「デヂ」 そう言い残し、仔蟲はあの世に旅立った。 死亡時刻午前2時15分。 まあ、仕方ない。もう三月も刺したり削ったりしてきたしな。 冷蔵庫からユンケルの瓶を取り出し、中身を流しに捨てる。 すっかり黒ずんだ偽石の欠片が、シンクに当たってさらりと崩れた。 さて、新しいのを仕入れがてら公園ではじけてくるか。 俺はバー(ryを片手に家を出た。 しかし。 「なんでここにもいねえんだよ!」 野良はどこにもいなかった。 ダンボールハウスはおろか、人目を避けてこっそり暮らしているだろう賢い個体すらいくら探しても見つからない。 公園のほかにも資材置き場・空き地・路地裏などねぐらとしていそうな場所を探してみたが、どうしても見当たらない。 最初は駆除が入ったばかりなのかと思ったが、それにしては様子がおかしい。 そうだ、トシなら何か知っているかもしれない。 ダッシュで奴のアパートに向かう。 ドアを叩くのとチャイムをならすのを5分くらい続けたら、ようやく眠そうな眼をして出てきた。 「なんだ、アッキーか。何の用だよ、この頃見ないと思ったらこんな時間に現れて」 「そんなことより、糞蟲が全然いねーんだよ」 「は?寝ぼけてるのか?野良実装石はずいぶん前に壊滅しただろう」 「なんだよそれ。聞いてねーよ」 「おまえ、ひきこもるにも程があるだろ?どんだけ浦島太郎なんだよ。あれほどニュースで騒がれてたのに……」 呆れたような顔で俺を見る。なんだよ、お前そんなに偉いのかよ。 「とにかく中に入れよ。近所迷惑だ。ああ、バー(ryは物騒だから中に入れておけ」 トシがマグカップを二つ持って戻ってくる。 「コーヒーかよ。俺は紅茶派なんだがなぁ」 「おまえ本当に……はぁ」 何をため息ついているんだか。 「で、野良実装石が壊滅した話だっけ」 「そうそう、それそれ。なんでそんなことになったんだよ」 「ニュースでさんざんやってたんだけどなぁ。まあいいや。福村琴子って知ってるだろ」 「知らん」 「まじかよ。まあ名前は知らなくても歌は聞いたことはあるはずだぞ。『エメラルドキッス』はローゼン社のCMソングだしな。ほら、 『壊しちゃいたいほどアイラーブユッ♪』っていうやつ」 「裏声キモ」 「ほっとけ。でな、その歌……というか彼女の声には実装種の偽石と共鳴を起こして破壊する波長の音が含まれていたらしくって、そ れがわかった時にはもう手遅れ。エメラルドキッスはオリコン上位を占め、テレビや有線で彼女の歌が流れない日はなく、あわれ多く の実装種が野良飼い問わずお陀仏ってわけだ。飼いはその後彼女の歌の影響を受けないように偽石摘出した個体が供給されて数を戻し つつあるけど、野良はたたみかけるような行政の駆除で壊滅した。今までは予算不足で不徹底だったところを、彼女のCDさえあればよ くなったからな。おかげで彼女のCDはキラーフィールドなんて呼ばれてるよ。彼女のイニシャルとどっかの三文小説をかけているらし いんだけど」 「なんだその女は。犯すぞ」 「コトラーに袋叩きにされたくなきゃ、それは外では口にしない方がいいな」 「何を落ち着いてるんだよ。実装虐待ができなくなったんだぞ。虐待派を引退する気かよ。ともに虐待派の星を目指そうと誓ったお前 はどこ行ったんだよ」 「誓ってないし。それに虐待派をやめるつもりもない。3000円くらい出せば実装ショップでお徳用仔実装を買えるからね。処置済みだ から、偽石の様子を見ながらギリギリの甚振りをするって芸当ができなくなったけど」 「なんだよそれ。もうお前には頼まん。俺一人で公園を復活させてやる」 俺は腰ぬけのトシを見捨て、その場から立ち去った。 必ずやそのなんとかいう女を屈服させて、俺の世界を破壊したことを後悔させてやる! (少年ジャ○プ的Fin)
