タイトル:楽園崩壊 1/8
ファイル:楽園崩壊01.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:3851 レス数:0
初投稿日時:2009/12/20-03:06:53修正日時:2009/12/20-03:06:53
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あらすじ 


第一話『 楽園杯 』( 旧名『 楽園 』 )   (  0 〜 3ヶ月後 )

とある街中、冬の公園にて。
賢い親実装と仔実装のミドリは、公園清掃業者によって住処を失う。
残された選択肢は隣町に人間達が実装石を収容するために作られた「楽園」と呼ばれる施設へ行くこと。
そこへ辿りついた親仔は束の間であるが食住の足りた安息の生活を送る。
しかしある日の朝、施設の扉が開いて実装石サバイバル大会が開催。
多くの実装石が餓えと寒さ、そして同属達の共食いによって死んでいく中、
仔実装のミドリは見事完走(生還)。
その後、ミドリは最高金額を賭けていた清掃局員に引き取られ、
更にその姉である土木会社の女社長に飼われる経緯を辿る。


閑話休題『 楽園より二ヵ月後 』        (   5ヵ月後周辺   )

 ミドリが妊娠した。妊娠原因は不明、その真相を知るのはミドリ自身のみ。
通常の実装石の1〜2週間の胎児期間に対し、ミドリの仔の胎児期間は何と三ヶ月。
心配する女社長に大きくなったお腹をさすりながらミドリが問いかける。
「神サマって何デス?」と…。


第二話『 青い部屋の中で 』          (  4 〜 5ヵ月後 )

 とある学生が大学からの帰り道に拾った傷ついた仔実装。
1人暮らしの寂しさを紛らわすため、学生は下宿で隠れて飼う事を決める。
サトと名付けられた仔実装は遊びで見せた教材を難無く理解し、遂には人の知能さえも超える。
その正体は、嘗て研究者達から実験的に知能を高めさせられた実装石の末裔。
サトは先実装達の遺志を受け継ぎ、その知能を使い実装石の可能性を全力で模索する。
種族としての未来が無いと結論が出ると絶望して白髪に。

 以後、サトは学生の姉である女社長に引き取られる。
 新しい飼い主の下、サトは平凡な生を送ることに決めた。
 だが女社長の下には…。


閑話休題『 青い部屋の中で より二時間後 』  (   5ヵ月後周辺   )

 女社長の下へやってきたサトは、その飼い実装であるタロ、ジロを見て驚愕する。
このような知能の高い個体を飼っている女社長に改めて興味を抱く。
そしてその夜、ミドリは初対面のサトに、酷く狼狽した。
その後、落ち着いたミドリは女社長へ自分が妊娠した夜のことを語り始めて……。


第三話『 彼女が話を終えた時 』        (   30ヵ月後   )

 電車のダイヤが乱れ、電話が繋がらず、インフラが徐々に低下していく社会。
そんな時期、中学生の春彦達は廃校となった校舎で、奇妙な女がいると噂を聞きつける。
その女は、訪れた者達にお金では買えない大切な物を与えてくれるという。
大切な飼い実装を失ったばかりで傷心の春彦は、友人達に誘われ、気晴らしで付いていくことに。
真夜中の学校へ忍び込んだ春彦達が出会ったのは1人の女と1人の少女。
春彦達に、女は3つの話を始めていく。
その3つの話の中、春彦達は隠された謎に気付いて女に指摘する。

話の後、たった一人だけ謎かけを見事解いた春彦に女は話を始めた。
その女は以前まで女社長の下で働いていた事務員。
事務員は近い将来、この世界に破滅的な災厄が訪れると告げた。

現在の社会の状況は、その前兆であると。


第四話『 サハクウセキ 』           (    〜10ヵ月後 )

 いつも虐められてばかりの冬香が拾ったのは1匹の仔獣装。
セキと名付けられた獣装石は成長すると冬香の下を飛び出して山にある獣装石の村へ辿りつく。
その知能と体格、そして統率力から頭角を現し、群れのリーダーであるホウの片腕となる。
そして二度に渡る人間の駆除の手を退けるが、姪の冬香に請われた女社長の前に敗北。

結果としてセキもまた女社長に飼われることになるが、そこで白髪の実装石サトと出会う。


 その2匹に向かい、ミドリは涙を流しながら話を始めた。

 左(サ)に白(ハク)髪の実装石・サト、右(ウ)に隻(セキ)眼の獣装石・セキ。

 そして2匹につき従う類稀な能力を備えた個体達。

 遂に条件は揃ってしまった……もう、運命は変えられないのかと。



 そして今回


 全ての者達の運命が決定付けられた『 楽園崩壊 』( 15ヵ月後 )を始めたい




















                   プロローグ

                  岸 辺 に て

                  (70ヵ月後)



















