タイトル:【虐】 Gの旋律
ファイル:虐待派.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:2672 レス数:0
初投稿日時:2010/01/02-17:58:16修正日時:2010/01/02-17:58:16
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奇妙な成り行きから、アパートの大家が可愛がる実装石の『ミノ坊』を手助けする事になった虐殺派
のアキラ達。
様々な困難を乗り越えて、遂にミノ坊と公園の野良実装達は公園の美化を達成し、一斉駆除の危機を
回避する事ができた。
しかし、そんな平和もつかの間、ミノ坊に恐ろしい災厄が降りかかる・・・

※ sc1699.txt 実装の鐘 の続きです。詳しくはご参照ください。










 − Gの旋律 虐待派 −


「今は・・・朝デス?・・・夜デス?・・・・・それとも・・・もう死んでるデス?・・・・・」

薄暗い部屋の中で1匹の実装石が呻くように呟く。
様子からして辺りを見回してるつもりなのだろうが、首がことりと揺れるだけで身じろぎもできない。
禿裸の身体はかさぶたや膿だれに覆われ、焦げ跡のある頭巾を被った「ミノ坊」と呼ばれた実装石の
面影はどこにも無い。

「生きているなら・・・・・・生きているなら公園に帰るデス・・・・・・・・」



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



正月も明けて1月も半ば、夕暮れのみのり市中央公園。
数人の市の職員が新たに立て看板を設置するべく汗を流している。
もっとも、いつもより少し熱心なのは、その横で区長が見守っているからなのだが。

立て看板には、公園に生息する実装石を活用した公園美化事業が導入された事により、公園に生息す
る実装石に危害を加える事や餌を与える事が禁止される旨が明示されている。
この立て看板を、頭巾の後頭部に焦げ跡のある1匹の実装石が頼もしそうに見上げる。
今回の実装石の自立による公園美化を実現した、リーダーの「ミノ坊」だ。

「区長さん、これで作業終了です」
「ご苦労さんです。塩補さんに皆さん」

見守る区長に作業のリーダである市職員の塩補(しおほ)が作業の終了を告げる。
その足元に実装石のミノ坊と数匹の仲間がぽてぽてと歩み寄り、ペコリと頭を下げた。

 デスゥ〜

「ははは、見て御覧なさい塩補さん。ミノ坊君は礼儀正しいでしょう」
「ほぉ〜、これがリーダーの実装石ですか?」

当初この区長は中央公園の野良実装駆除を望んでいたのだが、ミノ坊の賢さを目の当たりにして考え
を変え、野良実装の自立を支援する側に回ったのはご存知の通りだ。
今ではすっかりミノ坊のファンと言える。

そのミノ坊がキラキラとした目で市職員の塩補を見上げて、身振り手振りでデスデスと話す。
公園の皆が頑張った事、今は亡き大家老人が優しかった事、応援してくれた人間がいた事、そんな事
を止め処もなくデスデスと話す。

「ははは、そうか嬉しいかミノ坊君。しかし残念ながら人間は実装石の言う事は分からんのだよ」
「区長さん、世の中には実装リンガルと言う翻訳機があるんですよ」
「翻訳機? ほおぉ、それはまた大層な物をお持ちですな」
「ええ、私は実装石が大好きですから。それに、そんなに高価なものではないですよ」

差し出されたリンガルを区長が覗き込むと、そこにはミノ坊や仲間達の感謝の言葉で一杯だった。

 < 大勢の優しいニンゲンさんが応援してくれたおかげデス >
 < 公園のみんなも喜んでいるデス >
 < 『クチョーさん』も看板のニンゲンさんも、いっぱいいっぱいありがとうデス! >

いい年をした区長だが、これには思わずしゃがみこんでミノ坊の頭を撫でてしまう。
ミノ坊は赤と緑の目をいっそう輝かせ、区長と塩補にペコペコと頭を下げる。

「あれ?・・・ これ・・・」
「塩補さん何か?」
「え? いや何でもないですよ。賢い実装石ですねぇ〜、あはははは」

怪訝な顔をしてリンガルの設定を触っていた塩補だが、区長に話しかけられてミノ坊に目を戻す。

 < 看板のニンゲンさん、本当にありがとうデス >
 < もっとお仕事してニンゲンさんに喜んでもらえるように頑張るデッス >

ミノ坊はまるで万歳するかのように両手を挙げ、表情に乏しい実装石なりに精一杯に笑顔を見せる。
それを見下ろす塩補もニッコリと笑って返す。
実にほほえましい光景だ。



「臭ぇ・・・」
「え? 何か臭います?」

少し離れたベンチに腰掛けていた二人、虐待派の山岡氏と虐殺派のアキラ。
かろうじて聞こえてくる会話を耳にして、山岡氏がぼそりと漏らしたのだ。

「何か臭いますか山さん? 別に何も・・・」
「あの塩補とかいう役人、やけに臭う」
「?」

山岡氏と塩補の顔を交互に見るアキラ。

「あの塩補って役人、実装石が大好きって言う割には、ミノ坊を『これ』って言ってたんだよ。実装
 リンガル持ち歩くほどの自称実装好きが、だ」
「まあ、そう言えば」
「それに、あいつ顔は笑ってるけど目が笑ってねぇ。突っ立って見下してるって感じだ」
「・・・確かに」

「実装石が大好きって、別の意味なんじゃないか? 激しく要注意だぜ」
「・・・・・」



     ・
     ・
     ・



「やっぱり『長老』は頼りになるデス」
「これで怖いニンゲンも、雨や風も大丈夫デス」
「いやいや過信はいかんデスじゃ。くれぐれも怖いニンゲンを刺激しては駄目デスじゃ」

茂みの中に隠すようにして作られたダンボールハウス。
そのダンボールハウスの前に、他の実装石から「長老」と呼ばれる実装石を囲むようにして3匹のリ
ーダー格の実装石が座り込んでいる。
一回り大きな体躯の実装石、緑目を焼き潰された片目の実装石、そしてミノ坊だ。

山岡氏が公園を去る前に、ミノ坊に「怖い人間が来るかもしれないから気をつけろ」と念を押した為、
皆が長老と呼ぶ古参の実装石を囲んで対策を相談していたところだ。
話し合った結果、春からは虫や木の実などが手に入る事が予測できるので、配給される実装フードを
減らしてでも自分達が安心して住める集合住宅を作ってもらおうと決まった。
これなら虐待派対策だけでなく、雨風もしのげて一石二鳥だろう。

「では、もう暗いデス。皆そろそろ帰るデスじゃ」
「長老の言うとおり帰ることにするデス」
「そうするデス」
「皆さんおやすみデス〜」

大柄な実装石はミノ坊の近所住まいなので2匹で連れ立ち、片目の実装石は反対方向に帰っていく。
年のせいで少し目じりにシワが出てきた長老は3匹を見送ると、ホゥとため息をついて家の中へと消
えていった。



「長老さんも片目さんもご近所さんも、みんな頼りになるデス〜・・・」
「ミノ坊、何を言ってるデス。お前がいなかったらワタシ達はこんな暮らしはできなかったデス」

夜の公園の植え込みの中をミノ坊と、ご近所さんと呼ばれた仲の良い実装石が家路を急ぐ。

「ミノ坊、お前は賢くて優しいデス。そして強いデス。だからニンゲンもお前を助けたんデス」
「そ、そんな事ないデス。ワタシなんて・・・」

「いいデスか、ミノ坊。ワタシはそんなに頭は良くないデス。それでもこれぐらいの事は分かるデス。
 野良の実装石がニンゲンを手伝ってゴハンをもらうなんて聞いた事がないデス。おまけに今度は家
 まで作ってもらうデス。こんな事ありえないデス」
「デスゥ・・・」

「それもこれも、ミノ坊、お前の言う事を聞いたからデス。お前は凄い奴デス。糞蟲以外の公園の皆
 は、全員お前について行くデス」
「ワ・・・ワタシが頑張ったのは・・・皆と一緒にいたかったからデスゥ・・・・」
「デッフン! 今度は住む家も一緒デスw」
「デスゥw」

確かに公園の野良実装の自立化には、人間や実装獣の隠れた支援があったのは事実だ。
しかし現実にはそれだけでここまでの成果を出す事は難しいだろう。
ミノ坊がご近所さんと呼ぶ大柄な実装石の理性的な発言からは、優良な個体である事がうかがえる。
長老も、恐らく片目の実装石も、ミノ坊の良き協力者として助け合ってきたのだろう。

「公園の皆がいてくれて心強いデス」
「そうデス。皆が力をあわせれば怖いものなんて無いデッス!」

「そ〜だとイイねぇ〜?」
「「デ?・・・」」

 シューーーッ!

振り返った2匹が最後に見たものは人間の足だった。

「これはねぇ〜、実装ネムリっていう眠り薬のスプレーなんだよぉ〜」
「って、もう寝ちゃってるよねぇ〜www」

折り重なるように倒れた2匹を覗き込むように笑うのは、昼間に実装石達の為に立て看板を立ててい
た市職員の塩補だった。

「大体さ〜、君達は実装石の分際で生意気なんだよ〜ん。生意気・・・」
「生意気っ!! なんだよっ!!」

いったい何の琴線に触れたのか、がらりと口調が変わり人相まで豹変する塩補。

「頭が悪くて醜いゴミクズ生物の分際で! 市の税金で自立だと!? ふざけるなっ!!」
「全く愛護派共は始末に終えない! 愚民共がっ!!」
「公務員である俺様が市政を導いてやらないとろくな事を考えないっ、ありがたく思え!」

今度はニヤリと笑うと、すぅ、と一呼吸置いてリンガルを覗き込む。

「長老の家は先程のゴミ箱だから分かるしぃ〜、後は片目って奴だねぇ〜」
「待ってろよ糞蟲ちゃ〜んw すん〜ごい事してあげるからねぇ〜〜www」



     ・
     ・
     ・
     ・
     ・



「おっはよ〜! 糞蟲ちゃんたちぃ〜! ○月○日土曜日、朝の朝礼ですよぉぉ〜w」

「デッ!?」
「デスゥ?・・・」
「デス!?」
「デデェ?」

いきなりの大声に起こされる4匹の実装石。
片目の実装石、大柄な実装石、ミノ坊、長老。
4匹があたふたと見上げると、あたりは薄暗く天井から裸電球が一つぶら下がっているだけ。
ミノ坊が歩き出そうとするとコツンと見えない壁に当たってしまう。

「デス? 何かあるデス? でも見えないデス」
「見えないのに何かあるデス? そんなバカなデス」
「ミノ坊、大きいの、それはニンゲンがガラスと呼ぶものだと思うデスじゃ」

ミノ坊と大柄な実装石がペタペタと周囲を大きく囲む見えない壁、ガラスを触っていると、物知りの
長老が口を開く。

「「がらす・・・デス?」」

「ん? どうしたデス、片目?」

3匹が振り向くと、片目がガチガチと歯を鳴らして震え上がっている。
歯の根も合わさらないかと思われる口からぶつぶつと小声が繰り返されるだけだ。

 マチガイデス マチガイデス コレハナニカノマチガイデス ユメデス コレハワルイユメデス キットナニカノマチガイデス ・・・・・

3匹が片目の視線を追っても、作業台や何に使うかわからない人間の道具が目に入るだけ。
実装石が恐れる天敵などどこにも見当たらない。

「片目、なにを震えて・・・」

「はいはいは〜〜い! 無視しちゃダーメー! まずは人間様に『おはようございます』は!?」

「「「「 デ? 」」」」

4匹が暗い小部屋を見渡すと、入り口のドアの前に人間が立っている。
塩補だ。

 デ? デスデスデデス? (看板を立ててくれたニンゲンさんデス?)

