タイトル:【怖】 じゃに☆じそ!第7話02
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初投稿日時:2010/02/26-20:18:35修正日時:2010/02/26-20:18:35
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【 これまでの“ただの一般人としあき”は 】

 弐羽としあきは、ある夜偶然出会った“初期実装”に因縁をつけられ、異世界へ飛んでしまった彼女の仔実装を
捜すため、異世界巡りをするハメになった。
 「実装石」と呼ばれる人型生命体の存在する世界を巡るとしあきは、それぞれ5日間というタイムリミットの中で、
“頭巾に模様のある”初期実装の子供を見つけ出さなくてはならない。

 7つ目に辿り付いた世界は、陸の孤島と化した山の中の小さな町だった。
 住人は死に絶えており、その死体は何者かによって荒らされている。
 そしてとしあき達も、何者かによる襲撃を受けた。
 かなり古い時代と思われる世界、外部情報を得る手段もないまま、としあき達は見えない恐怖と五日間戦うこと
を強いられた!



 



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     じゃに☆じそ! 第7話 ACT-2 【 愕然 争いのトルネード 】

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 午前3時頃。
 時間になっても交代の声がかからないのを不思議に思ったひろあきは、としあきの様子を確認するため起き出した。
 見ると、窓際ではとしあきとぷち、そしてミドリが、一枚の掛け布団に包まって寝息を立てている。
 呆れたため息を吐くと、としあきの肩を揺する。

「んぁ…? あ、ああ? 俺寝てた?」

「本当に仲が良いんだね、君らは」

 ひろあきに笑われてようやく状況を理解したとしあきは、ぷちの肩を揺すり、ミドリの頬を軽く叩いた。
 預けていたデスゥタンガンの液晶を確認し、ひろあきは小さく唸った。

「弐羽くん、これを最後に確認した時、どうなってた?」

「えっ? 別に何にも変化なかったけど」

「そうか、じゃあ居眠りが裏目に出たな。
 見てみたまえ」

 突きつけられた液晶画面を見て、としあきは一瞬目を疑った。
 すべての赤い点が、画面の中心に密集している。
 つまり、この場に実装生物が集中しているということだ。

「なんだこれ?! ご、ごめん! 気がつかなかった!」

「様子を見てこよう、君らはここで待っていてくれ」

 話を聞いていたのか、アクアものっそり起き上がり、ひろあきと共に下の様子を見に行くことになった。
 ようやく眠りから覚めたミドリが、鼻をフガフガさせながら二人を送り出す。

“フガフガ、布団がないと寒いデス〜〜……へぇ、ふぇ、ぶえぇっくしょん!! チクショー”

「うわきたね!! ミドリ、手くらい当てろ!」

“実装石にそんな無茶言われても困るデス”

「テェェン、オネーチャ汚いテチィ!」

 物凄く大きなくしゃみで、一同の眠気が瞬時に覚める。

「そういえば弐羽くん、ミドリの言葉、わかるようになってるね?」

「ん? あ、アレ? ホントだ、いつの間に?」
 
 携帯を取り出すと、まるで何事もなかったかのように電源が入っていた。
 軽く微笑みを浮かべると、ひろあきはまだ眠そうなアクアを抱き上げ、階段を降りて行く。
 万が一の時のために着替えを済ますと、三人は布団に包まりながらひろあき達の帰りを待つ事にした。
 としあきは、なんだかんだで身体を密着させてくるぷちの感触に、幸福感を覚えた。

“デ、デェェ……なんかムズムズするデス”

 ミドリが、肩をさすりながら呟く。

「あったかくなったから、治りかけのところがムズムズするんテチ」

「あんまり触るなよ」

“デスー”

 三人は、布団の中に頭まで潜り温かみを堪能していたが、しばらくして、ミシミシ、ギシギシという耳障りな異音に気がついた。
 ひろあきが階段を上って来る音では、ない。
 音は、階段とは違う方向から、絶え間なく響いてくる。

「テェ? おうちがきしんでるテチ?」

“地震デス?”

「風かもよ? おお、こりゃあきっともっと寒くなるぞぷち。
 さあもっとくっつけ」

「テチィ!」

 大きく開かれた胸元がとしあきの手に密着し、軽い陶酔感を覚える。
 だが、それは長くは続かなかった。


 ミシミシ……バキ、バキバキ!


“デェ?!”

 ミドリが布団から顔を出した、その瞬間。
 天井の板の一枚が、大きな破裂音を立てて割れ砕けた。
 大量の埃と粉塵にまみれ、何かが落下する。

「う、うわぁぁぁぁっ!!」

「テ、テチャアァッ!!」

 部屋が暗くて、状況がよくわからないが、何者かが天井裏から侵入してきたことは間違いない。
 黒い影が素早く飛翔し、としあきとぷちへ突進する。
 だが、たまたま掛け布団に足をとられ倒れたため、二人は紙一重でそれをかわせた。
 埃を巻き上げ、「それ」は、一直線に階段のある側の柱に激突する。
 ガスッ!! という、重い刺突音が響く。

「ゲホゲホ! な、なんだこれ?!」

“に、逃げるデス!! デジャアァァッ! ゲホ、ゲホ!”

「テエェェェン!! 何が起きたテチィ!! ケホンケホン!!」


 ボギャアァァァッ!!


 柱に激突した「それ」が、叫び声を上げる。
 壁に何かが突き刺さってしまったのか、柱からぶら下がったまま動こうとしない。
 目の前の埃がようやく落ち着いた頃を見計らい、としあきは電気を点けた。
 だが、それは最悪の選択だった。
 としあきが「それ」の存在を認知するよりも早く、更なる災いが窓の外からやって来た。


 ガシャアァァン!!


 何者かによって、ガラスが吹き飛ばされた。
 黒い物体が室内に入り込み、滅茶苦茶に飛び回る。
 悲鳴を上げる暇もなく、としあきはぷちとミドリの手を引いて階段へ退避した。
 続けて、窓の外から無数の「何か」が飛び込んでくる!
 ほんの一瞬で、二階は阿鼻叫喚の坩堝と化した。

 ガーガー、ギャーギャーと、聞いたこともないような叫び声・鳴き声が入り混じる。

「な、何が起きてんだよこれは?!」

“いいから、早く逃げろデシャア!!”

「テェッ、なんかこっち来たテチィ?!」

 見ると、何者かが階段の上に立ち尽くし、としあき達を見下ろしている。
 手には大きな凶器を携えており、全身に殺気を漲らせている。
 としあきは咄嗟にミドリのえり首を掴み、思い切り振りかぶった。

「殺って来い!! ミドリィィ!!」

“ち、ちょっと待てデ、デギャアァァァ———?!?!”

 としあきに投げられたミドリは、縦回転する手裏剣のような動きで、まっすぐ「それ」に向かって飛翔した。
 階段上の「それ」は、得物を前面に翳し、迎撃しようとしている。
 しかし激突しようとする瞬間、突如ミドリの軌道が変化した!

 ボクッ?!

 手前でポップアップしたミドリは、天井に頭を激しくぶつけた。
 驚いて真上を見上げていた「それ」の顔に、ボトリ、ボトリと何か粘っこいものが降り注ぐ。
 次の瞬間、垂直落下してきたミドリのヘッドバットを食らい、「それ」は顔面を陥没させた。

 ボギャッ?!
 デギャッ!!

