「お前に私を飼わせてやるテチィ」 服は汚れほつれているし、体は痩せこけた野良の仔実装が偉そうに、公園を通りかかった男に言う。 男は立ち止まると携帯電話のリンガル機能を立ち上げ、おうおう、ふむふむ、なるほどなるほど、とうなづく。 「別に飼ってもいいよ?」 あっさりとした返事に仔実装は飛び上がって歓声を上げる。 「テチィ!!!」 「でも、俺、……初心者でよく分からないんだよなぁ。 それでもいいのかい。 色々面倒もあるかもしれないけど大丈夫?」 「良いテチィ! なんでも良いから飼わせてやるテチャア!」 「よし、じゃあ今日からお前は俺の飼い実装だ。 名前はそうだな、シーってのはどうかな」 「やったテチ! やっぱり飼い実装になるなんて、簡単なことテチィ!!」 こうして俺は「シー」を飼うこととなったのだ。 実装石の日常 初心者 またシーが躾を守れなかった。俺も気が進まないが放置するわけにはいかない。 「シーが悪いことしたからお仕置きだよ」 「テヒャア、テヒャア!!」 物差しで軽く叩くと手足の骨が砕け、そのたびにシーは情けない悲鳴をあげた。 いままでしっかり躾けてきたつもりだが、拾ってから日がたつにつれ、実装石にありがちらしい我がままがひどくなってきた。 お仕置きしてもあまり効果が無い。 「本当はね、俺だってしたくないんだよ」 頭と足をまとめて持ち上げた。そして背骨を普通の反対方向に曲げていく。 「テギャアアアアアアアアア! 折れる、折れるテギャアッ!」 そう、胴体を折るつもりで力を込めると、手足と違って手ごたえがあってミシミシと音がする。 「デギャアーッ! ごめんなさい、ごめんなさいテチュアァァ———————!!!!!」 「今さらあやまっても遅いんだよ」 痛いから謝っているのにすぎない。 ここでやめたらかえってシーは悪い仔になってしまう。 ボキッ! 「テブギェッ————!」 胴体を折り曲げられると、シーは絶叫して総排出孔からウンコを漏らした。 「漏らしたら駄目だとあんなに教えたのに…」 俺はヒクヒクと痙攣するシーをみながら絶望する。どれだけ躾ければいいんだろう? だけど諦めるつもりはない、根気よく躾をして悪いことを教える。 でもシーは覚えてくれない。いや、まるで覚える気が無いような仕草さえする。 針であちこち突き刺しながらお説教だ。左手で押さえつけているがすごい暴れようだ、汚い緑と赤の涙で手が汚れる。 「・・・言うこと聞いていなかったね、シー」 「聞いてるテチャァッ!!! 痛いのイヤテチャァ————! 本当に、聞いてるテチャァァ———————!!」 「いやそのなんだ! 俺さ、何度も言うけど初心者だからよくわからん!」 それにしても、悲鳴をあげている間だけは元気なものだ。 ************************************* 「人の話をききなさい!」 俺が物差しを振り上げただけでシーはパンコンした。もう下半身はウンコまみれでグチャグチャだ。 「テェェェェェ———————ン! 聞いてるテチャッ、本当に、本当に聞いてるテチャ!」 ダメだ、心底そう思う。明らかに聞いていなくてもシーは平気でうそをつくし過ちを認めない。 シーが悪い仔にならないよう、容赦なく物差しを振り下ろす。 「テジャァァッァ———————!」 頭が陥没し両目が飛び出しそうなほど見開かれている。 兎口カラダラダラと血の混じったよだれを垂れ流す。擬態だ。シーはお仕置きをされるとすぐこうした行動を見せる。 「・・・助けてテチ、死んでしまうテチィーッ」 「死なないよ、それよりまだ言い逃れかよ」 愛の鞭を振り下ろす。 肉が裂け、血が飛び散っても僕は気にしない。大切な躾けだから。 躾けは一時的でもやめてしまうと効果を失ってしまう。俺は毎日容赦なくたたく。 「おはようシー」 「テヒィィィ!!!!!」 朝の挨拶をしようと水槽に近寄っただけでシーは悲鳴をあげる。 なんて行動だ、俺たちはやっと信頼関係を築けたと思ったのに。 朝の躾をしようと手を伸ばすとシーは悲鳴をあげながら水槽のスミに逃げ込んだ。 折れ曲がったままの両手で頭をかばい、俺に背を向けてウンコする。 