実装石の日常 渡りII 第3話 ここまでのお話 双葉児童公園は愛護派の餌付けと放置で野良実装の増加と飢餓が起こる。 先生と呼ばれる賢い個体は生き延びるため今の公園を捨て、血の繋がらない仔を引き連れ新天地となる公園を目指す 「渡り」を決行。 だが公園はあまりに遠く旅路は危険が多い。 渡りの一行 先生実装:我が仔でもない仔実装たちを引き連れて渡りを決行 実装石とは思えない深慮 棒を上手く使う 10匹の仔実装たちと別に一家を引き連れていく 親指 :渡り一行で唯一の親指 禿仔実装:髪を失ってから精神がやや失調している 靴なし :靴をなくしている 長女 :少し体が弱い 次女 :彼女の一家は間引きまでしたが、最後は崩壊したらしい 三姉妹 :一行の中で唯一血のつながりのある姉妹で3女・4女・5女 賢くないが仲はいい カタウデ:飢えた姉妹に右腕を食われ、うまく再生していない 共食いの惨状に精神状態がやばい 踊り子 :特徴:ダンスが好き 趣味:ダンス 特技:ダンス 生きがい:ダンス 知り合い実装:先生実装の知り合い 上記の仔 :5匹いる姉妹 ************************************* 薄暮のなか、公園の入り口で先生実装は仔実装たちに振り返った。 「ここからは公園の外デス、お前たちは出たことがないと思うデス、恐ろしい獣や事故がたくさんあるデス、 死にたくなければ必ず先生の言う事を聞くデス」 さすがに無言で仔実装たちは公園の外を見る。 公園で生まれ公園で死ぬ実装石にとって、公園の外は恐ろしい別世界だ。 実際成体でさえ、公園から出た途端命の危険にさらされるし、仔実装ならひとたまりもない。 だが公園から出なければ、彼女らに未来はない。 先生実装は言う。 「私たちが行くのは、はるか彼方の公園デス。 途中には多くの恐ろしい人間や猫がいるデス。 水や食べ物も手に入らないデス。 歩く距離はお前たちには想像できないほどデス。 地獄よりつらいこともあるデス。 歩けなくなった者は置いていくデス、 自分で歩くことを止めた者は自分で責任を取ってもらうデス。 多くのものは死ぬことになると思うデス。 楽なことは何ひとつないデス。 確かなことは何一つないデス。 でも一つだけ約束するデス。 がんばって行けばいつかはたどり着けることができるデス。 自分で歩けば歩くだけ近づけるデス これだけは間違いないデス」 真意が通じたかどうか疑わしいが、少し間をおいて先生実装は同行する親実装にうなづいた。 「出発するデス」 交通量の多い国道であったが、朝方なのでさすがに車両の姿もまばらだった。 「さあ! 今デス!」 先生実装の掛け声とともに、17匹の大所帯は、わっと車道を走って向こう側へ渡る。 唯一の親指が意外と俊足で、まっさきにわたり終えた。 禿仔実装とカタウデがのそのそと最後にわたり終え、直後にトラックが走っていった。 「どいつもこいつもクズばかりレチ」 親指は遅い2匹を見て、聞かれぬよう呟く。 「なんでこの危ない道を渡ったデス?」 息を整えつつ聞いて来る知り合い実装に、先生実装は説明する。 このまま歩道を行くと、犬を飼っている家があってその前を通ることになる、と。 「この時間しか渡れないデス、昼間は危なくて絶対無理デス」 びくん、と知り合いが震えた。 滅多に犬は実装を襲わないが、やはり恐れられている。 「さあ、暗いうちに少しでも歩くデス」 先生実装は大所帯に向かって歩くことを促した。 先頭を先生実装と知り合い実装が歩き、仔実装たちがぞろぞろと後ろに続く。 「暗いうちはニンゲンも少ないデス、だから少しでも歩いた方が良いデス」 急かす理由を言いながら、知り合いに語った。 「この先どういう道を行くのか、予定はどうなのか説明しておくデス。 しばらくニンゲンの家が並ぶ場所が続くデス、休みながらでも昼ごろには抜けられるデス。 その先には山があって、坂道になるデス。昼から夕方まで頑張れば、なんとか坂のテッペンにたどりつけられるデス。 そこで一泊するデス。 明日は朝から昼間で、下り坂を降りていくデス。 下り坂が終われば、またニンゲンの家があるデス、そこを半日の半日ほど歩けば、公園があるデス。 都合、今日と明日がんばって歩けばたどり着ける予定デス。 ……何事も、なければ」 知り合い実装にとってはかなり難解な説明だったので、質問さえなかった。 ただ歩き通しだと言う事には驚きの表情である。 「そんなに長く歩いたことないデス」 という知り合い実装を先生実装は怒るどころか、同情した。 公園に住まう野良実装は公園で生まれ、公園のそばのごみ捨て場を漁り、公園で死んでいく。 公園以外に住まう野良実装も、生活圏は1kmには達しない。 