S宅に来てから数日が経ち、お盆休みも本格的に始まり 倶楽部の方も全店4日間休みになる。それでも困った実装石達を 預かるS達に旅行等をする暇はない。それらの再教育と仕分け、 掃除等の身の回りの世話が待っている。 「えーと、124番、と…これで全部だな。よし8号、 誘導しろ」 (はいデス) 実装石達の首に掛けられた札を「」が確認した後、8号が先頭に立ち 実装石達を地下の保管室に誘導する。 (お腹空いたデスゥーーー!ご飯出せデーーース!!) (デププ♪あんな不細工より私の方が可愛くて綺麗デスゥ♪) (テチューン…ママァ、ンコ出たテチュ) (デー?その辺の奴に擦り付けておくデスゥ♪) 各自が好き勝手に振る舞いつつも8号の後を追う。この後に 晩御飯に有りつける事を知っているからだ。そうでなければ 我侭放題に育てられた糞蟲達が動くはずはない。そんな事だけは しっかりと憶えている所が実に糞蟲らしい。 ゾロゾロと動く集団の後を、2号と「」が雑巾とモップを持って 追う。涎や鼻水、糞尿を漏らしたまま動く輩もいる為だ。 集団の動いた後をモップや雑巾を掛ける2号や「」を見て 「デプププ♪」と笑い、更に尿を漏らす実装石もいる。 「えーっと…116と117番の親子だな…」 そんな実装石の番号をチェックし、Sに報告するのも「」の役目だ。 ガチャン! 鍵の閉まる音が地下室に響く。胸糞悪くなるダミ声が消え静寂が戻った。 「」がドアのガラス窓から中を覗くと、ご飯、といっても古古古米の パサついたご飯と、安い魚肉ソーセージ、屑野菜を炒めたおかずを 奪い合う様子が伺える。ギョロついた目玉を剥き出しにして飯を食らう姿は、 吐気と憎悪を思わせる。防音を施してあるので音は聞こえないが、 中ではどんな音が響いているか、簡単に想像出来た。 なまじ飼い実装だった為に、ここに来て日の浅い実装石などはまず ドッグフードは食べない。ただし、再教育を経て望みのある実装石は徐々に 差別化させる。人間と実装石の違いを教える為に食事の内容を 差別し、最終的にはドッグフードがメインになる。だが、 そこで大抵の実装石はそこで躓く。今まで大人しく再教育され、 躾けられていたのが嘘みたいに暴れ、結局は処分される事が多いそうだ。 「」は、Sに見せて貰ったビデオを思い出していた。 すっかり大人しくなった賢そうな実装石が、個室に入れられ ドッグフードを差し出された途端に、Sにそのお皿を投げ付けて 大声で叫び、暴れる姿を。 『何デス!?今までの私の我慢は何デスゥゥゥゥ!!?? ふざけるなデーーーーーーーーッス!!!!!』 結局はその実装石も、人間と実装石の違いを受け入れるまでには至らず、 「我慢をすれば良い物が食べられる」程度にしか 考えていなかったのだろう。その後、その実装石が倶楽部で 強制妊娠を繰り返され、子供達を目の前で爆竹で吹き飛ばされるのを 涙を流して見守る今事しか出来ず、最後の1匹がバラバラにされる時、 『この仔は最後の子供デスゥゥ!!止めるデーーーッス!!!』 と、空しい叫び声を上げ、最後は自分の身体に爆竹を縛り着けられ、 『ゴゴゴ、ゴメンなさいデスゥゥ!!ゆ、許してデスゥゥゥゥ!! もう我がまま言わないデスゥ!お願いデスゥゥゥゥゥゥ!!』 そう言いながら真っ青な顔をした実装石の命乞いと、Sの 『ごめんなさい。貴方のその台詞は、もう聞き飽きたの♪』 声と共に蓋が閉められ、戦争映画や西部劇で銃弾を食らいまくった兵士や悪者の ペキンパーダンスよろしく、盛大にのたうつ姿がビデオには収められていた。 