俺は公園で一匹の潰れた実装石を見下ろしていた。 どこかの虐待派にバー(ryでやられたんだろう。 イライラする。 実装石が可哀想だとかそういうんじゃない。 俺が離れてベンチに腰掛けると、潰れた実装石に野良たちが群がってきた。 イライラはおさまらない。 俺のイライラは実装石を殴って解消されるものではない。 むしろ更に腹が立つだけだ。 わかっていながらも、俺は駆け出した。 同属を「クッチャ、クッチャ・・・」と音を立てて食べている気色の悪い糞蟲に、助走をつけた蹴りを入れる。 ベシャ!と音を立てて頭が霧散した。 「ちくしょう・・・!」 逃げようとした成体の首を捕まえ、顔を殴りつける。 ドカッ! 「なんなんだお前らは!」 ドカッ! 2発目にして顔が陥没し、息絶えた。 クモの子を散らすように逃げている仔実装や親指を次々に踏み潰していく。 ブチッ! 「なんで!」 プチッ!プチッ!プチッ!プチッ! 「こんなに脆い!」 ドカッ! 「なんですぐ死ぬ!?」 バキッ! 「こんなんじゃ・・・!」 グシャッ! 「ストレス解消にもならんだろうがぁ!!!」 成体の顔を地べたに押さえつける。 ドカッ! 「えぇ!?コラ!なんでだよ!俺に殴られるのがそんなにイヤか!? 死んだほうがマシだとでも言うつもりか!?」 グチャッ! 俺は絶望していた。 実装石のあまりの脆さに。 偽石さえ傷つけなければ・・・なんて嘘っぱちだ。 遠慮なしに殴ればヤツらは死ぬ。 特に蛆実装だ。 あいつら大声を出しただけで死にやがる。 手加減して、殺さないように苦しめるのが虐待派の真骨頂? はっ、嘘っぱちだ。 あの気色悪い顔を、腹の底から沸き上がる嫌悪感で殴りつける。 何度も何度も・・・殴って殴って殴って殴って。 そうじゃなきゃ全部嘘だ。 でも、現実はどうだ? 俺の拳も蹴りもヤツらには通用しない。 俺は殴ったつもりでも、ヤツらにはマグナム弾と同じことになる。 一瞬でオシャカ・・・はっ、こんな虚しいことがあるか。 俺は戦争やってんじゃない。 殺戮兵器の開発なんて米軍にでもやらせときゃいいんだ。 空気にケンカ売って必死に発砲してるような無力感を抱えていても、俺は生きていかなきゃいけない。 メシも食うし、風呂も入るし、本も読むし、テレビだって見る。 あるとき、科学番組で蜂の特集をやっていた。 なにか養蜂所の宣伝臭い内容だったが、俺の興味を引くものがあった。 テレビを見終わってしばらく思案した後、俺は公園に駆け出した。 公園の便所に入ると、都合よく出産中の実装石がいたので、雑巾の上に親実装を座らせて1匹産んでもらった。 とりあえず口のまわりの粘膜だけ取ってやると、レフレフと何か訴え始めた。 リンガルを持ってきていないので正確なところはわからないが、おそらく「早く全部取ってくれ」と言っているのだろう。 そうだよなぁ、取らないと手も足も生えなくて蛆になっちまうもんな。はっはっは。 スーパーの袋に放り込んで持って帰ると、家に着く頃には粘膜は完全に固まっていた。 粘膜をとって水槽に入れてやると、またレフレフと何か言っている。 リンガルを起動すると、「ママ、お腹すいたレフ」だと。 蛆として生きていかなきゃいけないことを嘆いてるかと思ったが、脳味噌まで蛆になったらしい。 いいね、いいね、その無邪気さ。 さてさて、取り出しましたる一つのビン。 随分前に買ってきて、ほとんど食わずに放置してたが、テレビのおかげで有効利用ができそうだ。 ウンコったれ番組ばっかやってるが、たまには役立つじゃん、テレビ。 ビンの中身と実装フードを混ぜて、こねくり回して蛆に食わせてやった。 おう、どうだ? うまいか? 「ウマウマレフ〜♪」 くぅ〜・・・! たまらんぜ! その馬鹿さ加減とこれからのことを期待したら顔がニヤけちまう! 「ママもニコニコレフ? ママもウマウマレフ?」 早く・・・! 早くぶん殴りたい!!! 蛆ではどうにも味気ないので、名前をつけてやった。 "レーナ"だ。 いい名前だろ? レーナには1日数回、ビンの中身と実装フードをこねたモノを食わせる。 来た時は5cmくらいだったが、1週間過ぎると倍の10cmになった。 ほーら、今日もプニプニしてやる。 「たまんないレフー。