タイトル:【愛】 実装かぞく19
ファイル:実装家族019.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:1536 レス数:0
初投稿日時:2009/11/19-23:57:30修正日時:2009/11/19-23:57:30
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第19話「デさん3」


デスアの新しい生活が始まった。
与えられた眼鏡というシステムも理解し始めた。

眼鏡がかけると別の世界へ召還される。
眼鏡を外すと元の世界へと戻る。

眼鏡をかけると別世界。
この世界は、物で溢れている。

光る箱。音も出ている変な箱。
皿に盛ったフード。匂いがない、でも食べ物。
トイレ。それは大事な所。漏らすと、痛い事が待っている。

元の世界に戻っても、トイレはわかる。
いい匂い。私の匂い。トレイは大事。この匂い大事。

視覚と臭覚。生きるのに必要な感覚とは何か。
デスアは、巴宅で試行錯誤を繰り返しながら、それを学んでいく。

(ゴトッ)

玄関から、音。人間来た。

デスアは、チャーと叫びながら、毛布の奥へと逃げ込む。

「デさん。帰ってきたわよ」

デスアは毛布にくりまりながら、考える。
音、凄い。匂いしない。でもわかる。眼鏡なくてもわかる。
音、大事。生きるのに、大事。

毛布からぴょんと顔を出す。
その拍子で、実装眼鏡もずれ落ちる。
仔実装の小さな手で、ずれた眼鏡を直しながら、デスアは巴を見上げる。

眼鏡ない。元の世界。人間いない。
眼鏡する。別の世界。人間いる。

人間。変な顔。人間。変な顔。

毛布から巴を見上げるデスアの頬は、ほんのりと赤く染まっていた。


◇

デスアは、新しい生活に慣れ始めた。

ウンコの匂い。私の匂い。
夜でもわかる。暗がりでもわかる。トイレの位置。匂いは大事。
玄関から音。人間帰ってくる。巴、帰ってくる。音も大事。

眼鏡かけると顔重い。首痛い。嫌。
でもフードが見えない。食べられない。お腹は空くのはもっと嫌。

眼鏡をかけると人間の顔が見える。巴の顔わかる。
巴に近づく。巴の匂いがする。匂い好き。
巴鳴く。巴の鳴き声は心地いい。音好き。
そして、抱っこされると暖かい。この暖かいは嫌じゃない。
眼鏡かけたら、巴笑う、わかる。巴笑うのは嫌じゃない。
だから眼鏡かける。嫌じゃない。


嫌がっていた眼鏡だが、デスアはこの新しい生活を送るために、
進んで眼鏡をかけるようになった。

しかし、眼鏡をかけて、家の中を動き回る度に、デスアはよく転んだ。
眼鏡の重さが、デスアの重心を狂わしているのは明らかだった。
2頭身に近い仔実装の体には、眼鏡の重さは過負荷らしい。


巴が短大から家に帰る。
アパートの前の石畳の上を歩くヒールの音。
デスアはその音で、巴が帰ってくることを聞き分ける。
すると、デスアは部屋の毛布からもそもそと抜け出し、玄関に向かって駆け出すのだ。

その途中、何度も転ぶ。眼鏡が重いため、右に左に頭の重心がずれていく。
仔実装のヤワな足腰では、それを支えるだけの筋力もない。

転ぶと、固い床のため、体に激痛が走った。
肘や膝が痛い。勢いで眼鏡は床に転げ落ち、また元の世界に戻る。
眼鏡の僅かな金属臭を頼りに、鼻をひくつかせて、眼鏡を手探りで探す。

あった!
それを両手で拾い、眼鏡をかける。しかし、上下が逆さまだ。

その姿のまま、再び巴が立つ玄関に向かって、デスアは駆け出す。
しかし、鼻と耳に固定されていない上下逆さまの眼鏡は、駆けだした振動で再び床へ落ちてしまう。

いきなり視界が閉ざされ、また転ぶ。痛い。
はっきりとしない視界が、溢れる何かで、それ以上にぼやけた。
テスンテスンと泣きながら、また金属臭を頼りに、眼鏡を手探りで探す。
その繰り返し。

その姿を見ていた巴は、両手で顔を覆って溢れる涙を堪えていた。


◇

巴とデスアの相性は良かったと言える。
同じ雌同士、通じ合うところもあったのだろう。
言葉は通じないとも、互いに信頼し合える間柄に関係は築かれて行った。

休日には二人で音楽を聴きながら、鼻歌を口ずさんだりした。
化粧箱の香水をデスアに嗅がすと、デスアはうっとりとしながらも、くしゃみをした。
それを指指して巴が笑うと、眼鏡越しでデスアは笑い返した。
まるで、女友達。そんな表現が彼女らの間にはぴったりと収まった。

