タイトル:【飼育】 実用された運用
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作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:3115 レス数:0
初投稿日時:2010/02/28-22:28:15修正日時:2010/02/28-22:28:15
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実用石
 
 
 
  引越し先の新築2DK、やっと荷解きを終えて一息がついた。何か足りないものはないか
 と見回してみると、緑のを被ったアレが目につかないことに、物足りなさを感じる自
 分に愕然とした。
 
  そもそも、この引っ越しは実装石に住居を汚損されたことが理由だった。俺というのは例
 によって虐待紳士というやつで、実装石をとっかえひっかえ広ってきては痛ぶり抜いては捨
 てを繰り返していた。その中で、総排泄腔を焼き潰した個体を加減も知らずにイジッていた
 らば突如として爆発した。それも一匹ではない、誘爆でもするかのように実装石の一家族が
 一斉に爆発したのだ。
  おかげで家屋はびっくりするほど糞まみれになった。自身も含めて、部屋は一面緑色、幸
 い虐待専用に使っていた部屋だったので家財の被害は微小だったが、管理会社からはここぞ
 とばかりにリフォーム費用はふんだくられるわ、噂を聞きつけた近所の実装愛護派からは罵
 られるわ、散々な目に逢った。もちろん、そんな所に居座り続けるほど面の皮は厚くない、
 思い切って新築アパートに引越してきた次第だ。
 
  あんなメにあってまで実装石の姿を追い求める自分というのは、愛護派以上に実装石から
 離れがたい業を背負っているのではあるまいか。実装中毒というのもシャレにならないが、
 俺の足元で覚えて這い蹲る糞蟲が不在という環境に、ソワソワと落ち着かないのは事実だ。
 ここ数日は引越しの慌ただしさで自覚する暇もなかったが、いても経ってもいられず、とに
 かく野良実装の姿でも眺めてやろうと部屋を飛び出した。
 
 
 
  実際、野良実装共を目の当たりにするとどうして俺はこんなものを見物にわざわざ出かけ
 たのかと疑問を思うほどだった。公園にうじゃうじゃと巣食う糞虫連中は厚かましく足元に
 寄ってきて小首をかしげる例のポーズでエサを強請る。あきれるほどに実装石は実装石だが、
 それ以上にその存在感の確かさにどこかホッとしている自らに呆れた。もしも実装石という
 ものがこの世から消えてしまって、一番に嘆き悲しむのは実装愛護派の有象無象ではなく、
 きっと俺を含めた虐待紳士達なのだろう。
 
  まったく、どうしてこんな胸糞悪い生き物に魅了されるのだろう。良識のある誰かに相談
 すれば『病気』の一言で済ませられることだろうが、確かにある種の病気には違いない。こ
 の病気の矛先が実装石ではなく人間に向かえば、良くて格子付きの病院行きといったところ
 だろう。そう考えれば、ある意味この生き物たちも世の役に立っているという訳だ。世の中
 には要らないものなんてないのだなぁと神様の仕事に感心することしきりである。もっとも、
 こいつは神様の仕事の中でも悪ふざけの類に違いない。
 
  一匹の実装石を持ち帰ることにした。家族連れの成体実装の一匹だった。野良の中でも比
 較的に愛情深くて知能の高いヤツを選別したつもりである。選別の方法はほとんど定形とも
 言うべき方法で、甘い菓子をチラつかせて様子を見るに徹した個体である。中でも、菓子と
 見ればすぐにでも飛びつくようなアホの仔実装でも抑えることができるようなヤツだとなお
 良い。多少自己流なところといえば、その子供たちを真っ先に媚にやってきた糞虫に託した
 というところだけだ。
 
 「その子供たちをちゃんと養っていれば、住処と食料は保証してやろう」
 
  前払いとして、蝋加工された撥水性のダンボールハウスと実装フード一袋をくれてやった。
 公園住まいとしては破格の待遇である。それでも自分を差し置き飼い実装となる同族への妬
 みは払拭しきれない様子なので、無事に子供たちを成体まで育てた暁には、飼い実装として
 迎えると約束した。元出が要らない分、安あがりな対価だが、これが一番効いたらしい。ど
 こで覚えたものやら、いきなり背筋を伸ばして兵卒ばりの敬礼をかます。
 
  背後で泣きじゃくる子供たちと、素性のわからぬ人間を刺激すまいと自制して静かに俺に
 寄り添う親実装の姿を見ると、さながら出兵の情景のように思われた。別にそんなに大仰な
 つもりはないのだが、当事者たちは本気なのだからこみ上げてくる笑いを飲み込んで、水は
 指さずにおいた。
 
