まだ陽が昇りきらぬ朝方。 薄暗く冷え切った道路を何者かが疾走している。 その影は一つ、二つではない。 街中の至る所にて、疾走する数多くの緑の影。 「 デッ…!デッ……! 」 街中を無数の獣装石達が走り回っていた。 『 お、おい…!なんだこりゃ……? 』 朝の早い住人は、この光景を見て驚く。 だが、そんな住人に対して当の獣装石達は眼もくれている余裕も無かった。 獣装石達は走りながらも辺りを見回し、何かを必死に探していたのだから。 「 見つかったデス!? 」 「 こっちはいなかったデス! 」 「 デッ! 」 合流した獣装石達は、再び分かれて疾走を始める。 深夜から、この朝にかけて大変な騒ぎになっていた。 「 ダメデス!テンからも見つからないと報告が入ったデス! 」 「 チィからも同じデス! 」 この朝、事務所前では獣装石達が陣取り、町の地図を広げて騒ぎ立てている。 そして事務所の中から出てきた女社長が、指揮を執っていたセキに向かい声を張り上げた。 『 セキ、そっちは見つかったかい!? 』 「 ……まだデス!ワタシが……ワタシがもう少ししっかりしてれば…デス! 」 セキは歯軋りをしつつ、己の迂闊さを悔やんだ。 ミドリとコミドリが昨夜から姿を消した。 本来なら護衛役のショウをコミドリに付けておく筈だったが、別の用件を任せてしまっていたのだ。 群れのリーダーとして、あるまじき失態だとセキは自責の念に駆られる。 現在、100を越える獣装石全てを駆使し、捜索に当たらせている。 『 いや、しっかりしてなかったのはアタシだよ。 こうなることなんて、少し考えれば分かってたのに……馬鹿はアタシだよ! 』 あの男がミドリを欲している以上、絶対に1匹だけにさせるべきでは無かったのだ。 男や連中が強引にミドリを連れ去る可能性は十分にあった。 昨日まで仕事で頭が一杯であり、ミドリの事まで気が回らなかった自分が憎い。 『 こうして普通に見つからないってことは、やっぱりアイツだね…! 』 女社長が怒気を含んだ声を静かに零した。 陽が完全に昇り、辺りが完全に明るくなる。 時折入ってくる獣装石からの報告により、その場にいる者達の焦りが増していく。 「 社長サン! 」 事務所からサトが飛び出してきた。 「 この前の男の住所が分かったデス!! 」 『 でかした、サト!今から車で行くから、オマエが案内しな! 』 「 分かったデス! 」 「 自分も行くデス! 」 即座に後部座席に乗り込んできたのは獣装石のショウ。 本来のコミドリの護衛役は自分であり、他の者には任せておけないのだろう。 『 ま、いいさ!セキとアンタは、ここで留守番だよ! 』 駐車場に駆けながら獣装石や事務員達へ矢継ぎ早に指示を出し…。 『 …あっ! 』 慌てていたせいか、思わず肩にかけていた上着を落ちてしまった。 その上着が巨大な獣装石の足元に舞い降りる。 しかし今は取りに行き、拾い上げる時間すら惜しい。 『 チィ!預かっておいて! 』 「 デェ!?なんでオレが!! 」 『 その服、後で取りに行くから綺麗にしとくんだよ!! 』 1人と2匹は駐車場の車に乗り込むと、疾風のように飛び出していった。 「 ミドリちゃん……無事でいてくださいね…。 」 後ろ姿を見送った事務員が、手を合わせて祈っていた。 いや、事務員だけでなく、その場に居た全ての実装石と獣装石が同じ想いだった。 そして一方、怒りに震えている者達もいた。 「 あの腐れニンゲン…! 」 「 ミドリサン達に危害を加えたら切り刻んでやるデス…! 」 心配するタロとジロの横で、コタロとコジロの2匹が怒りに震えていた。 血の気の多い獣装石達も同じだった。 