【 これまでの“ただの一般人としあき”は 】 弐羽としあきは、ある夜偶然出会った“初期実装”に因縁をつけられ、異世界へ飛んでしまった彼女の仔実装を 捜すため、異世界巡りをするハメになった。 「実装石」と呼ばれる人型生命体の存在する世界を巡るとしあきは、それぞれ5日間というタイムリミットの中で、 “頭巾に模様のある”初期実装の子供を見つけ出さなくてはならない。 7つ目に辿り付いたのは、陸の孤島と化し、住人が死に絶えた山の中の小さな町。 昭和三十年代と思われる古い時代、ろくに情報も得られぬまま五日間を過ごさなければならなくなったとしあき達は、 突如実蒼石に襲われ始める。 人間に忠実で賢いという実蒼石が、何故彼らを襲うのか? そして、町中の様々な場所に残された謎、矛盾、そして異常事態の痕跡は、としあき達を更なる混乱へと追い込んでいく。 その上、今度は人間に良く似た謎の存在まで姿を現した。 果たして、この死の町では何が起こっているのだろうか? ここは、町長の自宅敷地内。 あれからずっと待たされているぷちは、不安げに周囲を見回すと、ミドリが入り込んだ小さな穴を覗き込んだ。 あれから彼女の周囲に異常は起きていなかったが、孤独のせいか先程以上に不穏な気配を覚えるようになっていた。 まるで姿の見えない何かに凝視されているような感覚を覚え、ぷちは、その場にへたり込んでしまった。 「うう、オネーチャ、早く戻ってきてテチィ……」 鈍く痛み始めた胸を押さえながら、ぷちは必死で恐怖に耐え続ける。 しばらくすると、背後で「ガサッ」という物音が響く。 振り返ったぷちの視界に、緑色の実装服の端が映った。 「オネーチャテチ?!」 なぜか建物の影に隠れて出てこないので、ぷちは涙を拭いながら近づく。 「オネーチャ、脅かしちゃイヤイヤテチ。私もう帰りたいテチィ」 そっと覗き込むと、そこには緑色の衣服をまとった実装石が、背を向けて静かに佇んでいる。 だがぷちは、それを見た瞬間ある事に気づいた。 ミドリは実装服をぷちに預け、裸になって屋内に潜入したのだ。 「テ、テェェ? あ、あなた、誰テチ?」 手に抱えていた実装服と、目の前に立つ実装石の姿を何度も見返す。 やがて実装石は、静かに振り返り、無表情な顔を向ける。 それは、はっきりと見覚えのある顔だった。 「な、なんでこの世界に居るテチィっ?!」 そう叫んだ直後、ぷちは気を失いふらふらとその場に崩れ落ちる。 実装石は、鳴き声一つ立てず、芝生の上に倒れるぷちを見下ろしていた。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− じゃに☆じそ! 第7話 ACT-3 【 超絶・蒼ビギニング 】 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 風呂場の洗面器に溜まっていた水。 その中に紅茶缶の中身を全部ぶち撒け、歯磨き用と思われるコップで汲み取ったものを用意し、ミドリは赤い実装生物に与えた。 「ふう、ずさん極まりない煎れ方だけど、ないよりマシダワ。 まさか実装石如きに借りを作るとは思わなかったダワ」 「初めて煎れたんだから文句言うなデス!」 カップの中身を飲み干し、下品なゲップを一発かますと、赤い実装生物はようやくまともな会話をし始める。 ミドリは紅茶缶のねじりフタを弄びながら、彼女の横顔を眺めている。 もし、ここにある缶が現在のような形状だったら、ミドリに開ける事は不可能だった。 「勝手に入り込んだのはすまなかったデス。 けど、非常事態なんだから許せデス」 「もういいダワ。 それより、おうちの外はどうなってるダワ?」 「酷いものデス、みんな死にまくりデス。 お前はよく生き残っていたものデス」 赤い実装生物は、半開きになった床下収納を見つめながら、独り言のように呟く。 何かを悟っているのか、その表情はどこか寂しそうだ。 「うちのドレイが、ワタシをあそこに押し込んだダワ。 最初はなんて失礼な奴と思ったダワ。 けど、そのおかげでワタシは命拾いしたダワ」 ようやく敵意を収めた赤い実装生物——成体の実装紅は、自らを「ルビィ」と名乗った。 彼女は、もう数日もこのキッチン内に閉じこもっていたという。 ミドリは、自分達が外からやって来て事情を良く知らない者だと説明すると、この町の現状について質問することにした。 「よくわからないダワ。 うちのドレイは、ジッソーナントカをクジョする必要があるといつも言ってたダワ。 あの蒼い奴らはそのために連れて来られたダワ。 それだけは知ってるダワ」 「お前はこの家の飼いデス?」 「飼い?! バ、馬鹿にするなダワ、この家の主ダワ!」 キッ、と目を剥いてミドリをにらみつける。 薄汚れているとはいえ、その衣服やアクセサリーの様子から、明らかに猫可愛がりされている飼い実装だというのは明白だったが、 ミドリはあえてそれ以上追及しないことにした。 それより、ルビィに対して妙な親近感を覚え始めていた。 ルビィは、しきりにわき腹をポリポリ掻き毟りながら、少し気取った口調で呟く。 「実はワタシも、二人のニンゲンドレイを率いているデス。 良かったらお前も、ワタシ達と合流するデス。 お前の世話はドレイ達にさせるデス。 その赤い水も、もっと沢山飲めるデス」 「お前、緑の奴の癖になかなか気が利いてるダワ」 「困った時はナントヤラデス」 態度こそつっけんどんだが、どうやらルビィはミドリがそれなりに気に入ったようだ。 「お前もワタシのドレイにしてやるダワ。 その前に、身体を綺麗に洗ってこいダワ! さっきから臭くてたまらんダワ!」 そう言うと、ツインテールの一つがミドリの頭をペシッと叩いた。 「デギャッ!」 それは大した力ではなく少し強く撫でる程度だった。 だが彼女は、なぜかそれだけでよろめき、自分でも驚くほどあっさり倒れてしまった。 「デデデ? どうなってるデス?」 「お前、ひょっとしてものすごくひ弱ダワ?」 少し心配そうに覗き込むルビィに対して、ミドリは無言で首を横に振った。 ルビィはおしゃべり好きなのか、それとも久しぶりに意思の疎通の出来る相手と巡りあったせいなのか、次から次へと言葉が 飛び出す。 ミドリは、話の半分は理解出来なかったが、それでも彼女の述べる情報を拾おうと必死で聞き入っていた。 「——つまり、ここは突然“変な奴ら”に襲われたデス?」 「そうダワ、ニンゲン共が突然慌て始めて、悲鳴を上げながら逃げ回ったダワ。 それに、奴らはこのおうちの中にまで入り込んできたダワ。 ワタシの盟友タマも、あいつらと懸命に戦ったダワ」 「タマって、まさか猫のことデス?」 