波の音が聞こえる。

潮の香りが立ち込める港街。

陽はまだ昇りきっていない。
空の雲が朝焼け色に染まり始めた頃。

朝靄の中、小さな影が走っていく。

「 ど、どこに行ったデス…!? 」

獣装石が1匹、港町を駆け抜けて行く。
駆けながら辺りを見渡すが、何も動いていない。
何も灯っていない。
朝方まで町並みを灯しているはずの街灯に光は無い。
辺りの商店街の窓ガラスは無残に割られたまま、修復されることは無い。
道路にうち捨てられた乗用車はガラスが割れて朽ち果てている。
朝方であるが、街中に全く人の気配は感じられない。
建物に伸びたつる草は刈られることなく思いのままに伸び…。
町全体がひっそりと静まっていた。

「 み、見つけたデス…! 」

獣装石が息を切らせながら辿り着いたのは、波止場。
そこに影が一つ、波打つ海の方を向かって立ち尽くしていた。

「 ミチ、さ、探したデス…!今日は定期連絡デス…!? 」

獣装石に気付いて、その影が振り返る。

「 …分かったデス。ご苦労だったデス。 」

名を呼ばれ、振り向いたのは一際大きな獣装石だった。
けれどもミチという名の獣装石は一言だけ声を返すと、再び海の方を見て黙り込んでしまった。

「 ……? 」

実装石は、ミチの視線の向こうを見た。
暗闇の海へ僅かに光が差す。
日はまだ昇りかけで辺りは薄暗い。
しかし、視線の向こうには何も見えない。
ただ、どこでも見えるような海が広がっていた。

この獣装石の部下になってから数ヶ月。
上官であるミチが、いつも海を眺めているのが不思議で仕方なかった。
確かに部下の獣装石は、ミチの眺めている海の向こうに何があるか知っていた。
そのために、この獣装石がこの港に配属されたのも。
だが獣装石には人間達に対する憎悪が感じられない。
寧ろ、何かを懐かしんでいる感すらあった。

「 なぜ、いつも海を見てるデス…? 」
「 …… 」
「 見張りなら交代でワタシ達もするデス 」

現在、全世界に配属された指揮獣装の数は300万を越える。
その指揮獣装達は、今も各地の最前線で激しい戦闘を繰り広げていた。
この指揮獣装は7番目に任命された最古参の1匹。
普通ならば司令獣装に昇格していても不思議ではないのに、なぜか指揮獣装に留まっている。

獣装石ならば皆、最前線に立って指揮を執るのが無上の喜びの筈である。
しかし、この指揮獣装にはその覇気が感じられない。

「 忘れたデス 」

ミチが哀しげに呟いた。
この指揮獣装もまた、昔の記憶が消えかかっていたのだ。
自分は、なぜ海を見ていたかったのか、今となっては思い出せない。
何か大切な理由が有った気がする。

「 なぜ、いつも海を……あの方向を見てるか忘れたデス。デスが… 」

指揮獣装は海から目を離すことなく……海の向こうの一点を見ていた。

「 あの方向を見てるだけで落ち着くデス…… 」


波が打ちつけ、白いしぶきが上がる。
空が徐々に明るくなり、漆黒の海に光が射してきた。

ミチは視線を自分の肩へ向けた。
肩にはクリップでくくりつけられた、古くて小さな青いリボン。
どうして、そんなリボンを着けているのか今のミチには思い出せない。
だが、決してそのリボンを捨ててはいけない気がした。
そしてこのリボンを見ると一人の人間の影がミチの心に……脳裏に浮かびあがる。
もう、その人間の顔をはっきりと思い出すことができない。
なんて呼んでいたのかも思い出せない。

ただ、微かに覚えてるのは笑顔。
その人間が、いつも自分に微笑みかけてくれたのだけは覚えている。

とても優しかったのだけは覚えている。

するとミチは眼を閉じ、青いリボンの上に手を置いた。


なぜだか分からないが

ミチはその人間のことを思い出すと心が安らいだ


その人間の笑顔を思い浮かべるだけで暖かい気持ちになれたのだ







































































































                  楽 園 崩 壊

                  (15ヵ月後)





