ウンチ出るレフー」 いっぱい食っていっぱい出して早く大きくなぁれ。 1ヶ月が過ぎ、体長が30cmくらいになった。 その間、大きくなるたびに動きが愚鈍になっていった。 まさか死んだりしないだろうな? と不安に思っていたのだが・・・ ある朝、レーナに餌をやりにいくと 「動けないレフ・・・おかしいレフ・・・きっと病気なんレフ・・・」 と、悲しそうな声を出していた。 まあ、俺にはレフレフとしか聞こえないんだが。 しかし、これはさすがにマズイかもしれん。 何しろ原因がさっぱりわからん。 餌に変なもん混ぜたのがまずかったか? いや、しかし毒にはならんはずだ。 あれこれ考えながらレーナを仰向けにしてプニプニしてやると、さっきまで病気だとか言ってたくせに喜んで手足をピコピコ動かした。 のん気なヤツだ・・・いや、デカくなっても蛆は蛆か。 うん・・・? いったんレーナを元に戻す。 お前、ちょっと歩いてみろよ。 「レー・・・がんばるレフ・・・」 必死に歩こうとするレーナをよく観察する。 やはりそうか・・・! 俺は思わず手で口を押さえ、駆け出した。 そのままサンダルを履いて近くの河原まで全力疾走した。 「うっ・・・」 と、声が漏れてしまったが、ここまでくれば別に我慢する必要もないと思い直す。 くっ・・・うぅ・・・ぶゎはははははっはっはははっは!!! あのウジムシ!あのウジムシ! 自分の体重で歩けなくなってやんの! くははははははは!!! 馬鹿だ!なんて馬鹿な生物だよアレは!!! 要するにアレだ。 小さい生物は、昆虫のように、全体に対して足の比率が小さくても問題ないが、体が大きくなるにつれて足の比率はどんどん大きくなる。 そうしないと歩けないからだ。 さっき見たレーナの足は体長が5cmの時と比率がまったく変わってなかった。 実際、足は歩くどころか腹と水槽の床に挟まれて立つこともできなくなっていた。 レーナはもう一歩たりとも動けないので、俺がかいがいしく世話をしてやることになった。 成体なら奴隷とか言い出すところだが、無邪気な蛆は俺を信頼しきっている。 そんな状態でさらに1ヶ月が過ぎたが、レーナがそれ以上大きくなることはなかった。 それはつまり、完成したってことだ。 「ママ、お腹プニプニしてほしいレフ」 ああ・・・お望みどおりに・・・。 「レフ〜ン♪ たまらんレフ♪ ウンチもブリブリレフー♪」 ああ・・・もう辛抱たまらん! 俺はおもむろに握り拳を作り、腹にゴスッと振り下ろした。 手加減はした・・・というか、こっちも座った状態で、レーナが水槽の中にいるので殴りにくかっただけなのだが。 それでも普通の実装石なら潰れている威力があったはずだ。 レーナは何が起きたのかわからないといった状態で大口をあけていた。 素晴らしい・・・! 素晴らしいぞぉおおおおおおおお! あまりにも嬉しかったので、頭を掴んで壁にブン投げた。 今度こそ潰れるかと思ったが、ボンッと音を立てて跳ね返ってきた。 俺は狂喜のあまり、跳ね返ってきたレーナをさらに蹴り返した。 今こそ・・・あえて言おう!ヒャッハーと! 糞が飛び散っているが、そんなことはどうでもいい。 殴れる・・・これなら思い切りブン殴れる! 壁に当たって跳ね返り、俺の足元に転がっていたサッカーボールもどきでしばらく壁打ちを続けた。 壁打ちをしばらく続けると、息があがってきた。 そして、気がついた。 しまったよ・・・殴るとか宣言しておきながら蹴りばっかやってんじゃねえか! 悪いな、ちゃんと殴ってやるから、許せ! 俺が声に出して言うと、レーナは動かない手足を動かそうと踏ん張っている。 「ママ、やめてレフ! ウジちゃんがイタイイタイレフ! もっと優しくプニプニを所望するレフ!」 おかしくて笑えてくるぜ! 頭を掴んで持ち上げ、腹に1発。 「レピャー!」 ジャイアン! アイアム ジャイアン! 壁に押し付けてもう1発! 「レ・・・!」 お前はのび太! 右斜め下45度から顔面にフック! 歯が飛んだ! 「マ・・・マ・・・」 映画じゃない! 持ち手を変えて左斜め下からもう一発! 「ヤメ・・・」 テレビののび太! 俺殴る人!お前殴られるウジムシ! 持ってるのもめんどくせえ! 