「テエェェ!! クチャイクチャイテチィ!!」

 二階の連中が階段に押しかける前に、としあきはミドリを回収して一階へ急いだ。
 店の中に降り、一階奥にいるひろあき達に大声で呼びかける。
 頭の上では、まだ何かがドスンバタンと騒乱を演じている。

「どうしたんだい? 随分騒がしいけど」

“実はカクカクシカジカデス”

“それはまずいボク! 早く避難するボク!”

「テェェ! どこに逃げればいいテチィ?!」

「隣だ、隣に逃げるぞ!!」

 としあきは多少強引に指揮を執り、強制的に脱出を図った。
 店を出て、すぐ右隣の店舗付き家屋の入り口をこじ開ける。
 幸いにも、何かが追いかけてくるようなことはなかった。

「奥へ急ごう。ここだと見つかってしまうよ」

 ひろあきは、入り口のカーテンを閉めると、真っ先に居間へ飛び込み状況を確認する。
 しばらくすると、「大丈夫だ」という声が聞こえてきた。


          ※          ※          ※


 全員が落ち着きを取り戻したのは、うっすらと空が白み始めた午前6時頃だった。
 としあきの提案で、薬品店二階はしばらくの間放棄し、世界移動の瞬間に戻るという事で話が確定した。
 やはり、最初の襲撃の時点から何かに目をつけられていたのだろうと、としあきは分析する。
 一方、ひろあきが一階で見た惨状の報告も、皆を驚かせるのに充分な内容だった。

 風呂場にあった老人男性の死体は、最初に見ていた時より激しく損壊し、しかも顔の向きを大きく変えていた。
 しかも、風呂桶の中に他実装生物の死体が浮いている事も確認されたという。

「死んでたのは、実装雛という種族の子供だ。
 あれは雑食性で、口に入れば何でも食べてしまう、特に知能の低い実装生物なんだよ。
 多分、どこからか忍び込んだんだろうな」

「それが四つ目の反応だったのかあ」

「かもしれない。でも、なんかおかしい気がするんだよね。
 僕の確認不足だったのかなぁ?」

“デェ、じゃあそのジッソヒナってのが、この町の死体を食い荒らしていた犯人デス?”

「だとすると、二階に直接攻め込んできた奴は何だったんだろう?
 話を聞いていると、とても実装雛とは思えないし……彼女達はとても鈍重だからね」

“まったく、なんで襲ってくるデス? ワタシ達が何をしたというデス?”

“実装石が襲われるのは仕方ないボク。
 けど、としあきさんやぷちちゃんまで襲われたのは判らないボク”

“ムカ! なんで実装石が襲われるのが当たり前デス?”

 ミドリがジト目で睨みつけるが、アクアは露骨に顔を背けて無視する。
 としあきは、状況から考えて初日にミドリとぷちを襲った奴と同じ者がやって来たのではないかと判断した。
 いずれにしても、襲われるという事は襲撃者側にそうする理由があるということだ。
 両方の現場に居合わせたミドリとぷちは、今後更に注意しながら生活しなければならなくなった。

「テェェ、じゃあ私はもうおんもに出られないテチィ?」

“この糞蟲を外に放り出してみれば判明する事ボク、単純な話ボク♪”

 笑顔で恐ろしい事を呟くアクアの顔面に、ミドリの腰が入った左ストレートが炸裂した。

“黙って聞いてりゃ調子こきやがってぇ! 許さんデス、ギッタギタにしてやるデズァ!!”

“やれるものならやってみろボギャア!!”

 また取っ組み合いが始まり、としあきの唐竹チョップで強制停止させられる。
 頭を押さえてうずくまる二人に対して、としあきは少しだけ真面目な口調で言った。

「こーいう状況で大声出して、ここまでバレたらどうするつもりだ?
 これ以上騒ぐならお前等二人とも外生活な」

““デデェッ?!(ボクゥッ?!)””

「待ちたまえ弐羽くん、どうしてアクアまで?」

「喧嘩両成敗ってのがあってな、状況が状況だし俺は容赦しねーよ」

「……アクア、我慢しなよ」

“ボ、ボボ……キュ〜…”

 一応落ち着きは取り戻したが、アクアは相当不満だったようで、無言のままミドリを睨みつけている。
 だが当の本人は、言葉こそ発しないものの表情だけで挑発行為を繰り返していた。


 完全に太陽が昇るのを待ち、としあきとひろあきは、再び町の探索を行うことにした。
 今日の目的は、外部への通信手段の確認とその施行だ。


          ※          ※          ※


 まもなく昼過ぎになるという頃、二人は手分けして民家や各店舗を調べることにした。
 としあきも、だんだん死体に遭遇するのに慣れて来たが、それでもさすがに臭いだけは耐え難かった。

 午後三時を回る頃、広場近くにある雑貨屋を探索していたとしあきは、ある物を見つけてひろあきを呼びに向かった。

「これ、どう思う?」

「……」

 雑貨屋は、金物やら清掃用具やら、また農具や鍋、フライパン、果ては木製家具など様々な生活用品を販売しているところだった。
 そこは開店時に襲われたようで、店先に二人、奥に更に一人大人の死体があり、かなりの損壊状態にある。
 だが、店先に倒れている屈強な男性の死体には、他にない大きな特徴がある。
 その人物の手には大型の鎌が握られており、その刃は、ある「もの」を捕らえていた。

 ——実蒼石の死体。

 鎌の刃は、成体と思われる実蒼石の胸から腹部にかけて深々と突き刺さっており、先端部は背中まで抜けていた。
 一方、実蒼石のものと思われる大きな鋏は、手をすり抜け男性の喉に突き刺さっている。
 はたから見ると、まるで相討ちになったように見える。
 実蒼石の死体は端々が何者かに食い荒らされており、手足には白い骨が見え、顔も表情がわからない。
 一方男の方は、傷口付近の損壊だけが激しいものの、厚手の服を着ているせいなのかそれほど酷く崩されていない。
 としあきとひろあきは、顔を見合わせた。

「これは……加害者確定、かな?」

「だね、アクアには悪いがこれは——」

 その後、二人は雑貨屋店内を調べ、小さな七輪と木炭、マッチを見つけこれを持ち帰ることにした。
 四時になると、うっすらと空が暗くなり始める。
 ひろあきは早めに戻ろうと、としあきを急かした。

「結局、電話もラジオも見つからなかったな」

「仕方ない、明日また探そう」

 夕方の空、沢山のカラスが飛んでいる。
 としあきは、彼らが死体を狙っているように思えてきた。

「ハゲタカじゃあるまいし……」


 その後、スーパーの倉庫へ向かい食料を確保した二人は、デスゥタンガンの偽石センサーに注意しながら、用心深く家に戻った。
 二人の移動経路に反応はなかったが、今まで各所で停止状態にあった者達が、少しずつ動き出そうとしているのがわかった。


          ※          ※          ※


“それは二人の見間違いじゃないボク?
 実蒼石がニンゲンサンを傷つけたり、あまつさえ殺すなんて絶対にありえないことボク!!”