「そうダワ、お前はタマに逢ったダワ?」 「……殺されていたデス」 「……ワ」 猫が出入りする出口に辿り着いたミドリは、待機している筈のぷちを呼んだ。 「おーいぷち、何してるデスー、早くワタシをここから引っ張り出せデスー」 「お前のドレイダワ? 30秒以内に来ないなんて役に立たないドレイダワ」 わき腹をボリボリと掻きつつ、ルビィが罵る。 ミドリは「ぷちは妹デス!」と反論した後、20センチ四方の出入り口から顔を覗かせる。 ぷちの姿は、どこにもない。 「困ったデス、あの仔に何かあったら大変デス! おいルビィ、他にここから出る方法はないデス?」 「あるダワ、こっちに来いダワ」 そう言うと、ルビィは尻を掻きつつ玄関へ向かう。 玄関の重たそうなドアの脇には、後から増設されたと思しき小さな扉が付いている。 ミドリは、さっき正面から見た時そんなものはなかった筈だと、驚きの声を上げた。 「これはワタシ専用の出入り口ダワ。 野良が忍び込まないように、表からはわかり難くなってるダワ」 そう言うと、ルビィは器用にスライド式の鍵を開ける。 出入り口は、四つんばいになればミドリでも余裕で通過できる大きさがあった。 「デェェ、さっきの苦労が嘘のようデス」 ミドリは、ルビィの案内で先程の庭に回り込む。 その途中、裏口付近で倒れているぷちの姿を発見した。 「ぷち! どうしたデス?!」 「死んでるダワ。もう諦めるダワ」 「ふざけんじゃねーデス! ワタシのイモウトチャが、そう簡単に死んでたまるかデス!」 「イモウト? そいつ、どう見てもニンゲンダワ」 肩を揺さぶっていると、やがてぷちは意識を取り戻した。 ミドリを見て一瞬ぎょっとしたが、すぐに涙を浮かべて抱きついてきた。 「テェェェン、オネーチャ、怖かったテチィィ!」 「何があったデス? ワタシの服を返してから、丁寧に説明するデス」 「テェ、そちらの方はどなたテチ?」 「はしたないデカ乳を曝け出して、なんともみっともないドレイ娘ダワ!」 「いやいや、この巨乳があるからこそ、ワタシ達姉妹はクソドレイ共を自在に操れるのデス」 「フム、理に適ってるという事ダワ?」 「テ、テェッ?! テェェェン!! そんなつもりないテチィィ!」 簡単な自己紹介を経た後、ぷちは、先程あった出来事をミドリ達に説明した。 だが、彼女の言う“実装石らしい者”は、どこにも見当たらない。 「ぷちは、きっと怖がりすぎて幻を見たデス」 「ほ、本当テチ! あれは間違いなく ア ン リ さ ん だったテチ!」 アンリとは、彼女達がこの世界の前に訪れた「実装人形の世界」の実装石だ。 しかも、としあきの手により葬られており、もう生きてはいない。 「アンリって、あの何を考えてるかわかんない奴デス?」 「そうテチ! アンリさんがいきなり出て来たテチ!」 必死に訴えるぷちの迫力に気圧されたミドリは、しばしルビィと見詰め合った。 「とにかく、お前達のドレイ共と合流するのが先決ダワ」 腹を下品にボリボリ掻きながら、ルビィが鼻の穴を広げる。 彼女につられたのか、ミドリも無意識に肩をポリポリ掻き始めた。 ※ ※ ※ それから十数分後、塀を乗り越えてきたとしあき達と合流し、ミドリ・ぷち・ルビィの三匹は、トラックで無事自宅まで戻る事が出来た。 としあきは実装紅の生き残りがいたことに大変驚いたが、ひろあきは普段と変わりない態度だ。 少し遅い昼食を摂り一息つくと、皆はそれぞれの情報交換を行うことにした。 まず最初の主役は、実装紅ルビィだ。 彼女は最初としあき達の「ドレイらしからぬ態度」に大層な不満を唱えていたが、としあきが再度スーパーから紅茶葉を取って来て からは機嫌を直し、尋ねてもいない事までベラベラしゃべりまくった。 時折ボリボリとわき腹を掻く仕草が大変な不快感を催すが、皆はあえて口に出さずにいた。 ルビィの話は断片的かつそれぞれの繋がりがバラバラなため、大変に解りにくかったが、それでもなんとか「以前の町の事情」が 透けて見え始めた。 話を統合すると、ある日「実蒼石」達が突如人間に反旗を翻した。 町の人々を無差別に襲い、殺し、しかも家の中に入り込んでまで抹殺するという執拗な殺戮行為を始めたのだ。 ルビィも、彼女の自宅(町長宅)の住人も、家屋内に飛び込んできた者の猛攻に恐れおののき、必死で隠れ逃亡した。 そしてルビィは、住人の一人(恐らく町長本人)の手により、キッチンに設置された床下収納の中に緊急避難させられた。 その後、家の中が静かになったのを確認し、ルビィは時折床下収納から出て飲み物を求めさ迷った。 そして、ついには普段口にしない人間の食べ物にまで手を付けるようになり、その際にミドリと出会ったのだ。 ルビィの話を聞き、一同は揃って唸り声を立てた。 「やっぱり実蒼石の仕業だったのかあ。 でも、なんで人間襲ったんだろうな?」 「怖いテチ! 実蒼石怖いテチ! テェェェン、もうおうちから出たくないテチィ!」 “他人を殺す事しか考えてないなんて、とんでもない危険生物デス! そいつらの方こそ駆除されるべきデス!” 「とんでもない、あんなに愛らしくて素直で純情な実蒼石を駆除するなんて、ありえないことだよ。 ——本来なら、ね」 やはり全員の疑問は、「何故人間が襲われなければならなかったのか」という点に集約する。 しかし、ルビィの話からはこれ以上のことはわからない。 ミドリは、ルビィの家の中にまだ危険が残されている点を踏まえつつ、テレビや電話があった事をとしあきに伝える。 しばしの議論の後、明日もう一度、今度は全員で町長宅を調べてみる流れとなった。 もう一つの疑問は、としあき達が見た「人化実装のような女性」と、ぷちが見かけた「アンリのような実装石」の存在だった。 前者は、としあきとひろあきが確認し現在も死体が公民館内に残されているため、見間違いや幻覚ではない。 しかし、ぷちの見た実装石は何の確証も存在していない。 「でも、私は本当に見たテチ! クソドレイサン信じてテチ!」 「うーん、ぷちは嘘はつかないからなあ、信じたいのはやまやまなんだけど……」 “山に住む実装石の生き残りが降りて来ただけなのダワ?” ルビィの言葉を、ひろあきが否定する。 「山実装の冬眠期間は、12月半ばから翌年の3月初旬までだ。 今日、交番を調べた時にカレンダーを見かけたんだけど、今はどうやら昭和38年の2月らしい。 実装石達はまだ冬眠から目覚めることは出来ない」 「ふーむ、じゃあたまたま目覚めた奴がいたとか…?」 “同じ実装石の立場で言わせてもらうと、ヌクヌクホカホカの寝床を抜け出して寒い外に出るアホウなんか、居るはずがないデス” 「じゃあ、私が見たのは何だったテチ?」 