タイトル:【観察】 実装石の日常 ケージ
ファイル:実装石の日常 49.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:7943 レス数:7
初投稿日時:2010/02/23-23:07:42修正日時:2010/02/23-23:07:42
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親実装と2匹の仔実装は喜びを隠さず、会話も弾む。


「やっと、やっと飼い実装になれたデス」

「ママァ、もうゴハンが食べられないことはなくなるテチ?」

「そうデス、毎日ちゃんとご主人様が食べさせてくれるデス」

「すごいティ!」

「甘いものも食べたいテチ!」

「甘いものももらえるデス、でもわがままはダメデスー」


言う親実装も顔がほころんでいた。


……遠目でケージに入っている多くの飼い実装を、ただ眺めているだけだったけど、今日からは私たちもその仲間入りだ。




 実装石の日常 ケージ





公園の一角で親実装1匹と仔実装が2匹、ケージの中に入っていた。

中々頑丈そうで立派なケージである、少し古びてはいるが。

だが憧れのケージには違いはない、なにより、このケージに入れられて多くの公園の仲間が飼い実装になったのだ。


「さ、お前たち服や髪についているゴミをとるデス。きれいにしてご主人様を迎えるデス」


はいテチ、と素直に2匹は不器用ながら野良生活で汚れた衣服や髪のゴミを取り、身だしなみを整えようとする。

一家は生粋の野良実装であった、公園で生まれ紆余曲折を経て、それでも生きながらえてきた。

人々は公園にいる野良実装を見て、こう思うだろう。


「あれだけ一杯繁殖しているのだし、暮らしは楽なんだろうな」


……とんでもない誤解である。

生まれてくる野良実装で成体まで成長できるのは、環境によって大きく左右されるが極々一部だ。

捕食者の存在、餓死、あるいは事故や病気。

決して自然環境は実装石にとって優しくない。


「愛護派が餌付けしてくれるよな」


するがそれは愛護派の都合による。

気が向けば来るが悪天候ならほとんど来ない。

そうすると、空腹を抱えて親仔は我慢するほかない。

公園の草木の恵みなど、愛護派によって繁殖した野良実装にしてみれば全く足りないのだ。


「ゴミ捨て場があるだろ」


毎日ゴミ捨て場で野良実装は死んでいく。同族との闘争や、人間に見つかり怒りの一撃を受けることもある。



命がけで一家もこの日までやってきたのだ。


う、と親実装が涙ぐむ。

えさ探しで野良猫に追いかけられ、烏に狙われ、子供には蹴られた。

いつ死ぬか分からない環境だが、それでも生き延びたのは仔を育てるためだ。

しかし、いまや飼い実装の身。

自分の身に何かあっても飼い主が仔を育ててくれる。

仔は成長し、仔を産み、子々孫々繁栄してくれるだろう。

安堵感から肩を震わせて涙を流し始めた。


「……ママ、どうしたテチ、お腹痛いテチ?」

「ママが泣くと私も悲しいテチ」

「だ、大丈夫デス」


涙をぬぐい微笑む親実装。


「嬉しくて泣いただけデス」


ほっとする2匹の仔実装。姉妹を失うたびにこうやって親実装は泣いていたのを覚えていたのだ。



*************************************



親実装が落ち着き、床に座ると仔たちはふざけてしがみついた。


「ママ、お話しをしてテチ」

「私もお話聞きたいテチ」

「じゃあ飼い実装のお話をするデス……」


頭を撫でてやりながら、親実装は仔実装らの大好きなお話を語りだす。


「暖かい、気持ちのいいお水が張ってあるところに服を脱いで入るデス、そうすると体がぴかぴかデス」


