タイトル:【観察】 実装石の日常 実装ダンス
ファイル:実装石の日常 40.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:7444 レス数:1
初投稿日時:2010/01/24-20:57:58修正日時:2010/01/24-20:57:58
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「今日もうまくいかなかったテチ」

「何を言うデス、他のニンゲンさんもお前をよく見ていたデス。 今日の踊りは明日に繋がるデス」

「でも、私は歌が上手じゃないテチ」


仔実装は自信のない声で言ったが、親実装は首を左右に振る。


「お前の歌声はこの公園中で一番、綺麗デス。 きっとニンゲンさんも気に入ってくれるデス。 お前を飼いたいを言ってくれるデス」






 実装石の日常 実装ダンス






この親実装、日に日に餌付けにやって来る愛護派の数は減ってきていることに気づいていた。

それはこの双葉児童公園の有様を見れば、すぐに分かるというものだ。

愛護派の無秩序な餌付けによって野良実装は激増し、個体数に比してエサに群がる姿地獄絵図である。
公園はすっかり荒廃し、食い散らかされた死骸や血痕で汚れ、汚物がこびりつき悪臭が漂う。


「……もうこの公園では生きていけないデス」


親実装は続けて幼い仔たちへ教え込む。


「だから、何とかしてお前をニンゲンさんに飼ってもらうデス。

そしてママも姉妹もまとめて飼ってもらうデス。

そうするしか生き残る方法はないデス」


まだ公園にやって来るニンゲンさんがいるうちに何とか売り込み、飼い実装になる。

それが親実装の計画だった。




親実装のしつけは極端に厳しくなった。
衣服やダンボールを汚す者、エサをきれいに食べられない者はためらわず殴られた。
それも地面に叩きつけられるほど強烈に。


「テベッ!」

「前掛けを汚すなと言ったはずデス! 何度も同じ事を言わせるなデス!!!」

「…………………………………………………………」

「言いたいことがあれば言えば良いデス」

「無理テチィ!」


次女が泣き叫ぶ。


「前掛けが汚れるのは仕方がないテチ! そんなにきれいに食べられないテチ!」


仔たちは造反した次女を黙ってみている。


「私たちはそんなに器用じゃないテチ、できないテチ! ゴハンだってきれいじゃないから尚更無理テチィィ!」


近場のゴミ捨て場の生ゴミが今日の夕食だった、次女が主張するとおり前掛けを汚さず食うのは難しい。


「だけど飼い実装は前掛けを汚していないデス、お前たちも同じようにしなければ飼われることはないデス」


親実装の言うとおり、飼い実装の前掛けは汚れていないがそれはエサが大抵フードなので食べやすいことと、飼い主が洗濯するからなのだが。


「とにかく出来ないテチ! 出来ないテチ!!!!!! 出来ないと言ってるテチャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「次女! ママの言う事を聞くデス!!!」

