第16話「2匹はデスピュア」 「デスァ!! デスァ!!」 「テスゥゥーー!!」 「チャァァーーッ!! ァッァッーーッ!!」 今日の3匹は、居間のテレビの前で大騒ぎだった。 それもそのはず。今、実装界で話題のテレビアニメ。 「2匹はデスピュア・マックスハート」のアニメで大騒ぎなのだ。 「デスゥゥゥー!! デスデスゥーー!!」 あの冷静沈着なデさんですら、この騒ぎようである。 布団叩きを手に、デスピュアになりきり、大興奮この上ない。 「2匹はデスキュア」とは、ごく普通の飼い実装の雌2匹が、デスキュアという 正義の味方に変身し悪と戦うという、昔からよくある勧善懲悪ものストーリーなのだが、 その分かり易さが、今、飼い実装の界隈で大人気なのである。 「チャァァァーーーッ!!」 うちの仔たちも、その例外ではない。 ボラギは、下着を湿らせながら、テレビのブラウン管に食らい付いている。 まぁ、週に1度の楽しみにしているアニメだ。少しの粗相は大目に見よう。 「テスゥーー!! テステスゥーーッ!!」 頬を赤らめながら、テレビアニメを鑑賞する3匹。 悪役が倒される度に、ガッツポーズを決めて、唾を飛ばす。 日曜日の朝から、まさに微笑ましい風景が、我が家で展開されていた。 ◇ 「デスゥーー!! デスデスゥーーー!!」 その日の午後、居間のソファーの上では、3匹が遊んでいた。 黒縁の実装眼鏡をずらしながら、布団叩きを振りながら、デさんが大声で叫んでいる。 「テスゥーー!! テステスゥーー!!」 負け時とモニカが、どこから持ってきたのか、便所のタワシブラシを上下に振っていた。 「テチュゥゥーーッ!! ウッゥッーーーッ!!」 ボラギも、耳かきを手に声高に何かを叫んでいる。 そうか。これは「2匹はデスピュア」ごっこ。そう悟る俺。 銘々、デスピュアに成りきったつもりで、主人公に同化して、酔いしれているらしい。 しかし、困ったことがある。 そう。2匹はデスピュアなのだ。 ん?言い直そう。デスピュアは2匹なのだ。 「デスァ!! デスァ!!」 「テスゥ!! テスゥ!!」 「テチュゥゥーーッ!!!」 3匹のうち、2匹がデスピュアであり、1匹は役回り上、必然的に悪役となる。 そうすれば「デスピュアごっこ」は成立するのだが、自我の強い実装石が そう主役を譲るとは思えなかった。 「ダァッ!! アッアッーッ!!」 「テェェ!! エッエッーッ!!」 「テェェェーーーーッ!! テェェェーーーーッ!!」 ふむ。このままでは体格差で、ボラギが悪役に廻されてしまいそうだな。 ここは飼い主である俺が人肌脱ぐときであろう。 そう思うと、俺は部屋からミス=マスカラスの仮面を持ち出し、3匹の前へと躍り出た。 『がははは。3匹のデスキュアめ。今日こそ成敗してくれるわ!!』 リンガルでそう声高にダミ声で3匹たちに啖呵を切った。 「デデェ!?」 「テェェ!?」 「チャァ!!?」 悪役である俺の登場で、3匹の心はマックスハート。 先ほどの醜い争いも何処へやら。デさんが「デスッ!! デスデスゥ!!」と声高に叫んだ。 (リンガルの表示には『フォーメンションAデスゥ!!』) 3匹の攻撃は多彩だった。 ぺしんぺしんと俺の足に、布団叩きで攻撃を加えているデさん。 これはデスキュアの必殺技。デスキュア・レインボー・ストームだろう。 モニカのこの変な踊りは、デスキュア・マーブル・スクリューへの導入部分だ。 