付き合いがそれ程深くないとはいえ、やはり同じ飼い主の元の仲間なのだから。 カーテンの閉め切られたマンションの一室。 「 ェ……デェ…… 」 薄暗い部屋の中、天井からロープで吊るされたミドリの姿があった。 身に着けていた衣服は所々が破けており、身体中は痣だらけだ。 その宙吊りにされたミドリを4人の男達がニヤつきながら眺めていた。 『 おら、起きろよ! 』 「 ェ……! 」 男は持っていた木刀を叩きつけると、ミドリの身体が大きく揺れた。 『 ほらほら、何とか言ってみろ…? 』 「 こ……仔供だけは… 」 『 ハァ、なんだって? 』 「 仔供だけは…た…助けて欲しいデス…… 」 昨日の夜から吊るされ、一晩中寝る間も与えられず、男達に滅多打ちされていた。 「 〜〜!〜〜! 」 同じ部屋の中、テーブルの上には密封された水槽が一つ。 音が外に漏れないために殆ど聞こえないが、中ではコミドリがガラスを叩いて泣き叫んでいた。 『 馬鹿か、お前……! 』 「 ッ! 」 再び木刀が振り下ろされ、ミドリの身体から鈍い音が響いた。 『 なぁ〜んで、俺達人間様が実装石如きの頼みを聞かなくちゃならんのだ? 』 『 さすが甘やかせて育てられた奴は身の程を知らんな…。 』 『 コイツ、自分は自力で生きてきたと勘違いしてるんだぜ? 』 男達は時々、手に持っていた凶器で笑いながらミドリを叩いて遊んでいた。 『 良い事教えてやろか? 』 「 デ… 」 『 お前はな、飼い主に売られたんだよ。 』 「 ……ェ? 」 『 あの女はな、会社のためにお前を俺達に売ったんだよ! 』 男達は一際大きく笑い声を上げた。 宙吊りにされながらあらん限りの嘲笑を受けるミドリ……そして再び口を開いた。 「 …嘘デス 」 『 ハァ? 』 「 嘘だと思うデス……デスけど…本当だとしても…し、仕方ないデス 」 『 何言ってんだ? 』 「 もし…ワタシを売ったとしたら……本当に可哀想なのは…お姉サンデス 」 男達は手を止めると、ミドリの言葉に聞き入った。 「 お姉サンは……苦しみながら……仕方なくワタシを売ったに違いないデスゥ… 」 ミドリの瞳から涙が…頬を伝って床に零れ落ちる。 「 お姉……サン… 」 バシィ!! 苛立ちを感じた男は、大きく木刀を振り上げると思い切りミドリに叩きつけた。 『 たかが実装石が生意気言うんじゃねえよ!! 』 『 人間様を舐めんじゃねえ!! 』 『 実装石の癖に!実装石の癖に!! 』 「 ……ッ!……ッ! 」 一晩中宙吊りにされた挙句、殴打され続けたミドリは悲鳴を上げる力すら残されていなかった。 それまでは一応直ぐには殺さぬよう、手加減をしていた男達。 しかしミドリの言葉はどんな悪口雑言よりも男達の精神を逆撫でにした。 木刀で叩きつけられるたびに、ミドリの身体が揺れ、飛び散った体液が部屋中に附着する。 肉は裂け、骨が剥き出しになっても男達の手は緩まない。 ミドリから少しでも無様な悲鳴を引き出そうとするが、既に余力が無いのを察する理性さえ無かった。 『 ぜぇ……ぜぇ………どうだ? 』 『 あぁ……半分死んじまったかな。 』 『 せっかくのレア物だから、どんな面白いかと思えば…。 』 『 実装石だから、んな物だろ。 』 男達の手の木刀にはミドリの体液がべっとり付いていた。 「 〜〜!〜〜! 」 その様子を一部始終目の当たりにしていたコミドリが、水槽の中から涙を流して叫び続けている。 ( ママァ!ママ〜! ) 水槽のガラスを叩いて訴えるが、ミドリの耳には届かない。 「 ……ェ… 」 宙で揺れ、瀕死のミドリが、か細い声を上げた。 