塩穂がドアの横にある2個口のスイッチのうち、下部のスイッチをパチンといれる。

「昨日のニンゲンデス?」
「そう、昨日の人間様ですよ〜んw」

「ふふふ、天井を、みぃ〜あ〜げて〜ごらんんん〜〜♪ スピーカーがあるだろう? あそこから君
 達の言葉が翻訳されて流れるだよン」

塩穂が指差す天井を見上げると、そこには集音マイクと音声リンガルから出力される音声を流すスピ
ーカーが埋め込まれている。

「さあ君達、人間様にご挨拶ですよン!」
「ニンゲンさん、ここはいった・・・・」

「何度言えばわかるんだこの糞蟲どもがあああっっ!!! 挨拶だっ挨拶ぅっ!!!!」
「「「「 デヒィ!? 」」」」

「貴様ら誰に向って口を聞いてるんだ! ああっ!? 人間様の中でも安定した地位を誇る公務員様
 だぞ公務員様っ!! みのり市のサラリーマンの平均年収が460万円の中で年収680万円の俺
 様に向って挨拶一つできないのかああっっ!!!」

 ドガーン!!

「「「「 デハヒャアア!? 」」」」

豹変した塩穂が力まかせに壁を殴りつける。

「おっ おはおはっ おはようございますデスゥ」

歯をガチガチと振るわせた片目がやっとの事で挨拶を返す。
事態が飲み込めないまま後に続くミノ坊達。
そこでプンと異臭が塩穂の鼻を突く。
さすがのミノ坊達もこの予想外の出来事には堪らず脱糞してしまったからだ。
だが、塩穂の顔を満面の笑みが覆う。

 塩  穂  が  望  む  結果だからだ。 

「おやおや糞蟲ちゃん達ぃ〜。怖いんでちゅか〜〜? まったく実装石はウンコ蟲でちゅね〜〜w」

「ニッ ニンゲンさん、ここはいったいどこデス!?」
「ワタシらを公園に戻して欲しいデスじゃ」
「ニンゲン! ここから出せデス!」

塩穂の態度が軟化したと見るや、ミノ坊達は一斉に声を上げる。
塩穂はそれを嬉しそうに見ているだけなのだが・・・

「ん? お前なにを震えている?」

声も上げずにただガタガタと震えている片目に気づき、興味深げに問いかける塩補。

「お前、その緑の目は人間に焼き潰されたな? ・・・・そうか、そういう事か。ここがなにをする
 所だか解っているんだな?」
「デ・・・デヒ・・・・デデデ・・・」
「答えろ、片目の実装石。答えないとどうなるか、『知っている』んだろw」

他の3匹の視線が向けられる中、片目はやっとの事で声を絞り出す。

「デ・・・ヒ・・・昔・・・ニンゲン・・・様に飼われていたデス・・・・」
「それで?」
「最初は優しかったデス・・・でも、ある日いきなり怖くなって・・・・・いっ・・痛い事、いっぱ
 いされたデス」
「なるほど、上げ落としだな。お前のご主人様は虐待派だった訳だ」

塩穂はしばし考え込み、やおら片目に手を伸ばすと頭巾を取り上げる。
と、そこにさらけ出されたのは禿頭ではないか。

「な〜るほど、髪は頭巾に縛り付けてあるカツラか。おおかた死んだ他の実装石の髪や服に細工して
 身に着けていたんだな? ははっw なかなか弄り甲斐のある玩具じゃないかw」
「デヒィィィィ・・・・」

「じゃあ、どうしてお前は生きている? ご主人様に逃がされたのか?」
「・・・あ、ある日、黒い服を着たニンゲン様が何人も来て、ご主人様を連れて行ったんデス。その
 時に、壊れた水槽から逃げ出したデスゥ・・・・」
「黒い服の人間?・・・・警察かヤクザか? まあドジを踏んだって事だな、馬鹿め」

ミノ坊、大柄な実装石、長老の3匹は、初めて見る片目の禿頭に唖然とした。
禿裸の実装石など、本来はとっくの昔に迫害され命を落とすか奴隷として生き地獄を味わっているは
ずなのだ。

「凄いデス、片目さん。とっても器用デス〜」
「お前、飼い実装だったデス?」
「そ、そんな事に感心している場合じゃないんデス!」
「デス?」

初めて声を荒げる片目にたじろぐミノ坊達。
その片目の視線の先には満面の笑みの塩穂が。

「そ〜だねぇ〜、そんな場合じゃないんだよ〜w これ見てごらん、周りの器具や薬品棚。これは君
 達に楽しんでもらう為の道具なんだよぉ〜〜、ふははははwww」

4匹は改めて部屋の中を見回してみる。
窓も無い裸電球一つだけの薄暗い小部屋に、無機質な流し台とスチール棚。
そこには包丁や鋏、金槌に鋸、磔台、ガスコンロ、ジューサーミキサー、その他の怪しげな器具や道
具の数々。
塩穂が器具の洗浄や部屋の換気に気をつけているものの、言われてみれば同族の血肉の匂いが漂って
いるのが分かる。
ミノ坊達は、ようやく片目が恐れているこの状況をおぼろげながら理解する事ができた。

「ニンゲンさん! ワタシらはなにも悪い事はしてないデスじゃ! ここから!・・・・」

 シューーーッ!

「はいは〜い、戯言は後で聞きますからねぇ〜〜w」

こうして、4匹は再び眠りの世界に追いやられた・・・・

     ・
     ・
     ・

 ピシーーーンッ!

「デギャー!?」

突然の激痛に跳ね起きる大柄な実装石。
その悲鳴につられてミノ坊や長老達も飛び起きた。

「デッ デヒ!?!?」
「やあ、おはよう! 糞蟲ちゃんたちぃ〜w」

突然起こされた大柄な実装石は何が起きたか判らずに、ただただ顔をさするばかりだ。
そして見上げれば、そこには馬上鞭を持った塩補がニヤニヤ笑って立っている。
本来は馬を傷つけないよう先端に細工がしてある馬上鞭だが、それでも脆弱な肉体の実装石には堪っ
たものではない。

「デッ! ニンゲンッ・・・」
 パシーーンッ!
「デギャン!!」

「違う違う違ぁぁ〜う。今日からはね、『人間様』と言いなさぁ〜い、分かったぁ〜?」
「大きいの、逆らっちゃ駄目デスじゃ! 殺されるデスじゃ!」

塩補の鞭を見て食って掛かろうとした大柄な実装石だが、長老が諌めるまでも無く二打目の激痛にの
た打ち回りそれどころではない。

「はっはっはっはw いいねぇ〜w じゃあ、いくつか説明をするからぁ、よ〜く聞くようにね〜?」

「まず説明その1。君達も気づいているとぉ〜りぃ〜、俺は実装石を虐待する怖いニンゲンで〜すw」
「デエエ!?」
「聞いて欲しいデスじゃ! ワタシらはニンゲンさんの迷惑にならないように・・・」

 ビシーーッ!
「デギャウッ!!」
「人の話は最後まで聞こうねぇ〜? それに『様』が抜けてるよンw」

「!!・・・・ だっ・・・誰か助けてデスーーッ!!」
「おほw」
「悪いニンゲンさんに捕まったデスー!! ワタシ達は何も悪い事してないんデスーーーッ!!」
「あっははははw」

ドンドンと塩補は壁を叩いてみせる。

「この部屋の悲鳴や音はね〜、絶対に外には聞こえないんだよ〜ン!! はははっw」
「デ!?」
「どれだけ君達が泣こうが叫ぼうが、絶対に誰も助けに来ないのさ〜、ぜぇ〜ったいに、ねぇ〜w」
「デスウウ!?」

塩補は一人住まいのアパートの一室の中に、虐待専用部屋として更に小部屋を築造していた。
大音量で音楽鑑賞をするとの名目で工務店に作らせた、遮音・防音に特化した小部屋だ。
塩補の言うとおり、外に助けを求めるのは絶望的と言えよう。

「つづいて説明その2。君達が寝ている間に偽石は取り出してぇ、補強コーティングを施して濃厚な
 栄養剤に漬け込んでありまぁ〜す。」
「「「「 デエ!? 」」」」
「どれだけ肉体が傷つこうとぉ、どれだけ精神が崩壊しようとぉ、偽石は崩壊する事無く栄養を補給
 され続けるので〜す。半分不死身に近い身体って事だよ〜、凄いね〜〜w」
「「「「 デエエエ?・・・ 」」」」

「最後に説明その3。俺様が君達・糞蟲ちゃんを連れてきた目的。分かるかなぁ〜?」
「ニンゲンさん、ワタシ達は公園をきれいにしてゴハンをもらって生活しているデス! なにも悪い
 事なんてしていないデス! ニンゲンさんのお役に立てる実装石デス! だから早く公園に返して
 欲しいデスー!」

ミノ坊が水槽のガラスをペシペシ叩いて必死に訴える姿を見て、塩補は満面の笑みになる。
どうやらこれも 塩  穂  が  望  む  展開らしい。

「そぉ〜うそうそうそうw それだそれw ワタシは美しいデッス〜ン、賢いデッス〜ン、だからも
 っと大事にして欲しいデッス〜ン、いやするべきデッス〜ンってさ。いつもいつも定番なんで困っ
 ちゃうよね〜もうw」
「そっ そんな事言ってないデス!」

「くっさい体臭漂わせて生ゴミ漁ってさぁ〜、食い物無くなったら自分の仔を食ってさぁ〜、くだら
 ない理由で同族リンチやってさぁ〜、哀れに思って優しくするとつけあがってさぁ〜、それでちょ
 っと怒ると糞をブリブリたれてさぁ〜」
「だからそうならないようにお仕事をしてるんデス!」

「もうどうしようもない糞蟲が実装石なのに、ちょっと変わった事できるぐらいで特権意識持っちゃ
 ってさぁ。激しくお笑いなんだよねぇ〜〜w」
「ご、誤解デス! ワタシ達は!・・・」

「だからこの俺様が直々に天誅を下してやろうて言ってんだ、この糞蟲共めっ!!!」
「「「「 デヒャア!? 」」」」

「いいかぁっ! 糞蟲は所詮は糞蟲なんだっ! 糞蟲はどこまで行っても糞蟲なんだよっ!! 大阪
 梅田に行っても!沖縄にゴーヤチャンプルー食いに行っても!青森ねぶた祭りに行ってもっっ! 
 大分県以外はなぁっ!!!」

「お前達にぃ!この塩補様がぁ!骨の髄にまで教えてやるぞっ! 実装石は皆糞蟲だってなぁ!!
 両手をついてぇーーありがとうございますと言ってみろおおおっ!!!!」
「「「「 デヒャアアアーー!! 」」」」

水槽に覆いかぶさるように狂気を叩きつける塩補に、4匹は尻餅をついてパンコンする。

「ハア ハア ハア ハア・・・・ ん? なんだ?」

その中で、ガクガクと震える足で立ち上がる1匹の実装石、ミノ坊だ。

「ワ・・・ワタシ達が糞蟲でないと分かったら、公園に帰してくれるデス?」
「はあ???」
「ミッ ミノ坊っ 逆らったら駄目デスじゃ!」

「ニンゲンさんは偉いニンゲンさんみたいデス。偉いニンゲンさんは悪い事しないはずデス。だから
 ワタシ達が糞蟲じゃない事を分かってもらったら、きっと公園に帰してくれるデス!」
「ぷぁっはっはっはっはっはっはwww」
「デ? デデ? デプ? ・・・デププw」

鳩が豆鉄砲を喰らったかのような顔の次は、今度は腹と頭を抱えて笑い出す。
訳が分からない長老はうろたえて愛想笑いをするしかない。

「デ?・・・ なにが・・・・」
「面白い! 俺様に楯突く気だとは! やってみろ! できるモンならやってみろ! お前達は糞蟲
 じゃないと、この俺様に証明できるものなら見せてみろ!!」

この馬鹿共は自分の立場が分かっていない、だからこんな馬鹿げた事を言い出すのだ。
まったく愚かで自意識過剰なクソ生物だ。
そう見て取った塩補の目は、これ以上に面白い事は無いとばかりに爛々と輝く。

「それとだな・・・」
 バシー!  「デギャウ!」
 ビシー!  「デギャー!」
 パシーン! 「デヒィィ!」
 ビシャー! 「デギィー!」
「『様』をつけろと言っただろっ!『人間様』とぉ!。一度言ったらっ!覚えろっ!!」

 ビシィ!ビシィ!バシー!ピシー!ベチィィ!ビシィー!

