タイトル:【巡】 じゃに☆じそ!第4話02
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初投稿日時:2009/12/12-00:57:01修正日時:2009/12/12-00:57:01
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【 これまでの“ただの一般人としあき”は 】

 弐羽としあきは、ある夜偶然出会った“初期実装”に因縁をつけられ、彼女の仔実装を捜すために異世界へ飛ばされて
しまった。
 「実装石」と呼ばれる人型生命体の存在する世界を旅することになったとしあきは、5日間というタイムリミットの中で、
“頭巾に模様のある”初期実装の子供を見つけ出さなくてはならなくなった。
 もし5日間を過ぎてしまうと、としあきは永遠にその世界から出られなくなってしまう。

 四番目に辿り付いた世界では、実装石が大事に扱われる世界だった。
 だがとしあきは、突然その世界の住人に暴行され、捕らえられてしまった——

 



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    じゃに☆じそ! 第4話 ACT-2 【 無礼なプライド 】

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 正午過ぎ。
 ぷちは、着慣れたメイド服で、あてもなく街中をさ迷っていた。
 あの後、突然見知らぬ男達がマンション内に乱入。
 家財という家財をひっくり返し、クローゼットや収納を暴き、照明を外して破壊した。
 しまいには、ぷち自身もゴミのようにマンション外へ放り出された。
 怪我こそしなかったまでも、彼女にとって相当な精神的苦痛だ。
 胸の奥がズキリと痛み、抵抗力を失ったため、ぷちはもうジュリアーノ達のなすがままになるしかない。
 唯一の頼りだった筈のミドリは、ぷちに目もくれず、ジュリアーノに手を引かれて歓喜の声を上げている。
 その光景も、ぷちにはあまりにも衝撃的過ぎた。
 またも、胸の奥がズキッと痛む。

“どうすればいいテチ?
 私、一人ぽっちになっちゃったテチ…
 テ、テェェン……”

 動く気力もなく、かといって打開策を思いつくわけでもなく、ぷちはベンチに腰掛け、ただ呆然と白く濁った空を見つめ続けた。
 
 どれくらいの時間が経っただろうか。
 突然、ぷちの背後から「デス?」という声が聞こえた。

「オネーチャ?!」

 反射的に振り返ると、そこには三体ほどの成体実装が立っていた。
 いずれも高価そうなピンク色の実装服を身に着けており、例外なくでっぷりと肥えている。
 彼女達の視線は、ぷちの長く豊富な亜麻色の髪と、白く美しい肌、そして大きく開かれた胸元に注がれている。
 ミドリではない事に愕然としたが、ぷちは、彼女達と話せば何かわかるかもしれないと考え、ベンチから立ち上がった。

 テチテチ、テチテチ?
“オバチャン達、聞きたいことがあるんテチ。教えて欲しいテチ!”

 デェ? デヒャ? デヒャヒャヒャ♪
(なんだこいつ? ニンゲンの癖にワタシ達の言葉しゃべるデス)

 デスデスデス、デス、デッスー
(ニンゲンの分際で口の利き方がなってないデス)

 デー、デッスデス、デスデスデス!
(こういう躾けのなってないメスニンゲンには、お仕置きが必要デス!)

 テ、テチャ?!

 三匹の不穏な言動に恐怖を感じたが、もう遅い。
 ぷちの眼前で、三匹の飼い実装達は突然パンツを脱ぎ始めた。
 そして、それを丁寧に畳み脇に重ねると、いちいち実装服の裾をまくし上げ脇で縛り、ふんぬと力を込めた。

 ボギーン!!×3

 次の瞬間、三匹の股間から、天を突くほど巨大で逞しいマラが飛び出した!

 テ、テチャアッ?!

 ぷちが叫び声を上げた瞬間には、既に三匹はルパンダイブの体勢に入っていた。

(メスブタめ! 劣情を催す格好をしおってけしからんデジャ!!)
(我がドレイに命じて、コイツをニクベンキにしてくれるデギャーッ!)
(その前に、穴という穴これすべて犯し尽くしてくれるデッチュン☆)

 テ、テチャアァァァッ!! テェェェェン!

 三匹のマラ飼い実装はぷちの身体にしがみつき、一匹は実装石とは思えないパワーでメイド服を掴み、脱がしにかかった。
 もう一匹はスカートの中に頭を突っ込み、何かを下着に押し付けている。
 最後の一匹は、ぷちのバストの谷間にマラを押し付け、恍惚の表情を浮かべている。
 ぷちは懸命にこれらを引き離そうとするが、たたでさえ気力も体力も尽き掛けている上、欲望でパワーアップしている成体
実装に「力で敵うはずがない」という思い込みが働き、ほとんど無抵抗に近い状態にあった。

 テチャアァァッ!! テ、テチィィィッ!!

 ふと見ると、三匹の飼い主と思われる温和そうな老婆がやって来た。
 だが老婆は、ぷちを助けるでもなく、実装達を止めるでもなく、まるで盆栽でも眺めるような温かい眼差しで見守っている
だけだ。

「あらあらアトスちゃん、ポルトスちゃん、アラミスちゃん、今日もお盛んなのねぇ♪
 可愛い娘を見つけられて良かったわねぇ〜」

 テ、テチャァァッ!

 ぷちは必死で手を伸ばしたが、老婆は笑顔を崩さず、その手を払いのけた。

「ここしばらくご無沙汰だったものねえ、ごめんねぇ。
 せっかくだし、そのお姉さんでスッキリさせてもらいなさい♪」

 デッスーン×3

 なんということか。
 老婆は、自分の飼い実装が白昼堂々人間(見た目)をレイプしているというのに、それを咎めるどころかむしろ推奨している
のだ。
 まして、ぷちを助ける気などまったくないらしい。
 ぷちは、心和む暖かな微笑みを浮かべながら、犯されていく自分を見つめ続ける老婆の態度に、心底恐怖を覚えた。

 びり、びりりっ

 デッスーン♪

 スカートの中に潜り込んだマラ実装が、ぷちの下着を破り取った。
 続けて、異様に硬い何かが股間にぐいぐい押し付けられた。

 テ、テチャアァッ!!

