猫の集会場というのがある。 街の適当な空き地に、その辺りに住んでいる猫が集まってなにやら話合うというもの。 猫なので人間のように会議をしているわけではないが、何かしら挨拶のようなことを行っ ているのだろう。 飼い薔薇実装の紫電はふわふわと浮かんだまま、神社の境内を進んでいく。 弐地浦市双葉町の端にある大きな神社。かなり古い歴史があるようだが、それは紫電の 知ることではなかった。本殿の後ろにある、神社の面積の半分以上を占める森は、町中に ありながらも別世界のように神秘的で静かな空気をたたえている。 リュックを背負った紫電は、本殿を通り過ぎてから、裏手の森へと入っていく。 鬱蒼とした広葉樹の森。その中を迷路状に組まれた木の柵と、その柵を覆うように植え られた棘のある灌木。その迷路は、侵入者を阻み、奥まで行けるものだけを通すフィルタ ーとして働いていた。 迷路を抜けた先に、その広場はあった。 広場といっても、六畳間くらいの広場の小さな芝生。だが、身長四十センチほどの実装 種にとっては、それなりの広場だった。迷路の出口の正面には、小さな社が置いてある。 何を祭ったものかは、紫電は知らない。 一度足を止め、横を見る。 「お久しぶりデス、ムラサキさん」 「コンニチハ……。長老サン……」 声を掛けてきた実装石に、紫電は挨拶を返した。 広場入り口の隣にある角張った石。そこに座った実装石。しわの刻まれた顔、髪も服も 無く、身体に緑色の風呂敷をマントのように身体に巻き付けている。右手には杖代わりの 長い木の棒を持っていた。十年以上生きている非常に賢い野良実装石、通称長老。実超石 とも呼ばれる突然変異種でもある。 「こんにちはテス」 その横に控えている中実装。実装服は着ているが、頭巾は無く髪も無い。曰く、世俗と 縁を切り修行を行うため。長老の娘の実超石だった。中実装ではあるが、もう二年も生き ている。正確には、二年経ってもまだ中実装だ。実超石の成長は遅い。 この親娘は、この広場で実超石としての修行を続けていた。 「オミヤゲ……」 紫電はリュックから取り出した金平糖を中実装に渡した。 「ありがたく頂くテス」 礼儀正しく金平糖を受け取り、頭を下げる中実装。 多少実装石についての知識があるなら、本当に実装石かと疑うような姿だった。幸い、 ここに人間が入り込むことはない。 「いつもありがとうデス」 「気ニシナイデ……」 頭を下げる長老にそう返してから、紫電は目を移した。 広場に響くのは、安らかなバイオリンの音色と、実装燈の歌声。 広場の左手にある、木の台。そのステージに立ってバイオリンを弾いている実装金と、 きれいな歌声を響かせている実装燈の姉妹。三匹ともが野良で名前は無い。古くからの知 合いらしく、三匹の奏でる音色は見事な調和を見せていた。 三匹が紫電に気づき、軽く会釈をしてくる。 「コンニチハ……」 紫電も応じるように頭を下げた。 それを聞いているのは、実蒼石が一匹。シルクハットに『交通安全』と記されたハチマ キを着けていた。実装金たちの会釈に気づいて振り向いてくる。 「紫電さん、こんにちにはボクゥ。また、ハサミ術を教えて欲しいボクゥ」 右手を上げて嬉しそうに言ってきた。アオゾラと呼ばれる実蒼石。 紫電は槍術と剣術を混ぜたような槍術を、アオゾラに教えていた。おおむね好評で、ア オゾラも自分が強くなったと喜んでいる。 「アオゾラさん、静かにするデス。演奏中デス」 その横で丸くなって、演奏に聞い入っている獣装石。実装服は着ていない。全身を包む 獣毛の上からも、頑丈そうな肉体が見て取れた。覚醒獣装石。こちらも『交通安全』と書 かれた大きな白黒の首輪を巻いている。 皆からはビースと呼ばれている。 「ごめんボクゥ」 頭を掻くアオゾラ。 実蒼石アオゾラと獣装石ビースは、騎獣実蒼石と言われるコンビだった。 覚醒した獣装石に跨り、長いハサミをランスのように操る実蒼石。 双葉駅前の交番の裏手にに宿を借りていて、近所にある双葉小学校に登下校をする小学 生を見守ることを主な仕事としている。その報酬として交番の警官や小学生たちから餌な どを貰っていた。 大抵は町中を歩きつつ交通安全の旗を振っているが、野良実装石に襲われた子供を助け たり、迷子の子供を交番に届けたり、草刈りなどを行ったりと色々と働き者だ。そして、 今までに二度通学路に出た不審者を撃退したことがあり、交通事故に遭いそうになった子 供を身を挺して守ったという実績もある。地方紙に載るほどの有名なコンビだった。 ゆっくりと紫電は眼を移す。広場の右手へと。 「ワシたちの言い伝えによると……実装石とは伝説のカオス実装から作られた、実装種の プロトタイプにして初期不良作だそうデス。しかし、不良品故に色々な意味で色々な個性 があり、人間から構って貰えるデス」 そう語っているのは、ガタイのいい隻眼のマラ実装石だった。 腹にサラシを巻き、鞘に納められたステンレス製キッチンナイフを差している。眼を縦 に通る傷を含め、露出している肌には傷跡が目立った。二年前に神社に忍び込んだ泥棒を 撃退した時にできたものらしい。 この神社の隣にある公園の実装石のボス。カシラと呼ばれている。さながら極道の親分 のような外見なので、滅多に人前に出ることはない。 「だが、キミら実翠石は実装石の不良要素を非実装した存在デス。あまりに『イイ子』す ぎて、逆に人間にとって無個性なものになってしまっているデス。良すぎてもあんまり良 い結果に繋がらないこともあるのデス」 「カシラさんの言うことは、難しいですぅ」 それを聞いているのは、飼い実翠石の翡翠だった。芝生に座って、首を傾げている。 「ワシの説教は、若い子には難しいかもしれんデスゥ。デッハハ」 腕組みをしながら、カシラが豪快に笑う。 本能的に憎悪を向ける実翠石に、親しげに難しげな事を話しかけるマラ実装。日本中探 しても、そう見られる光景では無いのは確実である。 翡翠が紫電の姿に気づいた。 「あら、紫電さん、こんにちはですぅ」 「紫電、来てたデスカ。景気はどうデスゥ?」 挨拶してくる、二匹に紫電は少し考えてから月並みな答えを返す。 「ボチボチ……」 「平穏なのはいいことデス」 大仰に頷くカシラ。 紫電はふわふわと芝生を横切り、社の傍らにいる実装紅へと近づく。人間の持つ手帳を 抱え、目を閉じていた。だが、眠っているわけではない。 「コンニチハ、紅姫……」 「久しぶりなのダワ、紫電。元気そうでなによりダワ」 紫電の言葉に、閉じていた目を開き、そう答える。紅姫という名前の実装紅。元は飼い 実装紅だったらしいが、自分の過去を話すことはない。 「コレ、オミヤゲ……」 紫電がリュックから取り出したのは、缶入りの紅茶葉だった。家主さんがその場の雰囲 気で買って、数回飲んで飽きてしまい放置。何度となくそれを繰り返している。おかげで、 紅姫へのお土産には困らなかった。 「ありがとうなのダワ。この紅茶はあとで美味しく頂くのダワ。本当に、あなたは優しい 薔薇実装なのダワ。そうそう、これはいつものお礼なのダワ」 と差し出してくる手帳。 紫電はその手帳を受け取った。 「アリガトウ……」 「紫電、こんにちはナノー」 紅姫の傍らでうつ伏せに寝転がっている実装雛。長老と並んでこの広場の主と言われて いる。理由はいつでもここに寝転んでいるから。というか、立っている姿を見たことがな く、いつものそのそと這っている移動している。 紫電はリュックから小箱を取り出し、その中の氷砂糖を実装雛の口に入れた。 「ありがとうナノー」 嬉しそうに笑い、氷砂糖を味わう。 紫電はその場に腰を下ろした。 実装金と実装燈姉妹の演奏が終わる。 「紫電さん、ワタシの曲はどうだったかカシラ?」 バイオリンの弓を動かしながら、そう訊いてくる。この実装金は色々な曲を知っている。 人間に貰った楽譜を暗記して、その数十曲をマスターしていた。専門の教育を受けた実装 金でも難しいことである。 「素敵ダッタ……」 「当然カシラ」 得意げに胸を反らす、実装金。 その周りをくるくると飛びながら、実装燈姉妹が声を上げる。 「新しい歌を作ったルト」 「聞いて欲しいルト」 「ジャア、ソレヲオ願イ……」 その言葉に、紫電は素直に答えた。 「分かったルトー」 「頑張るルトー」 「じゃあ、始めるカシラー」 そうして、実装金のバイオリンと実装燈の歌声が始まる。 始まった演奏を聴きながら、紫電は氷砂糖を口に含み、手帳を開いた。 手帳には風景画が画かれている。この絵は、紅姫が描いたものだった。詳しいことは誰 も知らないが、紅姫は実装紅の特性を利用して植物からの色素を取り出す技術を持ってい る。その色素を用いて画かれたものだった。 人間の創作物を食べる突然変異の薔薇実装、紫電。人間の創作物が主食だが、創作物な ら実装生物の創作物でも食べられる。もっとも、創作活動の可能な実装生物は極めて少な いので、味わう機会もない。 紅姫の絵、実装金と実装燈姉妹の歌、これらは立派な創作物であり、紫電にとっては珍 しくも美味しいご馳走である。 「ワタシ、シアワセ……」 歌と絵を食べながら、紫電は至福の呟きを漏らした。 優しい薔薇実装、実超石親娘、音楽家の実装金と実装燈姉妹、実蒼石と獣装石騎獣コン ビ、師弟のようなマラ実装と実翠石、孤高の画家の実装紅、存在自体珍しい実装雛。 それらが小さな芝生で、ほのぼのとした団欒を繰り広げている。 知識ある観察派が見れば、その希少性に鼻血を吹き出すほどの風景だった。 この広場に集う者は、誰が言い出したか社交界と呼ばれている。参加条件は主にふたつ。 飼い野良問わず、極めて高い知能を持つ実装種であること。そして、ある程度自由に単独 での行動が可能な者。今この場にいる者も含めて、全員で二十二匹いる。社交界に参加で きるほどの実装であることが分かると、どこからともなく誘いが行くのだった。 紫電は、実装紅の紅姫に誘われ、この社交界に参加するようになった。 始まりは三十年ほど前だった。先々々代の長老実超石と、先代の神主が作り上げたもの である。しかし、初代長老実超石も先代の神主もこの世を去り、この社交場の詳細を知る 者はいなくなっていた。 現在の神主は、この社交場の存在を知っているが、生け垣の手入れなど以外は、基本的 に不干渉を貫くつもりのようだった。その神主が、ガチの観察派であることは——かなり 有名だった。具体的に言うと、神主が運営する実装観察サイトが一日3000hit越えを叩き 出すくらいに。 もっとも、森の奥のことは誰にも教えたことはないが。 実装種の平和というものを絵に描いたような社交界。 だが、いつまでも平和であるわけではない。 災厄というものは、突然やってくる。 「カワ……?」 紫電は読んでいた手帳から目を放し、視線を持ち上げた。 空気が変わった。 何がどう、というわけではない。だが、先天的超戦闘実装種である薔薇実装としての本 能が、この場に起る危険を察知していた。 「どうしたのダワ? 紫電……?」 閉じていた目を開け、紅姫が訊いてくる。 「うにゅ?」 実装雛が寝転がったまま、首を傾げた。 紫電は手帳を閉じ、周囲に目を向ける。金色の瞳を大きく見開き、 「分カラナイ……。デモ、コレハ……」 そこまで言ってから、大きく息を吸い込む。