土ぼこりで顔を汚している次女が目を輝かせている。


「服もきれいに洗ってくれるデス、汚れは全部落ちてしまうデスー」

「すごいテチ」


そういう5女の服はほこりがこびり付いて固まっている。


「ゴハンは暖かいものや、おいしいものが食べきれないほどもらえるデス、甘いものもあるデスー」


ひもじい思いを一時忘れ、仔実装姉妹は聞き入った。

飢えを忘れるなど生まれてから一度もないことだ。野良実装にとって空腹という状態は生まれてから死ぬまで付きまとう。


…

……

………


ある日、姉妹がまだ大勢生きていた頃、8女が立ち上がって言った。


「ママ、お腹減ったテチ」

「何もないデス」


疲弊した親実装はそれ以上言うつもりもない、ダンボールの中で体を横たえてた。


「でも私、お腹減ってるテチィ!」

「………………」

「私もお腹減ってるテチ」

「私も欲しいテチャア!」

他の姉妹も空腹を抱えているのだ、次々と騒ぎ出す。

立ち上がって詰め寄るように親実装へ近づくが、背中を向けられたままだ。


「……よく聞くデス」


親実装が振り向いて、言った。


「今の時間はゴハンは探してもないデス、明日がんばってママが探すデス、それまで我慢するしかないデス」

「でも、でも」


ぶるぶると8女は震え涙を流していた。 相当、飢えが堪えているらしい。


「2日に一回しか食べてないテチィ」


そう、野良実装の数が増え、よその公園からゴミ捨て場にやってくる連中さえいるのだ。

どうしても競争が厳しくなり、手に入るものも減る。


「我慢してお昼寝するデス」

「お腹減ったテチ、眠れないテチィ」


う、うう、と涙を床に落とす。

もう親実装は応えず、8女も床に転がって、いつしか寝入った。

(ごめんなさい、ごめんなさい、ごはんをあげられなくて、ごめんなさい……!)

心の中で親は泣き、わびた。

彼女も仔を餓えさせることなど望んでいなかった。

だが環境はそこまで厳しかった。


…………六日後、ついに力の弱い8女が餓死した。




ケージの中で親実装は嬉々と話し続けた。


「きれいな飲み水もあるデス」


今まで飲んだものといえば、ダンボールハウスに置いてある古いペットボトルの薄汚れた水だ。


「見たこともない、色々なおもちゃでご主人様が遊んでくれるデスー」



2匹は優しいご主人様を思い浮かべる。

今まで遊んでくれたのはニンゲンの乱暴な子供だけだ、それも遊ぶと言うのは向こうの表現にすぎない。

姉妹は『遊んでもらって』地面の染みと化した。



・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

「やめてテチ、やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇテチャアアア!!!!!!!!!!!!!!」

公園の片隅で、少年たちは笑顔で長女と3女を踏みつけていた。


「痛い、痛いテチャアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

「テチャアアアアーーーーーーーーーーーーーアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」


交互に力を入れて泣き叫ばせる。

他の姉妹は茂みの中から突然のことにただ震えていた。

親実装の留守中、突如少年たちがダンボールをひっくり返し、たまたま目のついた2匹に目星をつけたのだ。


「ママァ! 助けてママァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! ママ! ママ! ママーーーー!」