まだ山々に白い残雪が残る春先。
澄み渡る青い空と冷たい風。
とある田舎の河川にて数人の土木作業員…そして緑の小人達が働いていた。

「 デェ……デェ……… 」

安全帽をかぶった獣装石が一匹、息を切らしつつモルタルの袋を担いでいる。
その身にはサイズが合わないブカブカの作業着。

『 ほら、チィ!さっさとこっちに運んできなっ! 』
「 やかましいデス、バカ社長!
  急いでるなら自分で運べデス!! 」
『 なんだい、その口の聞き方は!社長のアタシに逆らおうって気かい!? 』
「 望むところデス!今日こそ、この場でブチ殺してやるデス!! 」
『 アタシに勝てると思ってんの…!? 』

チィは地面にモルタル袋を放り投げ、女社長が勢い良く腕の裾をまくった。
高まる緊張、1人と1匹の間合いが狭まっていく。

『 まぁまぁ、社長、落ち着いてくんさいよ。 』
「 チィ、さっさと仕事に戻るデス 」

女社長の肩を他の社員が引きとめ、チィの肩をテンが引き止めた。
テンもまた、チィ程で無いが、多くの資材を抱えている。

「 他の獣装石達も皆、頑張って働いてるデス オマエばかりさぼっては示しが付かないデスよ 」
「 デ…… 」
「 …それに山には仔供達が待ってるデス 」
「 仕方ないデス……デェッ! 」

チィは再びモルタルの袋を担ぎ直すと作業に戻った。

ここは田舎の小さな川。
その工事現場で働く8名の人間と総勢30匹の獣装石達。
獣装石達は女社長の指示に従い、単純労働に従事していた。だが実装石より遥かに体躯が勝っている獣装石とはいえ、人並の仕事は任せられない。草刈りやゴミ掃除、そして軽い資材の運搬。
しかしテンやチィといった、特別な巨躯の獣装石には普通の労働が課せられていた。

『 …よしっ!それじゃ、15分の休憩だよ! 』

時刻が10時を回ると、女社長の声が現場に響き渡った。

「 デェ…… 」
「 デェ、デェ、…… 」

その場で尻餅を突いて倒れる獣装石が何匹か見える。
ホウの元で鍛錬を積んできた精鋭獣装とはいえ、この現場の作業は身に堪えるようだ。
この数ヶ月で多少は慣れたものの、やはり重労働であった。
肩で息をする者達がほとんどである。

『 よし、アンタ達もお疲れだね。……これでも口に入れて身体を休めておきな。 』

女社長は獣装石の集まりごとに、お菓子袋を開けて置いた。
クッキーや飴玉、主に甘い菓子類が並べられる。

「 生き返るデス… 」
「 ふぅ…疲れが取れるデスよ… 」

糖分が疲労回復の特効薬というのは獣装石達にとっても同様だった。

「 チィ、おまえも座って休むデス 」
「 デェ、デェ…… 」

テンに促され、チィが尻餅をついて地面に座り込んだ。

「 あ……あのバカ社長………デェ……いつか痛い目に遭わせてやるデス…! 」

その悪態を聞いたテンは、僅かに笑みを浮かべた。
なぜなら、今日だけでチィの女社長に対する悪態は裕に二桁に達していた。
敵愾心を全開にしつつも、決して戦いを挑まないのは今の力関係を理解しているからだ。

「 ……悪くないデスね 」
「 何がデス? 」

チィの横に座っていたテンが天を仰いだ。
青い空と白い雲。普段なら冷たい冬の風も、労働直後の今の自分達には心地良い。

「 山の方ではセキ達が村を作り直してるデスよ
  これでもう、食べ物や寒さを心配しなくて良いデス 」
「 …まぁ、デス 」
「 仔供達も元気に暮らせるデス…
  だからこそ、みんな頑張ってるデスよ 」

テンは周りの部下の獣装石達を見た。
全員、疲れてはいるものの、自らに課せられた仕事を、責務を投げ出す者は居ない。
労働さえこなせば山に食べ物を持って帰れる事を皆、知っていたからだ。

『 テン、チィ! 』

女社長が歩いてくると、2匹の近くに屈みこんだ。

「 なんデス、社長? 」
「 な、なんの用デス…? 」
『 はぁ……それなんだけどね… 』
「「 ? 」」

女社長は頭を掻き毟ると、溜め息を漏らしつつ2匹に言った。

『 アンタ達2匹、明日は別の仕事をしてもらいたいわけなんだけどね… 』
「 デ、デェ…!
  明日は休みじゃないのデスか!? 」
「 ど、どういう事デス!バカ社長……デギャ!! 」