『本来の実装石の姿…か…』 「」はふと2号と8号を見る。床の拭き取りを終える2匹。 トテトテと「」の元に駆けて来て (ご主人様、地下室のお掃除終わりましたデス) と報告し、次の指示を待つ。普通の実装石より細身で綺麗な身形。 賢い、と言うよりは無表情な顔付き。可愛らしい仕草や媚を売ることが 仕事の実装石にとっては「本来の実装石」ではないだろう。 8号はまだ表情が豊かだが、2号は鉄仮面だ。 だが、この2匹ならば人の役には立つ。 仮にこの2匹に、「今日からお前達のご飯はこれだ」とドッグフードを 差し出しても、素直に受け入れるだろう。そう育ててきたのだから… 2号と8号。まだ出産、子育ての経験もない8号はともかくとして、 2号は一時「」の期待を裏切った。が、それ以降は「」の信頼を得ている。 しかし、それも「」がきつい躾けを施した結果の事だ。 『この生き物は、人が手を掛けなければ単なる害蟲で しかないんだろうか?』 自分が育て上げた2匹を見詰めながら、「」はふとそんな事を考えた。 「よし、じゃあ後は2階の階段を掃除して終わりだ」 ((はいデス)) 2匹の小気味良い返事が木霊した。 2階までモップと雑巾を掛け、階段を磨き上げ終わる頃には、 窓から見える景色が赤く染まっていた。 「さて、これで終わり…ん?」 「」はある部屋のドアが開いているのに気付いた。 普段使われていない2階に、好奇心から1度だけ部屋を回った事があるが、 全て鍵が掛かっていて入ることは出来なかった。 『もしかして…泥棒!?』 「」は2号達をその場に残し、忍び足で部屋に向かう。 覗き込むと、整理された部屋のソファにSが佇んでいた。 綺麗に整理整頓され、小物やぬいぐるみが飾ってある部屋。 「」は直感した。ここが娘さんの部屋だと。 Sは静かにぬいぐるみを見つめていた。そして、その1つを 手に取ると、じっと見下ろす。 「」の場所からでは逆光で表情までは見えない。「」は声を掛けるべきか 掛けぬべきか考えた。だが、Sは気付いていた。 「…「」さんでしょ?気を使わなくても良いのよ」 心臓が飛び出そうなほど驚いた「」は、気まずそうに部屋に入る。 「…その、すみません…掃除をしてたら部屋のドアが開いていて…」 Sは手にしたぬいぐるみを見つめたまま、「」と視線を合わせない。 「……ここが、誰の部屋だか判った?」 「…はい…」 Sの問いに「」は一言だけそう答えた。そしてなぜだか 「すみません…」 とも答え頭を下げる。 「貴方が謝る事なんて何もないのに…」 Sは単純に思った事を口にしただけだろう。でも、「」には 心苦しかった。それを口にして良いものかどうか迷ったが、「」は 言い切った。 「…僕は、あの人の…A先輩の後輩ですから…」 鼓動が走る。今までAの話は避けていた。避けなきゃいけないと考えていた。 その話をして、Sの態度が豹変するのが怖かった。 「…大丈夫よ。あの2人はもう大人なんだから」 Sの答えは思ったよりも呆気なかった。そして視線を「」の方に向けると そのまま顔を近づけ口付ける。 「ン!?」 Sはぬいぐるみを元の場所に戻し 「ンフフ、御飯にしましょ♪」 そう言い残して部屋を出る。階段の方で2号達に声を掛けるS。 共に階段を降りる音がして、やがて静かになった。 「」はさっきSが手にしていたぬいぐるみを見る。可愛らしい クマのぬいぐるみの顔は、ひしゃげて潰れていた。ぬいぐるみを1度や2度 強く握ったぐらいでこうにはならない。きっとSが娘に買い与えた ぬいぐるみなのだろう。