首を傾げる一同に、ひろあきが咳払いをして呼びかける。 「生存者がまだ居るというのは、大発見なことに変わりない。 この町のどこかに、大勢の人が隠れ住める空間があるという事だからね」 「じゃあ、明日はそれを確かめ——」 そこまで話した時点で、外からかん高い女性の悲鳴が聞こえてきた。 全員、瞬時に緊張感に包まれる。 「げっ、早速かよ!」 咄嗟に飛び出そうとしたとしあきを、ひろあきが即座に引き止める。 「待ちたまえ! 今出て行ったら危険だ!」 「しかし!!」 “落ち着けクソドレイ、何が起きたか確かめるデス” そう言うと、ミドリはカーテンを少しめくり、外の様子を眺めようとした。 としあきは、部屋の電気を消した。 窓の外、トラックの付近に、誰かが倒れており、その周りに小さな生物が無数に群がっている。 空はもう暗くなりはじめていたが、それが実蒼石の集団だというのはすぐにわかった。 “デベッ! あいつらすぐ近くまで来ているデスッ!” “この家の中に入られたら、もうおしまいダワ!” 「ひろあき、デスゥタンガンでなんとかなるか?」 振り返り尋ねると、ひろあきはフフン♪と鼻を鳴らした。 「任せたまえ。彼女達が近づけば近づくほど、こちらの思う壺さ」 そう言うと、デスゥタンガンを取り出しクルクルと回転させる。 としあきとぷちは顔を見合わせ、安堵の息を漏らした。 一階に下りたとしあきとひろあきは、デスゥタンガンの液晶画面を見ながら、息を殺して入り口に近づいていく。 偽石反応は、全部で36……かなりの数に及んでいる。 それらは、じわりじわりとこの家の入り口に接近しており、明らかにこちらの出方を窺っている。 だが、ある時点で反応の動きがピタリと止まった。 「おや、おかしいな? 有効範囲内に入ってこない」 「え? それじゃあ操れないのか?」 「うん、でもこのままなら何もされないし、安全ではあるよね」 「呑気だなぁ、後で何か起きたらどうすんだよ」 「心配ない、これがある限り僕達が被害に遭うことは絶対にないよ」 フフン♪ とまた鼻を鳴らし、空いた手で銃を撃つ真似をしてみせる。 彼の余裕しゃくしゃくの態度に、としあきは僅かな安心感を覚えた。 “やっぱりそれ、便利すぎるデスゥ——” その時、どこからもなく不思議な声が聞こえた。 「い、今の、なんだ?」 「うん? さぁ、僕には何も聞こえなかったけど?」 「おかしいな、空耳? ——あれ?」 トントン、トントン 不意に、入り口の戸がノックされ、微かに実蒼石の鳴き声が聞こえてくる。 ひろあきが、歓喜の声を上げた。 ボクボク、ボクゥ♪ 「アクア! 良かった、無事だったんだね?」 だがとしあきはそれがアクアの声だとはっきり確信出来ず、戸を開けようとするひろあきの手を止めた。 「何するんだ、離したまえ」 「おい待て! なんでアクアだってわかるんだ?」 「何を言ってる? 今、“アクアだ”と名乗ってたじゃないか」 ひろあきが実装リンガルの画面を示すと、そこには確かに「アクアボク、今やっと帰ってきたボクゥ♪」とログが表示されていた。 だが、その声はとしあきに全く届いていない。 「あっれおかしいな、また携帯バカになったのかな?」 「アクア、おかえり——」 携帯を取り出し戸惑うとしあきをよそに、ひろあきは躊躇いなく戸を開いた。 ※ ※ ※ 同じ頃、二階でも異変が発生していた。 としあき達が一階に下りてしばらく後、ミドリ達の前に、一つの不気味な影が姿を現した。 部屋の中心、畳から僅かに浮いて佇む身長15センチ程度の小さな仔実装。 両目は異様に血走り、耳は鋭くほぼ真上に伸びており、更には頭巾に6のような模様がある。 その姿に最も早く反応したのは、ミドリだった。 「初期実装の子供デス! ぷち、あいつを捕まえろデスッ!!」 「テ、テェッ?!」 「四の五の言わずに早くしろデス! そいつさえ捕まえれば、この世界からオサラバ出来るデスッ!」 「何だとダワ! ワタシが捕まえるダワ!」 「テ、テチャアッ!」 部屋の真ん中に現れた初期実装の子供は、鳴き声一つ立てずに三人を見つめている。 ぷちとルビィが一斉に飛び掛るが、全く逃げようとしない。 だが、二人の手には何の感触もなく、まるで霞のようにすり抜けられた。 「デェッ! 役立たず共め、ワタシが捕まえるデギャア!」 続いてミドリが飛び掛るが、またも身体をすり抜けてしまう。 畳に顔面から激突したミドリに、初期実装の子供は作り物のような不気味な顔を向ける。 「テェェェン! 子供チャン、お願いだから捕まってテチィ!」 「ワタシ達をこの町から救い出すダワ!」 ぷちが再び挑み、ルビィが髪を振り回してアタックする。 だが、何度飛び掛っても初期実装の子供に触れる事は出来ず、反対側まですり抜けてしまう。 四度目の攻めで勢いを殺せなかったルビィは、ツインテールが空振りし、押入れの隙間を殴打してしまった。 バリバリ、と激しい音を立て、襖が大きく裂ける。 それを見たミドリとぷちの動きが、止まった。 「テ、テ、テ、テ、テェェェッ?! ル、ルビィさん、そ、それは?!」 「あの時と同じデスッ! ズッパリ切れてるデスっ!」 「何を言ってるダワ?」 ミドリ達は、かばい合うようにしながらルビィとの距離を取り始めた。 襖の傷は、初日に謎の存在に襲われた時の状況に良く似ている。 いつしか初期実装の子供の事すら忘れ、二人は一階へ逃げようとジリジリ後退を始めた。 「お前達、失礼ダワ! ワタシが一体何をしたというんダワ!」 ルビィは、わめきながらジワジワと距離を詰めようとする。 我慢の限界に達したミドリとぷちは、慌てて階段を駆け下り始めた。 「た、助けてテチィィ!」 “あいつがワタシ達を襲った犯人だったデスウゥゥ!!” 階下に居るとしあき達に救いを求めながら、転げるように駆け下りる。 だが、二人は最悪のタイミングで降りてしまった。 入り口付近では、開かれた扉の隙間から——大勢の実蒼石が飛び込んで来ていた! ボギャアァァァッ!! ボギイィィィッ!! ギャボワアァァァァッ!! 発狂したような叫び声を上げ、実蒼石達は鋏を振り回して飛び込んでくる。 開かれた戸は無理やりこじ開けられ、次から次へとなだれ込む。 完全に油断していたとしあきとひろあきは、これ以上ないほど完全に対応が遅れた。 としあきの左足に、鋭い痛みが走る。 見ると、40センチくらいの実蒼石がとても嬉しそうな笑顔を浮かべ、鋏の先端を突き刺していた。 “死ねボクウゥゥ♪” 「ひ、ひろあきぃぃぃっ!!」 「な、何がどうなったんだ?! アクア、アクアーっ?!」 デスゥタンガンを操る隙すら与えられず、ひろあきととしあきは、あっけなく床に叩き伏せられる。 成体の実蒼石が一度に数匹飛び掛れば、いかに成人した人間でも抵抗は難しい。 