タイトル:【獣・蒼・人間】 騎獣実蒼の長い一日
ファイル:金曜九時半作戦決行.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:1551 レス数:0
初投稿日時:2009/12/17-00:29:25修正日時:2009/12/17-00:29:25
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 普通の人はまだ起きてこない朝六時。かなり早く出勤する会社員や、部活などがある学
生や生徒の姿はあるが、人影は少ない。
 朝日の差し込む駅前交番の裏手にある小さな空き地。そこに作られた古い荷物小屋に間
借りしている実蒼石のアオゾラと、獣装石のビース。二匹は既に起き出していた。この二
匹の朝は早い。

「ボック、ボック……」

 小さく息を吐きながら、両手で構えた鈍い金色のハサミを素振りしている。鋭い踏み込
みとともに、勢いよく突き出される刃。ある程度格闘技を知る者が見れば、感心するほど
の体捌きである。

「デッス、デッス……」

 同じように、小さく息を吐きながら右腕と左腕を交互に突き出しているビース。正拳突
きの練習に似ていた。突き出された爪が、音もなく朝の空気を切裂く。こちらもアオゾラ
同様、実装とは思えないほど滑らかな動きだった。

 両者とも朝の鍛錬である。
 雨が降っていなければ、いつも五時半頃に起き出してこうして鍛錬を積んでいた。雨の
日などは小屋の中で腹筋や腕立て伏せなどをやっている。

 強い身体を作るには日々の努力が重要と、この二匹は考えていた。

 ほどなくして、素振りと正拳突きの練習が終わる。

「身体暖まって来たボク」
「次は乱取りデス」

 そう言ってから、お互いに正面を向き直り。
 両者一礼。

 ヒュン!

 アオゾラのハサミが一閃した。並の実装石なら感知すらできないような、鋭利で高速な
斬撃。普通の実蒼石と比べても、数段上の斬込みだった。

 それを身を屈めて難なく躱すビース。身体を沈めた動きから、流れるように右手突きの
動きへと移る。右手の爪が、アオゾラの胸元を狙う。

 トッ。

 地面を蹴って左に跳ぶアオゾラ。胸の前を突き抜けるビースの腕を見ながら、ハサミを
引きつつ、右足を振り上げる。滑らかな重心移動と無駄の無い動き。

 胴を狙った中段蹴りを、ビースの左腕が防いだ。

「相変わらず油断できないデスゥ」
「今のは当ると思ったボク……」

 そう言葉を交わしてから、乱取りは続く。

 端から見れば本気で戦う実蒼石と獣装石であるが、アオゾラとビースにとってはごく普
通の練習に過ぎなかった。普通の生き物よりも回復力の強い実装生物だから可能な危険な
訓練である。実際のところは、本人たちもどの程度の加減が模擬戦として適当なのか、い
まいち分かっていなかったりする。

 そうして、朝の鍛錬が終わるのは、六時半頃だった。





 その後交番の警官に渡された実装フードで朝食を取り、時間は七時前。

「準備完了ボク」

 アオゾラは頭に乗せた帽子をくいと動かす。帽子に巻かれた交通安全と書かれたハチマ
キと、警察のマークが記されたゼッケン。そして、黄色い旗。小物の入ったカバンを肩か
ら提げる。

「今日もお仕事頑張るデスー」

 背中に鞍を乗せ、クツワを咥えたビース。こちらは首から小さなカバンを提げていた。
最近プレゼントとして貰ったものである。

 四つ足になった所で、鞍にアオゾラが乗っかり、手綱を握った。両足をアブミに掛けて、
双葉町名物騎獣実蒼コンビのできあがり。

「朝の見回り出発デス」

 すたすたと、犬が歩く程度の速さで歩き出すビース。
 空き地から交番の横の隙間を通り、駅前広場へと進める。

「おう、朝のお勤めご苦労さん。今日も頑張って行ってこいよ〜」

 交番の警官が笑顔で手を振ってきた。広場を歩いていた学生や会社員達も、感心したよ
うに目を向けてくる。騎獣実蒼コンビとして、この二匹はかなり有名だった。つい先日は
全国ネットのテレビにも出演している。

「行ってくるボクゥ」
「行ってくるデスゥ」

 ぱたぱたと旗を振ると、周りの人も笑顔で手を振り返してきた。この二匹を見るために、
この時間に駅に来る者も多い。いつもと変わらない朝の日課である。

 そうして、見回りへと出発する二匹だった。






 小学校の登校時間。

 黄色い通学棒を被り、ランドセルを背負った子供達が道を歩いていく。そこにちらほら
とスーツ姿のサラリーマンが混じっている。いつもと変わらない朝の風景だった。

 人通りの多い道から少し放れた場所。

「デスー……」
「デッス」

 物陰からじっと道路を見つめる二匹の実装石。
 首輪もなく服も汚れた野良実装石だった。知能は中の下くらいだろう。ただ、馬鹿とい
うほど頭も悪くない。標準的な実装石とも言えるかもしれない。もっとも、賢いと言われ
るほんの一部を除けば、それこそ残りはドングリの背比べのようなものだが。

 歩道を歩いている低学年の女の子二人。

「デス」
「デスー」

 お互いに頷きあってから、一匹の実装石が物陰から飛び出した。

 二車線道路で、白線で歩道と車道が分かれている。この時間帯では車の通りはほとんど
無いので、実装石が不用心に飛び出しても轢かれることはない、

 それなりに素早く道路を横切ってから、二人の女の子の前に立ちはだかった。通せんぼ
をするように両手を広げ、威嚇の声を発する。

「デスゥゥ!」
「きゃ、何……!」
「じっそうせき……」

 女の子二人は足を止め、怯えたように実装石を見つめた。

 これが低学年の男の子だったら、そのまま蹴り倒される可能性が高い。高学年になると、
そのまま面白半分に虐待を受けることもありうる。高学年の女の子なら素早く走って逃げ
るなどするが、低学年の女の子だとそうもいかない。

「気持ち悪い……」

 二人身を寄せ合い、一歩後退る。

「デシャアァァ!」

 背後からの声に振り向くと、もう一匹の実装石が立ってた。

「もう一匹……」
「デェェェス!」

 その場でパンツを下ろし、いきなり実装石が道路に糞をする。下品な音とともに、道路
に落ちる暗い緑色の塊。ぷんと鼻を突く実装糞の臭い。
 実装石がその糞を両手で持ち上げた。

「うっ……」

 涙目になる女の子たち。
 反対側の実装石も、手に糞を持っている。

「デスデスデェェェス!」

 リンガルを持っていればこの実装石の言っていることも理解できただろう。

『食い物寄越さないと、ウンチ投げるデスゥ!』

 もっともこの実装石二匹、その要求が見当外れなことには気づいていない。何かを要求
するのに、小さい女の子を狙うのはある意味正しいが、人間相手にリンガル無しでは言葉
が通じず、小学生が食べ物類を持っていないということには頭が回っていない。

「みきちゃん……」
「くすん、どうしよう……」

 しかし、糞を持って前後に立ちふさがる実装石相手に、女の子たちは無力だった。身を
寄せ合って泣くしかない。もっとも、横をすり抜けるように走ればあっさりと逃げられる
のだが、それに気づく精神的余裕も無かった。

 じりじりと糞を持ったまま近づいてくる実装石二匹。

「ボォォクゥゥゥゥ!」
「デェェェスゥゥゥ!」

 そんな叫びが道に響く。

 女の子と実装石たちが視線を向けた先。
 脇目もふらず駆け寄ってくるビースと、その背に跨ったアオゾラだった。

「デ!」

 本能的に危険を察知した二匹の実装石が、手から糞を落とす。慌てて逃げようと、歩道
から道路に飛び出すが、手遅れだった。いや、むしろ女の子たちから離れることによって、
自分たちの危険を大きくしていた。