思い出の詰まった玩具も、持ち主が去ってしまえば、 辛い記憶を思い出すだけの悲しい道具に成り下がってしまう。 どれほどAの事を怨んでいるのか、簡単に想像出来た。 『でも、なぜ自分にキスを?』 そう考えると、今度は頭が混乱する。女性と付き合った経験のない 「」には尚更だった。 夜、2号は目を覚ます。尿意を覚えた2号はトイレに向かう為 水槽を出る。時計の針は11時を指していた。暗い廊下を静かに歩くと、 明かりが漏れている部屋があった。 「?」 Sの部屋だ。近寄ると少しずつ声が聞こえてくる。 ギシ…ギシ… 「…!……!!…!」 「!…!!…」 何かが軋む音と、「」とSの声だ。ドアが閉まりきってない為 中の様子が覗ける。2号は少し躊躇いつつも そっと部屋を覗く。思わず2号は自分の目を疑った。 Sと「」が交わっていたのだ。 騎上位で、「」の一物を深く飲み込み、ゆっくりと、それでいて大きく 腰を動かすS。 「はぁはぁ……んぁ…良いわよぉ…アッ…凄く、良い…、アン! …は、初めて、ンン!アッ!…だったなんて…んふ…嘘みたい… あ、あぁ…相性が、ん!い、良いの、かしらね♪」 昼間の優しい顔とは別人のS。その表情を見て、2号は理性を失った時の マラ蔵を思い出した。舌なめずりするかの様な微笑みを湛える口と、 妖しく光る目。Sは肩で息をしながら身体を上下に動かしたかと思うと、 今度は腰を左右に回転させグラインドする。 「ん!…う、うぁ!ちょ!…Sさん!ダメ…ま、また……」 ベッドで、Sの下になっている「」の表情は窺い知る事は出来ないが、「」の 手足が時折ピクンピクンと激しくSの身体に反応している様子が分かる。 『デ…デデ…ご主人様と…大ご主人様が……こ、交尾…して…る…デス…』 2号の身体と思考は固まってしまった。ベッド上で行われる初めて見る人間の交尾。 それが自分のよく知る人間、「」とSならばショックも並大抵ではない。 アングリと口を開け、プルプルと震えながらSと「」の情事を見ることしか 出来ない2号。 Sが「」に覆い被さり、激しく口付けをする。 「ン…クチュ、チュバ…ンン…」 Sが先に口を離した。 「アン…なぁに?何がダメなの?ん…ぁ…ハッキリ言わないと、分からないわぁ…」 Sは腰の動きを止めることなく、「」に妖しく微笑み問いかける。 「」はSの腰を両手で掴み、少しでも動きを抑えようともがくが、Sの動きは 激しさを増すばかりだ。 「ん!…だ、だから!また、…うぁ!スゴ!……で、出ちゃい、ます…て!」 「」の言葉を聞いたSは、更に妖しい笑みを浮かべ、 「」に密着し腰を激しく上下させる。 パン!パンパン!パン! お互いの股間がぶつかり、激しい音を立てる。その炸裂音の合間に グチュ!ブピュ!と、愛液と空気の混ざり合う音が重なり合う秘部から聞こえる。 「ンフフ……あ、あん!…良いわよぉ…何度…でも…あ、あぁ! …あ、いい!そこ!!…た、沢山!!出しなさ、ぁあ!!…い、イイ!!!」 Sの喘ぎ声にも余裕が無くなり出した。「」の方は既に激しい呼吸音しか発していない。 パンパンパンパンパン! 折り重なる部分の炸裂音が早くなる。獣のような呼吸音と喘ぎ声。 「ぐ!…もぅ!…い、く!!」 パン! 音が止まりSと「」の身体が振るえる。 「ン!…ァア!!…んあああぁぁ!!」 身体を反らしSが短く叫んだかと思うと、ガクっと身体を「」に預け果てる。 「ハー、ハー、ハー…」 「ンア…はあぁぁ…あ、あぁぁぁぁ……ハァァァァ」 お互いの呼吸だけが部屋に響き、それも次第に小さくなると、しばらくの間 死んだ時間が部屋を包み込んだ。 