 ぷちの悲鳴が、更に甲高くなる。
 だが、相変わらず誰も助けてくれない。
 近くを通り過ぎる人々も、見て見ぬふりをしたり、或いはまるで愛玩動物の愛らしい戯れを見つめるような態度を示すだけだ。
 ここでは、実装石が全てであり、彼女達の欲望が最優先なのだ。
 極限状態に陥ったぷちは、ようやく、その現実を理解した。

 ミリッ…!!

 テ……テ、ギャアァァァッ!!

 今まで感じたこともないような激痛が、股間に広がり始めた。

 その時……



  —— Accept Command. ——


  —— Fixate! ——


 どこからか、電子音声のようなものが微かに響く。
 次の瞬間、ぷちにまとわりついていたマラ実装達が、一斉に動きを止めた。
 激痛も、止まる。

 テ?

「あらら? どうしたの?」  


  —— Accept Command. ——


  —— Turn! ——


 再び、電子音声が聞こえる。
 と同時に、今度はマラ実装達がぷちの身体から離れ、一斉に「回れ右」をして老婆に向き直った。
 その間、一切の鳴き声を上げることはない。
 何が起きたのかわからず呆然とするぷちと老婆の眼前で、マラ実装達は人形のように硬直停止している。


  —— Accept Command. ——


  —— Escape! ——


 次の瞬間、突然三匹は一心不乱に走り出し、老婆の脇を通り過ぎていった。

「ち、ちょっとぉ?! どこ行くの?
 アトスちゃん、ポルトスちゃん、アラミスちゃぁぁん?!」

 飼い主の老婆は、三匹を追いかけてよたよたと走り去ってしまった。
 胸元を押さえたままボウッとその様子を見つめていたぷちの脇に、いつまにか先とは別な実装石が立ち尽くしていた。

 テ、テチャアッ?!

 ボクゥ♪ ボクボクゥ
 (大丈夫?)

 テ?

 聞きなれない鳴き声で話すその実装石は、安心させるように優しくぷちの腕をぽふぽふ叩くと、先ほどマラ実装達が置いて
いったピンク色の実装服をかき集めた。

 ボクゥ♪
 (もう安心ボクゥ♪)

 テ、テチ?

 ぷちは、その実装石がなんだか普通ではない事に、すぐ気付いた。
 鳴き声が違う上に、両の目の色が実装石と反対になっているのだ。
 右目が緑色で、左目が赤色……
 驚いて見つめていると、ぷちの顔の前に、ハンカチが差し出された。

「大丈夫だったかい?
 さあ、これで顔を拭きたまえ」

 テ、テチ? テ……

 脇に立っていたのは、としあきと同世代くらいの青年だった。
 細面で青色の上着を羽織った、スマートな体格の男だ。
 優しい微笑みを浮かべ、ぷちの反応を待っている。
 だが当のぷちは、ハンカチにプリントされている「食実戦隊ナベデッシャー」という謎の絵に気を取られていた。

「心配しなくていい、美しい君に危害を加えたりは、しないよ」

 ボックゥ♪

 “そうだよ”といわんがばかりに、目の色が反対の実装石が両手を上げる。
 青年は、実装石にウインクしながら親指を立てると、右手に携えていた銃をクルクルと回し、上着の裏側へ放り込んだ。
 フフン、とご機嫌そうに鼻を鳴らす。

 テチテチ、テチィ?

「うん、実装語?
 君は一体何者なんだい?」

 テチテチ、テチ!

 青年は、ポケットから黒くて薄い板のようなものを取り出すと、それをぷちに向けて、何かスイッチのようなものを押した。
 黒い板から、電子音声が響いてくる。

『私は、ぷちテチ』

 テェッ?!

「心配ない、実装リンガルだよ。
 いったい、何があったんだい?」

 テチテチ、テチ……

 ぷちは、ようやく自分の事情を理解してくれそうな人物に出会えたと思い、顔を拭くのも忘れて自分の事情を説明した。
 青年は、「実装リンガル」と呼ばれる黒い板を経由し、ぷちの言葉を翻訳しながら話を聞いている。

 自分達は、ニンゲンと大人の実装石と三人で別な世界から来たこと
 自分は、元々実装石の子供だったこと
 一緒に来たニンゲンが行方不明になり、自分はこの世界の人間から家を追い出されたこと
 姉代わりの実装石が、連れて行かれてしまったこと——

 一通りの話を聞いた青年は、「なるほどね」と一言呟き、目の色の違う実装石に向き直った。

「アクア、彼女をアジトへ連れて行こう。
 この仔は目立ちすぎるし、一人にさせておくのは危険だ」

“わかったボク。
 けど、この仔はまさか——”

「ああ、まさか他にも“因子”がいたとはね」

“なら、目的も果たしたんだし、早くズラかるボク”

「そうしよう。さぁ美しいメイド君、僕達に付いて来たまえ」

 テ、テチ?

 青年はぷちの手を引き立ち上がらせると、アクアと呼ばれた奇妙な実装石を肩に乗せ、どこへともなく歩き始めた。


      ※      ※       ※


 一方、その頃ミドリは——飽食の限りを尽くしていた。


「デシャシャシャ♪ お菓子食べ放題デスゥ!
 ウマウマテッチュン、最高デスゥ☆
 食べ切れないくらいでミドリ困っちゃうデッス〜ン♪」

 全然困った様子もなく、ミドリは目の前に山積みにされた駄菓子を頬張り、吸い飲み器にたっぷり用意されたオレンジ
ジュースに舌鼓を打った。
 もう一時間以上、ひたすら菓子を食べ続けている。
 しかも、床には汚物シートが敷かれているため、漏らしても構わないのだ。
 ブリブリ、プリプリと耳障りな排泄音を立てながら、ミドリはとしあきやぷちの事も忘れ、一心不乱に食べ物を口内に詰め
込んだ。
 あれからジュリアーノ京橋に自宅へ招かれたミドリは、「相応しい飼い主が現れるまで」彼女の自宅で飼われることになった
のだ。