『 なんだ、まだ生きてんじゃん 』 『 そろそろフィニッシュと行こうか… 』 ( ドンドン! ) 男達がトドメを刺そうとした瞬間、部屋の扉が何者かに叩かれて音を立てる。 『 なんだ? 』 『 こんな時に? 』 ( ドンドンドンドン!! ) 鉄の扉が叩き割られんばかりの轟音。 その振動が部屋中に響き渡る。 『 なんだよ、一体…!? 』 ミドリに逆上し、興を削がれた男が不愉快さを露にして扉の鍵を開けた。 『 はい、はい、何の用………ッ!! 』 扉を開けた瞬間、男の身体が後方に吹き飛んだ。 『 な…っ!!?? 』 突然の出来事に驚き、男達は身動きが取れない。 『 ミドリ!! 』 女が入ってきた。宙吊りにされた傷だらけの実装石へ、一直線に向かう。 『 大丈夫かい!?しっかりするんだよ!! 』 女の視界に、実装石以外の物は入ってなかった。 固く結ばれた結び目を解き、床へ静かにその身体を寝かせた。 「 ェ……オ……オネェ…サ……ン… 」 『 し、しっかりしとくれよ!! アンタは実装石なんだ! これくらいの傷、どうってこと無いだろ!? 』 衰弱しきったミドリには、声を出す余力さえ残されてなかった。 しかし、それでも手を上げ…飼い主の元へ伸ばそうとする。 『 す、すまない…! アタシが……アタシがついていたのに…!! 』 手を取った女社長は既に泣いていた。 自分の迂闊さを呪い、今にも命の灯が消えるミドリに何もできない自分が恨めしかった。 しかし、その女社長の手が…か細い力で握り返された。 「 な…泣いちゃ……ダ……メ…デス 」 ミドリは笑っていた。 改めて自分は幸せだと思う あの時 大好きだったトモダチやオバチャンや大切なママを失った自分は孤独だった あのニンゲンに地獄行きだと告げられ 引き合わされたのは怖い感じのニンゲンだった 《 なんでアタシが実装石を飼わなくちゃいけないのよ 》 当然の如く拒否された しかし言葉は乱暴だけども暖かく 優しい感じのするニンゲンさんだった 最初は飼わない 絶対に飼わないと言っていたけど 《 ア、アタシが新しい飼い主よ! 》 ワタシやタロやジロを助けるために飼い主になってくれた ママ達を失ったけれど幸せだった 多くの優しいニンゲンさん達や友達に囲まれ 仔供にも恵まれた そして今 もうダメだと思っていたけれど 自分の傍に 最期の自分の傍に居てくれる 「 ワ…ワタシは…… 」 『 な、なんだい、ミドリ!? 』 ボロボロに涙を零す女社長にミドリは微笑みかけ… その頬に一筋の涙が伝った。 「 幸せ……デス…ゥ… 」 その一言を最後にミドリの瞳から光が消えた。 『 ミ……ミドリ…? 』 「 …… 」 『 うそ……でしょ…? 』 「 ……… 」 『 うそでしょ、ミドリ……ねぇ、ねぇ……? 』 ミドリは何も答えない。 女社長の問いに何の返事もしない。 揺り動かしても、全く動かなくなってしまった。 「 しゃ、社長サン… 」 呆然とミドリを見つめる女社長の背後から、ショウが声をかけた。 「 もう、ミドリサンは……デスゥ… 」 『 っ…… 』 ミドリの身体を抱きしめ、頭を項垂れた。 『 ミドリ……ミドリ……… 』 ショウはこんな女社長を見るのは始めてだった。 常に不敵で、傲岸不遜で、胸を張っていたニンゲンだったのに。 なのに実装石のために泣いてくれていた。 幼い頃、自分の村はニンゲン達に全滅させられたと聞いた。 その時に助けれくれたのがセキだと。 それ以来、自分はニンゲンが嫌いだった。 セキや他の獣装石達が、この社長と仲良く話しているのを見ても好きになれなかった。 表面上は合わせてきたが、気を許してはいけないと思った。 いざという時には、このニンゲンも自分達の敵になるとばかり思っていたから。 