2号の身体は震えが止まらなかった。顔が、口が、手が、足が、震えていた。 ギシ… ベッドの軋む音で我の返った2号は、慌ててトイレに駆け込む。 自分の股間がおかしいのだ。お漏らしをした訳でもないのに… 服をたくし上げパンツを下ろすと、総排泄孔部分から粘液が溢れている事に 気付いた。 「…デ…」 それを見た2号はいたたまれない気持ちになり、涙が溢れてきた。 「」とSの交尾を見て、興奮してしまった自分が許せないから? 情けなかったから?それとも…… 答えは、もうハッキリしている。でも、自分は…自分には…… 「…グス…デ、ェェェ……ウェェェェェ………エェェェェン…」 声を漏らさない為か、2号は服で顔を覆い誰にも分からないように、 くぐもった声で小さく泣いた。 トイレから出て自分の部屋に帰る途中、風呂場の明かりが点いていた。 中からはSと「」の楽しそうな笑い声と、幸せそうな会話が聞こえる。 それを聞いて、2号はまた表情を変えずに涙する。涎掛けで顔を覆い、 足早にその場を後にするが、2人の幸せそうな笑い声が2号の耳から 離れる事はなかった。 水槽に戻り素早く丸まる。目を瞑ると、Sと「」の絡み合う姿と、 激しい呼吸音と喘ぎ声を思い出し、風呂場での笑い声が追い討ちを 掛ける様に頭の中でグルグルと渦を巻く。 『なんで…なんでデス………なん…で…』 2号に許される行為は、声を押し殺し8号に気付かれないように 涙を零す事だけだった。 2日後、2号は夜11時に目醒める。隣では娘の8号が寝息を立てていた。 2号は水槽を出て、廊下に出る。トイレに行きたい訳ではない。あの部屋を、 明かりの漏れるSの部屋を目指す。昨夜は明かりが点いてなかった。でも、 今日は点いている…2号は静かに部屋に向かう。 「…!…!わよ!あ、あぁぁ!!」 ギシ ギシギシギシギシ 「……!…う!…って!」 部屋に近づく度にベッドの軋む音と喘ぎ声の音量が増してくる。 建てつけが悪いのか、ドアは閉まりきっていない。 2号はそっと部屋を覗き込む。裸の男女がベッドで縺れ絡み合う。 ドサ! 「ハー、ハー、ハァーーーー…」 今日は「」が上になっていた。丁度果てた瞬間か、「」がSに身体を預け、 大きな息を吐く。その「」の身体を右手で抱き止め、左手で頭を優しく撫でる Sの姿。2号は言いようの無い気持ちに襲われる。暫しの静寂。 その静寂はキスの音で壊れた。 2号は自分の身体が火照ってきたのを憶える。あの音。「」が寝込んだ時に 自分がした行為。あの時の音…2、3度その音が繰り返されると、「」の声がした。 「……あの…Sさん。僕は、その、遊びとかじゃなくて…」 「…嬉しいわ、とても。…でも、私はおばさんよ?それでも…ンン!?」 「」がSの唇を強引に奪う。これが自分の答えだと言わんばかりに。 「そんなのは関係ないじゃないですか!それに、その…Sさんの言う 集まりとか全部受け入れます!だから!…ング!」 今度はSが「」の唇を奪う。激しく、濃厚に。 「…良いの?…ありがとう…本当に、ありがとう…」 そして2人は、また絡み合い溶け始めた。 2人が唇を奪い合うのを寂しく見つめる2号。気持ちは寂しくとも、 身体は火照る。2号は気が付かないウチに、自分で自分を慰め始める。 「ンデ……デ…フ……」 パンツの上から股間を弄る2号。 『ン…デェ…悲しい、のに…寂しいのに……なんで… 私は……何を…してる…デ……』 2号は半ベソを掻きながら自分を慰める。そういえば、以前 「」に一度だけ股間を弄って貰ったことがあった事を 2号は思い出した。