 何時間か経った後。
 ミドリは、菓子の中に金平糖がない事に気付き、ジュリアーノを呼び出そうとしていた。
 だが、呼び出しブザーを押しても何の反応もない。
 奇妙に思ったミドリは、ドアの脇に設けられた実装石専用移動ドアをくぐり、室外へ出てみた。

「デスーッ、デスーッ!! おーいババア、金平糖がないデス!
 とっとと持ってきやがれデスーッ!」

 人の気配のない、薄暗い廊下をトボトボと歩いていく。
 ウン筋を通り道にマーキングしながらリビングらしい広間に辿り付くと、そこにはジュリアーノ京橋が本飼いしている実装の
親子がいた。
 大きくてふんわりとしたベッドの上に母親が横たわり、それにもたれかかるように仔実装が三匹寝息を立てている。
 母親実装はどうやら眠ってはいないようで、リビングに入り込んだミドリを鋭く睨みつけ、威嚇した。

「デ?」

「拾われ者め、ここはお前のような者が来る場所じゃないデス。
 とっとと去ねデス……」

「デェッ?! 何生意気な事言い出すデス?
 飼い実装の分際で、野良上がりのワタシに勝てるとでも思ってやがるデス?!」

「くだらん思い上がりは身を滅ぼすだけデス——
 やめておけ、怪我では済まなくなるデス」

「上等コイたデス——!!
 ちょうどいい、その寝心地良さそうなベッドを奪ってワタシの物にしてくれ………デ、デデ?」

「デス?」

 両手を振り回してヤル気満々になっていたミドリは、突如その動きを止めた。
 母親実装も、ミドリの急な態度の変化に反応し、彼女の視線を追う。
 ミドリの視線は、母親実装が抱いている仔実装の一匹に注がれていた。
 頭巾に6の模様がある、少し変わった姿の仔実装に——

 仔実装はゆっくりと顔を上げ、不気味に血走った目をギロリと剥いた。

「いやがったデスーっ!!」

 紛れもなく、“初期実装の仔”だ!
 「虐待正義の世界」で見た、としあきが捕まえなければならない存在。

 何か話すでもなく、笑うわけでもなく、初期実装の仔は静かに母親実装の許から飛び降りた。
 そして、ふわりと飛翔すると、ミドリの方へやってくる。

「クリアアイテム、ゲットデシャー!」

「きさーん、うちの仔になんばしょっとかデスーッ!!」

 宙を漂う初期実装の仔に飛びつこうとした途端、母親実装が猛烈なタックルを仕掛けてきた。
 激突した二体はそのまま廊下へ転がり、勢い余って別な部屋のドアに激突した。

「イタタタ!」

「ワ、ワタシの仔はどこデス?!」

「あ、あれがお前の仔デス?
 どう見ても普通の実装石じゃないデス!」

「細かい事は気にしないのが、長生きの秘訣デス!」

「な、なるほど、思わぬところでいい教訓を得たデ……って、それどころじゃないデシャアァァッ!!」

 気がつくと、初期実装の仔ははるか上空から二体を見下ろしていた。
 そして、スウッと音もなく移動し、今二体が激突したドアをすり抜け、中に入り込んだ。
 僅かな時間を置き、中から「カチャッ」と何かを開く音が響いた。
 そして、ドアが少しずつ開く……

「こ、ここは、ワタシ達が絶対に入ってはいけないと言われてる部屋デス!」

「かまうものかデス!
 あいつを捕まえるために突撃デシャーッ!!」

「あ、コラまてデスーッ!」

 僅かに開いた隙間は、ミドリ達が力を合わせたら簡単に開いた。
 重なるような勢いで部屋の中に飛び込んだ二体は、初期実装の仔の姿を捜したが、どこにも見当たらない。
 と、その瞬間、奥の方から、なんとも表現し難い凄まじい悪臭が漂ってきた。

「グェェ…な、なんデスこの嫌な臭い……ゲロゲロゲロ」

「この臭い、覚えがあるデス! これは——」

 激しく嘔吐する母親実装をよそに、ミドリは単身部屋の奥へ進んでみる。
 薄暗がりの中、何か細い金属のようなものが無数に積み重ねられている事だけはわかったが、悪臭の根源がどこにある
のかわからない。
 だがミドリは、かつて幼い頃、自分が生まれ育った公園で何度かこの臭いを嗅いだ記憶をハッキリと持っていた。

「これは、確か——」

 部屋の奥を確かめようと動き出した瞬間、廊下から激しい音が響き、母親実装の悲鳴が聞こえてきた。
 続けて、ドスドスという重い足音が迫ってくる。

「あなた達! ここで何をしているザマスッ!!」

 デ、デデェ〜〜ッ!! ×2

 二体は、仲良く揃って悲鳴を上げた。
 だがそれは、家主・ジュリアーノ京橋が現れたからだけでは、ない。
 ジュリアーノがドアを開いたため、廊下からの明かりが差し込み、部屋の奥にある物をくっきりと浮かび上がらせたから
だった。

 デ、デ、デ………(ガタガタブルブル)

 デ、デデ……デ、デッス〜〜ン♪(ガタガタブルブル)

「見たザマスね、見てしまったザマスね——可哀想に」

 不適な笑みを浮かべるジュリアーノが、じわりじわりと二匹に迫る。
 それから数分後、マンションの室内に先ほど以上に鋭い悲鳴が響き渡った。


      ※      ※       ※


 とても長い間眠っていたようだが、身体の疲労と痛みは消えていない。

 警察に連行され、取調室のような場所で過酷な肉体的責め苦を味わわされたとしあきは、いつの間にかどことも知れない
暗い部屋の中に放置されていた。
 三畳程度の大きさしかない小さな空間は、分厚い石壁と、天井から床まで届いている鉄格子で区切られている。

