タイトル:【観察】 禍福は糾える縄の如し(判り難いそうなんで微修正)
ファイル:superfluity.txt
作者:qoo 総投稿数:19 総ダウンロード数:3220 レス数:1
初投稿日時:2010/04/25-12:02:11修正日時:2010/07/12-11:55:07
←戻る↓レスへ飛ぶ

テッテレー♪

ある月夜の晩のこと。
五つ並ぶ繁殖ケージの左から二つ目で、一体の仔実装が産み落とされた。
ママの消化液から身体を守っていた粘膜を取ってくれたのはママではなかった。
胎の中で聞かされた歌に謳われた絶対者、人間。
自分の瞳を真剣に覗き込むその巨大な存在がその絶対者であることを、急速に立ち上がる意識の中で理解した
彼女は、胎の中で教えられたとおりにお辞儀をした。

「ニンゲンさん、はじめまちてテチ」

すると人間はふっと表情を崩した。

「あなた合格。はじめまして」

そして青い籠の中に入れられる。
することもなく人間を見ていると、人間は沢山の仔を籠の中に入れていった。
スシやステーキを欲しがる仔、居丈高に命令する仔、厭らしく笑う仔は躊躇せず赤い籠に。
挨拶をしない仔は「こんばんは」と声をかけてしばらく待ってから赤い籠に。
テチュテチュ鳴くばかりで言ってることが意味をなさない仔はやっぱり赤い籠に。
青い籠の石がワタチと同じ籠に来る仔はいないのかな、と思い始めたころ、ようやく一体が入れられた。

「はじめまちてテチ」
「こちらこそはじめましてテチュ」
「一人でさびしかったテチ」
「ワタチはオネチャがいるから寂しくないテチュ」
「ワタチもイモチャがいるからもう寂しくないテチ!」

同じ胎から生まれたわけではなかったが、姉妹の方が都合がいいと本能的に感じて、二体は姉妹になった。
二人で遊んでいると時間は早く進み、人間の作業もほどなく終わった。
結局青い籠に来たのは彼女たちだけ。一緒に生を受けたはずの彼女達の本当の姉妹はどうやらみんな赤い籠へ
行ってしまったらしい。
「今回はあなたたちだけか。私はセンセイ。これからしばらくよろしく。これは挨拶代わりよ。二個ずつだか
らね」

いい匂いのする小さなトゲトゲが四個置かれる。
どうしようか迷っているうちにイモチャ石に独り占めされてしまい、オネチャ石はそれを口にすることはできなかったが、
ニンゲンさんは笑って今度は手渡ししてくれた。
口の中に広がる幸せの味にうっとりしていると、イモチャ石はいつの間にかオネチャ石の隣から姿を消していた。
オネチャ石はテ?と思ったが、急に眠くなったので考えるのは後回しにすることにした。


目が覚めたら、オネチャ石は水槽の中にいた。

「お・は・よ」

センセイが挨拶する。
テェ?と首を傾げたらおでこに衝撃が走った。

「朝起きたらおはようございますって挨拶しなさい。しないと痛い目に遭うから注意して」
「痛いのは嫌テチィ……」
「じゃあ挨拶しなさい。さん、はい」
「……おはよございますテチ」
「よろしい。じゃあこれからいろいろ教えていくから覚えなさい。出来なかったら痛い目に遭うから注意して」
「痛いのは嫌テチィ……」
「なら覚えなさい。まずはウンチをしたいときはパンツを脱いでトイレというところでしないといけません」
「テェ、ウンチしたいテチ」
「うん、それじゃさっそくしてみようか。トイレはそこにある」

その日から彼女はセンセイの元で飼い実装になる訓練を受けることになった。
トイレやエサの基本的なマナー、糞投げや仔孕みなどのタブー、そして実装石の身の程と人間との越えられな
い力の差。
センセイはいつもはニコニコ優しかったが、教えられたことを守らないと豹変した。
そんな時のセンセイはどなり声をあげて実装石を針だらけにする。
一緒に訓練をしていた仔の中には怒らせすぎてバラバラのコナゴナにされてしまったのもいる。
彼女も初めのうちは日に何回もセンセイを怒らせ、その度に怒涛の針を打ち込まれたが、だんだんとコツを覚
えてきた。

言われたことは努力する。ふりだと見破られるから、ちゃんとがんばる。
おねだりはしてもいいけど、駄目だと言われたらあきらめる。がんばっちゃだめ。

そして初めて一度も針を叩き込まれなかった日。

「あなたはそろそろ卒業かな」

センセイは彼女の頭をなでてにっこりほほ笑んだ。
卒業。それは飼い実装がセンセイや他の仔とお別れしてゴシュジンサマという別のニンゲンさんのところに行
くこと。

「おめでとう、よく頑張ったわね。でも私が教えたことを忘れて悪い子になったら、またここに戻されてイタ
イイタイだからね」
「テェェ……」
「嫌なら忘れないように。じゃあこれ餞別」