「怖いテチ、やめてテチィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


靴の下で騒ぐ2匹を少年たちはにやけて見下ろす。

力を少し込め始め、2匹の体がきしみ始めた。


「痛! 痛いテチャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

「ママ! ママ! 死んじゃうテチ、死んじゃうテチィ!!! わあたあしぃが死んじゃうテチィィィ!!!!」

圧迫され2匹は見開く両目から血涙を垂れ流す。口からも耳からも鼻からも血が溢れていく。


「「せーの」」

「「ヂィ!」」


グチャリと音を残し、2匹は潰された。少年が靴をどけると、押しつぶされた染みだけが地面に残されている。


「きったねーな」

「最後までうるさかったね、往生際が悪いよ。 どうせ死ぬんだから大人しく死ねばいいのに」


そう言って、もう一度笑う。

残された姉妹たちは茂みの中で声も出さず、涙を流しながらその光景を見ていた。


「許せないテチィ!」

「7女ちゃん!?」


止める間もなく、7女は茂みを飛び出して少年の足元にたどり着くと、渾身の力を込めて殴りつけた。


「テチャアアア! やっつけてやるテチ! お前なんかやっつけてやるテチィ!!」


力の限り、涙を流し絶叫しながら姉たちの仇討ちとばかりに殴り続ける。

やっと気づいたらしい少年が振り向こうと足を動かす。


「ヂィ!」


靴底に巻き込まれた7女は一瞬で踏み潰された。

「どうかしたの?」

「いや、仔実装の声がしたんだけど気のせいみたい」


少年は靴の下の7女に気づかなかったらしい。 

しばらくすると、少年ふたりは笑い声を残して立ち去った。


30分ばかりが経ち恐怖が弱まったのか、姉妹はよろよろと茂みから這い出ると死骸へ近寄った。


「長女姉ちゃん……」


大の字の形で地面に押しつぶされ、体の中身が飛び出している。


「……3女姉ちゃん」


立った姿勢を踏み潰された3女は、もう生前の姿など想像できない染みと化していた。


「7女ちゃん……」


勇敢だった7女も今は無残なただの染みである。


生ゴミを持ち帰った親実装は、その光景にただ立ち尽くすことになる。




*************************************



親実装は笑顔で語り続けながら、また涙を流している。

仔たちも笑顔を見せながら、涙でほこりに汚れたほほを濡らす。


死んでいった姉妹の姿を、何も言わずとも親仔は思い出していた。



「次女、5女」


頭を撫でてやりながら親実装。


「これからはご主人様の言う事をよく聞くデス。 我がままは駄目デス」

「「はいテチ」」


親実装は真剣な眼差しだ。


「贅沢に慣れちゃ駄目デス、飼って貰えることに感謝するデス、野良だったころのことを決して忘れちゃ駄目デス」

「「はいテチ」」


親仔が会話していると、何かの作業服を着た男が歩いてきた。


「きっと、ご、ご主人様デス! ご挨拶するデス!!」


ケージの中で精一杯、一家は会釈した。


「これからお世話になるデスー。 きちんとご主人様の言う事を聞くデス」

「聞くテチー」

「よろしくお願いしますテチ」


誠実な挨拶がなされた。が、男はそれを見もせず、ケージの上部にある取っ手を掴むと強くそれを持ち上げる。

ほんの少しだが今までより高い視点に、一家は驚いた。

公園が違う風景として見えた。

もう戻ることが無いと思うと、過酷な公園にも感無量だった。

どんな厳しい世界でも彼女らの故郷には違いがないのだから。

そして親実装は思う。


……なんと幸運なのだろう、運よくケージを見つけられるとは


公園の一角で空のケージを見つけたときは体が固まってしまうほど驚いたものだ。

だが躊躇せず仔を連れて中に入った。

本当に良かった、と仔の顔を見ながら親実装うなづく。

物悲しさと至福の思いを交差させながら、こうして一家は公園から旅立って行った。





EN






































ケージにはプレートが貼ってあり、こう書かれていた。



【これは野良実装駆除用ケージです:誤って飼い実装が入った場合は下記までお電話ください】


この駆除用ケージへ自ら望んで入った野良実装は、すでに500匹を越えていた。


END

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1 Re: Name:匿名石 2016/03/05-05:15:19 No:00001923[申告]
夢の飼い実装になれたと思った親子は、ゲージの中で大変喜んでいた。
「ママ、あったかお風呂にふかふかベッド、山盛りコンペイトウ、テチ」
と仔実装が喜べば、親実装は、
「これで同族に襲われる事もないデス。沢山の子供を産んで幸せになるデス。」