バカ社長呼ばわりしたチィの頭に女社長のゲンコツがめり込んだ。

『 ……その仕事、引き受けるかどうかはアンタ達次第よ。詳しくは、あの子から聞いておくれ。 』

女社長が振り返って手招きをすると、実装石が一匹歩み寄ってきた。
実装石は2匹の前に立つと、ペコリと頭を下げてお辞儀した。

「 ミドリサン…? 」
「 一体、何の用デス? 」

2匹はミドリの事は知っていたが、あまり話をする機会は無かった。
会社で事務員の仕事を手伝ったりするほど、頭の良い実装石だと聞いてはいたが。

「 実は明日…獣装石さん達にお願いが有るのデス… 」


翌日。
晴天の午後、道の端を実装石達と獣装石達が集団で行進している。

「 デェ……デェ……!なんで休みの日まで、こんな事しなくちゃならないデス!? 」

チィの背中には詰まったリュックサック、両手にはみっしりと重い袋をぶら下げている。
同じくテンもチィと同じく多くの荷物を背負っていた。そのチィの背後に続くのは、10匹の獣装石。
チィ程ではないが、その手や背中には何かの荷物を抱えている。

「 あと、もう少しデスから……みんな、頑張ってデス 」

先頭に立って先導するのはミドリ。
ミドリもまた、背中に荷物を背負い、その手には…。

「 …ママ、どこに行くテチ? 」
「 公園デス あそこで、みんな待ってるデスよ… 」

手を引いているコミドリに向かって話しかけた。セキ達との事件から五ヶ月。
けれどもコミドリの身体は普通の仔実装より僅かに成長したのみである。

「 けれど、タロやジロまで来る事は無かったデス… 」
「 大丈夫デス 」
「 このくらいできるデス! 」

横を歩いていたタロとジロが笑った。やはり2匹とも、背中や手に荷物を持っていた。
そして、その横には大きくなったコタロとコジロを引いている。

「 コタロやコジロも本当にありがとうデスゥ 」
「 まぁ、ミドリサンの為なら仕方ないデス 」
「 気にしなくて良いデスよ 」

コミドリと対称的に成長し、成体となったコタロとコジロが受け応えた。
本来なら親からさえ頼みごとを受けない2匹だが、ミドリには従っている。

「 …しかし、これは何が入ってるデス? 」

コタロとコジロの興味が皆の荷物に向けられる。

「 それはデスね……あ、着いたデス! 」

公園の入り口が見えた。

「 ミドリさん、いつもありがとうデス… 」
「 気にしなくて良いデス……それより子供達にたくさん食べさせてあげるデスよ 」

また一匹の実装石がミドリに頭を下げて帰っていった。
公園の真ん中に積み上げられた、皆で運んできた小さな荷物の山。
それは商店街の人達から分けてもらった食べ物だった。
食べ物とは言っても、パンの耳や野菜の切れ端、賞味期限切れの食品といった廃棄前の物ばかり。
だが、それでも実装石達にとっては十分なご馳走だった。
その食べ物を貰うべく、実装石達の列が続く。

「 はいデス……子供達を元気に育てるデス 」
「 次は、そっちデスね 」

タロとジロもまた、ミドリの近くで実装石達の列に食べ物を配っていた。

「 慌てなくても、たくさんあるデス〜 」
「 まっすぐに並ぶデスよ〜 」

獣装石達は列整理をしていた。
その列整理の手際の良さは、指示しているリーダーがテンであるからこそだろう。

「 ママ… 」
「 なんデス? 」
「 あの大きいの……こわいテチュ 」

並んでいる実装石達の中には、仔実装を連れている者達もいた。
その仔達は、食べ物を配っているミドリ達の横の獣装石を見上げて怯えた。

「 なんでオレがこんな事を……デス 」

1m60㎝の巨躯の獣装石、チィだ。
その獣装石すら遥かに越えるサイズは、初対面の仔実装達を怯えさせるに十分だった。
だが、その威容があるからこそ、食べ物を強奪しようとする不届きな実装石は鳴りを潜めていた。