ひろあきの胸に飛び乗った一匹が、鋏の切っ先を首元に向けてグヘヘと微笑む。 と同時に、右手首に激しい痛みがほとばしった。 「! デ、デスゥタンガンが!!」 “指を切り落とせボク! そいつは、その道具さえ使えなければ只のでくの棒ボク!” アクアの声が、ひろあきととしあきの耳に届く。 それは、とてもあのアクアの言葉とは思えなかった。 「待てアクア! いったい、何があったんだ?!」 「そ、そうだ!! なんで俺達を襲うんだ?!」 四肢を押さえつけられ、喉元に刃を突きつけられ、完全に抵抗手段を奪われた二人は、すがるような目でアクアを見つめる。 だがアクアは、実蒼石達の中心に立ち、まるで二人を嘲るような冷酷な視線を投げつけている。 その時、ひろあきはようやく、アクアの変化に気づいた。 「は、鋏を取り戻したのか!?」 “うふふ、そうボク。 やっと、ボクの命より大事なハサミが戻ってきたボク♪” 「そ、そりゃあ良かったじゃないか」 “全くボク♪ だからもう、お前に用はないボク” 「——え?」 予想外の言葉に、ひろあきは目をひん剥く。 否、ひろあきだけではない、としあきも、一階の様子を階段から窺っていたミドリとぷちも、彼女のあまりにも無慈悲な言葉に 凍り付いていた。 “ボクはもう、世界巡りをしなくても済むようになったボク。 ここは元々ボクの居た世界ボク、やっと帰って来られたボク” 「だ、だからってどうしてひろあきを——」 “この男は、いつもボクに頼ってばかりで自分では何も出来ない臆病者ボク。 今まで何回尻拭いをさせられたか、わかったもんじゃないボク。 ハサミも取り戻したし、ジッソーを切り刻むのにも飽きたし、せっかくだから今までの恨みを込めて、こいつに引導を渡してやるボク!” 「う、うそだあぁぁ! お前はアクアじゃない、誰ナンダアァァ!」 大声を出して暴れるひろあきの頭に、別な実蒼石が鋏の柄を炸裂させる。 ゴキッ、と凄い音がして、ひろあきはすぐに静かになった。 “最期の最後まで、面倒をかける奴ボク。 この家の奴らは皆殺し確定ボク、だけどこいつだけは、ボク直々にトドメを刺すボク!” 「待てアクア!」 ひろあきの喉に鋏を突き立てようとするアクアを、としあきが呼び止める。 眉間にシワを寄せ、物凄く人相の悪くなった顔を向けてくる。 「せめて教えてくれ、一体なんで、俺達人間が殺されなきゃならなかったんだ?」 “ああ、その事なら話はカンタンボク” 「わかったのか、原因が?」 “お前に教えてやる義理はないボク” 「ええっ?!」 周囲では、他の実蒼石達がボククク…と笑っている。 絶体絶命の中、としあきは、いつものように必死で頭をフル回転させていた。 だが、今回という今回はさすがに打開策が思い浮かばない。 アクアがとしあきから目線を逸らし、ひろあきの喉笛を凝視した時、どこかから大声が響いてきた。 「コラお前達! 一体何がどうなってるのか、説明しろダワ!」 それは、ルビィの声だった。 と同時に、ミドリとぷちの悲鳴も聞こえてくる。 しばらくすると、三人がまるで転落するような勢いで、一階へ降りて来た。 実蒼石達の注意が逸れる。 “実装紅! まだ生き残ってたボク?!” 無数の実蒼石軍団にようやく気づいたルビィは、顔面蒼白になって硬直した。 じょろじょろと、下半身から何かが漏れる。 実蒼石達は、としあきとひろあきから完全に注意を外し、手の空いている者達は階段へと迫っていく。 アクアも、睨み付けるようにルビィ達を凝視している。 その時、としあきの頭に電球が浮かび、パリンと割れた。 咄嗟に起き上がったとしあきは、アクアの襟首を掴み上げると、間髪入れずに入り口に向かって放り投げた。 無論、手加減などしない……全力でだ。 「ゥオオオォォォッッシャアァァァァァ!!!」 不意を突かれたアクアは、何の抵抗も出来ぬままクルクルと回転飛翔し、入り口のガラス戸に激突した! ガシャアァァン!! ボギャアァッ?! 轟音と悲鳴に反応し、実蒼石達が振り返る。 だがその間に、としあきはデスゥタンガンを手に取っていた。 グリップを引き出し、適当にボタンを押す。 「こうなりゃもうヤケだ! どうにでもなっちまえ!!」 実蒼石達が飛び掛るより早く、としあきはトリガーを引いた。 —— Attack Command. —— —— Stungun! —— 電子音声が、鳴り響く。 と同時に、実蒼石達が一斉に身体を痙攣させ、口から泡を吹いて悶絶し始めた。 悲鳴すら上げられず、ピクピクとのた打ち回る。 見ると、ミドリやルビィも同じような動きをしていた。 ボ……ボ、ギ、ャアァァ……!! ギ、ギイィィィィ……?!?! 「テチャアッ?! みんなどうしちゃったテチィ?!」 「ぷち、二人を連れてこっちに来い! 脱出するぞ!」 「で、でもぉ…」 「いいから急げ!!」 「は、はいテチ!」 ひろあきに肩を貸しながら、としあきは必死で呼びかける。 ぷちは二人を両手で抱き上げると、小走りにとしあきの許へ駆けつけた。 「大丈夫テチ? ひろあきさん?」 「うん、隣の店で薬を……結構深く切られたみたいだ」 「アクアさんはどうするテチ?」 「連れていけるわけねぇだろ! オラ急ぐぞ!!」 「テェェン、待ってテチィ!」 デ……ビリビリビリ タ、タスケ……ダワ、ビリビリビリ 擬似感電状態を解除されないまま、ミドリとルビィも連行されていく。 アクアは、トラックの側面に頭から激突したようで、脳天を陥没させて完全に気を失っている。 五人は、すかさず隣の薬品店……最初の家に飛び込んだ。 ※ ※ ※ 止血を施し、傷口に大量の消毒液をぶっかけて包帯を巻くと、としあきはひろあきの肩をバンと叩いた。 「しばらくこれで我慢してくれ。それより、これからどうする?」 「いてて……デスゥタンガンの効果は30分もすれば切れる。 ここにいたらまた彼女達がやって来る。 別な場所に退避しないと」 「そ、それなら、ルビィさんのおうちはどうテチ?」 脇でいまだに引きつっている二人を見つめながら、ぷちが提案する。 他に逃げられそうな場所は、今の三人には思い浮かばない。 「迷ってる暇もないし……トラックで移動しよう」 「弐羽くん、デスゥタンガンを持って行きたまえ。 それと、くれぐれもMとRだけは押さないように」 そう言いながら、デスゥタンガンのグリップ辺りを指差す。 「MとR? なんでだ?」 「Mは“move”で行動開始、Rは“rage”で暴れ始める機能さ」 「なんで暴れさせる機能なんてあるんだよ?」 「実装石を運動させるためだってさ」 デスゥタンガンのグリップを引き出し、アルファベットを確認すると、としあきは再び外に飛び出した。 