馬上鞭の洗礼に悶えうつ4匹。
肉は裂け赤や緑の体液が滲み出す。
そして極上の生贄に恍惚とする塩補。

「ひゃっひゃっひゃっひゃっw さあ、『地獄』の始まり始まりぃ〜〜〜〜w」



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



「今は・・・朝デス?・・・夜デス?・・・・・それとも・・・もう死んでるデス?・・・・・」

今現在に至るまでの出来事を走馬灯のように思い出していたミノ坊。
切られ、潰され、抉られ、焼かれ、刺され、削られ、砕かれ。
拉致からどれほどが経ったのだろうか、長い長い悪夢のような日々だった。
そして今も、痛みと傷で身動きもままならないものの、塩補の偽石処理のせいで身体は壊死する事も
許されず、苦痛と再生の無限ループを味わい続けている。

「生きているなら・・・・・・生きているなら公園に帰るデス・・・・・・・・」



 カチャカチャ ・ ・ ・ ・

いつもの聞きなれたドアノブの音に、死んだように横たわっていたはずの禿裸の4匹に戦慄が走る。
塩補だ、この地獄部屋の主、塩補が帰宅したのだ。

 デ・・・デヒ・・・・
 デェェェ・・・
 ブリブリブリー・・・・
 デェ・・・デェェェェン・・・

4匹の間から呻き声ともすすり泣きとも判らぬ声が漏れる。
哀れな4匹の生贄達は恐怖と苦痛に屈服しつつあった。
糞蟲ではないと認めさせれば生きて帰れる〜 非力脆弱な実装石がこの限りなくゼロに近い可能性に
到達するにはどうすればいいのか・・・・

 ガチャリ  バタン!

「糞蟲ちゃ〜ん、たっだいまぁ〜〜! 元気にしてたぁ? なぁんちゃってwww」

元気な訳が無い、あるはずが無いのだ。
しかしミノ坊達には歯軋り一つする気力さえ残されていない。

「さぁて、今日はお仕事中に新しい遊びを考えついたよw 君たちはなかなか強情だからねぇw」

怯える4匹に一瞥をくれるとニヤリと笑い、背を向けて「新しい遊び」の準備を始める。

「今日はいったい・・・なにされるデス?・・・」
「デェェェ・・・」

「おおっとぉ、忘れるところだったよ〜ン。とりゃっw」
「デギョワア゛ア゛ア゛ア゛ッ!?」
「片目さん!」
「デ? 片目!?」

やおら振り返った塩補は水槽の中の片目を鷲掴みにすると、手にした包丁を焼き潰されている緑目に
突き立てる。
それも切り取るというような生易しいものではない。
ゴリゴリとまるでかき回すかのように突き立て、骨ごと抉り取る。

「デッ!!!・・・ギッァ・・・・」
 ブリブリブバー!

赤緑の鮮血に染まった視界とは裏腹に、片目の脳裏には閃光が迸る。
作業用の流し台に滝のように流れ落ちる緑糞、それに混じるおびただしい量の赤緑の血。
緑目とその周囲の肉の摘出が終わる頃には、片目は精も根も尽き果てぐったりとしていた。

塩補は意識の無い片目をそのまま丸洗いにすると、薬品棚からなにかの薬品を注射器に移し無造作に
片目の頭に突き立てる。
一度だけピクリと動いた片目を放置し、塩補はまた背を向け準備を続ける。

「か、片目さん?」
「片目・・・」
「生きてるデス?」

残された3匹は心配そうに見守るが、作業用の流し台の位置は高く、水槽からは様子が望めない。

「ニンゲン様、もうこんな事は止めて欲しいデス」
「そうデス」

あまり喋らない長老も重い口を開く。

「もういい加減飽きたはずデスじゃ。どうしてこんな事を続けるデス?」
「ん? ん〜〜〜・・・」

しかし塩補は面倒くさそうに取り合わない。
3匹はその場に力無くへたりこむ。



「よし、と。じゃあね糞蟲ちゃんたち。俺様は晩飯食ってくるから、楽しみに待っててね〜〜w」

準備を終えた塩補は嬉々として虐待部屋を後にする。
3匹は一度はほっとするものの、この後なにが起きるのか気が気でない。

「いつまで・・・こんな目にあうデスじゃ・・・」
「わからんデス・・・」
「いっそ・・・いっその事・・・糞蟲だと認めて死んだ方が楽デスじゃ・・・」
「長老! あんたまで何を言い出すデス!?」

「ここでワタシ達4匹が死ぬという事は、残された公園のみんなも死ぬという事デス」
「「 ミノ坊?・・・ 」」

「応援してくれたニンゲンさんが最初に言ってたデス。実装石はニンゲンさんの迷惑になるから全部
 殺されるデス。邪魔者扱いされずに生きていくには、力も知恵も無いワタシ達には公園のお掃除が
 精一杯デス」
「「 ・・・・・ 」」
「誰かが生きて帰ってお掃除を続けないと、公園の皆は逆戻りしてきっと皆殺しにされるデス。だか
 ら絶対に生きて帰るデス。自分だけの命じゃないんデス・・・」
「「 デス・・・・ 」」

小さな小さな声で、しかししっかりと言葉をつむぐミノ坊。
この小さく非力な実装石に、いったい何がそうさせるのか・・・





     ・
     ・
     ・
     ・
     ・

 ガチャリ

 「「「 デ!? 」」」

翌日の朝、再び虐待部屋のドアが開いた。
休日の一日を虐待づくしで楽しもうと、ご機嫌の塩補が現れる。

「よ〜し、片目の糞蟲ちゃん〜、おっきですよ〜w」

手にしていた物でゴツゴツと片目の額をノックする。

「デェ? い、痛いデス。何するデス?」
「いいからいいから。ほら、これ見てみなよYou」
「デ? デデエ!?」

塩補が片目の前に差し出したものは、人間が使う丸い手鏡だった。
そこに映し出された片目の顔は、抉り取られた緑目が再生し終わった、赤と緑の両目がそろった正常
な顔だったのだ。
鏡という物が良く解らない片目だが、自分の顔をさすり手鏡を覗き込み、直感的に事態を理解した。
恐らくは片目の頭に注入した薬剤は偽石活性剤か栄養剤の類だったのだろう。

「ワッ ワタシの両目が治ってるデス! 治ってるデス!! 仔が、仔が生めるデスゥゥゥ!!」
「ふふっ 俺って意外と優しいでっしょ〜ン?」
「片目さん凄いデス!」
「でも、どうしデスじゃ?・・・」

血涙を流して、信じられないと言わんばかりに塩補を見上げる片目。
そう、当然信じる必要などは無いのだ。

塩補は先程から火にかけていた流し台の大きな鍋を確認すると、やおら片目の両腕を掴み持ち
上げる。

「デギャーー! いっ・・・痛いデス手がちぎれるデスー!! デーギャーー!!」

ぐつぐつと煮えた大鍋の上。
2本の鉤爪に両手を貫かれて天井から吊り下げられ、激痛と熱気にあおられる片目は絶叫を上げて悶
え苦しむ。
他の3匹はなす術も無く水槽の中で様子を見守るしかない。

「ひゃひゃひゃひゃw そりゃ痛いでしょ、手に穴があいてるんだも〜ンw」
「ニッ・・・ニンゲン様!! 下ろしてくださいデッスゥゥ!!・・・・」

毎日毎日、死んだ方がマシだと思わせるような苦痛をもたらす相手を人間様と呼び、血涙を流して許
しを懇願する片目。
悪魔の偽石処理が無限の再生力を供給し、色あせる事の無い新鮮な激痛がそうさせるのだ。

「今日はねぇ〜、片目ちゃんにとっておきのプレゼントがあるんだよ〜w」
「デ? デヒ?」
「せっかく両目が治ったんだから、元気な仔を生もうね〜w」
「デデ!? 赤ちゃんデス???」

そう言って片目の緑目に赤インクを添加する塩補。
片目の身体にすぐさま異変が現れ、腹部が急激に膨れ上がる。

「デヒィーーィ! だっ駄目デス! 今出てきちゃお鍋に落っこちるデス! ・・・・ニンゲン様!
 赤ちゃんが死んじゃうデス! 下ろしてデスゥーー!!」

しかし片目の叫びも空しく、強制妊娠の作用は止まらない。

「出るデス! 出るデス出るデス出るデスゥゥ!! ニンゲン様、赤ちゃんが死んじゃうデス!」
「ニンゲン様! 止めてあげてデス! 助けてあげてデスゥ!!」
「ひゃっひゃっひゃw じゃあ糞蟲赤ちゃんが死なないよう、応援してあげようかw 頑張れ〜w」

偽石を漬け込んである栄養剤の効果も手伝って、いよいよ片目の腹は膨れ上がる。
初めての仔を死なせまいと短い両足をイゴイゴと絡め、総排泄孔を閉じようと必死でもがく。
が・・・・

「デェェ〜! 駄目デス出るデス! ニッ ニンゲン様助けてくださいデス、初めての仔デス!!」
「じゃ〜さぁ〜 もっと頑張らないと〜〜w」
「デヒィェェ・・・・な、なんでも言う事聞くデス! だから!・・・」
「なんでも? だったらさぁ〜、あっさりと『自分達は糞蟲です』と認めちゃいな〜〜www」
「デデェ!? そ、それはデス・・・・」

なんでもと言ったものの、塩補のこの要求はさすがに受け容れ難い。
糞蟲であると認める事は自分の死だけでなく、公園の実装石の全滅を意味する。
糞蟲と呼ばれる実装石が他実装の身を案ずるとは、いったい如何なる変貌なのか?
ミノ坊のカリスマが成せる業か、糞蟲と呼ばれたはずの自分達が成し遂げた偉業のせいか、はたまた
その偉業を支えあった仲間達への意識の変質なのか・・・・

しかし片目の想いとは裏腹に、腹の中の仔はどんどんと膨れ上がり今では総排泄孔から頭が見えてい
る。

「デギャァァ! 出るデス出ちゃ駄目デス! ニンゲン様お願いデズゥゥッ!!」
「だぁ〜からぁ、糞蟲ですと言っちゃいなぁ〜w」
「それ以外ならなんでも聞くデス! ワタシの命もあげるデス! ずっと欲しかった死ぬほど欲しか
 った初めての仔なんデス!! だからだからっ!!!」
「くぅ〜そぉ〜むぅ〜しぃぃ〜 だってばさw」
「嫌デス!出るデス!駄目デス!死んじゃうデス!戻るデス! デギャアアアアアアッ!!」

ブボボボと勢い良く仔が噴出す。
粘膜に包まれた小さな小さな蛆状の仔実装。
しかし定番の産声を上げる事も叶わず、煮えた鍋の中で一瞬にして絶命する運命。
必死の抵抗も空しく、塩補の馬鹿笑いと共に溢れ出す仔は次々と鍋の中に消えていく。

「テッテレー ママー コンニチハレフー」
「デ・・・デスッ!」

その中で、片目は不器用な短足をうねらせて、奇跡的に1匹の蛆実装を足で絡めとる事ができた。
塩補はこれは面白いとばかりに片目の目を着色し、元の赤緑の色に戻して様子を眺める。


「マッ、ママデス!ここデス! 仔デス仔デス! 初めての仔デスゥゥー!! デエェェェ〜ン!」
「おお〜、頑張った頑張ったw でもねぇ〜、その仔ぬるぬるしてて今にも落っこちそうだよ?」
「デデエ!? ニンゲン様お願いデス、この仔を助けてデス!」

またもやニヤリと笑う塩補。
言う事は一つだ。

「そぉ〜だねぇ、じゃあ『ワタシは糞蟲デス』って言ってみよ〜か〜w」
「デエ!? それは出来ないデッス! あ゛あ゛でも落っこちるデッスゥ! 誰か助けてデデデ!」
「早く〜言って・・・・」
「落ちるっ落ちる落ちるデッズ! ニンゲン様早く早く早くデッズゥゥ!!!」
「だから・・・」
「デギャアア落ちるデス早くデス助けてデスニンゲン様ニンゲン様ニンゲン様!!!!」

 ポチャン・・・

「!!!・・・」
「「「 デ!・・・ 」」」
「チッ」

皆が見守る中、生まれたばかりの脆弱な仔は、悲鳴を上げる事も無く熱湯の中で即死した。
そのちっぽけな骸は、絶句する親の眼下で煮え立つ気泡に揺られてゆらゆらと漂う。

「まったく強情な糞蟲ちゃん・・・」
「デ ギ ャ ヴ ァ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ーーーーーー !!!!!」
「うをを!?」

まるで獣の咆哮かと思えるような絶叫にうろたえる塩補。
爆発したかの形相で血涙を振り撒く片目に圧倒され二の句がつげない。

「このクソニンゲーーーーンッッ!!!」
「なっ なんだとぉ!?」
「初めてのォーッ 仔だったデェェッスッッ!!!!」
「糞蟲が調子にの・・・」
「ワタシがしゃべってるんデッジャア゛ア゛ッ!!! 黙って聞けデッズァ゛!!!」
「なぁ!?・・・」

「虐待派のニンゲンに地獄のような目に遭わされて仔の産めない身体にされたデス! それでも運良
 く公園に逃げて、飢えと寒さと危険いっぱいの中を生き延びてきたデッス!」

「もしかしたら仔が生めるかもしれないと、奇跡を待ったデス! 仔が生まれたら! ゴハンをあげ
 て! 抱っこしてあげて! いっぱいいっぱい可愛がるんデス! ・・・・そんな夢を持ってたデ
 ス・・・・」

「なのに・・・なのに・・・お前だけは絶対許さんデッジャァ゛ーーッッ!!!!!」

「こっ この糞蟲!・・・」

予想外の反応にうろたえた塩補は、ようやく震える声ではき捨てる。
狼狽を怒りでかき消すように、その拳を片目めがけて打ち下ろす。

「許さないだとぉ!? やれるもんならやってみろーーっ!!!」

 ドバシャーーーーー!!