「デッシャア!」

 ビースの体当たりが、一匹の実装石を吹き飛ばした。さらに、アブミを蹴って跳び上がっ
たアオゾラが、もう一匹の実装石の顔面に飛び蹴りを叩き込む。

 まさに秒殺。実装石二匹はあっさりと気絶した。

「ボク、ボクゥ?」
「デス、デスー?」

 実装石を踏みつけたまま、アオゾラが女の子をじっと見つめる。同じように、ビースも
女の子を見つめていた。心配するように。

 危機が去ったのを理解し、女の子は袖で目元の涙を拭ってみせた。

「わたしたちは大丈夫だよ。アオゾラちゃん、ビースちゃん」
「助けてくれてありがとー」

「ボクゥ」
「デスン」

 笑顔で頷くアオゾラとビース。

「ボクボクゥ」
「デッスー」

 二匹揃って、学校の方を示す。

『早く学校に行くボクゥ』
『寄り道してると遅刻しちゃうデスゥ』

 リンガルは無いが二匹の言おうとした事を理解し、二人の女の子は学校の方へと走り出
した。実装石に襲われた場所に長居したくないという気持ちもあるのだが。

 走りながら振り返って手を振ってくる。

「どうも、ありがとー」
「後でお礼上げるからねー」

「ボクー」
「デスー」

 その言葉に応えるように、アオゾラとビースは手を振り返していた。

 女の子達がある程度遠くに行ったのを確認し。
 二匹はお互いに顔を見合わせ頷く。素早く気絶した二匹の実装石を持ち上げると、近く
の塀の隙間——さきほど実装石たちが隠れていた路地へと飛び込んだ。

 シャキシャキ、スパッ、サクッ

「デェェェ!」
「デギャアァ!」

 何かの切る音と実装石の悲鳴。

 十秒後、路地からビースとアオゾラが出てきた。

 アオゾラはカバンから小型の実装処理スプレーを取り出し、未知に落ちた糞へと処理液
を吹き付ける。泡立ちながら分解されていく実装糞。
 スプレーをカバンにしまったアオゾラは、ビースの背に跨り、何事も無かったかのよう
にパトロールへと戻っていった。






「デェェ……」
「デスゥ……」

 数分後、髪と実装服を全て切り刻まれた禿裸二匹がのろのろと路地から出てきた。アオ
ゾラのハサミとビースの爪によるものである。そのため、身体にはいくつもの切り傷がで
きていた。ついでに、あちこち殴られた痣も付いている。その痛みは髪と服を失ったショ
ックに比べれば、些細なものだった。

「デァ……」

 誰もいない道路。
 さきほどの女の子たちも、ビースもアオゾラもいない道路を眺めながら、二匹の実装石
は両目から色付きの涙を流している。

 その後ろに男が一人歩いて来たのには、二匹は気づかなかった






 二ヶ月に一回程度だが、登下校中の小学生を狙う実装石が出てくる。
 アオゾラとビースは、実蒼石と獣装石の本能でその事件の起る場所を感知し、不埒な実
装石を即座に成敗していた。しかし、殺すことはしない。禿裸に剥いて軽く(?)殴って放
置である。これで、小学生を襲うと酷い目に遭うという情報が広がるのだ。

 ちなみに、情報の広がりは実装石の口コミよりも、偽石の共鳴を介してである。幸せな
事や酷い事があった実装石の偽石は、周囲にその情報を共鳴という形で広げる。その共鳴
を受けた実装石は、無意識に良い場所や危険な場所を理解するのだ。無意識の危険信号よ
りもその場の勢いで行動する類の実装石にはあんまり効果は無いのだが。

 なお、偽石共鳴は実装石の渡り現象などにも関係し、高性能広範囲サーチャーはこの共
鳴現象を利用している。しかし、共鳴現象に関してはいまだに詳しくは分かっていないの
が現状だった。






 小学生の登校時間の見回りが終わり、二匹は街にある公園に来ていた。街区公園と呼ば
れる公園で、それほど広くはない。以前は児童公園と呼ばれていた。

「これは酷いデスゥ」
「また、誰か暴れたボク……」

 二匹はため息をついた。
 鞍を下ろしたビースと、旗を置いたアオゾラが見つめる先。

 粉砕された実装石の死体がいくつも落ちている。この公園には小さな群れがあったのだ
が、どうやら昨晩のうちに虐待派が来て暴れたらしい。

 ビースは鼻を動かしてから、

「実装香使って集めた所をまとめてヒャッハーしたみたいデス……」
「一昨日も似たようなことあったボク……。誰だか知らないけど、迷惑な人ボクゥ。さ、
早めに片付けるボク」
「デッス」

 頷いてから、ビースは植木の傍らに穴を掘り始める。
 アオゾラは帽子から取り出したハサミをトングのように使い、実装石の死体を集めていっ
た。ある程度肉片を集めてから、ふと気づく。

「ボク?」
「どうしたデス?」

 穴掘りを中断して、ビースが訊いてくる。
 アオゾラは散らばった肉の破片を眺めてから、

「やっぱりボク。ここにあるの全部仔と中実装石ボク。成体実装がいないボク」
「確かにそうデスね? またデスか」

 破片の小山を眺めながら、ビースは瞬きをする。最近、公園の実装石がヒャッハーされ、
成体だけが消えるということがいくつかあった。

「成体の方は家で虐待するために連れて行ったんじゃないデスか? 虐待派の考えること
は、ワタシたちにはいまいち分からないデスけど」
「何にしろ、厄介な人間ボク……」

 アオゾラはハサミで器用に死体の破片を挟み、ビースの掘った穴へと放り込む。

「デスねー」

 両手で死体を抱えたビースが、穴に死体を放り込んだ。

 そう何往復かして、実装石の死体が全部穴へと放り込まれる。多少肉片や血が残ってい
るが、そこまできれいにはできない。

「デス」

 ビースが首のバックから取り出した白い粒をいくつか穴に放り込んだ。実装分解バクテ
リアを粒状に固めたものである。バクテリアと死体を一緒に埋めておけば、かなり早く死
体は分解され、土に還るだろう。
 アオゾラたちにとって実装処理スプレーはそれなりに貴重品なので、埋められる死体は
埋めることにしている。

 穴に土を被せてから、ビースは息をついた。

「デ?」
「どうしたボク?」

 アオゾラの言葉に、ビースはきょろきょろと辺りを見回した。いつもと変わらぬ公園の
風景である。変わったところは何もない。

「今誰かの視線を感じたデス」
「ボクゥ?」

 アオゾラも周囲を見回すが、人の姿は無い。

「気のせいボク」
「そうデスね。じゃ、見回り続けるデス」

 そうして、二匹は見回りコースへと戻っていった。






 公園にあった灌木の奥。

「うにゅー。ビース、相変わらず勘が鋭いナノー」

 地面にうつ伏せになっていた実装雛は、声に出さずに呟く。全身を包むように森林迷彩
の布を纏っていた。よほど注意深く見ないと分からない偽装。
 そして、音もなく地面を這いながら、どこへとなく消えていく。






 午前中の見回りを済ませてから、アオゾラとビースは双葉町の隅を流れる川岸に来てい
た。幅二メートルあるかないかくらいの川で、左右には小さな土手がある。
 そこに生えている野草が、二匹の昼食代わりだった。朝食と夕食は交番の人に貰ってい
るが、昼食は自分たちで調達している。

「最近なんか変ボクゥ」

 アオゾラはセリの葉をはみながら呟いた。
 ヨモギの葉を食べながら、ビースが頷く。

「アオゾラもそう思うデス?」
「やっぱり、最近公園の虐殺が増えてるボク……」

 さきほど見た公園に散乱した実装石の死体だった。

 最近は公園にいる実装石は少ない。少ないと言っても、あくまで目立たない場所に移動
しただけだが、傍目には減っているように見えていた。法律が改正され、駆除が比較的多
く行われているせいだろう。

