タイトル:便槽飼い資料
ファイル:便槽飼い資料.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:4995 レス数:0
初投稿日時:2006/08/06-21:01:41修正日時:2006/08/06-21:01:41
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俺は閑静な住宅街に来た。
番地を確かめ、ある一戸建ての前で止まる。
柵越しに小ぎれいなポーチが見える。
新築からまだ年月を経てないらしい。
大きくはないが、かといってチャラチャラとしたお飾り部分はなく、
趣味よくまとまった好ましい感じがする。


もちろん俺の家ではない。
お客さんになってくれる、かもしれない人のお宅だ。
おもむろに俺はインターフォンの呼び鈴を押し、
「雙葉興産の○×です」と名乗る。

それだけ言って来意は告げない。
「ハイ、お待ちしておりました」とすぐに女性の声が返ってきた。

アポイントは昨日先方からの電話であった。
それを受けたのも俺だった。
玄関扉が開くのが見えた。

出てきた奥さんはセミロングに眼鏡の清楚なカンジの人だ。

すぐに客間に通され、冷たい麦茶が出た。

奥さんは仔実装石を二匹、胸に抱えて戻ってきた。
「チィー」
「チィー」
よく躾けられているらしい。客をみても興奮したり、媚びたりしない。
カワイイなぁと思ってると、俺に向かって上手に挨拶までした。
名前はメメちゃんとムムちゃん。
賢い仔ですねと奥さんに言う。

さて仕事仕事と。

「地球に優しい—実装バイオマス便槽」
そう書かれたカラフルなパンフレットを俺は奥さんに渡す。

マニュアル記載の口上は大幅に省くことにした。
見たところ、奥さんはインテリっぽいし、
だいいち俺が面倒くさい。


メンテナンスが楽なこと。
保険から消耗品まで全部コミコミの明朗価格なこと。
業界トップの環境性能を実現していること。
おかげで他社の同クラス製品と比較しても、
補助金交付のグレードが高いぶん、お得なこと。

じっさい昨年には環境系超党派議員連盟の後押しで、
この政府補助金制度の見直しがあって、ウチの会社の製品の購入には
かなり有利になっていた。

というようなことをやや早口で説明したが、
奥さんはちゃんと、俺の話についてきているらしい。

「なにかお尋ねになりたいことは?・・・」と俺が水を向けると、
いろいろとうがった質問が出る。
俺はそれにテンポよく簡潔に答えていく。
しまいには感心される。

「じつはワタシも、このタイプの製品を個人的に以前から利用しておりまして—」

俺はカタログ上の個人向け製品の一つ、最上グレードの写真を示した。

「じぶんで調整したり、あるていどのことはできるんです」
「そう・・・趣味が高じて、ということね」
「お恥ずかしい」
俺は照れたふりをして茶をすする。

「えっと、バイオマス槽のデータ諸源について資料は・・・」
「ハイ、こちらです」
俺は昨日電話口で頼まれた資料のファイルを差し出す。
奥さんは手にしたファイルを開けなかった。

「私はわからないんですけど、主人が、ぜひ貰っておけって」

それは数字やらグラフやらがびっしり並んだ英語の資料だ。
俺にはサワリの解説すら難しい。
あとで聞けば、ご主人は化学系企業の技術者だということだ。

「こちらへどうぞ」
奥さんに促されて、便槽埋設予定地となる裏庭に出てみる。
気持ちの良い夏の風が吹いている。
庭のことでも褒めようとした矢先に、奥さんのほうが先に口を開いた。