「あっ あちちちっ!!」

叩き落された片目は吊り下げられた両腕を引きちぎられ、勢い良く鍋の中に落ちて熱湯を跳ね上げる。

「熱い!・・・ この、ちくしょう!・・・・」
「片目さーん!?」
「片目!?」
「返事するデスー!」

熱湯の飛沫がズボンに跳んだ塩補はたたらを踏む。
片目を罵りながらも慌てて部屋を飛び出し、水を求めて風呂場に走る。
そして一方の実装石3匹達は、鍋の中の片目の安否を気遣い悲鳴にも近い声を上げる。
しかしその声に応えたものは・・・

「絶対に! 許さんデッジャーーーッ!!!」
「か、片目?・・・」

「お前っ・・・だけはっ・・ガブゥォッ・・・・ゆ゛る゛ざん゛デズァ゛・・・」

ミノ坊達が入れられている水槽は低い台の上にある為、片目が叩き落された鍋がかろうじて見えるだ
けだ。
中がどうなっているかは分からない。
分からないが〜、どうなるかは誰にでも分かる。
鍋がゴトゴトと揺れるのは、片目が暴れる為か、煮え立つ為か?・・・

「ユ゛ ル゛ サ゛ ン゛ テ゛ ス゛ ゥ゛ ・ ・ ・ ・」
「片目さん・・・」

「・ ・ ・ ・ ・ ・」

 ボパンッ!!

「「「 デヒ!? 」」」

小さな破裂音は薬品棚の中から聞こえてきた。
歪なまでに補強コーティングされた偽石、その頑強なはずのコーティングさえ押し破るほどの異様な
苦痛と損傷を受けた結果の現象だ。

ミノ坊達にはなんの音だか分からなかったが、片目が死んだのだという事はおぼろげに理解できた。



間も無く、悪魔は部屋に舞い戻った。
火傷は大した事は無かったのか、ズボンを履き替えたその足をドスドスと踏み鳴らし、片目を煮込む
大鍋に近づく。

「とびっきりの糞蟲めがぁぁぁっ!! この塩補様に楯突くとは立場を弁えろっっ!!」

とびっきりの糞蟲につばを吐きかけてやろうと鍋の取っ手を掴み上げる。

「じっくり煮込まれて少しは反省・・・・ うわああっ!!」

いったい何があったのか、悲鳴を上げて尻餅をついた塩補は熱湯の入った大鍋を取り落とした。
今度こそ跳ね上がった熱湯を顔面に受け、湯気を上げて顔を仰け反らす。
だが塩補は顔の火傷など意識に無いかのごとく、足元を凝視して腰を抜かしわななく。

熱湯をこぼして軽くなった鍋がごろりと床に転がる。
そのもうもうと立ち込める湯気から見えた物は、まるで悪鬼のごとく睨みつける片目だった。
これが実装石の顔とは到底思えない、ありったけの怒りと憎悪をぶちまけた凄まじい形相の。
こんな恐ろしい顔が実装石に、いや生き物にできるのか。

ゆらゆらと鍋の中でゆれる片目の白く濁った目は、まるで生きているかのように眼前の塩補を睨みつ
ける。
絶対に許さない、と。

「ひっ ひいいいいいいい!!!!」

ハリボテの塩穂様は恐怖に駆られ、腰が抜けたまま後ずさり逃げ出す。
まるで、いつも追い散らしている実装石の様に。

「地獄デスじゃ・・・」

水槽に張り付き事態を見守っていた長老は、大きなため息とともに座り込み言葉を漏らす。

「ニンゲンに・・・ニンゲンに逆らっては駄目なんデスじゃ・・・」

大柄な実装石は真っ赤な顔で歯を食いしばり、片目の赤くただれた骸を見つめる。
その足元では床にうなだれたミノ坊が肩をゆすりすすり泣く。

「片目さん、助けられなくてごめんなさいデスゥ。赤ちゃん可哀想でごめんなさいデスゥ・・・」

片目が死んでしまった事は悲しい、しかし片目があの様な恐ろしい顔で死なねばならなかった、理不
尽さがなにより悲しかった。
そして何もしてやれなかった自分の無力さに腹が立ち、恨めしさにただただ涙があふれ出た。

大柄な実装石は叫びだしたい衝動を抑えながら、ミノ坊の背中をさする。
背中をさすりながら、まるで自分に言い聞かせるように呟いた。

「片目が許せないって言うなら・・・ワタシも許さんデス・・・。絶対デス・・・」



     ・
     ・
     ・
     ・
     ・
     ・



あの日から塩補の様子は変わってしまった。
塩補と目を合わせる事すら恐れる長老は気づくはずも無く、単純な性格の大柄な実装石にも分からな
い。
ただミノ坊にだけは、いつもと変わらないはずの塩穂の態度に、どことなく余裕が無くなっているよ
うに感じられた。



「さぁ〜、糞蟲ちゃん。お食事の時間ですよ〜〜ン」

顔の左部分に包帯を巻いた塩補が、大きめの皿を差し出す。
長老と大柄な実装石の前に置かれたその皿には、ほくほくと湯気をあげる分厚いステーキがのせられ
ている。
ステーキから漂う濃厚な香りには、実装石ならば一発で理性を破壊されてしまうだろう。

 グググゥゥゥ〜〜〜・・・・
 グキュルキュル・・・

3日間、水も食料も与えられていない2匹の内臓が、傍目に分かるほどの自己主張を始める。
だが、プルプルと震えて無視をする2匹は食べる訳にはいかなかった。

「となりのミノ坊にも同じものを食わせるのなら、ありがたく頂くデス」

ずいと胸を張って塩穂に言い放つ大柄な実装石の右手は、まだ再生の途中であるらしく歪だった。
その切り落とされた右手は、大柄な実装石が顎で示す間仕切り板の向こうの水槽、ミノ坊が入れられ
た水槽の中に転がっている。
塩補がこれでも食えと、中に入れたのだ。

「大丈夫〜、お隣の糞蟲ちゃんには、糞蟲ちゃんに相応しい餌をあげたからね〜w」
「なら、これは食えないデス」

どかりと腰を下ろした大柄な実装石は、残った左手で皿を水槽の隅に押しやった。
塩補の顔が、わずかにピクリと動く。

今現在のミノ坊の偽石に栄養剤は与えられていない、よって空腹感は相当なものだ。
腹が減ったらこれを食えと、大柄な実装石の右手を与えられたのだが、まさか共食いをする訳にはい
かない。
共食いをすれば糞蟲、兵糧攻めの仲間を無視してステーキを食えばこれまた糞蟲。
今回は飴と鞭をおりまぜた塩補の兵糧攻めなのだ。

「ふん、ならば好きにすれば?」

忌々しそうに塩補は部屋を後にする。
無理強いして食わせてしまっては、糞蟲だと言えなくなるからだ。
もっとも、飴と鞭への方針変更だけでなく、この辺の押しの弱さにも片目の一件が影響していると言
えるだろう。

「腹が減ったデスじゃ・・・」

ダラダラと涎をたらした長老がステーキ皿を凝視して呟く。
もちろん、食ってしまえば死が待っているのだが、実装石の脳みそでは後先を考える理性など期待で
きない。
公園の実装石から頼りにされ、長老と呼ばれる実装石だからこその自制心だ。

「ミノ坊、生きてるデス?」
「ワタシは大丈夫デス。ご近所さんも長老さんも大丈夫デス?」

間仕切り板で見えなくなった向こうから、ミノ坊の返事が返ってきた。
さすがに3日間の飲まず食わずのせいで声に覇気が無い。

「大丈夫なのは今のうちだけデスじゃ。そのうち飢え死にデスじゃ」
「長老! 弱気な事を言うなデス!」
「しかし物を食わなければ死んでしまうんデスじゃ!」

「多分・・・死なないはずデス」
「「 デ? 」」

「ワタシ達が糞蟲だと認める前にワタシ達を殺してしまう事は、あの怖いニンゲンさんが間違ってい
 たという事になってしまうデス。あのニンゲンさんにとっては絶対に我慢できないはずデス」
「デッフン! なるほどデッス。やはりミノ坊は頭がいいデス」

たしかにミノ坊の推察通りだ。
矮小な精神の塩補にとっては自分の間違いなど到底受け容れられるものではない。
しかも片目の一件で、たかが実装石相手の口約束などと軽く受け流す精神的余裕も無くなっている。
実装石相手に我を忘れるなど、2度とあってはならないのだから。
いわば自縄自縛の状態なのだ。

「しかし、このままでは生殺しデスじゃ」
「だったら・・・・だったら昔と同じになっただけデス」
「デ?」

落胆する長老に落ち着いた声でミノ坊が応える。

「夏は死ぬほど暑いデス。冬は死ぬほど寒いデス。怖いニンゲンさんに追い回されるデス。クロバサ
 に連れて行かれるデス。生ゴミも無くて、何日もご飯が無い日もあったデス。そうなったら仔が親
 に食べられるデス。仔がいなくなったら、今度は誰かが誰かに食べられるデス。」

いったい何の話かと、長老と大柄な実装石は顔を見合わせる。

「それがこの間までの公園デス」
「「 デ!・・・ス 」」

「地獄デス。ワタシ達、実装石の生活はもとから地獄デス。場所が変わっただけデス」
「「 ・・・・・ 」」

長老と大柄な実装石は、はっと我に返った。
そうなのだ、もともと実装石の公園での生活は過酷なものだった。
自立を勝ち取って平穏な生活に慣れてしまい、うっかり忘れていたのだ。
そして誰がその過酷な生活から脱出すべくリーダーシップをとったのかも。

公園野良実装の自立に向けた作業は、冬の始まりと共に始められた。
寒い冬空の下、みんなで頑張り、励ましあい、糞を拾い、汚れを落とし、ゴミをかき集めた。
2匹は座り込んで、じっと思い出すのだった。

「デプw そう言えば」

何を思い出したのか、おもむろに大柄な実装石が口を開いた。

「公園にも怖い人間がいたデス。真っ黒の服を着て、赤と緑の棒を振り回すニンゲンがデス」
「うむ、知ってるデスじゃ。いつもワタシ達を殺していたのに、あの時はミノ坊を手伝ってくれた変
 わったニンゲンだったデスじゃ」

虐殺派のアキラの事だ。
ミノ坊のいた中央公園はアキラの狩場であり、アキラを見て逃げ出さないのは余程の馬鹿か勘違いし
た糞蟲だけだ。
そんなアキラが実装石の味方をしてくれるのだから、長老達の記憶に残って当然だろう。

「ミノ坊はあの時、怖い人間に向かって『生きるか死ぬか、それはワタシ達が決めるデス! ワタシ
 は諦めないデス! みんなを守るデス!!』と大声で叫んだんデス」
「ほぉ、そんな事もあったデスじゃ」
「あれは格好良かったデッスw」
「やめてデス、照れるデスゥ」