 ビースは青い空を見上げて、

「確か今回で六件目デス。公園の実装石が殺されて、成体実装の死体だけが無くなってい
るのはデス。成体だけ集めて何する気デス?」
「どこかの虐待派がフラストレーション溜めてるのかもしれないボク」

 アオゾラはそう呻いた。
 法律の関係で以前ほど派手な実装石虐待などができなくなっていると、アオゾラも聞い
ている。普通の虐待派には大して影響は無いのだが、悪い意味での真性虐待派には随分と
住みにくい世の中になったらしい。

「一応お巡りさんに相談してみるデス」
「それが一番ボク」

 手早く結論を付けてから。

「で、何者デス? お前ら」

 ビースが静かに呟いた。

 見知らぬ実装石が二匹いた。アオゾラとビースを挟み撃ちするように。

 禿裸であるが、体格は並の実装石よりも二回りほど大きい。浅黒い肌に、どこかいびつ
な体付き。感情の映らない瞳。手足や腹などには筋肉の膨らみが見える。腕の先から伸び
た、鈎爪のような四本の金属。

「改造石デス……」
「狙いはボクたちボクゥ?」

 アオゾラの問いには答えず、改造石が動いた。実装石とは思えない速度で、一気に突っ
込んでくる。その速度は実蒼石に届くだろう。

 だが。

「デスッ!」
「ボクッ」

 アオゾラのハサミの突きと、ビースの爪が改造石をカウンターで吹っ飛ばした。

 仰向けに倒れるが、あっさり起き上がる改造石。

「額に板が埋め込まれてるボクゥ」

 ハサミの先端を見ながら、アオゾラは呻いた。
 カウンターで頭の貫通を狙ったのだが、ハサミの先端が皮膚を抉っただけで、硬い手応
えに阻まれた。薄い金属の板が埋め込まれているらしい。

「骨も硬いデス……。実装の骨じゃないデス」

 ビースがカウンターを決めた改造石。
 左上腕に爪を叩き付けたのだが、内部の骨に弾かれた。実蒼石相手でも腕を切り落とせ
るほどに鍛えた爪の一撃が通じない。傷口から見えた部分には、鈍い金属の光が見えた。
アルミニウムのパイプ。肉もかなり硬い。

 その傷口も見る間に塞がっていく。
 アオゾラのハサミによる傷もあっさりと消えた。

「活性剤注射されてるデスね」
「偽石も取り出されてるみたいボク……。厄介ボク」

 そう言いながら、アオゾラはハサミを引いた。握り部分を右手で持ち、刃の中程を左手
で持つ構え。人間が言うなら、銃剣道のような構えと呼ぶだろう。

「デス」
「デス」

 改造石が再び突進してくる。その動きに思考は感じられない。速いが直線的で、言って
みればカウンターを決めて下さいと言っているような攻撃だった。
 事実、再びカウンターが決まる。

 ドス!

 アオゾラのハサミの先端がが改造石の三角口を突き上げ、脳へと達していた。
 ビースも右手の一撃で改造石の顎をこじ開け、左手を口の中へと突っ込み、爪を口蓋か
ら脳髄へと突き立てている。

 どちらも防御されていないだろう、口を狙った攻撃だった。

 脳を壊され、仮死状態となり倒れる改造石。さすがに活性剤を打たれているとはいえ、
脳への直接攻撃は効果があった。
 素早く距離を取るアオゾラとビース。相手は倒れても構えは解かず、緊張も緩めない。
いわゆる残心というものだった。

「何なんデス?」
「それはこっちが訊きたいボク……」

 静かにそれだけ言葉を交わす。






「あーらら、見ろよオスカー。あっさりヤラれちゃったよ、改造石」

 川辺より少し放れた雑居ビルの屋上。
 双眼鏡で改造石の戦いを見ていた痩せた茶髪の男が、へらへらと笑っていた。

 同じく双眼鏡を除いていたオスカーと呼ばれた筋肉質の大男は、双眼鏡を下ろして大袈
裟に両手を広げてみせる。

「そりゃそうだろ。あれ、適当に作ったヤツだから、ちょっと粘っただけでも及第点だ」

 ポケットから取り出した偽石ふたつを床に落とし、踏み砕いた。

「で、ロメオ。あいつらどう思う」

 ロメオと呼ばれた最初の茶髪の男。

「一発目で普通の攻撃通じないと分かったら、二発目で迷わず口から脳へ入れたよな。誰
だかねぇ、そんなエグいこと教えたの?」
「さあ、オレに訊くなよ?」

 オスカーは双眼鏡をくるくると回しながら、鉄柵から離れた。

「自分たちで考えたか交番のオマワリに教えられたか、それとも他の物好きに教えられた
か。知りたきゃ、直接あいつらに訊いてみれば?」
「めんどくせー」

 ロメオは舌を出しておどけて見せた。
 舌を引っ込めてから、

「ウィスキーのヤツ、結局来なかったな」
「改造中だったからな」

 オスカーは興味無いとばかりに言い捨てた。

「じゃ、改造石見に行くかね」

 マイペースに階段の入り口へと向かうロメオ。




 ちなみに、ロメオはR、オスカーはO、ウィスキーはWを意味する。軍隊式のアルファ
ベットの数え方だった。そのR、O、Wはその男達の名前の頭文字である。






 午後二時十五分
 神主は境内の見回りをしていた。見回りといっても、ただの休憩をかねた散歩のような
ものだった。境内にいる参拝客や、灌木や石の陰に隠れるようにひっそりと暮らしている
実装種。それらをぼんやりと眺めている。

「ナノー」

 不意に聞こえてきた実装雛の鳴き声。ほんの小さな鳴き声で、神主以外には聞こえない
ほど。周囲を見回しても実装雛の姿は見つからないだろう。
 神主は足を止めた。

「現状は?」

 視線は近くの花壇に向けられている。端からは花壇の花を眺めているように見えるだろ
う。もっとも、神主の姿を気にする人間も実装もいない。

「川縁で改造石に襲われたけど、撃退したナノー」
「相手は分かっている。ただ、具体的証拠が無い。引き続き見張りを頼む」
「分かったナノー」

 どこからとなく帰ってくる返事に。
 神主はふと今日の日付を考えた。金曜日。

「仕掛けるのは今夜か。現場を押さえるのが最適、かな……? 悪いけど、彼女たちには
少し危険な目にあってもらうかもしれない。これを渡しておいて欲しい」

 カタッ。

 と地面に落ちる小指ほどの長さの平たい銀色の板。

「ナノー」

 実装雛の返事を聞いてから、神主は素知らぬ顔で散歩を再開した。



 今の会話は誰も聞いていない。
 そして、生身の人間がリンガル無しで実装生物と意思疎通を行っていることにも、誰も
気づいていなかった。






 小学校の下校時間は低学年が昼直後で、高学年が午後三時頃とばらつきがあった。部活
動に参加している子はさらに帰宅時間が遅くなる。

 それらの小学生を見回りつつ、アオゾラとビースは仕事を続けていた。落ちていた定期
入れを交番に届け、道に落ちていた木の枝を片付けるだけだったが。大した事が起らない
方が人間にも実装にも幸せなのだろう。
 アオゾラとビースは、そう考えていた。

 二匹揃って歩きながら、ビースが空を見上げた。太陽の傾き具合で大体の時間を計算す
る。騎獣実蒼石という肩書きだが、いつもビースに乗っているわけではない。

「そろそろ高学年組が下校する時間デス」
「今日は西の交差点の辺り行くボク。水道工事がやってるから、あの辺りは最近車が増え
たボク。ちょっと危ないボク」
「デスー」

