公園の木々もすっかり葉を落とし、早々と冬ごもりに入る実装石も現れ始めた頃。 コンビニのゴミ箱の陰で、とある実装石がわが仔を託児しようとしていた。 冬の足音はもうすぐそこに迫っている。 越冬準備はしていない。全ての時間と財産はこの託児の準備に費やした。 失敗は許されない。 吟味に吟味を重ね、幾度か躊躇した末、ようやくチャンスが訪れた。 恰幅の良さは裕福な証拠。 真っ赤な顔でおぼつかない足取りのニンゲンは、経験上スキだらけだと知っている。 いまだと判断した彼女は仔を抱きかかえて語りかける。 「四女、オマエにワタシの将来がかかっているデス。デキソコナイのオマエを育ててやった恩を決して忘れてはいけないデス」 ダンボールハウスを出る前にさんざん言い含めた事を、もう一度念を押す。 「いいデスか?ニンゲンの家に着くまでは決して声を上げてはいけないデス。袋の中にはオイシイモノがたくさんあるけど、手を出し てはダメデス。ウンチもダメデス。袋の中から出してもらったらワタシが教えた通りオアイソして歌ってダンスを披露デス。後でワタ シも行くから、それまでにニンゲンをメロメロにしておくデス」 四女と呼ばれた仔は無言で頷いた。 ターゲットは道路の端で立ち止まる。 車とかいうやたらと速くて硬い怪物の足が止まるのを見計らっているらしい。 今だ。 後からトテトテと駆け寄り、背伸びをして手に持った袋にそっと仔を差し入れ、すぐに離脱する。 ……成功だ。 今を去ること一月前のことである。 この親石は仔を生んだ。 秋の実りに有頂天になったからではない。冬ごもりの手伝いをさせるためである。 秋のうちなら仔の食料を手に入れるのもたやすい。 保存食のドングリ集め、寝ワラ代わりの落ち葉集めには手が多い方がいい。 散々だましてこき使った後、こもる直前に腹に戻す。 それが彼女の計画だった。 しかし、それは四女の誕生によって大きく書き換えられることになった。 「ポクー」 ——実蒼石。 実装石の天敵として名高いこの種は、今でこそ人間による捕獲と品種改良によって同種の腹から産まれるようになっているが、元を正 せばマラや獣装石と同じ奇形の実装石である。 忌み仔である彼女たちは親からは育児放棄され、姉妹からは甚振られ、成体になることはほとんどない。 実蒼石が実装石ばかりを殺戮するのは、彼女たちの先祖が親姉妹から受けた虐待の恨みが偽石に刻み込まれているからともいわれている。 四女も普通なら嬲り殺される運命だっただろう。 しかし、親石は少しだけ知恵の回る個体だった。 どういう訳か知らないが、人間は実装石より実蒼石の方が好きらしい。 実際捨てられた実装石はよく見るが、捨てられた実蒼石というのは見たことがない。 飼われているのは同じくらい見るにもかかわらず、だ。 ということは、実蒼石は生まれながらニンゲンをメロメロにする才能を持っているに違いない。 ならば、この仔をうまく使えば…… それから四女に対する英才教育がはじまった。 「ポクーン?」 「何度言ったらわかるデス?そんな堅い表情ではオアイソじゃなくてブアイソデス」 「アオイポクハ ポクーットサー♪ シアワセツツムー ポクーットサー♪」 「いい加減覚えるデス。蒼い僕じゃなく青い空デス」 「デス、デス、デス」 「ポク、ポク、ポク」 「身体のキレが悪いデス。もっとリズム良く。足ももう少しあげるデス」 教育は厳しくしたが、待遇は良くした。 食事は自分の次にいいものを渡したし、寝る時は特別に自分のタオルの端を使わせた。 姉妹石はかなり不服だったが、親石が常時ガードしているので手が出せない。 いや、次女は「四女ブッコロステチ」と高らかに宣言して襲いかかろうとしたのだが、親石に即刻禿裸にして放り出され、それ以降行 方不明になっていた。 そんなこんなで時は流れ、ついに親石は託児を成し遂げたのである。 あとは頃合いを見計らってあのニンゲンの家を訪ればいい。 もうすぐ自分も夢の飼い実装だ。 「デププププ……」 自然と笑いが込み上げてきた。 だが、親石は致命的な過ちを犯していた。 彼女は気づいていなかった。 仔が人間に気に入られれば親も受け入れられるというのは、幸福回路の生み出す幻想に過ぎないことを。 (Fin) 【過去スク】 【虐】【紅】 化粧 【あっさり虐紅】 風呂