糞蟲共は全滅してしまえと言い放つアキラに向って、ミノ坊が啖呵を切った場面の話だ。
必死だったあの頃の話を掘り起こされ、ミノ坊は真っ赤になってしまう。

「デッフン! だったらミノ坊、今度はワタシがミノ坊を守る番デス」
「ご近所さん・・・」
「痛いの我慢して我慢して我慢しまくってやるデッス。あのキチガイニンゲンが諦めるまで頑張って
 やるデッス。みんなで公園に帰るんデス。ワタシに任しておけデッフンw」
「大きいの・・・」

そんな事ではない。
その様なたやすい事では無いのだ。
殺してくれと泣き叫ぶほどの責め苦が待っている事が、実装石では分からないのだ。
無知ゆえの蛮勇である。

そして、陽気に話すこの大柄な実装石が胸に秘めた決意は、その様な地獄を目の当たりにしても揺ぎ
無いほど固いものだとは、誰に想像がつくであろうか。
ミノ坊と長老は露も知らず、ただただ励まされるのだった。



     ・
     ・
     ・
     ・
     ・



塩補は眼下のミノ坊に苛立っていた。
痩せ衰えしなびた身体に落ち窪んだ両目。
まさに瀕死の状態だ。

水と食料を断って実に10日、未だミノ坊は共食いも糞食も拒み続けていた。
そして栄養剤漬けとはいえ、長老と大柄な実装石も豪華な食事の誘惑に断固として屈しないのだ。
塩補が虐待してきた実装石の中には、こんな頑固な実装石は1匹たとりともいなかった。
強烈な苛立ちと困惑の中、業を煮やす塩補はついつい口調を荒げる。

「いい加減に目の前の物を食ったらどうなんだ!? 死にたいのか糞蟲共っ!!」

うなだれていた大柄な実装石の口元がわずかに緩む。

「食べたくても食べられないようにして、ワタシ達を殺してしまったら、ニンゲン様は悪者デス」
「なにっ!?」

大柄な実装石が顔を上げて塩補に言い返す。

「ミノ坊は自分達が糞蟲で無い事を証明すると言ったデス。それをニンゲン様が邪魔をするという事
 は、ニンゲン様が糞蟲じゃないんデス?」
「っっっ!!!!!・・・・・」
「デデエッ!? 大きいの! ニンゲン様に逆らっては駄目デスじゃ!!」

赤くなるのを通り越し、塩補の顔面は赤黒いまでに膨れ上がる。
怒髪天を突くとはまさにこの事か。
片目の一件が無ければ、まさに絶叫して暴れだしていただろう。

「分かった。そこまで言うなら飯を食えるようにしてやろう。だが、な・・・人間様に向って糞蟲と
 は、貴様も偉くなったモンだな? 罰を与えねばならんな」

だからどうしたと言った顔で見上げる大柄な実装石に、塩補はますます青筋を立てる。
一方の長老はおろおろとするばかりだ。

こいつはもう止めだと、塩穂は震える手で水槽と水槽の間仕切り板を取り払う。

「「 ミッ ミノ坊っ!? 」」

そこにいたのは、見るも無残なまでに痩せ衰え横たわるミノ坊だった。
自分達は薬によって怪我や疲労が劇的に回復してきた。
激しい空腹を感じたものの、身体の方は衰える事は無かった。
しかしミノ坊は違う、見るからに干からび痩せ衰えて虫の息ではないか。
ミノ坊はただ単に絶食させられていた訳では無いのだと、長老と大柄な実装石は初めて知った。

「ミノ坊っ!! 生きてるデス!?」
「おきるデスじゃ、ミノ坊!!」

2匹は水槽のガラスに貼り付きペタペタと叩く。
しかし、答える元気が無いのか、それとももはや耳が機能しないほど衰弱しているのか、ピクリとも
動かない。
死なないはずだと言ったではないかと、血涙を流して呼びかけるが反応は無い。

「さあ、この大きい糞蟲ちゃんにお仕置きをくれてや・・・」
「どっちが糞蟲デッシャー!!」

今度は大柄な実装石が青筋を立てて大声を上げる。
ミノ坊を守ると言いながら、瀕死のミノ坊にも気づかない自分に腹が立った。
そしてこんな理不尽な目に遭わせる塩補に殺意まで覚えた。

「ミノ坊は公園の仲間の救世主デッス! 今も自分を犠牲にして死にかけながら頑張ってるデッス!
 そんなミノ坊を酷い目に遭わせて、どっちが糞蟲デス!?」
「なにををををっ!? 糞蟲が糞蟲を庇えば大糞蟲だろーが!?」
「やめるデスじゃ、大きいの!!」

塩補に食って掛かる大柄な実装石に、後ろから長老が引き止める。

「お前は口下手デスじゃ! ワタシが代わりに言ってやるデスじゃ!」
「は、放すデス! ここまで来たら気が済まないデッス!」

大柄な実装石の両耳を掴み、引き止める仕草をしながら口を寄せ小声で囁く。

「年をくったワタシにはこの先は耐えられないデスじゃ。お前が最後までミノ坊を守るデスじゃ」
「デ!?・・・」

そのまま大柄な実装石をぐいと引き倒し、顔を覗き込むように大声を出す。

「ワタシは長老デスじゃ! 長老の言う事を聞けデスじゃ!!!」

今まで、大柄な実装石はこんな真剣な顔つきの長老を見た事がなかった。
いつもの物静かな長老とは思えぬ、有無を言わせぬ迫力でだった。

「おいおい、こっちは糞禿裸のプロレスなんて見たくはないんだ。そのへんにしておけよ」
「分かったデスじゃ」

長老はムスッとした表情で顔を上げて塩補に向き直る。
しかし、思慮深い長老はフルスピードで頭を回転させ言葉をつむぐ。

「では公園の実装石を代表して言わせてもらうデスじゃ。ワタシ達はニンゲン様達の指導の下、公園
 を掃除して、その代わり食べ物を貰って生活する道を選んだデスじゃ。」
「はいはい。で?」
「ニンゲン様の役に立とうとするワタシ達を、糞蟲ではないワタシ達を、こんな酷い目に遭わせる者
 こそ糞蟲だと思うデスじゃ」
「・・・それは先ほど聞いた。で?」

ポーカーフェイスを装うも、少し険しい顔になってしまう。

「今は、ニンゲン様の方がワタシ達に糞蟲だと疑われているデスじゃ。今度はニンゲン様が糞蟲でな
 い事をワタシ達に証明しなければならない番デスじゃ」
「なぁっっ!? こっ・・・お前達に証明しなければならないだとおぉぉっ!!!」

激昂する塩補を他所に、長老は大柄な実装石を振り返り、目尻にシワを寄せてニコリと笑う。
それが「さようなら」の意味だと大柄な実装石が理解したその時。

「どおおおおこををっっ!!! 見てやがるううううううっっっ!!!!」

禿頭を鷲掴みされた長老は、次の瞬間底が抜けるかと思うほど床に叩きつけられる。

「貴様らををっ!! 正しい姿に導く俺様にいいいっっ!!! 証明しろだとおおおおっっ!!!」

横っ腹につま先が食い込んだと理解する間も無く、今度は壁に打ち付けられる。

「有名私大卒のっ!」
 ドガッ!

「しみのり市公務員の早期出世コースに勝ち残ったあっ!!」
 ベシィ!!

「人生勝ち組のこの俺様にいいっっ!!」
 ゴンゴンゴン!!

「糞蟲相手に証明しろだとおおおっっ!!!」
 ゴキゴキッ!!

「何様のつもりだああああああっっっっ!!!!!」
 ドズウウウンッ!!!

「ゴ・・・ゴパァ! ゲホッ ガハッ」
 ボダボダボダ・・・・

口と鼻と尻から赤と緑のゲル状の物が滝のようにこぼれ落ちる。
目から火花が出る、激痛を通り越して痙攣する、胃袋がひっくり返り息も出来ない。

「糞蟲は・・・ゴフッ・・・すぐ威嚇して誤魔化すデスじゃ」

でもまだだ、まだ死ねない。
肺に刺さった肋骨に気が遠くなりながら、駄目押しをしてみせる。

「うるさいっっ 後悔しろ!反省しろ!懺悔しろ!謝罪しろ!賠償しろ!悔い改めろぉぉっ!!!」
「デギッ・・・ョ゛エ゛エ゛エ゛エ゛!!!」

長老は両足を掴まれ、壁に床に天井にこれでもかというほど打ちつけられる。
腕の骨も頭骨も肋骨もバラバラだ。
耳は千切れてぶら下がり、右目も転がり落ちて前が良く見えない。
最後は脱糞でぬかるんだ両足がすっぽ抜け、長老は壁にベチャリと叩きつけられズルズルとずり落ち
た。

ぜいぜいと息を荒げた塩補が近寄ると、それでも長老はピクリと動いて見せた。
まさに悪魔の偽石処理だった。

瀕死の長老は口をもごもごと動かす。
どうやら顎の骨も砕けてしまったようだ。
しかし、まだ死ねない、死ぬ訳にはいかないのだから。

「この糞蟲めが、まだ生きているのか?」

塩補が長老の腹を踏みつけようとすると、長老が消え入るような声で何かを言う。

「ああ? ナンだ? 今さら命乞いって訳じゃないだろうなw」

しゃがみ込み耳を済ませて聞いてみるが、なにぶん痛めつけ過ぎたせいで片言しか聞き取れない。
しょうがないなと、塩補は長老の胸倉を掴み上げて天井の集音マイクに近づける。

 ブビブビブババァァ!

その時だ、長老が最後の力を振り絞り、塩補の顔面に緑糞をひり出す。

「うっ ぐはああ!? なんて事しやがる・・・おえええ! くそおおっっ!!!」

緑糞を顔面にモロに浴びてしまった塩補は堪らず嘔吐する。
臭い! 猛烈に臭い! 目に入ったし、口にもだ!!
何も食わせてなかったはずなのにと、パニックになった塩補はとりとめの無い事を考えながら、目を
開ける訳にもいかずにやっとの事で手探りでドアを開ける。

塩補が去った後には、肉雑巾と化した長老がポツンと残された。

「さあ・・・大きいの・・・・今のうち・・・ゴポ・・・デスじゃ・・・・」

暴れまわる塩補の猛威から身を守るように丸まっていた大柄な実装石の耳に、長老の消え入るような
声が届く。

顔を上げればそこには自分達を閉じ込めていたはずの見えない壁、ガラスが無かった。
逆上した塩補が無茶苦茶に長老を振り回した為に、水槽を叩き割ってしまったのだ。
そして目を塞がれた塩補は、当然小部屋のドアを閉め忘れている。
そう、この部屋の外に出られるのだ。

「ちょ・・・長老!?」
「ワタシは動けないデスじゃ・・・ゲボ・・・早く・・・早くミノ坊を・・・」

駆け寄る大柄な実装石に、長老は早く逃げるように促す。
たしかに塩補がいつ戻ってくるか分からない、ぐずぐずはしていられない。

「長老、死なないで待ってるデス! きっと助けを呼んでくるデッス!!」

大柄な実装石は割れた水槽の中から急いでミノ坊を担ぎ出す。
ジャリジャリとガラスを踏みしめるたびに痛みが走るが、そんな事は気にしていられない。
開け放たれた地獄部屋を抜けると、そこは実装石にしてみれば更に天井の高い場所、廊下だった。
塩補だ、塩補はどこだ。
廊下の左手のドアから水音と共に塩補の悪態が聞こえてくる。
逃げるのなら右だ。

大柄な実装石はすぐに鉄の壁、玄関のドアに行きあたる。
本能的にこの壁の向こうは屋外だと分かるものの、押せど叩けどびくともしない。
冷や汗をダラダラとたらしながら、大柄な実装石は周囲を見渡す。
すると部屋の奥、カーテンの隙間から明かりが見える。

「ミノ坊、絶対助けてやるデス。死ぬなデス・・・」

悲しいほど軽くなったミノ坊を担ぎ、今度は部屋奥の明かりを目指す。
塩補の罵声はまだ廊下の奥で続いている、まだ間に合うのだ。

部屋奥に辿り着いた大柄な実装石がカーテンをめくると、そこには屋外の景色が広がっていた。
外だ、外に出られるのだ!
しかし先に進もうとする大柄な実装石は額を何かにぶつけてしまう。
そう、そこは両開きの大きなガラス戸だったのだ。

「デエ、これは長老の言っていた『ガラス』デス。・・・さっきみたいに、何かぶつければ割れるは
 ずデス」

大柄な実装石があたりを探すと、ちょうど低いダイニングテーブルの上に陶製のマグカップが置いて
ある。
これならば実装石にも振り回せるはずだ。
大柄な実装石はマグカップを手にすると、大きく振りかぶりガラス戸を打つ。
が、人間がガラスを割るように簡単にはいかない。
大柄な実装石の予想に反して、軽く跳ね返されしまう。

「デエ? おかしいデス。でも諦める訳にはいかないデス。何がなんでもミノ坊を逃がすデス!!」

絶食状態だったものの、偽石は栄養剤漬けだ、体力はある。
渾身の力でマグカップを振るう。
2撃目、3撃目、4撃目・・・

 バシャーーン!