「決めようと思います」

「え? よろしいんですか? ご試用いただけるタイプの仮設置もできますが」

「ええ、でも。私が待ちきれないから」
どうやらずーっとこの製品が欲しかったらしい。

「できれば、なるべく早いうちにお願いします」
俺が思っていた以上に話が早く進む。

俺はケータイを取り出した。
前もって手配は済ませてある。
俺はすぐに最寄の施工業者に連絡して「特急で」と依頼する。

奥さんと実装石のことやら、よもやま話をしているうちに
施工業者の人が来て、配管周りを調べてくれた。
彼は見積書をいつものように事務所にFAXすると告げて帰った。

奥さんには、明日もお邪魔して工事を見届けると言い、
俺も早々に失礼する。

「ありがとうございました。これからもよろしくおねがいします」



家庭用実装バイオマス便槽。
間違いなく地球環境にも良いし、ひとむき違った虐待も楽しめる装置だが、
それはけっして安い買物ではない。
それが近頃は妙に売れる。

「この人気は本物かもしれないな・・・」











「調子どお?」
事務所に戻るなり、白衣に髭面の男性が俺に声を掛けてくる。

「あ、セキさん」
そうみんなに呼ばれているのは、この事務所が併設されている
研究開発部の主幹研究員・・・ようするに一番偉い人だ。

この人は俺の級友の実兄でもある。
さらに母校の先輩でもあるが、
10コ年上なので学生時代には顔を合わせたことはなかった。
数年前、ブラブラしていた俺をいろいろ手を使って、
こんな一流企業に就職させてくれた恩人だ。

この人はいつもは研究室に閉じこもっている。


「売れ始めてますねー」

例の眼鏡の清楚な奥さん宅を失礼した後も、
2件ほどマンションタイプの製品を設置してきた。
こっちは業者ではなく俺自身が実際の施工をぜんぶやらねばならん。
ああ休みたい!と本音は言えぬ。

「宣伝が効いてきたかね」

セキさんは他人事みたいに言う。


わが雙葉興産は実装バイオマス便槽のパイオニアである。
公共施設への大型製品の納入には
それなりに実績があるが、ここ十年というもの、
市場では競合他社との過当競争になりつつあった。

それが一去年の談合摘発事件以降、
さらには昨今の公共投資の大幅削減などにより
大規模実装バイオマス便槽業界をめぐる状況は厳しさを増すばかりだったのだ。

しかし、その状況をいち早く見越して、取締役会と大株主に働きかけて
社内で新プロジェクトを立ち上げさせた人がいる。

「家庭に実装便槽を売り込め!」


それが隣にいるセキさんだった。

さらに個人虐待需要の多様化をにらんで、家庭用/個人用にと
さまざまな製品設計を行ったのもこの人らしい。
胡散な見かけとは裏腹に、
ミドルの実力者ってカンジだ。
とりあえずこの人に従っていれば俺の将来安泰。

本社の営業部は都内にあるのだが、
俺はこっちの研究開発部の事務所を拠点にして、郊外の住宅地区を受け持つことになっている。
丘陵地を切り開いて造成した広大な工業団地。
その大きな一郭をしめているのが、
わが社の誇る・・・この研究開発部だ。
ここには巨大な実験棟に付随してささやかな事務所と研究者の居所だけがある。

セキさんと話しながら実験棟に入っていく。

ああ臭い。いい臭いだ。
俺の大好きな実装ちゃんの臭いがしてきたぁー。

じっさいの公共施設に納入される大規模実装バイオマス便槽は、
その構造物の全てが地下に埋設されているので、
通常一般人が目にすることはない。
いろいろ映像資料はそろっているのだが、
やはりこうして目の前でみるとスゴイ。迫力が違う。

何千坪か忘れたが、
この広大な実験棟はそのまま巨大な便槽装置を
格納するためにあるようなものだ。

また、ここでは環境維持のしやすさから、バイオマス層だけは
地下に埋設されている。それより上の層、つまり実装石が
生活している層は地上と同じ高さに置かれ、観察しやすくなっている。


なお、完全に余談となるが、
俺は実装ちゃんの臭いを嗅ぐと、なぜか

 「おにんにんがおっきする」

しかしそれでは職業上なにかと不都合が多いので、
出先ではプロテクターをつけているのだが・・・いかんせん暑い。
帰社するとそれはすぐに外すことにしている。
同僚はみなそのことを了解していて、
俺が妙にエレクチオンしていてもなんとも思わなくなっている。
・・・ボッキンキーン!と

さぁ!もっと詳しく、
この実験用実装バイオマス便槽をみていこう!
前述のとおり、最下層はバイオマス層である。
そこから排出される汚水汚泥は、そのまま日常の生活環境にリリースしても
問題ないほどのレベルである。
科学ってスゴイねー!