冷たい風が吹き付け、思わず身震いする。 先程は気付かなかったが、外の気温はかなり低下しているようだ。 山の方から吹き下ろす風は今日は特に強く、遠くではざわざわと木々が揺れる音がする。 としあきは、雲一つなく晴れ渡った夜空を見上げた。 「コウモリか……」 夜空を舞っている黒い影を見止め、何気なく呟くと、急いでトラックに飛び乗る。 ふと前方を見ると、十字路角の食堂前辺りに、誰かが倒れている。 それが、先程二階で聞いた悲鳴の主だとすぐに気付いた。 トラックを薬品店の前に着けると、としあきはその人影に近寄ってみる。 懐中電灯で照らしてみると、それは公民館で見かけたのと良く似た人間モドキだった。 大きな耳と、腰まで伸びた長く綺麗な亜麻色の髪、そして季節に合わない薄く丈の短い衣服。 それは、この町の人間どころか、日本人ですらなさそうだ。 うつ伏せになっているので顔は見えなかったが、その者は全身をメッタ刺しにされ大量に出血していた。 両手を合わせてナマンダブを唱えると、としあきは薬品店に戻ろうとして……再び死体に向き直った。 「これどかさなきゃ、トラック通れねぇじゃん。まいったなぁ」 東に向けて停車しているトラックは、このまままっすぐ進み十字路で右折することで町長宅に辿り着く。 だが道が狭いため、この死体を避けて通り抜けるのは不可能だ。 バックさせて西側から回り込むことも可能ではあるが、としあきは慣れない車で、しかも初めて運転するトラックで荷台に人を乗せた まま敢行する度胸がなかった。 「しゃあねぇ、やるか」 渋々死体の脇に手を通し、持ち上げる。 意外な重さと肉体の独特の柔らかさが、不気味な気分を煽り立てる。 死体をどかしながら、としあきはいつの間にか、自分も死体に慣れてしまっている事に気付いた。 食堂の入り口手前まで死体を動かすと、なんとなくその顔を懐中電灯で照らしてみた。 光に照らされたその顔は、恐らくはかなりの美人だっただろうと思われる若い女性だ。 少し頬がやつれてはいたが、肌も白く目も切れ長でなかなかのものだ。 残念ながらその表情は恐怖と苦悶で歪んでいるため、ずっと見続けているのはきついものがある。 としあきは、よくアニメなどである「手で瞼と口を閉じさせる」をやろうと思い手を伸ばした。 その時、突然、女性の身体がビクンと動いた。 「え……?!」 手を宙に浮かせたまま、としあきは硬直する。 完全に死んでいる筈の女性の身体は、まるで激しく咳き込んでいるかのように上体を揺らし、逸らし、ビクンビクンと痙攣させている。 見間違いではなく、地面の上で跳ね回る音もしっかりと聞こえる。 しばらくすると、半開きの口から呻き声が聞こえてきた。 それは、まるで地獄の底から這い上がる亡者を思わせる、おぞましいものだ。 う、あ、あ、あ、ぁぁ、ああ、ああぁ……あぁ…… 「……?! !!」 声すら失い、完全に腰を抜かしたとしあきの目の前で、女性の死体は更に激しくのた打ち回った。 胸を上下に揺さぶり、それに連動して手足や首が奇妙な方向に揺れ動く。 やがてゴキリ、という嫌な音が鳴り、女性の首が完全に真横を向いた。 灰色に濁った瞳が、としあきを睨み付ける。 「な、な、な、ななな、ななななな?!?!?!」 とにかくそこから逃げろと、本能が訴えている。 だがとしあきの意識は、何が起ころうとしているのか、事態を見届けたいとも考えていた。 視線をロックしたまま数メートル後退したとしあきの耳に、どこからか足音が響いてくる。 一体ではなく、沢山の……遥か彼方の暗闇の中に、緑と赤の光が浮かび上がった。 ボクボク、ボクボク…… ボクボク、ボクボク…… としあきは、ズボンの隙間に差し込んだデスゥタンガンの存在すら忘れ、ただその場でガタガタ震え続けるしかなかった。 ※ ※ ※ あまりにも帰還が遅いとしあきに業を煮やしたひろあきは、外の様子を窺いに出た。 息を殺して外に出てみると、交差点の傍で尻餅を突いているとしあきの姿を見つけた。 「弐羽くん、何をしているんだ?!」 「あ、あれ、アレアレ!」 としあきの視線の先では、下腹部が大きく膨れ上がり、両足が少しずつ開かれていく女性の死体があった。 大量の液体が地面に吹き零れ、じゅるじゅるという生理的嫌悪感を覚えさせる水音と共に、何かが姿を現そうとしている。 そして、彼らのすぐ傍まで、実蒼石の集団が迫っている。 だが彼女達の視線は、としあき達ではなく、女性の死体にのみ向けられていた。 女性の死体が、更に激しくのたうつ。 と同時に、足の間から、黒く大きな塊が飛び出した。 否、黒ばかりではない。 粘液にまみれた銀色の髪と、灰色のマントのようなものも見える。 やがて、マントのようなものは大きくバサリと音を立て、天に向かって真っ直ぐ伸び始める。 それは、マントではない——翼だ。 徐々に漆黒に染まっていく二つの翼は、粘膜を振り切るようにバサバサと打ち振るわれる。 銀色の髪に隠されていた、妙に白い顔と、紫色の眼光が、としあき達に向けられる。 ル……ト、ォ……ォォオオオオオ!! 女性の死体から生まれた漆黒の生物は、天を仰ぐように顔を上げ、高らかに声を立てる。 と、まるでそれを合図にしていたかのように、実蒼石達が一斉に飛び掛った。 ボクウゥゥッ!! ドシュッ! ザシュッ!! 一瞬の出来事だった。 漆黒の生物はあっという間に首を切り飛ばされ、まるで糸の切れたマリオネットのように倒れ伏す。 続けて、実蒼石達の意識がとしあき達の方に向けられた。 鋏の金属音が、鳴り響く。 「う、うわ……や、やめろおぉぉ!!」 —— Accept Command. —— —— Fixate! —— 背後で聞き慣れた電子音声が鳴り、実蒼石達の動きが一斉に停止する。 ひろあきは、包帯巻きの手首を痛々しくさすりながら、としあきに立ち上がるよう求めた。 「い、今のアレ、なんなんだよ?! エイリアンか?! 宇宙の謎の生命体か?!」 「実装燈だ。迂闊だったよ、完全に存在を失念していた」 「ジッソートー? な、なんだよそれ?!」 「詳しい話は後だ!!」 ひろあきは、トラックに向かって走り出す。 まだ力が入らない両足を鞭打ち、としあきもその後を追った。 室内にぷち、ミドリ、ルビィを乗せ、荷台にひろあきを上げると、としあきは早速トラックを動かした。 エンジン音が響くのと同時に、町中の気配が瞬時に切り替わる。 至る所から、音に引き寄せられ大量の実装生物が姿を現す。 としあきは、ライトに照らし出される実蒼石の集団をわざと見ないようにして、アクセルを踏み込んだ。 ぐじゅり、ぐじゃり、じゅぼり ボギャ……ギャアァァ……!! タイヤが踏みつけた実蒼石の感触が、シートを伝わってくる。 