と2匹は、うきうき気分でご主人様の家に着くのが待ちどうしかった。
暫くして、投げ飛ばされる様な衝撃をうけた .
保健所に着いたので作業員が、トラックからゲージを土間に投げ捨てたからだ。
親実装は、「痛いデス。何するデス。もっと丁寧に扱って欲しいデス。」
と怒鳴った。
作業員は、ゲージを開けると物干し竿の先にフックを付けた長い棒で親実装を捕まえ檻に放り込んだ。
仔実装はトングでつまみ出されホースの様な者が取り付けられたプラケース に入れられた。
「ママ、どこテチ。ここは、窮屈で苦しいテチ」
と叫んだ。
ここから人間目線で話を進める。
「としあき、仔実装もこれだけ集まれば騒音だな。」
と「 」が言うと
「テチテチ喧しいから早くガス入れて始末しようぜ」
と言い、殺傷ガスのバルブを開けた。
シュー。と言う音がしてプラケースの中に殺傷ガスが入りだした。
仔実装達はケースの中で、パニック状態になって右往左往しだした。
1匹、又1匹と仔実装が、あの世へ旅立った。
先程入れられた仔実装は、ホースから一番遠い場所にいたのでじわじわガスの効き目に襲われ目を剥き、口から舌をだし一番苦しんで死んだ。
「  」は職中にも関わらず、スマホのビデオを立ち上げてケースの中で苦しむ子実装達を撮影した。
「これよ。これこれ。この苦しむ映像は、家に帰って酒を飲みながら見ると最高にうまいツマミになる。虐待派の俺にとっては。」
と興奮して撮影した。
やがて仔実装の死体が、焼却炉に入れられ点火スイッチが押された。
次は実装目線で。
「ママ、臭い臭いがするテチ。コホ、コホ苦しいテチ。」
「どうしたのオチビちゃん。頑張るデス。ママは、此処にいるデス。ニンゲン
さん、私の子供が苦しんでいるデス。助けるデス。」
「ママ、苦しいてチュ~。」
その言葉を最後に仔実装は、鬼の様な顔をして息絶えた。
「ニンゲンさん、私達は、飼い実装のはずデス。なんてことするデス。」
としあきは、リンガルを取り出して親実装に話かけた。
「実装石が、何言ってんだ。お前らは害虫なんだよ。後2~3日したらお前も
ああやって苦しんで逝くんだ。それまでのそこでおとなしくしておけ。」
と言って、「 」と一緒に部屋を出た。
「オロロ~ン。私達が何をしたと云うのデス。私は、沢山の子供に囲まれてただ幸せになりたっかった。だけなのに。」
と泣きながら檻に縋り付いた。
空になったゲージが、トラックに乗せられて運び出された。
「明日は、中央公園にゲージを置くそうだ。」
と「 」が言うと、としあきは、
「中央公園か、あそこは、市内一の実装石の巣窟だからな。」
と言うと。「 」は、
「それじゃ、明日も俺の酒のつまみができる日か。楽しみだな。」
親実装は、明日処刑されてしまうのか。
「双葉町役場は、可愛そうな動物を保護して、里親制度も設けています。
町民の皆さん可愛そうな動物に愛の手を。」と言うコマーシャルがTVで流れています。


 







2 Re: Name:匿名石 2016/03/05-14:30:29 No:00001924[申告]
p.s
子実装は、2匹居ますか、もう1匹は、安心感と疲れからか。
すぐに、熟睡してしまいました。
『ママ、ワダチは、疲れてしまったので暫くねんねするテチ。』
眠ったまま殺されてしまいました。
3 Re: Name:匿名石 2017/10/19-21:04:15 No:00005004[申告]
これが日常(渡り)の人が最後に投稿したスクか
それからもう7年半…
4 Re: Name:匿名石 2018/04/17-05:31:32 No:00005178[申告]
やっぱりこの作者さんのスク面白いわ
作者さんの渡りシリーズの続き読みたい
5 Re: Name:匿名石 2022/02/01-13:16:07 No:00006476[申告]
日常のシリーズを通して読み返すと様々なシチュエーションに様々な性質の実装石達が登場するが、どの個体も性格からバックボーンに至るまでしっかりキャラ付けがされていて皆違う個性を持っているし、それに添ったストーリー展開も各話で違う趣向で書かれている。だから読んでいてもマンネリにならずまた飽きることがない
登場石も善良であったり悪賢くあったり健気であったり図々しくガサツであったり…
でもどのエピソードも、例え全滅エンドであったとしても、作者さんの実装石達に対する目線には何処か優しい目線を感じられる
そんか気がします
6 Re: Name:匿名石 2023/05/04-21:03:26 No:00007123[申告]
そうか、この人もう書いてないのか
戻ってきて続きが読みたいです
7 Re: Name:匿名石 2023/06/16-05:18:31 No:00007300[申告]
頭よさそうなのに
人間信じちゃいけないってわかってるのに
ゲージ入っちゃったかー

あと長編のわたり除くと
この人もう書いてないからここで終わりなのがすごく残念
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