 アクアが、眉間に皺を寄せて追求する。

“夕べワタシが倒した奴は、青蟲と同じ頭のテッペンが禿げた奴だったデス。
 やっぱりこいつの仲間が犯人デス”

“そうやってボク達実蒼石を貶めようとするボク?!
 第一、実装石なんかに実蒼石がやられるわけないボク!”

「うーん、でもそれは事実なんだよ」

“としあきさん、隣の二階に実蒼石の死体はあったボク?!”

「い、いやなかったよ。
 けど、鋏みたいのは確かに持ってたし、『ボクー』とか鳴いてたし、間違いないんじゃないかな」

“絶対に見間違いボク!!”

 完全にへそを曲げたアクアは、頬を膨らませ話し合いの場から離脱した。
 呆れた表情のひろあきは、一旦話を変えようとジェスチャーで示す。
 雑貨屋から仕入れてきた七輪にあたりながら、ぷちとミドリは複雑な表情を浮かべていた。

 この家は空き家ではあったが、引越し間近だったのか幸いにも水道や電気が利用出来る。
 ぷちの提案により、皆は見張り兼護衛を立てながら順番に風呂に入ることになった。
 冬場とはいえ、死体が沢山ある場所を行き来したこともあり、としあきも賛成する。
 だが、風呂場に向かったとしあきとぷちは、その仕様を見て愕然とした。
 ガス湯沸かし器が、ないのである。
 それどころか風呂桶は木製で、脇には太いパイプが二本、外から伸びている。

「えっと……クソドレイサン、このお風呂はどうやって沸かすテチ?」

「え〜っと……ど、どうなっているんだこれ?
 お湯が出る穴はあるけど……」

 二人が見ているのは、この時代まだ一般的だった薪風呂だった。
 外にある釜の中に薪をくべ、火を着けてその熱で湯を沸かして風呂桶に流し込む仕様で、現在のようにスイッチ一つですべてOK
というものでは全くない。
 窓を開け、煙突と大きな釜を見つけてようやく理解したとしあきは、腕組をして考えた。

「まいったなぁ、これだと釜を見ている人がずっと外で待機してなきゃならない。
 そりゃあ自殺行為だわ」

「じゃあ、お風呂は使えないってことテチ?」

「残念ながら、そうなる」

「テチャアァァッ!! テェェェン、テェェェン!」

 泣き出すぷちをなだめると、としあきは別な対策を検討する。
 風呂がダメなら、コンロで湯を沸かして湯あみをすればいいという発想に辿り着いた。
 だが、キッチンに辿り着いた二人は、ここでも愕然とさせられる。
 ガスコンロが、見たこともない形状をしているのだ。

「テェェ、カチカチが付いてないテチ」

「な、なんでコンロにこんなごっついタンクが付いてるんだ?」

 としあき達が見ているのは、同じくこの時代に本格普及が始まった「石油コンロ」と呼ばれるものだ。
 知らない者が見たら、まるで何かの工業機械のようですらある。
 これは現在の卓上コンロの本体を分厚くし、中心の火吹き部分が丸々消失して底抜けしているような形状で、本体には内部を貫通
しているバルブと、円柱型の大きな二層式タンクが付いている。
 このタンク内に灯油とガソリンを別々に入れ、タンク部分に付いているピストンのようなポンプを押して空気を送り内部に圧力を
かけてから、バルブを徐々に展開してガソリンをバーナー部分に送りマッチで点火する必要がある。
 その後、本体内部を貫いているバルブを調節して燃料を灯油に切り替え、燃焼を持続させるという、現在ではとても信じられない
ような手間のかかる器具だ。
 当然ながら、現在のような点火と火力調節を行うスイッチダイヤルなどは一切付いておらず、更には長時間燃焼を続けるためには、
途中で更に空気を送り込んでやらなければならない。
 こんなものが、現代人であるとしあきに理解出来る筈もなく、しばらくの悪戦苦闘もむなしく、とうとう点火方法を見出すことが
出来なかった。
 としあきは、中身の詰まったマッチ箱を弄びながら試行錯誤したが、結局諦めざるをえなかった。

「テェェェン、テェェェン! お風呂入りたいテチィ!」

「まいったなぁ、焚き火するわけにもいかないし……こりゃあ水で身体拭くしかないなあ」

「こんな真冬にそんな事したら、死んじゃうテチ!」

「うう、そりゃそうだ。まいったなぁ〜」

 その後、ひろあきも交えて検討するが、ついに良いアイデアは浮かんでこなかった。
 としあきは、無意識にマッチをポケットに突っ込んでいたが、何かの役に立つかもと考え、そのまま持ち続けることにした。


          ※          ※          ※


 午前三時頃。
 布団を抜け出したアクアは、脇に横たわるひろあきが熟睡しているのを確認すると、窓際のとしあきの様子を窺い、昨日同様ぷちや
ミドリと共にうたた寝している事を確かめた。
 普段見せないような素早い動きで階段へ移動すると、足音を忍ばせながら一階へ降りていく。
 夕食後トイレを利用した時、アクアは下側にある小さな換気窓の存在を意識していた。
 そこをくぐれば、外へ出られそうだ。
 居間を経由してトイレにたどり着くと、早速小窓を確認する。
 地面から少し高い位置にあり、出ることは出来ても侵入するのは難しそうだ。
 意外と軽く開いた小窓に、アクアはそっと頭を突っ込んだ。

 遥か上空で何かが大きく羽ばたく音がするが、しばらく間を置いても何も起こらないので、そのまま脱出を敢行する。
 アクアは、少し身体に染み付いた汲み取り便所の臭いに辟易しながら、用心深く辺りの様子を窺った。

(絶対、実蒼石が悪いんじゃないって証拠を突き止めてやるボク!)


 塀の下をくぐり抜け、無事に裏道へ出られたアクアは、記憶に従いまず南の広場へ出ようとする。
 たが突然、何者かが彼女の前に立ちはだかった。
 音もなく、気配すら感じさせずに。

「——お前!!」

 アクアの表情に、険しさが宿る。
 目の前に立つのは、緑色に「6」の模様のある頭巾を被り、赤と緑の血走った眼を剥いた細身の姿——初期実装。
 作り物のような表情を向けながら、初期実装はテレパシーのようなものでアクアの頭脳に直接話しかけた。
 
“よくやったデスゥ。
 お前のおかげで、この世界に新しい因果が埋め込まれたデスゥ”

「どういう意味ボク?!」

“じきにわかるデスゥ。
 お前は、これまで……ひぃふぅ……え〜と、12? 13? もの実装世界を巡って……”

「15ボク!」

“そ、そうそう、そうだったデスゥ。実に多くの因果を紡いでくれたものデスゥ。
 「食実装の世界」では鍋の具にされかけて、「虐待正義の世界」では実装石に間違われて虐待されて、「禿裸実装の世界」では
 禿裸にされて、「カオス実装の世界」では『アレ』の巻き添えになって、何度も死に掛けたデスゥ。
 はたから見てると、ものすごく滑稽だったデスゥ☆”

「それもこれも、みんなお前のせいボクゥッ!!」

 激しくジャンプし、アクアは初期実装に飛び掛った。
 だが、触れるどころか掠ることすら出来ず、頭から地面に激突してしまう。

“鋏すらないお前如きが、ワタシに傷一つ付けられる筈がないデスゥ。
 いい加減に諦めろデスゥ”

