界を迎えた仔実装は、仮死によってようやくその苦痛から解放された。








 朝七時過ぎ。

 天気は晴れ。しかし、昨日のような暑さはない。大気も安定している。

「見つからなかったデス……」

 巣に戻った親実装はただそれだけを告げた。

 地面に置かれたコンビニ袋から、食べられる草や木の実を取り出している。食料探しと
一緒に、三女を探していたのだ。両方を別に行う余裕を、親実装は持っていない。

 実のところ、親実装は積極的に三女を探したわけでもない。食料探しのついでに見つか
ればいい。その程度の考えだった。
 既に三女は見限っている。

「テェ……」

 仔実装たちは無言で遅めの朝食を取り始めた。








 朝八時ちょっと前。

「今日は涼しい土曜日〜♪」

 調子外れの歌を口ずさみながら、若い男が公園を歩いていた。

 右手に実装石捕獲用具一式を持ち、左手に偽石サーチャーを持っている。サーチャーの
電源はまだ入っていない。どこにでもいる普通の虐待派。ただし、実装石全般を無差別に
虐待するタイプではなく、賢い仔実装石専門である。

 その理由は成体だと場所を取り、バカだと世話が面倒だからだった。

「賢い仔はどこかな〜?」

 駆除作業後の公園こそ狙い目である。馬鹿な個体は駆除淘汰され、僅かに残るのはほと
んど賢い個体のみ。業者による全面駆除だと賢い個体も残らないが、一般人による駆除活
動だと、ある程度実装石は残る。

 探すのに手間がかかる欠点はあるが。

「ん?」

 男は奇妙なものを見つけた。

 地面から顔の上半分を出して仮死している仔実装。

 男は道具袋から火ばさみを取り出し、仔実装の頭を掴んで持ち上げた。

「……?」

 水を吸ってぶよぶよになった仔実装。実装糞の臭いに生臭さを混ぜた、なんとも言えぬ
異臭を漂わせている。あまり頭が良さそうには見えない。駆除を偶然生き延びた仔実装だ
ろうと、男は見当を付けた。

 地面を見ると、緑色の汚れた水の溜まった瓶が埋まっている。

「誰だよ、こんな悪戯して……」

 男は仮死した仔を適当に放り捨て、火ばさみを道具袋にしまった。それから、道具袋を
近くの木の横に置き、折りたたみスコップを取り出す。

 放り捨てた仔実装のことは、もう忘れ去っていた。

「子供が躓いたら危ないじゃないか。まったく……」

 そんな事を言いながら、男は瓶を掘り出しにかかる。








 仮死した状態でも、偽石と身体は活動を続けている。

 実装生物の仮死は、一度体機能を極限まで低下させ余計な消耗を防ぎ、自分の細胞の自
食作用によって栄養を作り出し、再び身体を動けるようにする工程だった。

 普通の生物なら即死の状態でも死なず、偽石以外なら脳細胞だろうと再生可能で、しか
も生物とは思えない回復速度を持つ、実装生物ならではの仕組みである。

 そうして午前十時を過ぎた頃、

「テ、ェ……?」

 仔実装は目を覚ました。

 自分の細胞を壊して栄養にし、動ける程度まで回復している。日光によって濡れていた
身体が乾き、体温も上がったのも助かった要因だろう。もっとも文字通り身を削った回復
のため、一回り身体が細くなっている。

「これは、地面テチ?」

 ふらふらと蹌踉めきながらも、仔実装はその場に起き上がった。理由は分からないが、
自分がいるのは地面の上である。瓶の中ではない。

 仔実装は瓶という地獄から解放されていた。

「助かったテチ……」

 泣きながら、ただそれだけを呟く。

 ククゥ……。

「お腹空いたテチ」

 細胞の自食作用で回復したとはいえ、あくまでも最低限動ける程度。身体が猛烈な空腹
を訴えている。ここで何かを食べたりしなければ、ほどなく餓死に至るだろう。次は仮死
から回復できず、完全死かもしれない。仔実装はそう何度も仮死には耐えられない。

