タイトル:【愛】 実装かぞく18
ファイル:実装家族018.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:1545 レス数:0
初投稿日時:2009/11/19-00:06:44修正日時:2009/11/19-00:06:44
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第18話「デさん2」

実装ショップで買った仔実装は、巴の家へ住まうことになった。
巴の通う短大は、隣県にある。巴は、その短大の近くにアパートを借りていた。

「実装石程度の小動物なら隠れて飼う事ができる」というのが巴の弁である。

まぁ、あいつに買ったプレゼントだ。あいつのしたいようにさせるさ。
というわけで、今年の巴の誕生日の俺の役目は終わった。

◇

数日後、巴から電話があった。
電話口での巴の声は、涙ぐんでいた。
そのいつもならざる状況に、俺は数日前に購入した実装石をすぐさま連想した。

実装石というのは、欺瞞的な生き物であるという知識はある。
躾済みであれ、一人暮らしの女の子が、一緒に暮らすに耐える生き物であるかどうか。
中には、飼い主を飼い主と思わず、糞を投げたり、不平を言う「糞虫」という種類もいると聞く。
もしかして、デスアはその部類だったのか。

電話口で泣きじゃくる巴の原因がデスアであるのか、俺は彼女を慰めながら話を聞いた。
暫し、意味不明な言葉を繰り返していた巴だが、俺の声を聞くと落ち着いたのか、
何とか電話口の声を聞き取ることができた。

「……えないの」
「あ?なんだって?」
「食べないの。ご飯ぜんぜん」
「いや。俺は飯食ってるぞ」
「お兄ちゃんの事じゃない。デさん。デさんなの」

話の内容はこうだ。
数時前、俺が買ったデスアこと、通称……何だっけ、デさんか。
そのデさんとやらが、巴が与えるご飯を一向に食べない、ということらしい。
何を与えているかと聞くと、実装ショップで一緒に買った仔実装用の実装フードという。

仔実装用のフードなんだから、仔実装は普通それを喰うんじゃないのか?
実装石について、何の知識もない俺に、そんなことを相談してもなぁ。

しかし、妹に泣きつかれて無視できるほど、俺も冷酷ではない。
相談ぐらいには乗れるだろうということで、俺は巴宅へと向かった。


◇

「ほらね。全然、食べないの」

巴宅で巴を困られていたのは、あの実装ショップで購った、愛想のない仔実装であった。

確かに。
見れば、巴が実装皿に盛った実装フードをいくら目の前にかざしても、?な顔で、顔を傾げるばかりである。

眉間には、実装ショップの水槽の中でも見せた皺。
時折、皿と巴の顔を交互に見やり、ひたすら首を傾げ、眉間に皺を寄せるのだった。

「この仔、食べないと死んじゃうのかなぁ」

実装石について知識のない俺でもわかる。食べないとたぶん死ぬ。

でも、そういやこいつ。実装ショップでも、客に対して媚びたりもしなかった。
周りの水槽の仔実装たちは、生き残るために、必死に声を張り上げて鳴いていたのにだ。
媚びすらしなかったこいつは、今も飯を食おうともしない。

もしかして、生に対する渇望が、希薄なのかもしれない。
しかし、そんな生き物が果たして、この世にいるのだろうか。
腕を組みながら、俺もこいつと同じように、眉間に皺を寄せて首を傾げた。

「お兄ちゃん。病院。病院連れて行こうよ」
「うーん。そうだなぁ。多分それが一番なんだろうけど…」

思案顔でそう言う俺は、あることに気づく。
仔実装デスアの鼻がピクピクと動いていた。
鼻孔が大きく。小さく。そして、深く。浅く。
呼吸を細切れにしながら、鼻の穴が別の生き物のように、ピクピクと動いているのだ。
そう。それはまるで何かを探しているかのようだった。

「巴。牛乳あるか?」

それは単なる思いつきであった。
その仔実装の姿が、まるで母の乳房を求める子猫のように見えただけである。
ただその単純な思考からの試行が、思わぬ成果を上げる形となった。

「テェェェッ!? テチューーッ!! テチュゥゥーーッ!!」

小皿に牛乳を注いだ途端、その皿に飛びつくように駆けるデスア。
そして、前掛けをべっとり汚しながら牛乳で顔を洗うが如く、啜るであった。

生に対する渇望が希薄だなんて、考えすぎであった。
こいつ、こんなに腹を空かせているじゃないか。
先ほどまで涙ぐんでいた巴も、ぱぁと顔が明るくなる。

よっぽどお腹が空いていたに違いない。
2杯。3杯。注げば注ぐほど、デスアはミルクを総て飲み干した。
4杯目のミルクでようやく満腹になったのか、デスアはトロンとその場で寝入ってしまった。