  公園に残した子供たちは、実質人質だった。持ち帰った成体実装は家族から引き離された
 悲しみと、素性の分からない人間への不信ばかりで、飼い実装となったことへの無条件の喜
 びは表に表さなかった。
 
 『ワタシはなんでもいうことを聞くデスから、子供たちの安全だけは守ってほしいデス』
 
  このセリフだけ立場というものをわきまえていることが汲み取れた。こいつはもしかする
 と拾い物かもしれない。俺の頭の中にはひとつのプランがあった。その実現の為には、従順
 で賢い個体が不可欠だったのだ。
 
 
 
  虐待紳士は卒業したつもりである、一通りやりつくしたという感もある。新居が実装石の
 体液で汚されるのも避けたい。
  持ち帰った実装石にはミドリと名をつけた。犬にポチ、猫にタマといった具合にありふれ
 た実装石の名前だ。便宜以外の何者でもない命名だった。
  飼い実装として、先はトイレを躾けた。新居にはちょっとした庭があって、そこへ小さな
 バケツを置いて、ビニール袋を被せる。排泄の度に袋は変えて、使用済みの袋は口を閉じて
 同じく庭に置いたポリバケツに仕舞わせた。従順なだけではなく、内容物をこぼさないよう
 に袋の口に結び目をつくる器用さが要求されるが、ミドリは一連の作法を拍子抜けするほど
 あっさりとこなした。袋から一滴でも緑色の飛沫を零したらエサ抜きにしてやろうと考えて
 いた、結び目の強度もちょっとやそっとでは解けないくらいの代物だった。ズキンの折り目
 正しい結び目にある程度察しはついてはいたが、失望すら覚えるような完璧さだった。理不
 尽なエサ抜きを宣言されてグッと不満を抑えるミドリの顔が見たかったのだが、まだまだ虐
 待家としての性分は抜けきっていないらしい。
  次に教えたのは、体と衣服の洗浄である。これもやはり庭でやらせることにした。蛇腹の
 5Lタンクと直結したプラスチックの蛇口がついた、安物の給水器を設置する。強力な脱臭
 効果のある実装洗剤と金ダライ、柄のついたブラシを与えて、一通り使い方を教えた。そこ
 そこ身ぎれいにはしていたが、所詮は野良実装だ。小一時間ほどひたすら洗いと濯ぎを繰り
 返させると、大分見れる姿になった。洗剤は実装専用を謳っているだけはあり、その肌や第
 二の皮膚とも言える衣装を活性させて、長い生活にすり切れたミドリの姿を新ピカに仕立て
 た。白い粉に混じった緑の粒が効果の秘訣らしいが、恐らくは偽石の破片か何かだろう。生
 産現場を想像するだけでゾクゾクした。
  ここでお楽しみの食餌タイムだ。これには加工用に大量飼育される実装石用に開発された、
 水餌を使った。本来はチューブで直接胃に注がれる養液だが、ドレッシング用のノズル付き
 容器で飲ませることにした。腹持ちはよろしくないので、付属のペレットを一粒飲ませた。
 すると、腹の中で養液を吸収して膨張し、満腹感を得られる。腹中で膨らんだペレットは消
 化されずに糞まで吸着し、ツルンとした一個の丸いボール状にになって排泄される。薄く皮
 膜のはった緑色のゴムボールのようにも見えるそれは、排出された直後にはほとんど無臭だ
 った。実を言えば、それは一個の蛆実装だった。腹中の糞をクルリと一匹の蛆実装でくるん
 でしまうという仕掛けらしい。もっとも、体積の9割9分が糞で占められた蛆実装に生体と
 しての反応は皆無であった。まったく、最近の実装グッズの進化には驚きである。食べ滓も
 なければ糞の臭いも出ない、実に衛生的だ。欠点らしい欠点といえば、そんな食餌で満足感
 など得られよう筈もないということだけだ。もっとも、野育ちのミドリは大して不満はなさ
 そうだった。ポッコリ膨らんだ腹を不思議そうにさすっている。
  雨風に晒すのは衛生面で難なので、寝床は屋内にしておいた。玄関から入ってすぐの短い
 廊下にタオル敷きのダンボールベッドをしつらえた。照明を消すまでミドリはじっと俺のこ
 とを見上げていた。公園から一転して人家の飼実装デビューをした一日目が、何事もなく過
 ぎてしまうことが意外だとでも言いたげである。俺もなんだか不思議な気がした。連れ込ん
 だ実装石が無傷のまま、夜を迎えることなど初めてだった。
  自分のベッドで布団を被ると、しばらく落ち着かずにもぞもぞしていた。今すぐにでも飛
 び起きてドアの向こうのダンボールベッドをミドリごと蹴り飛ばし、淡白な実装飼育家の仮
 面を脱ぎ捨てて虐待紳士の本性をあらわにしたい衝動に駆られた。ミドリも同じく、俺の衝
 動が現実になる様を頭に浮かべて、眠られぬ夜を過ごしていることだろう。これじゃあまる
 で障子一枚で隔てられた男女の初夜みたいだ。まったく、慣れないことはするもんじゃない。
 しかし、新居の染み一つない壁に誓って、俺はこの住まいを実装石の体液で汚すような真似
 はするまいと、新たに心に誓った。
 