「ボクの鋏を返せボキャア!!」

“ほれ”

 アクアの叫びに、初期実装はいともあっさりと応じた。
 懐からガシャボンカプセルを取り出すと、それをアクアに向かってコロコロと転がす。
 中には、くすんだ色の小さな鋏が封じ込められている。

「ぼ、ボクの鋏!! 本当に返してくれるボク?!」

“お前の役目は終わったデスゥ、だからもう、そんな物必要ないデスゥ”

「それはどういう意味ボク?!」

 振り返りもせず、初期実装はふわりと宙に浮き上がり、まるで幽霊のように漂い始める。

“長い旅を経て、お前は自分の居た「他実装の世界」に戻って来たデスゥ。
 後はもう好きにすればいいデスゥ”

「待てボク! お前はいったい何がしたかったボク?!」

“じきにわかると言った筈デスゥ。
 これからは、新しい「他実装の世界」に生きる幸福に、身をゆだねるデスゥ。
 イーヒッヒッヒッヒッ☆”

 それだけ言うと、初期実装は闇夜に溶け込むように姿を消した。

「……ボクゥ」

 我に返ったアクアは、ガシャポンカプセルを転がしながら、目的の場所へ急ぐことにした。


          ※          ※          ※


 としあきが、この世界に来て三日目の朝。
 これで、約48時間が経過した。
 残り滞在時間、あと72時間前後。
 その晩は、結局大きな騒動が起きることもなく、としあきもひろあきも交代を忘れ、そのまま寝入ってしまっていた。
 よほど疲れが溜まっていたのか、動かす身体がきしむ。
 としあきは、いつの間にか寄り添って眠っているぷちの頭を撫でると、ひろあきを起こしにかかった。

 アクアがいなくなっている事に気づいたのは、その時だった。

「おい海藤! 起きろ!」

「ん〜? 交代の時間かい?」

「何呑気なこと言ってんだよ!」

 全員が目を覚ました後、としあきとひろあきは家の中を探索したが、アクアの姿はとうとう見つからなかった。
 代わりに、トイレの換気窓が開けられている事に気づく。
 ひろあきは、何かの事情でアクアがここから外へ出たのだと解釈した。

「追いかけなくていいのか?」

「大丈夫さ、僕とアクアは大きな絆で結ばれているんだ。
 絆……いいや、愛情と言い換えてもいい。
 だから僕は、いつでも彼女のことを信じているのさ!」

 背景に薔薇を背負いながら、なぜかとても嬉しそうに宣言する。
 呆れ顔のとしあき達は、顔を見合わせ「盲目の愛って怖いな」と呟き合った。

 今日の予定は、車の確保と昨日の続きだ。
 家の守りであるアクアがいなくなったため、としあきとぷち、ミドリが共に行動し、ひろあきは単独で別な場所を調べる事になった。
 朝食を済ませ、早速行動に移ろうとするが、そこでミドリが待ったをかける。
 例の左肩の傷口が、益々痛み出したようだ。

“デェェ、いつもならとっくに治ってるのに、どうしてこれだけ治らないデス?!”

「おかしいな、何か毒でも入ったのかな?」

「クソドレイサン、オネーチャを助けてあげてテチ!」

「無駄かもしれないけど、隣から消毒薬持って来るよ、我慢してろミドリ」

“くぅぅ、クソドレイに借りを作るなんて不本意デス!”

「んな事言ってる場合じゃねーだろタコ」

“デ……こ、この愛護派め!”

 ミドリの傷口洗浄を終え、適当な包帯で保護した後、としあき達は早速出かけることにした。
 ひろあきは、午後4時までには一旦ここへ戻ろうと提案する。
 昨日よりかなり早い時間を指定する理由を問うと、ひろあきはデスゥタンガンの液晶画面を見せた。
 とんでもない数の赤い点が、画面のほぼ全部を埋め尽くしている。

「これ、なんだ?!」

「午前4時くらいのログだ。相当な数の実装生物が町中に出現したらしい。
 ——320匹も」

「さ……?!」

“ぷち、320ってどれだけすごい数デス?”

「牛丼並盛のお値段くらいテチ」

“デギャア!! な、なんでそんなに沢山居るデス?!”

「お前、そんな説明で本当にわかったのかよ!」

「320もの実装生物が、一晩の間に、しかも半径50メートル内に出現したんだ。
 これはとんでもないことだよ。
 ひょっとしたら、僕達はまだこの町で起きた事件のほんの一部しかわかってないのかもしれない……」

 珍しく、ひろあきの顔が青ざめている。
 ともあれ、暗くなると実装生物の動きが活発化するらしいということは、全員の意識に浸透した。


          ※          ※          ※


 午前中の町は、不気味なほど静まり返っている。
 だが、その至るところに実蒼石が潜み、自分達を狙っている。
 そう考えると、としあきは冷や汗を拭わずにはいられなかった。
 
 ぷちの案内で南の広場付近にある駐車場にやって来たとしあきは、オート三輪トラックを見てヒュウと口笛を鳴らす。
 幸いにもドアはロックされておらず、キーも刺さっていた。
 運転席を覗き込んでみると、ハンドル周り、コンパネの配置が全く異質で、かろうじて理解は及ぶものの、とてもまともに運転
出来そうにない。

「うえ、シフトレバーがないじゃん!! どうやって動かすんだこれ?!」

 座り心地の悪い運転席に座り、エンジンを掛ける。
 スロットルは意外に軽快に開いた。

「ちょっと動かしてみるよ……えっと、シフトレバ……って、まさかこれか?!」

 この時代の自動車のほとんどはシフトレバーが運転席中央にはなく、コラムシフトと呼ばれるハンドルの左脇から細いレバーが
生えたタイプになっている。
 としあきの時代には、ごく一部の車両を除きほとんど見られなくなったタイプだ。

「ぐげ、えーと、ロゥはどこだ?!
 うわ、ギアの配置わかんねー!」

“おいクソドレイ、本当に大丈夫デス?”

「テェェ、心配テチィ」

「ち、ちょっと待って、少し離れてて!」

 ぷち達を遠ざけると、としあきは入念にクラッチを繋ぎ、アクセルを踏んでいく。
 かつて妙技「三速スタート」で成らした、MT車操作を思い出す。
 すると、多少ぎこちないもののなんとか動かすことに成功した。
 セカンドの位置がわからないため、かなりたどたどしい動きではあったが、どうやら短距離なら充分移動させられそうに思えた。

“すごいデス! 本当に動いてるデス!”

「やったー! クソドレイサンカッコイイテチィ!」

「そ、それはいいんだけど……は、ハンドルが」

“デ?”

「ハンドルが重い〜っっ!!」

「テ、テェェッ?!」

 当然ながら、オート三輪にパワーステアリングなんて気取った物など着いているわけがない。
 かろうじてコラムシフトに対応出来たとしあきも、これは完全な想定外だった。
 というより、彼はパワステ車以外運転したことが無かったため、車体や前輪の重さ、足回りのコンディションがモロに影響する
ノーマルステアリング車の扱いはいささか荷が重すぎた。
 まして車体感覚も、それどころか重量バランスも、従来車とは全く異なるものである。
 なんとかハンドルを左に切れたが、としあきは、これがオート三輪だという事を失念していた。
 オート三輪の前輪回転軸は、現在の乗用車やトラックと大きく異なり、車体のかなり前の方にある。
 その上前輪が一つしかないので、普通の感覚で、しかも重さに対抗しようと急にハンドルを切ると……

「う、うわ、うわうわ、うわわあぁぁぁっ?!?!」

“デェッ?!”