しかし…ショウは始めて、セキ達が信頼している理由が分かった気がした。 『 …おいおい、どうしてくれんだよ? 』 沈黙の後、男が身体の埃を払いつつ、女社長とショウの方へ話しかけてきた。 『 住居不法侵入に暴力、タダで帰れると思ってないよな? 』 『 勝手に上がりこんで…いい度胸してんじゃないの。 』 『 ……… 』 女社長はミドリの身体を胸に抱きかかえ、蹲ったまま動かない。 頭を垂れ、時々嗚咽を繰り返すのみ。 『 しっかも、汚ねぇ獣装石まで連れ込んで…。 』 『 自分が何やってんのか分かってんの? 』 男達も緊張が解けたのか、口調が軽くなってきた。 『 実装石が一匹死んだくれぇで泣いてんじゃねえよ。 』 「 ……ッ! 」 ショウが爪を大きく伸ばし、臨戦態勢を取った。 勿論仲間であるミドリを殺された憤りもある。 だが仲間のために泣いてくれているニンゲンを馬鹿にされたのも許せなかった。 産まれて始めて飼い主と認識できた人物の侮辱だけは、絶対に許せなかったのだ。 『 ……ショウ 』 「 デ…? 」 『 ミドリを……頼むわ 』 それだけいうと女社長はミドリの身体を床に置き…男達の方へ振り返った。 『 …… 』 そのまま無言で男達の方へ近寄り—— 『 なんだ?今更謝っても……ギャッ!! 』 次の瞬間、女社長の正拳が男の顔面にメリ込んでいた。 『 アンタ達!!! 生きて帰れるなんて思ってないだろうねぇ!!!! 』 ショウはミドリの身体を抱えながら自分の飼い主を見ていた。 涙を流しながら拳を握り締め、男達を殴りつけ、蹴り飛ばしていく。 部屋の中の家具が盛大に破壊され、ガラスが外に吹き飛ぶ。 ガッ!! 「 しゃ、社長サン!! 」 男の一人が、背後からバットで女社長の後頭部を思い切り殴りつけた。 流石の衝撃に、女社長の身体も壁に寄りかかる。 『 な…なんなんだテメエはよ!! 』 ガッ!!! 再び振り下ろされたバットは、再び頭部を打ち付ける。 床に鮮血が飛び散り、バットが赤く染まる。 『 それが……! 』 『 ヒ…ヒィ!! 』 『 それが、どうしたってんだい!! 』 『 ギャッ!! 』 女社長の拳が男の顔面に直撃し、背後の食器棚に突っ込んだ。 『 ぜぇ……ぜぇ…… 』 額が完全に割れ、自分の着衣まで真っ赤に染まっていた。 「 社長サン、そのままじゃ……早く手当てをするデス! 」 『 うるさい! 』 ショウの言葉にも耳を貸さず、更に男達に向かおうとした時 「 テェ〜!! 」 『 へへ……へへっ… 』 男の一人が、水槽からコミドリを取り出していた。 『 そ、そのまま動くなよ…!でないと、このチビが…! 』 『 ぐっ…! 』 「 コミドリ! 」 コミドリを盾にされ、女社長とショウは手が出せない。 『 へ……っ! 』 男はコミドリを掴んだまま、部屋の扉を開けて駆け出していった。 『 ぐっ…! 』 当然の如く、それを追って女社長も外へ。 「 社長サン!無理をしないでデス!! 」 『 アンタはミドリを守ってりゃいいんだよ!! 』 ショウの言葉を振り切り、唇を噛み締めた。 《 馬鹿だ…アタシはなんて馬鹿なんだ……! 》 通路を抜け、階段を駆け下りながら女社長は悔やみ切れない。 ミドリを殺され、それに逆上してコミドリの事をすっかり忘れていた。 ここでコミドリにまで何か有ったら、ミドリに顔向けができない。 『 待ちな! 』 『 ヒィィ!!! 』 駐車場を抜けて逃げる男を、女社長が追う。 二人の距離はみるみるうちに縮まるが… 『 うわぁぁ!! 』 「 チャアアア!! 」 追われて半狂乱になった男は、コミドリを闇雲に遠くへ放り投げる。 「 チベッ! 」 コミドリが放り投げられたのは隣の国道。 