タイトル:【観】 Gの旋律
ファイル:闇の中.txt
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初投稿日時:2010/02/23-23:11:48修正日時:2010/02/23-23:11:48
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※ sc2034.txt 糞蟲   の続きです。詳しくはご参照ください。









 − Gの旋律 闇の中 −


月明かりが差し込むダンボールハウスの中、親実装は手を揺すられる感覚に目を覚ます。
見れば我が仔が涙目で自分を起そうとしている。
怯えた様子で寄り添ってくる仔を、風が強いからか起きたのだろうと、そっと抱き寄せる。

「どうしたデス。眠れないデス?」
「コワイゆめみたテチ・・・ まっくらなとこで、おともだちがにらんでるテチ・・・」

小さな仔実装の言う事だから、どうにも意味が分からない。

「大丈夫デス。ママがいるから大丈夫デス。さあ、いい仔はもう寝るデス〜」



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 ピチョン・・・・・・・・・・・・

思い出されたように、滴の音が聞こえる。
どこから聞こえてくるのか分からない。
上からか、下からか。
近くなのか、遥か遠くなのか。
あるいは、地の底からか。

「テエ・・・・・・・」

周りには何も無い、全く無い。
光すらも、無い。
完全な漆黒の闇の中、仔実装は泥水の中に座り込み、ただ呼吸を繰り返す。

「おなか・・・すいたテチ・・・」

最後に物を食べてから、どれくらいの時間が経ったのであろう。
1日か2日か、1週間か、もしかすると数ヶ月か、いや、まだ半日程度なのか。
光も無く、音も無く、自分以外の誰もいない異様な閉鎖空間のため、仔実装の感覚は麻痺していた。


「おなか・・・おなかすいたテチ・・・・おなか・・・すいたテチ・・・・・おなか・・・・」


ピスピスと鼻を鳴らしてみても、湿ったカビの臭いがするだけだ。
自分でも目が開いているのか閉じているのか分からない、完全な闇の中を、空腹に耐えかねた仔実装
は手探りで辺りを探し回る。

浅い泥水をかき回すと、底は砂地の泥だ。
探せど探せど、なにも無い。
ただ空しく、チャパチャパと水の音がするだけだ。

「チャァーー!! なんにもないテチィ! なんにもないテチィ!! なんにもないテチィ!!!」

「おなかすいたテチィ! ここはくらいテチィ! だれもいないテチィ!」

どれほど叫んでも、誰の返事も無い。
全くの無音だ。
耳が痛くなるほどの、恐ろしいまでの静寂が仔実装を襲う。

「マーマーーー!? マァーーマァーーーーーーーー!!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「テエ・・・テエエエ・・・ テエーーーン テエエエーーーーーーン」 

     ・
     ・
     ・

仔実装は泥水に浸かりながら、静かに横たわっている。

ママに託児された時に食べた、黄色いアマアマ、美味しかった・・・
人間の家で食べた、お肉、美味しかった・・・・
最後に食べた、野良の仔実装、美味しかった・・・

ここへ来る前の出来事が、幻のように浮かび闇の中に消えていく。
ほおけた口から涎をたらしたその顔は、薄っすらと笑っていた。

その仔実装がピクリと動く。
なにか、かすかに水音がする。

 チャ・・・ピチャ・・・・・・・

音のする方を見ようと、首をかたげると。

「テチャアア!?」

突如、得体の知れない何かが、ガサガサと顔に這い上がってくる。

「チャア!? なにテチ!? いたいテチ! やめるテイ!」  

必死に剥そうとするものの、相手は平べったく、つるつると滑り捕らえようがない。

「ヂ!!・・・・ おメメかんじゃダメテチィィ!! ヂュギィーーーーーン!!!」

右の赤目に走る激痛に悶絶する仔実装。

「いたいテチャア!! やめるテチャア!!」

泥水の中を七転八倒して転げ回り、ようやく得体の知れない物から開放される。
ほっとして痛む傷口に手を伸ばすと、なんと右目が無い。
齧りとられたのだ。

「おメメ!? おメメないテチャア!? ワタチのおメメがないんテチーーーーーーー!!」

「マァマァ! なんで、たすけてくれないんテチィ!? マァーマァァァーー!!」

     ・
     ・
     ・

 チャパ   チャパ

「ママァ・・・ どこテチィ・・・・・」

 チャパ   チャパ   チャパ

「はやく、たすけにくるテチィィ・・・・」

 チャパ   チャパ

仔実装は出口を求めて、延々と歩いていた。

うろうろとしているうちに、大きな大きな壁のような物に辿り着いた。
この壁沿いに歩けばどこかに行ける。
そう考えた仔実装は、空腹を堪えてひたすら歩いた。

どれほどか歩くと、別の壁に行き当たり、仔実装は左へと方向を変える。
そして次も、壁に行き当たり左へ曲がる。
その次も、左へ曲がる。
またその次も。

出口を、光を求めて。
仔実装は、歩き続ける。

     ・
     ・
     ・

「テエ・・・テチチ・・・・テエエ・・・」

もはや、空腹感は限界に達していた。
これだけの長い時間、なにも食べていないにもかかわらず、不思議と体力は衰えない。
しかし飢餓状態は増す一方だ。

泥水の中、四つん這いになった仔実装は、必死になって泥をかき回し食べ物を探す。
何かないか、何かないか。
なんでもいいから、何か口に入れるものはないか。

 コツン

「テ・・・テテ?」

その手に、何か小さな物の感触があった。
仔実装の顔に、ふわっと生気が蘇る。

慌てて泥から取り上げて、貪るように頬張る。

 ガリリ!