 ドッシャアァ——ン!!

 よちよち歩きのように動いていたオート三輪は、あっさりと、そして見事に横転した。
 車体の軽いオート三輪は車よりもバイクに近い感覚の物が多く、曲がる際は四輪車よりもゆっくり静かに、丁寧にハンドル操作を
する必要がある。 
 だがそんな「お約束」を、としあきが知る筈がない。
 低速走行だったため、幸いにも大事故には至らず、としあきも身体を少し打っただけで無事脱出出来たが、トラックは駐車場の出口
を塞ぐように倒れてしまったため、もう一台を動かすことが出来なくなった。

「あいたたたた……くそぉ〜!! なんだよコレ、すっげぇ運転しづれぇ!!」

「大丈夫テチ? お怪我はないテチ?」

“このバカドレイ! 思っくそ大失敗しやがってデス!
 この役立たず! 甲斐性なし! 男失格! 不能者! 種無しカボチャ!”

「待てまてまて! なんか違ってるぞそれは?!」

 トラック横転の音は静かな町中に相当響いたようで、どこからか何者かがざわめいているような雰囲気が伝わってきた。
 それは、はっきりとした音声や姿ではないが、三人には嫌なくらいハッキリと感じられた。

「やべぇ、刺激しちまったか?」

「に、逃げるテチィ!」

“デ! ク、クソドレイ! あれあれ、アレ見るデス!”

 突然、ミドリが西の方を指差し慌て始めた。
 見ると、公民館や消防団倉庫のある辺りから、何かがぞろぞろと集まり始めている。
 くすんだ青い帽子に黒い凶器を携えた、緑と赤の瞳を持つ生物達。
 やがて、三人の耳に

 ジョキ、ショキ、ジョキ、ショキ

 という、怖気を煽る金属音が聞こえてきた。

「に、逃げるぞ!」

「テチャア! ど、どこに逃げるテチィ?!」

“どこでもいいデギャ!! クソドレイ、そこに飛び込めデジャアッ!!”

 としあき達は、駐車場に隣接する大きな家の前を通り過ぎ、更にその隣にある小さな小屋の中に逃げ込んだ。
 不思議な事に、実蒼石達は中まで追いかけては来ず、小屋の周りでしばらくまごついた後、残念そうに解散していった。
 だがとしあき達は、その理由がすぐに理解出来た。
 小屋の中には、独特の臭いが充満していたのだ。

「変な臭いテチ! これ何テチ?!」

 6畳あるかないかという狭い空間の奥に、オレンジ色のポリ容器と小型のドラム缶みたいなものが置かれていた。
 その他、用途不明の木箱や給油ポンプが数点、そして一台の黒い箱が置いてあった。

“おいクソドレイ、これは何デス、説明しろデス”

「これはガソリンと言ってな、車を走らせるのに必要な燃料だ」

「テェェ、ガソリンテチ?」

 この町では現代で言うところのガソリンスタンドに相当するものがなく、麓の町から業者が運び込んだガソリンを一箇所に溜めて
おき、必要に応じて有料配給しているようだった。
 ボロボロのノートのようなものが見つかり、そこには利用者と思われる者の名前と日付、配給量がメモされている。
 日付は、1月20日で終わっていた。

「クソドレイサン、ここにいると具合が悪くなるテチ、そろそろおんも出るテチ」

 黒い箱を手に取ろうとした瞬間、口元を押さえながらぷちが訴える。
 自身も少し頭がクラクラしてきた気がしたとしあきは、早々に小屋を退出することにした。
 外に出て周囲を改めて見回すと、ここに逃げ込む途中で通り過ぎた、妙に立派な門構えの敷地が気になった。
 その家屋は、他の民家より少し豪華な造りで、所々洋風になっている。
 石で組み上げられた塀を必死で乗り越えた三人は、ギリギリのところで実蒼石達の追撃をかわしたものの、それ以上進退
ままならぬ状態に追い込まれた。

「まいったな、どこも鍵がかかってる。これじゃあ中に入れないぜ」

「門も閉じてるテチ。実蒼石さん達は入ってこようとしないテチ」

“こんなところでいつまでもグズグズしてられないデス!
 おいクソドレイ、早く家の中に入る方法見つけるデス!”

「そんな事言ったってなあ」

 二階建ての木造モルタル家屋は、金色のノッカーをぶら下げたワイン色の木製ドアをはじめとして、かなりガッチリした窓枠により
あらゆる隙間を固められている。
 他よりも大きな家ということもあり、さながらそこは、ちょっとした要塞のような雰囲気を感じさせる。
 窓の位置は少し高めで、侵入するためには何か土台のようなものが必要になりそうだが、代用可能なものは全く見当たらない。
 手入れの行き届いた庭を何度も往復し、としあきは、中への進入を諦めほとぼりが冷めたら門戸を開けて出ようと提案した。
 だが、その意見にミドリが真っ向から反対する。

“だからお前はクソドレイなんデス!
 こんだけしっかりしたオウチなら、避難場所に最高デス!
 いまのうちに、なんとしても中に入る手段を見つけるべきデス!”

「でも、鍵がないと無理テチ。オネーチャ、クソドレイサンを困らせたらダメダメテチ」

「いや、ミドリの言ってることは正論だよ」

“デェ? 珍しく素直に同意しやがったデス?”

 ミドリに言われるより前から、としあきはこの家屋の有用性に注目していた。
 敷地内には実装生物が忍び込んだ痕跡は見受けられず、避難所としては本当に優秀そうに思えた。
 だが、一つだけどうしても納得がいかないことがあったのだ。

「もしここが有効なら、とっくに誰かが避難してるんじゃないかな?」

“言われてみればそうデス、じゃあきっと誰かいるデス”

「問題は、その人達が今も生きているかどうかでな」

“デ……”

 三人の会話が、そこで止まる。
 塀の向こう側から実蒼石の声がしなくなった頃合いを見計らい、周囲の安全を再確認したとしあきは、一旦敷地から離れることに
した。
 ただし、ミドリとぷちはここで待機である。
 「何かあったら塀の上に昇れ」と指示して、としあきは他に車がないか調べるため、再び町中に戻っていった。

「デェ、ワタシ達はこれからどうなるデス?」

「オネーチャ、元気出してテチ」

「お前、胸の痛みは大丈夫デス?」

「うん、大丈夫テチ。
 ちょっと苦しいけど、クソドレイサン達が守ってくれるから平気テチ!」

 笑顔で返事をするぷちだったが、ミドリは、どことなく顔色が悪そうな印象を受けていた。
 このままじゃ、いけない……ミドリは立ち上がると、もう一度家の周りを巡ってみることにした。