 頷くビース。

 双葉駅周辺の地理や自動車の動きに関しては、アオゾラの方が詳しかった。その判断に
ビースが口を挟むことは滅多にない。

「ビース、アオゾラ」

 不意に声をかけられ、二匹は足を止めた。

「ひなサン? デス……?」

 それは神社の裏の森に住む実装雛の声である。しかし、辺りを見回してみても、実装雛
の姿は見られない。
 ふと上を見上げると、道路側に突き出した木の枝に実装雛が捕まっていた。どこから持っ
てきたのか、迷彩模様の布を身体に巻いている。下から見れば分かるが、横からなどでは
茂る葉に隠れてまず分からないだろう。

「これ持ってて欲しいナノー」
「デ」

 ビースの頭に小さい何かが当り、道路に落ちた。

 それを拾い上げるアオゾラ。ビースもそれを不思議そうに見る。
 幅一センチ、長さ三センチ、厚さ五ミリほどの薄い銀色の板だった。

「これは、何ボク?」
「今夜はちょっと大変なことになるかもしれないけど、お勤め頑張って欲しいナノー」

 実装雛はそれだけ言ってから、滑るように枝から幹へと移動し木を下りていった。民家
のブロック塀に阻まれ、向こうで何が起っているかは分からない。

「デスゥ?」
「ボクゥ?」

 アオゾラとビースはお互いに顔を見合わせ、疑問符を浮かべた。






「なんか流石にキモいな」

 オスカーが苦笑いをしながら、並んだ実装石を眺めている。
 同じように突っ立ったロメオが、実装石を枝でつつきながら。

「また、派手にいじくったな?」
「こいつは自信作だぜ」

 ウィスキーと呼ばれている小太りの男が、べしべしと実装石の頭を叩いている。
 それは、街外れの廃屋だった。この三人の男は、勝手に秘密基地と呼んでいる。本気で
言っているのか、童心的な戯れかは誰にも分からない。

 そこに並べられた七匹の実装石。
全身から毛の生えた獣装石だ。しかも、マラまで付いているマラ獣装石。それだけではな
い。実装石とは思えないほどの凄まじい筋肉を持ち、あちこちに鎧のように薄い金属板を
張り付け、分厚いゴーグルまで装備している。

「例の連中をベースにマラ実装と獣装石くっつけてから、骨格にアルミパイプ仕込んで、
圧縮した肉組織には竹の繊維混ぜてある。あとは、ジャックにーちゃん顔負けのドーピン
グ施してから、プロテインと電気ショックで筋力強化。ここまでやりゃ、人間が思い切り
鉈叩き付けても腕斬り落とすのは無理だわな」

 いわゆる過剰改造された改造石だった。
 手から伸びる爪はステンレス製。爪を引き抜いて、代わりの刃物を埋め込んであった。
ステンレス製小刀の替え刃である。

「さらに、癒着させた偽石を一匹十個搭載してから、洗脳もきっちり済ませてあるぜ。命
令ひとつで相手を襲うまさにバーサーカー。これ一匹作るのに、実装十二匹使ってるけど
な。へへ。身体ん中の偽石が弱点になったけど、当然鉄板で保護してあるさ」

 ウィスキーが得意げに解説する。

 意志の光が無い赤と緑の瞳。薬によって完全に癒着された大偽石は、直列電池のように
通常の十倍近いエネルギーを生み出し、実装石の身体能力などを飛躍的に高める。しかし、
偽石自体の強度はそのままなので、遠くないうちに過負担で砕けるだろう。

 ここまで改造されれば、もはや並の実装では刃が立たないバケモノだった。

「いやー、お前、やりすぎ」

 ロメオがへらへらと笑っている。
 オスカーは渋い顔で、自分の拳を見つめていた。空手で鍛えられたゴツい手。それで動
かない改造石の頭をこづきつつ、

「こいつぶっ倒すのは、オレでも無理なんじゃね?」
「得物なしで殺すのはキツいんだろうねぇ」

 ウィスキーは笑いながら、バールで改造石の頭をゴツと叩く。
 意識はあるが、洗脳のため動かない。

「こないだ作った当て馬はあっさりやられちゃったろ? やるなら、これくらい改造しな
いとさぁ。パワーとスピードは訓練した実蒼石くらいだけど、最大の売りは頑丈さだ。ち
ょっとやりすぎた気もするけどな」
「ちょっとじゃねー」

 ぺしとウィスキーの頭にチョップを打ち込みながら、オスカーが笑った。

「ま、決行は夜だな」

 ロメオが腕時計を眺める。






 無論、ここまで改造を施した実装石は、違法である。

 この三人、簡潔に言うならば非常に悪質な虐待派だった。

 飼い実装誘拐、実装石の違法改造、違法薬品の無許可散布、実装石を扇動して人間を襲
わせる、公園などで暴れて公共物を汚す、他の虐待派の獲物を盗むなど、やりたい放題。
そして、虐待派も社会的に後ろ指差される身として表立った抗議活動もできず、本人達の
悪知恵や悪運も重なって今まで放置状態だった。

 そして、調子に乗った三人が獲物として狙いを定めたのが、双葉町で有名なアオゾラと
ビースの騎獣実蒼コンビだった。






 金曜日のみ行われる仕事。
 アオゾラとビースの夜の見回りだった。

 見回りと言っても特別なことをするわけでもない。いつも通り落とし物などを見つけた
ら交番に届けたり、道に邪魔なものがあったら横にどけたりという簡単な仕事である。も
し不審者や迷子などを見かけた時に、交番に連絡するために実装フォンを持っていた。

 実際は週末で飲み過ぎて酔い潰れている人の確保が主だが。

「ひなサンの言っていた『ちょっと大変な事』って何デスゥ?」

 反射テープの首輪を巻いたビースが、夜空に浮かぶ満月を見上げる。

「分からないボクゥ」

 アオゾラは首を振った。昼間実装雛に渡された小さな金属板は、帽子に巻いた反射テー
プに挟んである。それが無くさない方法としては最適だった。

「やっぱり、あれボク」

 頭に浮かんだのは昼間の改造石である。あの後、しばらく見ていたのだが、いきなり細
い息を吐いて絶命。偽石を砕かれたようだった。

 最近の公園での虐殺と、昼間の改造石について、交番の警官に相談してみたのだが、あ
まり気の良い返事は貰えなかった。そのことを思い出し、アオゾラはこっそりとため息を
つく。獣装石と実蒼石の証言だけで事件性を見るのが難しのも事実だった。それに調査な
どに動き出すまでに時間も掛るだろう。

「誰かがボクたちを狙ってるボクゥ?」

 今までの出来事と、実装雛の言葉から推測できるのは、自分たちが狙われているという
事だった。しかし、狙われる心当りはない。

「街の実装石たちの一部から恨みは買ってる自覚はあるデスが、人間さんに恨み買ってい
る心当たりは無いデス……」
「ボクゥ」

 そんな二匹の会話。



 しかし、二匹は見落としていた。
 普段の生活で、人間の善意と好意に慣れすぎていたせいで。別に恨みなどなくとも、実
装を襲う人間は存在するということを。ましてや、自分たちがその標的にされて、計画が
練られているということも。
 それを平和ボケとも言う。



「デスウウウウウ! 誰か来てデスウゥゥゥ!」

 突然、実装石の叫びが響いた。

 双葉工業団地。辺りには小さな工場が並んでいる。どこもそこそこ高度な独自技術を持
つ古い町工場。だが、それはアオゾラたちにとっては興味の無いことだった。九時半とい
う時間帯と昨今の不況もあり、灯りの付いている工場は無い。
 ついでに、人気も無い。

「ボク」
「デス」

 お互いに頷きあい、アオゾラがビースの背中へと飛び乗った。鞍に腰を下ろし、アブミ
に足をかけ、手綱を握ると同時、ビースが走り出す。アオゾラとビースでは、ビースの方
が遙かに速く走れるのだ。
 大人が全力で自転車をこぐほどの速度で、アスファルトの道路を走り抜ける。