そんな生活が暫く続いただろうか。
中実装ぐらいにデスアが育った時、その眼鏡が窮屈になった。
仔実装の成長は早く、顔の大きさもあっという間に2倍ぐらいの大きさに育った。
眼鏡が窮屈になるのは当たり前の話だった。

実装病院で、視力の検査をして、眼鏡を新調することになった。
弱視は先天性のものであり、視力は良化も悪化もしていなかった。
新調する眼鏡は工場から取り寄せるということもあり、それには数日かかるという。
デスアは、眼鏡なしで数日を暮らすことになった。

そんな、ある日。事件は起こった。

◇

(ガタ)

玄関から音がした。
デスアはぴょんと耳を立てて毛布から顔を出した。

巴は日中、学業に勤しんでおり、夕方には家に帰る。そんな日常を送っている。
石畳の足音は、ヒールの音ではない。いつもの巴の音でない事に、首を傾げるデスア。
時間は、まだ昼間。巴が帰る時間にしては、少し早すぎる時間だった。

(ガチャ… ガチャガチャ)

「テスーーー!!」

鍵穴に鍵が差し込まれる音。
巴が帰って来た。今日は早く帰って来た!
デスアはそう思い、玄関に向かって駆けていた。

「テスゥ!! テスゥ!!」

眼鏡がなくても、慣れた家である。家の構造は、もう大体把握していた。
部屋と台所の段差の場所もわかるし、台所の壁の位置もわかる。
デスアは巧みにそれらを避けながら玄関まで駆ける。

「テスゥ!! テスゥ!!」

小さくジャンプを繰り返し、玄関前に立つ人物に向かって鳴いた。

「テスゥ!! テスゥ!!」

いつもなら、やさしく巴が抱き抱えてくれるはずなのだが、それがない。
少し、オーバーアクションに鳴いたりして、スカートを揺らしたりした。

「テスゥ?」

おかしい。
いつもなら、あの声で鳴く巴が、一向に鳴かない。
不思議に思ったデスアが、鼻をひくつかせる。
眉間に皺を寄せ、必死に臭いを探った。

「実装石を飼っているっていう申告は本当だったようね」

「テスゥ!!!」

巴と違う女性の声色。巴と違う加齢臭のかほり。
それに気付いたデスアは、下着を一気に膨らませながら、後ずさった。
下着から漏れる緑色の染みが、廊下に1文字に緑色の線を作っている。

「テスゥゥゥーーー!! テスゥゥゥーーー!!」

必死に逃げまどうデスア。

「まぁ!」

デスアの姿ではなく、その廊下に描かれた緑の線に顔を歪ませる中年の女。
この中年の女が、このアパートからの住人から、最近、実装石の声が部屋から
聞こえると申告を受け、抜き打ちで部屋の中を伺った管理人であったことを、
デスアが時知る由もない。

「テェェーーーン!! テェェェーーーン!!」

ただでさえ眼鏡のない閉ざされた視界の中、
見知らぬ人間に出会ったデスアは、その場で泣きつくしか方法はなかったのだ。

後日、巴がアパートの大家から、2つの選択肢を突きつけられたのは言うまでもない。

即刻、デスアを連れて、アパートを退去するか。
デスアを処分するなりして、このアパートに残るか。である。

もともと、ペット厳禁のアパートである。
ルールを破った巴が、大家に楯突く権利があるわけでもなかった。


◇

そして…。

「テェェェーーーン!! テェェェーーーン!!」

デスアが大声で、俺の家の中を徘徊している。
実装眼鏡の奥の瞳で、ギョロリギョロリ周囲を見渡しながら、鼻孔をこれでもかと大きく広げ、
耳を実装頭巾の中で右に左に動かし、周囲の気配を必死に探りながら、懸命に巴を捜していた。

「だから泣くなよ。巴が迎えに来るまでに我慢だからさ」

便所マットを捲り、巴を捜すデスア。
始終、テスンテスンと泣きじゃくっている。

(ガタ)

「テスゥゥ!!」

玄関先で音がすると、デスアは甘い声を出しながら、ダッシュで玄関へ駆ける。

「テスゥ〜〜ン♪ テスゥゥ〜〜ン♪」

玄関に降り立ち、玄関をぺしんぺしんと叩く。

「ちわーす。宅配便です」
「テェェッ!! テェェーーンッ!!」

巴でないとわかると、デスアは下着を膨らませて、大声で逃げ惑う。
俺の家に来て、玄関先で、何度同じ事を繰り返すのだろうか。

結局、デスアは俺の家で、ほとぼりが覚めるまで、一旦預かることになった。
巴が迎えに来るまでの僅かな時間だからと説明しても、デスアは泣くばかりであった。

そんなことが拍子で、デスアことデさんは、俺の家で暫く暮らし始めることになった。


(つづく)

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