『渡り』は野良実装の通常の営みを圧倒的に超えた行為なのだ。 「そんなのに挑戦しているお前は偉いデス」 「私はただ付いてきただけデス」 と知り合い実装は謙虚であった。 朝日が昇り、あたりが明るくなってくるとポツポツと通行人も現れてくる。 「テチャア! ニンゲンテチィ!」 仔実装たちは騒ぐ騒ぐ。 「静かにするデス! 殺されちゃうデス!」 知り合い実装が押さえようとするが、興奮する仔実装、朝の散歩をしている初老の男性の前で喚いている。 男性、『ちらり』と一瞥しただけで、通り過ぎていく。 ふう、とため息をする先生実装。 「朝はニンゲンも忙しいから、あんまり手出ししてこないデス。 こちらから手出ししなければ」 一行を睨みつけて。 「でもああやって騒ぐのは自殺行為デス! もっと静かに、そして私たちの言う事をきくデス!」 「でも、初めて近くでニンゲンを見たテチ」 「こいつ偉そうテチ」 「いちいち小さいことでうるさいテチ」 知り合い実装が連れてきた仔実装たちは不平満々のようだった。 「そんなことを言ったらダメデス!」 「ママ、でも大丈夫だったテチ」 「大丈夫でも、これからはダメデス!!」 「はい、テチ」 「……さあ、先を急ぐデス」 と、先に歩き出す先生実装に、知り合い実装が慌てて追いつく。 「まだ小さいから、聞き分けできないデス」 「小さくても」 先生実装が真剣な眼差しで知り合い実装を見る。 「小さくても危険は容赦してくれないし、絶対に見逃してくれないデス」 ************************************* 幾ばくか歩いて行くと、遠くから規則正しい足音が聞こえて来る。 「テチ?」 と仔実装が振り返る。 「ニンゲンがいっぱい来るデス! みんな、静かに脇へ寄ってやり過ごすデス!!」 先生実装は言いながら迅速に行動した。 だが、知り合い実装を除いて仔実装らに反応はない。 後ろを振り返ってテチテチ言うばかりだ。 「いっぱい来るテチーーー」 「けっこう早いレチ、私くらい早いレチ?」 「すごい、いっぱいテチ」 先生実装が一喝する。 「脇に寄るデス! 寄らない仔は私が殺すデス!!!!」 テチャアア!!!!と、教え子たちが悲鳴をあげて住宅地側に身を寄せた。 だが。 「すごい、どんどん近づいてくるテチ!」 「いっぱいいるテチ、いっぱいテチ!」 知り合い実装の仔たちは言う事を聞かず、そのまま歩道に突っ立てジョギングしてくる集団を見物しているではないか。 知り合い実装、血相を変えて仔を1匹づつ脇へ追いやるが、その間にほかの仔が歩道の真ん中へ行ってしまう。 真ん中へ行った仔を追い立てていると、脇へやった仔が真ん中へ戻っている。 追いかけっこに息を切らせ、知り合い実装はとりあえず自分だけ脇に座り込んだ。 「お前たちーーーーーー!!!」 親実装は叫ぶ。 「早く、早く脇に寄るデス! 早くーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」 「ママ?」 と、のん気な4女が振り返った。 「危ないデス! 早くこっちへ、脇へ寄るデス!」 「でも断るテチ!」 「………………!」 「せっかくの見物テチ、もう少し見ていたいテチ」 「そうテチ!」 「デ!」 親仔のやり取りを、じ、と先生実装は見ていた。 教え子は全て脇で伏せさせ、自分もかばうように伏せている。 「大丈夫テチ、ぎりぎりで避けるか……」 そう断言する4女であったが、親の顔から人間の集団へ視線を変えたとき、絶句した。 思っていたよりも、ずっと近づいているではないか。 しかも人間の大きさと数に驚かさせる。 いざ逃げようとしても足が震える、体が言う事を聞かない。 よろよろ、と脇へ逃げ込もうとするが、数cmしか歩いていない。 「早く! 早くするデス!!」 他の姉妹も、ようやく危険を実感したのだが、同じく震えながら逃げようとしてほとんど動けなかった。 ジョギングの集団の掛け声と足音が急速に大きくなる。 5匹のうち3匹までは脇にたどり着いたが、2匹は間に合わない。 いや、先生実装が飛び出すとなんとか1匹を確保して脇へ飛び込む。 ぎりぎりだ、海上保安学校の生徒たちの一団がやって来た。 「ママ!」 生徒たちが実装の存在に気づいたかどうか。 逃げ遅れた4女は、字義通り蹂躙された。 つま先で蹴飛ばされて頭からアスファルトに叩きつけられた。 顔面が裂けた痛みを訴える前に、かかとで腰をほとんど切断されるまで踏み潰された。 助けを求めるように挙げた手が踏まれて完全につぶれる。 また蹴飛ばされて、アスファルトを転がると血や内臓が飛び散っていく。 落ちたところを、靴底で踏みつけられて背骨が粉砕される。 