 
 
 
  一週間ほどして、ミドリが同居する上で欠かせぬ作法を一通り教え込み、屋内での生活に
 も慣れてから、やっとかねてから予定していたプランにとりかかることにした。プラン名は
 「実用石」とでもしようか。そう、俺は餌を糞に置換するしか能のない、虐待あるいは愛護
 されることにしか価値を置かれていない純然たる娯楽製品を、家畜としての仕事を担う実用
 製品として活用する道を進むことを模索していたのだ。一般には環境衛生を侵す不快動物と
 してしか認識されておらず、実装石そのものに対して用いる他は食用としても衣類の材料と
 しても燃料としてさえ無価値だ。それを飼育することが精神的な充足をもたらす他には何ら
 益のない、純然たる寄生型の生体だった。
  それを変える試みは何度も為されていたことだろう。それでいて、何故「実用石」の存在
 が日の目を見ないかといえば、それが工場から出荷されればどんな家庭環境でも同じように
 動作する家電製品とは違うからだ。実装石というものをよく知らない人間にとって、実装石
 の飼育というのは持って生まれた増長癖をスクスクと育てる場でしかない。実装石をまとも
 に飼育しようと思えば、ほとんど虐待同然の血を見ずにはいられないような躾が必要になる。
 もっとも、俺がミドリにそうしているように、賢く愛情深い個体であるなら多少はスマート
 な解法がないでもない。
  いくら熟練の飼育家が選別し調教した個体であっても、実用石を運用する人間が実用石を
 犬猫のように扱い、甘やかしてしまえば刷り込まれた実用石としてのメモリーはリセットさ
 れ、ただの実装石どころか、怠惰な糞虫の類にたちまち堕落してしまう。すなわち、商材と
 してはあまりにも不安定な代物だった。
  自身に関して言えば、実装石に対して執着はあるものの愛情などはこれっぽちも持ち合わ
 せていないつもりだ。元虐待紳士として実装石の生態への知識と経験にもそれなりに自負が
 ある。俺にはミドリを一人前の実用石として調整し運用できる自信があったのだ。
 
 
 
  大仰な前置きから始まったが、どんなに従順な実装石であろうとも、求められることには
 限界がある。そして独身男性の城でもって同居人に求められる技能といえば、家事一般に尽
 きる。その中でも、実装石に任せることができそうなのはもっぱら掃除だった。
  ミドリは標準よりも器用な実装石だが、腕力な一般的な実装石のソレである。雑巾で床を
 拭き上げることはできても、雑巾をギュっと絞ることは不可能なので、手回しの脱水ローラ
 ーのついた四角いバケツを買い求めた。新築のフローリングは艶やかだったが、引越しのバ
 タバタでそれなりに埃が積もっていたらしい。部屋中の床を拭きあげさせると、バケツの中
 身は真っ黒になっていた。
  慣れない仕事に舌を出してデェーハーと喘ぐミドリだが、仕上げが残っている。真水を入
 れなおしたバケツにワックスを混ぜて白い雑巾を渡す。プルプルと震える腕で雑巾を受け取
 るミドリ。手に力が入らないのか、ずるりと腕から雑巾がずり落ちた。拾おうとすると。バ
 ケツの回りで濡れた床に滑って転ける。思わずバケツの縁を掴んで、中身をぶちまけた。俺
 は白濁したワックスがスリッパを濡らす前に飛びすさった。
  デェーっと濡れぼそったミドリが立ち上がろうとしたが、ぬるぬるとしたワックスに塗れ
 て膝立ちすることもできない。
 
 「全部雑巾で吸ってバケツに戻すんだ、それから床の全てをワックスで拭きあげるように」
 
  俺はそう言い残して、別の部屋に移る。ドア越しにピチャピチャと水音がする。それに混
 じって抑揚された嗚咽が聞こえる。こういうのも悪くない、悪くはないなぁとこぼれる笑み
 を抑えられずにいた。ぼくは飼育家というより調教士の適性を自らに見出すのだ。
 
 
 