ガラス音にしては鈍い音を立て、遂にガラス戸を打ち破る事ができた。
そこから微かに風が吹き込み、ゆらりとカーテンを動かす。

「デ・・・ デデデェェェ・・・ 外デス・・・外の匂いデスーーーッ!!」

生まれて此の方、これほど『生』を実感できた事など一度も無い。
最後にいつ嗅いだのか忘れてしまうほど懐かしい風に吹かれ、大柄な実装石はダバダバと涙を流す。

「デヒィ、デヒィ、外デス。ミノ坊、ミノ坊、外デスゥゥ! デェェ〜〜ン!」

大柄な実装石はミノ坊を庇うように抱きしめ、割れたガラス戸をくぐる。
手足や身体に割れ残ったガラスが食い込むがお構い無しだ。

外に出た場所はアルミ製の手摺でぐるりと囲まれているが、これならばやせ細ったミノ坊を送り出す
には十分だ。
自分も無理すれば通れるかもしれない、いや首がもげても通ってやるぞと、勇んで手摺に手をかける。

 ヒュゥォォーーーーー・・・・・・・

吹き上がる風が顔を撫でつける。
そこは、アパートの3階だった。
地上3階のベランダから見下ろす下界は、実装石には言語に絶する高みだった。
知能に劣る蛆実装でさえ絶命を予測できる高さだ。

「デ・・・ヒィ・・・ やっと・・・逃げられたと思ったのにデスゥ。ミノ坊ぅぅぅ・・・」
 
抱きしめるミノ坊の顔に涙がポタポタと落ちる。
窪んだ目のふちを流れ、しわがれた唇を流れ、落ちていく。
大柄な実装石は歯を食いしばる。
そうだ、このミノ坊は誰の為に頑張ったのだ、こんな姿になっても弱音の一つも吐かなかったではな
いか。

「ここで、ここで諦める訳にはいかないデッス! 片目の、長老の頑張りを無駄にできないデッス!」

誰かに助けを求めれば、少なくとも今よりは助かる可能性は高くなる。
公園で応援してくれた人間に、人づてに知らせが届くかもしれない。
異常を感じた他の人間が様子を見に来るかもしれない。

喉が張り裂けても構わない、一生に一度の大声を出してやる。
大柄な実装石は意を決して後ろに仰け反り、おもいきり息を吸い込む。
その頭に、衝撃が走った。

「 や  っ  て  く  れ  た  な  ? 」

蹴り飛ばされた大柄な実装石が見たものは、真っ青な顔を引きつらせた塩補だった。

「ええ、おい? ドアノブも回せない馬鹿タワケの分際で、逃げられるつもりだったとは大笑いだ」
「デエエエエエ!?」

大笑いだと言う塩補の口元は微塵も笑ってはいない。
ジャリジャリと割れたガラスの音をさせて引き戸を開けると、血の気の引いた顔をずいと近づける。
最後の最後で希望を打ち砕かれてしまった大柄な実装石は、これまた真っ青な顔でガクガクと身体を
震わせる。
崩れ落ちそうになる腰を必死に支えるが、ブリブリと尻からたれる気張り糞は止まらない。

塩補はしゃがみ込むと転がっているミノ坊に手を伸ばす。
ミノ坊の危機を目前に大柄な実装石は我に返った。
震える歯の根を食いしばり、周囲に届けと威嚇の大声を出す。

「デ、 デ、 デジャ・・・・」 ガボンッ!!
「誰が騒いで良いと言ったっっ!!!」

大柄な実装石が最後に見た光景は、迫り来る拳のドアップだった。
歯をむき出しに吼えようとする大柄な実装石の口に塩補の拳が叩き込まれ、頭からフェンスに叩きつ
けられてしまう。
ぷっつりと、大柄な実装石の意識は途切れてしまった。

「手間かけさせやがって、糞蟲がっ」

     ・
     ・
     ・

「デス?」

口の端から涎をたらしたまま顔を上げる。
何か大事な事をしていたはずなのにと、大柄な実装石はあいまいな記憶をたどる。
頭をしたたかに打った為、記憶がぼやけているのだ。

「何か急いでいた気がするんデス。長老は分からないデス? 長老? 長老?」

いつも隣にいた長老がいない。
一気に記憶がフラッシュバックし、大柄な実装石は赤緑の両目を剥く。

「ミッ ミノ坊っ!? 長老っ!?」

「うるさいよ〜。静かにしなちゃ〜い」
「デ!?」

見上げれば自分は塩補の足元に寝転がっていたのだ。
がばりと跳ね起き、ミノ坊はどうしたと塩補に食ってかかる。

「ん〜、待ちなさ〜い。今、会わせてあげるからね〜」

そう言って背を向けたまま、流し台に向って何かを続ける塩補。
大柄な実装石はあたりを見まわすが、部屋は片付けられてミノ坊も長老も見当たらない。
そうこうしている間に塩補が振り返る、作業が終わったようだ。

「俺ね〜、反省しちゃった〜。間違ってたよね〜w」
「デ? デス?」

振り返った塩補がニッコリ笑って話しかけてくる。
不気味この上ない。
大柄な実装石がどう返答したものか戸惑っていると、ひょいと抱え上げられてしまう。

「糞蟲ちゃんは唐揚げは好きかなぁ〜。唐揚げって分かるぅぅぅ?」
「デ? デデ? ・・・ミノ坊っ!?」

抱え上げられた大柄な実装石が見たものは、天井からロープで吊るし上げられたミノ坊だった。
そしてミノ坊の下には、あの片目を煮込んだ大鍋が流し台の上で火にかけられている。

「ミノ坊!! ミノ坊!! 返事するデス!!」
「そうだね〜、ミノ坊だね〜。じゃあね〜、ミノ坊を助けたかったら説明をちゃんと聞いてね〜」
「デジャァ!! ミノ坊を早く下ろすデス!!」
「それは危ないね〜w これ見てごらん、なんだか分かるぅ〜?」

塩補が取り出したのは黒く汚れたガラスの破片のような物だった。
長老、それが長老だと教えられるまでもなく、大柄な実装石には直感的に理解できた。
塩補はその破片を大鍋の中に落としてみせる。

 ジュワアァァ! パチパチ・・・プチ・・パキ・・・

いきなり大鍋の液面が泡立ち、破片と化した長老の偽石を焼き焦がす。
そう、大鍋はたっぷりの煮え立つ油で満たされていたからだ。
ミノ坊が大鍋の中に落ちればどうなるか、十分過ぎる説明のやり方だろう。

「デデツ!? おっ 下ろしちゃ駄目デス!!」
「そうだね〜w 下ろしたら油の中で唐揚げになっちゃうよね〜w」

塩補はそう言って大柄な実装石を流し台の上に下ろすと、ミノ坊を吊るしているロープをその手に渡
す。
一瞬、訳が分からなかった大柄な実装石だが、ガクンとずり落ちるミノ坊を見て慌ててロープを手繰
り寄せる。

「俺ね〜、反省しちゃった〜。間違ってたよ」
「ミッ ミノ坊を安全な所に下ろしてほしいデスッ!」
「糞蟲は糞蟲らしく、暴力で強引にねじ伏せるべきだったんだよね〜。いや〜、失敗失敗www」

まるで貼りついた仮面が笑うかのような塩補。
その瞳孔が少し開いているのは気のせいだろうか。
そして鈍感な大柄な実装石は塩補の微妙な変化には気づく事は無い。

次に塩補が厚手の皮手袋をはめて取り出した物は、大柄な実装石を驚かせるに十分な物だった。
これは何だと言われなくとも、本能で、直感で、「それ」だと分かる。
それは薬品棚に収められていたはずの、自分の偽石だったからだ。

「そっ それはもしかしてワタシの大事な大事な命の石デス!?」
「っっそ〜〜!! 正解!! www」
「デデエ!!」

これには大柄な実装石も大慌てだ。
殴る蹴るや、串刺し切断は、時間と栄養さえあれば大抵の物は再生してしまう。
しかし、偽石だけはご法度だ。
そんな大慌ての大柄な実装石に、更に塩補が無理難題を吹っかける。

「今からぁ〜、俺様がこの悪ぅ〜い偽石にお仕置きしちゃいま〜すw 許して欲しかったら『実装石
 は糞蟲です』と言いなさ〜いw」
「く、糞蟲じゃないデッス! ミノ坊達との約束デス! 口が裂けても言えないデッス!!」
「あぁ〜そぉ〜? でもそのロープを放しちゃ駄目だよぉン。ミノ坊が唐揚げになっちゃうしね〜w」
「デエエエエ?・・・・」

まさに苦渋の選択だ。
と言うより、選択のしようなどありえない。
しかし偽石を傷つけられるなど言語道断だ、まさに絶命するに等しいからだ。
糞蟲である事を受け入れる事は、自分達と公園の仲間の死に繋がる、なによりミノ坊達に申し訳が立
たないではないか。
まさに、まさに苦渋の選択だ。

脂汗を流してうろたえる大柄な実装石。
その大柄な実装石を弄ぶかのように、塩補は偽石をカッターナイフでつついてみる。

「デッ!? ギッ!?」
「あははははーーー!」

それこそ脳天に五寸釘でも打ち込まれたかのように素っ頓狂な声を上げる大柄な実装石。

「あ〜ははーw それ、糞蟲を落として唐揚げにしちゃえw ついでにお前も死んじまえw」
「やっ・・・やってる事が無茶苦茶デス!! まるで悪党の仕業デス! 無理やり『糞蟲』と言わせ
 る方が糞蟲なんデッス!!」
「あ〜? まだそんな事言ってんの? 実装石は糞蟲、こんなの最初っから決まりきってた事じゃん。
 面白いから言わせてみたかったんだよw それをお前らそろってムキになってさぁ〜〜www」
「面白いからデス!?」

塩補の言葉に目を剥く大柄な実装石。
そしてそんな事はお構い無しに暴言は続いた。

「糞蟲の分際で仔を産めようが産めまいが、そんなくだらない事どうでもいいのに、片目の奴はムキ
 になってブチ切れるし」
「!・・・」

「チョーローとか言う年食った実装石なんかは、生意気に人間様に楯突いて『証明しろ』だとか抜か
 しやがるし。お前達が気絶している間に、機械にぶち込んで足からひき肉にしてやったけどなw」
「!!・・・」

「お前らなんかなぁ〜、全部遊びで殺してるんだよ〜ンだw 気づけっつーのwww」
「!!!」

ガクガクと震える大柄な実装石。
怖いからではない、顔を真っ赤にして怒っているからだ。
そして何を思ったか、ミノ坊を吊るしているロープをグルグルと首に巻きつけ、その端にわっしと噛
みついた。

「お前みたいなクソニンゲンに! 遊びで殺されて堪るかデエエッフ!!」
「おほw もしかして怒ったのぉ〜?」
「糞蟲だとは口が裂けても絶対にに言わないデッフ!! ミノ坊のロープは絶っっ対に放さないデエ
 エッフ!!」
「あーそーw 頑張ってね〜w」

そう言って塩補は嬉しそうに、偽石へカッターの刃を走らせる。

「デッッッギォォォォォォォ!?!?」

その途端、大柄な実装石は絶叫を上げて反り返る。
命の結晶ともいえる偽石に、ダイレクトに傷を与えるなど言葉では表せられない激痛だ。
2度、3度と、補強コーティングを切り開き刃が偽石に食い込む。