叫んで開いた口を蹴られて、顔の大部分が吹き飛ぶ。 人間の一団は、もろい仔実装を踏んだことの影響を全く感じず、ジョギングは止まらない。 生きたまま4女が破壊し尽くされる様を、一行は身動きも出来ず眺めていた。 ジョギングの一団が去ると、実装石たちは無言でのそのそと立ち上がり、4女の周りに集まった。 いや、4女の残りと言うのがふさわしいだろう。 アスファルトに散乱し、踏みつけられて染みが点在しているだけが4女の名残りだった。 「…………4女」 「次はすぐに脇へ寄るデス」 危険は対象が小さくても見逃さず容赦もしなかった。 ************************************* 一行は再出発した。 すぐに先ほどの人間の一団がUターンしてきたが、今度は全個体が速やかに脇へ隠れやり過ごす。 ……4女の死は無駄ではなかったデス そう先生実装は確信した。 もし誰も死ななければ、無用心なまま大きな危険と遭遇してもっと大きな犠牲を出したであろう。 だから4女の死は無駄ではない、と知り合い実装にあとで教えよう、と思う先生実装であった。 だが。 知り合い実装の服を、仔実装が引く。 「ママァ。 あんよ痛いテチ」 「先生、そろそろ休みたいデス」 「…………」 少し歩くたびに、知り合い実装の仔たちが休みたがる。 やむなく休止をとると、先生実装は知り合い実装といっしょに一行から離れる。 「よく聞いて欲しいデス」 先生実装は言った。 休んでばかりで全く進んでいないが、これは危険な行為であること。 例え仔が泣いても、歩かせねばならないこと。 ついて来れない仔が出ても諦めること。 今はニンゲンが少なくていいが、その代わり、カラスの襲撃がありえるし、止まっていれば良い的であること。 「だから今はがんばるデス」 静かに、だがはっきりと知り合い実装は首を横に振る。 「私は馬鹿だけど分かるデス、4女があんな死に方をして私たち家族は心が折れてしまったデス。 それに引き換え、お前の連れている仔は悲惨な事を乗り越えた仔ばかりデス」 うつろな眼差しで先生実装を見る。 「ここでお別れデス」 「…………もう少しがんばれば、」 「ついて来れないのが出たら、諦めるはずデス。 私たちはもう……」 「……………」 無理やり、笑顔を作る。 「ここまで連れてきてくれて、いい夢を見せてもらったデス。 でもお別れデス」 「………………………………………」 しばし沈黙。 そして先生実装はさっと教え仔の元へ行くと大きな声を上げる。 「さあ、出発デス!」 教え仔たちはさっさと歩き出す。 だが知り合い実装の仔たちは無気力に座り込んだまま。 「本当にお世話になったデス」 「お前も……よくやったデス。 他の公園の連中は、あの公園がもう終わっていると感じても、外の世界を恐れて動かなかったデス 恐ろしくても公園の外に飛び出したお前は勇敢で賢い、立派な個体デス」 感慨深げに言うと、余韻も残さず先生実装は教え仔と合流し、颯爽と歩き出す。 体力のないカタウデをねぎらっていた次女が、先生実装に近づく。 「先生、あの家族はどうしたテチ」 「あの家族とはここでお別れデス」 「…………」 次女が取り残された一家を見やる。 と、電柱や民家の屋根から、カラスが数羽見下ろしていることに気づいた。 「先生、黒いのが来てるテチーーーー」 「……………っ!」 先生実装は大きな声で言う。 「速度を上げるデス、次女、お前が先導するデス。 後ろを見ずにひたすら前へ行くデス」 言い終えると、先生実装は最後尾につき、注意ぶかく後方を見た。 「黒いのがいるテチ!」 「ヒャア! 黒いの怖いテチ!」 「早く逃げるテチィィィ!」 教え仔たちは恐怖心から足早に進み始める。 カラスはもう、脱落した一家の周りに降り立ち、包囲しはじめた。 親実装が威嚇の叫びを上げているが、怯む様子は微塵もない。 ……あの一家はもう絶対に助からない 先生実装は悟った。 もう自分たちは何も出来ないし、それどころか助けに行けば巻き込まれて捕食されるだけである。 旅の道連れの全滅を感じながら、一行は立ち去っていく。 踏破距離 1km 新天地の双葉市立運動公園まであと 14km 続く

| 1 Re: Name:匿名石 2016/11/17-00:05:41 No:00002817[申告] |
| 知り合い家族の脱落があっけなさすぎて逆に渡りに失敗した末路っぽい
公園の地獄絵図よりよっぽどおっかない |
| 2 Re: Name:匿名石 2023/10/23-20:54:58 No:00008145[申告] |
| こいつら渡りⅰの家族がいた公園に行こうとしてんのか…? |