「いやテチ! 無理テチ! 出来ないテチ! いやテチィィィィ———————————————————————————!!!!!」


次女は我慢の限界だったのか、床を転がって泣き叫ぶ。

親実装は黙って、その狂態を見つめていた。

そして。


「お前はもうこの家の仔じゃないデス」


親実装は有無を言わさず、暴れる次女を抱きかかえそのままダンボールの外へ出て行く。

残された仔らは入り口まで追いかけるが、恐ろしくてそれ以上は進めず、親実装と泣き叫ぶ次女の姿が見えなくなるまで立ち尽くすだけだった。



しばらくすると、親実装は手ぶらで戻ってきて6匹の仔に告げる。

「次女は捨ててきたデス」


親の言葉に仔実装は凍りついている。


「今この公園で親がいない仔がどうなるか、お前たちも知っているはずデス。 運が悪ければ仲間に食われるか、良くて餓死デス。

ママも好きで次女を捨てたわけじゃないデス、こうしないとお前たちも分かってくれないからデス。

このままではみんなここで死んでしまうデス」


ようやく仔実装たちは現実の問題として、自分たちが生きるか死ぬか、の瀬戸際に立たされたことを悟った。

仔実装らは時間がかかっても前掛けを汚さずエサを食べきった。





*************************************






6匹の仔実装には、しつけと同時に歌と踊りが教え込まれた。
これも間違えば殴られるという厳しいものだ、涙を浮かべて仔らは踊り、歌う。


「身なりや言葉や歌も大事だけど、何より大事なのは実装ダンスデス」


親実装は強調した、ダンスこそ実装が人間を魅了する最大の武器である、と。

熱のこもった親実装の指導に仔は必死についていこうとした。

だが。


「テベッ」


4女が足をもつれさせて転倒すると、親実装は無言で手を伸ばし立ち上がらせる。


「ありがとうテチ、ママ」


叱責を覚悟していた4女の礼を無視して親実装はわが仔を担ぎ上げ、ダンボールの入り口まで進むと他の仔らへ振り返る。


「ママが戻ってきたとき踊っていない仔も捨てるデス」


言い残して出て行く。


「テ———————————チャ————————————————————————————————————————!!!!!!!」


捨てられると分かった4女の悲鳴が尾を引いた。

残された長女・3女・5女・6女・7女は真っ青な顔で懸命に踊りの練習をした。



数日後。

「5女?」

親実装の間引きはどんどん続く。


「お前はどうしてパンツが汚れているデス?」


さっと5女の顔が青く染まる。 トイレットペーパー代わりの落ち葉で拭いたはずのよごれが残っていてパンツを汚していたのだ。


「す、すぐにきれいにするテチィッ!」

「もういいデス5女。 お前は十分がんばったデス」

「私はまだ大丈夫テチィ!!!!」

「さ、ママと一緒に出かけるデス」

「やめてテチ! お姉ちゃんんんんんんんんんんんん! 助けてテチ! 助けてテチャアア!」


5女は長女へ手を差し伸べるが、仲の良かった姉は顔を背ける。


「長女姉ちゃんっ! 私が捨てられちゃうテチ! 助けてテチィィ!!!! 死んじゃうテチャアアア——————! 食べられちゃうテチャアアア!!!」

「さ、あまり暴れる悪い仔はここで殺すデス」


と右足を捻って千切る。


「テチャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


泣き叫び続ける5女の声はずいぶんと遠くに連れ出されても、ダンボールの姉妹に聞こえてきた。




次に3女が踊りの上達が遅い、と捨てられた。

暴れたので両足を潰された上で、捨てられた。





しばらくすると、今度は6女が捨てられた。
挨拶の声が小さい、という理由で。

皮肉にも6女の悲鳴は姉妹の中で一番大きかった。







長女と7女がすっかり広くなったダンボールの中でひっそりとエサを食う。 親実装はエサ探しに出かけたままだ。


「お姉ちゃん、私たちどうなるテチ……」


7女の声に張りはない。 
長女も張りのない声で応じる。


「ママの言うとおりにするしかないテチ。 でも私たちは言うとおりにしているから、大丈夫テチ。 ニンゲンさんにも飼ってもらえるテチ」