「ワタシの大きさなら進入出来るところがあるかもしれないデス?
 もっと探してみるデス」

「オネーチャ、私もお手伝いするテチ!」

 としあきは、ドアや窓に注目していたが、実装視点での確認はあまり重点的に行っていなかった。
 ミドリは、家屋北西の角にある雨戸の一角が、ほんの僅かに変色していることに気づいた。
 手で押してみると、それはあっさりと奥に向かって口を開ける。
 巧妙に偽装された、猫用の出入り口だ。

「大発見デス! ……な、なんとか中に入れないデス? デデデ」

「お、オネーチャ、無理しないでテチ!」

 穴の大きさは二十数センチ四方で、ミドリの頭の幅より若干小さい。
 だがミドリは、無理やり頭を押し込み、身体の向きを小刻みに変化させ、強引に入り込もうとした。
 摩擦を少なくするため、実装服を脱ぎ捨てると、それをぷちに預けて再チャレンジする。
 以前刺された左肩は腫れこそ引いていたが、赤黒く変色してとても痛々しい。
 思わず目を背けたぷちの耳に、再びミドリの声が届く。

「ぐぐぐ、ぐおぉぉおお!! い、痛い、めっちゃ痛いデギャ!
 か、身体が擦れる! デジャ!!」

「だからあ、無茶すぎるテチィ!! オネーチャ、傷が広がるから止めるテチ!!」

「ウンチを通り抜けに使わないのがワタシのポリシーだったんだが……やむをえんデス」

 そう言うと、ミドリは間髪入れずにその場で脱糞した。
 ボスン! と妙に景気の良い音を立て、とてつもない量の濃緑色排泄物が産み落とされた。

「テ、テチャア! オネーチャ、バッチィテチ!」

 ミドリは徐に排泄物を手に取ると、それを側頭部や身体にペタペタと塗りつけ始める。
 すさまじい悪臭とおぞましい光景に思い切り退くぷちを無視すると、ミドリは再び穴に頭を突っ込んだ。
 すると、先程よりはかなりスムーズに頭が抜けた。

「ぷち、ワタシの尻を蹴飛ばせデス!」

 突然、ミドリが尻をフリフリしながら叫ぶ。

「テ……そ、そんな事出来ないテチ! バッチィテチ!」

「いいからやれデス! そうすりゃ一瞬でストライクアウトデス!」

「で、でもぉ……」

 既に肩まで通り抜けたミドリは、両足をバタつかせて抗議する。

「このままじゃどっちにしろ脱出出来ないデス! 覚悟を決めろデス!」

「て、テェェェ……」

「ワタシの尻を蹴飛ばす時、“こんなもん、ケチャップのふた!”と叫ぶデス!
 そうすれば絶対旨くいくデス!」

「け、ケチャップ?!」

「かつて遠い異国の偉い人が唱えたという、可能を不可能にするありがたい呪文デス!
 は、早くやらないと姉妹の縁を切るデギャアッ!!」

「テェ?! わ、わかったテチ!!
 え、え〜と……こんなもん、ケチャップのフタぁぁっ!! テチ!」

 ゲシィッ!

「デギャッ?!」

 ぷちは、渾身の力を込めて、ミドリの尻を蹴り飛ばした。
 ヒールの感触を思い切り受け止めたミドリの身体は、あっけないほどすんなりと穴を抜け、家の中にスポーンと滑り込んでしまった。
 奥から、何かに激突する音と、微かな悲鳴が聞こえてくる。

「す、すごく気合が入ったテチ、とっても不思議な呪文テチ!
 オネーチャ、大丈夫テチ?!」

「イテテテ、シリガワレタデスー」

「うぇぇん、お靴にウンチついちゃったテチィ!」

「早速命令デス。
 お前はそこから一歩も動くなデス」

 穴の向こうから泣きじゃくるぷちを覗き込むと、ミドリはそのまま屋内の探索を開始した。
 激しく痛む尻を摩りながら。

「あだだだ、ぷちの奴、本気で蹴飛ばしやがったデス。
 もう少し手加減しろってなもんデス——デ?」

 屋内は薄暗く、生き物の気配はまるでない。
 ミドリは、この中も他の場所と同様、死に絶えた場所だという事を即座に悟った。
 ある程度暗視が可能な実装石なら、家の中の様子はかろうじて観察出来る。
 廊下から隣室へ渡り、リビング、キッチン、応接間と巡ったミドリは、この家が外観の印象以上に高級な造りである事を理解した。
 リビングにはテレビがあり、電話の存在も確認出来た。
 キッチンには冷蔵庫もあり、今もなお稼動している。
 中を開けてみると、多少傷んではいるものの豊富な食材がストックされている。
 生肉の入ったパックを取り出し、丸ごと口の中に放り込んだミドリは、二階へ上がる階段を見つける。
 だが、これを昇るのは激しく躊躇われた。

 階段の真ん中に、大柄な体格の猫が居る。
 しかし、それはもう二度と動くことはない。
 段の一つに身体を横たわらせ、驚愕の表情を浮かべたままこと切れている。
 それはまるで、これ以上昇るなと身を張って警告しているかのようだ。

「デ……猫まで、なんでデス?」

 長い野良経験から、ミドリは猫の特徴・性質を良く理解しているつもりだった。
 同時に、猫がそう簡単に殺害されるような生き物ではないという事も。
 猫の死体は、白い体毛の各所に赤黒い血液が飛び散り凝結しており、大量の出血を伴い死亡した事が窺える。
 しかも、その表情から一瞬のうちに殺されたのは明白だ。
 ミドリは、母親から「殺された仲間の様子から“何が公園にやって来たか”“どうやって殺したか”を知る術」を、ある程度教えられて
いる。
 これを活かし、今まで数多くの野良犬や野良猫、人間の来襲から逃げおおせたのだ。

「この家の中もアウトデス、まったく、どうなってるデス……」

 猫は好きではなかったが、ミドリはそっと手を合わせて念仏の真似事を唱えると、早速次の探索に向かった。
 一階の部屋を一通り巡ったミドリは、結局猫以外の死体は発見出来なかったものの、ここも決して安全とはいえない場所だと理解
した。
 
「よし、そろそろここを出るデス。
 おっと、その前にもう一度、冷蔵庫を漁るデス♪」

 再びキッチンに戻ろうとしたミドリは、突然響いた「バタン!」という異音に、全身を硬直させた。

「な、な、何!? 今の、何デス?!」

 音は、キッチンの中から聞こえてきた。
 しかし、そこは先程異常がない事を確認済みだった。
 恐る恐る中を覗き込むが、様子は全く変わっていない。
 ホッとしたミドリは、改めて冷蔵庫の中を確認した。

「……デ?」

 冷蔵庫の中身が、先程までと変わっている。
 ミドリが盗った生肉のパックの横には、白い箱が縦に二つ積み重ねられていたのだが、そのうち一つが紛失している。
 更に、扉側のポケットにあった筈の瓶容器が見当たらない。
 白い箱の中を開けてみると、そこにはやや形の崩れたケーキが入っている。
 ケーキを取り出し口の中に放り込むと、きつい酸味が舌を刺激し、ミドリは思わず吐き出した。

「ぐげ、腐ってるデス! これじゃ——」


 チャギャ!!