バイオマス層の上部にあるのが、実装石居住層である。

この居住層は実装石の成長段階に応じて、以下に挙げる、
さらに複数の階層に分かれる。



【蛆層】
これは大人の膝ぐらいの高さにあって、最大で10cmほどの厚みしかない、薄い空間だ。
その薄く広い空間に、びっしり大量の蛆ちゃんがレフレフ暮らしている。
最初にこの便槽空間に入れられるとき、
「新入生」たちはみな蛆ちゃんなので、この居住層の最下層=蛆層に迎えられることになる。
蛆ちゃんたちは以降、一生をこの近代科学の粋を結集してこさえられた
バイオマス便槽の中で過ごす。

ただまあ虐待用途においては「中途入学」がありうるので、
この課程は必ずしもその限りにあらずだが。

この空間には約一㎡あたりに一つずつ、小さな上りハシゴがついている。
またこの層の天井には微妙に傾斜がつけられている。
天井のもっとも高くなった箇所にハシゴは設置されいるのだ。
したがって、
このため、成長して大きくなった蛆ちゃんはしぜんに広い空間を求めて
ハシゴの下に集まるので「詰まる」ことはほとんどない。

手足が生えそろい、晴れて仔実装に成長した蛆ちゃんは
このハシゴを使って上層へ移動することになる。

なおこの昇格ハシゴにもセンサーが取り付けられており、
その様子が新蛆ちゃん供給タイミングのためにモニターされている。

説明が前後する。
この実装バイオマス便槽に投入されるのは主にニンゲンの排泄物だ。
ある理由から、それにはデスコマーVと名づけられた
特殊な誘引物質を混ぜる。
この物質は実装石の食欲を大いに刺激する臭いを発生させる。
これは体格の小さい実装石固体ほど代謝分解しやすいように設計された
合成化学物質だそうな。
とうぜんながら下の層にいけばいくほど、このイイ臭いの濃度は薄くなり・・・
まあ逆にいえば、
上階のほうからは常に旨そうなイイ匂いがする仕掛になっている。

このため食欲の鬼ともいえる彼女らは常に期待に胸ふくらませて
成長という名のハシゴをガンガン上っていくのだ。

なお各層にあるハシゴの上端は簡単な逆止弁になっており、
下層への後戻りはできない。


【親指層】
この層は直下の蛆層よりはずっと天井が高くなっている。
直立二足歩行が可能になった固体への生活空間確保のためだ。
この層にも上りハシゴがあるのだが、ハシゴの段の間隔が
さらに大きくなっており、この階層に達したばかりの
未発達な固体がすぐには上れないような仕組みになっている。

また蛆層と異なる最大の点はシャワーの存在である。
親指層の内部には簡単なシャワー設備があり、
住人のストレスを和らげるのに役立つという。
もちろんこのシャワーも軽いライトな小便なのだが。

なお初期の研究段階では居住層の各層をグレーチングで仕切って、
排泄ブツを下の層へ直接落下させるようにしていたが、これが
バクダン遊びのような、イジメにつながることがわかっており、
(それはそれで面白いと思うのだが)
デスコマーVの効果的な散布という点からも、問題視されたので、
今では各層にはちゃんと床面を張って、トイレを設置してある。

このトイレの配管の出口は下の層の給餌口につながっており、下の層の住人は
日々上の住人の生産したウンコを食べて仲良く過ごす。


【仔層】
さらに仔実装石とよばれる大きさに成長した固体が居住するのがこの層だ。
この層ではシャワー設備に加えて、さらに居住性を高める目的で
床面には段差が設けられており、各固体が擬似パーソナルスペースを
確保するのに役立つ。

さらに段差がひときわ大きくつくられている箇所もある。
より高い場所を占有するというステータスによって、
その固体が牢名主のように君臨できるようになっているらしい。
この設備の効果には理論的な裏付けがまだない。
実装石の本性がそういう緩い序列付けを好むからか?
完全にフラットな構造よりは、多少生体活性が高まるというデータはある。
いうなればコイツラの生活に「張り」が生まれるというのだ。
ふむふむ・・・

バイオマス層の前段となるのが居住各層住人たちの胃腸、その消化能力である。
固体の健康度がそれに直接影響を及ぼすことは言うまでもない。
コストをかければ、実装石たちの心身の健康度は向上するだろう。
しかしじっさいの資源は限られている。
やたらに居住性向上にたいして金をかければ、
製品のコスト高、ランニングコスト高に直接はね返ってくる。
ここの兼ね合いは難しいところだ。