「鉄格…って、ええっ?!」

 そこは、まるでマンガか何かに出てきそうな、地下深くの秘密監禁部屋みたいな場所だった。
 拘置所ではなく、どう見ても「牢獄」。
 そんな場所の一室に、としあきは無造作に放り投げられていたのだ。
 室内には何もなく、明り取りも、トイレすらもない。
 鉄格子の向こうから入り込む光で、かろうじて中の様子は確認出来るものの、鉄格子の外の様子はよくわからない。
 ただ、かなり広く冷たく湿った空気が漂っていることだけは理解出来た。

「いったいどうなってるんだこの世界は?!」

 独り言がエコーになって響き渡る。
 しばらくすると、それに反応するように、どこかから呻き声が聞こえてきた。

 うう……
 うああ……

 あう……ああぁ……

 一瞬幽霊かと思ったが、そうではない。
 今にも死に絶えそうな弱々しい声が、鉄格子の向こうから微かに聞こえている。
 いずれも尋常な状態でない事が判る。
 
「おい、マジかよ……」

 十数分後、どこからともなく凄まじい悲鳴が聞こえてきた。
 それはまさに、過激な拷問を受けているかのような、生命的危機感を覚えさせるレベルのものだ。
 しかも、それが何度も連続で聞こえてくる。
 数十分に渡り響いていた叫び声は、ある時点で突然、不自然に途切れる。
 そして、二度と聞こえてくることはなかった。

(ま、まままま、まさか……?!
 ってオイ! 冗談じゃねぇぞマジで!)

 としあきの恐怖は、一気にピークに達した。
 なんとかここから脱出する方法を考えるが、何の道具もなければ、傷のせいでまともに身体も動かせない。

(ここの世界も、狂ってやがる!
 いったい、どういう世界なんだ!!)

 心の中で絶叫すると、突然、部屋の一角が不自然に明るくなった。
 ライトもなければ日が差し込んでいるわけでもない。
 その部分だけ、まるで大きな蛍でもいるかのように、ボンヤリと光っているのだ。

 良く見ると、そこには古びた一冊の本が置かれている。
 そして、その上に何か小さな者が佇み、こちらをじっと見つめていた。
 ——初期実装の子供!

「こ、こんな所に居たのか!」

 痛む身体を鞭打って、としあきは仔実装に近づこうとする。
 だが仔実装の姿はすぐに薄ぼけ、あっという間に消えてしまった。
 としあきの手が虚空を掴んだのと、不思議な明かりが消滅したのはほぼ同時だった。

「また消えた——クソ。
 って待てよ、仮に今捕まえても、ここから出られなきゃ意味ないのか…」

 軽く舌打ちするが、としあきは、何故仔実装がこんなところに現れたのか、ふと不思議に思った。

「あ、そうだ本……って、うわ、なんか湿っぽい!」

 不思議な明かりに照らされていた本を手にとると、としあきは鉄格子の前に移動し、ほのかな明かりを頼りに中を見ることに
した。
 「実装石は本当に人間の友達か?」というタイトルの新書サイズで、内容は実装石の存在についてもう一度考え直して
みようと呼びかけるもののようだ。
 その第一章「実装石とは何か」という項目を読んで、としあきはいきなり大きなショックを受けた。

 この世界では、「実装石は人類に次ぐ賢く尊い生物であり、これを傷つけることは絶対に許されない」という、半ば宗教にも
似た特殊な倫理観が広まっている。
 しかも、その姿が人間の子供のようであり、大変愛らしい仕草をする上環境適応力も高く、更には成長すれば人間の手伝い
も行えるため、犬や猫以上に愛玩されているらしい。
 この思想は特にヨーロッパ圏で根強く、日本も数十年前にこのような概念が広まったのだが、今では世界規模の常識である
ようだ。
 以前はいくつかの発展途上国が実装石の捕獲・駆除・養殖などを行っていたが、世界レベルの弾圧を受け、現在では
まったく行われていない。
 信じられないことに、一部の国家間では実装石の扱いを巡る戦争まで発生したそうで、それにより数百万人もの犠牲者が
出た。

 とにかくここでは、実装石の存在が絶対であり、人命よりも重要視されているのだ。

「嘘だろ……」

 としあきが衝撃を受けたのは、そんな世界背景を知ったからだけではない。
 実装石に対する考え方が、それまでとしあきの抱いていた思いとほとんど同じなのだ。
 賢いから尊い、人間に近い姿だから愛らしい。
 そんな存在を駆除するなんておかしい、殺すなんてもっての他だ。
 そう思っている人間が世界単位で集結すると、ここまで認識が狂ってしまう。
 としあきの世界でも、犬や猫は世界規模で愛され人間の大事なパートナーとして広く認識されているが、それによる戦争
など起こったことはない。
 としあきは、実装石の何がそんなに人を狂わせるのか、不思議でたまらなくなった。

(そういや、最初の世界では実装石は駆除対象だったな。
 ひょっとしたらあの世界の人達は、早い時期に考え方を割り切ったのかもなあ)

 いつしかとしあきは、本の内容に夢中になっていた。
 そして、いつしか心の中で、はっきりと認識を得た。

「そうか、ここは——実装石愛護主義の世界、なのか」


      ※      ※       ※


 その日の夕方、ぷちは謎の青年に連れられ、ある廃ビルを訪れていた。
 いくつもの細い路地を巡り、まるで人目を避けるように建てられているそこは、どことなく恐怖感が漂っている。
 ぷちは中に入るのをためらったが、青年と不思議な実装石に説得され、渋々侵入する。
 地下に続く階段を下り、暗い通路を進んだ後、突然開けた部屋にたどり着く。
 そこには、十人程の若者達が、何やら話しこんでいた。