数秒息を止めてから、吸い込んだ息を吐き 出した。嫌な予感はさらに強くなる。 「ボクゥ……」 「デッ」 続いて異常を感じ取ったのは、アオゾラとビースだった。戦闘系実装種である実蒼石、 覚醒した獣装石の本能が、空気に漂う殺気を感じ取っている。 アオゾラが帽子の中からハサミを取りだした。一般的な実蒼石のハサミよりも、やや細 く、長いハサミ。普段は鉄のように硬いハサミも、帽子中では布のように柔らかくなって 丸まっているという説があるが、詳細は謎である。 「どォこのアホデスゥ? こんな嫌な殺気剥き出しにしているのは——」 その場に立ち上がり、カシラがサラシに差したキッチンナイフを抜いた。さきほどまで 翡翠に語りかけていた優しげな気配は消えている。 実装金と実装燈姉妹の歌が止まった。 「どうやら、洒落にならない相手みたいボクゥ」 「アオゾラさん、覚悟は出来てるデス?」 ビースが背中に鞍とアブミを乗せ、手綱の付いたクツワを咥え、その場に四つ足になる。 その背中に飛び乗り、左手で手綱を握り、右手でハサミを構えるアオゾラ。 「無論ボク……!」 獣装石の機動力と、実蒼石の攻撃力を組み合わせた、騎獣実蒼石。獣装石は乗り物とし てだけではなく、爪や牙を用いて相手への攻撃も行う。獣装石が相手に組み付き動きを封 じ、実蒼石がハサミで攻撃というのが基本攻撃スタイルだった。 「これは……」 長老が赤緑の目を開く。 「ワタシト同ジ、薔薇実装……」 紫電は手帳を起き、紅姫と実装雛を両手で抱えて飛び上がった。 ほぼ同時に、乾いた破裂音とともに、広場の周囲を囲むように無数の紫水晶の柱が突き 出す。一瞬にして全方向の退路が奪われた。 長老の近くまで移動して紅姫と実装雛を下ろし、紫電は振り返った。 「カワイソウ……。カワイソウナ子タチ……」 音もなく、社の屋根に降りる薔薇実装。 アオゾラに目配せをされた実装金と実装燈姉妹が、長老の方へと逃げてくる。同様に、 カシラに逃げるように視線で指示された翡翠が逃げてきた。 薔薇実装はそれを見ながらも手を出さない。 「美味シソウナ子タチ。ミンナ、殺シテアゲル」 社の屋根に悠然と佇んだまま、その場の全員を見下ろしている。その余裕は、ここにい る実装たちを瞬殺できるという自信の表れだった。無論、過信や慢心などではなく、実際 に可能だからこその本当の余裕である。逃げる仔実装を見つめる虐待派の余裕と言えば分 かりやすいだろう。 「薔薇実装デスカ……。ま、相手にとって不足はないデスゥ」 並の実装石なら逃げ出すほどの殺気を放ちながら、カシラが唸る。相手が成体実蒼石で も互角以上に戦えるカシラの力は、マラ実装としても相当に高いものだろう。だが、薔薇 実装相手にはいささか——いや、完全な力不足だった。 「アオゾラさん、覚悟はできてるデス?」 「無論ボク。ビースも覚悟できてるボク? 刺し違えてでも、みんなを守るボク……」 ビースとアオゾラがそれぞれ、筋肉のバネを溜める。 薔薇実装一匹に、騎獣実蒼石とマラ実装。 実力的な差は言う間でもなかった。明らかな力不足。だが、三匹に引く気は無かった。 なまじ賢いだけに、パニックに陥って殺されるという選択肢は取れない。 「長老サン、杖借リル……」 紫電は素早く長老の杖を奪い取った。 直径一センチ、長さ四十センチほどのまっすぐな丸棒。元はホームセンターなどに売っ ている工作木材の切れ端だった。 「ムラサキさん、何する気デス? あなたは、自分でも弱いと言っているのにデスゥ」 長老の心配は最もだった。自分は弱い。普通の薔薇実装に挑んでも、およそ勝ち目は無 い。だが、だからこそ勝つ方法を考えることができる。 紫電は左目の眼帯を取った。 薔薇実装の眼帯。取ったからといって強くなるような、そんな都合のいい仕組みは無い。 だが、眼帯の下の左目は普通に見える。片目で見るよりも両目で見る方が、ものの動きや 立体感ははっきりと捉えることができる。 逆を言えば、眼帯を取ってもその程度でしかない。 「切リ札ハアル……」 紫電は薔薇実装服の裾裏から小さな針を取り出した。 長さ二センチほどの白い水晶針。それが何であるか、紫電以外に知る者はいない。紫電 自身も使いたくはないと思っていた、危険な切り札である。丸棒の尖端に刺し、そこを透 明な水晶で覆い、抜けないように保護する。 それから棒をひっくり返し、その先端に密度の高い水晶の穂先を作り始めた。 薔薇実装が自分に殺気を向けている三匹を見つめ、 「サア、カカッテ来ナサイ……。優シク、殺シテアゲル……」 「行くデシャアアア!」 カシラの叫びと同時、凄まじい勢いでそそり立つマラ。そして、その先端から発射され る大量の精液。一瞬で相手の顔面に精液を叩き付ける、カシラの必殺技だった。白液弾。 かつて、この技で神社に忍び込んだ泥棒の目を潰した技でもある。 無音のまま飛び出す獣装石。 カシラの目潰しを囮に、刺し違え覚悟の特攻だった。 「アァ。カワイソウ……」 芝生を走る薔薇実装のエネルギー。それは一瞬で固まり、何十本もの巨大な紫水晶を生 み出す。澄んだ破裂音とともに地面から伸びた紫水晶が、アオゾラとビースを、カシラを 一撃で吹っ飛ばした。 無論、精液の目潰しは躱されている。 一度空中を舞い、芝生に落ちる三匹。 それでも、執念で立ち上がってみせた。 「実装石なめんなデスァ!」 「まだまだ、戦えるボク……」 「絶対に負けないデス」 絶望的なまでにの実力差だというのに、闘志を燃やす三匹。 だが、薔薇実装は困惑していた。瞬きをして、首を傾げる。 「オカシイ……? オカシイ……? 何デ?」 そもそも、この三匹が生きていること自体が変だった。薔薇水晶の作り出す水晶槍。そ の破壊力は、鋼の刃物と大差無いのである。三匹が咄嗟に防御するのは見えていた。本来 なら、その防御ごと三匹を貫通しているはずなのだ。 三匹を撃った水晶が砕けているのも、不自然なことだった。 「何デ……?」 薔薇水晶は生きている三匹と、砕けた水晶を何度も見つめ思考を空回りさせていた。自 分の攻撃が、弱くなっている……? それには気づかず、カシラたちが再び攻撃に移った。 「デアアァァ!」 「ボックゥゥ!」 「デスゥゥゥ!」 「カワイソウ……」 思考を切り替え、薔薇実装が攻撃態勢を取る。 その瞬間。 薔薇実装の身体に水晶針が突き刺さった。両手両足と胴体に、合計七本の水晶針。放た れた針は十二本。残り五本は標的を外れ、背後の水晶に当って砕けている。 「カ……!」 見開かれた金色の目が捉えたのは、紫電だった。 全身を覆うような紫水晶の鎧を纏い、紫水晶の穂先と石突きを持つ槍を持っている。人 間が見れば、クリスタルランス装備、クリスタルメイル装備とでも呼ぶかもしれない。空 中を滑るように飛び、両手で持った槍を思い切り振りかぶった。 遅い……。 そう判断した薔薇実装は、攻撃を躱そうとして——自分の身体が異様に重いことに気づ いた。手足が鉛のように重く、思うように動かない。『動くな』という命令の込められた、 紫電の水晶針の効果だった。頭に刺さらずとも、身体に何本も刺さればある程度の効果は あるのである。 ただし、あくまでもある程度。 振り下ろされた槍を、薔薇実装の腕が受け止めた。 だが、その重さを捌ききれず、薔薇実装は社から落ちる。 右腕を負傷しつつ、一度距離を置くように飛び上がろうとして——飛べないことに気づ き、両足で地面に着地する。 「同族、イタノ……?」 「ワタシハ、突然変異ノ薔薇実装……。アナタホド強クナイ。デモ、負ケナイ」 紫電の突き出した槍を、薔薇実装が作り出した水晶剣が受け止める。その水晶剣にピシ リと亀裂が入った。金色の目を見開き、水晶剣の亀裂を凝視する。 原因はついさっき、紫電が大きく息を吸い吐き出した時だった。 吐き出した息に無数の極小水晶を混ぜておいたのである。極小水晶は緩い気流に乗って 草地全体に広がっていた。紫電以外の薔薇実装が水晶を作る際にこの極小水晶を取り込む と、その強度を著しく落としてしまう。水晶の脆化作用。 カシラたち三匹を吹っ飛ばして殺せず水晶が砕けたのも、紫電の槍を受け止めて水晶剣 にヒビが入ったのも、この脆化水晶霧のせいである。 「弱イコトハ、カワイソウ……」 横薙ぎに振られた水晶剣を、紫電は槍の柄で防いだ。腕に掛る凄まじい重さ。水晶でコ ーティングした木の棒で、剣を受け流し、石突きの刃を振り上げる。 薔薇実装は後退して、刃を躱した。お返しとばかりに袈裟懸けに振り下ろされる水晶剣 を、身体を捻りつつ槍で横に捌く紫電。まともに受ければ、槍が折れるだろう。 水晶針で身体能力を引き下げても、紫電を上回る力と速さを発揮していた。これが、薔 薇実装としての本来の強さである。 突き出した槍と水晶剣がぶつかり、剣が折れる。 だが、折れた部分から即座に先端を再構築させた。 「紫電さんに教わったハサミ術、使わせて貰うボクゥ!」 「ちょっと遅くなってるデス。これで少しはまともに戦えるデス?」 ハサミを構えたアオゾラと、両手の爪を出したビース。相手に応じて乗ったり降りたり して戦えるのが、騎獣実蒼石の特性だった。 「やれやれデスゥ、お前らだけには良い格好させんデスゥ」 マラを納め、ナイフ片手に歩いてくるカシラ。 紫電は槍を構えながら、静かに告げた。 「アイツノ剣ヲ受ケ止メテは駄目……。力負ケスルノハ確実……弱ラセテイルケド、多分 四対一デ互角クライ……。絶対ニ油断シナイデ……」 「フフ。カワイソウ……」 薔薇実装が無感情に四匹を順番に見回した。自分の身体に刺さった水晶針を抜こうとも しない。水晶針が自分を弱めていると分かった上で、あえて抜かないのだ。 水晶剣を眺めながら、薔薇実装は続ける。淡々と。 「コウイウ戦イハ初メテ……。弱イ薔薇実装、弱イ同族。デモ、技ヲ持ッテイル……。作 戦モ考エテイル……。仲間モイル……。ワタシハ、イツモ独リデ戦ウ。技モ、作戦モナイ。 カワイソウ、カワイソウ……。デモ、楽シイ」 薔薇実装は常に独りで戦う。戦闘本能や水晶生成能力を持つが、およそ技術や作戦とい うものには縁が無かった。攻撃性に任せて適当に戦う。それだけだ。それだけで、十分に、 十二分に強いのだから。 「珍シイ同族……。アナタノ力ヲ見セテ——!」 薔薇実装の持つ水晶剣が二回りほど大きくなる。強度と重さを優先した形へと。 四対一の乱戦が始まった。 「あの四匹、勝てるカシラー……」 「負けないでルト」 「頑張るルト」 心配する実装金と実装燈姉妹。 「あの薔薇実装さん、強いですぅ」 胸の前で両手を合わせ、翡翠が祈るように戦いを見つめている。だが、祈っても状況は 好転しない。それは翡翠もよくわかっていた。 「マズいのダワ……」 声には出さずに紅姫は乱戦を見つめる。 ツインテールを使った戦いができる実装紅。闘争本能の塊のような薔薇実装、戦闘を得 意とする実蒼石や獣装石、多数の場数を踏んだマラ実装。彼女たちには届かないものの、 ある程度状況は読めていた。 キィンと硬い音を立て、紫電の水晶鎧の一部が砕かれる。アオゾラを襲った薔薇実装の 水晶剣を、自分の身体で受け止めたのだ。 押されている……。 中実装が静かに声をかけてきた。 「紅姫さん……。顔色悪いテス……」 「分かっているのダワ……。でも、ワタシにはどうする事もできないのダワ。