そう言ってセンセイが餌皿に入れてくれたのは、忘れもしない初めて会った日のあの小さなトゲトゲ。
口の中に広がる幸せの味にうっとりしていると、急にウンチがしたくなった。
急いでトイレに入ってすっきりしてくると、センセイは彼女を持ち上げてケージに移した。

「じゃあね。あなたの幸運を祈ってるわ」


グレードBとして12万円の値がついた仔実装は、ペットショップの店頭に並ぶこともなく、ある家庭に買われ
ていった。
夫婦に小さい娘が一人。彼女はその一人娘へのクリスマスプレゼントなのだった。
赤と緑のリボンをつけてもらった彼女は、初めて出会う小さなゴシュジンサマにはじめましてのご挨拶をした。

「テンテテチテチ、テレテチテチテテチテチ。テチューン♪」
「わぁ、お利口さんね。私は佳子。カコちゃんって呼んでね。テチちゃんは?」
「テチィ」
「ご……ひと……がたろ……?ねえ、パパ、これ何て読むの?」
「どれどれ。ご主人様が名前を付けてください、だって。カコ、名前を付けてあげなさい」
「えー?じゃあね、えっとね、……ジュピターってどうかな」
「テチィ♪」
「じゃあ今日からジュピターね!よろしく、ジュピター」
「気に入ってもらえたようね。じゃあその仔を大事にして、もう野良実装石なんか拾って来ないでよ」
「うん、ママ」
こうしてジュピターは飼いとなった。

彼女には掃除や洗濯、自分の糞の後始末などの身の回りのことをこなすことはできなかった。
全て佳子とママ任せ。
彼女に出来ることは食べて遊んでたまに踊って風呂に入って寝るだけ。
しかし、彼女は堕ちなかった。
身の回りのことをしてもらっていても、彼女は佳子とママを心の底からゴシュジンサマと認識していた。
正月に実装フードに加え特別に伊達巻をもらった時も、パパにもうダメだと言われたら諦めた。
しばらくして佳子が毎朝出かけるようになっても、初めのうちこそついて行きたがったが、すぐにおとなしく
帰りを待つようになった。
なぜなら彼女には自分の身の回りのことをこなす芸の代わりにイドを制する超自我が実装されていたから。
実装石のキャパシティは少ない。ましてや売り物として価値のある仔実装の短い時期に実装できることなどた
かが知れている。
芸ができた方がグレードが高く、それに従い値も高くなるのだが、ジュピターのセンセイはそれを潔しとはし
なかった。
実装石の躾はめっきであることを真に理解していた彼女は、小手先の芸を覚えさせるよりめっきが剥げにくい
素地をつくることを優先していたのである。
おかげでジュピターは、もしかしてありえたかもしれないセレブな未来を代償に、飼い主一家のもとで平穏無
事な生活を送ることになった。

しかし、その生活は突然終わりを告げる。

テチがテスになり、間もなくデスになろうという頃。
佳子の漕ぐ自転車のかごに乗ってテステス歌っていたら、急に投げ出された。
とっさのことでびっくりして、為すすべもなく地面をなめる。
削れた頬の痛みを我慢して佳子を探すと、自転車と一緒に倒れて泣いている。
その近くに若い男が一人。
年の頃は大学生。眼鏡をかけてまじめそうだが、その瞳の奥にわずかに狂気が宿っていた。
「ゴシュジンサマ、大丈夫テス?」
駆け寄ろうとしたところを男に殴られ、ゴミ袋に放り込まれる。
「さあ糞蟲ちゃん、天罰のお時間ですよぉ♪」
袋の向こうから男の声が聞こえた。


ゴミ袋から出されると、そこは風呂場だった。
一応洗い流されていたが、所々に赤と緑の染みがあったし、何より籠る死の匂いは隠しようもない。
浴槽の底にたたきつけられたジュピターが真っ先にされたのは実装服の没収と偽石の摘出だった。
後はお決まりのコース。
髪を丹念にむしり取られる。
耳を引き千切られる。
ニードルガンでハリネズミにされる。
熱湯をかけて水ぶくれになったところを生皮を剥がれる。
ドライアイスを押しつけられ、貼り付いたところをむしとられる。
手足をたたきつぶされ、傷口を焼きつぶされる。
目にタバスコを注され強制出産、は、避妊処理をされていたので出来なかったが、目的が果たせなかった腹い
せに目と総排泄口を焼きつぶされる。
ジュピターは必死に謝ったが、男の攻撃は止まなかった。
なぜなら彼の中では実装石を甚振ることが正義だったから。

佳子の証言といくらかの聞き込みで男の身元が突き止められるまで、三日。
しかしそれはジュピターの身体を破壊するには十分すぎる時間だった。

なお、彼は前科及び慰謝料賠償金含め42万円の支払いと引き換えに、一部の人間から虐待派の鏡と称賛される
ことになる。
数年後、傷害の前科のお陰でまともに就職できずネットの接続費にすら窮するようになって、初めてそれが
『自分の将来をかなぐり捨てて虐待に生きる剛毅さ』を讃えられていたのだということに気づき、激しく後悔
することになるのだが、それはまた別の話。