ぷちは必死で身を固め、おぞましさに耐え続けている。 としあきも、呻き声を上げたい気持ちを必死でこらえ、的確に運転を行う。 車体が揺れるたび、ミドリとルビィが軽い悲鳴を立てた。 トラックを門戸前に密接させると、ひろあきは荷台をステップにして中に飛び降りた。 「早く、助手席から出るんだ!」 トラックを盾にして、急いで町長宅の敷地内に退避する。 助手席のドアを閉め鍵をかけたのとほぼ同時に、反対側で無数の実蒼石達の怒声が響いた。 としあきは気付かなかったが、トラックを追跡し、或いは回り込み、相当な数の実蒼石が集まって来ていた。 門戸を閉めようとすると、トラックの下をくぐり中に入ろうとする者がいるのに気付き、としあきは思い切りつま先で蹴飛ばした。 鈍い感触と、ボギャッという悲痛な悲鳴が、嫌悪感を高めていく。 元々実装生物侵入対策が施されていたのか、門戸は閉じると下がほぼぴっちり閉じ、蛆実装か親指実装でもない限り入り込め ないほど隙間が狭くなる。 内側がガッチリと閂錠をかけたとしあきは、ようやく息をついた。 「クソドレイサン、こっちテチ!」 振り返ると、玄関の前でぷちが手招きしている。 しばらくすると、中から鍵が開けられる音がした。 「だ、誰が開けたの?」 「ルビィさんテチ!」 「彼女の手を借りないと中に入れないからね、スタンガンは解除しといたよ」 “デデデ、まったくもぅ、ワタシまで巻き添えにされるなんて酷いデス! やってらんねーデス!” ようやくしゃべれるようになったミドリが悪態をつくが、反応する余裕は誰にもない。 空を舞っている黒い翼の実装生物の数が、増えはじめているのが見えたからだ。 玄関を開き、慌てて飛び込んだ一同は、そのままその場にへたりこんでしまった。 「テェェ、もうこんなのイヤイヤテチ! 早く次の世界に行きたいテチ!」 “でもあと二日くらいあるデス?! このままだと、いつかワタシ達——” 「縁起でもない事言うなよ」 “お前達、こっちに来るダワ” ツインテールを器用に伸ばし、玄関ドアの鍵をかけると、ルビィはリビングの方を指差した。 ※ ※ ※ 時計は、午後8時を指している。 町長宅はあらゆる窓に遮光カーテンや雨戸が施され、中からは外の様子が全く窺えない。 どうやらしばらくの間、誰かがここで避難していたようで、キッチンには缶詰や瓶詰、瓶入り飲料の空き容器が多数散らばっている。 ミドリは、リビングの戸棚からまだ食べられるクッキーやビスケットの箱を大量に発見し、これがこの日の夕食となった。 この家はとしあき達が今まで居た所より造りが高級で、井戸を利用したポンプ式の水道以外、防音、防寒、電気、火気すべてに おいて利便性が高まっている。 特にプロパンガス利用により、現代と大差ないガスコンロと風呂があるのは魅力的だった。 一階全体を入念に確認し、死体も侵入者の痕跡も見当たらないことを確認したとしあきとひろあきは、ここをしばしの拠点にする事 を改めて提案した。 ただし二階は、階段途中にある猫の死体の除去をルビィが拒んだために上れず、調査は後回しになった。 家の中にあった家財道具はほとんど使用可能で、テレビもモノクロでノイズやブレが激しいものの、なんとか視聴に耐えられた。 としあき達は、これにより今が「昭和38年2月13日水曜日」である事を確認した。 かなり旧型の電話は発見されたものの通じてはおらず、受話器を取ってもツーという音が聞こえない。 電話本体横から伸びている謎のレバーが気になったが、としあき達は通話不可能な状態にあると結論付けるしかなかつた。 更に町長の自室と思われる部屋を調べ、町の資料と思われるものを検索した結果、ここが○○県△△山麓にある「山渡町」という 人口136人の町である事が判明した。 また、実蒼石の譲渡を巡る業者とのやりとりを巡る関連書類も発見された。 風呂を使い、家の中にあった衣類で着替えを行い久しぶりにさっぱりした一同は、リビング内でミーティングを行うことにした。 最初に口を開いたのは、ひろあきだった。 「だいたいだけど、この山渡町の事情が見えてきたよ」 “何デス? キリキリ教えろデス” “ワタシも知りたいダワ。 おいそこのメイド、紅茶のおかわりを所望するダワ” 「はいはいテチ、ちょっと待っててテチ」 デスゥタンガンの液晶画面を開き、皆に見せながらひろあきが説明を始める。 画面は、ほぼ完全に赤い点で埋め尽くされている。 「現在、この家の周りは、実装生物達に完全に囲まれている。 地上には実蒼石、空からは実装燈だ。 今補足出来る範囲内だけで、326匹もいるね。 今少しでも外に出たら、僕達は間違いなく一巻の終わりだ」 「だとすると、ギリギリまでこの家の中でやり過ごすしかないな」 「そうだね、しばらくごやっかいになろう」 雨戸の外では、何かが激しく飛び交う羽音が聞こえている。 ミドリは耳を塞ぎながら、黙ってとしあきの顔を見つめる。 彼女の頭を撫でながら、としあきがひろあきに質問した。 「そんでさ、実装燈っていったい何なんだよ?」 「実装燈というのは、空を飛ぶことが出来る実装生物だ。 かなり変わった生態を持っていて、実装石に卵を産みつけて増える寄生生物なんだよ」 “うげぇ、そんな実装生物がいるなんて、狂った世界デス!” 「それじゃあ、このとんでもない繁殖具合はどーいうことよ?」 ぷちが運んできた紅茶を受け取りながら、としあきは首を傾げる。 デスゥタンガンを大きなテーブルの上に置くと、ひろあきは更に説明を続けた。 実装燈の知能は実装生物全体の中でも特に低く、食欲と繁殖本能しか持っていないに等しい。 ただし、繁殖を行うために効率良い手段を選ぶ能力には秀でていて、かつてこの世界で最も数が多かった実装石を宿主に選んで いた。 しかし、この世界の実装石は実蒼石や実装紅、また時には実装金・実装雛からも淘汰される弱い存在であり、更には人間による 乱獲も加わり年々その数と生息域を減らし続けている。 以前アクアが話した内容によると、彼女が住んでいた時代では実装石はほとんど絶滅状態に等しく、その影響で実装燈も滅び かけていたようだ。 それどころか、それぞれの存在は人々にほぼ忘れられかけていて、アクアも過去一度しか実装燈を見た事がなかったらしい。 「ここがアクアのいた時代の何年前かはわからないけど、多分まだ実装石が残っている頃なんだろう。 だから実装燈も生きているし、実蒼石達も獲物を捜していられるんだろうね」 「それはわかったけど、じゃあなんでその実装燈が、人間の死体から出て来たんだ?」 としあきは、先程見た恐るべき光景を思い返し、身震いする。 