あの子たち と一緒に戦えば、足を引っ張ってしまうのダワ。口惜しいのダワ……!」 首を左右に振って、紅姫は答えた。戦いに参加したいが、確実に足を引っ張るためそれ もままならない。その言葉に偽りはない。どのみち、あの四匹が倒されれば、ここにいる 者は全滅。嘘を言う必要もない。 「ひな殿……。アレを」 不意にそう呟いた長老。 そこにいる全員が長老に向かう。全てを達観したような顔立ちの長老。実超石として、 世俗と離れこの森に十年以上も生きている。さながら修行僧のようなものだった。その長 老が、重い声を出している。 「長老さん、本気ナノー? うにゅぅ、分かったナノー」 うつ伏せに寝たままの実装雛が、右手を自分の口に突っ込み、何かを取り出した。 それは折りたたまれた半紙だった。口の中、あるいはその奥にあったというのに、何故 か涎の一滴も付いていない半紙。 「今こそ、これを使う時デス……!」 長老はそれを受け取り、開いた。 半紙の中から出てきたのは、四角い金属だった。長さ約五センチ、幅約三センチの長方 形で、厚さは五ミリくらい。無言の威圧感を持つ銀色の金属である。 「刃物カシラ……」 その金属を見て、実装金が目を丸くした。 長方形の刃物。見る者が見れば、日本刀の破片だと分かっただろう。そして、本当に見 識のあるものが見れば、斬実剣と呼ばれる希有な刀の一部と分かっただろう。 「最初の長老が、前の神主さんから貰ったトッテオキナノー」 実装雛の言葉に、みなに期待の色が灯る。 その刃物を持ち上げ、長老は娘をじっと見据えた。 「娘よ。あとは頼んだデス」 「分かったテス……」 水晶剣がカシラの腹を貫く。正面から背中まで一突きだった。 「デ……!」 だが、胴体を貫かれながらも、にやりと笑うカシラ。右手に持ったナイフを捨て、両手 で水晶剣を抱え込んだ。それで剣の動きが少しだけ止まる。 「デェェスウウゥゥゥ!」 「ボックゥゥゥゥ!」 ガッ! ビースに乗ったアオゾラのハサミが薔薇実装の胸を捕らえた。 一切の防御を捨て、獣装石の突進力に、鐙からの踏み込みを乗せてハサミを突き出す、 このコンビの必殺技だった。ハサミの先端が、薔薇実装の右胸に突き刺さる。 そこは偽石のある位置だった。 偽石への直接攻撃に、薔薇実装の動きが止まる。 「カワイ……ソウッ!」 地面に槍を突き立てた紫電。柄を支点に全身を勢いよく回転させ、ハサミの柄に渾身の 蹴り叩き付けた。ハサミを楔にして、さらなる一撃を撃ち込む。 「カ……ッ」 右手に持っていた水晶剣を離し、薔薇実装は半歩退いた。だが、それだけだった。倒れ そうになった身体を、右足を引いて立て直す。 「偽石ノ水晶コーティング……。ヤッパリ、硬イ……」 紫電は槍を引き抜き、構えた。 薔薇実装は自分の偽石を水晶でコーティングしていることが多い。自分の体内で、さら に元から存在する水晶なので、紫電が撒いた脆化水晶霧の作用は受けない。自身の中枢部 分を守るその水晶の強度は非常に高い。普通の薔薇実装の偽石を水晶ごと砕くには、成人 男性がバールの先端を全力で叩き付けるくらいの攻撃が必要であった。 「今ノハ、効イタ……!」 よろけながらも、薔薇実装が体勢を立て直す。 身体に刺さった水晶針、その動きの阻害に慣れ始めていた。重りを付けて戦う状況に慣 れたようなものである。薔薇実装本来の戦闘センスに、紫電は舌打ちをした。自分たちは かなり消耗しているというのに、相手は疲労のひとつも見せない。 状況は不利になっていく。 「!」 薔薇実装が振り返った。 社の上から飛び降りてくる風呂敷を纏った老実装石。長老だった。落下しながら、両手 で構えた刃物の破片を思い切り振り下ろす。 薔薇実装が作り出した水晶の大剣がその刃物を受け止め—— 難なく切断された。さらに、左肩に刃が斬り込み、豆腐でも切るように身体を縦に斬り 裂いていく。通常の刃物では到底できない芸当。実装生物に対して無類の切れ味を発揮す る刃だからこそ可能な神業だった。 だが。 「デ……!」 地面から突き出した水晶が、長老を吹っ飛ばす。 澄んだ破裂音とともに、宙を舞う。頑丈なマラ実装や、実蒼石、獣装石なら何とか防御 と受け身を取れるだろう。しかし、長老にそんな器用な芸当はできなかった。 右胸から先と右足を失い、頭から地面に落ちる。落ちた時に頭蓋骨が折れ、首の骨も折 れただろう。風呂敷がゆっくりと落ちてくる。 薔薇実装は、脇腹辺りまで胴体を深く斬られながらも、全く闘志を失っていない。傷口 から流れ出す紫色の血と、傷口に残った刃物を見ながら、 「凄イ、刃物ダッタ……」 刃物を引き抜き、水晶で包み込んで横に捨てる。再び使われないために。 「貴様アアァ! 死んで償うデッシャアアア!」 「絶対に許さないボクゥゥゥ!」 「長老のカタキデスウウウ!」 冷静さを失い一気に突進する三匹。それを地面から生み出した水晶で迎撃する薔薇実装。 脆化作用を受けた水晶は、三匹を吹っ飛ばすだけだったが、それでも弱った身体には十分 に有効打だった。 そして—— 「コノ時ヲ、待ッテイタ……」 薔薇実装の右胸に傷口に、紫電の槍の石突きが突き立てられていた。石突きの刃物の先 端が、偽石を包む水晶にぶつかる。普通ならば、水晶を砕くこともなく終わりだろう。 しかし、石突き内部に封入された白水晶が輝いた。 薔薇実装の本能が、自分の敗北を悟る。 「アナタ、名前ヲ」 「今ハ紫電ト、名乗ッテイル……」 「ソウ。アリガ——」 白い槍が、薔薇実装の胸を貫通した。 石突きから弾丸のように伸びた一メートルほどの白い槍が、水晶ごと偽石を粉砕する。 これが、紫電が持っている切り札だった。薔薇実装の偽石を、保護水晶ごと破壊する白い 水晶槍。実装服の裾裏に留めていたのは、その種水晶だった。 水晶槍が崩れ、息絶えた薔薇実装が地面に落ちる。 その絶命を意味するように、広場を囲っていた水晶が砕け散り、虚空へと消える。 「ヒトマズ終ワッタ……」 槍を落とし、紫電は静かに呟いた。 しかし、その声に安心感は無い。 命を失った薔薇実装がの体が、乾いた土のように崩れ始めている。薔薇実装が普通の死 体を残すことはない。ほどなく、完全に消えるだろう。 「長老サァァン!」 戦いの終わりを悟った紫電を除く実装たちが、致命傷を負った長老へと駆け寄る。実装 燈姉妹は飛びながら、実装雛は地面を這いながら。 右腕と右胸、右足を失い、頭蓋骨が折れ頭がへこみ、首の骨も折れていた。全身打撲で、 内臓にも重度のダメージを追っている。実装石で無ければ、即死の重傷だった。 「デスス……。上手くいったデス。デホデホッ……! デッスー。みんな泣いちゃ駄目デ スゥ。ワタシの命でミンナを守れたらな、それはワタシの本望デスゥ……。まったく、い い実装生だったデス……」 「長老サン、喋っちゃ駄目カシラー! 今すぐ傷の治療をするカシラー!」 泣きながら長老へと縋り付く実装金。 「娘よ。お前が新しい長老になるデスゥ……。まだ若いけど頑張って修行するデスゥ」 「分かったテス。ワタシ、頑張るテス」 長老の言葉に、中実装は涙を流しながら頷いた。 刺された腹を押さえながら、カシラが殺気立った視線を向ける。 「デハァッ。神主の所へ運ぶデス……!」 「分かっているボクゥ! ビースッ」 「分かってるデスゥ」 血を吐き出しながら叫ぶアオゾラとビース。自分たちも薔薇実装との戦いで深い傷を負っ ているのだが、長老の傷に比べれば軽傷と言えるだろう。 「カワイソウ……」 とことこと、紫電は長老へと歩み寄った。右手に持ったプラスチックの筒。大きさは単 三乾電池くらいだろう。透明な円筒に、黄色い蓋が付いている。円筒内には透明な液体が 入っていた。蓋を外すと、銀色の注射針が現れる。 それには気づかず、長老は遺言じみた言葉を続けた。 「紫電さん……、デホッ……! アナタには感謝しているデスゥ……。アナタがいなかっ たら、ワタシたちは全滅していたデ……」 プス。 紫電の持ったアンプル注射器が、長老の胸へと突き刺さった。プラスチック容器に入っ た液体が、内圧によって注射針を通り長老の体内へと注入させる。 「デエエギャアアア!」 断末魔じみた絶叫を迸らせる長老。 その破損した部分が、瞬く間に元に戻っていく。胸や腕、足が生え、頭の凹みも無くな り、折れた首も元に戻った。全身にあった痣も消え、内臓の損傷も跡形もなく消えた。 「デェ、デェ……。これは……」 一瞬にして健康体に戻った長老が、治った腕と足を動かしている。数秒前まで完全に死 を受け入れていたのだ。それが、消えれば混乱するのも当然だろう。 呆然としている残りの住人に、紫電はアンプルを見せるように持ち上げた。 「実装活性剤ト栄養剤ノ混合液……。家主サンガ、私ニクレタモノ。怪我シタ時ニ使エッ テ。薔薇実装ナラソンナニ効カナイケド、実装石ナラ、コレデ元通リニ回復デキル」 全員が呆けたようにソレを見つめる。 そして、何が起ったのかを理解して、全員が脱力してその場に倒れた。 「紫電、お前ってヤツはデスゥ……。安心したら、腹の痛みが、デス……」 「コレ飲ンデ」 紫電がカシラに錠剤をひとつ渡す。続いて、アオゾラとビースに渡した。活性剤を錠剤 にしたものである。飼い実装の軽傷時に飲ませる薬で、注射ほどの即効性は無いが、それ でも傷の回復を十倍以上に早める効果があった。 カシラ、アオゾラ、ビースが薬を飲むのを見てから、長老が息をつく。 「なにはともあれ、これで一段落デス……」 「違ウ。ココカラガ本番」 紫電の言葉に、全員の視線が一斉に集中にした。 「何があるテス……。さっきの切り札……テス?」 中実装の問いに、紫電は頷く。 砕けて乾いた土塊のようになった白水晶を持ち上げた。 「コレハ、薔薇実装殺シノ白水晶。雪華実装ノ力ガ宿ッテイル」 空気が一気に固まる。 雪華実装。実装種の怪物。存在だけが噂されている、実体を持たない実装種。ほとんど 伝聞でしか話を聞かず、会ったものは命を奪われてしまいうとも言われていた。存在自体 を疑う者も多い。 「襲ッテキタ同族カラ一緒ニイル仲間ヲ守ルタメニ、私ガ昔雪華実装ト取引シテ手ニ入レ タ。絶対ニ相手ヲ殺セル必殺ノ水晶兵器……。デモ、コレヲ使ッタラ、雪華実装ガ対価ヲ 取リ立テニクル……」 攻撃性が低く力も弱いため、他実装と共存できる突然変異の薔薇実装。他の薔薇実装に 会っても、独りだったら逃げることもできるが、仲間がいれば仲間を置いて逃げることは できない。そして、仲間を守るために相手の薔薇実装と戦うこともできない。 この白水晶は、その矛盾を壊すための切り札だった。 「対価とは何デス?」 「生贄ノ実装石……」 長老の問いに、淡々と紫電は答える。 沈黙は数秒。 「ワタシが生贄になるデス」 「長老は黙ってるデス。それはワシが引き受けるデス」 「駄目……」 立候補した長老とカシラに、紫電は首を振る。 「アノ雪華実装ガ生贄ニ求メテイルノハ、賢イ個体ジャナイ。糞蟲……虐待派ノ人間ガ泣 イテ喜ブヨウナ、トビキリノ糞蟲……。シカモ上ゲ済ノ——」 「これまた厄介な生け贄カシラ……」 実装金が頭を押さえる。 白水晶を使った対価。上げ済の超糞蟲を、生け贄に差し出すことだった。超糞蟲という と、ほぼ実装石に限定されてしまう。