放り投げた先を見ず、逆方向へ走り去る男。 「 テ……テェェ… 」 道路のアスファルトに叩きつけられ、仔実装のコミドリは怪我をして身動きが取れない。 更に百メートルと離れてない場所にはトラックが走って近づいている。 『 コミドリ! 』 迷ってる暇は無かった。 女社長の身体が考えるより先に動き、ガードレールを飛び越えて車道へ。 その視界にトラックは入っていない。 傷ついた仔実装しか目に入って無かった。 ( ダァァン!!! ) 鈍い音と共に、トラックに跳ねられた身体が宙を舞う。 激痛と身体がバラバラになるような衝撃。 『 ……ッ! 』 しかし、それでも手に抱えた仔実装は離さず…。 ( ガッ……!! ) 受身を取るよりコミドリを庇うのを優先し、コンクリートの壁面へ頭を打ち付けた。 『 ぐっ………ぁ…… 』 壁面の下に倒れこんだ女社長が呻き声を出した。だが、それは身体の痛みが理由ではなく コミドリ…! 名前を呼ぼうとも声が出ない。 しっかりしな! 大丈夫かい!? 手の中に仔実装の感触がある。 けれども目が見えず、確かめることができない。 誰か…! 誰か…… だ、誰……か… 「 しゃ……社長サン!! 」 意識が遠のき、消えかけた時…自分を呼ぶ声が聞こえた。 微かに瞳を開けると、白い髪の実装石が傍にいる。 『 サ……ト… 』 「 社長サン、しっかりするデス!! 今、ショウが助けを呼びに行ったから、それまでの辛抱デス!!! 」 『 …コ……ミ…ドリ……は…? 』 今にも消えそうな擦れた声。 「 大丈夫デス! コミドリは気を失っているだけデス!! それより社長サンの方が大変デス!!! 」 女社長とコミドリとサト。 一人と二匹の回りは血の海だった。 倒れている女社長の頭部から今も尚、流血は続いている。 サトにはどうすることもできない。 今は揺り動かさず、救急車が来るのを待つしかなかった。 『 そうか……良かっ……た…。 』 それだけ言うと上半身を起こし…女社長は頭部を打ち付けた壁にもたれかかった。 「 う、動いちゃ駄目デス! 今は医者が来るまで、おとなしくしているデス!! 」 今まで女社長の身を案じ、身体に触れなかったサトが初めて触れた。 誰の目から見ても今の飼い主の状態は最悪だった。 早く適切な処置をしなければ手遅れになってしまうのがサトには当然分かっている。 しかし当の女社長は、逆に穏やかな表情であり…。 『 サ…ト…… 』 自分の手に泣いてすがるサトの頭を撫でた。 『 は……は… 』 「 しゃ、社長サン……? 」 自分の頭を撫でる飼い主の顔をサトは見上げた。 血まみれで有るけれども、その表情はあくまで穏やかであり…笑顔さえ浮かべている。 『 サ…ト……に……お…願い…があるん…だ… 』 「 そんなことより…今は、その怪我を…! 」 『 い…や……それより……サト…にしか…できないのよ… 』 「 …な、何デス……? 」 更に女社長は微笑み…頭を撫でていた掌を肩の上に置いた。 『 …アタシ…からの………最後の…お願い……よ… 』 『 しゃ…社長!! 』 その姿を見て、事務員が悲痛な叫び声を上げた。 「 しゃ、社長!! 」 「 社長サン!! 」 「 しっかりするデス!! 」 更に心配になって事務員についてきたセキ、タロ、ジロ、そして実装石達。 『 や……やぁ……みんな… 』 女社長は、それまで話しかけていたサトから視線を皆へ。 震える手で事務員達を出迎えた。 『 こ……これから…ね………ウチの……事務………言うことを……聞く…のよ…? 』 「 な、何を言うデス! 」 「 変なことを言わないでデス! 」 「 こんなのすぐに良くなるデス!! 」 実装石達が泣いて女社長にすがりつく。 