床に叩きつけ、両手でジャイアン! あ、そぅれ!ライト!レフト!ライト!レフト! ドカッと殴って、とどめにエルボー! 「レプ・・・」 ・・・あ、口からなんか出てきた。 さて、いい汗かいたところで説明しておこう。 博識な方はお気づきだろう。 俺が実装フードに混ぜてコネコネしてたのはローヤルゼリーだ。 バケモノ養成薬と言っても過言ではない、女王蜂の食い物。 これのおかげで、女王蜂はトンデモない体を手に入れるわけだ。 そして、レーナってのはスペイン語で女王のことだ。 女王を思い切り殴る俺!すごい!俺すごい! 女王以上!俺って何?帝王?皇帝?それとも神?!神様?! すまない、ちょっと我を忘れてテンションがおかしくなっていた。 ちなみにレーナは横で仮死状態だ。 史上最強の弟子ケ○イチでもあったけど、ヒジってのはヘタに当てると死ぬ。 逆に言うと上手く当てるとぶっ殺せる。 でも死んでない。 俺はもうニヤケ顔が消えない。 史上最強のウジ、レーナ。最高。マジ最高。サンドバッグウジ。 「レ・・・ウジチャンがセイメイのキキレフ・・・」 お、女王様のご起床だ。 初心にかえり、 「なあなぁ、俺に殴られるのと死ぬのとどっちがイヤ?どっちがイヤ?ねえ?」 ドカドカと殴りながら聞いてみる。 さすがに最強のレーナも殴られながらじゃ答えられない。 わかってるよそんなこと。 「答えないってことは、少なくとも殴られるのは死ぬよりも完璧にイヤってわけじゃないんだよね?ねえ?」 アイアンクロー、プラス、壁にゴスゴス叩きつけながら聞いたけど、やっぱり返事はなかった。 そんなことをした夜。 寝る前にちょっと殴っておこうと思って、レーナのいる部屋に向かったわけさ。 ガチャッとドアを開ける俺。 ガランとした部屋の中央にレーナの水槽。 ・・・鼻からなんか糸が出てる。 で、既に、薄くだけど体に巻きつき始めてる。 はっはっは。 俺様、レーナに向かってダッシュ。 音速超えた。絶対超えた。間違いない。 水槽から出してバシッ!と床に叩きつける。 体に巻きついてる糸をブチブチ引き千切る! 「ダメレフ!ウジチャンのおイトが壊れちゃうレフ! ウジチャンがオトナになれなくなっちゃうレフ! ママやめてレフ!ママ!ママァァア!」 役に立たない手足をピコピコ動かして叫んじゃって、まあまあ、可愛いこと。 ・・・ふふふ・・・ははは・・・はっはっはっはっは! ・・・・・・ざっけんなコラ! ローヤルゼリー食わせたウジムシが蛹になって、繭から出てきた殺人蜂とゴタイメーン!ってか!? どこのB級ホラーだてめぇ! おーおー、どんどん鼻から糸が出てくるじゃねえか。 ぜーんぶ、没収な。 グルグル巻き取って床に置いていく。 「お願いレフ!そのイトをウジチャンにまいてくださいレフ! ウジチャンがオトナになれるチャンスなんレフ!お願いレフ!」 それにしても糸が全然止まる気配がない。 もう、数十メートルは出てるのに。 おい、糸を止めろ。 「イヤレフ!ウジチャンはオトナになるんレフ!」 閃いた!電球ピッカリ! やっぱ俺って最高! 逆転の発想だよ! 糸が出てくるなら止めないでさっさと全部出しちまえばいいんじゃん! 糸をぐいぐい引っ張ると、どんどん出てくる。 お、これはちょっと楽しいかもしれないぞ。 「ヤメテレフ!おイトが!ウジチャンのおイトがなくなっちゃうレフ!」 そんなこんなで、ドッヂボールくらいの毛玉ができたところで、ようやく糸の最後尾がスポッと抜けた。 こいつの体積と同じくらいあるんじゃないか? ほんとにトンデモ生物だな。 「レック・・・レフェ・・・ウジチャン・・・もうオトナになれないレフ・・・レック・・・」 あー、泣くな。 今からお前の顔をB級ホラーにしてやるから。 それで許せ。な? ああ、楽しい。 この世はパラダイス! 果物ナイフでメッタ刺しにしながら俺、感謝! 俺は幸せものだよ!ありがとう!本当にありがとうレーナ! って思ってたのも束の間。 翌朝、穴だらけの顔を呆けさせて冷たくなってた。 やべ、偽石抜き取るの忘れてた。 デカくても蛆は蛆、虐待に耐える精神は身につかなかったか。 こうなったらもう殴る楽しみもない。 楽しませてくれたお礼にお前が所望してた糸を巻いて、庭に埋めてやるよ。
