「テチ……テテテテ〜、テチィ♪」 今日も今日とて幸せそうな仔実装です。彼女を取り巻く環境は 決して良いことはないのですが、彼女は幸せで、そして元気です。 いい仔な彼女ですが、実はちょっぴりおませで悪い仔さんなので す。彼女はお母さんの言いつけを破りハウスの外に出てきてしま いました。 「テェ」 ハウスの中から見えた空は大きくて、真っ青でした。仔実装は 思います。 「オソラがあんなに青いから、こんなにもサムいんテチ」 見上げるだけで落下してしまいそうな突き抜けるように青い空。 彼女は、難しい事はわかりませんでしたが青さと寒さを連想して 考える事はできるようです。 「ママが戻らないウチにアソびいくテチ♪」 その行動がいかに悲惨な結末を招くか……。彼女がこの冬に生 まれた仔実装でなければ、きっと学んでいたでしょうが、彼女は まだ幼く、姉妹もいなかったので「外の恐怖」はお母さんから学 ぶしかなかったのですが。 「外には『ニンゲン』という山のようにデカイ怪物がいるデス」 だとか。 「ママ以外のオトナは、みんなちびちゃんを食べようとするデス。 近寄っちゃダメデス」 であるとか。 「公園の外には怪物(ニンゲン)の作った要塞があるデス。ワタ シたちのハウスとは比べモンになんない硬いハウスなんデス。そ こに連れていってあげると言われても、ゼッタイついていったら ダメデス。殺されるデス」 ……などなど。そんな言葉を。 「チププププ……ママは嘘がヘタテチィ」 彼女はいい仔を装いながら、その実小ばかにしていたのでした。 そう。仔実装は隠れ糞蟲だったのです。よい仔を演じるだけの知 性を持ちながらも糞蟲に堕した彼女こそ、ある意味では真の糞蟲 なのかもしれませんね。 「ま、でも許すテチ。ママにはしばらく役に立ってもらうヒツヨ ウがあるテチからね……♪」 仔実装の脳裏には、最終的に母親を奴隷として飼育し、自分の 美の下僕にする妄想が渦巻いていました。そして、にやにや笑い ながら母親がお願いだから総排泄口をなめさせてくれと言って懇 願してきた所まで妄想していた時。 「お、実装石」 「テ?」 ひょい、と体が空を飛びました。 (テテテテ!!? ワタチ、実超石として覚醒したテチィ!?) そんなワケありません。 「野良にしちゃ小奇麗だな」 優しげな黒い双眸。艶やかに輝く短い黒髪。少し日に焼けて浅 黒い、黒砂糖のような肌。 「テ……」 つまみあげられ、その目前に供されるようにして現れた『顔』 その美しさに、仔実装は見ほれました。 「ニンゲン、さん、テチィ……?」 そして、実物を想像できる形で教わっていなかったにも関わら ず、彼女はその生物を「ニンゲン」と認識しました。本能なのか もしれませんね。 「ははは、なんだ『ニンゲンさん』を見るのは初めてか? まだ 生まれて間がないんだな。お前、母さんの言いつけ破ったな〜?」 にっ、と口の端を歪めて笑う少年のような笑顔にドギマギしな がらも、真実を言い当てられた彼女は泡を食って。 「テテテテテテテテ!!!? ななな、なんでわかるテチィ!?」 ニンゲンはまた「ははは」と笑って。 「そりゃわかるさ、『みんな同じことを』教えるんだからな」 「テチィ……すごいテチ。ニンゲンさん、ママみたいテチ!」 仔実装は、わからないなりに本性を見せてはまずいと悟り、即 座によい仔モードへと移行し、相手を盛り上げる作戦に出ました。 しかし、仔実装は知らないのです。みんな同じことを教える。そ う告げたニンゲンの言葉の真意を。 「ははは、そうかそうか。さあて、どうしよっかな」 言いながら、ニンゲンは歩き出しました。よく見れば、その顔 にこびりついている笑顔が恐ろしいものに変化していると知れた はずなのですが、仔実装の一瞬で恋に落ちた小さなハートには、 優しげなものにしか見えなかったのです。しかし、次第にニンゲ ンの足が公園の外に向かっていくことに気付いた仔実装は、よう やくニンゲンに問いかけました。 「ニ、ニンゲンさん。どこ行くテチィ?」 「ん、俺ン家」 「か、飼い実装……? ワタチ、飼い実装になれるテチ!?」 