 どこからか、微かな悲鳴が聞こえた!!
 振り返ったミドリの眼前で、突如、フローリング床の一部が盛り上がった。
 と同時に、中からミドリよりやや小さいくらいの、赤い服をまとった実装生物が姿を現した。

「ぺっぺっ! 腐ってるダワ! やっぱり駄目だったダワ!」

「デ、デェッ!! お、お前何者デスッ?!」

「ダワ?! わ、ワタシのおうちに何しに来たダワ?!」

 赤い服をまとった、金髪碧眼の美少女……ではなく、寸足らずでプクプク太ったまん丸体型の実装生物。
 それが、ミドリをいぶかしげに睨み付けている。
 両者の距離は、約2メートル。
 最初に動き出したのは、ミドリの方だった。

「こいつが犯人だったデジャアァァ!! ぷ、ぷちぃ、助けろデスーッ!!」

 必死の叫び声を上げながら、侵入した雨戸に向かって逃走を開始する。

「〜ダワ! 〜ダワ、〜……」

 赤色の実装生物は、ミドリを追うことはなく、その場に立ち尽くしたまま何かを叫んでいる。
 だが、生命的危機感を覚えたミドリの耳に、それが届くことはなかった。


          ※          ※          ※


 ミドリやぷち達と別行動を取ったとしあきは、一旦スーパーへ向かい昼食を調達しようと考えた。
 適当な長い木の棒を見つけて肩に担ぐと、倒れたトラックの脇を抜けて倉庫へ入ろうとする。
 ふと見ると、トラックの運転席の中で例の仔実装生物がチーチーと鳴き声を上げている。
 どうやら随分飢えているようで、としあきの姿を確認するなりフラントガラスをテステスと叩いてくる。
 周囲に親と思しき者の気配がないのを確認すると、としあきは適当な果物缶詰を持ってきた。

「これ食える?」

 蓋の裏に桃の切れ端を置いてやると、赤い仔実装と黄色の仔実装が競うように飛びついた。
 大口を開けて桃の果肉にかぶりつく黄色と、滴る果汁に吸い付く赤。
 よく見ると、もう一匹いた筈の赤い仔実装の姿が見当たらない。

「おーい、もう一匹どうした?」

 呼びかけてみるが、二匹は夢中になって桃を食べており、耳を貸そうとしない。
 やれやれ、と身を上げたとしあきの視界の端に、何か赤いものが引っかかった。

 改めてトラックの運転席を覗き込むと、シートの脇の部分に赤い仔実装の服だけが放り捨てられている。
 それは異様なほどボロボロになっており、よく見ると袖の辺りが大きく引き千切られていた。
 中身は、どこにもない。
 嫌な予感が胸をよぎり、としあきは静かにその場から立ち去ろうとした。


「実装紅と実装金の子供だね」


「ぅわあぁぁぁっ?!?!」

 突然、真後ろから声をかけられ、としあきは悲鳴を上げた。

「声が大きいよ、弐羽くん」

「だ、だ、誰だってビビるわ!
 って海藤?! どうしたんだよ」

「恐らく君と同じ理由さ。
 この仔達、どうやら親と離れ離れになったらしいね」

「えっ?」

「可哀想に、同族食いをするほど飢えてたんだなあ。
 さっき、反対側の店の近くで成体の実装紅の死体を見つけた。
 どうやら実蒼石に殺されたみたいだ」

 そう言いながら、自分の首を切る真似をしてみせる。
 としあきは、食料を漁りがてらひろあきと情報交換し、豪華な家の敷地内にぷち達を退避させている事を伝えた。
 
「ああ、それは多分町長の家だね」

「町長?」

「さっき交番を調べたんだ。そしたら町の簡略地図を見つけてね。
 あの辺りに町長の自宅があるとわかったんで調べに行くつもりだった」

「何かありそうなのか?」

 としあきの疑問に、ひろあきはフフン♪と鼻を鳴らす。

「交番で電話機を見つけたんだが回線が切れていて使えなかった。
 けど、その近くに町長宅の電話番号のメモがあった。
 ということは、町長宅には電話があることになる」

「なるほど! じゃあ一緒に行こうぜ」

 としあきの申し出に、ひろあきは手を突き出して待ったをかける。

「それと、もう一つ面白いものを見つけたんだ。
 この町には、小学校がある」

「小学校?」

 首を傾げるとしあきに向かって、ひろあきは町の南・山の方を指し示した。

「山の方に町を抜けていくと、しばらく行った先に小学校があるんだ。
 もっとも地図でわかっただけなんで、どんな所かは行ってみないとわからない。
 けど、子供が通える程度だからさほど遠くはないと思うんだ」

 ひろあきは、懐から少しシワの入った紙地図を取り出し、広げてみせる。
 それによると、確かに山の中に小学校の所在が示されていた。
 
「ちょうど車を探しているところだったんだ、見つけたらそこに行ってみるか?」

「いいよ、メイドくん達との合流はその後でいいだろう」

 意見が合致したところで、二人は早速、新しい車の探索にかかった。


          ※          ※          ※


 スーパーに隣接している八百屋の庭で新しい車を見つけたとしあき達は、家の中から鍵を見つけ出して早速乗り込んだ。
 幸いにも、この車だけはオート三輪ではなく、タイヤが四つある軽トラックだった。
 相変わらずハンドルは重く、コラムシフトなのは変わりなかったが、格段に運転しやすい。
 早速山奥へ向かい町を抜けたとしあき達は、十分もしないうちに「瓦屋根の大きな建物」のある広場に辿り付いた。
 平屋の割に背の高いその木造建築は、背の高い木々を背負い、圧倒的な存在感をアピールしていた。

「ほんとだ、学校だ」

「なるほど、ここなら町からそんなに離れていないし、避難所としては最適かもしれない」

「早速、入ってみっか」

 入り口近くにトラックを乗りつけ、二人は静かに校舎の正面玄関に向かう。
 木で出来た大きな扉には窓が無く、中の様子を窺うことは出来ない。
 また、見渡してみると各部屋の窓にも白いカーテンが張られており、覗けそうにない。
 玄関を開けようとするとしあきを制し、ひろあきはデスゥタンガンを取り出す。