「デッ・・・ゴギイイイイイイイイインッッ!!!」

 キィ・・キキィ〜
 キチキチキギギ
 キュギュイィィィ

塩補が偽石に刃を食い込ませるたびに、大柄な実装石は奇怪な断末魔を上げ、ありえない方向に身体
をねじり、まるでシェイクされているかのようにブルブルと痙攣する。

「デッッエエッゴズエ゛エ゛エ゛ア゛ガァーーッッッ!?」
「ひゃっ ひゃははははははははははは!!!」
「ひぃぃ〜〜〜っひゃっひゃっひゃ!!!」
「ひっ・・・ひぃ〜〜いっひゃっひゃっ・・・ゴホッゲホッ・・・いひひひゃ!!!」

まさに地獄の責め苦なのだろう。
偽石に刻まれる傷はとどまる事を知らずエスカレートする。
当然ながら糞便は撒き散らし、ドス黒い赤と緑の血反吐をブクブクと泡立て、裏返った目玉は激しく
痙攣している。

不意に、狂気の馬鹿笑いをあげていたはずの塩補がポツリと漏らす。

「お前・・・いい加減に銜えたロープ放せよな・・・」

そう、こんなはずではなかったのだ。
今までの丁寧なやり方を改め、暴力と苦痛で屈服させる。
簡単にこの実装石は屈服するはずだったのだ、簡単に。
しかし現実は違った、大柄な実装石の口は今もキリキリとロープを噛み締めているのだから。

「離せってっっ!! 言ってるだろうがあぁぁっっっ!!!」
 ギギギィーー!
「デゴボアガーーーーッッ!?!?」

一気に刃を突き立てガリガリと偽石を刻む。
大柄な実装石の身体は有りえないほど反り返り、ロープを銜えたその口の端からはゴプゴプと血反吐
が溢れ落ち止まらない。
そしてメロンのように血管が浮き立った顔面は、溢れ出す血反吐にも劣らず赤黒く膨れ上がった。

「離せよオラァァッッ!!!」
 ガギギィーーッ!!
「デッ!!!・・・・ンギィッ・・・・ィ・・・・」

一際大きく身体を跳ね上がらせ、食いしばった口からバリバリと不快音が響く。
カチカチと音を立てて足元に転がったのは欠け落ちた歯の破片だ。
大柄な実装石はグイと首を反らせて宙を仰ぐ。

 ボッ・・・ボチュン・・・・

気色の悪い音を立てて、赤と緑の眼球が飛び出し床に転がる。
その黒い空洞からタラタラと流れ落ちる赤と緑の血。

「・・・へ・・・へへ。糞蟲め、少しは懲りた・・・」

偽石虐待の劇的な効果に少々驚いていた塩補だが、気を取り直して屈服を認めさせようとしたその時。
ロープを銜えていた口の両端が開いたかと思うとゴボリとどす黒い赤と緑の血反吐が吐き出された。
そしてブルブルと痙攣しながら、見えるはずの無い二つの黒い空洞を塩補に向ける。

「・・・痒いデフ・・・もう少し・・強く・・・掻け・・・デッフ・・・」
「なっ なぁっっ!?!?」
「デッ・・・フン・・・」

 ぽとり ころころころ・・・

塩補の手から偽石が転げ落ちる。
その姿はスイッチを切られたロボットのように微動だにしない。
いや、出来ないのだ。
最早、思考の域の及ばぬ出来事だ。
何が? 何故に? ここまで異様な事態に及ばせたのだろうか? たかが「糞蟲」風情が?
永遠に解るまい、「塩補」風情には。



「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛き゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛ぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーっっ!!!!」



塩補だ、錯乱狂気の音源は塩補だ。
叫びにすらならぬ奇怪音を発し、床の偽石に飛び掛る。

「こっ!!・・・ 糞があっっ!!! ふぅーーーざけやがてえええええっっっ!!!!」

もはや切ると言うよりは殴るといったほうが近いか。
床に転がる偽石めがけ、ガキンガキンとカッターナイフを打ち下ろす。

「糞蟲の分際で!! 何を虚勢張ってやがるんだぁっ!!! 糞っ!!蟲のっ!!分際でえっ!!!」

丘に釣り上げられた魚のように、ぐりんぐりんと首を振り回し悶える大柄な実装石。
口から、鼻から、耳から、総排泄孔から、空洞の両眼から、何とも言えない色彩の体液を撒き散らす。

もはやカッターの刃は折れ飛び、刃無しのナマクラだ。
それでもお構い無しに叩きつけられるカッターナイフ。
そして、刃をリリースする金属の先端部がガキリと偽石を直撃したその時。
激痛に耐えかねた大柄な実装石が絞られたボロ雑巾のように身をよじると、身体のあちこちから骨の
砕ける音がする。
さらに首をひねり・・・

 ゴキゴキン!

首だ、首の骨が砕けたのだ。

 ガッ!!

更にもう一撃。

一瞬、大柄な実装石の首が頭より大きく膨れ上がる。
通常では有得ない全身の筋肉の収縮に追いやられた内臓が臓器が、圧迫から逃げようと食道を通過し
たものの、噛み締めた口に出口を失い喉に集中したのだ。

 ボパーンッ!!
 バキンッ!

 「ひっ!?」

破裂音と共に塩補の顔に血糊と肉片が降りかかる。
悲鳴を上げて床に伏せた塩補だが、何があったのかと恐る恐る顔を上げて周囲を伺う。
すると床には粉々に四散した、黒く変色した偽石の破片が見て取れる。
そうか、偽石が割れたという事はミノ坊は唐揚げだな、と流し台を見やれば・・・

静かに油が煮える音がする部屋の中空に、薄暗い裸電球に照らされてミノ坊が揺れていた。
そしてミノ坊を吊るすロープの端には、おぞましい肉塊と化した「実装石だった物」が未だぶら下が
っているのだった。
しっかりとロープに喰らい付いた、その姿のままに。
またしても、塩補はただの一匹の糞蟲さえ自由にできなかったのだ。

「ううぐぅをををををををををををーーーーーーーっっっ!!!!」

まただ! また思い通りにならなかったっ!!
床に伏せていた塩補だが、現状を認識するや跳ね起きて手近にあったビニールパイプを振り上げる。

「こぉーーんちくしょをををーーーっっ!!!」

ロープに食い下がる肉塊に、力任せに殴りかかる。

「糞がっ!! 糞がぁっ!! 何度逆らえば・・・っ!!」

その撃ち下ろしが3撃目を数えたとき、ロープに食い込んだ歯を残してついに肉塊は床に転がった。
途端、するするっとロープは滑り、ミノ坊は大鍋に吸い込まれる。

スローモーションのように、塩補の視界の中をミノ坊が流れてゆく。
ゆっくり、ゆっくり、下へ、下へ。
禿裸にされ、みすぼらしく痩せ衰えた実装石が、煮えた油の中に。

ミノ坊がこの世から消えようとしたその瞬間、ガクンとロープが跳ねるや何かが落下を止める。
訳が分からぬまま見上げる塩補が目にした物は、ロープを送り出す滑車に絡まるロープの結び目だっ
た。
べっとりと赤黒い粘液がまとわりついたロープのねじれ・・・
そう、大柄な実装石が「絶対に離さない」と宣言し、ぐるぐると首に巻きつけたロープがねじれ、血
肉を巻き込み結び目となって滑車に詰まったのだ。
大柄な実装石は、最後の最後まで、死してさえ絶対に離さなかったのだ。

ロープを見上げた塩補は何とも言えない苦悶の表情を浮かべ、呻き声を上げて頭をかきむしる。
なんだ? なんなんだこれは?
全く何も思い通りにはならないではないか?
糞蟲に、糞蟲相手に、人生勝ち組のこの自分が?
おかしい! これは何かの間違いだ!!

塩補の手がミノ坊をわっしと掴み、苛立たしく体に巻きつけたロープを解く。
ロープの戒めから解き放たれたミノ坊は、今度は塩補の手によってふつふつと煮えた大鍋の上にさら
される。

「さあ、糞蟲の親玉め、今度こそ最後だ、・・・・ヒヒッ!」

醜くゆがんだ塩補の笑いがミノ坊に向けられる。

「だがな、最後に残った貴様だけは絶対に許さんっ!! 貴様には糞蟲らしい! とびっきりのクソ
 死にを用意してやる!!! 糞蟲の実装石らしい死に方をなぁっっ!!!!」

意識の戻らないミノ坊に吐き捨てるように叫ぶと、ミノ坊の体を流し台のまな板の上に下ろし、薬品
棚の中へ手を伸ばす。
その手には、ほんのりと光るミノ坊の偽石が入ったガラス瓶が握られていた・・・



     ・
     ・
     ・



翌日の未だ夜も明けぬ早朝、みのり市の中央公園に塩補の姿があった。
当然、人気の無い時間帯なのだが、それでも用心深く周囲を伺うと小走りに噴水を目指す。
携えたスポーツバックからビニール袋を取り出し開封すると、中からキツネ色の塊が出てくる。
丁寧にパン粉をまぶし、キツネ色にこんがりと唐揚げにされたその物体の輪郭は、紛れも無く実装石
のそれだった。

「クククッ・・・・ 糞蟲同士、共食いで死にやがれw」

唐揚げの正体はミノ坊だった。
ミノ坊を殺す事を思いとどまった塩補は、偽石をミノ坊の体内に戻すとありったけの偽石活性剤と栄
養剤をこれでもかと注入した。
偽石コーティングと薬物によって一時的に不死身と化したミノ坊を唐揚げにして、公園の野良実装共
に共食いさせる計画なのだ。

なんとも食欲をそそる唐揚げと化したミノ坊。
生きたまま唐揚げにという暴挙によって未だ意識は戻らないものの、公園の実装石の活動開始と共に
飛び起きる羽目になるだろう。
噴水の脇に放置されたミノ坊の数刻後を想像しながら、塩補は逃げるように公園を後にした。

     ・
     ・
     ・

市役所での勤務中、塩補は自分を抑える事で手一杯だった。
無残に食い散らかされたミノ坊を見たくて見たくて仕方が無いのだ。

あれほど仲間の為にと頑張ったはずなのに、その仲間に生きながら食い殺されるミノ坊の絶望と憎悪
はどれほどだろう。
そして、わざわざ食い散らかした後に見つかるようにと、ミノ坊の体の下敷きにして隠して置いたミ
ノ坊のトレードマークの焦げた頭巾。
それを見つけた時の馬鹿げた愛護派の奴らはどんな顔をするのだろう。

想像するだけで今にも奇声を上げて飛び上がるほど興奮してしまうのだ。
今か今かと退勤時間を待ちながらニヤけた顔を取り繕う塩補であった。



     ・
     ・
     ・
     ・
     ・



午後6時40分を過ぎた頃、暗くなったみのり市中央公園に塩補の姿があった。
飛ぶようにアパートに帰り、身支度を済ませてやって来たのは言うまでもない。

「ひっ・・・ひひひひっ・・・・ 糞蟲の命乞いを聞かせてもらおうじゃないか」

いやらしい呟きをこぼしながら、塩補は茂みの中を徘徊する。
探し物というのは、公園を去る前に隠しておいた実装リンガル。
リンガルの過去ログを見れば惨劇の有様が記録されているという訳だ。

「おや?・・・無いぞ・・・。いや、確かにこの辺りのはずだ、どうしたんだ・・・」

まさか誰かに拾われたのか?
いやいや、まさかこんな茂みの中に首を突っ込む物好きはいない。
では何故だ?