傲慢の極みに達した実装紅や、無差別虐待に目覚め た実蒼石でもいいのかもしれないが、そちらを探すのは大変だ。 白水晶は二度を使ったことがあり、その度に頑張って生け贄実装を用意していた。 「もし、対価の支払いを踏み倒したら、どうなるのダワ?」 「分カラナイ。デモ、雪華実装ハ『踏み倒しにハ、相応の報イヲ』ト言ッテイタ」 紫電の言葉に、再び沈黙が訪れる。 相応の報い。それが何かは分からなかった。しかし、想像を絶するほどに怖ろしいこと であるのは、容易に推測が付いた。 「一応、アテハ考エテアル」 何匹か仲間と呼べる実装が出来た時点で、紫電は白水晶を使った際の生け贄候補を二、 三匹見繕うことにしていた。ここに居着くようになってからも、生け贄候補の糞蟲実装石 には見当を付けていた。 「虹野婦人ガ飼ッテイル、グリグリ……」 その場に嫌な空気が流れる。 グリグリ。この双葉町一の糞蟲飼い実装の名前だった。 誰も反対するものはいない。 溺愛され増長し、散歩と称しデスゥクーターで町中を好き勝手走り回っているグリグリ。 戯れに轢き殺された実装石や、些細な理由で虐待された実装石も十や二十ではなかった。 それから少し話し合い、今回の一件はこの場にいる者たちだけで片付け、社交界の他の メンバーには全部終わるまで伝えないことも決めた。そして、紫電主導でグリグリ捕獲の 計画が作られることとなった。 それは俺がノートPCで小説を書いている時だった。 「カワイソウ……」 紫電がやってきた。 「どした? まだできてないぞ?」 しかし、紫電は首を振る。 小説を読みに来たと思ったのだが、違うらしい。 すっと紙を差し出してくる。 「ん?」 紙に書かれていたのは、雑な文字だった。人間の文字を使える実装種は極めて少ないら しいが、この紫電は本を糧にするためか、人間レベルでの読み書きができるのだ。丸い手 のため、文字は下手だが。 実装再生アンプル注射器、裏ドドンパ、低圧ドドンパ、液体実装香、実装陶酔薬、ロウ ソク、マッチ……後はいくつかの薬品と調味料だった。 なんだこれは? 虐待でもする気なのか? てか、ロウソクとか調味料とかって何? そう思って紫電を見ると、床に両手両足を付いて土下座している。 「オ願イシマス。理由ハ聞カナイデ下サイ」 万能リンガルに表示された言葉に、俺はただ頭を掻くことしかできなかった。 利明は足音もなく歩いていく。午後八時前。 ちょっと早く来すぎたらしく、紙袋を持ったまま意味もなく視線を泳がせる。 この時間の神社の裏口は、そこはかとなく不気味な空気を映して出していた。明かりは 近くにある街灯のみ。あまりこの時間帯には来たくない場所である。利明がここに来るの は、それなりの理由があった。 実装リンガルを弄りつつ、待つこと数分。 「よう、としー」 「よう、アキ」 遅れてやってきたのは、友人の昭敏だった。右手に紙袋を持っている。 「他の連中は?」 「今日はいないみたいだ。まぁ、忙しいんじゃないか? 世間一般じゃゴールデンウィー クとか言ってるしな」 「そんな時期に虐待しかやること無いオレら、哀れ」 自虐半分の笑いを見せる利明。 「お待たせしたデス」 重い声ととともに、裏口から一匹の実装石が現れた。 ガタイのいいマラ実装。隻眼とあちこちに見える古傷。腹にサラシを巻いてキッチンナ イフを差していた。実装版極道の親分という風体である。 後ろに控えるのは実装石が三匹。群れの幹部らしい。そして、かご付きの台車。かごの 中には、テチュテチュと騒ぐ仔実装が入っている。 「ようカシラ。今日はどうだい?」 「ンー……。今回はちょっと少ないデス。春先に生まれた仔は、それなりに賢いのが多い デスから。それより、利明さん、何かイイコトあったデス?」 カシラの言葉に、利明がにへらと口元をゆるめる。 「いや、分かるぅ? 俺、彼女ができてねぇ。同じ虐待派の彼女でねー」 「死ネ、裏切り者……! 実装糞にまみれて朽ち果てろ!」 「きゃー、死ぬー。独り者の嫉妬は見苦しいー」 後ろから昭敏の裸締めを喰らいながら、利明は笑ってみせた。 「それはよかったデス。少しサービスするデス」 カシラはそう笑ってみせる。 実装闇市。 カシラと群れの三幹部が街にいる虐待派と行う裏取引だった。群れで間引き対象となっ た仔実装や、群れで掟を破った実装石を、街の虐待派に差し出し、その代価としてお菓子 や食料品などを貰う。 月初めの金曜日の夜に行われている、秘密の取引だった。 それを秘密裏に——隠れてないが、取り仕切っているのは、ガチ観察派の神主である。 取引が終わり、利明と昭敏は袋に入った仔実装たちを片手に帰路についてた。 「まあ、いつもながら随分と大量にくれるもんだな……」 「前の神主の指導でな、仔の八割くらいは間引かれるんだと」 「八割とはなぁ」 「賢い群れを作るにはそれくらい必要なんだとよ」 「実装社会も厳しいねー」 ぺしと自分の額を叩いて、おどけてみせる利明。 大体標準環境で仔実装が成体になれる確率は15%ほど。神社公園で間引きを通った仔が 大人になれる確率は90%ほど。そう極端に無茶な選別をしているわけでもない。 ちなみにペット用実装石で出荷されるのは、生まれた内の5%以下と言われている。 「しっかしあのボス実装。一度虐待してみたいと思ったりしたりするのだが——」 「神主お気に入りだから、下手に手ぇ出すとこっちが捕まるわ」 「はっはっ、言ってみただけだよ。カシラ関係の記事は、サイトでも人気だしな。全国の カシラファンを敵に回す気はねぇし。ヘヘ、オレも彼女もきっちりファンだけどな」 昭敏はぼんやりと暗い夜空を見上げ、 「少し前くらいだったかなー。頭の悪いにわか虐待派が、バールのようなもの持ってヒャ ッハーしようとして、見事に返り討ち。さらに神主に警察に突き出されたなんてのもあっ たな。表向き泥棒ってことになっているけど。いやはや、カワイソウ、カワイソウ」 と言いつつ顔は笑っている。 「そいつは酷い」 「ま、何というか、あいつらがいるおかげで観察派系の参拝客激増したしなー。趣味と実 益を兼ねた実装観察。神主も邪魔はされたくないだろうよ。噂じゃあの神主、秘密結社紳 士同盟の幹部らしいし、起らせると怖いし。触らぬカミに祟り無しってヤツだな」 「何だよ、その紳士同盟って——」 袋に入った仔実装を眺めながら、利明は興味なさげに笑った。 ぽんと昭敏がその肩に手を置く。ぐっと力を込めて握りしめた。 「それより、お前の彼女について詳しく話してもらおうか。惚気ずに」 「おおう、そりゃまた手厳しい」 そんな益体も無い話とともに、二人は夜道を歩いていく。 「利明サンが大盤振る舞いだったデス」 「これで、先月分の間引きは終わりデスか。あいつらはちょっと可哀想デス」 「大事な仔を虐待派に渡すのは気が引けるデスが、汚い仕事はワタシらの役目デス……」 幹部三匹が菓子や金平糖、実装フードなどが入った台車を押していた。いつもよりも重 い、その重さが失った仔たちの重さである。だが、情に流されて間引きを怠れば、あっと いう間に群れの秩序が堕落することも知っていた。 これらの収穫は、幹部三匹、班長七匹を通し、公園の実装石たちへと渡される。 ちなみに決められた取り分以外を着服するのは厳禁で、以前幹部の一匹が金平糖の着服 を行い、地位剥奪の後、犯罪実装として虐待派の元へと送られていった。金平糖一袋と引 き替えに。 「お前ら、ひとつ頼みがあるデス」 背後から掛けられた声に、幹部実装は振り返る。 いつになく深刻な面持ちのカシラ。取引の後は疲れた表情を見せていることが多いのだ が、今回はいつもとは違った。硬く、厳しい表情である。 「その対価、ワシだけで使わせて欲しいデス」 「デス?」 訝る三匹。 カシラが貰い物を独り占めするような性格ではないのは、この三匹もよく知っていた。 同じくして、何か特別な事情があるだろうことは、容易に想像が付いた。 「できれば事情を話して欲しいデス。カシラとワタシたちの仲じゃあないデスか」 「雪華実装……」 微かにこぼれたその言葉に。 幹部三匹は固まった。 「それ以上は言えんデス……。お前らを巻き込みたくはないデス。ただ、ワシにもしもの ことがあった時は、お前ら後を頼むデス」 無言のまま、幹部たちは頷く。 カシラはそっと腹に手を当てた。先日、薔薇実装の水晶剣に貫かれた傷跡。もう傷は完 治していて、実装服も紅姫に縫い直してもらっている。ついでに上からサラシを巻いてい るので、傍目に傷跡は見えない。 「群れの仲間は、ワシが直接説得するデス」 「無論、お供するデス」 静かに幹部達がそう答えた。 日が暮れて、あたりも随分と暗くなっている。 双葉駅前交番。主に駅周辺から、近くの双葉小学校までを管轄としていた。 交番裏手の空き地に作られた木の小屋。元々はスコップや掃除用具などを入れる雑具小 屋だったが、新しいアルミ製の物置が置かれ、不要となった小屋はアオゾラとビースの住 処となっていた。 小屋の隅に置かれた箱には、交通安全と書かれた旗やゼッケンなどが納められている。 「紫電さんは、頭いいボクゥ」 以前子供から貰った折り紙をハサミで切りながら、アオゾラは呟いた。 木の板が敷かれた小屋の中。もらい物の毛布やタオルなどもあり、半野良としてはかな りの好待遇である。 日も暮れた頃になると、外に出歩く子供も少ないため、自由な時間だった。 「あの石は、ちょっと特別デス……。ワタシたちが紫電さんを真似ようとしても、そうは いかないデス」 四角く切った折り紙を、ビースはスティック糊でぺたぺたと器用に繋げていく。スティ ック糊公園で拾ったものだった。誰かが落としたのか捨てたのかは分からなかったが、交 番の警官に渡して落とし主も現れず、ビースのものとなった。 折り紙で作られた飾りヒモを左右に広げ、ビースは呟いた。 「上手くいくといいデス……」 「上手くいかせるボク。そうじゃないと大変なことになるボクゥ……」 神社の裏手。朝方六時過ぎ。 木の板を下敷きにして、楽譜が置いてある。 「……これは新手の拷問カシラー」 拾った鉛筆で楽譜に音符を書きながら、実装金は唸った。さきほどから考えているのは、 例のグリグリをひたすら褒め称える歌である。 「そうかもしれないのダワ……」 ダンスの練習をしながら、紅姫が答えてくる。こちらは歌に合わせたダンスを考えてい る最中だった。歌詞などを考えなくていい分、気楽かもしれないが、精神的疲労はどちら も大差ないだろう。 「考えちゃ駄目ルト……」 「心頭滅却すれば火もまた涼しルト……」 楽譜の左右に座った実装燈姉妹が、無感情に言ってきた。見ると、表情も消えている。 既に感情を捨てているようだった。こんな気の触れた歌を作ることに、まともな感情は邪 魔以外の何者でもない。 左右の実装燈を見てから、実装金はすっと表情を消した。 「目指すは無の境地カシラァ……」 「あなたは根性あるのダワ」 紅姫の呟きが聞こえる。 実装石依存症と呼ばれる病気がある。 甘辛様々な刺激に対して、面白いように反応してくれる実装石。その反応に魅入られて しまい、実装石無しでは生活できなくなってしまった者を示す。その症状によっていくつ かの型がある。 ひとつは虐待型。実装石の苦しむ姿やその反応、命が燃え尽きながらも必死に助かろう と四苦八苦する反応に魅入られてしまった者。