「あー、うん。そうだな。まぁ、飼い実装だな。そう、飼い実装 にしてやろうと思って」 ぱぁっと、仔実装の前に道が拡がっていきます。仔実装の目は 確かにそれを捉えました。ニンゲンが歩く足の下から睡蓮の花が 咲き誇り、公園の出口まで道に多数の成体実装がコンシェルジュ スタイルで『礼』の道を作る姿が。 (か、か、か、か、カミサマテチィィィィ!! このニンゲンは カミサマテチィィィィィィ!!!!) 無論妄想なのですが。しかし、彼女の『目にだけ』はその情景 が消えることなく刻まれ続けていたのでした。仔実装の口からは 知らず知らずのうちによだれが溢れ、今にもこぼれそうなほどで した。 それをじゅるりと吸い上げ、なるべく可愛さを演出しながら仔 実装はニンゲンをジッと見つめて。 「テチィ♪」 右手を頬に当て、小首を傾げるポーズ。仔実装うまれて初めて の媚びでした。お母さんに「恥ずかしいからやっちゃいけない事 デス」と教わっていたのに、彼女はやってしまいました。この姿 勢は普通ニンゲンにはあまり喜ばれません。近年では愛護派でも 時折嫌な顔をすると言います。しかし。 「ははは、かわいいかわいい」 親指の腹で仔実装の小さな頭を軽く撫でてきました。仔実装は これで完全に覚醒してしまいました。そう……。 (勝ったァ! テチィ!!) 糞蟲に……。 「うんうん」 それを知ってか知らずか、ニンゲンは口元だけを歪める嫌な笑 顔で応えます。その時でした。 ぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふ……。 硬めのスポンジが全力疾走したらこんな音がするでしょうか? いえ、違いました。これは成体実装が全力疾走したらこんな音が するのでしょうか? と例えるべきでした。そう、この音は。 「ま、待つっデッスァァァァ!!!!」 小枝を片手に勇気を振り絞り突進してくる成体実装。彼女こそ いい仔のお母さん実装石です。その目には恐怖と狂気がない交ぜ になったような光が灯っています。 「ぁん?」 仔実装を持った手を脇にやりながら、ニンゲンは笑顔を崩して やぶ睨みにお母さん実装を見下ろしました。その表情には優しさ の演技さえありません。このニンゲンは仔実装専門なのです。 「ばばあに用はねえよ」 「そそそんそ、そっちに用地がなくてもこっちにはあるデス!」 「漢字間違(バグ)ってンぞ、カス蟲が」 リンガルを介して会話しているので、実装石が混乱していると 時々会話に誤字が混ざる事があります。これは特定の会社で販売 されているリンガルの初期バグで、PC経由でパッチを入手すれ ば修正可能なのですが、このバグは状況によっては相手となって いる実装石の状態を『想像』できるために意図的にバグを残して 使用しているユーザーや、あえてバグを復活させるユーザーが沢 山いるようです。 「はは、離せッ! デスッ! うちの仔を返すデス!!!」 お母さん実装は手にした小枝でニンゲンの弁慶の泣き所を狙お うとします。しかし、元より物を持つのが極端に苦手な彼女らは 小さな枝と書いてコエダと読む、ほんの10cmほどの小枝でも 両手で保持し、全身を使って振る必要があります。ある程度戦闘 訓練を受けた実装石ならば、そもそも自分の体長の三分の一ほど もある大きな得物を用いたりはしないのですが、素人ほど長得物 を持ちたがる傾向は人間も実装石もどうやら同じようですね。 ぶんぶん、大振りに振りますがニンゲンはと言えば半歩下がる だけで全て回避可能なのでまともに相手をする気もないようです。 (チププププッ!!! あれがママテチ!? ママの限界テチィ ィィ!!? ダッセェボケテチ! そうテチ、カステチ! ママ はダッセェカス蟲テチ! チププププププププ!!!!) 仔実装は笑みをかき消し、瞳の奥で嘲笑していました。 「その、仔を、返せッ! デスァ!」 ぶんっ。より大きな一撃が地面を穿ち、枝が半ばから折れてし まいました。 「ちっ」 ニンゲンは執拗なお母さん実装の攻撃に、わずかに怯みを見せ ます。