「ママ……」

 仔実装は自分の巣に向って歩き出した。








 巣が無くなっていた。

 棒状のものを何度も叩き付けたのだろう。原型すら留めないまでに壊されている。草や
枝の壁も屋根も無くなり、ただの低木の隙間に戻っていた。

 思考停止したまま壊れた巣を見ていた仔実装。
 我に返るまでは、十数分の時間を要した。

「ママ……。お姉チャ、妹チャ……」

 泣きながら巣があった場所へと歩いていく。

「テッ、これは……」

 巣の近くの草にこびりついた血に気がついた。それが親実装のものだと、仔実装は本能
的に理解する。そして、これが人間の仕業であることも。

 さきほど偶然とはいえ仔実装を助けた男の仕業だった。棒で親を殴り殺し処理スプレー
で死体処理、仔実装三匹を捕獲、その後巣を壊した。この仔実装——三女は好奇心に負け
て外に出歩いてたおかげで、偶然にも男に連れ去られずに済んでいる。

 だが、それが幸運な事かと問われれば、おそらく否だろう。
 男に連れて行かれるのが幸運かと問われれば、間違いなく否だ。

 仔実装は壊れた巣に足を進め、そのまま前のめりに倒れた。

「もう終わりテチ……。テ……?」

 ふと目を向けた先に、破れたビニール袋が見える。親実装が保存食を入れていたコンビ
ニ袋。そこから、木の実や干したミミズなどがこぼれていた。

 クゥゥ、キュゥゥ……。

 改めて空腹を訴える腹の虫。急激に意識を苛む飢餓感。

「テェ……!」

 仔実装は脇目も振らず保存食に囓り付いた。
 両目から滝のように色付き涙を流しながら、保存食を貪り食っていく。

 そうして保存食を全て食べ尽くし。

 糸が切れたように倒れ、眠りに付いた。








 東にあった太陽が南に昇る頃。
 仔実装は目を覚ました。

「チュアァァ……」

 目を擦りながら、欠伸とともに背伸びをする。保存食を全て食べ、二十四時間眠り続け
たことにより、仔実装の体力はほぼ回復していた。普通の生物ならこんな高速の回復は無
理だが、それが可能なのが実装石である。

「みんな、おはようテチィ」

 軋む身体をほぐすように何度か手足を捻ってから、仔実装は家族の姿を探した。

「テ?」

 しかし、探したものは何も無い。

 いつも起こしてくれる親実装の姿も、一緒に寝ていた姉妹の姿も無い。親実装とともに
頑張って作った巣も完全に壊され、今はただの低木の隙間。唯一残っていた保存食も全て
食べてしまった。

 しばらく呆然と固まってから、自分の現状を思い出し。

「テェェ……ン……」

 仔実装は泣いた。



  END


2127.【観察】実装ショップで買い物 
2126.【食】蛆チーズ
2125.【虐】レーザーライフル
2123.【馬】炎のチャレンジャー
2117.【馬】隣の公園のマッスル
2116.【虐駆】〈紫〉広場の実装石駆除
2114.【虐馬】マラ実装石虐待
2111.【虐・怪】〈紫〉黒いニンゲン
2108.【虐】上げて落として
2105.【馬】実装された都市伝説
2104.【哀】希望と絶望
2101.【馬】〈紫〉カツアゲ…?
2099.【観察】〈紫〉幸せな最期とは
2097.【虐】斬捨御免
2089.【実験】レインボー実装石
2081.【観察】Narcotic Addict − 麻薬中毒者 −
2077.【馬・虐】〈紫〉マラカノン砲
2071.【馬鹿】〈紫〉虐待してはいけない…
2066.【虐・実験】ジッソウタケ
2057.【虐・他】中途半端な賢さは…
2038.【虐・愛?】ダイヤモンドは砕けない
2031.【馬鹿】雪華実装は鍋派?
1994.【虐・観】時間の狭間に落ちる
1988.【虐】クリスタルアロー
1983.【馬鹿・薔薇】リベンジ! 完全版
1980.【馬鹿・薔薇】リベンジ!
1977.【虐・観】懲役五年執行猶予無し
1970.【実験・観察】素朴な疑問
1958.【虐・実験】虐待&リリース
1954.【獣・蒼・人間】騎獣実蒼の長い一日
1952.【軽虐】既知との遭遇
1944.【馬鹿・薔薇】水晶ハワタシノ魂ダ!
1941.【色々】実装社交界の危機
1939.【駆除】ススキ原の実装石駆除

■感想(またはスクの続き)を投稿する
名前:
コメント:
画像ファイル:
削除キー:スクの続きを追加
スパムチェック:スパム防止のため6747を入力してください
戻る