「テスー… テスー…」

「よかったぁ。でも、何でこの仔、フード食べなかったんだろう」

巴が言う。

「さぁな。よっぽど不味い物だったんじゃないか」

俺がそう言って、実装皿に盛った仔実装用のフードの匂いを嗅いだ。
ほら。うまそうな匂いなんてこれっぽっちもしやしない。無味無臭の塊のようなものだ。
そう考えながら、俺は指で実装皿の上のフードを指で弾いた。

◇

その日は事なきを得たが、結局、数日後デスアは病院に連れて行かれることになった。
それは、あまりにも、家の中の行動がおかしかったからである。

部屋の中でも、一カ所にじっと座り、動こうともしない。
唯一トイレの時だけ、震え震え、鼻をひきつかせながら、震える手足でトイレへ向かう。
飯時に、実装フードを出しても、まったく手をつけない。
仕方がなく牛乳を与えると、鼻をひくつかせて、飛びつくようにして飲む。

仔実装は、もっと元気で、部屋中を走り回るものだという。
それは、巴が想像していてた仔実装との生活にはほど遠かった。
そんなこともあり、俺は巴の付き添いとして、デスアを連れて実装病院へとやって来たのだった。

 これは、大きな病です。
 ご愁傷様です。もう手遅れです。

医者から、そんな宣告をされることを想像していたのだが、医者の診断は拍子抜けなものだった。

「近眼です」
「へ?」

俺と巴がハモってそう答える。

「近眼です。それも重度の」
「は?」

その医者の診断で、今までの事象の総てが合致した。
あの眉間の皺と愛想のなさ。弱視ゆえのデスアの癖なのだ。
実装ショップで、人間に向かって媚びない姿は、恐らく人間を認識していなかったのではないか。

実装フードを前にして、鼻をピクさせて、何かを感じ取ろうとしていた姿。
あれは無味無臭の実装フードの微かな匂いを感じ取ろうと、必死に試みていたのだ。
牛乳に反応したのは、匂いのきつい牛乳故、容易く反応が出来たということ。

部屋で一向に動こうとしないのは、視界の利かない部屋を動き回る恐怖から。
唯一トイレを、恐れ震える手で、手探りと匂いで探し出したのは、
躾けられたことを愚直に守ろうとする飼い実装の姿であったのだ。

「はぁ〜」

崩れるように肩を落とす巴。
緊張の糸が切れたのか、彼女からは、やるせないオーラが漂っていた。

「大丈夫です。眼鏡で矯正をすれば、見えるようになりますよ」

肩を落とす巴に、医者は言った。

「仔実装用の大きさに眼鏡を新調しましょう。目が見えれば実装フードも認識するでしょう」

医者はそう言って、仔実装用の眼鏡を持ってくる。

「度はもう少し検査して合わせるとして、これをかければ、見えるはずですよ」

医者は、やさしく小さな眼鏡をデスアにかけてやった。

デスアは、始めて広がる視界に、はっと息を吸い込む。
目を何度も瞬かせながら、周囲のぼんやりとした風景に見入っていた。

「この仔は、先天性の弱視ですね。生まれてこの方、はっきりと風景を見たことがないと思いますよ」

ずれ落ちる眼鏡を、仔実装の小さな手で必死に支えながら、何度も何度も周囲を見るデスア。
始めて見る風景に、デスアは頬を赤らめていた。
そして、そのデスアを心配そうに覗き込む人間がいる。

その姿にデスアは気付いたのか、赤らめた頬のまま、その人間を見上げた。
これから始まるであろう、20年余の実装生にパートナーであるご主人様を、デスアは始めて認識したのである。

「へへへ」
「………」

「はじめまして」
「………」

「私の名前は巴」
「……シャ」

「よろしくね、デさん」
「シャァァァァァッーー!! シャァァァァァッーー!!」



始めて会う人間の姿に、デスアが驚いたのは無理もない。
今までデスアが認識していた脳裏に映る人間の姿とは、弱視で見えたぼんやりとしたシルエットのみ。
医師が処方したサンプルの実装眼鏡とは言え、それは人間の姿を認識させるには充分だった。
生まれて始めて視力を矯正されたデスアは、いきなり別世界に召還されたような印象を持ったのだろう。

「シャァァァァァッーー!! アッアッーーーーッ!!!」
「ちょ、ちょっと」

パンツは膨らますわ、糞を投げるわ、口の両端が裂けるほど喚くわ、デスアの狂乱ぶりは凄まじかった。

「ヂィィィィーーッ!! ヂィィィィーーッ!!」

始めて視認する人間の姿に怯え、この世に生まれ落ちたことを呪うが如く、
絶叫を振り絞りながら、この世の理に抗うデスアの姿があった。

「アッーーーッ!! アッアッーーーッ!!」

糞を投げるデスアの眼鏡が、ズルリとずれ落ちた。


(つづく)

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