恥ずかしくても嬉しかった事、気持ちが良かった事。 全てが遠い記憶の彼方の事の様だ。 『もう1度…もう1度だけで良いデス……ご、ご主人様に…』 そう考えると、手の動きを止める事は出来なかった。 (ママ、何してるデスゥ?) 「デ!?」 背後からの声で我に返る。8号の声が後ろからしたのだ。 驚いて思わず声を上げてしまった。 「?…実装石!?」 「」がベッドから降りて、バスタオルを腰に巻きながらこちらに向かってくる。 2号は思わず8号を突き飛ばしてトテトテと逃げ出す。 (デ!?…ま、ママ!?) 何故逃げ出したのか、身体がそう動いたのか分からない。 泣き顔を、自分で慰める事しか出来ないみっともない姿を、 「」に見られたくなかったからかも知れない。 ドアを勢い良く開ける「」に、必死に逃げるおさげが1本しかない実装石の 後ろ姿が見えた。 「待て2号!」 「」の声に2号は少し反応し、足が縺れバランスを崩すがなんとか建て直す。 その姿を見た「」は、更に大きな声で叫ぶ。 「2号!!止まれ!!!」 「」の声に今度は全身がビクン!と反応する。足が完全に縺れ、2号は廊下に ベタンとコケて止まった。 すぐに「」はやって来た。2号は震えながら倒れたまま動こうとしない。 「…2号、何をしていた?」 「」の声。それは冷たく鋭い口調だった。 2号はゆっくりと、震えながら起き上がる。でも、目線は下を 向いたまま顔を上げない。「」の声のする方を向くと、 正座をして頭を床に付ける。 トテトテトテ (ご、ご主人様!) 8号の声。2号の横に8号も正座をすると土下座する。 (トト、トイレに行こうとしたらママがいて…で、でも! マ、ママは悪くないデスゥ!わわ、悪いのは、 ママをビックリさせた私デスゥゥ!!) 8号の声は怯え、震えている。思い遣りのある優しい8号は母を庇う。 「」はリンガルを見てから、感情を押し殺した声で8号に言う。 「お前には関係ない。退け」 8号は恐る恐る頭を上げ、怯えながら隅に移動する。 「」の声が怒りに満ちていた事を8号も判っていた。 「2号、何をしてた?」 「」はもう1度2号に尋ねる。 (わ……私は…覗いて……ました、デス…) 2号の声も震えていた。「」は冷たい口調で命令する。 「頭を上げろ」 2号は怯えつつ、ゆっくりと「」を見上げる。それは あの時と同じ顔。10号を庇った時に見せた表情だった。 「覗いて、何をしていた?」 「」は気付いていた。 (…覗いて……自分で…あ、穴を…弄って…ましたデス…) 2号の身体からある臭いがしている事を。盛りのついた 実装石が放つ粘液の臭い。恥ずかしさのあまり、2号の台詞は 段々と小声になる。 ポタポタ… 涙が床に落ち始めた。恥ずかしさか、後悔なのか、怯えなのか。 半ベソだった2号は、大粒の涙を零していた。 「なぜ僕が怒っているか分かるか?」 「」の言葉を聞いて、2号は視線を落とす。 (…私は…のの、覗いてて…に、逃げ、ましたデス…グス、 デッス…ご主人様が呼んだ時……すぐに…止まらなかったデス…) 涙声の2号の言葉を聞いた「」は溜息を吐く。まるで全ての悩み を1人で背負い込んだみたいな、大きな溜息を。 「分かってるじゃないか…まぁ、覗いてたのは別に良い。実装石なんかに 見られてもどうってことないからな」 2号にとっては偽石を抉られるかのような言葉だった。 分かっていたのに。分かりきっていたのに。一番言われたくなかった、 聞きたくなかった言葉…… 「でもな、その次だ。怒ってるのはその次のお前の行動だ!」 