仔実装紅遭遇 帰宅した利秋は、小さく割られているガラスを見て溜息をつく。 「やられた・・・・」 実装石が不法侵入した形跡。 徹夜で行う掃除作業を覚悟した。 目に飛び込んだのは散らかった生野菜やハムなどの買い置きの食材。 ここまではお約束通り。 だが、その中央で懸命にがっついているのは仔実装紅。 もしこれが実装石なら周りは糞まみれ。荒らされた食材の被害は甚大ではなかったはずだ。 事実、食べられているのは一食分の半分にも満たない。 だが、被害が小さくともこのまま観察するのはあまりにばかばかしい。 仔実装紅はチャワチャワハフハフと食事に一生懸命で利秋に気づく気配もない。 後ろから片手で捕まえる。クワガタムシなどの胸の辺りを掴むのと要領は同じ。 実装紅はその特徴的なツインテールが敵と戦う武器となるが、それを封じればとたんに戦闘力はほぼゼロになる。 携帯のリンガルをダウンロードしたものを片手に仔実装紅を鼻先くらいまで持ち上げ詰め寄る。 「おい、おまえは一体何なn・・・ 「チャワーー!!!(なんなのチャワ!!!)」 ガアン と、まるでフライパンで殴られたような鈍い痛みと仔実装紅の悲鳴でセリフは遮られ派手にこけた。 口の中にかすかに血の味がする。 立ち上がり辺りを見回せば実装紅がひどく怯えている。掴まれたことが相当ショックだったようだ。 その様子を見てちょっと考える。 (今のは一体?) 「いや、悪かったよ。いきなり掴んで。」 考えるより先に謝罪が出た。こいつは危険だと本能で分かる。 全長15センチくらいの仔実装紅は少しのあいだ警戒していたが、急に糸が切れたように動かなくなった。 (寝てる・・・) よく見れば仔実装紅は擦り切れだらけで汚い格好だが公園の緑色のと比べれば自らの糞で汚れることはないし、悪臭も漂ってこない。 代わりにうっすらと紅茶らしきにおいがする。 (野良紅か?) 実装紅は用心深く、野良の個体は人の近くで生態系を築くことは無い。 ましてや、人家に侵入する不用心な実装紅はいまだかつて聞いたこともない。しかも、親姉妹らしき影も見えなければそこにいた形跡すらない。 本能で感じた危険を無視しつつ、利秋はそっと仔実装紅を寝室まで運んだ。 首輪が無い以上飼いではなさそうだ。 ************************************************************************************************************************* 「よう、起きたか実装紅。」 結局、仔実装紅は三時間眠り続けた。 起きた仔実装紅は最初こそ多少警戒していたが、リンガルで危害を加えるつもりが無いことを伝えると警戒を解いた。 「お前はどこから来た。なぜここにいる。」 「オジイサマが、あなたに助けてもらうようにって言ったのチャワ。」 「おじいさまだ? 誰だよ? どこの爺さんだよ?」 「オジイサマが、オジイサマがアナタを訪ねなさいと言ったのチャワ。きっと助けてくれると言ったのチャワ・・」 「だから、おまえは・・・」 利秋の質問を聞くことなく仔実装紅は実装服から写真の切れ端を取り出した。 そこには祖父・虹裏友義と一緒に映っている仔実装紅。 「お前、これは・・・」 疲れたのか、いつの間にか仔実装紅はその場でこっくりこっくり眠っていた。 続く