「弐羽くん、どうやら期待はずれだったようだ。
 見てみたまえ」

「え? 何があ——うげっ!!」

 デスゥタンガンの偽石センサー画面は、ほぼ全て真っ赤に染まっている。
 カウント数は、なんと1315を示している。

「マジかよ……ここも実蒼石に占拠されてたのか。
 これじゃあ、生きてる人間が中にいると考えるのは無理があるなぁ」

「だろうね、入り口付近だけでこの数だから、この校舎全体だとどれくらいになるのか見当も付かない。戻ろう」

 二人は素早くトラックに乗り込み、町へ引き返すことにした。
 空には沢山のカラスが舞っており、まるでこちらを監視しているように見える。

 運転しながら、としあきはひろあきに尋ねた。

「でも、なんで実蒼石があんなに沢山、しかも小学校に立てこもってるんだ?」

「それなんだが……あれは本当に実蒼石なのかな?」

 窓越しに小学校を見つめながら、ひろあきが呟く。

「だって、実蒼石が人を襲ってたんだろ?
 あそこが拠点なら町まで簡単に——あれ?」

 話しながら、としあきは何か大きな疑問にぶち当たる。
 ひろあきも、大きく頷きを返した。

「僕もここに来てやっと気づいたんだ。
 そう、あれが実蒼石だと色々とおかしいことになる」

「入り口だけで1315だったよな?
 実蒼石って、この町に呼ばれたんだよな。
 なんのために、そんなに沢山呼ぶ必要あったのかな?」

「僕もそこが気になったんだ。
 実蒼石は実装石みたいに多産じゃない。
 短期間で増えたにしても、あの数は行き過ぎだ」

「じゃあ、あそこに居るのは、何なんだ?!」

「……」

 熟考しているのか、ひろあきの声が止まる。
 トラックはそのまま町に入り、薬品店隣の現自宅前を目指す。
 だが突然、ひろあきがストップをかけた。

「なんだ、どうした?!」

「今、あそこに誰か居たんだ!」

「見間違いじゃないのか?」

「僕の両目は2.0だ、自信がある!」

 トラックが止まったのは、自宅のすぐ隣の時計店を少し通り過ぎた辺り。
 公民館と時計店の間にある細い路地から、誰かが覗いているのが見えたようだ。
 無言で頷くと、としあきはトラックをバックさせる。
 路地周辺は特に大きな変化は見られない。
 二人は息を殺しながら路地に近づき、そっと覗き込んだ。

 この路地は、時計店と薬品店、そして現在ぷち達が待機している空き店舗の裏側をすべて通り抜け、そのまま民家が立ち並ぶ
エリアに抜けられる。
 車では侵入は難しく、自転車でもぎりぎりという感じで、左手側にはそれぞれの敷地が覗かれないよう木の塀がずらっと並んでいる。

「誰も居ないな。やっぱり見間違いじゃないのか?」

「弐羽くん、ここじゃないか?」

 路地の入り口のすぐ右側は、公民館の裏口だ。
 よく見ると、公民館と隣接する大きな民家の合間にも、ぎりぎり人が入れるくらいの小路がある。
 覗いてみると、ここはそのまま町の南側にある広場へ抜けられるようで、すぐ右手側に、公民館に入れる小さなドアが見つかった。
 ひろあきは、としあきを手招きして素早く中に入り込む。
 薄暗い物置のような場所に出た二人は、少し埃っぽい空気に耐えながら、更に奥へ続くドアを抜けようとした。
 だが、その途端——


 キャアァァァァ!!


 ドアの向こうから、若い女性の悲鳴が聞こえてきた。
 咄嗟に飛び出そうとするとしあきを抑え、ひろあきはドア越しに向こうの様子を窺う。
 しばらくすると、もう一度悲鳴が聞こえてきた。

「おい! 助けないのか!!」

「バカ言うな、状況もわからないのに出て行けないだろう」

「そんな事言ってる場合か! ぷちだったらどうするつもりだ?!」

「……」

 意を決して、二人はドアを飛び出した。
 ドアの向こうは、そのままステージのある広間に繋がっている。
 途端に鼻を突いてくる異臭にむせながら、二人は悲鳴の聞こえた場所を探す。
 しばらくすると、広間の奥に誰かが倒れていることに気付く。

「あれだ! ぷちじゃない、生存者か?!」

「いや待て!!」

 3メートルほど手前に辿り付いた時点で、ひろあきが足を止める。
 女性は、こちらに背を向けるように倒れており、首の辺りから何か液体のようなものを滴らせている。
 それが何なのか、確認する必要すらない。
 亜麻色の長い髪と、すらりとした細身の身体、白く形の良い足を投げ出すようにして、見知らぬ女性はこと切れていた。

「今、殺されたのかよ……」

「見たまえ、あそこにも死体がある」

 ひろあきの言う通り、広場の壁沿いに別な“動かない”人影が見えた。

「まだ、この中に犯人がいる」

 すかさずデスゥタンガンを取り出したひろあきは、マガジンを引き降ろし「H」のボタンを押した。



  —— Attack Command. ——


  —— Heat! ——



 電子音声が鳴り響き、どこかから激しい悲鳴が聞こえてきた。
 ステージの影、としあき達が出てきた反対側の辺りから、何やら小さな影が身悶えしながら転がり出る。
 全身をかきむしるように暴れ、悶え、泣き叫ぶ。


 ボ、ボギャアァァァァ!!! ボ、ボ、ボギイィィィィィッッ!!


「実蒼石! こいつの仕業か!!」

「実蒼石——なんだか、少し混乱してきたよ」

 飛び出してきた実蒼石は、血まみれの鋏を持っており、自身も衣服の一部を返り血で濡らしていた。
 ひろあきは両足を踏みつけ動きを封じると、一旦「Heat」を解除した。

 ボ、ボギャアァァァァッ!!

 ひろあきは泣き叫ぶ実蒼石を蹴飛ばし始める。
 としあきは、アクアと同族の実蒼石に躊躇いなく暴行を加えるひろあきの姿に、激しい違和感を覚えた。
 目を背けた拍子に、脇に倒れている女性の死体が目に入る。
 よく見ると、その女性は日本人らしい特徴があまり見当たらない。
 顔を見ようとして、長い髪の毛を払いのけようとした途端、としあきは、短い悲鳴を上げてその場から後ずさった。

「どうした、弐羽くん?!」

「み、み、み、み、み!!」

「耳がどうしたって?」

「み、見ろ!! こ、この女、人間じゃねぇ!!」

「何を言い出すかと思ったら。ユーレイだとでもいうのかい?」

「冗談ポイだぜ、いいからこの耳、見てみろ!!」

 亜麻色の長い髪の隙間から、何か大きな肉の塊のようなものが見える。
 最初は何か腫瘍のようなものと思えたが、頭のすぐ脇にある事、そして薄く平たい形で、奥に穴のようなものが見える。
 ひろあきの表情が、変わった。

「作り物じゃない、確かに本物の耳だ。人間のものより遥かに大きい」

「これ、ぷちの耳みたいに見えないか?」

「似てるな。じゃあこれは、人化実装なのか?」

 ふと何かを思い出したように、ひろあきは再び実蒼石に向き直る。
 相変わらずみっともない泣き声を挙げているそれの脇腹を蹴飛ばすと、頭を掴む。

 ボギ……ギ、ギャアァァァァァ!!! 

「お、おい、いいのか?」

「何がだい?」

「いや、あのその……な、なんでもない」

 ひろあきは、掴み上げた実蒼石の腹を何度もデスゥタンガンで殴りつけ、数度嘔吐させると、その中に叩き落し踏みつけを加える。
 普段見せない暴力的な態度に反し、とても優しそうな声で話しかけた。

「さぁ答えたまえ。
 あの女を、どうして殺した?
 君は、あれが何だと思ったんだい?」

“ボ……ボ……ギィィ……”

「早く言いたまえ。
 さもないと、最悪の屈辱と激痛の中で死ぬことになるんだよ?」

 骨折した足をさらに踏みつけ、ボキボキと鈍い音を立てる。
 実蒼石の悲鳴は更に高まるが、ひろあきは一切容赦しない。
 その態度は、まるで手慣れた虐待派のようだ。

「さあ、言いたまえ! 何故人間を襲う?」

 少し強い口調で迫られ、実蒼石は悔しげに顔を上げると、搾り出すような声で叫ぶ。
 その視線はひろあきやとしあきではなく、倒れている女性に向いていた。


“ジ、ジ、ジッソーセキイィィィ!!!”






→NEXT





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