「」の大声に、思わず身体が硬直する。 「あれほど人間に逆らうなと教えたのに……お前はまた 僕の言う事を聞かなかったな」 2号は頭を床に擦り付ける。身体は小刻みに震え嗚咽を漏らしていた。 「」は2号の髪の毛を掴もうとしゃがみ込む。 「覚悟は出来て…」 パタパタパタ! スリッパの音。Sがバスローブを身に纏い「」達の元にやってきた。 「止めて!この子達は私達に迷惑を掛けてないでしょ!?」 Sは「」の目の前に立ちはだかる。その勢いに思わず「」は後ろに身を反らす。 「…でも、これは…それに2号はこれまでにも…」 「分かってるわ。躾けなんでしょ?迷惑を掛けているなら私も処分に反対しない。 でもこの子達は、普段あれだけ私達に尽くしてくれるのよ? …ね?今回は許してあげましょう…」 Sは腰を落とし、震える2号の背中を優しく摩る。 その様子を見ていた8号が、2号に駆け寄り土下座をして 「」にお願いする。 (お願いデスご主人様!!ママを許して下さいデスゥゥ!!) 「」は暫く考え、軽く息を吐いて答えた。 「分かりました。処分はしません」 Sと8号の表情が明るくなる。 「でも、罰は受けてもらいます」 「」は毅然として言い切った。8号の表情が瞬時に曇る。 「良いじゃない。処分はされないんだから…ね?」 Sは8号の頭を撫でる。その言葉で思い直したのか、8号は 「」に向かってペコペコと頭を繰り返し下げる。 蹲って震えていた2号も、ゆっくりと立ち上がり「」に向かって 深くお辞儀をする。そして、Sにも。 (大、ご主人様…ごめん、なさいデス…グス…ありがと、エッス ございますデス…) 2匹は床を掃除すると、2人に深くお辞儀をして部屋に戻っていった。 その姿を見送り、2人はSの部屋に戻りベッドに身を沈める。 「ねぇ、罰って何をするの?」 Sが耳元で尋ねる。 「そうですね……」 「」は天井を見つめながら考える。と、突然股間にSの手が伸びてきて 「」の物を弄り出す。 「わ!?ちょ!……ダメですって!!…あ、また!た、立っちゃ!」 「ンフフフ、まーだまだ元気〜♪」 「」の寝間着から手を潜り込ませ、今度は直に愛撫する。 「」の一物はインターバルを挟んだ事もあってか、その手馴れた手付きで 堅さを取り戻す。それを微笑ましく見つめ、細い指先を絡めるように 愛撫を続けると、はちきれんばかりに怒張する。 「ン…ご立派♪これだけ回復が早ければ大丈夫よ」 Sは「」の寝間着のボタンを外し、首筋から愛撫を始める。 その時、「」は思い付いた。「」はSに言う。 「そ、そうだ。あ、い、イ!良い事、思い付きまし、あ、が!」 Sの愛撫が止まる。上目使いで「」を見て目で尋ねる。 「2号の罰ですよ」 その日の朝も2号はいつもと変わらず、Sや「」に 言われた午前中の仕事をこなし、昼食を頂いていた。 2号は内心怯えていた。「」に言われた「罰」を。 しかし「」はその素振りさえ見せず、あの日から数日が過ぎる。 「」の2号に対する態度は普段と変わらない。2号は 少し安心した。今までの罰はすぐに与えられたからだ。 2号は、目の前にあったハッキリとした大きな不安が、 ぼんやりとした不安に変わっていくのを感じていた。 でも、今までの経験上「」は自分が言った事は行ってきた。 それを考えると、ぼんやりとした不安は、また大きな不安に形を変えて 2号を襲う。それが怖かった。そして、悲しかった。 ただ、今までと違うのはSの存在だった。Sがあそこで 助けてくれなければ、あんな態度を取ってしまった自分は 間違いなく処分されていた。 