親実装の言葉を信じるしかない仔実装たちであった。


のっそり、と親実装が空のコンビニ袋を持って帰宅してくる。
2匹はエサを食うことを中断して、親実装へ挨拶した。


「……長女、前掛けが汚れているデス」


長女、黙って自分の前掛けを見ると確かに汚れていた。


「もう少しお前は賢いと思っていたデス……」

「テ…………………………。 テヒャヒャヒャヒャ! テ——————————————————————————ヒャヒャヒャヒャ!!!!!」


突如、長女は笑い出す。
笑い声が止まない長女、踊りだした。

狂ったように笑いながら、踊り狂う。
まるで踊れば助かると信じているように。


親実装は長女を公園のど真ん中へ捨ててきた。






*************************************






7女は唯一の仔実装となったが、親実装のスパルタ教育は変わらない。
いや、いよいよ実践に移るとなお更厳しくなってきた。


数少ない愛護派を見つけると、なんとか7女はその前で踊った。

もちろん真後ろで親実装が仔を他の飢えた成体から守っているが。


そこそこ、7女のダンスは好評だが、飼おうというニンゲンまでは現れてくれなかった。

一応ご褒美のエサをもらえたので、失望の表情を見せずに親仔は引き下がる。


「……食い下がっても無駄デス、それで飼われるのなら簡単なものデスゥ」



根気よく親実装は仔をアピールし続けた。
相手にされなくても、遠めに見ている他の愛護派の元へ駆け寄って、仔のダンスを披露する。

仔も足が震えるほど疲れていても、弱目を吐かずひたすら踊る。


アピールしても、アピールしても、いくらダンスを見せても


「飼ってあげるよ」


の一言は言われないが、親仔は我慢してダンスを続けていく。



そんなある日、弱音を吐いた7女を親実装は優しく励まし、頭を撫でる。


「お前は優しくて賢い、良い仔デス。 きっとニンゲンさんが飼ってくれるデス。

今だから言うけど、もうママを一緒に飼ってもらうのは無理デス。

もし機会があれば、お前だけで良いから確実に飼ってもらうデス。

親仔をまとめて飼って貰おうなんて難しいデス」


と、仔のためにハードルを下げた親実装に、7女は泣きついた。



……なんとか、がんばってママと一緒に人間さんに飼ってもらうテチ



極限状態で、7女はそう心に決めた。



休むことなく、親仔が足を棒にして公園内をうろつく。
休んでいる間に飼ってくれるようなニンゲンを逃すことのないようにしているのだが、2匹の疲弊と心労は凄まじい。

だがおかげで今日もまた人間を見つけることができた、しかも新顔だから意外と簡単に飼ってもらえるのではないか、と期待が膨らむ。


「ママ、行くテチ!」


7女は人間の足元まで駆け込むと挨拶をして踊りだす。

「テ〜テテテ〜テチ〜〜〜〜〜〜〜〜♪」

……飼ってテチ、ニンゲンさん 私はこんなに踊りが上手テチ、とっても良い仔テチ! だから飼ってテチ、ニンゲンさん!

叫びたい胸のうちを押さえ込み、一心不乱に躍る7女。
それこそ命がけで彼女は踊る。
懸命に全身全霊をかけ、全てをかけて踊る。


ここまではいつもどおりだ。
だが7女が踊り終えると、見ていた男性が7女を抱き上げる。


「……テチ?」



初めての流れに7女は興奮した。

……飼ってもらえるかも知れないテチ。 きっとそうテチ! お願いしてなんとかママも一緒に飼ってもらうテチ、きっと大丈夫テチ!!!

親実装の姿を探すが、なぜがそばにいなかった。




7女が地上に転がされたとき、髪は全て引き抜かれ、服もほとんどが引き剥がされていた。






*************************************






「テチャアアアアア! 髪を抜かれたテチィィィ!!!!! 服を破かれたテチィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

泣き止まない7女が帰っていく親実装の後を追って帰宅した。
禿裸にされて号泣する7女へ声もかけずに親実装はコンビニ袋へ乏しいエサを全て入れる。
きれいなタオルだけ選別し他のコンビニ袋へ入れる。