ともかくジュピターは偽石を割る前に救出された。
だが、もう元の生活には戻れなかった。
警察の一室で再会した佳子の顔はジュピターを見たとたん恐怖で歪んだ。
それでも恐る恐る延ばされた手が、途中で止まる。

「ごめん、ジュピター。ごめんなさい。カコが、カコが……」

泣き出す佳子を元気づけようと、ジュピターはダンスを踊ろうとしたが、歪んで回復した手足ではうまく踊れ
なかった。

「もういい、やめなさい。ジュピター」

佳子のつきそいで来たパパに止められ、ジュピターは項垂れた。


焼きつぶれた瞳、落ち武者を思わせる惨めに残った髪、ケロイドだらけの裸体。
もはや歪な回復しか出来ないと実装医にさじを投げられ、少女の心を責め続ける姿となったジュピターを、彼
女の両親は娘の傍から排除することにした。
しかしこんな実装石に貰い手があるわけもなく、かといって保健所へ持っていくのは良心が痛む。
困り果てた一家は一縷の望みに賭けて電話をかけた。

「……はい、雀宮です」
「あの、前に実装石を買った生江ですが」


クライアントから急遽連絡を受けたセンセイこと雀宮は無残な姿になったジュピターを引き取った。
無残な姿になった教え仔を抱き上げ、実装石用の椅子に座らせる。

「おかえり」
「ただいまテス」
「とりあえず飲みなさい。これならその身体でもいけるでしょ」

はちみつレモンを入れた洗浄瓶を渡す。
ノズルを口に入れてボトルを握る。
舌も半分失っていたので味は良くわからなかったが、身体が喜んでいるのできっと甘いんだろう。
ジュピターは二三口飲むと、洗浄瓶を脇に転がして寸足らずの手を口に持っていった。

「媚、じゃないね。何か言いたいことがあるの?」

ぎこちなく頷く。

「そう。ちょっと待ってて」

雀宮は本音リンガルを探してきて、偽石を栄養ドリンクの瓶から移した。

「センセイ、教えてほしいテス」
「なに?」
「ここに戻されたんだからイケナイことをしたのはわかってるテス。でも、何が悪かったのかわからないんテス」
「はあ、なるほどね」

雀宮は頬杖をついた。

「あなたは何もしてないよ。実装石の方に問題がなくても、人間の都合で破滅することもある。その時わりを
食うのは力の弱い実装石の方。それだけのことよ」
「テェ……そんなこと教わらなかったテス」
「教えても仕方ないからね」

ジュピターは肩を落とした。
あまりの不条理に、右目から色つきの涙がこぼれる。

「そんなのひどいテス」
「うん、悲劇だね。でも、今回は機械仕掛けの神様が降臨したらしい」
「テ?」


一月後。

「オネチャ、いつまでも座ってちゃダメボク。もっと看板をニンゲンさんに見てもらえるよう動くボク」
「デェェ……イモチャは厳しいデス」
「働かざる者食うべからずボク」

ジュピターは新しい身体と名前を貰い、ペットショップアリスの店頭でプラカード持ちのバイトをしていた。
隣で指導するのは実蒼石のドラコ。今の身体の元持ち主の妹らしい。
センセイの話によれば、この実蒼石は"不治の病"にかかった姉を助ける為にバイトをして治療費を作っていた。
彼女の健気さと何も出来ないのに金を受け取っている後ろめたさから、一芝居うつことにしたのだそうだ。
ジュピターはその姉役に抜擢され、偽石交換後ドラコの姉としての過去を叩き込まれた。
始めはばれないか心配だったが今のところ大丈夫っぽい。

「あなたの残してくれた実生、大事に使わせてもらうデス」

元ジュピターはあの日見た粉々に砕けた偽石に手を合わせた。


















































一方その頃。

「デギャァァァ!ワタシのオイシとクズイシの区別くらいつけるデス!!ワタシは生きてるデシャァァ!!!」

無理やり元ジュピターと身体を交換させられた実装石は、ビデオの中の微笑ましい二体を見て悲痛な叫びを上
げていた。
さらにその姿を撮影したビデオはアンダーグラウンドで売れまくり、ストイックなブリーダーの懐をそこそこ
潤したのだった。

(Fin)

【過去スク】
【虐】【紅】 化粧
【あっさり虐紅】 風呂
【託】 奇跡の価値は
【託】 一部成功
【観察】 幸運の無駄遣い

■感想(またはスクの続き)を投稿する
名前:
コメント:
画像ファイル:
削除キー:スクの続きを追加
スパムチェック:スパム防止のため2756を入力してください
1 Re: Name:匿名石 2023/04/07-18:10:40 No:00007013[申告]
糞虫が罰をウケるはいいがやっぱり実装石以下の人間がしっかり裁きを受けてこそだな
戻る