タイトル:【観察】 実装石の日常 愛護派
ファイル:実装石の日常 43.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:5820 レス数:0
初投稿日時:2010/02/01-18:44:22修正日時:2010/02/01-18:44:22
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双葉児童公園の近所のアパートに居住する男は知人に言った。



「公園の野良実装どもにエサをやってるんだが、中々面白いぜ」




 実装石の日常 愛護派




なるほど、彼は買いすぎたパンを何気なく公園の野良実装に投げ与えた。
まだ愛護派が大挙してやって来るほどではない頃である、野良実装が数匹現れて拾いあさった。
やや飢えていることもあって、拾ったパン切れを抱えながら、欲張って他の者の分まで奪おうとする。
殴り合いが始まり、千切れたパン切れを拾う者あり、騒動から離れた場所で泣いてる仔実装あり、で大騒ぎ。

最初は驚き、戸惑っていた男であるが、やがて、笑みでその騒ぎを見ていた。

あまり、褒められた笑みではなかったが。




*************************************




……なかなか野良実装へのエサやりは面白い。

……ばらまくと押しのけあい、奪い合う。

……まるで自分がものすごい権力でももっているようだ。


池に飼う魚たちに餌をばら撒くのと同じような楽しみである。
もっとも、魚たちは殴り合いはしないけれども。
ともかく、男は餌やりを楽しむようになった。
口コミで話が方々へ広がって、いつしかにわか愛護派が公園のあちこちで餌を豪快にばら撒き始める。
パン切れや実装フード、近所のコンビニで買い求めた菓子類……。
彼らの行為の結果、凄まじい勢いで公園の野良実装は増加していくこととなるが、彼らは気づきもしなかった。



男はしばらくの間、餌付けをしなかった。
考えがあったわけでもない、仕事が多少忙しかったためだ。

それでも噂が聞こえてきた。


「あそこの公園、すごい汚いってさ」

「野良実装がすっごい増えたんだろ? 無責任に餌をやる連中がいるんだよ」

「餓死したり共食いしたりで、物凄いことになってるらしい。 近々、市役所が駆除……」


駅で耳に挟んだ会話に彼は触発された。


「いまさら餌付けもないだろ」

様子を見に来ただけの彼であったが、公園の惨状には驚いた。
公園に近づいていくと様々な腐敗臭が漂い始め、中へ入れば、野良実装の死骸があちこちに転がっている。
しかも、食われた痕を残して。


時折、野良実装の上げる悲鳴が聞こえてくる。
排泄物やゴミが散乱し、剪定されず放置された茂みは荒れ放題。
それらの光景だけで男の興はそがれた。


「デースデスデス!」

いつの間にか男の足元にやって来た野良実装が喚き散らしている。

一応、リンガルを立ち上げてみる男。


「ニンゲンッ! とっととゴハンを持ってくるデス! 早くっ早くしろデスゥー!! 耳が聞こえないかデスッッ!!!!」


野良とは言え服があちこち破れ、痩せた個体が大口開いて喚きたてる。
他にも4、5匹野良実装がいるがずいぶんと距離をとっていて、まるで警戒しているようだ。
とにかく食べ物を寄越せ、一点張りだ。 しかもその態度は物乞いのそれではない。
だから男は思わず、物乞い実装の腹を無言で蹴り上げた。


2mほど飛んだ実装石は地面ではねて、転がった。
大きく体を痙攣させ、口から血反吐を吐く。


「………待ってるデス、お家に仔が、仔がいるデス」


血反吐交じりに言うが、男は一瞥しただけで物乞い実装を放置して歩き出す。


「仔が、お腹を減らせて待ってるデスー」


野良実装、いつの間にか涙交じりに言うが、男の耳には届かない。

かわりに、他の野良実装がそっと物乞い実装に近づく。

そしてその肉体に噛み付いた。


「デジャーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

「私の肉デス!!!!!!!」

「うるさい、うるさいデス!」


人間から得る物がないと判断した野良実装たちは、弱まった仲間で空腹を満たすことを選んだようだ。

衰弱した肉体で争いながら、重症で動けない物乞い実装を生きたまま解体していく野良実装たち。






「仔が、お腹を減らせて待ってるデス……」

むさぼり食われながら1匹の実装石は呟いた。






*************************************





とりあえず男は公園内を歩いてみたが、以前の面影は全く無かった。
あれほどいた餌やりの愛護派の姿は1人も見かけられなかったし、遊んでいる仔実装の姿もない。

収穫はなしだな、と内心で思いながら公園から出ようと向きをかえると、ベンチの下にいる野良の仔実装と目が合う。
仔実装はしばらく固まっていたが、親実装や姉妹に慌てて何かを言う。