「あの人がいてくれたから自分は罰で済むのだ」 それを思うと少しは気が楽になる。 『もしかしたら…大ご主人様がまた…』 あの時のSの言葉を思い出すと、淡い期待を持ちたくなる のも無理はなかった。 昼食を終え暫しの休憩。部屋に戻り昼寝を取る。 目が醒めれば、また忙しい時間が待っている。自分を助けてくれた Sの為にも、処分を思い留まってくれた「」の為にも 頑張らねばいけない。 『どうか、このまま…』 そよそよと頬を撫でる風に身を任せる。不安に 襲われながらも、2号は短い午睡の世界に入っていった。 お盆休みも終盤の土曜日の昼過ぎ、庭で遊ぶ実装石達をSが呼ぶ。 「はいはーい、貴方達ご飯よー」 Sと8号が実装石達を誘導しようとしたが、そんな間もなく 実装石達は地下室に走りこんで行く。 (デーース!!ご飯!ご飯デーーーーッス!!) (マ、マァ!!私も!!置いてかないでテチュゥゥゥゥゥ!!!) (デッフデッフ!!うるさいデスゥ!!邪魔デーーッス!!) 親と逸れた仔実装や、怪我をした実装石を2号と「」が 地下室に運び扉を閉める。 フラ…フラフラ… 2号は視界がぼんやりとして足元が覚束ないのを 自覚する。体調が悪いのか、猛烈に眠い。 「2号、どうした?」 傍にいるはずの「」の声が、遠く聞こえる音の様だ。 瞼が閉じて来る。必死で目を開けようとするが、 視界はどんどん狭く、暗くなる。 パタ 遂に2号は倒れた。可愛らしい寝息を残して。 「スゥー…スゥー…」 (デェェ!!ママ!ママァァァ!!) 8号が一目散に2号の元に駆けて来る。 8号がいくら身体を揺すっても、2号は目覚めない。 「8号、僕達はこれから出掛ける。留守番を頼むぞ」 2号を抱えながら「」が言った。 (あ、あの!?ママは大丈…) そう言いかけた8号に、「」はすぐに答えた。 「薬で寝てるだけだ」 (デ!?ママが何を!?) その言葉に8号は耳を疑い、「」の顔を見る。 表情の無い冷徹な顔付き。その顔を見ると、8号は 背筋に冷たいものを感じる。 「心配するな、処分はしないと言ったろう」 「」の言葉を聞いて、8号はハッと思い出す。 8号も気が付いたのだ。これから何が行われるかを… 「こいつらの晩御飯はそこの冷蔵庫に入ってる。 後は任せたぞ」 「………デ、デス、ゥ…」 地下室を後にする「」を、青ざめた顔で 怯えながら見送る事しか、8号は出来なかった。 「お待たせ♪あの子達は?」 Sが車に乗り込んでくる。いつもと変わらぬ 化粧と、少し派手目の洋服。 「後ろにいますよ」 Sは後部座席を振り返る。 「ンデェェェスゥゥゥ…ンデェェェェ…スゥゥゥゥ」 「テェェェェ…チュゥゥゥ…」 そこにはケージに入れられ、大イビキを掻く首から番号の書かれた 札を着けた親子実装石の姿と、同じくケージの中で 静かな寝息を立てる2号の姿があった。 「この為にこいつ等を隔離してたんですね」 「」がSに尋ねると、Sは意味深い笑顔で答える。 「ンフフ…そうでなければ良い思いなんて出来る訳 ないわ♪」 「じゃ、一旦倶楽部に行ってから向かいましょうか」 「」はアクセルを踏み込む。エアコンの効いた車内は 外の暑さを感じさせない。もっとも薬で寝かされている 2号には、エアコンの効き具合など関係がない。 それほど熟睡していた。 「なんか、ドキドキしてきましたよ…大丈夫かな〜…」 自信なさ気に「」が言う。 「フフフ、大丈夫よ。皆良い人達ばかりだから。 それに、誰でも皆初めてなのよ」 Sは軽く笑いつつも優しく答えた。「」は頭を掻きつつ 照れる。その様子を見てSはまた笑った。