それは別にお母さん実装を恐れたのではなく、周囲に見え た別のニンゲンの影にでした。別のニンゲンの手には『徳用』と 印字された大きな実装フード袋がありました。公園にわざわざそ んなものを買ってやってくるのは、基本的に愛護派だけです。近 年またもや愛護ブームが巻き起こっており、それに乗った俄か愛 護派が公園にも増えていました。俄か愛護派の連中で恐ろしいの は本人は長年実装石を愛護してきている愛ある存在で、自分たち が実装石を守らないとなどと本気で考えている事です。俄か愛護 派はごく常識的な愛護派とは違い、害をなした実装石の駆除にす ら反対し、抗議デモを起こしたりします。ニンゲンはそういった 人種に関わる愚かさを知っていたので、脱兎の如く駆け出して公 園の出口までやってくると、仔実装を公園を覆うブロック塀の門 柱になっているところにさっと乗せてそのまま走り去ってしまい ました。 「テ?」 そうなると、現実に戻るしかない仔実装です。走り去るニンゲ ンの足には薄汚れた赤いスニーカーがくっついているだけで、睡 蓮の花が咲き誇る事はありませんでした。 ひゅおぉぉぉぅぅ……。 「テェェェェ!!?」 季節は冬。軽い強風でも仔実装の体を煽るには十分です。スカ ートがまくれ、黄ばんだ下着があらわになりますが、それを構う 余裕はありません。あるいは服を脱ぎ捨てればまだ耐えられるか もしれませんが、当然そんな事を考える余裕もないですね。 「ちびちゃあああああああああああああん!!!!」 両頬をおさえる「デギャア!!?」ポーズでお母さん実装は愛 する仔の姿を見ています。ブロック塀は低くなっているところで も1m以上あります。体長30cm強の成体実装には高すぎる場 所でした。 「テェェェェン! マ、ママァァ!! お、ち、おち、オチるテ チャァァァァァァァァ!!!!!」 ブリリリリリリィィ! ブリィ! ブリリリリィ! 猛烈な排 便の音が聞こえてきます。結果的にはこの軟便が重石となり彼女 を支える格好になりました。 「落ち着くデス! ちびちゃ! 落ち着くデッスァァァ!!!」 身振り手振りでも落ち着け落ち着けと訴えるお母さん実装でし たが、紛れもなく彼女が一番落ち着いていませんでした。遠巻き に別の実装石一家がにやにや笑って彼女たち親仔を見ていました。 襲われないのは餌が無限に供給される環境だったからです。それ が幸いし、お母さん実装には我が子救出作戦を立案する時間が与 えられました。 「マママァァァ!!! ハ、ハヤク助けテチィィ!! ウンチで オシリかぶれるテチィィィィィ!!!」 ブロック塀におしりをぐりぐり押し付けながら、仔実装が叫び ます。 「はわわわわわデス……ああああ、あのコの綺麗なおしりがァァ ハ、ハヤク、はやく何か考えないとデスァァァァァ……はっ」 しかし、泡食っているときにろくな考えなど出ないものです。 これは人間も実装石も同じでしょう。まぁ、程度の差はあるよう ですが。 お母さん実装の目に先ほど折れた小枝が見えました。そうだ。 枝を使って下ろしてあげればいい! 即断即決。お母さん実装は 折れた枝を手にして持ち上げます。 「デベっ」 完全に折れきっていなかった枝先が曲がって目に刺さりました。 「デギャアアアアアアアア!!?」 ごろんごろんと転がって痛みに耐えるお母さん実装ですが、仔 の目は次第に冷たくなっていきます。 (……バカテチ) しばしして、ハァハァと荒い息をつきながら緑色のほうの目か らぼたぼたと出血しつつお母さん実装は立ち上がりました。片目 は死んでいますが、別の意味でまだ目は死んでいません。 「ちびちゃああああああああああん! ジッとしてるデスよ! ママがナイスアイデアを思いついたデス!」 痛みがどうやら彼女を冷静にさせたようですね。お母さん実装 は少し離れた場所に落ちている小枝のところまで走り先ほど手に していた折れる前の小枝よりも長い枝を拾ってブロック塀に立て かけます。そして、その枝を跨ぐようにしてお母さん実装はブロ ック塀に飛びつきました。枝を脚立代わりにしてよじ登ろうとい う作戦のようです。