うーん
このへんの研究資料にはいろいろな(趣味の虐待にも役立つ)
アイデアがあり読んでいると飽きないな。

仔層においてハシゴの段の間隔はさらに大きくなっている。
やはり体格と体力を向上させた固体だけがこれを上りきることができる。


この仔層および親指層は体格にあわせて、さらに数段階設けられることがある。



【処理層】
成体ほどの大きさにまで成長した固体だけが
この最上階にたどりつくことになるが、
もうここには居住のための広い空間はない。上りハシゴもない。
ハシゴを上りきった場所から放射状に伸びている細い通路があるだけだ。
そう。
ここに来た成体にはもう用は無い。
さっさと目方ぶんの実装肉になってもらうだけだ。

なぜ成体は使えないか?
それは要するに成長して変に知恵を付けた
奴らがロクでもねーことをやらかしはじめて、
管理が格段に面倒くさくなる・・・
その割には消化能力が質の点において、
仔実装石にくらべて頭打ちになっているからだ。

この階層に到達した後の流れだが、
奥からは非常に食欲をそそる匂いがして、到達者は通路を進むことになる。
通路はやや下りの傾斜になっており、その最奥部の壁にはなにやら意味ありげに、
食い物らしき物体が置いてある。
しかしこれはダミーに過ぎない。
実装石の接近にセンサーが反応して、神経ガスが噴出。
動けなくなったところに上下左右から回転鋸刃が襲ってくる。
こうして「卒業生」がめでたくミンチになるしくみだ。
この実装肉は仔実装たちの餌に混ぜて再利用が図られる。


以上。
俺の知識でざっと説明できるのはこんなところだ。
もっと科学的な詳細希望の方はウチのサイトに行って、重箱隅を探してくれ。

なおこれは大規模施設としての構成だ。
家庭向け、個人向けの製品群はこれらを、機能性を維持しつつ
よりシンプルな構造に置き換えて小型化してあるから、
大地主でなくても便槽オーナーになれる。




「まだまだ未完成だよな」
セキさんがため息とともにそう言う。

この人の向上心のスゴさには感心する。
しかし、俺みたいな研究者でもない人間が、アホ話の中で飛ばした与太を
「それやってみようか!」と
マジで採用され実験されていたりするので、
本当にまだまだ発展途上のシステムなのかもしれない。
ああ将来が楽しみだ。


事務所のほうに戻ると俺の名が呼ばれた。

「○×クン、ちょっとちょっと」

PCに向っていた別の研究員が俺を手招きした。

「これみてよ、これー」

彼がさもおかしそうに、画面を指すので覗きこむと、
趣味の悪そうな配色のウェブサイトが開いてある。

「?」

どこぞの虐待派青年がウチの製品をオモシロおかしく改造して、
それを使用したトンデモ系の実装石虐待を
いろいろ編み出して紹介しているサイトのようだ。
それがかなり悪ノリ気味で、その筋の人間には非常にウケてるらしい。
なぜか紹介写真にある設備まわりには見覚えがあった。
どうやら俺が半年ほど前にマンションタイプを納入設置してきたその客らしい。

「・・・・」














次の日。
俺は昨日訪問したあのお宅にいた。
設置業者の人と短く打ち合わせをして、便槽製品の搬入を手伝う。

準備工事はすでに終了している。あとは調整を少々行ってから、埋設実施だ。
奥さんはお茶やおしぼりなど、俺たちのためにと世話を焼いてくれている。
今日ご主人は休みを取っているそうだが、
ちょうど息子のとしクン(3歳)と散歩に出かけているらしい。

俺は奥さんに声を掛け、製品を見に来てくれと言った。

やっぱり実物を前に説明するのが一番だ。
埋設工事が完全に終了してしまうと、全体が地面の下になるので説明しづらい。
実装便槽が地上にあるあいだにレクチャーをカンタンに済ませておくのがいい。

「この部分が三層からなっておりまして・・・
 下からバイオマス層、居住層、処理層。それぞれこのレバーでロックが外れます。
 自動給蛆を使わないときの給蛆は・・・ここから、行ってください」

