タイトル:【愛】 実装かぞく17
ファイル:実装家族017.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:1476 レス数:0
初投稿日時:2009/11/13-23:50:48修正日時:2009/11/13-23:50:48
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第17話「デさん」


今日は、デさんの話。
デさんの仔実装の頃の話である。

「お兄ちゃん。この仔、すっごいメンチ切ってるよ」

巴が、実装ショップで1匹の実装石を指さして笑っていた。
今年入った短大で、実装石を飼っている友人に触発されたらしい。

「はやく選べよ」

誕生日プレゼントが実装石だなんて、子供だましも甚だしい。
我が妹ながら、巴には変わったところが昔からある。

「実装石……ね」

俺は実装ショップの水槽の中で、デスデスと鳴く実装石を見ながら呟いた。
正直、その時、俺は実装石に興味などはなかった。
今、思えば2年前のことである。

◇

定価28万円。今なら10%OFF。
信じられない値段のPOPが、水槽に煌びやかに貼られていた。
正直、誕生日プレゼントの選定を誤ったか。
そう思ったが、実装ショップの中を鼻歌交じりで見て回る巴の姿に、
今更値段が高いからよせと、言うわけにもいかなかった。
お兄ちゃんは社会人なのだ。

はぁ〜と溜息をつきながら、水槽越しに俺の姿を認めるや否や
「テチュゥーン♪ テチュゥーン♪」と哀しげに鳴く実装石たち。

手を口元に添え、首を斜め45度へ傾げ、お決まりのポーズで俺に媚びている。
まぁ、こいつらも必死なのだろう。
いい飼い主に飼われることこそが、こいつの実装生を左右することなのだから。
今こそ精一杯に自らの可愛さや愛嬌をアピールする時なのである。

だから別に、俺はこの実装ショップに響き渡る鳴き声にも、別段不快感を持たなかった。
いや正確には、興味を持たなかった、というのが正しいだろう。
今日は、妹の巴の誕生日プレゼントを買いに来たのだ。
ただそれだけ。それだけの理由で、俺はここにいる。それだけだ。

何も考えずに、ぐるりと1週。
ふと、一つの水槽の目がいった。

(お兄ちゃん。この仔、すっごいメンチ切ってるよ)

先ほどの巴が指さしていた実装石である。

「………」

なるほど。メンチを切るばかりに眉間に皺を寄せて、俺の顔を睨んでいる。
他の水槽の必死に媚びを売る実装石たちに比べると、なんと愛想のないことか。
見れば、水槽の値段のPOP。由緒正しい血統なのか20万の表示額に×がつき、
15万→12万→8万→5万、そして29,800円まで値崩れしていた。

見れば、体は仔実装の大きさとは言い難い。
もう数週間すれば、中実装と言えるほどの大きさに育つだろう。

聞いたことがある。
売れ残った仔実装は、最終的に処分される運命にあることを。
他の水槽で、必死に声を荒げて、喉が潰れんが如く鳴いている仔実装たちは、
売れ残った先に訪れる己の運命を知っているのだろう。
だからこそ、その運命に抗わんと、今を懸命に声を張り上げて生きていた。
しかし、何だこいつは。

「………テー」

ち。可愛げのない奴。
俺はそんな感想を持ちながら、巴の選定が終わるまで、また店内をぶらりと1週した。

(まったく、どいつもこいつも、テチテチと煩せーなぁ)

そして、2週目。
また奴と目が合う。

「…………」
「…………」

見つめ合うも言葉はない。
再び、店内をぐるりと1週。

(巴の奴。まだ決めてねーのかよ)

3週目。

「…………」
「………テー」

(あいつ。売れなかったらどうなるんだろうな)

そんなことを考えながら、店内を再び1週。
4週目で、俺はこいつに話しかける。

「おまえ。売れ残ったら処分されるんだろ」
「…………」

「だったら、もう少し、懸命に媚びたらどうだ?」
「…………」

「周りのお前の友達なんて、テチテチ鳴いてるぞ」
「………テー」

俺の顔が不思議なのか、眉間に皺を寄せながら、俺の顔を食い入るよう首を傾げて睨んでいる。

「……変な奴」

俺があまりにも水槽を覗き込んでいたので、店員が素早く俺に近寄ってきた。
実装石の知識などさほどない俺は、「躾済み」やら「血統」やらのセールストークに
あまり興味を示すことはできなかった。

「こいつ値崩れしてますよね」

単刀直入に、俺は店員に言った。

「もうすぐ中実装になるんでしょ?処分しちゃうんですよね」

聞きかじりの知識で、店員に言い寄ると、なんと値段を1万円まで下げて来た。
加えて、仔実装用のケージや餌。玩具などをつけると言う。

こいつ。よっぽど売れないと店員にも見込まれているらしい。
再び店員が勝手に値段が5000円まで値下げを始めた時、
俺は、「こういうのを、厄介払いって言うんだろうな」と思った。

しかし、こんな厄介払いを巴のプレゼントに買うわけには……

「お兄ちゃん。私、この子がいい」

店員と何か話し込んでいた俺に気づいてか、巴はいつの間にか値段交渉の頃から、
俺の後ろに立って居たらしい。

「おまえなぁ。折角のプレゼントなんだから、もう少しいいのを選べよ」
「ほら。この子、愛嬌があるよ」

「………テー」

巴の手の中で、何もない宙の1点を見つめて、眉間に皺を寄せながらテーとなく仔実装。
これのどこが愛嬌があるのか。

俺は頭を掻きながら、この愛嬌のある(?)仔実装を、眉間に皺を寄せながら見つめるのだった。

結局、仔実装用のケージと玩具。リードに仔実装用の実装フード。
諸々併せて5000円で、この仔実装を巴のプレゼントとして買うことになった。

この仔実装こそ、若き日のデスアことデさんである。
デさんの話は、もう少し続く。

(つづく)

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