気がつくと、隣に座っているぷちが、彼の手をきゅっと握っていた。 “実装燈という連中、卵を産む相手がいなくなって、もう誰でもいいってなったんじゃないデス?” “ワタシは見たダワ。実装燈がニンゲンを襲っているのを!” ルビィが、声高に主張する。 それに反応したミドリが、ルビィをじろじろ見回し始めた。 “あの時ワタシ達を襲ったのは、こいつの仲間じゃないデス?!” ルビィを指差しながら、ミドリが声を荒げる。 “失礼ダワ! なんでワタシ達のように高貴かつ耽美、そして優雅にして至高の実装紅が、お前達のような緑ウンコ玉なんか 狙わなきゃならないダワ!” 「テチャァァ! 私はウンチじゃないテチ! テェェン!!」 元実装石は泣きながら反論するが、本職は余裕の構えだ。 “ふっ、その程度の罵詈雑言でワタシが動揺すると思ったら、ジョーカーエクストリームな間違いデス” 肩をポリポリ掻きながら呟くミドリに、同じくわき腹をだらしなく掻きながら、ルビィが囁きかけた。 “おいブス” “なんだとテメエエェェ!! 表に出ろデスゥゥゥッ!” 「やめんか動く排泄物共!!」 としあきの脳天唐竹割りが、ルビィとミドリに炸裂する。 煙を吹いて悶絶する二人をよそに、ひろあきは更に話を続ける。 「実装紅は、乾燥した植物の葉から抽出されたエキスを水分で流し込まない限り栄養が取れない生物だ。 一応固形物も食べられはするけど、栄養吸収力は著しく劣る。 だからその仔だけじゃなく、すべての実装紅にとって紅茶は最高の栄養源になる。 ミドリ君やメイド君に襲い掛かるような生き物じゃないよ、目障りだとかケンカを売られたとかでない限りね」 「へえ、じゃあミドリが食われる心配はないな」 “こ、こんな奴、頼まれても食べたりしないダワ……アタタタ” “このクソドレイ、主人をないがしろにしすぎデス……イテテ” 頭をさすりながら立ち上がる二人を見て、としあきはニヤリと微笑む。 これまでの流れを見ていると、実装燈も実蒼石も夜行性なのか、日中はあまり出回らないようだ。 食料・資材調達は太陽が出ている時だけに限定され、しかもチャンスはあと二回しかない。 それまでに、薬品店に無事帰還するだけの退避手段を確保する必要がある。 到着した時間は、午前6時——タイムリミットまで、残りあと57時間弱。 それは長くもあり、短くもある微妙な時間だった。 「なあ、ところでアクアはどうする?」 今まで皆があえて避けていた話題に、としあきが触れる。 ひろあきは、眉間をピクリと動かし反応した。 「なんとしても、取り戻したいね」 「けどあいつ、完全に狂っちまったじゃねぇかよ。 このまま連れて行けば、どんな目に遭わされるかわかんねーぜ?」 「大丈夫だよ、きっと。 また鋏を取り上げれば、以前のアクアに戻るから」 「ど、どうやってそんな……あ、それでデスゥタンガンか」 フフン♪ と鼻を鳴らすひろあきをよそに、としあきはなんとなく二階が気になり、階段のある廊下の方を眺めた。 「クソドレイサン、どうしたテチ?」 「ん、ああ、ちょっとね」 いつのまに着替えたのか、ぷちは男物の高価そうなガウンをまとっている。 ベージュのガウンの下は素肌のようで、大きな胸の谷間がくっきり見えている。 だが今のとしあきにとって、それはあまり嬉しく感じられるものではなかった。 「なあぷち、聞いてもいいか?」 「何テチ?」 「お前が見たアンリみたいな実装石と、俺達が見た人化実装みたいな奴らは、一体何なんだろうな?」 「テェ! そういえばすっかり忘れていたテチ! あの人達はどこからやって来たんテチ?」 慌てふためくぷちの肩を抱き、としあきは少し考える。 (俺達は実蒼石や実装燈に気をとられ過ぎて、ひょっとしたらもっと大きな別な出来事に気付いてないんじゃないかなぁ……) ※ ※ ※ その頃、外では実蒼石達が次々に町中に現れ、空に舞う実装燈達との対決を待ち続けていた。 少しでも隙を見せたり、弱々しい態度を見せると、実装燈は即座に襲い掛かる。 だがそれ以外の時は、絶対に実蒼石の有効攻撃範囲内に飛び込まない。 このため、実蒼石達はかなり不利な戦況を強いられていた。 町中で生き残っている実蒼石を1とすると、夜に山からやってくる実装燈の割合はおおよそ8。 一方的に攻撃され、或いは疑心暗鬼による自滅により、実蒼石はどんどん数を減らしていく。 もはや、実蒼石達の敗北は確定的だった。 実蒼石達は固執した。 自分達に与えられている「実装燈の徹底駆除」を果たすために。 だが彼女達は、やがてその使命を歪曲し始める。 いつしか「駆除命令を果たす」という満足感を得る事が優先化し始めたのだ。 だからこそ、実装燈がまだ非力な状態である「孵化直後」を狙うようになり、更には孵化する前に宿主ごと殺すようになった。 そうすれば、彼女達には、つかの間の満足感が得られるのだ。 「ニンゲンサンのお役に立てた」という、恍惚感にも似た感覚を—— だが、それでは事態の根源的解決に繋がらないという事までは、理解が及ばない。 実蒼石達の目的は事態を終息させることではなく、あくまで人間の命令を果たすだけでしかない。 所詮、彼女達も実装生物の範疇を超えられないのだ。 ボキャアァァ!! 負傷した実蒼石が数匹の実装燈に持ち上げられ、遥か上空から突き落とされる。 真下にいた実蒼石達は、闇夜から高速で落ちてくる仲間を避けられず、無残に押し潰された。 いくら実蒼石の動きが素早くても、ほぼ垂直で昇降を繰り返す実装燈の動きには対応出来ない。 それどころか、飛び掛った瞬間に更に別の実装燈に捕まり、「対地爆弾」として利用されてしまうのだ。 クスクス クスクスクス クスクス クスクスクスクス 山渡町の南広場、その中央に追い詰められたアクア率いる実蒼石グループは、町の外壁や建物の屋根、塀や看板、電信柱の上 に停まった、無数の実装燈のシルエットを見て戦慄した。 皆、実蒼石達を見下ろして笑っている。 頭上から響く、金属を擦るような音は、実装燈が口腔内の太針——産卵管を出し入れする音。 これは、獲物を目の前に行う独特の威嚇行為だ。 だが実蒼石達も、負けずと鋏を鳴らす。 シャキン、シャキンと鋭い金属音が、まるで復唱のように鳴り響く。 それはもう、何日も続けられてきた実装生物同士の戦い。 だが、あともう少しで、その決着が着こうとしている。 「実装燈なんてカトンボも同然ボク! あんな奴らに殺されるなんて実蒼石の恥ボク! お前ら、早くなんとかしろボク!」 実蒼石グループの一つのリーダー格に治まったアクアは、自分の背後で震えている仲間達に怒鳴った。 だが、彼女達は誰も動こうとしない。 癇癪を起こしたアクアが、一番近くにいる仲間の左目を突き刺し、潰した。 