「こわいテチ———————! もうイヤテチィー! もう許してテチィ! ごめんなさい、ごめんなさいテチィィィィ!」 本当にダメだ、まるで自分のことを被害者のように思っている。俺は両手を入れるとシーを押さえつけながら服を脱がせる。 「テヒャアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」 どれだけ殴っても切っても刺しても潰しても焼いてもこれだけの悲鳴はなかった。 髪と服は実装石の命というのは本当なんだ。服を脱がすとシーはそれをつかむ。ひっぱるとズルズルとシーの体が水槽の底をこする。 面白いのでしばらくひきずりまわす。 「ダメテチャ! お洋服だけはダメテチィ——!!!! 服だけはやめてぇぇぇぇぇテチィ———————!!!! テヒャァ———————!!!!」 「なんでそんなに服にこだわるの? おれさ、初心者だから良く分からん」 痣や傷だらけのシーは数分で力尽きて手放してしまった。 「テヒャァァァア! 服がぁテチャァ———————!!! 服ゥ————!」 ウンコまみれ涙まみれで泣くので、つい、俺は同情してしまう。 「しょうがないな、今度だけだぞ」 服を落としてやると、シーは両手でしっかり抱きしめ、うれしいのか震えだした。 「良かった、良かったテチ。 服がかえってきたテチ・・・」 そして、なんと服を着ようとするので頭上で素早く奪い去る。 「テヒャァァァー!」 「挨拶できないお仕置きはやめたけど、トイレ以外でウンコした罰があるだろ?だから服は没収だ」 全身を左右に振ってイヤイヤするシー。いっそう水槽がウンコで汚れていくので、罰はもっと必要だ。 それにしても水槽がきたないな。 「罰にお前の服で水槽を拭いてやるよ」 俺は断腸の思いでシーの服を雑巾代わりに水槽を拭いてやる。 「やめてテチャァー! 着られなくなるテチィ!」 シーは雑巾代わりにの服にしがみつく。 雑巾とシーの体で水槽を拭く羽目となったが、かえって涙とウンコで汚れが酷くなった。 「シー!!」 水槽が震えるほどの大声で怒鳴ると、ビクッと震え雑巾を手放す。 「シーのせいでまた水槽が汚れたじゃないか! 罰として今夜はご飯ぬきだ!」 「テエェェェェ!!!! 昨日もご飯なかった・・・テチャ!」 シーが嘘を言ったので、手加減しつつグーで殴ってやる。 水槽の壁にぶつかって跳ね返り、床でピクピクするシー。 衝撃で顔が歪んでいるが、明日には直っているだろう。 俺が来ても水槽の隅でガタガタ震えるだけになった。 それでシーの服を見せつけると、態度は激変した。 「テチャアアァァァァー! 服返してテチャアッ!」 「なんでそんなに服に執着するんだよ、俺が初心者だからって馬鹿にしてないか?」 自分の要求をするだけ。 こんなシーにはお仕置きが必要だ、飛び出してきたところに見事なスナップをきかせた物差しで叩きのめす。 「テジィー!!!!!」 そうか、俺はやっと気づいた。服があるからシーが執着するんだ。 「服があるからシーがダメになるんだ」 「テェ・・・もう、嫌テチャア!」 俺は服を引きちぎる。何度も何度も。小さな布の塊となると、水槽に投げ込んだ。 雪のように降るそれを見上げたシーは呆然としていた。 あれから毎日シーは服の残骸をかき集めて傷だらけの体に貼り付けようとする。 すぐにはがれて、そのたびにテヒィだのテヒャアだの声をあげる。 結局逆効果だった。シーが全面的に悪いとは言え、服の残骸を入れた俺にも責任がちっとはある。 「ごめんな、シー」 手のひらで頭を撫でてやると、シーはガクガク震えだす。俺はライターを見せる。 「服があると、かえって良くないのだね」 引火させると、服の残骸の小さな山全体に火がまわる。シーは絶叫してそのなかに飛び込んだ。 「デビャァーヒィー!!!!!!」 髪がたちまち燃え上がる!!!!!!! いつもとは違う悲鳴に俺もおどろいてシーの火を消すが前髪も後ろ髪もほとんどが、つまり全体の1割ほどが燃え尽きた。 やけどのショックでたくさんウンコを漏らすシー。 ここで怒るほど、俺は酷い飼い主ではない、ある道具を取りに急いで部屋を飛び出す。 「気をしっかり持て! これを見ろ、シー!!」 