「 大丈夫デス、この獣装さんって身体は大きいデスけど、とっても優しいデスから 」

ミドリはすかさずフォローを入れた。
周りから誤解されやすい身体と性格のチィにとって、ミドリのような存在はありがたい。

「 …これで終わりデスね 」

最後の食べ物を渡し終えると、あれだけ有った荷物の山はすっかり無くなっていた。

「 獣装石さん達、お疲れさまデス
  そろそろお腹も空いたデスし、お昼ご飯にするデスよ 」

すると残っていた荷物から実装フードの袋を取り出した。デザート代わりに、飴玉の入ったお菓子が数袋。

「 お姉さんからの差し入れだそうデス 」
「 では食べるデスゥ… 」
「 疲れたデスね 」

公園の一角にて、実装石と獣装石の集団が腰を下ろして食事を始めた。

「 …ミドリ、いつもこんな事をしてるデス? 」
「 デェ? 」

食べ物を頬張りながら、チィがミドリに話しかけた。

「 この公園に、いつも食べ物を運んでいるのかって聞いてるデス 」
「 ……そうデス 今日は獣装石さん達のおかげでたくさん運べたデス 」

やはり実装石と獣装石とでは身体の作りが違う。
特にチィだけで獣装石3匹分の荷物を運んでいたのだ。

「 …それだけじゃないデスね 」
「 テン、どういうことデス? 」
「 ミドリサン達だけでは、他の実装石達に襲われるかもしれないデス 」

テンが指摘した。
たくさんの食べ物を抱えているミドリを狙う実装石は少なくないだろう。
だが、獣装石達が近くに居れば話は別だ。
テンとチィだけで実装石100匹が襲いかかってきても問題無い。
部下の10匹の獣装石達も頼もしい。
いわば今回同伴した獣装石達は運搬係であり、護衛でもあった。

「 この公園には食べ物が無くて困ってる実装石がたくさんいるデス
  これで少しでもお腹が膨れるといいデスが… 」

ミドリの呟きを、獣装石達は静かに聞いていた。
今でこそ住む場所と食べ物に困っていないが、前まで彼らと変わらぬ境遇だった。
飢えと寒さ、そして駆除で少なくない仲間や仔供を失った。
あの過酷な生活を思えば、今の自分達は恵まれすぎている。
目の前の実装フードや飴玉など、あの頃では考えられない贅沢であろう。

「 あの仔達に食べさせてあげたかったデス… 」

一匹の獣装石が飴玉を掴みながら嘆いた。テンもチィも、項垂れて想いに浸る。

「 おおきいテチュ…… 」
「 テェ… 」

遠巻きに親実装の横の仔実装が2匹、食事を終えたチィを見ていた。
通常の実装石より身体の大きい獣装石の中で、更に一回り大きいチィは目を惹く。

「 こっちに来ないデス? 」
「 テ…? 」

ミドリが手招きすると、仔実装達が駆け寄ってきた。
親実装もミドリ達ならと安心している。

「 …はい、これでも食べるデス 」
「 テェ〜♪ 」
「 甘いテチュ〜! 」

近くに来た仔実装2匹に飴玉を渡した。口の中に広がる甘さに歓喜の声を上げる。

「 チィ、この仔達と遊んであげてくれないデス? 」
「 デ…オ、オレがデス? 」
「 駄目デス? 」
「 ……し、仕方無いデスね 」

チィは渋々、立ち上がって仔実装達に近寄った。

「 たかいたかいテチュ〜! 」
「 ぐるぐるまわるテチ〜♪ 」

チィに高く持ち上げられた仔実装達は、普段と違う高さの景色に喜んでいる。

「 ほらほら、もっと高くなるデスゥ〜! 」

その仔実装達の声に、チィも楽しそうにしていた。
ついさっきまで不機嫌だった巨大獣装は仔実装の笑顔に囲まれて上機嫌だった。

「 ワタチもだっこされたいテチュ〜! 」
「 たかいたかいしてテチ〜! 」

気がつくと、他の仔実装達もチィの足元に来ていた。
大きな図体の割に、怖い存在でないと悟ったのか、自分達も遊んで欲しそうに手を上げている。

「 順番デス!みんな、高い高いするデスゥ〜♪ 」

巨大獣装は皆に笑顔を振り撒いていた。


「 ……ミドリサン 」

チィと仔実装達の遊びを眺めていたミドリ達に、公園の実装石達が話しかけてきた。

「 皆さん…どうしたデス? 」

この公園に何度も足を運んでいるミドリは、その実装石達をよく知っていた。
特に頭が良く、子供達を大切にする者ばかりだ。その実装石達が12匹。

「 テェ… 」
「 チュ… 」

そして12匹全て、その横には仔実装が連れられていた。

「 …そんなにあらたまって、どうしたデス?仔供達まで連れて… 」

ミドリも傍にいたタロやジロ達も只ならぬ雰囲気を感じ取っていた。
実装石達は、全て深刻な表情を浮かべている。
何か言いたげだが、話を切り出すのを戸惑っているようだ。