はたと、気付く。
公園がやけに綺麗なのだ。
ミノ坊や長老を拉致して約2週間。
その間の塩補は虐待に懸かりきりで公園の様子は知らないのだが、まさかリーダー格の実装石無しで
清掃が継続されているとは考えづらい事だ。
興奮から冷めた塩補は、今一度冷静な目で公園を見渡す。

「クソッ! とにかくリンガルを探さないとまずい。死にかけのあの糞蟲が、何を口走っているか分
 かったもんじゃないからな!」

しかし、肝心のリンガルはどこを探しても見つからない。
この寒空の中、いつしか塩補は汗みどろで這いつくばっていた。

「畜生!畜生!!畜生!!! どこだ?どこへ行ったんだ!? 誰の仕業だ、糞野郎め・・・」

ふと、目の前に見覚えのあるダンボールハウスを見つける。
少し大きめの、長老が住んでいたダンボールハウスだ。
そしておかしな事に、もう既に長老はこの世にいないのに、中から何かの気配がする。

「ち、糞蟲どもめ。散々世話になったチョーローの家を盗んだんだな。まあいい」

塩補はペンライトを点灯させ、無造作にダンボールハウスの一面を剥ぎ取った。

「おい貴様、聞きたい事がある。俺様の実装リンガルという物を知らない・・・・・」
「デッ!? デエーー!!」

寝込みを強襲された実装石は、強烈な光から顔を背けるように這うようにして逃げる。
髪は生えているものの、衣服はコンビニ袋というお粗末な有様だ。

「!? お・・・お前!!・・・・」

しかし、塩補はある一点を凝視した。
芋虫のような無様な姿でもコンビニ袋でもない、被っている頭巾の後頭部の焦げ跡にだ。

「お前! その頭巾をどこで拾った!? どこで手に入れたっ!?」
「その頭巾の近くに死にかけの実装石がいただろう!? 俺様の実装リンガルが落ちていたはずだ!
 何か知っているだろう!? 答えろっ!!」

塩補が問い詰めても、実装石はダンボールの奥に蹲り怯えているだけだ。
もっとも、答えたところでリンガルを持たぬ塩穂には理解できないのだが。

「クソッ! この低脳めっ!! 人間が喋っている言葉は理解できるんだろう? だったら身振り手
 振りで何か答えろ! おい、俺様の顔を見てよく聞けっ!!」

塩補はしゃがみ込み、ペンライトで自分の顔を照らしてずいと近づく。

「デェッ!?・・・ デエエエッシャアアアアーーーッッ!!」
「うををっ!?」

なんという事か、今まで怯えていたはずの実装石が、塩補の顔を見るなり飛び掛ってくるではないか。
おまけに思わず尻餅をついた拍子に、ペンライトを壊してしまう。

「なっ なんだって言うんだ、この糞蟲め!?」
「デジャッ! デジャシャシャーーッ!!」
「デッシャー!! デスデスデジャアアッ!!」

しかし、実装石の方はますますヒートアップするばかりだ。
この怒り様は一体なんなのだろう。

「デス?」
「デデ?」
「デスゥ?」

そうこうする内に、怒れる実装石の声にワラワラと他の野良実装が集まってきた。
それどころか怒れる実装石を中心に徒党を組み、デスデスと抗議をしてくるではないか。

「こっのっ!!・・・・」

目の前の実装石を蹴飛ばそうとして、塩補にある疑念が沸き上がった。

何故、このみすぼらしいコンビニ袋実装石を中心に抗議をしているのだ?
弱い物虐めが大好きな糞蟲が、何故に裸実装石を中心に群れる?
それに、その焦げ跡のある頭巾をどうやって手に入れた?
・・・・・それに・・・それに・・・・もしかして・・・・・

「お前は・・・・ミノ坊なのか?・・・・・」

「今頃気付いたか」

人間の声に驚き、はっと振り向く塩補。
そして凍りついた。

暗闇に浮かび上がる黒尽くめの影。
その双眸はこぼれる様に赤く光り、ゆらりとにじり寄る姿はこの世の者とは思えないおぞましさだ。

「「「「「「「 デデェッ!? 」」」」」」」

ザザザと波が引くように野良実装達が後ずさる。
そう、影の正体は虐殺派のアキラだ。
偶然にも繁華街の赤いネオンが目に映っているだけなのだが、それでも自立を助けてくれたイメージ
よりも過去の恐ろしいイメージを思い出させてしまう。

そして塩補にとっては、この正体不明の不審者に血の気が引く思いだ。

「ひっ! ひひっ だっ 誰だお前は!? おかしな真似をすると警察を呼ぶぞっ!?」
「無理だな・・・」

右手に持ったバールをゆらゆらと揺らしながらにじり寄るアキラ。
塩補は尻餅をついたまま無様に後ずさり、立ち木を背に追い詰められてしまう。

「お前の予想通り、あいつはミノ坊だ。共食いの恐怖を味わわせる為にパン粉を分厚く塗りすぎたよ
 うだな。カリカリに揚がったパン粉は体中の表皮と一緒に剥がれ落ちたぜ」
「ば、馬鹿な!? 動けるような体じゃなかったはず・・・」
「そうさ、ミノ坊は動けなかったさ。助けたのは他の実装石だ」

そう言ってアキラは、ポケットからビニール袋に入った塩補の実装リンガルを取り出す。

「こいつのログを見て分かった。この実装石達はミノ坊や長老達の帰りを、ず〜っと待っていたそう
 だ。統率は乱れていたものの、ミノ坊達の帰りを待って公園の掃除を続けていたのさ。だから一目
 で実装石と分かるような物を、共食いする事にためらったのさ。」

「「「「「「「 デスデスデス 」」」」」」」 

二人を取り囲む野良実装達が、そうだそうだと頷く。

「そしてお前が何をやってきたか、全てはミノ坊に聞いた。顔見知りの実装石と長老はどうなったか
 は分からないが、片目と同じように殺したんだろう?」
「え? あ、ええ? そっ 間違いだ、何かの・・・そう!その糞蟲が嘘をついてるんだ!」

アキラが塩補の実装リンガルのスイッチを入れ、音声モードに切り替える。

「嘘をついているのはニンゲンさんデス!」
「だっ 黙れ糞蟲っ!!」
「黙らないデス! 糞蟲でもないデス! 悪いのはニンゲンさんデス!!」
「貴様っ・・・人間様に向って!・・・・」

「お取り込み中のようだが、話し合いをする気は無いんだ」

アキラがずいと近寄る。

「なっ きっききき君ぃ、まさか糞蟲の為に人間であるこの僕をどうにかするつもりか!?」
「悪いかい?」
「くっ糞蟲だろ!? 汚い蛆虫のゴミ生物の実装石を殺して何が悪いんだよ!? 頭も悪いし、意地
 汚いし、不潔だし、共食いするし、醜いし、デタラメだし、邪悪だし、勘違いしているし、馬鹿面
 さげてるし・・・・ ちょぉっ!ちょぉっとおおおお!!!!」

アキラがゆらりとバールを振り上げる。

「ちょっ、無茶、無茶だよ!・・・君、君そんな格好してるんだから虐待派かなんかでしょ!? 糞
 蟲が嫌いなんでしょ!? だったら僕の言ってる事分かるでしょぉおおおお!!!!」
「ああ、糞蟲は大嫌いさ」
「だったら!!っっ・・・・・」
「だから潰すのさ、糞蟲を。ルールも理屈も無い、ムカつくから潰す、そうだろ?」
「ひぃっ人殺しぃぃぃぃ!!!!!」

まるで発作を起したかのようにガクガクと震え、歯をガチガチと噛み合わせて恐怖にすくむ。
腰は抜けて目は見開き、尻の周りには臭い湯気さえ広がっている。

しかし、アキラの目には別の物が映っていた。
1匹の実装石が両手を広げて2人の間に割って入り、他の野良実装達がその実装石を守るかのように
取り囲んでいるのだ。
アキラの目は1匹の実装石、ミノ坊に吸い寄せられていた。

「ね? ね? ね?ね?ね? 分かるでしょ?人殺しは駄目だよ? 落ち着いて、ね?」

アキラが思いとどまったのだと勘違いした塩補が懸命に保身に走る。

「ね、実装石と人間は違うんだから。実装石は所詮は実装石、ね? 糞蟲は糞蟲なんだから」
「糞蟲なんかに何の価値も無いよ、虫ケラ、ね? 人間と比べるのはどうかなぁ〜?」
「糞蟲は糞蟲。ゴミと同じ、生きる価値も無いんだから、殺そうが玩具にしようが問題無し、ね?」

ギリギリギリと歯軋りが鳴る。
それまで無表情だったアキラが、鬼のような形相に変化した。

「その生きる価値も無い虫ケラに、助けられているのはどこの糞蟲野郎だああっっ!!!!!」
「ニンゲンさん駄目デスーーッ!!」

脳天に叩きつけようと、これでもかと振り上げられた赤と緑のバール。
その体がガッシリと抱きかかえられた。

「やっ、山さん!?」
「馬鹿野郎! なにやってんだアキラ!!」

背後から抱きついたのは虐待派の山岡氏だった。

「馬鹿野郎、打ち合わせと違うだろ! 殺す気なのか!?」
「山さん、離して! こいつだけは絶対に許せない!」
「止めろって言ってるだろ・・・・おい、お前! 腰抜かしてないでさっさと逃げろよ!!」

「ひっ!? ひひひぃぃぃ〜〜〜!!」

逃げろと言われて我に返った塩補は、それこそ腰を抜かしたまま這いずるように公園を後にした。

「おいこら、止めろアキラ・・・って、おい! 離れろミノ坊っ! 踏まれるぞ!」

怒り狂っていたアキラだが、はっと足元を見るとミノ坊がしがみ付いている。
沸騰するほど沸きあがった頭も、血涙を流してしがみ付くその姿に徐々に冷えていく。

「分かった・・・分かったから。山さんもミノ坊も・・・」



同族殺しは良くない事だと泣きじゃくるミノ坊に、激怒していたアキラも渋々折れてなだめ役に回る
しかなかった。
結果として、虐待派の塩補も虐殺派のアキラも、実装石に救われるという奇妙な結果になったのだ。
複雑な心境なのはアキラだけでなく山岡氏も同じだろう。

「とりあえず、だ、アキラ。計画通りに『塩補のアパートの部屋から悲鳴が聞こえる』って警察に電
 話した。すぐに警官がやってきて、管理人と一緒に部屋の中に入って行ったから、奴の所業はそれ
 なりには表面化するだろうよ」
「だと・・・いいですけどね・・・・・」
「少なくとも、実装石を活用した公園美化事業から外される事は間違いないだろう。ミノ坊もあいつ
 が来るのは嫌だもんな?」
「絶対に嫌デスゥ・・・」

「まあ虐待派の俺が言うのもナンだが、実装石にしてみれば物騒なのには間違いない。これからも俺
 やアキラが時々見に来るようにするよ」
「・・・そうですね」
「ニンゲンさん、いつも本当にありがとうデスゥ!」



一応の結論を得た後は、ミノ坊と代わりの実装服を探さないと寒いだろう〜等の他愛もない雑談を交
わし別れる事になった。
ミノ坊と別れた二人は公園のベンチに腰掛け、他の実装石にも聞こえないよう小声でボソボソと話を
続ける。

「いったい何をブチ切れてたんだよアキラ? お前だって実装石を手にかける口だ。ミノ坊の仲間が
 殺されたのは可哀想だが、なにもあそこまで、なあ?」
「自分でも良く分からないんですけど、塩補の言ってる事を聞いてると無性に腹が立って・・・」
「でもさ、例外は別として実装石ってのは糞蟲だろ。お前の口癖だってそうさ、『実装石は糞蟲だ』
 ってさ」
「口では上手く言えないんですけど、あいつは、塩補はなにかが違うんです。なにかが、絶対に」

「う〜〜ん・・・・とにかく、実装石を殺すのとは訳が違う。二度と馬鹿な真似は止めてくれよ?」
「ええ・・・」

「話は変わりますけど山さん、あいつは絶対にすぐに復讐に戻ってきますよ」
「え? 懲りてないかなぁ? マジで死にかけたんだぜ?」
「だから、ですよ。だから余計にミノ坊が許せない。そうに決まってますよ」
「こりゃ困ったなぁ。区長さんに洗いざらい説明して、協力してもらった方がイイかもなぁ・・・」

二人は知らない。
ミノ坊も知らない。
憤怒の形相で警察の事情聴取を受けている塩補の心中を。

塩補は知らない。
実装石に深く関わると堕ちて行く、まことしやかに噂されるジンクスを。



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大変ご無沙汰しています、一年ぶりです。

春頃までボチボチと続きを書いていたのですが、その後は色々あって中断していました。
正月休みにやっとこ完成させた次第です。

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