また、人間の嫌う要素を多数実装した実装 石をいたぶることで、自身の暗い正義感や優越感を満たすこともできる。 もうひとつは愛護型。甘いものや遊びを与えられた実装石の楽しむ姿。半ば狂ったよう な喜びの反応に魅入られた者たち。また、低レベルな実装石が傍若無人に振る舞う姿を見 て、それが自分の完全な支配下で行われていることに、暗い優越感を持つ者もいる。 酒や煙草のように、軽度で自制心下にあるなら問題はない。ただ、この症状が重度のも のになってしまうと、心療内科への通院または入院の治療が必要とされる。 観察型の依存症もあるが、この症状に陥るものは滅多にいない。観察に魅入られて日常 を壊す物好きはまずいないからだ。 虹野婦人もその一人だった。 中堅会社の社長を務め仕事一筋の夫と、独立して一人暮らしを始めた息子達。孫はまだ おらず、両親は他界している。ご近所付合いも苦手気味で、その寂しさから実装石を飼い 始めた。実装紅や実蒼石なども飼う候補に入れたのだが、実装石特有の『多彩な反応』に 惹かれ、一級のペット用実装石を飼い始めた。 名前はグリグリ。 そして、転げ落ちるように愛護型実装石依存症へと陥ってしまったのだ。 夫や息子たちも、婦人が満足しているならそれでいいと、ある意味他人事のような対応 を取ったのも、悪化原因のひとつだろう。実装生物基本法の飼い実装石の検査も無理矢理 通り抜け、婦人は自分の貯金をほぼ全て実装石に捧げ、夫には秘密の借金までして、グリ グリを溺愛し続けた。 そして、増長しまくった糞蟲が完成した。 「デース、デスー♪」 下手な歌を歌いながら、歩道を我が物顔でデスゥクーターを走らせるグリグリ。 でっぷりと太った身体とそれを包む緑色のドレスと頭巾。どちらも諭吉さんが何人も飛 んでいく高級品だった。あちこちにきれいなアクセサリを付け、ついでに腕や頬にタトゥ ーまで入れている。 周囲から迷惑そうな視線が飛んでくるが、華麗に無視。 十字路に差し掛かった辺りで、正面からやってくる騎獣実蒼石に気づいた。 アオゾラとビースのコンビだった。交通安全と書かれたハチマキを帽子に巻き、警察マ ークの記されたゼッケンを付けている。右手には大きな黄色い旗を持っていた。 まるで通せんぼうをするように、デスゥクーターの前に立ちはだかる。 「そこのデスゥクーター、止まるボクゥ」 「またお前らデスカ……」 言われた通りに、デスゥクーターを止めるグリグリ。命令に従ったからではなく、単純 に邪魔だったからだ。現れた二匹を思い切り嫌そうな目付きで睨み付ける。 「いつも鬱陶しい青と獣のケダモノ野良コンビ……今度は何の用デス? 用がないならさっ さと消えるデス。でないと、轢き殺すデスヨ?」 そう告げる目は本気だった。ここで避けないと、デスゥクーターで突進してくるだろう。 実際に今まで何十回も突進されている。実蒼石や獣装石の反射神経があれば、躱すのはそ れほど難しくもないが、何度か轢くまで追いかけられたこともあった。まあ、適当な場所 に逃げてやり過ごしたが。 「この道の先は工事中ボク。デスゥクーターでは通れないボク」 左手で手綱を握ったまま、アオゾラは交通安全の旗で道の先を示し、極めて事務的に告 げる。ビースは無表情のまま、全く口を開かない。嫌なヤツを相手にする時は、可能な限 り淡々と事務的に会話するのは、人間も実装も同じだった。 ちなみに、この先で工事をしているのは事実である。 「だから、そっちから回り道して欲しいボク」 と、横の道を示した。 それから、すたすたと小走りに反対方向に歩いていく。これから小学校下校時間の見回 りの仕事があるのだ。そして、アオゾラとビースの仕事はこれで終わり。 「ケッ、いつも偉そうなケダモノどもデッス!」 二匹に聞こえるように言い捨て、ついでに思い切り唾を吐き出してから、グリグリはア オゾラの示した方へとデスゥクーターを走らせた。 人気の無いやや細い道を走るデスゥクーター。 もっとも、この辺りはグリグリの活動範囲なので、迷うこともない。 ベチャリ。 突如として脳天を叩いた柔らかい衝撃に、グリグリはデスゥクーターを止めた。ツンと 鼻を突く異臭。手を伸ばして触れてみると、それは緑色の実装糞だった。頭巾から服まで を見事なまでに汚している。 「誰デシャアアアアア! この可憐なワタシに糞をぶつけたのはアアアア!」 怒号を上げながら即座にデスゥクーターから飛び降り、グリグリは辺りを見回した。自 分に投糞をした愚か者を見つけるために。 しかし、それらしき実装石の姿は無い。真上を見ても、何も無い。 この糞は実装燈姉妹が落としたものである。すぐ近くの公園でよい具合に発酵していた 糞をハンカチに乗せ、二匹で運搬。アオゾラの誘導通りに道を通ったグリグリの真上に投 擲。そのまま、近くの木へと姿を隠す。 その結果、グリグリはわけも分からず糞を浴びせられることとなった。 「くそッデスゥ!」 行き場の無い怒りに、がつとデスゥクーターを蹴り飛ばすグリグリ。 ポシェットから取り出したハンカチで、糞をぬぐい取ってから、 「散歩は取りやめデス、帰ってクソドレイに洗濯させるデス!」 「でぷぷぷっ」 不意に聞こえた嘲笑に、グリグリは殺気立った視線を向けた。 路地の向こうから一匹の実翠石がこっちを見ている。口元に手を当て、笑いをこらえる ように。実装石が行う嘲笑の仕草に似ている。 声は大きくもなかったが、グリグリの耳はその言葉をしっかりと捉えていた。 「くそ実装石が糞まみれですぅ。でっぷぷぅ。でも、元が糞だったから、少しきれいになっ たですぅ。おめでとうですぅ、祝福するですぅ」 と右手を振ってみせる。 実装石が種族的憎悪を向ける実翠石。それが、糞に汚れた自分を思い切り嘲り笑ってい る。グリグリが我を忘れるのには充分な理由だった。 「ぶっ殺してやるデギャアアアア!」 ぶち切れたグリグリが、路地裏へと突進する。 「来たですぅ」 「作戦成功ナノー。翡翠、乗るナノー」 糞を漏らしながら突進してくるグリグリを確認し、翡翠は塀の陰へと移動した。 そこにはうつ伏せの実装雛がいた。言われた通りにその背中に飛び乗り、翡翠はピンク の実装雛服へとしがみつく。振り落とされないように。 「発進ナノー」 翡翠は以前から実装雛が這って移動しているのを疑問に思っていた。普通の実装雛は立っ て歩くこともできる。だが、この実装雛は立つことをしない。 いつも広場にいる実装雛は、どんな時でものそのそと這って移動している。それが気に なり何故立たないのかと一度尋ねたら、本人はこの方が楽だからと答えた。 もしかしたら、足が不自由なのかもしれない。 翡翠はそう考え、それ以来実装雛が這う理由を考えなくなった。 しかし、今は「この方が楽ナノー」と言った意味をぼんやりを理解していた。 「うにゅにゅにゅにゅにゅにゅにゅにゅ——!」 自転車以上の速度で猛進する実装雛の背中にしがみつきながら。 両手両足の匍匐前進と身体の収縮を用いて、推定時速20kmで路地裏を突き進む実装雛。 硬くひび割れたアスファルトの地面をそれほどの高速で這って移動しているというのに、 何故か手足や実装雛服にも傷ひとつできていない。 「にゅにゅにゅにゅ——!」 その原理は、賢いだけの翡翠には理解不能である。 「世の中不思議なこともあるもんですぅ」 以前カシラに言われた言葉で、とりあえず思考を停止させるのが精一杯だった。 「あのクソカマトト、どこに消えたデスァァアア!」 さきほどまで実翠石のいた場所にたどり着き、グリグリは再び叫び声を上げる。腰に差 していたデスゥタンガンを振り回しながら。二本の針が空中で揺れていた。 辺りを見回しても、実翠石の姿はいない。 とにかく、あの無礼な実翠石をとっ捕まえてぼこぼこに殴って、髪と服と手足をむしり 取って、さらに延々と謝罪の言葉を口にさせて、吐くほどに糞を食わせて、丸一日かけて 嬲り殺しにしないと気が済まなかった。 「デププー」 脳内に繰り広げられた復讐劇に、グリグリは思わず笑みを漏らす。姿を見失ったという のに実翠石へのお仕置きは半分済まされたとシアワセ回路が働いていた。 「でっぷぷー」 聞こえてきた声に、グリグリの意識は現実に引き戻された。 向こうの路地から、実翠石がこっちを覗いている。 「やっぱり、実装石はのろまですぅ。のろま〜、のろま〜ですぅ」 「デスウウアアアアアア!」 怒りに我を忘れ、グリグリは再び突進を開始した。 そうして、あちこち寄り道をしながらグリグリを神社の方へと移動させていく。 およそ一時間くらい経っただろうか。 途中何度も転んだり、実翠石を見失いかけたり、倒れた角材の直撃を受けたり、野良猫 に引っかかれたり、藪を突っ切ったり、バケツの水をぶっかけられたり(紫電の仕業)し ながら、グリグリは神社の真横まで移動していた。 途中、ドサクサに紛れて紫電が首輪を奪い取ったり、ポシェットごと発信器を奪い取っ たりしている。相手が飼いである以上、飼い主を呼び寄せるという危険要素を取り除く必 要があるのだ。 「デスー、デデッ、デース……」 肩で息をするグリグリの前には実翠石が立っている。呼吸も乱れ、意識も朦朧としてい るが、ついに追い詰めることができたのだ。 囮としてグリグリを惹きつけてきた翡翠。その顔には疲れと緊張があった。 それを恐怖と受け取り、グリグリは声を荒らげる。 「さあ、覚悟するデス! お仕置きの時間デシャアアアッ!」 スッ。 その首筋に刺さる水晶針。 背後から音もなく忍び寄った紫電が、背骨へと水晶針を突き立てていた。背骨を介して 水晶に組み込まれた命令が、グリグリの脳へと届く。 その命令通り、グリグリは気を失った。 「準備完了……デモナイ」 紫電はぼそりと呟く。 グリグリに付いた糞を洗ったり、発信器などがないか丹念に調べ周り、低圧ドドンパで 糞抜きをしたり、会場の飾り付けをしたりと色々やっていたら時間は夜になっていた。ま あ、ほぼ予定通りだろう。 「デ……?」 グリグリが目を覚ます。 ぼうっとする頭を振りつつ顔を上げると、禿裸の老けた実装石が見えた。横を見ると禿 裸の中実装もいる。風呂敷を脱いだ長老と、服を脱いだ長老の娘だった。 正座して、グリグリの目の前に控えていた。 「お目覚めデス……」 「グリグリ様テス」 「お前ら、何者デス?」 警戒心剥き出しにしつつ、腰に付いていたデスゥタンガンを持ち出す。 単三乾電池二本で動くデスゥタンガン。二本の針を刺した相手に、強烈な痛みを与える 護身道具だった。人間でいうと強い静電気ショックほどだが、主に野良実装石相手では十 分に強烈な武器だった。偽石付近に当れば即死もありうる。 紫電たちはあえてこれを残していた。丸腰ではかえって警戒させてしまうためである。 ごくりと喉を鳴らし、長老は深々と頭を垂れた。 「お初にお目にかかるデス。我々はこの森に住む実装石デス。グリグリ様のお噂はかねが ね聞き及んでいたデス。そのお姿を拝めるとは、冥土の土産デス」 「街に世界一美しい実装石がいると聞いていたテス。噂通り、お美しい姿テス」 心にも無いことを言う二匹。中実装は器用に涙まで流している。 そこは神社の森の適当に空いた場所だった。周囲に明かりはなく、事情を知らないもの が見ればどこかの森の一角に見えるだろう。