「 ……お願いデス、ミドリサン 」

仔を連れていた実装石の一匹が頭を下げた。

「 この仔を……この仔を、ミドリさんの所で育ててくれないデスか? 」
「 私の仔も… 」
「 ウチの仔もお願いデス… 」

一匹が話を切り出すと、続けて他の実装石達も懇願してきた。

「 ま、待ってくださいデス! 」

12匹の懇願を、ミドリが手を上げて制した。

「 ど、どうして……どうしたのデス!?一体、どうして、みんな…そんな事を言うのデス!? 」
「 それは… 」

仔を連れていた一匹が話を始めた。

今まで自分達は運良く生き延びてきた。この公園は比較的安全に暮らしていける。
だが、それでも子供達に危険な事に変わりはない。
このままでは、何時虐待派の人間や凶暴な同属達に襲われるか分からない。
だから、信頼のおけるミドリに子供を託したい。
ミドリは人間達にも信頼されており、賢く大きな力を持っている。
そんなミドリの元なら安心して任せられる。

「 ここに連れてきたのは、特に賢い仔達ばかりデス 」

タロもジロもテンも気付いていた。
着ている服こそ、僅かにくたびれてはいるものの、どの仔の衣類も綺麗に洗濯されている。
更にさっきから媚びている者は居ない。
まだ仔実装でありながら、その顔つきには理性と知性が宿っているのが分かった。

「 お願いデス、ミドリサン……どうかお願いデス… 」
「 私からも……この仔を… 」
「 この仔さえ生きてくれれば…デス… 」

親実装達は膝を付き、ミドリに頭を下げ始めた。

「 ミドリサン… 」
「 どうするデス…? 」

タロとジロが懇願されるミドリに声をかける。

「 …… 」

簡単に断る事も引き受ける事もできず、ミドリは無言で親実装達を見下ろしていた。




『 ……それで連れてきたというわけね。 』

事務所にて。
女社長が自分の椅子に座り、腕を組んで苦虫を潰した顔をしている。
その近くの床で身体を小さくして立っているのはミドリ。更に、その後ろに12匹の仔実装達。

『 …私が許可すると思ってるの? 』
「 デ…ェ… 」

頭上から怒気を含んだ女社長の声に、ミドリは更に身体を小さくした。
無言で何も言い返す事ができない。

「 なにか、問題あるのデスか、ニンゲン! 」

その重苦しい空気を振り払うかのようにチィが割って入ってきた。

「 たかだか、仔供の面倒くらい大目に見ろデス! 」
『 アンタは口を挟むんじゃないよ! 』
「 関係無いデス!この仔達を飼わないとボコってやるデスよ!! 」
『 その前にアタシがボコってやろうか!! 』
「 チィ、その辺で止めておくデス! 」
『 まぁまぁ、社長… 』

チィはテンに、女社長は事務員に止められた。

『 ……ったく 』

椅子に座り直し、女社長は黙りこくってしまった。だが、その表情から怒気は全く消えていない。

「 ミドリサン… 」
「 ……困ったデス 」

その女社長とミドリのやり取りを、サトとセキも同じく眺めていた。


『 ……ウチに置いてやっても良いわよ 』

暫くして、不意に女社長が口を開いた。

「 …ェ!? 」
『 だから、飼ってやっても良いって言ってるのよ 』
「 ほ、本当デスか、お姉サン!? 」
『 ……但し! 』

( バンッ! )

女社長が机の上を大きく叩いた。

『 ……13匹目は無し。 』
「 …デ? 」
『 そこにいる12匹は飼うとしても、よ。
  ミドリ……アンタは13匹目を見捨てる事はできるのかい? 』

その質問の意味を、ミドリは即座に理解した。

『 ミドリが仔実装を引き取ったって話が広まれば、
 自分の仔も、自分の仔もって親がたくさん現れるでしょうね。
 その親達からも頼まれて……頭を下げられて、アンタは断る事ができるのかい? 』
「 …… 」