親実装1匹に仔実装4匹、ベンチの下から出てくると泣き出しそうな顔で口々に騒ぎ始めた。

「なんなんだよ、お前ら」

一応、リンガルを起動すると親実装が開口一番。

「ずっと、ずっとニンゲンさんを待っていたデスゥ」

疲れきってはいるが、すがる様に言う。

「長い間、待ってたデス、ニンゲンさんは私たちをすごく、すごく可愛がってくれたデスゥ。 
ゴハンやタオルをくれてとても助かったデス。」

そんなこともあったかも知れない、と男は思った。
ベンチ下で暮らすなんてシャレてるから、少々目をかけてやったことを思い出す。
もっとも、他の愛護派もベンチ下の一家を贔屓にしていたので、他の奴かも知れない。

「その時、言ってくれたデス。 飼ってやっても良いって」

……言ったかも知れない、その場の雰囲気で。 もっとも約束の有効期限はとっくに切れているだろうが。

「あの時はここの暮らしも悪くなかったから、私は断ってしまったデス。 ニンゲンさんの迷惑になりたくなかったからデス。
でもニンゲンさんが来なくなってから、ここは酷くなる一方デス。
ゴハンをくれるニンゲンさんが減るのに、仲間はいっぱいいるデス。 ゴハンやダンボールや、何もかも足りないデス。
仔がお腹を空かせて死んで行くデス、仲間で殺し合いデス。
……とてもここでは生きて行けないデス」

決意を込めた目で、親実装は男を見上げた。

「もうここで生きては生けないデス。 もう、ニンゲンさんに頼るしかないデス。
私はいいデス、仔だけで良いから飼ってやって下さいデス」

親が嘆願すると、堰を切ったかのように仔実装が言い出す。

「お腹が減って死にそうテチー」

「良い仔するテチ、ニンゲンさん、助けてテチィ……」

「助けてテチ、助けてテチ、私たち死んじゃうテチ、ダンボールが無いから他のおとなに捕まって食べられちゃうテチィ!」

「ニンゲンさん……。 ママも一緒に飼って欲しいテチ、ママは大人だけど、もう限界テチ。 私たちのために体を壊してるテチ」

「次女っ! 余計なことは言うなデス!」


親がたしなめるが、仔実装たちは逆に興奮していく。


「お願いテチッ! 助けて下さいテチ! 言う事聞くテチィ!」

「このままじゃみんな死んじゃうテチ! 助けてテチィィィ!!!」

「私たちを助けてテチィ!!!!」

「ママも助けてテチィ!!!」


実装親仔は気づけなかった、男の眼差しが冷たいことに。

……こいつら良く見るとぼろぼろじゃねぇか。 飼うつってもこんな汚い連中を部屋に入れなきゃならんし、食費もかかる。

……気ままに公園で餌をばら撒くのと、飼うのじゃあ訳が違う。 部屋も汚されて修理費もかかるだろうし女も呼べん。


男にとってはもう、野良実装は厄介の種にしか見えていなかった。


「私たちを飼ってくださいテチャア!」


……冗談じゃない。 そんな面倒で金のかかることは別の奴に言ってくれ。

「食べ物が無くて死んじゃうデスゥ!」

……知るかよ、手前の肉でも食ってれば?

「夜は風が冷たくて死んじゃうテチィ」

……ダンボールも入手できないんじゃしょうがねぇだろ

「お腹減ったテチ—!」

……少しは考えろよ、人間のホームレスを援助してる連中さえ自分の家にホームレスを住まわせたりしないんだぜ?
ましてやお前らは実装石だろが! つけ上がるなよ! 人間様の家に住み着こうとは56億7千万年早いつうのw

「助けてテチ、助けてテチィ」

……ああ、でもなんか断るとうるさいし、あとをついて来られても面倒だしなぁ


だから男は満面の笑みを作って言った。


「良し、君たち一家を飼おう。 仔だけじゃなくて、親もね。 でも準備があるから、また来るよ。 
その時までに君たちも準備しておいてくれよ」

飼う、と言われた一家はしばらくの間、沈黙し、そして泣き出した。

「良かったデス、良かったデス」

「ママも一緒テチィ!!」

「みんな助かったテチィィ!!」

「みんな、泣くときじゃないデス! 笑うデス、こういうときは笑うデス!!」

「そうテチ、みんな笑うテチ!!」

「これからはお腹が減ってみんなで泣くことも無いテチ! 喉が渇いて泣くことも無いテチ! 食べられることもないテチ!」

一家は抱き合い、笑う。全身で喜びを現している。



……ちょwww マジで信じてるしwwww もう二度と俺はここに来ないけどなwww 死ぬ寸前まで信じていそうだなw

「またお腹いっぱいにゴハンが食べられるテチィー!」

……今までエサをもらえただけでも、十分幸せだったろお前らwwww  だからとっとと野垂れ死にしろww



満面の笑みの男。

そして満面の笑みの一家。

同じ笑みなのにその違いはあまりにも大きい。




……やばい、絶望しながら朽ち果てていくのとか笑えるww  

でも俺、何日に迎えに来るかまでは言ませんからwww

10年後でも嘘じゃないしwwww  言質とらなかったお前らプギャーーーー













自分がどれだけ惨いことをし、今また繰り返していることを自覚もせず、男は笑った。


END

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