昨日のおさらいをするように、各部の説明を、動かしてみせながら行った。

「ちょっとごめんなさい」
俺の説明が一段落つくと、奥さんはそう言って、家の中に入った。
戻ってきたときには、昨日も見たあの二匹の子実装石を抱えていた。
見学させるつもりらしい。

奥さんが俺に目配せした。
俺は便槽の仔層カートリッジを半分引き抜いて、天板を開ける。
外光の眩しさに慣れないので、中の仔実装石どもはチュ?チュ?と戸惑っている。
俺にとっては見慣れた光景だ。
しかしこれはコイツラが見る最初で最後の空でもある。

メメちゃんとムムちゃんは、
狭い場所にウンコまみれで押し込められている、
自分と同じくらいの同属たちの姿を目の当たりにした。
(じっさいにはまだ使用前なので、ウンコの色は予備運転のときの調整餌+デスコマーVの色だ)

すかさず奥さんが言う。
「メメちゃんもオイタしたらアソコに入ってもらいますよ」

「チェー!!」
メメちゃんはうずくまって頭を抱える。
隣ではムムちゃんがブルブル震えて、やめてくれと懇願しているように見えた。

この光景に俺たちが笑っていると、
ご主人が息子と一緒に散歩から戻ってきた。

「あぁどうも、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
「コンニチワー!」
「こんにちは」
としクンは元気で利発そうな子だ。

奥さんは話を引き取ってくれる。
「ねぇ、これって操作がとっても簡単なんだから」
「そりゃそうだろうね」
ご主人は当然だよという顔。なぜか自慢げだった。

埋設工事が山場を迎えると、俺はしばらくまたヒマになったので、
ご夫婦から勧められてリビングでくつろがせてもらう。

そのときしていたよもやま話から、ご主人の昔の話になった。

「私の子供のころには周りは下水が通ってないとこがほとんどでしてね」

「田舎だけでしょ?」
「クチャー」
奥さんととしクンが笑う。

ご主人の話は続く、
「ウチの実家でも実装石を飼っていましたが、
 言うこと聞かない糞蟲どもはガンガン便槽にほうりこんでやりました」

「それでもですよ、あいつら飼い実装石のステータス? ですか・・・
 そんなのにこだわってか、便槽飼いのほうがいいと思ってるんですねぇ」

「野良になるか? そこの便槽で飼われるか? どっちがいいんだ!?って聞くと」
 ここで飼ってくれーってなぐあいに、哀れに鳴くんですよ」

「野良のほうがよっぽど生物らしい生活が送れるでしょうにねぇ」

彼はほぉっとため息をつく。

俺は黙って家族の会話を聞いている。

「バカだなぁ実装石ってやつは〜 アッハッハッハ!」

父親に合わせてとしクンはキャッキャと笑う。
メメちゃんとムムちゃんは抱き合って怖がる。

しばらくすると、としクンは退屈したらしく、父親の袖を引っ張って、
いっしょに二階でメメちゃんムムちゃんと遊ぼうと言っている。
新しい実装石遊具をおねだりして手に入れたらしい。

「では、すみませんが・・・」
「ハイ、お任せください」
俺も同時に立った。

まことに仲の良い父子の姿を見送った後、
俺は庭の上に目をやる。新しい土の色が鮮やかだ。

眼鏡の奥さんは満ち足りた表情をしている。

「あの人は虐待派じゃないんですよー 威張ってるけど・・・
 その便槽に入れた実装ちゃん、彼女のことが心配で毎日見に行ってたんですって」

「へぇ」と俺

「はじめから、そんなことしなけりゃいいのに、ねぇ」
奥さんはクスっと笑う。


「本当は新築のときに、同じメーカーさんの製品をつけようって私が言ったんですけど。
 うちの人が、まだ早い、これからずっといい製品が安く出るって言うもんだから」

「ええ」

俺もニコニコしながら相槌を打つ。
たしかにそうだ。このお宅が出来たというその頃には、
といってもそんなに前の話ではないのだが、
まだ一般には、いや設備設計のプロのあいだでさえも、
家庭用実装バイオマス便槽への意識、認知度は恐ろしいほどに低く、
とりあえず顧客の説明をホイホイ聞いてやっつけたような、いいかげんな設計の
製品があふれていた。
それこそボッタクリ価格というほかない、
機能面でも、現在の低価格モデルより数段劣る製品しか供給されてこなかったのだ。
保守性堅牢性も悪く、その手の他社製品の取替え交換に飛び回っていた時期もある。
何年か後には、裁判沙汰になる例は事欠くまい。
ああ腹が立つ!