 ぷちの姿に、若者達が殺気のこもった視線を向けて来る。
 だが青年がすかさず合間に入り、なだめた。

「驚かせてしまったね、君達。
 でも安心して欲しい。彼女はこう見えても人間じゃない、実装石なんだ」

 テ、テチ

 青年の言葉に合わせ、ぷちは皆に向かって深々と頭を下げる。

「おいひろあき、そりゃあねぇだろ。
 どう見てもそれは——」

「信じられないのも無理はない。
 けど事実さ、ホラ、これを見たまえ」

 ひろあきと呼ばれた青年は、懐から先ほどの銃を取り出すと、それを若者達に見せる。
 側面部が展開して出現した液晶モニタには、ぷちの身体のラインが表示されている。
 左胸の辺りに、赤いシグナルが点灯していた。

「ほ、本当だ、偽石がある!」
「マジかよ……おいひろあき、そんな娘どこで拾ってきたんだ?」
「どうしてこんな姿になってんだよ、実装の癖に?」

「彼女は、恐らく『人化実装の世界』の住人だ。
 特殊な条件で、人間の姿を得た実装石なのさ」

 若者達の疑問に、ひろあきが説明を始める。
 ぷちは、「どうしてこの人が自分の世界を知っているのか」疑問だったが、それより若者達がそれで納得してしまった事の
方に驚いた。

「そんな世界があるのかあ、いいなあ」
「俺も、そこでなら実装石好きになれたかもな」
「待てよおめーら、落ち着け。
 おいひろあき、まさかそいつも計画に使うつもりなのか?」
  
「まさか。
 ちょっと僕に考えがあるのさ」

 フフン、と鼻を鳴らすと、ひろあきは銃を懐にしまう。
 その脇で不思議そうな顔をしているぷちに向かって、実装石アクアがボクボクと呼びかけてきた。

“心配いらないボクゥ。
 ここの人達は、見た目も性格も凶暴だけど危害は加えないボクゥ”

“テェェ、怖いテチ!
 なんでこんな所に来ちゃったテチ?”

“今、君を安全に護れる場所はここしかないからボク”

“テチ? この世界はそんなに危険なんテチ?”

 アクアは優しくニッコリ微笑むと、心配いらないよと付け加え、ぷちの足をポフポフと叩く。
 しばらくすると、ひろあきが笑顔を浮かべながら尋ねてきた。

「さぁメイド君。
 実は君にお願いがあるんだ。
 僕たちに力を貸してくれないか?」

“テチ? 私が何かお役に立てるテチ?”

「ああ、役に立つどころか、君じゃないと出来ないんだよ。
 お願い出来ないかな?」

“お役に立てるなら何でもするテチ。
 けど、私は——”

「もし手伝ってくれるなら、君のご主人様を、僕が捜し出してあげるよ」

“テチ?! ご主人様をテチ?”

 ひろあきの申し出に、ぷちは即答で応じた。
 その後、若者達とひろあきによって更に奥の部屋へ誘導されたぷちは、むせ返るほど強烈な実装臭を感じ、たじろいた。

「メイド君にして欲しいことは、彼女達の“説得”だ。
 彼等に協力してくれるように、言い聞かせてくれないかな」

 そう言いながら、ひろあきは一番奥にある大きな鉄の扉を開く。
 すると、中からものすごい数の実装石が飛び出してきた。
 しかし、全員髪と服を持っていない、所謂「禿裸」だ。

 デスーデスー、テチーテチー×250

 禿裸達は、開放されてしばらくは喜びはしゃいでいたが、若者達とぷちの姿を見ると、突然静かになり後ずさる。
 中にはガクガクと震えている者達までいる。
 予想外の光景に驚いたぷちは、慌ててひろあきに呼びかけた。

“み、みんな寒そうテチ!
 ニンゲンさん、皆さんに酷いことしちゃダメテチ!
 せめておベベだけても着せてあげてテチ!”

「勿論そうするさ。
 そのために、彼女達を集めたんだから」

“テ?”

「聞いてごらん、彼女達に直接」

“?”

 ひろあきに促され、ぷちは一番手近の成体禿裸に呼びかける。
 しばし戸惑っていた禿裸だったが、ぷちと会話が成立すると知るや、まくしたてるように話し始めた。

“ワタシ達は元飼い実装だったデス!
 みんな山奥や公園に捨てられたデス! 地獄を味わったデス!
 だからもうニンゲンを信用しないデス!
 オマエはニンゲンじゃないデス? 同族の匂いがするデス”

“私も実装石テチ。
 オバチャン、どうしておベベを着ないテチ?”

 ぷちの無垢な質問に、一瞬表情を歪める禿裸だったが、脇から別な個体が話しかけてきた。

“奪われたデス、ニンゲンに。
 大切な髪も、服も、みんなボロボロにされたデス”

“なんでテチ?
 どうしてそんな酷い目に遭わされたテチ?
 この世界だと、実装石はとっても大事にされてるテチ”

“それは——”

「彼女達は、もう実装石じゃないのさ。
 実装石であることを認めてもらえなくなったんだ」

 口ごもる禿裸に代わって、ひろあきが補足する。

“どうしてテチ? 差別はいけないテチ!
 おベベと髪がなくても、実装石は実装石テチ”

「そうだよ、だから僕達は、彼女達に新しい服と髪を与えようと思っているんだ」

 どこから取り出したのか、ひろあきは新品のピンク色の実装服を手に持ち、ヒラヒラと揺らしてみせる。
 だが、それを見た禿裸達は、益々怯えてしまう。

「彼女達は人間に捨てられたから、僕達を信用してくれない。
 メイド君、彼女達を説得して、この服と付け毛を着けるように伝えてくれないかな」

“そういう事なら、わかったテチ!”

 ようやく納得したぷちは、ひろあきと若者達に背を向けると、禿裸達に向かって何か話し始める。
 その様子を関心深そうに眺める若者達だったが、その中の一人がひろあきの肩を叩く。

「おい、本当にこれで大丈夫なのか?
 “緑の審判”まであと3日しかないぞ」

「心配いらないよ。
 彼女からアシが付くことはないし、一生懸命説得してくれるよ。
 なにせ彼女の命もかかってるからね」

「どういう意味だ?」

 若者の問いかけに、ひろあきは懐の銃を指差しながら説明する。

「デスゥタンガンのセンサー反応を見ると、あの娘の偽石はかなり破損してる。
 多分だけど、放っておけば数日で死んでしまうくらいの状態だね。
 けど、世界移動をすれば延命が可能だ。
 そのために、彼女はどうしてもご主人様と逢わなければならない」

「なるほどな、さすがひろあき!
 俺達の作戦参謀だけのことはあるな」

 納得して笑顔を浮かべる若者に、ひろあきは銃の形にした指を向け「バン」と小声で囁く。
 その足元では、アクアが不安そうな表情を浮かべていた。

「おい、その実装石、随分不満そうなツラしてるけど?」

 ボクゥ?