「ママァァァァァァ!!!! 髪が抜かれたテチィィィ!! きれいな髪が抜かれたテチィ!」


黙々と作業を続ける親実装へ半狂乱の7女が泣き続ける。


「服が破られたテチィィ! 服が破られたテチィ!!!! もうお終いテチャアッッッ!」


ふう、と親実装がため息をついて言う。


「その通りデス、お前はもうお終いデス」

「……………………テ?」


荷物を片付けると、親実装は7女を掴んでダンボールの外へ出る。
そして、おもむろにダンボールをたたみ始めた。

7女はダンボールをたたむ光景を泣き疲れた表情で眺めていたが、やがてダンボールたたたみ終えられた。


「何、してるテチ、ママ。 最後の仔の私がこんな目にあってるテチ、なんで慰めてくれないテチ……」

「お前はどこまで愚かなのかデス」


親実装は軽蔑した目で7女を見下ろす。


「もうお前の姿では託児はできないデス、
仔実装をネタにして私が飼い実装になる計画はもう失敗したデス、 
お前のような禿裸では、飼い実装になる役には立たないデス、
お前は最後の1匹だというが、仔はどれだけでも産めるデス、
今からもっと隠れやすい場所で仔を産んで育てて、また託児を狙うデス、
お前はもう邪魔な存在でしかないから捨てるデス、
バカなお前でもこれで分かったはずデス、

二度と私に近づくなデス」


言い終えると親実装はダンボールを頭に載せてささえ、コンビニ袋を肩にかけて歩き出す。





        ……嘘テチ




自分を捨てるという親実装の言葉を受け入れられない7女であった。
ゆっくりと、泣き腫らした目でそれを追う7女、やがて血相をかえて立ち上がって追いかける。


「待ってテチ、ママ! ママ! 私を置いていかないでテチャアア!!!!!! ママァッ!」


公園に響き渡るような悲鳴。
しかし親実装は振り向かない。


「ママ! ママ———————————!」


テッチテッチと禿裸の7女は親実装を追いかける。


「大丈夫テチ、私は踊るのが上手だからきっとニンゲンさんが飼ってくれるテチ! だからママと一緒テチ!!」


7女は笑みを浮かべて親実装の足元へまとわりつく。


「そうしたらママも飼い実装になれるテチ! 幸せになれるテチ!」

「お前では託児なんか無理デス」


親実装は仔を見ず言い切る


「そんなことないテチャ——————————————————————————!!!!!」

「黙れクソ蟲、汚らしいお前を飼うバカはいないデス、いい加減現実と向かい合えデス」

「………………………………でも、でも私だけじゃ生きていけないテチ! 私だけじゃ公園で生きていけないテチャアッ!」

「自分のことは自分でなんとかしろデス」

「捨てないでテチャアア!!!」


7女は新たに恐怖で涙を流しながら、親実装の左足にしがみ付く。

親実装、大きくため息をついて荷物を降ろすと、思いっきり7女を殴る。


「テェ!」


それでもなお、7女は親実装の左足を離そうとしない。
目から大粒の涙を流して言う。

「捨てないでテベッ! ママ! テェッ! テッ! 捨てテベッ!!!」


執拗な殴打に7女は耐え、親を呼び続ける。

もう一度親実装はため息をつくと、7女の足をつかみ、思い切り曲げる。
膝へ焼き付いた刃物を突き刺されたような激痛が走って7女は大口を開け、大きな悲鳴をあげた。


「テヒャアアアアアアアアアアアアア———————————————————————!」


右のつま先が太ももに当たるほど曲げられて、たまらず7女は手を離す。
地面を転がり絶叫する7女を無視して、親実装は荷物を担ぐと移動を再開する。

骨折の苦痛に泣き叫ぶ7女は自分を捨て去る親実装の後姿を見た。

這おうとするが、足からは相変わらず激痛が走って、1センチも進めない。
だが、苦痛を押さえ込んで、前に這う。
土まみれになりながら、7女は前へ進む。




7女は遠ざかる親の背中に向かって、這って、地面へ血と汗と尿と涙を垂れ流しながら絶叫する。







「ママァ! 捨てないで下さいテチィ!!!!!!!!」









END

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1 Re: Name:匿名石 2017/11/22-13:28:24 No:00005093[申告]
渡りII第2話に出てくるダンス仔実装は
多少 おかしくなっているところなどから 捨てられた長女か?
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