「本当にそうですね」
奥さんの話に俺は強くうなずく。

・・・ん?
この俺が?ネクタイ締めて、こんな文化的文明的にも意義深ーい仕事に
真面目にたずさわっている。
われながらちょっと可笑しい・・・


「ハイOK!完璧です」


設置工事はつつがなく完了。
ふたたび俺は一家の笑顔に送られ帰っていく。
めずらしく今日はこれで終わり。
事務所のほうには工事完了の報告だけをする。
ふー、やっと週末だ。
暑ぃ



気分が良かったので俺は駅ビル屋上のビヤホールで中生を3杯呷った。
ホームにつく頃には腹が冷えたせいか強い便意を催した。
もちろん大のほうだ。
四駅のあいだガマンを重ねる俺の顔はどこか嬉しげだ。
小走りになりながら安アパートの自室に駆け込む。

玄関のドアを閉めると、そこにあった便座をOPENし、
ガマンしていたウンコをその内部にぶりぶりと垂れた。

俺の部屋の場合、玄関の隣に洗濯機用の排水口があるため、
そこに便槽の排水をする都合上、こうなった。他意はない。
便槽の気密はしっかりしているので臭いはまったく漏れないのだが、
ウンコタンクはなるべく居室から遠いほうが心理的には落ち着ける。
まあべつに女も友達もいないし。人こないからいいや。

そうそう・・・
いつぞや、しつこい勧誘が来たときのことだ。
キレた俺は、ウヨウヨ仔実装蛆実装うごめく階層断面をさらす、
この実装バイオマス便槽便座に鎮座したまま、ドアを開けてやった。
すると、
その新興宗教の勧誘員は真っ青になって、なぜか「悪魔」と俺を罵った。

うーん。俺は尻を拭きながらその謎を反芻していた。
答えは出なかったが糞は出た。

さて俺の便槽便座の解説を続けよう。
便座は普通の洋式便座だが、後方には便座と一体化した
一抱えにあまるほどの便槽があり、排泄物をすべて引き受ける。
便槽のパネルは全面シースルーになっている。
側面には各種コネクターとスイッチ群の収まった小さな操作パネルがある。

このタイプのものはどうしても容量が小さいので、
流水と一緒になった尿をためておくことはできない。
即座に尿を分離するのも困難だ。
この場合尿は尿専用触媒層/電解層を通ってわりとすぐに排出される。
固形分だけを漉しとって居住層へ送る仕様になっている
ふだんならコックの横についている「尿のみ」のスイッチをONにして
流すことにより、水分を仔層のシャワータンクに入れておける。
最新の製品ではこの判断もセンサーでやってくれるが・・・まあ
これはテストタイプなので贅沢は言うまい。
満足している。

バイオマス層を経た排水はキレイなものだ。
飲みたいとは思わないが、そのまま側溝にリリースしても心は痛まない。
しかし側溝のほうが遠いのでしかたなく下水に流してるようなしだいだ。
数ヶ月に一度は少々汚泥もでる。
これは手動でプレートごと出してやらねばならない。
ひとつかみほどのサラサラした砂だ。

先刻納入先のお宅でも披露したごとく、
それぞれの層はコピー機の給紙カートリッジのように、引き出すことができる。
もちろん奴らの生活現場は臭いし、中身が脱走することもあるので、
単純なタンスの引き出しのような構造にはなってない。

俺のウンコがようやく仔層の準備給餌タンクに到着したのを確認した。

「食事の前に遊んでやるかー」
俺は自動給餌装置をOFFにして、いくつかバルブ操作用のスイッチをいじった。

消臭剤を添加した水を流して、便槽の各層を予洗いする
全層で住人は溺れている。
苦しそうだ。笑う。

これでよし。
まだあるていど臭うが、ここまでしてあれば、ひどいことにはならない。
天板を開けて直接に仔実装石どもの顔を拝む。ああ汚ねぇな!
まったく糞壷の天使だな。