ミドリもその事は分かっていた。そして、それは同じ場にいたタロとジロも予測していた。
けれども、どうしてもあの親実装達の願いを断る事はできなかったのだ。

「 そんなバカ社長に頼ること無いデス! 」

再び話に割って入ってきたのがチィだ。

「 それなら、オレ達の山で預かるデス!
  セキ、それくらい文句無いデスね!? 」
「 チィ… 」
「 …どうしたのデス?駄目なのデスか…? 」

群れを統率する隻眼の獣装石……セキはチィの言葉に反応が鈍い。
その意外な反応に、チィも戸惑う。

「 …チィさん、山で預かるのは無理だと思うデス 」

サトの横にいた実装石……オレンジのリボンを着けたメイが口を開いた。

「 な、なぜ無理なのデス? 」
「 これ以上、山に実装石を入れないという約束もあるデスけど…
  多分、食べ物が足りないのが一番の理由だと思うデス セキさん、違うデスか…? 」
「 …… 」

メイの言葉にセキは何も答えられない。
群れを率いる身として、この仔達を預かるとは言えないのである。

『 ……分かった?
  なら、暗くならないうちに、その仔達を返しに行っておいで!
  テン、チィ!アンタ達も付いていってやりな! 』

それだけ言うと、女社長は机に向かって作業に戻り始めた。
明らかな不快感を表に出した女社長に、ミドリはそれ以上何も言い出せない。

( ……ったく )

そんなミドリを横目にする女社長だが、分からないわけでも無かった。
ミドリは他の実装石に優しい。
だからこそ、断るに断りきれなかったのだろう。だが、これだけは譲れない。
ミドリが悲しい顔をするのは胸が痛むが、後の事を考えれば今は鬼になるしかない。

「 ……社長サン 」

それでも声を出したのは白い髪の実装石…サトだった。
仕方なく女社長が顔を上げて振り返る。

『 サト、アンタまで……駄目なの分かってるでしょ 』
「 分かってるデス……分かってるデスけど、その仔達はワタシと似ているデス 」
『 …似ている? 』
「 私のママも社長サンの弟に、同じように頼んだデス 」
『 あの馬鹿たれ? 』
「 そんな事を言っては駄目デス…
  私を社長サンの弟が拾ってくれたから、ワタシはこうして生きてるデス 」

まだ幼かった頃。
サトの親実装は女社長の弟に仔を飼って欲しいと頭を下げて頼み込んだ。
自分達はこれからどうなるか分からないけれど、サトだけは無事に生きて欲しいと。
その後、残された親実装と姉達は虐待派の人間に殺された。
もし社長の弟に飼われなければ、サト自身も殺されていただろう。
そして今、こうして同じように親実装達が仔実装を託そうとしている。
見れば、どの仔達も利発で器量が良さそうである。
そんな最も大切な仔だからこそ、サトの親と同じ行動を選択した。
最も信頼のできるミドリに託したのだ。

「 …親達の気持ち、分かってあげて欲しいデス 」
『 ん〜〜……。 』

仕事を中断し、再び腕を組んで考え込む。
今の女社長にとってサトは事務員と同様に頼れる存在だった。
あの時の仔実装も今は立派な成体となり、コミドリ達の子守から会社の仕事まで幅広くこなす。
デスクワークに関して事務員は非常に有能だが、サトも引けをとらない。
弟から頭が良いと伝え聞いていたが、これ程までとは思いもよらなかった。
ミドリ、タロ、ジロ、メイも大切な家族だが、サトは会社にとっても重要な存在だった。
その理知的なサトに頭を下げられると、女社長も無下に断れない。

『 …じゃ、聞くけどね、その仔達をどうするつもり? 』
「 一時的に預かるのはどうデス? 」
『 一時的に? 』
「 そうデス、これからワタシが立派な飼い実装になれるように教育するデスよ
  それまで一緒に住んで、教育するデス 」
『 う〜ん…… 』
「 そして里親のニンゲンさんに引き取って貰うデス
  この仔達はとっても賢いデスし、不可能じゃないデス 」

更にサトへコタロとコジロが加勢した。

「 勉強ならワタシ達も面倒見てあげて良いデスよ? 」
「 サト先生ばかり苦労はさせられないデスゥ 」
『 う〜〜〜〜ん……… 』

女社長は更に唸りを大きくした。

『 ……社長? 』

傍で見ていた事務員が声をかけてきた。

『 …なに?今は黙っててくれる? 』
『 はい、口を出すつもりは無いです。
  その代わり……少ないですが、これを受け取ってください。 』

事務員は社長の机の上に封筒を置いた。中に入っている紙幣が透けて見える。

『 …これは? 』
『 その仔達の育児費に当ててください。
  私の家は狭くて預かれませんから、せめてもの気持ちです。
  それに私の両親、既に他界して居ません。
  女1人、生きていくだけなら、そんなにお金も必要無いです。 』
『 まったく…… 』