地面に置かれている、四本の大きめのロウソ クがその場を微かに照らしていた。 木々の間には、折り紙を繋いだ飾りが並んでいた。 「ふん、当然デス」 デスゥタンガンをしまい、鼻息とともに仰け反る。 「グリグリ様、どうかワタシの上に腰をお乗せ下さいデス」 振り返った先にいたのは、地面に寝そべっている獣装石だった。ビースである。しかし、 実装服を着て、紫電の刺した小さな水晶針の力で覚醒獣装石オーラを完全に消しているた め、ただの獣装石に見えるだろう。 「ケモノ石のソファデスか。まあありがたく座ってやるデス。この可憐で美しいワタシに 座られることを感謝するデス」 どすとビースの上に座るグリグリ。 「ありがたき幸せデスゥ……」 べしべしと無遠慮に頭を叩かれるが、ビースは思考を止めたまま、決まった台詞を返す だけだった。考えてはいけないと自分に言い聞かせる。 「さて、ワタシは何でこんな所にいるデス? 糞生意気なカマトト石を追いかけていたの は覚えているデスが……」 「グリグリ様は森の近くに倒れていたデス。何があったか分かりませんデスが、僭越なが らも我々の手でそのお体を清め、こちらへと運んで休んで貰っていたデス」 「よい心がけデス」 長老の嘘に、偉そうに答えるグリグリ。 「つきましては、グリグリ様に会えた縁、我々で全力でおもてなし頂くデス」 その言葉に応じるように、一匹の実蒼石が現れた。両手でお盆を持っている。上に盛ら れているのは、新鮮な野草と人間のお菓子、そして金平糖だった。 アオゾラであるが、全身に汚れが付いていて、帽子も無い。やはり、紫電の作った髪に 隠れるほど小さな水晶針が刺されているので、雰囲気は別実蒼だった。 アオゾラは、グリグリの前にお盆を置き、その場にひざまずき頭を下げる。 「コレはボクたちが集めたとっておきの食材ボク。グリグリ様のためなら惜しみなく差し 出すボク。どうぞ、お好きなだけお納め下さいボクゥ」 「こんなモン食えるかデスゥ!」 グリグリが蹴り飛ばしたお盆がひっくり返り、中身がアオゾラへと降りかかる。飛び散 った食材を全身に浴びながらも、アオゾラは表情ひとつ変えない。普段ならば即座に飛び かかって首を刎ねていただろうが。 「とはいえ……」 グリグリは後ろに飛んでビースの背中に再び座った。 「ワタシのためにせっかく用意してくれたものデスゥ。その好意を粗末にするのも勿体な いデス。まだあるというなら食ってやるから、さっさと持って来るデス」 催促するように右手を動かす。その右手に嵌められた腕輪が光った。 「分かりましたボク」 素直に頷き、アオゾラはその場を後にした。 素早く土下座する長老と娘の中実装。 「申し訳ないデス、グリグリ様!」 「あいつには、後でキツイお仕置きをしておくテス」 「まあ、いいデス。寛大なワタシは許してやるデスー。デップップー」 ふんぞり返ったまま右腕をひらひらと動かしつつ、グリグリはそう言い捨てた。優越感 と慢心と見下しに彩られた声だった。 それを聞き流しつつ、長老は再び頭を下げた。 「さすがはグリグリ様。寛大なお方です」 「当たり前デスー」 ひっくり返るほどに身体を反らしながら、グリグリが言う。 「準備できたカシラー」 その場に現れる、実装金。実装燈姉妹、そして実装紅。 「グリグリ様ルトー」 「本物ルトー」 「やはり、噂は本当だったのダワ……」 それぞれ口にしながら、グリグリにあこがれの眼差しを向ける姉妹と紅姫。 それを胡散臭げな眼差しで見返しながら、グリグリは呻いた。 「お前ら何デス」 「ワタシたちはこの森の音楽隊カシラー。グリグリ様がやって来たと聞いて、音楽を捧げ るために急遽駆けつけたカシラー」 「頑張るルトー」 「歌うルトー」 そして、実装金のバイオリンと、実装燈姉妹の歌が始まった。 「素敵な、素敵なグリグリ様〜♪ あなたに会えた事は光栄ルトー♪」 それに合わせてダンスを踊る紅姫。小さな演劇のような光景である。 が。 「下手クソデスゥ……」 大袈裟なため息とともに、グリグリ。 演奏と歌とダンスが一度止まる。 「もっと気合い入れて歌うデス。お前はもっと力を抜いて演奏するデス。赤いのは、元が 不細工なのはさておいて……もっと手足を勢いよく振るデスゥ」 思い切り上から目線の的外れな指摘。 「分かったカシラー」 「ご教授ありがとうなのダワ」 そう答えてから四匹は一度リズムを取り、演劇を再開した。 「お待ちどうさまボク」 お盆を持って戻ってきたアオゾラ。 お菓子や金平糖や野草の乗ったそのお盆を、丁寧にグリグリの前に差し出す。 「来たデスカ。ちょっとお前頭の上にお盆持ってるデス」 「分かりましたボク」 両足を折り曲げ、お盆を頭の上に掲げたまま、動きを止めるアオゾラ。調度その位置で、 グリグリの食べやすい位置にお盆が来た。 ひょいと野草の芽を手に取り口に入れるグリグリ。 「ほうほう、野良の食い物にしてはなかなかいけるデス」 持ってきた料理には、少量の液体実装香が振りかけてあった。通常のスパイシーな実装 香ではなく、素材の味を引き立てるタイプの実装香である。上げ落としの際に、普通の料 理を高級料理と偽るための虐待道具だった。 紫電の家主さんが気を利かせて持たせてくれたものである。 実装金たちのグリグリ賞賛演技を眺めながら、グリグリは満足げに笑った。口元に付い た食べかすを右腕で拭ってから、 「お前らも、高貴なこのワタシに料理を食べて貰えることを感謝するデスゥ」 「失礼するデス」 ふらりと現れる、パンツ一丁の隻眼の実装石。 全身傷だらけのカシラだった。しかし、マラは無い。長老の持っていた刃物で、自ら切 り落とし今は普通のでかい実装石だった。紫電の用意した活性剤で回復できるとはいえ、 無茶なことをしている。 「何者デス?」 「ワタシはマッサージ石デスゥ。グリグリ様の治療はしたデスが、まだ体力は回復してい ないので、マッサージさせて欲しいデス」 「許可するデス」 「ありがたきシアワセデス」 すすすとグリグリの背後に移動し、その脂肪に包まれた両肩を揉み始めるカシラ。 うっとりとした表情を浮かべるグリグリ。 「お前なかなかセンスいいデスゥ。もし運が良かったら、ドレイに言ってお前をワタシ専 属のマッサージ奴隷にしてやってもいいデスゥ」 「かたじけないデスゥ……」 実はカシラの特技はマッサージである。部下が頑張って働いて疲れ切った時などは、適 当に揉んでやるだけで瞬く間に疲労が吹っ飛ぶほど。ただし、気合いを入れてマッサージ すると、効きすぎてへなへなに脱力してしまうので時々断れる事もある。 ぼりぼりと金平糖を貪りながら、グリグリが夜空を見上げる。 「デス……。何か飲み物は無いデスー? 用意が悪いデス」 「飲ミ物、オ持チシマシタ」 ジュースのペットボトルを持って現れる紫電。 グリグリは突如現れた薔薇実装をじっと見つめ、 「弱そうな薔薇実装デス? ……何者デス」 「戦ニ敗レタ、カワイソウナ、負ケ犬薔薇実装……」 卑屈な表情で紫電は目をそらした。演技であるが。 「ま、いいデス。さっさと飲み物持って来るデス」 「分カリマシタ」 紫電は持っていた杯を差し出した。神社の縁の下に落ちていたものを洗ったものである。 元は何かの拍子に落ちたものだろう。 それを受け取るグリグリ。 杯の中に、ペットボトルの中身を注ぐ紫電。グレープジュースに神社に置いてあったお 酒を足し、さらに実装陶酔薬を加えた実質ワインのような飲み物だった。実装ワインとで も呼べるだろうか。 杯の中身を一気に飲み干し、グリグリは大きく息を吐き出した。 右手で口元を拭いている。 「野良の割随分といいモノを持っているデスゥ」 「森の奥にいるカミサマに捧げるために、果物のエキスを集めたものデス。ワタシたちは 決して口に入れてはならない特別な飲み物デス。しかし、グリグリ様に飲んで頂けるなら、 カミサマも満足してくれるデス」 長老の説明に、面倒臭そうな顔をするグリグリ。 「ま、どーでもいいデス。もう一杯寄越せデス」 「ハイ」 差し出された杯に中身を注ぐ紫電。 それを飲み干し、グリグリはお盆に手を伸ばした。 だが、食べ物が無くなっていくことに気づく。 「おい、クソアオ。さっさと新しいの持ってくるデス!」 「かしこまりましたボク」 お盆を持ったまま、アオゾラが闇の中に消えていく。 「ちっと時間が空いてしまったデス……」 杯を傾けながら、グリグリは空を見上げた。 「いいこと思いついたデス。野良のお前達に、ワタシの武勇伝を聞かせてやるデス。野良 生活じゃ味わえない、極楽の話デスー!」 ぐいと実装ワインを飲み干し、グリグリの自慢話が始まった。 「疲れたボク……」 「我慢ですぅ」 宴会場から離れた裏舞台の調理場。親方が持ってきたお菓子類や、長老の娘が森の中か ら持ってきた食べられる野草や木の実などが置かれている。実装ワイン入りのペットボト ルも何本か置いてあった。 翡翠が空のお盆に野草やお菓子を並べていく。それから、紫電が持ってきた化学調味料 を振りかけ、さらに粉末実装香を振りかけた。料理と言ってもこの程度。 「これも上げるナノー」 近くにいた実装雛の声。 アオゾラと翡翠が目を向けると、実装雛は右手を自分の口に突っ込み、おはぎを取り出 した。白い皿に乗せられた、おそらくは作りたてのおはぎだった。 「………」 うにゅうにゅと地面を這ってから、おはぎをお盆に乗せる実装雛。 その不可思議な光景に、アオゾラと翡翠はともに実装雛を見つめてから。 お互いに顔を見合わせた。 「世の中不思議なこともあるもんボク」 「世の中不思議なこともあるもんですぅ」 以前カシラが口にしていた言葉で、完結させる。 アオゾラが料理を持って戻ってきてからも、グリグリの自慢話は続いていた。 「というわけで、ワタシは今の奴隷を手に入れたデスー」 金平糖をぼりぼりとかじりながら、大きくげっぷを吐き出す。頬は赤くそまり、酔いが 回ってきたようだった。 「では、次の話デス。あれは、去年の冬のことだったデス——」 実装石は基本的に自慢話を好む、 現実と妄想とシアワセ回路の入り交じった無茶苦茶な話。それは、自己顕示欲の強い実 装石が、自分の優越感を満足させるためのフィクション。道具も必要なく、時間と相手さ えあればいい。場合によっては相手がいなくとも成り立つのだ。手っ取り早く自己満足す るには、自慢話ははもってこいである。 「カワイソウ……」 一方お酌をしながら、紫電は泣いていた。 他人の作った物語を食べる突然変異の薔薇実装。人間だけでなく、実装生物の作った創 作も食べることができる。大抵見るだけで食べることができ、文字や絵として描かれてい なくとも口から話される創作でも聞くことで食べることができる。 そして、この創作食の欠点は、食べるという行為を拒否できないこと。 例えば意図せずとも創作物をうっかり見てしまえば、それで食べたことになってしまう のだ。それが美味しい話ならまだいい。しかし、不味いものだと悲惨な結果になる。 「頑張レ、ワタシ……」 それが、まさに今だった。 実装金と実装燈姉妹、そして紅姫のダンス。喩えるなら、腕利きの料理人が意図的に作 り上げた不味い料理。そして、グリグリの垂れ流す妄想満載のヨタ話。喩えるなら、下手 な料理人が適当に作った不味い料理。 それを同時に食べている紫電。 