生体特性が劣化するそうなので、ほかに餌などは与えない。
ゴム手ごしにチョイチョイいじってやる。
「チュー」
「テヂィ」
「チュッチュッチュ」
嬉しそうだ・・・

以前、俺はきまぐれに一層ぶんの仔実装を
ぜんぶ河原にリリースしたことがある。
便槽の外の眩しく広い世界に動転したり、
発狂したかのように狂喜乱舞する連中の姿は俺の胸を強く打った。

「アイツら今頃どうしてるかな・・・」

もちろん常識的に考えればすぐに全滅したのだろうが・・・
ちょっと言ってみたかっただけだ。


香ばしい生ビール小便を奴らの咽喉にお届けできなかったのは残念だが、
よその見ず知らずの仔実装どもに、
俺の愛のウンコをくれてやるよりかはマシというものだ。
都市部では公共施設の約8割が実装バイオマス便槽を導入しているのだ。

さってとー お待ちかねのウンコだよぉー
各層を本体に戻し、給餌システムを作動させる。
投入された俺のウンコはミキサーで粗く砕かれ、
誘引物質デスコマーVの青緑色の液体と混ぜあわされる。
まことに旨そうな色味に変化したそれが上級仔層の給餌口へ導かれる。
餌がうれしいのか、ちょっとしたパニックになっている。

「おほー!ガツガツいってるいってる!」

便槽内部の声は聞こえない。
そこで操作パネルから伸びているUSBケーブルの先にあるPCを立ち上げ、
リンガルソフトのログを画面に垂れ流しにしてみる。

「ウンコサイコーデチィィ!!」
「ウンコウンコウマァァァッァ!!」
「ウンチャァァァ!!!」

好評の声が素晴らしい。
気を良くした俺は
さらに意味なくネットにつないで、それをブログにリダイレクトしてみる。

同好の士が増えているのか?
妙にトラックバックが増えている・・・
といっても、
どれもこれも「ウンコうまいデチィ」という脳みそウンコな内容なので、
よそから見ればキチガイ教団だ。
俺もその内容までは見ない。
見なくてもわかる。
みんな地球に優しい良い奴ばっかり・・・


「ピ」
俺は背後に短い電子音を聞いた。
それは処理層への到着者があったことを告げるシグナルだ。
もちろんこのサイズの便槽製品では成体級を収容することはできない。
「卒業生」の背丈は小さめの中実装石くらいだ。

彼女はハシゴの上端に設けられたハッチ弁を頭で押し開け、身体を
上の床面に押し上げようと試みている。
その下のほうでは3匹ばかりの仔実装が心配げに、うらやましそうに
彼女の苦闘の様子を見上げている。
10数秒後、見事彼女は昇格を果たした。
床に崩れた卒業生はしばらく肩で息をしている。
最初彼女は見慣れぬ光景に戸惑っている様子を見せた。
しかし、彼女はほどなく通路の奥へと、トコトコ歩きはじめた。

鋸刃によって処理されていく卒業生の下の層では、そのあいだも
いつもとかわらぬ仔実装石の平和な生活風景が繰り返されているのが見えた。

さて、
俺は立ち上がる。
見た目にも蛆層がさみしくなっちゃってるのを確認の後、
冷蔵庫からミル実装(大)のパックを出して、中身を蛆投入口へ
無造作に放り込む。
缶ビールをやりながら、残った蛆ちゃんをプチプチ噛む。

ふう・・・
酩酊と脱糞の快感にひたりながら俺は西日の差すベランダから
しょぼい町の風景に見とれていた。

今週もよく働いたぜ・・・

いろいろやったバイト・・・どれも長続きしなかった俺だけど、
今の仕事は好きだ。
続けていきたいと思ってる。
俺は心底から実装ちゃんが好きだから・・・

いつか金がたまったら、メメちゃんみたいな、カワイイ賢い飼い実装を買おう。
そして庭でカントリー風の便槽飼いにするんだ。

俺の楽しい未来はすぐそこまで来ているようだった。


<完>









便槽便槽としつこくせがんでいた者です。
頂いたご意見の中間まとめのつもりのスクです。
ありがとうございます。

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