サトと事務員によって徐々に外堀を埋められているのが分かった。
この1人と1匹も普段は非常に頼りになる存在だが、敵に回ると非常に厄介かもしれない。

「 …社長サン 」

続いて見ていたセキが切り出してきた。

『 今度はセキ……なんだい? 』
「 あと少しで、山の村は完成するデス
  そうすれば、私や他の獣装石達も社長サンの仕事を手伝えるデス 」
『 う……ん… 』
「 その仔達を山には引き取れないデスけど、その代わり一生懸命働くデス
  獣装石が40匹居れば、ニンゲン10人分くらいの働きはしてみせるデス! 」
『 ん〜…… 』
「 それにワタシやテンとチィなら、普通のニンゲンと同じくらい働けるデス! 」
「 社長サン、任せて欲しいデス 」
「 オレがニンゲン程度に負けるわけ無いデス! 」

テンとチィも自らの力を誇示しつつ、主張する。
この3匹の力、実際に戦った女社長は身をもって知っている。
通常の人間以上の力を持っているという自信も、あながち間違ってはいない。

『 はぁ……。 』

女社長は溜め息を大きくついた。今のセキの言葉で、完全に外堀を埋められたのだから。

『 サト、責任持って教育できるんだろうね? 』
「 はいデス! 」
『 サトだけじゃない、ミドリ、タロ、ジロ、コタロ、コジロ、メイ…アンタ達も面倒見るんだよ? 』
「 デス! 」

暗かった面持ちのミドリが顔を上げた。

『 さて……アタシは、その仔達の里親のなり手を探さないとね。
  12匹分の里親……頭が痛いわ。 』

既にタロとジロの仔達を里親に出したばかりだった。
その時も探すのに苦労したが、更に12匹の里親探し……どう考えても前途多難だ。

『 ……あとね、これは必要無いから 』

女社長は差し出された封筒を事務員に押し返した。

『 いえ、せめてもの気持ちですから…。 』
『 アンタは普段から十分に働いてくれてるわ。
  だから、それは受け取れない。
  大丈夫よ、それくらいの余裕は私にだって有るから。……それより、チィ! 』
「 なんデスゥ〜、社長? 」

女社長をいつもと違いバカ社長呼ばわりしないのは、流石に感謝していたからか。

『 オマエは明日から2人分働いてもらうからね 』
「 デェ!? 」
『 あの仔達のご飯の分、オマエが稼ぐんだよ 』
「 少しは見直してやったデスのに…! こ、このバカ社長ォォォ!! 」
『 バカとは何だい、バカとは! ちょっと表に出なっ!! 』
「 今日こそ決着つけてやるデス!! 」

勢い良く椅子から立ち上がると、チィと共に事務所から外に出て行った。

『 仕事の途中だったはずなんですけどね……ふふ…。 』

事務員は微笑みつつ、後に残された女社長の机の上を整理し始めた。

「 事務員サン……気を遣ってくれてありがとうデス 」
『 …いえ、大したことじゃないですから。
  それよりミドリちゃん、その仔達の世話は大丈夫なんですか? 』
「 それなら大丈夫デス……それに私だけじゃなく、みんなもいるデスから 」

改めて事務所内の中を見た。
サトを始めとするタロ、ジロ、メイ、コタロ、コジロといった実装石達。
セキを始めとするテン、ホウ、そして外で女社長と暴れているチィといった獣装石達。
皆、全てが頼もしかった。
一匹はまだ幼かったけれど。

「 ママ… 」
「 コミドリも、みんなと仲良くするデスよ? 」

ミドリが、足元にすがりつくコミドリの頭を撫でてあやしている。
生後二ヶ月が経つにもかかわらず、その身体は仔実装のままだった。
知能もまだ仔実装レベルだが、すぐに成長するだろう。

 " アタシに敵うと思ってんの!!?? "
 ' バカ社長!!くたばれデスゥゥ!!! '

表から社長とチィの喧騒が聞こえる。両方とも、とても楽しそうだ。
そして私も幸せだった。
こんな場所に居られる事は、何にも増して幸せだと思った。

そう、確かに幸せだった。


今から5年後

あの島で、この時の幸せを懐かしく想うのだから




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