「テヒョッッッッ!?」

慌てて口にした物は、ただの小石だったのだ。
歯こそ欠けなかったものの、目から火が出るかと思うほどの激痛に悶絶しまくる仔実装。

「い゛た゛い゛テチュワーーー!!」

「もうこんなところ、いやテチャーーーーー!!」

「マァ!マァァァァァァァァァァァッヂュ!!!」

     ・
     ・
     ・

「なにか・・・・きこえるテチ・・・・」

仔実装の耳に、雑音のような微かな物音が聞こえてくる。

 ザア・・・
 ザアザア・・・・

どこから聞こえてくるのだろう。
心なしか、少しずつ音が大きくなったような気もする。
きょろきょろと辺りを見回す仔実装。

 バシャバシャバシャーー!!

「テ・・・!? プッ・・・ワチャァ???」

突如、頭上から滝のように浴びせられた冷水に、ゴミくずのように転がされる。

「なっ なにテチ!? ちめたいおみずが、いっぱいテチ!」

無明の闇の中、どこからともなく噴出してくる水。
仔実装がおろおろとしているうちに、徐々に勢いを増してくる。

「テチ? おみず、ふえてきたテチ? さ、さむいテチィ〜!」

勢いを増した水は足元の水深をかさ上げし、今や水面から顔を出すだけで精一杯だ。
どこかに逃げ場はないのかと慌てふためくが、あれだけ放浪して見つからないものが、今更都合よく
見つかるわけがない。

「テエ! テエエエ! おみず・・・けぽっ・・・テチャ・・・かはっ・・・」

ついには頭までもが水没し、濁流に飲まれ流されてしまう。

仔実装が押し流された先は鉄格子で遮られており、その先へ轟々と濁水が流れ落ちてゆく。
恐ろしいまでの勢いで濁流が押し寄せるが、仔実装はなんとか鉄格子にしがみ付き、やっとの事で水
面に顔を出せた。
しかし、叩きつけるような飛沫に、呼吸もままならない状態だ。

「テヒ・・・ごぷっ! マッ・・・マァマーーーーがぼがぼ−−−ァァーーーげほっがほっ」

「ぷはっ なっ、なんで・・・がぽ!・・たすけにこないテチャアーーーー!?」

「なんでテチィィィィ!!!!」

「はやくくるテヂィィィィィィィィィ!!!!!!」

 バシャバシャーー!! げぼがぼぉ!? ごほっげぇぇぇほっ!


「こ・・の・・・ ク ソ バ バ ァ テ ヂ ィ ィ ッ ッ ッ !!!!!!」


 ザバァァーーンンン!!! ごぼぉぉ・・・・・・・・・・・・がぼげぼげぼげぼ・・・・・!!


「しっ しねテチィ!!」

「クソババアも! クソニンゲンも! クソムシも! みんなみんな、しんじまえテヂィィ!!!」


「ぶっころしてやるテヂャア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!!!!」


吼える。
憎悪を、悪意を、殺意を、怨念を、剥き出しにして吼える。

もう、仔実装にとっては、自分以外の全てが憎く、自分以外の全てを呪った。
この暗黒の地獄は、すべて自分以外の奴のせいなのだと。
何もかも、お前達が悪いのだ、と。

ふと、視線を上に向け、恐ろしい顔で睨みつける。


「そ こ の ク ソ ム シ ィ ! な に み て る テ チ ャ ア ッ ッ !!!!」



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



「テヒャア!?」

脂汗を流して飛び起きた我が仔に驚きつつ、親実装は優しく背中をさすって話しかける。

「どうしたデス? また怖い夢でも見たデス?」
「ま、また、コワイおともだちテチ! こわいこと、さけんでたテチィ・・・」

親実装はダンボールハウスの外を指し、震える仔を抱き寄せる。

「今日はお外は雨デス。だから一日、ママと一緒デス。それなら怖くないデスゥ?」
「テ? ずっといっしょテチ?」
「ず〜〜っと一緒デス」
「ママだいすきテッチュ〜ン♪」

チュ〜ンと鳴いて頬ずりする仔実装の頭には、暗闇の中の惨めな仔実装の記憶など、露ほども無い。
ママが大好き、あんな怖い仔なんて知らない。
そんなところだろう。

     ・
     ・
     ・

ダンボールハウスの外には、冷たい雨が降っている。

良い子はみんな、お家の中。

悪い子は・・・・



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