  週に一度、公園に仔実装たちの様子を見に行く。片手に実装フードをプラプラさせて行く。
 糞虫連中が寄ってくるのを一蹴して、茂みの中の託児をしたダンボールハウスを見つける。
 ダンボールハウスを靴の先で軽く突付くと、テスーテチーといった中から力ない音声が聞こ
 えた。中身を覗こうと屈みかけたら、足をつんつんと突付かれ、振り向いてみるとどうにも
 ミドリを託した件の野良実装らしい。どうやら、他の糞虫共々蹴散らしていたようだ。
  子供たちはちゃんと五体満足に連れているらしい。何だか前に見たより縮んでいるような
 気がするし、知能と比例する警戒心の強さの欠片も見せないテチテチテーテーという無防備
 な媚び様はどうにもミドリの子供たちとは記憶と一致しないが、どちらかといえばどうでも
 いい。ダンボールハウスを傾けてみると、禿裸の子供たちがころころと出入口から転がりで
 てきた。野良実装は悪びれもせずに片手を頬にかざしながら小首を傾げる。
 
 「自分の子供もかまわずに他人の子供を育てるなんて感心だなぁ」
 
  そう言って野良実装に餌を手渡す。野良実装の子供たちはテチテチテチャーと歓声をあげ
 る。ミドリの子供たちはもの欲しそうに野良実装がギュッと胸に抱きしめた餌袋を見上げる
 が、俺が視線を向けると慌ててダンボールハウスの影に隠れた。
 
 「だけど、他人のでも自分のもでも子供たちは責任をもって育てるんだぞ。これはおまえの
 飼い実装としてのテストでもあるんだ」
 
  またしても野良実装は餌袋を脇に敬礼のポーズをとる。持ちネタか何かだろうか。とりあ
 えず釘は刺しておいた。努めて約束を果たすつもりはないが、消極的にはミドリの子供たち
 の行く末を見守りたいと思う。禿裸として野良実装の奴隷階級にまで身を落とした比較的素
 性の良い実装石の実用石としての可能性にも関心があったのだ。
 
 
 
 『子供たちは元気にしていたデスか?』
 
  おずおずとミドリは俺に尋ねた。
 
 「元気だったよ、託児したのが随分情の篤いヤツらしくてね、自分の子供を放っておまえの
 子供を世話しているくらいだ」
  俺はミドリの後頭部を踏みしだきながら答えた。実用石が人に物を尋ねるのはそれなりに
 苦痛を伴なうことを躾ている次第だ。嗜虐心に任せた行為という訳ではない。第一、掃除機
 替りの代物に話しかけることなんて不快じゃないか。最近の掃除機は静音性だって売り文句
 であり性能の一部なのだ。
  だからミドリは余計な声は出さなかった。おかげで、俺は徐々に弱っているミドリの様子
 に気付かなかった。餌はいつも定量与えていたが、そのビニール袋に包まれた糞ボールの色
 が日に日に薄まっていたことにも気付かなかった。
 
 
 
  あっさりとミドリは死んだ。栄養面では問題なかった筈だが、どうやら蓄積されたストレ
 スによる偽石崩壊によるものらしい。環境としては公園にいるよりずっと居心地は良かった
 筈だが、想像していたよりも繊細な生き物らしい。生き物というのは難しい。実装石のよう
 なデタラメな生き物でも例外ではないようだ。
  ミドリはふた月ほどしか持たなかった。床は綺麗に磨きぬかれて、その後仕込んだトイレ
 や風呂場の掃除も完璧だった。正直、得難い個体だったのかもしれない。なにより、俺には
 同じように実装石を実用石へと仕込む気力がいまいち起きなかった。喪失感というやつだろ
 うか。物扱いしていた割に、それなりに愛着があったのかもしれない。物だからこそ、愛着
 をもっていたのかもしれない。それが実装石であれば別段、亡くしたことに気持ちが動かな
 かったことだろうが、あれはそれなりに手間暇をかけて育てた作品だったのだ。野生の実装
 石に比べて、作品であるところの実用石のなんと儚いことだろう。
 
 
 