「助けてデェェスゥゥ!」

 そこは砂利の敷かれた小さな空き地だった。『双葉精密加工(株)専用駐車場』という看
板が立てられている。左右の塀には数字の書かれた板が貼ってあった。

「誰かいるボクゥ」
「デェェェン、デェェェン! 誰か助けてデスウゥ! ゴシュジンサマがいきなり倒れち
ゃったデスゥゥ! 誰か助けてデスゥゥゥゥ!」

 そう叫んでいるのは、一匹の実装石だった。
 赤い首輪を首に嵌め、頭に赤いリボンを付けている。一目で分かる飼い実装だった。

 奥の塀によりかかっている痩せた茶髪の男。胸を押さえ、苦しげに息をしている。

 夜の駐車場の奥にしゃがんでいる男。その近くにいる飼い実装。常識的に考え、この時
間に工場街の駐車場に飼い実装石を連れているのはおかしな事だった。しかし、アオゾラ
たちはその不自然さよりも、何か起ったらしい男への心配が先に来ていた。

「大変ボク!」

 アオゾラは荷物入れから取り出した実装フォンを動かした。起動すると自動的に交番に
電話が入るような仕組みなのだが、なぜか圏外のマークが出ている。

「……繋がらないボクゥ」

 ここは携帯電話の圏外であるが、その通信を妨害する電波が放たれてることには気づけ
ない。人間でも気づくのは難しいだろう。ましてや、慌てた実蒼石には無理だった。
 飼い実装の叫び声。

「そこの実蒼石さん、助けてデスゥゥ!」
「デス」

 手綱を引かれたビースが駐車場を横切って、男の方へと走っていく。電話が通じないな
ら、相手の状況を確認して全力で最寄りの人間の家へと向かうように教えられていた。

 男に近づき、アオゾラはビースの背中から飛び降りる。
 カバンからリンガルを取り出し、苦しげに呼吸をしている男に声を掛けた。

「大丈夫ボクゥ?」
「オッケイ! オレは全然大丈夫っさー!」

 いきなりそう答えるなり、男が顔を上げた。その顔は人を小馬鹿にした笑顔を浮かべて
いる。さらに舌まで出していた。罠にかかった相手を見る、会心の笑みだった。

「ボクゥ!」
「デス!」

 ただならぬ気配を感じ、アオゾラとビースは二メートルほど後退する。

 さきほどまでの苦しげな様子が嘘のように、男はその場に立ち上がってみせた。にやに
やと嫌な笑みを浮かべたまま、二匹を見下ろしている。

 リボンを付けた実装石の笑い声が響いた。

「デプププ。ワタシの迫真の演技はどうだったデスー?」
「上出来だ」
「当たり前デスー。さあ、約束通り、この賢いワタシを飼い実装にするデス。あと、お礼
のコンペイトウも寄越すデス!」

 右手を持ち上げ要求する実装石。
 男はポケットから袋入りの金平糖を取り出した。

「ほれ、口開けろ」
「デッスー♪」

 上を向いて大きく開けられた口に、男が袋に入った金平糖をばらばらと無造作に放り込
む。いくつも口からこぼれているが、気にしていない。

「デッス〜ン♪ 甘いデス〜……デ……?」

 至福の顔でぼりぼりと金平糖を食っていた実装石が、不意に顔色を悪くした。右手で喉
を、左手で腹を押さえ、声にならない呻き声を上げる。

「バーカ。虐待派の『飼う』なんて言葉本気にするなよ。賢いって言っても程度が知れる
ねー。あと、それゲロリとドドンパと裏ゲロリに裏ドドンパな? しばらく悶絶して勝手
にパキンしてくれや」

 クソニンゲン、よくも騙したデス!

 実装石の視線もさらっと流して、男がアオゾラとビースに向き直る。

「お待たせー。さって、君たちはどんな悲鳴聞かせてくれるのかなー?」

 無言のまま、二匹は道路へと走った。
 冷静になった頭が、自分たちが罠に嵌められたことをようやく理解したのである。普段
の人間との友好的関係。それが、見事に仇となっていた。

「デ……」
「ボク……」
「はい、残念」

 駐車場の入り口に立ちはだかる二人の男。
 一メートルほどのバールを右手に持った小太りの男と、先端を斜めに切った二メートル
ほどのステンレスパイプの槍を持った筋肉質の大男。

 しかし、アオゾラとビースが見ていたのはその人間では無かった。

 駐車場の入り口に並んだ七匹の実装石。通常四十センチほどが標準身長だというのに、
六十センチほどの身長のあるマラ獣装石。全身が異様な筋肉に包まれ、金属板の鎧兜、籠
手と足具を装備していた。
 ゴーグルに包まれた意志の見えない赤と緑の瞳。

 満月の明かりに照らされた駐車場。

「いやー、ロメオ。ご苦労さん」

 筋肉質の男——オスカーが、改造石の間を通り、痩せた茶髪の男——ロメオの元に歩い
ていく。ステンレスパイプの槍をくるくると回しながら。

「いいってことよ。オレも楽しかったしねー」

 へらへらと笑ってから、ロメオが歩き出した。駐車場の奥から、横手へと移動する。改
造石とアオゾラたちの対決がよく見える位置へと。

「さって、アオゾラちゃん、ビースちゃん。そこにいる改造石を倒さないとここからは逃
げられないよ? へへ、言っておくけど、そいつら昼間の連中とは比べものにならないく
らい強いから頑張って戦ってねー」
「ボク……」

 男たちに意識を向けつつ、アオゾラは帽子からハサミを取り出した。標準的な実蒼石の
ハサミよりも細く長い。切裂くよりも突くことに適した形状である。

「ついでに言っておくと、そいつら君たちに禿裸にされた連中が素体だから、君たちへの
憎しみは強いよー。気抜くと無茶苦茶にされちゃうよー」

 明らかにその無茶苦茶にされる様子を期待しているロメオ。
 入り口に残った小太りの男——ウィスキーがバールを振り上げた。

「まずは小手調べ。行け、一号」

 その命令に、声もなく動き出す一号。
 実装石とは思えない速度で走り出した。昼間見た改造石よりも速い。成人男性の全力疾
走並。振り上げた右手には、ステンレス製の刃が爪の代わりに埋め込まれていた。人間相
手にも十分な殺傷能力を持つ凶器である。

「ビースッ!」
「分かってるデスゥ!」

 ビースの背中に飛び乗り、アブミに足を乗せるアオゾラ。
 そして、ビースが後ろ足で地面を蹴った。アオゾラは両手でハサミを構え、思い切り身
体を捻る。防御無視の全力突進の構えだった。

「デェスゥゥ!」
「ボックゥゥゥ!」

 ガッ。

 突き出されたハサミが、改造石の右太股を直撃する。
 吹っ飛ぶ改造石。反動でビースの背から後ろに飛ぶアオゾラ。両足で砂利に着地し、改
めてハサミを構える。ビースも四つ足から二本足に切り替え、爪を構えた。

「ヒュゥ。やァるねぇ♪」

 ロメオが口笛を吹いて賞賛する。

「硬い……ボクゥ。まるで丸太ボクゥ……」

 頭や胴体は鎧に防御されているため、攻撃は通じない。体内に偽石があるのは分かって
いたが、そこを攻撃するのは無理。とりあえず足を潰そうと思ったのだが、剥き出しの太
股は、予想以上に硬かった。まさに木である。

 細い枝を切るならともかく、太い幹相手にハサミは無力だった。

 のそりと起き上がる改造石。太股に小さい傷があったが、見る間に塞がっていく。

「そいつは特性だからねぇ。お前達に倒せる? まー、倒してもあと六匹いるし、それ全
滅させても、ボロボロになった君たちはボクたちがお持ち帰りしちゃうんだけどさ」
「どうするデスゥ」