「実装石じゃない、実“蒼”石だ。
 間違えないでくれたまえ。
 彼等は元々こういう顔なのさ」

 アクアを抱きかかえ、軽く頬ずりすると、ひろあきは楽しそうにステップを踏みながら退出する。
 若者達は、警戒心ゼロで背中を向けているぷちを眺めながら、全員同じようなことを考えていた。


『可愛い娘だが、しょうがない——実装石なら、生かしておく事は出来ないな』


      ※      ※       ※


 10月11日、午後二時。
 ミドリは、公園にいた。

「デェェェン、デェェェン、寒いデスゥ〜!」

 あれからミドリは、髪と服を奪われ、禿裸の状態にされた上に捨てられたのだ。
 通りすがる飼い実装にあざ笑われ、時には暴行を受け、半死半生の目に遭わされたりもした。
 それだけではなく、人間達までミドリを執拗に甚振った。
 蹴り飛ばされ、殴られ、投げ捨てられ……それは、実装石が愛される世界とは思えないほど惨い仕打ちばかりだ。
 決して虐待派がやって来たわけではない。
 飼い実装を連れたごく普通の一般人が、ミドリを見つけて追いかけてくるのだ。
 しかも、それを見ている他の人間達は、助けるどころか止めようともしない。
 逆に、自分達まで虐待に加わろうとする始末だ。
 生きてるのが不思議なくらい痛めつけられたミドリは、なんとか近くの茂みに身を隠すことに成功したが、あまりの急転直下
ぶりに悲しみをこらえ切れなくなった。

「デェェェン、なんで高貴かつ神聖なワタシが、こんな目に遭わなきゃならないデス〜!
 クソドレイ、ぷちぃ! とっとと助けに来いデス〜!!
 主人のピンチなんだから、こういう時くらいキッチリ役に立てデジャァァ!!
 デェェェン、デェェェン!!」

 ようやく理想の飼い実装生活を始められたというのに、ほんの僅かの時間で以前より遥かに劣る状態にされてしまった。
 これなら、としあきの許に戻った方が懸命だと考えたまでは良かったが、彼は拘留中だった事を思い出し、再び悲観に
暮れる。
 体中の水分が出尽くしたかと思われるほど泣いた頃、何者かが、ミドリの尻を叩いた。

「デギャ! もう許してデス助けてデス命だけは勘弁してデス!!」

 振り返り様に土下座を繰り出すミドリだったが、奇妙なことにその後何もされない。
 恐々頭を上げてみると、そこには、数匹の禿裸実装が立ち尽くしていた。

「あなたも捨てられたデス?
 こっちに来るデス、そのままじゃいつか殺されるデス」

「デ……お前達も捨てられた飼い実装デス?」

「とにかく、こっちに来るデス!」

 ミドリを立ち上がらせると、禿裸達はそそくさと茂みの奥へと駆けていく。
 しばらくすると、小さなプレハブ小屋にたどり着く。
 禿裸達は、裏側の外装の一部を器用にめくり上げると、その中に順番に入っていく。
 ミドリも、中に入るように促された。

 そこは、どうやら長い間使われていない何かの施設のようで、積み重ねられたダンボールや放置され埃を被っている机や
土台、立てかけられたパイプ椅子などが置かれている。
 そして、その中には数十匹ほどの禿裸達がひしめき合っていた。

「新しい仲間が増えたデス」

 ミドリを誘導した禿裸が、中の者達に呼びかける。
 すると、一斉にため息を吐き出した。

「また捨て実装が増えたデス」
「このままだと、ワタシ達はどうなってしまうデス?」
「ママー、お腹空いたテチュ」

「デデェッ?! これはいったい、どういう事デス?」

 予想外の状況を見せ付けられたミドリは、禿裸達に事情を問いかけた。
 彼女達は、やはり全員元飼い実装であり、野良に相当する者はまったくいないようだ。
 何かしらの事情で飼い主の反感を買い、禿裸にされて捨てられたのだ。
 いつしか彼女達は、弱い者同士で固まり、助け合い、緊急物資用保管庫の中で共同生活を始めたという。
 それでも、救い切れず公園の各所で死んでいった禿裸は、数多いらしい。

「あなたは幸運だったデス、巡回していたワタシ達に上手く発見されたデス」

「でも、どうしてこんな事になったデス?
 この世界の実装石は愛護される存在デス?
 それなのに、これじゃ虐待デス!」

「そうデス。
 ワタシ達は虐待されたんデス」
「服と髪を失った実装石は、ニンゲン達に認められないデス。
 ワタシ達は“ハゲハダカ”という別な生き物とされているデス」

「デデ、そんなバカな!」

 更に詳しく話を聞くと、人間達は確かに実装石を愛護するが、何か重大な問題を起こしたり飼うことが出来なくなると、禿裸
にして捨ててしまうのだという。
 なぜ禿裸にすると実装石と認められなくなるのかは、彼女達にはわからない。
 だがこの世界は、飼い実装になったからといって決して油断の出来ないところでもあるようだ。

「ハゲハダカになると、ニンゲン達は可愛いと思ってくれなくなるみたいデス。
 ワタシは、別な飼い実装に前髪を毟り取られたら、即捨てられたデス」
「ワタシは、新しい服を買わせようとして古いのをボロボロにしちゃったデス。
 そしたら、そのままこの公園に捨てられたデス」
「ワタシは仔食いを……」
「テチャァァ!!」