しかし敢えて言うのもなんですが、明らかに 目測を誤っており、仮に枝の一番上まで足を乗せられたとしても まだ20cm以上も高さが足りません。 「デェェ……!! ワタシはッ、あのコを守るデスゥゥ……!」 まだ少し冷静さが足りないようです。いえ、ヒートアップして しまったのかもしれません。 「よっはっ、たっ、はっ! デス!」 その情熱ゆえか、愛ゆえにか、お母さん実装は一気に枝の一番 上まで上りきり、べちゃりとブロック塀にまで張り付きました。 目から流れる緑の血液と汗とでべとべとの体は上手く壁面に張り ついてくれましたが……。 「デググ……う、動けんデス」 当たり前です。つま先を必死に枝に押し付けていますが、枝自 体何かで固定しているわけでもなく、常に不安定にブロック塀に 寄り添っているだけです。ゆえに、あんまり上で踏ん張っている と……。 ずるり。 滑りますね。そしてお母さん実装は思わず足を開いてしまいま した。或いはブロック塀の上に飛びつこうとしたのかもしれませ んが、言うまでもなく無駄でした。体は1mmたりとも上へは行 かず踏みしめていた枝の上へと大股を広げ落下し。 「デ——デッスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン♪」 貫通。下着を打ち抜き、総排泄口を極限まで穿ってお母さん実 装を絶頂に導きました。久しぶりの快感にお母さん実装はついに 女の悲鳴を上げて——気絶してしまいました。 こてん。 と、転げたお母さん実装。それを見る仔実装の目はまるっきり 相手をバカにして見下ろす目……ではなく。 「テ、テチャアアアアアアアアアア!?」 意外にも驚きでした。彼女もまたお母さん実装が冷静になった 時に冷静になっていました。そして、割ときちんと回る頭で自分 のおかれた状況を鑑みてみると。 (ワタチだけじゃ降りれないテチ!) あっさりとこの結論に至り、お母さん実装を頼りにしていたの ですね。その母の妙計も簡単に折れ、肝心の母は総排泄口を枝で 犯され?て絶頂してしまって……。 「バカテチャァァァァァァァァァァァァァァ!!!」 これは母をバカにする叫びではなく、最早悲鳴と言って差し支 えないものだった。 「テヂャアアアアアアアアァァアァ!!! ママァ!! ママ! ママァァァ!! ハヤク起きるテチャアアア!!」 悲痛な仔実装の叫びとは裏腹に、お母さん実装はといえば。 「デッスゥ〜ン♪ はふぅんデスゥ〜ン♪」 夢見心地なんですよね。ぴくんぴくんと四肢を蠢かせ、未だ総 排泄口に突き刺さった枝で快楽を得ているようです。 「テグググ……テググググ……テ、テシャアアアア!!! ママ なにやってるテチャアアアアア!!! ハヤク起きろテチャ!」 再び仔実装にお母さん実装への侮蔑の心が目覚めたようです。 「ボケェェ! ボケママァ! さっさと目をさましてワタチをこ のキュウチから救えテチャア! ボケママァァ! コラァ! な にイッてやがるテチィィィ!!! さっさと起きろテチャァァァ ゴラァァァァァ!!!」 地団駄を踏み、おしりに詰まった便を掬って気を失っているお 母さん実装に向かって投糞を行う仔実装。それは一発もかすりも しなかったが、血涙を流し歯牙を剥いて吼え猛る姿は醜い限りで す。 「あああああああああああああああああ!!! 起きないならそ のまま死ねボケェテチャァァァ!!! オマエはやっぱりニンゲ ンさんの言うようにカス蟲テシャァ!! アタマのおかしいボケ カス蟲テチャァァァァ!!! さっさと起きろッテチャァァ!」 少し離れた場所で……。 「ん……?」 実装リンガルをオンにするなり、そこにいた老人の耳にその声 が響いてきた。長らく、そう、かつての世界大戦時実装石を食料 として見てきた時代から実装石と付き合い続け、今は愛護派とな った老人の耳にその声は響いていた。 「ボケェェ! ボケママァ! さっさと目をさましてワタチをこ のキュウチから救えテチャア! ボケママァァ! コラァ! な にイッてやがるテチィィィ!!! さっさと起きろテチャァァァ ゴラァァァァァ!!!」 