 再び突進してくる改造石。スピードとパワーは何とかなるレベルなのだが、防御力が桁
違いだった。最大攻撃が通じないとなると、こちらの攻撃は通じない。いずれスタミナ切
れでやられるのは目に見えていた。

「アオ師匠……」

 独りごちるアオゾラ。

『もしかしたらお前も、人間が作った改造実装石と戦うことがあるかもしれないボク』

 脳裏に浮かんだのは、かつて師と呼んでいた実蒼石の言葉だった。

『防御を固めてあるのなら、口から脳を潰すボク。頭全体を防御しているなら、足を切っ
て動きを止めるボク。稀に全身が鉄みたいに硬いヤツがいるボク。そういう相手は——』

「ビース、そいつを上下逆さまにするボクゥ!」
「了解デス!」

 ビースが振り下ろされた改造石の右腕を取った。腕を掴みながら懐へと飛び込み、身体
を思い切り前傾させる。改造石の巨体が浮き上がり、頭から地面に叩き付けられた。

「おいおい、一本背負い決めやがったぜこのケモノ」

 やたら嬉しそうに笑うオスカー。格闘技を囓ってるだけあり、獣装石の一本背負いとい
うものに、素直に感心していた。だからと言って助けるわけでもないが。

「ボックゥ!」

 地面を蹴って跳び上がったアオゾラは、先端を少し開いたハサミを構え。
 それを上下逆さまになった改造石の総排泄孔へと突き刺した。鈍い金色のハサミが内蔵
を切裂きながら、胸に埋め込まれた偽石へと先端を到達させる。
 アオゾラがハサミを閉じると、大偽石が砕けた。

 びくりと痙攣し、絶命する改造石。

 血と内臓まみれになったハサミを引き抜き、改造石から離れるアオゾラ。
 改造石が倒れた。

「何とか一匹倒せたボクゥ……」
「あらら、ウィスキー自慢の改造石。一分もたなかったねー」

 ぱんぱんと手を叩きながら、ロメオがやたら嬉しそうに笑っている。

「お前ら……!」

 ウィスキーの怒りの炎が目に灯った。丹誠込めて作った改造石。一匹作るのに一万円以
上かけてある。この一匹だけで、アオゾラとビースを倒せるとも考えていたのだが、予想
に反し四十秒ほどで倒されてしまった。
 改造派として無駄にプライドの高いウィスキーが怒るのも当然だった。



 敗因はいくつか。偽石の力を引き出すために、複数の偽石を癒着剤でくっつけひとつの
大偽石に加工してしまったこと。偽石を防御する鉄板を前後にしか埋め込んでいなかった
こと。皮膚や筋肉は強化していたが、内臓はそのままだったこと。
 なにより、改造石をひっくり返して総排泄孔からハサミを撃ち込むという奇策を読めな
かったことだろう。



「全員行けェ! ブッ殺せェ!」

 その言葉に控えていた残りの六匹が同時に走り出した。

「攻略法は分かったボク! 各個撃破で行くボクゥ!」
「でも、さすがに六匹はキツいデス!」

 構えるアオゾラとビース。

「二匹とも、目を塞ぐナノー!」

 響いた声に、考えるよりも早く両手で目を覆っていた。
 突進してくる改造石たちの前に、小さな筒が落ちる。

 キュィュインッ——!

 文字にすればそんな音だろう。耳を貫くような異音とともに、閃光が駐車場を白く染め
上げた。実装用スタングレネード。主に大量発生した実装石を、一度に気絶させるための
小型爆弾だった。気絶させるだけで、殺す効果は無い。

 視聴覚からの衝撃に、改造石が気絶してその場に倒れる。

 アオゾラとビースも無事では済まなかった。両手で目を塞いでいたため閃光の直撃は免
れたものの、超音波爆音の直撃によって、平衡感覚が麻痺して倒れている。意識は辛うじ
て残っているが、立ち上がることもできないでいた。

「どこのアホだ……。変な花火ぶちこみやがって」

 オスカーがパイプ槍を振って唸る。
 実装用の武器であるが、人間にもそれなりに効果があった。気絶や麻痺の症状は起らな
いが、かといって無事では済まない。
 ちかちかする目を擦りながら、殺気立った視線を辺りに向ける。

「ナァアァァノォォォ!」

 宙を舞う影。

 満月を背景に、オスカー目がけて跳んでくる実装雛。近くの工場の屋根から飛び出した
のだが、空飛ぶ姿はかなり異様なものである。
 オスカーは即座に実装雛に狙いを定めた。

「お前かァアァァ!」

 まっすぐに突き出されたパイプ槍が、実装雛を直撃する。空中で方向転換できない所へ
の鋭い一撃。避けることも防ぐことも無理だった。
 直径三センチのパイプが、実装雛の口へと呑み込まれている。

「ひなァァ!」

 アオゾラが叫ぶが、どうすることも出来なかっった。
 オスカーがにやりと口元に凶暴な笑みを浮かべる。耳鳴りの続いている耳を人差し指で
弄りながら、

「ったく、串刺しとはいい様だぜ。てか、実装雛なんて久しぶりだわな」
「せっかくだし、実装雛虐待ってのもいいんじゃない。ちょうど三匹、三人でローテーシ
ョンってことで。ま、この実装雛は串刺しにされ……て……?」

 ロメオの言葉は途中で途切れた。

 その場にいる人間三人、そしてアオゾラとビース。全員が同じ違和感を覚えた。

 突き出されたパイプ槍が、実装雛の口に呑み込まれている。パイプ槍の元の長さは約二
メートル。手元に残っているのは、一メートル強。実装雛の体長を考えても、五十センチ
以上は総排泄孔から突き出しているはずだった。

 しかし、その突き出している部分が——無い。

「え?」
「ナノォー!」

 いきなり叫ぶ実装雛。

「おあっ」

 思わずパイプ槍を手放したオスカー。
 実装雛ごとパイプ槍が地面に落ちた。からんと乾いた金属音。そのパイプが見る間に縮
んでいき、完全に消える。二メートルはあったステンレスパイプが、どういう原理か実装
雛の身体へと完全に呑み込まれていた。

 呆然とする暇も無く、

「うにゅにゅにゅにゅ!」
「うぉ、キモッ!」

 その場を高速で這い回り始めた実装雛。その不気味さは、高速で這い回る巨大イモムシ
を想像してもらえば分かりやすい。多少過剰表現であるが。
 思わず距離を取ったロメオの身体に登ろうと、実装雛が近づいてくる。

「にゅにゅにゅにゅ!」
「気色悪いんだよ!」

 ロメオが腰に差していた連射式のエアガンを抜き、地面を這い回る実装雛目がけて乱射
する。パパパパと乾いた音を立てて撃ち出される弾だが、不規則に移動する実装雛には一
発も当らない。まるで見切られているように。

「こんクソピンクが、さっさと潰れろ!」

 オスカーは足で踏み潰そうとしているが、やはり上手く当てられない。地面を高速で不
規則に移動する相手を攻撃するのは、意外と難しい。

「お前ら、落ち着け!」

 バールを持ったまま、ウィスキーが駆け寄ってくる。さきほどまで自分が激高していた
のだが、二人の狂乱を見て気分も冷めていた。

「お前は黙ってろ!」
「うにゅーにゅにゅ、うにゅにゅ!」
「さっさとくたばれ、このチビが!」

 うつ伏せで地面を高速移動する実装雛に、執拗な攻撃を加えるロメオとオスカー。しか
し、なぜかエアガンも踏みつけも当らない。
 ほどなくエアガンの弾が切れた。実装雛を踏みつけようと二人揃って足を地面に叩き付
けている。その姿は、新手のダンスを踊っているようでもあった。