 彼女達の大半は、調子に乗った結果見切りを付けられた者のようだが、中には不運に見舞われただけの者も混じっている。
 ミドリは、なぜそんな不条理がありうるのか、不思議でならなかった。

「そういえば、あなたはどうして捨てられたデス?」

「デ? わ、ワタシは……って、あっそうだ、とんでもないニンゲンがいるデス!
 ワタシはそいつの秘密を知って捨てら——」

 と、そこまで話した時点で、突然、ミドリの動きが停止する。
 否、彼女だけではなく、全ての禿裸達も一斉にストップしている。
 まるで一時停止機能でも働いたかのように、すべての禿裸は直前まで取っていた姿勢のままで硬直した。 


  —— Accept Command. ——


  —— Turn! ——


 どこからか、電子音声が鳴り響く。
 と同時に、ミドリを含む禿裸達は、クルリと向きを変えプレハブから退出し始めた。
 ぞろぞろと外に出てくる禿裸達は、すぐ脇に、何人かの人間が立ち尽くしている事に気付き、戦慄する。
 しかし、認知はしていても身体は全く動かせない!
 逃げることも出来ず、ただ静かに人間の対応を待つしかないという危機的状況に、何匹かの禿裸仔実装が自壊する。
 人間達の中の一人、大きな銃のようなものを構えていた青年が、目線を下げてミドリに呼びかけてきた。

「君達、飼い実装に戻ってみる気はないかい?
 僕達に力を貸してくれるなら、髪も服も戻してあげるし、ステーキと金平糖をたっぷり食べられるようにしてあげるよ」

 ボクゥ

 そう言うと、青年は銃のグリップ底からマガジンのようなものを引き出し、側面部に並んでいるいくつかのボタンの中から、
「C」と記されたものを押した。
 マガジンを戻すと、先ほどの電子音声が鳴り響く。


  —— Accept Command. ——


 青年は、続けて銃を禿裸達に向け、トリガーを引く。


  —— Clear! ——


 途端に、禿裸達の身体の自由が戻り、歓声が上がった。

“デデ……オマエは何者デス?!”

 怯える禿裸達を護るように立ち塞がると、ミドリは勇気を出して青年に尋ねた。
 ふふん♪ と軽く鼻を鳴らすと、男は銃をクルクル回しながらどこか愉快そうに答える。

「僕の名は、海藤ひろあき。君達の味方さ。
 よく覚えておきたまえ」


      ※      ※       ※


 10月11日、午後八時。

 既に丸一日以上閉じ込められているとしあきは、空腹と喉の渇きに必死で耐えながら、例の本を何度も読み込んでいた。
 他に暇を潰せるようなものはなく、また時折響いてくる悲鳴の恐怖に耐えるには、それに集中するしかなかったのだ。

「実装石……とんでもない生き物じゃないか……
 なんで、こんな生き物を特別視する必要があるんだ……?」

 「実装石は本当に人間の友達か?」という本は、としあきの実装石に対する考え方を大きく揺らがせた。

 実装石はとても自分勝手で自我が強く、己の欲求を押し通す事を何より優先し、そのために同族を含む他者を平気で蔑み、
蹂躙する。
 そして力の及ばぬ相手には媚びへつらい、それでいて隙を窺い続けている。
 下手に気を抜くと、僅かな油断でどんな事をされるかわからない。
 どうしても人間と共存させるには、人間のルールに従って生きる術を、それこそ虐待まがいの調教で覚えさせるしかない。

 それなのに、実装石は「とても賢い人型生物」というだけで、無条件で愛護対象となってしまった。
 そして、躾けや体罰、調教といったものはどんどん行われなくなり、過剰に保護されるようになった。
 それでいて、少しでも外観が実装石らしくなくなると、手の平を返すように廃棄処分する。
 それが、この世界における「愛護派」の正体だ——

 四回目の読書を終えたとしあきは、本を閉じ、天井を見上げた。

 きっと、ミドリはこの世界のどこかで好き勝手に生きているのだろう。
 ぷちも、実装石だって事がわかれば、きっともてはやされるに違いない——それにあの外観だし、誰かが養ってくれるだろう。
 そうすると、俺は——俺だけが、この世界で酷い目に遭わされていくわけか。
 ミドリの粗相を戒めただけなのに、重犯罪者扱いとは……
 しかも、実装石を蹴飛ばして(多分)殺した奴に捕まって……

「ふざけんな! なんで俺だけこんな事になるんだよ!
 責任者出て来いや——っ!!」

 怒り心頭に発したとしあきは、つい無意識に叫び声を上げてしまった。
 まずい、と思い返し口を押さえるがもう遅い。
 どこからともなく大きな足音が迫って来た。

「うるさいぞ、虐待派の分際で!」

 頭の上から足元まで真っ黒なローブをまとった男が、荒々しい声を上げて鉄格子を蹴飛ばした。
 プロレスラーのような大柄な体格のせいか、そのキックはかなりの強さだ。
 ガシャアン、と激しい音が鳴る。

「誰が虐待派だ! おれは何もしてねぇ!
 第一、ここは何処なんだよっ! 何の権利があってこんな所に連れて来やがった!」

 怒り任せに噛み付くとしあきを、黒服の男は大声で笑い飛ばす。

「ここはな、私設“私刑”場だよ。
 噂には聞いたことあるんじゃないか?」

「しせ…私刑?! なんだそれ?!」

 黒服の男は、呆れたような態度で説明する。

「実装ちゃんを甚振る阿呆は後を絶たないからな、警察だけじゃとても足りないのさ。
 だから、こんな場所でもないと、お前らみたいな犯罪者を“処分”しきれないってわけさ」
 いやらしい笑い声を立てながら、黒服の男はとしあきを見下す。
 いきなり犯罪者呼ばわりされた事が無性に腹立たしかったが、それよりも「処分」という言葉の方が引っかかった。

「おい、まさか処分て……たまに聞こえるアレは…?」

「ちょうどいい、そろそろお前にも“躾け”をしてやろう。
 そうすれば意味がわかるよ。
 虐待派は、躾けと称して実装ちゃんを虐めるんだろ?
 同じ事をしてやるよ♪」