「デ、お前泣いてるデス?」 紫電の涙に気づいたグリグリ。口元を右手で何度か拭い、納得したように頷いた。 「デースーデースー。そんなに感動して貰えるとは、話し甲斐のあるヤツデスゥ。いいデ ス。もっと色々聞かせてやるデス!」 「チョット涙ヲ拭カセテ欲シィ……」 ペットボトルを起き、紫電はそこから少し離れた。 グリグリに背を向けてから、薔薇実装服に隠してあったアンプル注射器を取り出す。そ の蓋を取ってから、注射針を自分の胸へと突き立てた。心臓へと直接流し込まれる活性剤 と栄養剤。 折れ掛けた心が回復するのが、分かった。 蓋をしたアンプル注射器を目の前の茂みに放り、紫電は涙を拭ってからグリグリの傍ら へと戻った。ぺこりと頭を下げる。 「オ恥カシイトコロヲ見セテシマイマシタ」 「感動する事は罪じゃないデスー♪」 陽気にいいながら、ペットボトルから実装ワインを一気飲みするグリグリ。杯は適当に 放り捨ててあった。どうやら、グリグリは話上戸のようである。 (紫電、大丈夫デス?) グリグリへのマッサージを続けながら、カシラがそう視線で問いかけてきた。 涙の滲んだ金色の瞳をそちらに向け、紫電は視線で答える。 (ガンバル……) そうしてどれくらい経っただろうか。 時間は日付が変わる頃だろう。 「ちょっと飲み過ぎたデスゥ……」 ふらふらに酔い潰れたグリグリ。ビースの上に器用に寝転がったまま、ぼりぼりと金平 糖を喰らっている。ついでに、時々思い出したように実装ワインを飲んでいた。 「いや、お前たちの歓迎感謝するデスー」 「勿体ないお言葉デス」 長老と中実装が頭を下げる。 そして、声は唐突に聞こえた。 「グリグリちゃーん! ここにいるんでしょー!」 硬くなるその場の空気。 虹野婦人の声である。かなり遠くから聞こえてきているが、こちらに近づいて来ている のは明らかだった。少なくとも神社の境内にはいる。 「うーん。いい驚き様デスー」 続けて放たれたグリグリの言葉に、一斉に視線が集中する。 その視線を満足げに受け止めながら、グリグリはにんまりと笑ってみせた。 「驚いたデスカ? 交番のアオゾラとビース、公園のボス、あと物語食いの紫電」 お盆を持ったアオゾラ、布団代わりのビース、マッサージを続けていたカシラ、死にか けている紫電を順番に示しながら、グリグリは笑った。 「デピャピャー。馬鹿なお前らにも分かるように、簡単に説明してやるデス」 固まった全員を満足げに見回しながら、勝ち誇ったように断言する。 「大体、青いのにケモノに、黄色いのに、黒いのに、赤いの、あとムラサキ。そんな連中 が揃っているなんて不自然きわまりないデス」 アオゾラ、ビース、実装金、実装燈姉妹、紅姫、紫電を順番に示してみせる。確かに、 ここまで多種の野良が集まることなど自然的にはありえない。 「最初にオカシイと思ったのは、お前デス」 と長老に手を向ける。 「禿裸でそんな堂々としたヤツはいないデス。それで、賢いワタシは気づいたデス。コレ は何かの罠だと。何が目的かは知らんデスけど。後は疑って見てみれば一目瞭然デス。お 前らみたいに多芸な野良がそうそういてたまるかデス」 礼儀正しく堂々とした禿裸の親娘、演劇のできる実装金たち、マッサージの上手い実装 石、お酌をする薔薇実装。確かに探してもそんな野良はいないだろう。一匹くらいならと もかく、ここまで集まれば確かに不自然だ。 硬い沈黙の中、グリグリは上機嫌に続ける。 「そして、ワタシのこの腕輪」 と右手にはめられた腕輪を見せつけるように掲げる。 「これは、ワタシの居場所を知らせる発信器デスー。ついでに、ワタシがクソドレイのリ ンガル宛てに秘密の言葉を送れるデス。安心するデスー。きっちりと、酷い目にあってい ると伝えておいたデス」 脳裏に浮かんだのは、グリグリが右手で口を拭う仕草だった。 その時にこっそりと発信器に話しかけていたのだろう。助けてデス、殺されるデス、痛 いデス、などの悲鳴の言葉を。 「どこかにあのクソカマトトモもいるはずデスが、まあいいデス。食い物は旨かったから許 してやるデス。ま、どのみちニンゲンに殺されるだろうデスが」 言うなり、グリグリは着ていた実装服と頭巾をを脱ぎ捨てた、それを両手で破り捨て、 乱雑にアクセサリを破壊する。 呆然と見つめる全員の前で、グリグリはいきなり脱糞した。 緑色の糞に塗れる実装服の残骸とアクセサリ。その上に身体を転がし、糞塗れになる。 さらに、アクセサリの破片で全身に傷を付け、あまつさえ前髪と後ろ髪のひと房を引きち ぎってみせた。あっという間にボロボロの実装石ができあがる。 「ワタシは家じゃ、そこそこいい子で通っているデス。お前らとワタシ、あの糞ドレイが どっちの言うことを信じるかは考える間でも無いデシャシャシャ!」 「嵌メラレタ……」 紫電はきつく歯を噛みしめた。今まで普通の糞蟲を上げるのと同じ手段を取ったのが間 違いだった。このグリグリ、分類するならば、高い知能を持った糞蟲。虐待派なら数十万 出しても欲しがるような、貴重な高級糞蟲だったのだ。 だが、今更それに気づいても手遅れである。 「グリグリちゃーん!」 虹野婦人はもうそこまで来ていた。 ここにいる紫電たちと、ボロボロの糞まみれになったグリグリ、虹野婦人がどっちを信 じるかは明白だった。飼いである紫電や翡翠、半飼いであるアオゾラやビースは助かるか もしれないが、飼い主に多大な迷惑がかかるのは確実だ。飼いではない長老や実装金たち は、有無を言わさず殺処分だろう。 「あと、お前ら、神社奥にある社交界の連中デスね?」 「………!」 ビシッと空気に亀裂が入る。 「当たりだったデスか。ま、お前らのせいで、その社交界も終わりデス。いやー、愉快デ ス、愉快デス。他石の不幸は密の味デス。デーピャピャピャピャ!」 哄笑を上げるグリグリと、絶望に支配された紫電たち。 懐中電灯の明かりはすぐそっこまで来ていた。 打つ手無し。 「グリグリちゃんッ!」 そこに現れた虹野婦人。 グリグリは両目から涙を流しながら、婦人へと駆け寄った。今の今まで過酷な虐待を受 けていたかのような有様で。並の実装石にはできない迫真の演技だった。 「デェーン、ご主人様ー。グリグリ怖かったデスー! 痛かったデスー!」 「グリグリちゃん!」 虹野婦人が叫ぶ。 「どこにいるの!」 「デ?」 予想外の言葉に、グリグリは動きを止めた。ボロボロになった自分を見て涙を流す婦人。 少なくとも、グリグリが想像していたのは、その反応だった。 しかし、現実は違う。 「ここにいるんでしょ! 早く出てきてちょうだい!」 リンガル機能付きの探知機を持ったまま、周囲を見回す虹野婦人。まるで、そこにグリ グリが存在していないような反応だった。 「ここにいるデス! 見えていないはず無いデス! この×××がデスッ!」 「グリグリちゃん……。どこにいるの?」 懐中電灯で当たりを照らし、婦人は冷や汗を流しながら、探知機を凝視している。 「見つかりましたか?」 遅れてきたのは、壮年の男だった。神社の神主である。 「いない、いないのよ、グリグリちゃんが! ここにいるはずなのに!」 と神主に探知機を突き出す婦人。 神主は怪訝な表情で、ディスプレイを見つめた。 「うーん、これは発信器の位置とGPS機能の探知機ですよね……。で、この場所って、 どこです? 少なくともこの神社ではないですけど」 「何を言っているの! これには、神社の裏の森が出てたの——」 ディスプレイを見つめ、婦人は言葉を失った。 表示されているのは、どこか分からない場所だった。婦人が地図の縮尺を変えていくと、 やがてそれがどこだか表示された。南鳥島。日本最東端の島である。 数秒の沈黙から、 「それに、グリグリちゃんの助けを求める声だって」 リンガルのログを表示するが。 神主が訝る。 「何です、これ?」 『あの、糞ドレイ遅いデスー』 『因数分解は難しいデス』 『祇園精舎の金の音デスー 諸行無常の響きありデスー』 意味不明な内容が表示されていた。 眼鏡越しにその文章を眺めてから。 婦人は探知機を思い切り放り投げた。神主に向かって。 「おわ」 身を捻って、飛んできた探知機を躱す。後ろの木に当った探知機が、地面に落ちた。手 加減無しで投げたため、明らかに壊れた音が響いている。 神主が困ったように壊れた探知機を見つめていた。 「あなたが、あなたがグリグリちゃんを攫ったのね……!」 持っていたバックから、婦人は包丁を取り出す。 バックが地面に落ちた。 さすがに驚き、神主はわたわたと両手を動かす。 「知りませんよ、私は。落ち着いて、それをしまって下さい。危ないですから」 「問答無用ッ!」 目を血走らせ、一気に突きかかった婦人に。 神主は一歩前に出た。 身体を捻りながら、左手の手刀で包丁を叩き落とし、右手の肘を婦人の横隔膜へと打ち 込む。今までの姿からは考えられない、流れるような動きだ。 武器を失い、息も出来ず、婦人の動きも止まる。 神主は包丁を持っていた右手を掴み、足刀で踏み出した右足を払う。バランスを崩し倒 れかけた婦人の背後に素早く移動しつつ、右肩、肘、手首と順番に肩関節を極め、動きを 封じる。それは柔術の一種だった。 こうなっては普通は動けない。骨折覚悟で動かなければ。 骨折覚悟で動くこともできない婦人は、ただ、叫ぶだけだった。 「痛いッ! 何するのよ、誘拐犯!」 「落ち着いて下さい。とりあえず、社務所まで来て下さいよ、話はそれからです」 「痛たたた、痛いいッ! 離しなさい! グリグリちゃん、グリグリちゃーん!」 腕を極められたまま、神主に連れて行かれる婦人。 ほどなくその姿が見えなくなった。 その後婦人は社務所で再び暴れて、再び神主に取り押さえられ、黄色い救急車(都市伝 説です)に乗せられ、二地浦精神科まで送られ入院することとなった。 「何なんデス……」 その光景を呆然と見つめていたグリグリは、思ったことを正直に口にした。何が何だか、 さっぱり分からない。 「ウフフフ……。二重トラップって知ってル?」 背後から掛けられた声に、グリグリは素早く振り向いた。 だが、誰もいない。 いや、本当に誰もいなかった。さきほどまでいた多種の実装たちも、グリグリが食い散 らかした食べ物も、脱いで糞まみれにした実装服も、何もかもが無くなっている。全てが 夢の出来事だったように。 ただの暗い森の中に、グリグリは禿裸のまま突っ立っていた。 混乱する頭に、グリグリは呟く。 「これは何かの夢デスゥ?」 「いえ、夢じゃなイ……。あたなが本読みチャンたちを出し抜いタのは事実……」 背後から聞こえた声に、再び振り向くが。 誰もいない。 そして声は続く。 「出されタ料理を罠と知りつつ食べチャッタり、虐待されタ振りするのガちょっト大根だ ったけど、アナタの賢さは評価する。絶望する本読みちゃんタチに、勝ち誇って説明する のハ、見てて感動した」 「誰デス! 出て来いデス、卑怯者デシャアア!」 右手に持っていたアクセサリの破片をナイフのように構えながら、グリグリは見えない 相手に威嚇の叫びを上げた。 「馬鹿ナあなたにモ分かるよウニ、簡単に説明してアゲル」 声は続く。 「私は、雪華実装……」 音もなく、白い霧のようなものが目の前に集まる。 アクセサリの破片が落ちる。 