  公園に行って、ミドリの子供たちの様子を見ることにした。実に一か月ぶりの訪問で、契
 約不履行となった今、手ぶらで向かう。ダンボールハウスは随分と汚れ、ふやけていた。と
 ころどころ破け目があり、天井は陥没寸前だった。中には野良実装の保存食としてよく用い
 られる、仔実装のダルマがあった。死ぬまで手足を食いちぎられて、再生されればまた食わ
 れを繰り返し、死ねばまるごと頂くという寸法だ。
  ダルマは一匹だけで、他の姉妹の姿はなかった。話しかけてみても、『ママいっちゃった
 テチ、わたしたちをおいていっちゃったテチ、ニンゲンサンといっちゃったテチ』と虚ろに
 繰り返すばかりで会話にならなかった。
  ポスポスと足を叩く感触に振り返った。するとそこには、枯葉や枯れ木を蔓紐で体に巻き
 つけた実装石の姿があった。そして両目から涙を流しながら例によって敬礼をしていた。子
 供を預けておいた、例の野良実装だ。傍らには同じように敬礼をする仔実装たちの姿があっ
 た。どいつもこいつも萎びた果物のように血色が悪く痩せ細っていた。大方、俺の補給によ
 って得られた良好な栄養状態と人間がバックについているという虚勢にものを言わせて公園
 を仕切り、俺がすっかり放ったらかしにしていた間に同族の逆襲にあったといったところだ
 ろう。俺は失われた員数のことは見ないことにした。
 
 「今日までよく頑張ったな、おめでとう、おまえたちはは今から飼実装だよ」
 
  その言葉に堰を切ったように、野良実装はあらゆる穴からあらゆる体液を噴出させた。子
 供たちまで親につられて同様の有様だった。きっとほしがりません飼われるまではの精神を
 親実装に仕込まれてきたのだろう。耐え難きを耐えし凌ぎ難きを凌いで念願叶って飼実装に
 なった今、誰が連中の自由気ままな感動を止められるだろう。今すぐ仔実装の一匹を踏みつ
 ぶしたとしても、幸せ回路全開の野良実装一家は歓喜の涙を止めることはできないだろう。
 
 「さあ、家へ帰ろう、ミドリ」
 
  ダンボールハウスの隅でもぞもぞと蠢くダルマを拾い、野良一家を引き連れて家へ帰る。
 空は茜色をして、カラスがカーカー鳴いている。ポケットの中で手持ちの飴玉をダルマに舐
 めさせながら、歩く。少し落ち着きを取り戻した野良実装は、間抜け面に時折デププという
 奇声混じりの笑みを浮かべている。どうにも、この新しいミドリには実用的な才覚は認めら
 れそうににない。
  やはり、俺には実装石しかないようだった。みすぼらしい実装一家を見下ろしながら、俺
 はプランを組み立てていた。どれもこれもやり尽くしてしまっていて、目新しいものが思い
 つかない、そんなプランを組んでいた。まあ、中毒というのはそういうものだ。目新しくな
 んてなくなって、同じ動作をしていればそれで満足。結局俺はそういう人間でしかないらし
 い。多くの優れた先達すら成し遂げられなかった実用石の開発なんて、過分な思いつきだっ
 たのだ。
 
 『ニンゲン、いやニンゲンさん』
 
  野良実装が話しかける。
 
 『なんだか甘い匂いがするデス、それに奴隷・・・じゃなくて、貰ったガキ・・・でもなくって、
 ややこしいデスね、そうデス、ワタシの子供の臭いも同じところからしてくるデス』
 
  俺はチュバチュバと口一杯の飴玉をしゃぶる仔実装の姿を晒して見せた。
 
 『デギャ! なんでソイツがゴチソウなんて食べてるデス! そいつは糞役立たずの糞虫デ
 ス! 他のガキ共だって折角使ってやってるのにすぐにパキンしちゃうような貧弱ばっかデ
 ス、バカ親から生まれたバカガキデス、そんなのよりワタシたちに飴玉よこすデス!』
 
  少しばかり勇気づけられたような気がした。こんな糞虫でさえも奴隷状態の仔実装一匹を
 俺がそうしていたのと同じ期間だけ、生き延びさせることができたのだ。俺が同じ個体を、
 実用石として長く運用するこができない筈はない。
 
 『テチテチ、ニンゲンさん、ママのところにもどれるテチか?』
 
  飴玉が気付になったのか、ダルマは正気づいて話しかけてきた。家はもうすぐそこで、ち
 らりとゴミ捨て場に目をやると、古いミドリの入ったビニール袋が目に入った。
 
 「ママはここにいたけど、俺との約束を果たしきれずに行ってしまったんだよ、お前は約束
 も守れずに行ってしまったりしなでくれないと良いんだけど」
 
  不意に、故ミドリに対して足りなかったのは、食うか食われるかの絶え間ない恐怖だと気
 がついた。俺たちが過ごした日々は、あまりにも安寧に過ぎたのだ。実を言えば、俺は欲求
 不満でやりきれなかった。この新しい実用石のダルマと、新しいミドリとの生活であれば、
 互いに刺激的な毎日をおくることができそうに思えた。
 
 
 
 

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