タイトル:【実験・観察】 素朴な疑問
ファイル:神社公園実装石実験.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:2796 レス数:0
初投稿日時:2009/12/23-17:53:46修正日時:2009/12/23-17:53:46
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 俺は敏明。双葉町に住むしがない虐待派だ。

 今日近くのスーパーに買い物に行った時、あることに気づいてしまった。極些細なこと
だし、誰も気に留めていない。実際俺も今まで気づかなかったが、気づいてしまうと気に
なってしまう。

 みんな商品を見る時、口元に手をやってるということ。
 俺も商品を見る時無意識に口元に手を当てていた。

 そして、一人の虐待派として『あいつら実装石はあれをやるのだろうか?』という思い
つきが、すぐさま頭に浮かんだ。浮かんでしまった。しかし、実装石が買い物カゴ持って
スーパーで買い物するなんてありえん。

「くそっ……」

 俺は何度目か分からん寝返りを打った。

 時計を見ると夜二時前。

 明日は大学だってのに……気になって眠れん……。どうすっか? これじゃ、明日の朝
がキツいぞ。自主休校、なんてアホなことやるわけにもいかんし。今夜と明日はどうにか
なっても、数日くらいは悶々とした日々が続くだろうし、困った。

「とりあえず似たような状況を作ればいいんだよな、うん」

 実装石を適当に集めて、品物選びをさせる。
 品物はいらないタオルやハンカチ、空のペットボトルや空き箱で済む。足りないものは
適当に金平糖でも出しておけばいい。野良にとってはどれもそれなりに価値のあるものだ
し、俺の懐も大して痛まん。

 駄菓子菓子。

 それを普通の野良実装石で試しても、品物の取り合い奪い合いの乱闘になるのは目に見
えていた。そして、そこにキレた俺が乱入してヒャッハーすることも。俺がやりたいのは
虐殺パーティじゃなくて、実装石の買い物実験なんだ。

 その実験を成功させるには、ある程度の数の実装石、しかも統率が取れていて賢い連中
が必要だ。そんな都合のいい野良の群れなんて——

「あ。あった」

 思わず声が出る。

 俺が自転車で行ける範囲で、なおかつ賢い固体の群れ。
 それにはひとつだけ心当たりがあった。

 神社公園の群れ。山実装石並の厳しい間引きで群れのレベルを維持しつつ、ボス一匹、
幹部三匹、班長七匹という伝達系統まである、ちょっとした社会だ。

 あいつらなら、俺の疑問を解消してくれるかもしれん。
 幸いボスのカシラとは面識あるから、何とかなるだろう。

 よし、疑問解決の流れも思いついたし、寝るか。






 というわけで、実験当日。

 カシラとの交渉はあっさりと決まった。俺としてはただ実装石の反応が見たいだけで、
群れの連中としてもタダで貴重な小物が貰えるのはありがたいだろう。双方にとって利益
となるので、お互いに断わる理由もない。

 人気の無くなった夕方。神社公園の片隅の芝生で、準備は進められていた。

「デス、デスー」
「デッスデッス」

 腹にサラシを巻いたガタイのいいマラ実装石と普通の実装石三匹が、俺の持ってきた段
ボール箱から中身を取り出し、それを芝生に並べている。

 空の菓子箱やペットボトル、古新聞紙などなど。人間にとってはゴミだが、野良実装石
には貴重な日用品になる。俺の部屋もきれいになったし、これも一種のリサイクル?

 俺は離れたベンチに座ってジュースを飲みながら、その光景を眺めていた。

 リンガルは……忘れた。

「確か、あいつが若手幹部か」

 三匹の幹部の中で少し動きの遅い一匹。
 前の幹部が金平糖の着服をして、虐待派送りになってから入ったヤツか。まだ幹部とし
ての仕事に慣れていないらしい。そこは俺の知ったことじゃないけど。

 そんなことを考えているうちに、小物が並べ終わった。

「デースー!」

 カシラの大声が合図らしい。
 今まで物陰から眺めていた実装石が、わらわらと芝生に集まってくる。

 集まってきたのは成体実装石が三十匹くらい。この規模の公園としては、かなり少ない
んだろうな。群れを維持するための、少数精鋭主義か。

「って」

 ついでに、何故か実装紅二匹に、実蒼石二匹、あと実装金一匹までいる。多分、こいつ
らも神社に住んでる連中だろう。この神社は実装生物多いから。

 だが、これは思わぬ収穫。実装石以外の反応も見られるぞ。

「デスデス、デースデス」

 カシラが集まった実装石その他に対し、何やら言っている。リンガル持ってないんで何
言ってるかは分からないけど、内容は大体想像が付く。

 一匹一個までデス。それ以上持っていったらお仕置きデス。

 とでも言ってるんだろう。多分。

「デスッ」

 実装石たちが一斉に頷き、並べられた小物の間を歩き始めた。見た感じ、フリーマーケッ
トを見学するおばちゃん集団。

 実装石が口元に手を当てる行為。一般的に媚びやお愛想とか言われる。頭の悪い実装石
は人間の気を引くためにやるが、賢い個体はそれを嫌う。俺もこの神社公園の実装石を長
いこと見てるけど、媚び動作をやってるヤツは見たことない。
 その媚びに似た口元に手を当てる仕草。

 さあ、こいつらはやるのかな?

 俺は小物を眺めたり手に取ったりしている実装石を凝視し。

「やってる〜♪」

 思わず感動の声を口にしていた。

 多くの実装石が、自分の手を口元にやっている。ただ、媚びとは違い口元を隠すように
したり顎を押さえたり、個体によって微妙に形が違う。ついでに、普通媚びは右手でやる
ものらしいが、右手を口元に当ててるヤツもいれば、左手を当ててるヤツもいる。

 ふと気になって実装石に紛れている実装紅や実蒼石、ついでに実装金も眺めると。

「ダワ、ダワ」
「ボクゥ」
「カシラー」

 こいつらも、同じように手を口元に当てている。

 人間同様、こいつら実装生物も何かを選ぶ際には口元に手を当ててしまうらしい。しか
も、無意識のうちに。ここ数日の疑問が一気に氷解する。

「おっし!」

 俺は両手を握りしめ、小さくガッツポーズをした。

 自分でも何と言っていいか分からないけど、物凄い達成感と充実感。何故か目元からは
らりと一筋の涙がこぼれる。やった、やったよ!
 爽やかな笑顔で、俺は空を見上げた。鮮やかな夕焼けの空に、スーパーで口元に手をや
っていたおばちゃんが見えたような気がした。

 ト〜リ〜ビ〜ア〜♪
 実装生物も物を選ぶ時は人間と同様、口元に手を当ててしまう。
 100へぇ

 ちょっと懐かしいネタを心の中で呟きつつ、俺はベンチから立ち上がった。

「デス?」

 カシラが俺の気配に気づき、顔を向けてくる。

「いいもん見せて貰ったよ、ありがとうッ!」

 多分俺の人生の中で一番素敵な笑顔とともに、右手を持ち上げる。

「デ……」

 俺の素敵笑顔に、ちょっと引いているカシラと、瞬きしつつ呆然としている幹部三匹。
品物を選んでいた実装石たちの何匹かも、不思議そうに俺を見つめていた。
 でも細かいことは気にしない。今の俺はとっても気分がいい。

「いい夢見ろよ、あばヨ!」

 びしっとポーズを決め、俺は意気揚々と帰路についた。
 きょとんとした実装石たちの視線を背中に浴びながら。






 あとがき
 最近重い話が多かったので軽い話を書いてみました。実際に自分がスーパーで買い物を
していた時に気づいた事が元ネタです。

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