そして、陽炎のような輪郭の白い実装は、素敵に不気味に微笑んで見せた。 「はじめましてテ。生け贄サン」 紫電はふと顔を上げた。 いつもの広場。長老と娘、実装金と実装燈姉妹、アオゾラとビース、カシラと翡翠、紅 姫と実装雛。全員が芝生の上に倒れたまま、寝息を立てている。 起き上がって見ると、既に午前中のようだった。 昨日の夜のことを思い出す。グリグリを誘拐してから、思い切りもてなして、しかし逆 に騙されて、飼い主がやってきて—— 「おはよう、本読みチャン」 「雪華……実装……」 不意に聞こえた声に、紫電は全てを理解する。紫電たちを騙し返し、全員の破滅と社交 界の崩壊に絶望のどん底にあった自分たちを見つめ、優越感の絶頂にあったグリグリを、 雪華実装が連れて行ったのだ。 「昨日の死にかけのアナタ、カワイかった」 冗談とも本気とも付かない言葉。 「フフフフ。それにしてモ、今回の生け贄は、物凄く上物だっタ。だから、私はとってモ 上機嫌。踊って歌いたイくらい」 声はどこからともなく聞こえる。 紫電は無言のまま声を聞いていた。 「薔薇実装殺しの白水晶はみっつ上げル。ふたつはサービス」 薔薇実装服の裾裏を捲ると、白水晶が三本刺さっていた。今回の実装石を相当に気に入っ たのだろう。実際ズル賢い糞蟲という、特上の生け贄だったのだ。 「三本目を使い切ったら、マタ取り立てに来ルネ。今回の子の記憶は貰って行ク」 今回の子とは、紫電が倒した薔薇実装のことだろう。 薔薇実装は雪華実装の手駒と考える者もいる。薔薇実装は他実装の偽石のエネルギーを 取り込み、お互いに殺し合うことでそのエネルギーをさらに高める。そして、その最期は 雪華実装によって回収される。 「次に会うノハ何年後かしラ? 二本もサービスしてしまったから、十数年後?」 ちょっと残念そうな口調。 雪華実装の声は続いた。 「さようなラ。本読みちゃン。マタ、いつか会いましょウ」 それきり、声は聞こえなくなる。 それから数分してから、紫電はその場に仰向けに倒れた。 「ヨウヤク終ワッタ……」 あれからどれほど経っただろうか。 グリグリはとぼとぼと道を歩いていた。いつの間にか緑色の実装服と頭巾という標準的 な実装石の格好になっている。顔のタトゥーも消えていた。 「みんなこっちを見てデスゥ……」 人気の多い道。グリグリに気づくものはいない。 グリグリの身体が人間の足をすり抜けてしまうのだ。いや、人間の足がグリグリをすり 抜けてしまうといった方が正しい。 有り体に言って、グリグリは幽霊になっていた。 見えず聞こえず触れない。ものに触れて、手触りがあるのは一瞬。触った身体がそのま ま相手をすり抜けてしまう。稀に見える人間には会うものの、そういう人間はすぐに拒否 の反応を見せてしまう。 無視される。 実装石にとって最大の虐待を受けていたグリグリ。 狡賢い頭は、その状況に陥っても、必死に人間に構って貰う方法を模索していた。そう しないと壊れてしまうから。壊れてしまった方がシアワセなのに。 「デ」 そしてまた何か思いついたらしい。 四階建てビルの屋上から尻を突き出しているグリグリ。別に投身自殺をしに来たわけで はない。投身自殺は数十回試したが、全く効果が無かった。 「デデデ、デシャアアア!」 気合いを込めて大量に糞を吹き出す。 緑色の糞が、下を通る人混みへと降り注いだ。 普通ならば、下は阿鼻叫喚の地獄絵図。グリグリはあっという間に見つかり、タコ殴り にあって殺されていただろう。だが、孤独に飢えたグリグリにとっては、虐待や虐殺さえ も渇望の対象になっていた。 しかし、降り注いだ糞は歩く人間をすり抜け地面に落ちて消える。 「デー……」 屋上から無反応な人混みを眺め、グリグリは泣いた。 「カワイソウ……。でも、素敵」 その奮闘を眺めながら、雪華実装は笑った。 「これがあなたノ、望んだコト?」 振り返った先に佇む実装石。 しかし、普通の実装石よりも身体が細く、服の色も濃い。所々に渦巻きのような模様が 入っている。ガラス玉のオッドアイとは違い、黒目のある凄みのある赤と緑の瞳。 「デスー」 とことこと歩いてきた実装石が、おもむろに口を開け—— 雪華実装を一口に呑み込んだ。 体内へと消えた白い実装に、ごくりと喉を鳴らす実装石。細い手で自分のお腹を撫でな がら、ゲップと満足げな吐息を吐き出す。 「混沌かラ生まれたモノは混沌ヘ……」 実装石の背後に佇む雪華実装。 振り返った先に、実装石の姿は無かった。 くすりと笑ってから、雪華実装も空中に溶けるように消える。 蛇足ではあるが。 グリグリの飼い主の虹野婦人は、二ヶ月ほど入院してから、夫や息子達の協力もあって 愛護型実装石依存症から脱したらしい。まあ、それはどうでもいいお話。 登場人物 紫電 創作物を糧とする突然変異の薔薇実装。かなりの物知りで、頭も良い。プロ作家の男の家 に居候している。一応飼い実装。 強くはないが、自分の身体と水晶を効率よく使う戦闘技術を持つ。 雪華実装との取引で、薔薇実装殺しの白水晶を持っている。 長老 神社の奥の森に住む、年齢十数歳の実超石。どんな超能力を使えるかは不明。自ら髪と服 を捨て、緑色の風呂敷を纏い、修行者のような生活を行っている。 杖代わりの棒を持っている。 長老の娘 中実装。長老と同じく実超石。生まれてから二年経つが、まだ中実装である。修行のため に髪と頭巾は捨てているが、実装服はまだ着ている。 実装金 神社の奥の森に住む実装金。バイオリンを弾くのが得意で、自分で作曲できるほどの知能 も併せ持つ。基本は実装燈姉妹とのトリオで演奏を行う。 実装燈姉妹 実装金といつも一緒にいる実装燈の姉妹。どちらが姉でどちらが妹かは不明。他の実装も 見分けがつかないくらい似ている。息のあったコーラスを得意とする。 アオゾラ 半飼い実蒼石。駅前交番裏の元荷物小屋に住み、ビースとともに交通安全手伝いの仕事を して生活物資を調達している。使用するハサミは、普通の実蒼石のハサミよりもやや長く 細い。紫電から槍術に似たハサミ術を教えられている。 ビース 半飼い獣装石。駅前交番裏の元荷物小屋に住み、アオゾラととともに交通安全手伝いの仕 事をして生活物資を調達している。高い機動力を生かし、主にアオゾラの乗り物として行 動している。覚醒獣装石だが、気性は基本大人しい。 アオゾラとビースは騎獣実蒼石としてかなり有名で、地方紙にも載ったことがある。 カシラ 神社横の公園のボス。隻眼のマラ実装。腹にサラシを巻き、ステンレス製のキッチンナイ フを持っている。その姿は、実装版極道の親分。部下の信頼は厚く、仁義を大事にする。 その容姿のため、人間の前に現れることはまずない。過去に神社に侵入した虐待派を撃退 したことがある。 マッサージが得意だが、効きすぎることがあるのが玉に瑕。 神主の実装観察サイトの目玉のひとつで、日本中にファンがいるらしい。 翡翠 神社近くの民家で飼われている、実翠石。カシラのことを先生のように考えて、色々と話 を聞いている。 紅姫 野良実装紅。元は誰かに飼われてたようだが、詳細は語らない。植物の色素を抽出し絵の 具を作るという技術を持ち、自家製絵の具で絵を描くが趣味。 また、ダンスもできる。 実装雛 神社裏の広場に済んでいる実装雛。いつもうつ伏せで這っている。立つことはないが、う つ伏せのまま時速20kmでの高速移動も可能。ただし、原理不明。また、体内にものを収納 する能力を持っているが、その原理も不明。 一番謎が多い実装。 薔薇実装 放浪の薔薇実装。神社裏の広場に現れ、紫電達を襲った。全員の奮闘と紫電の切り札であ る薔薇実装殺しの白水晶に斃れる。死ぬ前に、紫電の名前を聞いた。 三幹部 公園実装の幹部三匹。カシラに忠誠を誓っていて、部下の実装石たちにも優しい。先代の 一人は、金平糖の着服が原因で、虐待派送りになっている。 グリグリ 虹野婦人が飼っている実装石。非常に珍しい、狡賢い糞蟲。外では傍若無人に振る舞って いるが、家では一応いい子を演じている。デスゥクーターで野良実装石を意味無く轢いた り、デスゥタンガンで野良実装を虐待するなど、街の実装からは相当に嫌われている。 生け贄として雪華実装に連れて行かれ、実装霊となって彷徨っている。 雪華実装 紫電を本読みちゃんと呼ぶ雪華実装。十年以上前に、紫電と取引して薔薇実装殺しの白水 晶を与えた。白水晶を使った時に、対価を取り立てに現れる。 実装石 初期型実装石。 神主 神社の神主、ガチ観察派。運営する実装観察サイトは一日3000hitを記録する。大人しい 壮年の男性だが、柔術系の格闘技を使うなどかなり強い模様。怒らせると怖い。 神主のサイトを見た観察派系の参拝者が増えているらしい。 秘密結社紳士同盟の幹部らしいが真偽は不明。 俺(名前不明) プロ作家の男。薬品系を使う緩い虐待派兼観察派。 紫電に対しては放任主義。 利明、昭敏 虐待派の二人。カシラの開いている実装闇市の常連。 利明はカシラのファンで、最近虐待派の彼女ができた。 昭敏はお喋りでそこそこ物知り。 虹野婦人。 グリグリの飼い主。仕事一筋の夫や独立していった息子達に寂しさを覚え、グリグリを飼 い始め、育て方を間違え糞蟲化させてしまう。典型的な愛護型実装石依存症で、グリグリ 誘拐の一件で神社で暴れ、精神科に入院。 その後、家族の手助けもあって愛護型実装石依存症から回復する。 その他 白水晶 薔薇実装の偽石を保護水晶ごと粉砕する、紫電の切り札。雪華実装との取引で手に入れ た。使えば、ほぼ確実に相手の薔薇実装を殺せるが、使用した後には雪華実装が生け贄 の取り立てに現れる。 紫電は白水晶を可能な限り使いたくないと考えている。 刀の破片 初代の長老が先代の神主から貰った切り札。斬実剣の破片らしく、実装生物の構成物には 無上の切れ味を発揮する。 アンプル注射器 活性剤と栄養剤が入った注射器。蓋を外して針を刺すだけで、中身が注入される。紫電が 家主から貰ったもの。大怪我をした時に使う。 錠剤活性剤 実装活性剤を錠剤にしたもの。軽傷の際に服用する。傷の回復を十倍以上に高める効果が ある。安価で市販している。 実装闇市 月の第一金曜日夜、神社裏で行われる闇市。カシラと三幹部が間引きの仔実装を虐待派に 渡し、対価にお菓子や実装フードなどを貰う取引。稀に群れの掟を破った成体実装が出さ れ、前回の元幹部が出たときは騒ぎになった。 参加には神主の許可が必要。 デスゥクーター 実装石用の小型スクーター。子供の自転車くらいの速度で走れる。 他スクのように実装石は組み込まれていません。 デスゥタンガン 護身用の小型スタンガン。単三乾電池ふたつで動く。針が二本付いていて、その針に触れ た相手に高圧電流を流す。 粉末実装香 強調タイプ 素材の味を高める効果がある実装香。実装香と名は付くが、匂いは弱い。主に上げ落とし の時に、通常の食材を高級食材として食べさせるのに使用。 実装陶酔剤 実装生物を酔わせる薬。酒と混ぜると効果が増す。 迷子実装探知機 飼い実装が行方不明になった際に使う探知機。GPS機能で行方不明の飼い実装の位置を表 示し、小型発信器によって探知機内蔵のリンガルに言葉を送信するこが可能。小型発信器 は首輪などに仕込むのが普通だが、特注すればアクセサリ類にも仕込める。