「な、な、なんだそりゃ?! てめぇ、人権って言葉をしらねぇのか!!」

 食って掛かるとしあきに向かって、黒服の男が蹴りを放つ。
 鉄格子が激しく揺れる。

「虐待派に、人権など、ない」

「はぁ?!」

「お前らは人間どころかウジ虫以下だ、禿裸より劣る愚劣な害虫だ。
 だから、我々が駆除してやってるんだ」

「お前ら……正気かよ!!」

 鉄格子を開き、ベロリと大きく舌なめずりをしながら、黒服の男がとしあきに迫る。
 逃げようにも、狭い室内にはどこにも脱出口はない。
  
「安心しろよ、三日間くらいかけてゆっくり、じっくり痛めつけてやるからよ〜。
 この前の奴は、四日間も楽しませてくれたけどなぁ〜。
 お前らなんざ、俺達を楽しませるくらいしか役に立たないからなぁ〜♪」

「ひ、ひいぃぃぃ!! た、助けてぇっ!!」

 必死の叫びも空しく、としあきを助けようとする者は何も訪れない。
 りんごでも容易に握り潰しそうなほどの握力で上腕を掴まれたとしあきは、なんの抵抗も出来ず牢屋から引きずり出された。

「くそおぉぉぉっっ!! 実装石がなんだってんだーっ!!
 俺はこんなの認めねぇぞおぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!」


 まるで何かの怪奇映画にでも出て来そうな石畳の廊下を何十メートルも引きずられ、更に時々蹴りまで入れられ、としあき
はボロボロの状態で大きな広間に連行される。
 そこは、とても天井の高い総石造りの部屋で、四方全てに通路が伸びている。
 中心部には少し高い土台があり、その上に巨大な拷問器具が設置されている。
 それだけではなく、周囲には数々の見たこともない不気味な拷問具が揃えられていた。
 としあきを連れて来た者以外にも、大勢の黒服が佇んでいる。
 としあきの両手に大きな手錠をかけると、黒服の男は別な黒服に何かを話している。

「虐待派め! 覚悟を決めるザマス!」

「え? そ、その声は…」

 はっとするとしあきの前で、黒服の一人がフードを取る。
 そこには、忘れたくても忘れられないほどの濃い顔を持つ、太った中年女性の顔があった。
 ジュリアーノ京橋だ!

「あ、あんたは?!」

「ふひひひ、ここはワターシの娯楽の場ザマス。
 絶対愛護正義の名の下に、お前達を罰するための聖なる場所ザマス」

「何が、聖なる場所だよ…単なる拷問部屋じゃねぇか」

「威勢がいいのは結構ザマス、実に甚振り甲斐があるザマス」

 ドガッ、と鈍い衝撃が横腹に食い込む。
 黒服の男に殴られたとしあきは床に突っ伏してしまった。

「さすが、虐待派の親族だけあってお前も立派な虐待派ザマスねぇ」

「な、なんのことだ…?」


「お前の親戚は、妻と一緒に実装ちゃんに激しい虐待を加えていたザマス!!
 しかも、自分達の部屋の中で!
 ワターシのマリリンちゃんが話を聞くまで、判らなかったザマス!
 だから皆で捕まえて連れて来たザマス!」

 話しているうちに、当時の怒りを思い出したのだろうか。
 ジュリアーノは額に青筋を浮かべ、ツバを飛ばしながら声を荒げる。
 だがとしあきは、その発言に何か引っかかるものを感じた。

「そいつは、実装ちゃんがウンチを漏らしただけで“叩いた”ザマス!
 丸めた新聞紙で! もおぉぉおお、そんなもの実装ちゃんの柔肌には危険すぎる凶器ザマス!
 しかも、しかもザマス!
 お漏らしパンツを自分で脱がせて、あろうことか! ウンチを自分で捨てさせたザマス!
 信じられないことザマス!
 飼い主どころか、人間として失格ザマス!」

 後ろの別な黒服が、「その上洗濯まで自分でさせたんですよ」と補足する。
 それが、ジュリアーノを益々ヒートさせた。

「実装ちゃんは、ちっちゃくて愛らしい、人間に優しい夢を届ける妖精ちゃんザマス!
 ワターシ達が優しく保護して護ってお世話してあげないと、生きていけない儚い存在ザマス!
 それを! それを! あ゛〜〜ムカつくザマス!
 人間とは思えない残虐非道な行い! 絶対にこいつは“実を葬”の手先に決まってるザマスッ!!!」

 ジュリアーノのくどすぎる演説に、背後の黒服達が拍手しながら「その通りです」と褒め称える。
 だが、よく聞くとデスデス♪ という鳴き声まで含まれている。
 今まで気付かなかったが、よく見ると黒服達の足元には、同様の格好をさせられた実装石とおぼしき者達がひしめいていた。

「待っていろザマス!
 お前もあいつらと同じ目に遭わせてやるザマス!
 じっくり時間をかけて、生きたままバラバラに切り刻んでやるザマス!
 虐待派の血族は虐待派! お前も“実を葬”の手先に決まってるザマース!!
 奴らの本拠地を聞き出してやるザマスーッ!!」

 だんだん興奮度合いがエスカレートしているようで、もはやジュリアーノは正気を失っている。
 口元には泡が浮かび、目も血走って肌も充血している。

「連れて行けザマス!
 身内が処刑される様が見られるように、その脇の箱に閉じ込めておけザマス!」

「はっ!」

 ジュリアーノに命令され、黒服の男はとしあきを連行していった。

「放せぇ! ふざけんな畜生! この愛護ババァ! 絶対に許さないぞおぉぉっ!!」

 としあきの怒りの叫びが、広間に木霊する。
 だが、木霊しただけで、何も変化はない。

 1メートル半四方程度の狭い鉄格子の箱に無理やり押し込められたとしあきは、そのまま広間の一角に放置されてしまった。




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