「落ちつけって……」

 シュールなその光景に、ため息をつくウィスキー。

 そこで気づく。

「あいつら!」

 振り返った先には、互いに支え合いながら逃げようとしていたアオゾラとビースの姿が
あった。気絶した改造石の隙間を通り過ぎ、駐車場の入り口まで移動している。

「逃がすかよ」

 走り出したウィスキー。
 その様子に我に返るロメオとオスカー。

「見つかったボク……」
「これまでかデスゥ」
「君たちー。こんな所で何やってるの?」

 聞こえたのは場違いに柔らかな声である。
 暗闇から現れたのは、眼鏡をかけた壮年の男だった。灰色の背広を着込み、右手にカバ
ンを持ったサラリーマン風の男である。眼鏡を動かしながら、緊張感無く駐車場で起って
いる修羅場を見つめていた。

「おやおや、君たちは駅前交番のアオゾラとビースじゃないか。こんな所で何してるの?
夜の見回りかな? んー、苦しそうだけど、大丈夫?」

 優しげに言いながら、二匹の前にしゃがみ込んだ。
 アオゾラとビースはその男の顔を見て、目を丸くした。

「神主サン……」
「何でデスゥ……」

 服装と髪型が違い、眼鏡も掛けていたため今まで気づかなかったが、その男は神社の神
主である。二匹に向かって口の前に人差し指を立て静かにという仕草をしてみせた。

「もう大丈夫……。いや、危険な目にあわせてごめん、でも現場を押さえる必要があった
からね。あとは、私に任せて」

 囁くように告げてから、優しく微笑む。
 その表情を見て、二匹の緊張の糸が切れた——






 ぱたりと倒れて意識を失うアオゾラとビースを眺めてから、神主は立ち上がった。アオ
ゾラの帽子に付けられていた小型発信器を抜き取り、ポケットにしまう。二匹の健闘に思
わず見入ってしまい助けに入るが遅れたのは秘密だ。
 駐車場に倒れている改造石たち、奥の方で気絶している実装石、そして虐待派の男三人
を順番に眺めてから、駐車場へと足を進めた。

「君たち、そこの子たちに何か悪さをしようとしてたの? そういうのよくないよ」
「おっさん、今の事は見なかったことにして立ち去った方がいいぜ?」

 右手のエアガンを持ち上げ、痩せた茶髪の男が低く唸るような声音で脅してくる。ナイ
フを取り出した筋肉質の男も、バールを持った小太りの男も、威嚇するように睨んでいた。
普通の人間ならば、足が竦んでそのまま逃げ出しかねないような状況である。

 が、神主は平然と続けた。

「相手が弱そうなおじさんだから脅す、ね……ははは。やれやれ、弱い相手だと強気に出
るのは、まるで実装石だね。いや、君たちは実装石以下だけど」

 そう笑ってみせる。皮肉というよりも本音だった。




 プチッ。

 そんな音が頭の中で聞こえる。
 自分を実装石以下と言われたことで、ウィスキーはキレた。無意識にその自覚があった
からこその激怒。時に最高の悪口は事実の指摘であると人は言う。

「ッざけンな、クソオヤジが!」

 駆け出すとともに、両手で持ったバールを思い切り振りかぶり、男の頭目がけて叩き付
ける。正気なら躊躇した行動も、理性を失った状況では手加減も無く実行できた。
 それが敗因のひとつとなった。主な敗因は圧倒的な力量差なのだが。

「ほい」

 踏み込んだ右足が、男の左足に簡単に払われる。さらに振り抜いたバールもあっさりと
躱された。結果、バールの勢いに振り回されながら、身体が右へと傾いていく。
 倒れながら身体が真上を向いたところに。
 男の伸ばした右手が、そっと顔に触れる。

 重力が消え、星が瞬き、ウィスキーの意識はそこで途切れた。




 足払いで重心を崩し、顔面を掴み後頭部を地面へと叩き付ける。

 一撃で気絶させられたウィスキーを見ながら、オスカーは舌打ちをした。漫画のような
技だが、その技術は本物である。柔術系の格闘家。しかも、達人級。

「おい。おっさん、何者だ?」

 やや早足で男の方に近づきながら、尋ねる。
 中学まで空手をやっていたから、何度もケンカをしていたから、実装さんを殴り殺した
こともともあるから、はっきりと分かる。このケンカを長引かせるとマズイ、と。

「通りすがりのおじさんだよ」

 涼しげにカバンを起き、すたすたと近づいてくる男。両者同じ速さで近づき。
 射程に入った瞬間、オスカーはナイフを突き出した。首筋を狙って。

 そして、それは囮である。左手が男の股間へと伸びていた。ナイフを囮にして左手で相
手の睾丸を力任せに握り潰すという、問答無用の禁じ手である。

 だが、左手はあっさりと掴まれ、ナイフも手刀であっさり弾かれていた。近くのブロッ
ク塀にぶつかったナイフが、乾いた音を立てて地面に落ちる。

「生兵法はケガの元。駄目だよ、そういう技使っちゃ」

 男の右手がオスカーの左手の小指と薬指を握っていた。さらに、男の左手が顎を掴む。
正確には、皮膚の上から四本の指を顎の骨に引っかけていた。
 格闘技の知識がこれから自分に起ることを知らせる。

 やめろ……!

 ドッ!

 言おうとした時には、背中から地面に叩き付けられていた。豪快な左背負い投げ。受け
身も取れず、呼吸もできない。左手の小指と薬指は折れ、顎の骨も外れている。左腕も無
事ではないだろう。全身が痛い。もうどこが痛いのか分からないほどに。

 霞んだ視界に何かが見える。

 靴の裏と理解した時には。
 オスカーの意識は無くなっていた。




 瞬殺されたウィスキー。背負い投げから顔面を踏まれたオスカー。
 半歩後ずさりながらも、ロメオは持っていたエアガンを構えた。

「く、来るな!」
「弾が無いことは知ってるよ」

 トリガーを引くが、弾は出ない。さきほど、実装雛相手に全部撃ち尽くしてしまったの
だ。何度もトリガーを引くものの、弾切れのエアガンから弾が出ることは無い。
 さきほどの実装雛は、いつの間にか消えている。

 すぐ目の前までやってきた男。
 ひょいと右腕を持ち上げる。
 反射的にロメオは左手を上げ、男の腕を掴んでいた。

「!」

 そのまま、脈絡無く地面に倒れる。まるで脳震盪でも起こしたように足腰から力が抜け、
組み伏せられていた。仰向けのまま、全く動けない。

「は、放せ……!」
「放せって、掴んでるのは君じゃないか」

 男の言う通り、男の腕を掴んでいるのは ロメオの左手だった。しかし、握っているの
は自分だと言うのに、その手を放すことができない。指の腱、腕の筋肉、肩や背中の筋肉
が全く言うことを聞かないのだ。

「もうどうにでもしやがれ! だがな、オレはおっさん訴えてやるぞ……! 刑事告訴だ。
へっ。あんた、殺人未遂で牢屋行きだぜ? ざまあみろ」

 せめて精神的優位を取るためか、明らかな強がりを口にするロメオ。無意味なのは分か
っているのに、言わずにはいられなかった。

「好きにすればいい。今の私にとって、法律は興味無いものだからね。ただ、ペナルティ
はしっかり受けてもらうよ。紳士連盟の名の下にね?」

 あくまで子供に話しかけるように優しく、男が言ってくる。

「ペナル、ティ……? 紳士、連盟?」
「うーん。最近の虐待派は知らないかな? ルールを守らない虐待派には虐待紳士からペ
ナルティが科せられるって」
「ンなの、都市伝説だろ……!」