タロとジロも泣きながら、お願いをしている。 その実装石達の肩へ一匹づつ手を置いてやり…。 『 あ……ンタに……は………苦労………かけ…た………ね 』 同じく傍で泣き出していた事務員に声をかけた。 『 そ、そんなこと、言わないで下さい…全然、大したことじゃ………! それより、こんな……酷いじゃないですか…! 自分はいつまでも社長だって、そう仰ってたじゃないですか!! 』 その場で膝をついて崩れ落ち…事務員はそれ以上言葉が出ない。 『 す…すまない…ね……これ以上…一緒に…いられ……なくて… 』 「 ふ…ふざけるなデス!! 」 泣いている実装石達と女社長を見下ろしながら、セキが怒鳴りつけた。 「 まだ、このワタシとの勝負がついてないデス!! 」 セキが爪を伸ばし、自分に向けた。 「 他にも…!チィもテンも、他の獣装石達も!! みんな、みんな勝ってないデス!! 勝ち逃げなんて許せないデス!!! 」 睨み付けるセキの目から涙が……頬を伝い地面に落ちた。 自分を助けてくれた元の飼い主は冬香だった。 しかし今の飼い主も同じくらい好きだ。 一度は自分を殺そうとしたが、それには理由が有ったからだ。 しかも結局自分を見逃してくれた。 そして今まで群れを色々と助けてくれた。 住める場所を確保し、ようやく食料にも余裕が出てきた。 その後、一度じっくり話をしてみたいとセキは思っていた。 冬香が頼るだけはある。 強いだけじゃなく、自分達をいつも安心させてくれる。 今の飼い主が何を考え、何を思っているのか話をしてみたかったのだ。 「 さっさと……さっさと立ち上がるデス…! 」 司令獣装が膝をついた。 「 早く……早く立ち上がって………くれデス… お願いデス…お願いデス…… 」 地面に手をつき……泣きながら懇願していた。 涙を流すなど、司令獣装として失格なのは分かっていた。 だが、今のセキは溢れる涙を止める手立てが何も無かった。 『 ……は……はは………は…… 』 「 ……デ… 」 「 ……? 」 「 ………ェ… 」 『 は………は…は……は…… 』 女社長から乾いた…かすれた笑い声が耳に届いた。 本人は力を振り絞って笑っているかもしれない。 けれども既に声に出せる程の力が残っていなかった。 『 はは……は……… 』 ひとしきり笑った後。 女社長は集まった実装石と獣装石達に微笑みかけ……口を開いた。 『 け……結婚…も……してな…い…のに…… …こ…んな……に…………子供…が……いっぱ………い…… 』 風が吹いた 一陣の大きな風が 吹き上げた風は 全てを巻き上げ 遥か遠くに運び 吹き終えた時 飼い主は既に瞳を閉じていた 「 社長…サン? 」 タロが飼い主の袖を引っ張った。 『 ……… 』 しかし何も答えてくれない。 「 社長サン……社長サン!! 」 「 嘘デス!こんなの嘘デス!! 」 「 社長サンが死ぬわけないデス!! 」 抑えきれなくなった実装石達が女社長の身体にすがりつき、号泣を始めた。 ( ガッ!ガッ! ) セキは地面を殴りつけていた。 「 卑怯デス…! 勝ち逃げなんて……! 勝ち逃げなんて、卑怯デス!! 」 打ち付けたセキの拳が血で滲んだ。 けれども止めることは無く……滲んだ血と零れた涙が混ざった。 『 社長……! 』 事務員もやはり涙で顔をくしゃくしゃにしていた。 溢れる涙を拭うこともせず、ただ社長とだけ呼び続けていた。 だが 「 ……… 」 白髪の実装石だけは平然と見ていた 事務員も実装石も獣装石も皆泣いている中、離れた場所にいた サトだけは泣くのを止め 皆を見ていた 「 ……… 」 サトだけは一粒の涙も流さず 飼い主の最期を冷やかに看取っていた