ボギャアァァ!! 「お前が囮だボギャア!」 悲鳴を上げて悶える仲間を蹴り転がすと、それに向かって実装燈が一斉に襲い掛かる。 アクアは、鋏を構えてその中に飛び込もうとしたが、なんと他の実装燈達がその手前に立ち塞がった。 地面スレスレで滞空したままアクアをにらみ付け、大きく裂けた口元を歪ませる。 オオサンショウウオのような口から伸びた紫色の不気味な舌が、まるで蛇の頭のようにアクアを指す。 ルドオォォ♪ ルトトトトトト♪ ボギャ……ゲ……ギ………!! その向こうでは、先程の実蒼石が十数匹もの実装燈に全身を突き刺され、屈辱的な死を迎えようとしている。 またしても、アクアは何も手出しが出来なかった。 背後で、仲間達——否、アクアにとっては只のドレイ以下の“消耗品達”が、冷めた視線を向け始めていた。 「くそ、踏み込むタイミングが狂わされるボク! よし、次は誰が——」 「お前が行けボク」 「もうお前の言う事なんか聞きたくないボク」 「お前のせいでオネーチャもイモウトチャもムダに殺されたボク」 「お前が攻撃されてる間に、ボク達はニンゲンサン達を倒してくるボク」 グループの一匹が、そう言って町長宅を睨み付ける。 仲間の突然の反発にキレたアクアは、自慢の鋏を振り上げ振り返った。 「お前ら! 誰が一番強いと思ってるボク?! ボクは今までいろんな世界で経験を積んだ、最強の実蒼石アクアボク! お前らなんか——ボギャッ?!」 ドガッ! 口上の最中に仲間に攻撃され、ゴロゴロと転がっていく。 滞空している実装燈達の手前まで突き転がされたアクアは、慌てて顔を上げた。 「ボ……?! ボ、ボクの鋏?! ボクの大事な鋏、どこボクゥ?!」 転がされた拍子に手から落ちたのか、自慢の鋏がどこにも見当たらない。 ルトオォォ♪ 背後から、不気味な高い声が響く。 振り返ったアクアのすぐ目の前に、鋭く尖った硬質の産卵管が突き付けられている。 「ボ、ボギャアァァァ?!」 ズブシュッ!! 産卵管は、非情にもアクアの利き腕を深々と刺し貫いた。 ※ ※ ※ 2月14日、午前4時——次の世界移動まで、残りあと50時間。 滞在四日目の朝、としあきはぷちに布団を奪い取られ、自分のくしゃみで目が覚めた。 全員まだ熟睡しているのを確認すると、としあきはこっそりと二階へ上る。 階段に横たわる猫の死体に注意を払い、段またぎで上っていく。 二階は襖で仕切られた二つの部屋と、小さなドアで仕切られた小部屋がある。 襖の向こうからは、もうすっかり慣れてしまったあの独特の異臭が漂っている。 意を決すると、としあきは懐中電灯を点け、少しだけ襖を開いた。 8畳ほどの和室は、どうやら寝室のようだ。 予想通り、その中では二つの死体が横たわっていた。 男女の死体は、恐らく町長とその夫人と思われ、どちらも損壊が激しく、腹部の辺りが大きく割れ裂けている。 鼻を押さえながら中に入り込んだとしあきは、嘔吐感をこらえながら、ひろあきを見習い死体をじっくり観察してみた。 両目をカッと見開き、大口を開けたその死体は、ムンクの叫びを思い起こさせる。 大きく裂けた腹の傷が意味不明で、まるで内側から割れ爆ぜたようで、周囲には肉片と思しきものや血痕と思われる黒い染みも 散見される。 懐中電灯を回して辺りを照らしてみると、部屋の隅の方に何かがいる。 それはミドリの半分くらいの体格の実装生物で、うつ伏せの状態で既にこと切れていた。 としあきは、その背中に大きな黒い翼がある事に気付いた。 (実装燈——こいつが!) 翼の端を掴んで向きを変えると、まるでぬいぐるみのように可愛らしい顔が見えた。 白いもちもちした肌に、きょろっとした両目、下の方に申し訳程度についている小さなおちょぼ口。 何も知らない者が見たら、それはファンシーなぬいぐるみだと思えそうだ。 だが、よく見ると。 人間でいう顎の下……そこに、耳の辺りまで裂けた大きな口が別に付いていた。 一見おちょぼ口に見えたのは別な器官のようで、としあきは凄まじい嫌悪感を覚えた。 それは、過去に見た糞蟲な実装石等とは全く異質な、生理的なものだ。 更に室内を見てみると、夫人らしき女性の死体が目に入る。 その死体も、同じように腹が裂けているが、何か妙な違和感がある。 さすがに我慢の限界が訪れたので、としあきは和室を出ることにした。 続けて、小さなドアを開けてみる。 幸いなことに、ここは何も問題はなかった。 4畳半程度の小さな部屋で、最低限の家具しかなく、奥には分厚いカーテンで仕切られた窓と木の机がある。 その上には、開かれた状態の日記帳が置かれていた。 「——ここに来て大正解だったかも」 小声で「ごめんなさい」と呟くと、としあきは日記帳を読み始めた。 それは町長の夫人によるもののようで、丁寧な文字で事細かにその日の出来事を記している。 相当几帳面な人物のようで、主人の服装や言動、近所の人と交わした話題から、夕食の献立とそれに対する主人の感想なども まめに書き込まれている。 感心しながら読み続けていくと、12月下旬辺りから気になる表記が目立つようになってきた。 1月が終わり、2月初旬に差し掛かる。 そこから、その内容は「事件」だけに絞られていく。 いくつかの飛びが目立つようになり、最後の日付は2月7日になっている。 しかも、そのページの表記はとても同じ人間が書いたとは思えないほど雑な字になっており、内容もとりとめない。 だが、それは明らかに「いずれここを訪れる誰か」に向けて記されている内容だった。 「そうか、これでわかった……ありがとうな、奥さん」 先の和室に向かって両手を合わせると、としあきは日記帳を手に取り、一階へ降りた。 ※ ※ ※ としあきが調査を行っていた頃とほぼ同時刻。 南の広場、戦いが終わり無数の実蒼石と実装燈の死体が散らばる中、ある変化が発生していた。 テェェエン、テェェェン…… とてもとても小さな、一匹の仔実装が、当て所なくうろついている。 彼女は髪も服も失っており、しかしその身体には、不思議にも傷一つない。 親や仲間と思しき存在はどこにもおらず、動いているのは仔実装ただ一匹だけ。 あまりにも唐突に、そして不自然に、突如広場の真ん中に出現したのだ。 ママァァ、ママァァァ……テェェェン、テェェェン!! 冷たく吹き付ける風に、禿裸仔実装の泣き声は掠れてしまう。 誰も、彼女を助けようとはしない。 薄青の光が町中に差し込み、広場を歩く仔実装の影を浮かび上がらせる。 その影は仔実装のものとは思えぬほど大きく、広場の半分程度を丸々包み込んでいた。 →NEXT −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