つい眉をひそめてしまうような叫び。 (随分混乱しているようだが……) 仔実装の声なのはわかる。老人はその声の聞こえるほうに向か ってゆっくりと歩き出した。骨が少し脆い老人の歩みはあまりは やくない。人間を奴隷としてしか見ていない実装石からは完全に ナメられており、餌を等配分しなかった(と主張する後発組の) 実装石の一家に向うずねをかじられて怪我をしたこともある。そ れでも愛護派で居続けられた老人だが、愛護派ゆえに譲れない一 線もあった。 そっと顔だけで仔実装がいる場所を見やる。そこは公園の出入 り口にあるブロック塀の上だった。門柱のように一箇所だけ小高 くなっている不安定な場所に仔実装が大量の便を撒き散らしなが ら放置されている。猛烈な臭気。何より強烈な視覚イメージが人 目を引きそうなものだったが、なんの偶然か付近にいるのは老人 だけのようだった。 (ふむ、どこぞの悪戯小僧に乗せられたな) その仔実装の足元には股間に小枝を突き刺したまま気を失って いる成体実装。 「ボケェ、ボケママァ! さっさと起きろってメイレイしてるの がわからんテチかァ! ボケママカスママはワタチのメイレイだ け聞いてればイイんテチ! コーフクなんテチ! さっさとワタ チをここからキュウシュツしろって——言ってンだろうがボケク ソボケカスママがァァァァ!! さっさとしろカスママァァ!! たすけろたすけろたすけろたすけろォォォテチャァァ!!!」 やはり眉をひそめるような光景だった。足元の成体実装は、彼 女なりに——足りない頭なりに——仔を助けようと必死だっただ ろうに。仔はそんな母をボケだカスだと喚いて貶して、とんだク ソ蟲だ。 老人は、決めてしまえば意外に素早かった。少々動きが鈍いと は言ってもあくまで人間レベルでの話し。つかつかと仔実装に歩 み寄り、野獣のように叫び散らす仔実装の頭をむんずと掴むと。 「ふんっ」 一気に脳みそを絞りだしてしまった。完全に潰さないのは、老 人なりのやり方だった。 「ホジィ」 仔実装の悲鳴も短い。老人はそっと仔を成体実装の傍らに置く と俄か愛護派の人間に気付かれまいとそそくさと歩き出した。老 人のやり方……それは糞蟲を処分できない優しい親から「糞蟲」 を処分してしまうという事だった。それも完全に殺すのではなく 脳を搾り出して白痴実装にして親元に残すというやり方だ。こう したほうが結局は双方幸せになれることを老人は知っていた。 「幸せになれよ」 その目にはいささかの後悔もないようだった。 そして、しばしして。 「デ……」 ぐぐぐ、と体を起こし股間に刺さったままの枝を抜いて一息つ くお母さん実装。 「デェ、ワタシ……なにをしてたんデス?」 ぶんぶんと頭を振って——視線の端にそれを見つけてしまいま した。 「ホジィ、ホチャ……テェ」 鼻から汁を垂らし、口からは止め処なくよだれが溢れ返り、目 は虚空を見つめています。 「デ」 それは、脳を抜かれた仔実装でした。 「ホジィ?」 虚空を見る目がお母さん実装のほうを向きます。しかし、その 目やはり虚空を見ていて、お母さん実装を見てはいないようでし た。 「デ、デ……デギャアアアアアアアアアアア!!!! なななな なにがあったデシャアアアアアアアアア!!!?? おおおおお おま、おまえどうしたデッスァァァァ!!??」 お母さん実装の目から見ても、明らかにそれは脳を抜かれた我 が仔でしたが、問いかけずにはおれません。 「そ、そんな、あわわわデス……これは、悪い夢デス……」 がたがたとお母さん実装が震えます。 「なんで、こんないい仔が、こんな……デェェ……」 そう、仔実装はお母さん実装に「糞蟲」面は一度も見せていな いのです。 「悪い夢、わるいゆ、め……なんデス、デ、デス、デ、デ……デ デギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」 「ホジィ♪」 世の中というのは、意外と知らないほうがいいことも多いのか も知れませんね。 おわり