俺は水槽にそれをさっと差し入れた。シーはそれを見上げると痛みも忘れて凍りつく。 俺の出した手鏡の中の自分は髪が焼け肌は焦げ付きしかも傷だらけの全裸。 断末魔をあげてシーはのけぞって転倒し、そのまま失神した。 ************************************* 水槽の中を逃げ惑うシーを俺のはさみが追いかける。 別に切り刻んでいるわけじゃない、髪を切っているだけだ。 ほとんど髪(一割ほど)が燃えてしまったので、残った9割の髪もばっさりさっぱりすっきりと切ったほうがいいと思っただけだ。 「やめてテチャア! テチャァァ!!!! 燃えた髪はちょっとだけテチィ!」 もう限界だ、左手で押さえ込んだシーの髪をジョキジョキ切りながら俺は悟った。 ************************************* ある休日。 俺はシーと出会った公園に彼女とともに向かった。シーにはリードを付け運搬用ケージに入れてある。 ベンチに座るとひざを抱えたままの禿裸となったシーに声をかけた。 「お前を公園に捨てる」 しばらくシーは無言だった。 それがゆっくりと変化をしていく。 理解できない、という表情。 どんどん、顔のしわが深くなり絶望的、といったものになる。 「躾けてもだめだったからね、もう無理だと思」 「テヒャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」 やあ、今日は元気だね、最近は元気が無かったから心配したけどもう安心だ。 力いっぱいケージに捕まって、ずいぶんと揺らしてくれてるじゃないか。 「無理テチャ———————!!!! 服がないテチャ! 髪がないテチャ! 禿裸で公園に捨てられたら、他の野良のおもちゃにされて殺されるテチャア!」 とっても切迫した顔だけど、もう決定したことだ。 それにしても盛大にウンコと涙を流すねお前。 たしかにシーの言うとおりだが、それもこれも本人(本石?)の責任だ。 「飼うって言ったテチャア、飼うって言ったテチャ! お前は、お前は私を飼うって言ったテチャア!」 「たしかに俺はお前を飼うと言ったがずっと飼うとは一言たりともまったく言ってない!」 「テヒャア!」 ガーンという顔。いいね、お前は。最後の最後まで俺を楽しませてくれる。 ケージにしがみつくシーを引っ張り出すと、俺はリードを座っていたベンチの足にかたく結んだ。 つい、感傷的になってしまい優しい言葉をかけてやる。 「リードは飼い実装だった名残にあげるよ」 はっと我に返るシーはリードを外そうと、四苦八苦しはじめた。 必死である、HAHAHA、ワロスワロス。 「大丈夫、公園中のお仲間にはお前のことを伝えておくよ。 心優しい実装石がたくさん集まって遊んでくれるから」 ウンコを漏らしながら、シーは俺を見上げる。 しかしよく流れる色つきの涙だな、色つきは擬態なんだろ? とうとう一度も透明の涙を見せてくれなかったね。 「おーい、公園の野良実装ども!!! おまえらは顔も見られない糞蟲ばかりだ!!! どいつもこいつも奴隷にしてやる!!! …………とこの禿裸が言ってます」 「テ——————ヒャアッ!!!」 ブリッと漏らすシー。 おお、あちこちの茂みから血相変えて野良実装どもが飛び出してくる、夜叉のような顔じゃないか。 暖かい笑みと慈しみに満ちた声で語りかけてやる。 「……よかったな、シー。 みんな、お前を大歓迎だぞ」 なんだよ、せっかくのせりふも聞いちゃいねえな。 冷や汗ダラダラで必死に首輪をはずそうとしているが、悪いが絶対外れないぞ、それ。 しかしもうお別れのときだ。 ここからが楽しいのだが、あまりくどいのも無粋というもんだろう。 「これから色々あるだろうが、元気でな……。 あばよ、シー」 「テヒャアアア——————! 何してもいいテチ! いいから置いていかないでテチィィ! こ、こ、こ、殺されるテチャ! 食べられるテチャ—————!!」 別れがたいが、ここは心を鬼にして俺は公園を去る。 こうして俺の457匹目の実装石の飼育は終わった。 ところでさ、飼育数が3桁くらいじゃ、まだまだ虐待派としては初心者だよね? END