 虐待紳士、初期型実装石、ペナルティ、紳士同盟……実装に関わる者なら一度は耳にす
る話だった。だが、あくまで噂話、都市伝説。多くの者はそう考えている。

「都市伝説は時々事実だったりするから侮れないよ。紳士同盟じゃなくて、紳士連盟だけ
ど。これから君たちには罰が与えられる。さすがに身勝手が過ぎたよ」

 柔和な口調に含まれた異様な凄み。

「何する気だよ、おっさん……」

 ロメオはただそれだけを呻いた。理解不能な状況に声が震えている。本気の恐怖。死の
恐怖とは違う、自分がどうなるか分からない事への恐怖だった。
 思い出したように頷き、男は優しげに微笑む。

「自己紹介を忘れていたね。私は観察紳士。紳士連盟の五位だ。虐待紳士ではないけど、
隆次くん、沖人くん、渉くん、だったかな……君たち三人にペナルティを与えに来た。残
念だけど、君たちに科せられたペナルティは——」

 優しかった目が、凍るような光を帯びた。

「凄く、重いよ」

 男が広げた左手を差し出してくる。顔を掴むように。何のことはない、ただの手の平だっ
た。しかし、その手には形容しがたい禍々しさがまとわりついていた。

 絶対に触れてはいけない。男の左手に触れたら、もう二度と日常へは戻れない。何か分
からない感覚——敢えて言うなら、生物としての生存本能が、そう告げていた。
 だが、抗うことすらできない。近づく手を見ているだけ。

「やめろおオぉォぉアァぁァぁッ!」

 ロメオ——いや、隆次は泣きながら目を見開き、絶叫していた。






 翌日。
 目覚めたアオゾラの目に入ったのは、白い天井だった。空気に漂うのは薄い薬の匂い。
混乱する思考のまま、誰へとなく呟く。

「ここはどこボク?」
「あら、アオゾラちゃんが目覚めましたよ」

 看護服を着た女の人が、とことこと走っていく。
 そこは動物病院の一室だった。

「アオゾラさん、大丈夫デスゥ?」

 実装用ベッドに寝かされたアオゾラ。隣のベッドでは、ビースが寝かされていた。夜の
駐車場、改造石、虐待派の男たち。そして、神主の笑顔を思い出す。

「アオゾラ君無事かい? いや、災難だったねー」

 リンガルを持った老人が気楽な笑顔で歩いてくる。駅前交番近くにある動物病院の先生
だった。普通の動物だけでなく、実装生物の診察も行っている。

「獣医さんボクゥ……。何があったボク?」
「覚えてないか……て、そりゃそうか。君たち、枯れ枝に当ったんだよ」

 獣医の言葉に、首を傾げる。

「ほら、工業団地の端っこの空き地に生えてる枯れた松の木。あの枝が風で折れて、下を
歩いてた君たちにぶつかったんだ。朝見かけた散歩の人がここに連れてきてくれたし、怪
我は大したことないけど、いや災難だったねぇ」
「そう、ですかボクゥ……」

 苦笑いをする獣医に、アオゾラはただそれだけを返した。





 それより少し時間を遡る朝七時頃。
 双葉精密加工株式会社の専務は、会社に起き忘れていた私物を取りに来ていた。そして、
駐車場でデスデスとケンカしながら泣いている三匹の実装石を見つけた。
 駐車場を汚されると困ると考えた専務は、事務所にコロリスプレーを取りに行ったが、
戻った時には三匹の実装石はいなくなっていた。



 その後、隆次、沖人、渉の三人を見たものはいない。
 警察でも失踪として処理されている。




おまけ

アオゾラ
駅前交番後ろの元荷物小屋に間借りしている実蒼石。双葉町の名物で、街の人気者でもあ
る。町内の見回りを仕事として、餌と寝床を借りている。
かつて師と呼んでいた実蒼石アオの教えに従い、日々鍛錬を積んでいる。
改造石を殺すための技術をいくつか持っている。


ビース
駅前交番後ろの元荷物小屋に間借りしている獣装石。双葉町の名物で、街の人気者でもあ
る。町内の見回りを仕事として、餌と寝床を借りている。
交番の警察官から興味本位で教えられた柔道の技をいくつか使える。


神主
神社の神主。有名な観察派。温厚で柔和なおじさんであるが、柔術の達人でもある。
紳士連盟という謎の組織の五位であり、その中では観察紳士と呼ばれている。リンガル無
しでも実装生物の言葉が分かる模様。アオゾラとビースに手を出そうとしていた虐待派三
人に、過酷なペナルティを与えた。


実装雛
神社の裏手の森に住んでいる実装雛。
色々謎なことが多く、うつ伏せのままの高速移動や、二メートルのパイプを呑み込むなど、
原理不明の能力を持っている。神主のサポートのようなことを行っているらしい。


ロメオ(R)
悪質虐待派三人組のひとり。本名は隆次。
痩せた茶髪の男で、三人の中では一応リーダー的立場。作戦立案が主な役割で、実装の思
考を読むのが上手い。いつもへらへらと笑っている。
神主の手によって重いペナルティを受ける。


オスカー(O)
悪質虐待派三人組のひとり。本名は沖人。
筋肉質の男で、武闘派。虐待に道具は使わない主義。中学まで空手をやっていた。実装さ
んを素手で殴り殺したこともあり、それが自慢である。
神主の手によって重いペナルティを受ける。


ウィスキー(W)
悪質虐待派三人組のひとり。本名は渉。
小太りの男で、かなり手先が器用。手術系虐待を好み、実装石の改造などを得意とする。
アオゾラとビースを襲うための過剰改造石を制作する。
神主の手によって重いペナルティを受ける。


改造石(プロトタイプ)
手術と薬品によって筋肉を異常増加させた実装石。骨はアルミパイプに交換してあり、頭
と胸の内部に薄いアルミ板を仕込んでいる。廉価版実装活性剤を投与されていて、偽石も
取り出してあるため、かなりしぶとい。強さは成体の実蒼石レベル。
口蓋から脳を潰す攻撃を受け仮死した後、偽石を砕かれ死亡。


改造石(実戦タイプ)
アオゾラとビースに制裁を受けた実装石をベースに、獣装石とマラ実装を追加。過剰ドー
ピングや防御力強化処置、完全な洗脳を施してあり、薬品で偽石十個を完全癒着させた大
偽石を埋め込んである。高い筋力と持久力、桁違いの防御力を持ち、さらに全身を鉄板の
鎧で覆い、人間でも殺すのは難しいほど。
力とスピードは鍛えた実蒼石レベルだが、最大の売りは防御力であり、正攻法で倒すのは
不可能に等しい。無論、違法改造。
七匹作られたが、最初の一匹は総排泄孔からハサミを突き刺し偽石を砕くというアオゾラ
の奇策によって倒される。
残りの六匹は、実装スタングレネードによって気絶。その後の行方は不明。


野良実装石
ロメオによって騙され、アオゾラとビースを呼び寄せる演技をした実装石。成功したら飼
い実装にすると言われていた。お礼と称し、ドドンパ、裏ドドンパ、ゲロリ、裏ゲロリを
食べさせられ悶絶してから、実装スタングレネードの効果によって気絶する。
その後の行方は不明。


獣医
双葉駅前動物病院の院長。気の良いお爺さん。普通の生き物だけでなく、実装生物の診察
や治療も行える。


実装スタングレネード
実装生物を気絶させる閃光と爆音を発生させる小型爆弾。
集団発生した実装石を気絶させることを主目的として作られているが、他の実装生物にも
有効。目を塞いでも、音だけで十分気絶するほど。殺傷力は無い。
人間にもある程度効き、視力の一時低下と、耳鳴り、目眩などを起こす。
 



あとがき
ススキ原の実装石駆除を書いたらそれで終わりにする予定だったのですが、何故か色々と
ネタを思いついてしまい書き続けています。ネタが出尽くすまで書く予定です。
正直今回は神主さん無双が書きたかった。

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