あとでわざと大げさに技を喰らってやろう。 「テチュゥーー!!」 耳かきを槍のように水平に翳して(かざして)、駆けるボラギ。 ふん。ちょこざいな。俺がデコピンで軽くなぎ倒すと、ボラギは紙のように宙に舞った。 「テェ!! テェェェーーーーンッ!!」 「デデッ!!」 デさんがボラギの元へと駆け寄る。 「デデッ!! デッスンッ!! デッスンッ!!」 仲間の姿に、その場で地団駄。デさんの怒りに火が灯ったようだ。 デさん、ボラギ、モニカの3匹が手を取り合い、デスキュア最大の秘技を繰り出そうとしていた。 ふ。そろそろ頃合いか。 「デェェーーッ!!」 「テェェーーッ!!」 「チュェェェーーッ!!」 3匹が叫ぶと同時に、彼女たちはそれぞれ手にした獲物を宙に放り投げ、 彼女らの最大必殺技が炸裂した。投げつけた獲物は、俺には届かず、無惨にそのまま 居間のカーペットの上に落ちたが、俺は胸元を押さえつけながら、大げさに苦しみ始める。 『お…己… デスキュアめぇ……』 俺は口の中で舌をかみ切り、大層に血を口から吐き出す。 俺の迫真の演技に、デさんたちも顔を引きつらせて返してくれる。 そして、そのまま大の字になって、その場に倒れ込んだ。 『この俺が滅んでも……、悪は滅びぬ……、人の心に……』 「デスァ!! デスァ!!」 倒れた俺に、ぺしんぺしんと容赦ない追い打ちを加えるデさんたち。 いや、まだ台詞を吐ききってないぞ。ま、いいか。以下、省略。 『見事なり!! デスキュアッ!!』 死亡する俺。 悪を滅ぼし、デさんたちは、大はしゃぎだった。 「デッスゥ〜〜ン♪ デッスゥ〜〜ン♪」 「テスゥゥ〜〜♪ テスゥゥ〜〜♪」 「チュゥ〜〜ン♪ チュフゥ〜〜ン♪」 ふふふ。大喜びだ。これぞ飼い主冥利につきるってものだ。 しかし、俺は困惑していた。俺の周りで気が狂ったように踊り続ける3匹。 そう。どのタイミングでこの「ごっこ」を終わらせればいいのか。俺は困惑していたのだ。 こんな大喜びするデさんたちに、水を差すのも悪い気がする。 ま、少しはこのままで、彼女たちに勝利の余韻を味わせてやるか。 そんなことを考えながら、目を瞑っていると、段々睡魔が訪れた。 日曜日の昼下がり。このまま惰眠を貪るのも、悪くはあるまい。 ◇ 「……ェェェーーン!!」 ふと気がついた。 何か耳元で声が聞こえる。 俺が薄っすらと目を開けると、3匹が俺の耳元で大声で泣いていた。 「デェェェーーンッ!! エェェェーーンッ!!」 「テェック!! テェック!!」 なんだ? そういえば顔がすーすーする。マスクは? どうやら俺が寝ているうちに、デさんたちが悪の正体を確かめようと、俺のマスクを剥いだらしい。 「テェェェーーーーンッ!! テェェェーーーーンッ!!」 そうか。 マスクを剥いだということは、悪役の正体が飼い主である俺であったことに、3匹は気づいたらしい。 そして3匹はきっと、自分たちのせいで、俺が死んでしまったと勘違いしてしまったのではないか。 「デェック!! デェック!!」 薄目で見れば、デさんたちの頬には、インディアンのように緑色の線がいくつか描かれていた。 それは、まるで黒魔術の死に神化粧のような出で立ちであった。その姿に、俺はピンと来る。 これは「2匹はデスキュア」第43話。「復活デスキュア」の巻であった死者の復活の儀式。 あの回では確か、自らの糞を顔に塗りたくり、ゾロアスターの死者の復活儀式により、 デスキュア達が復活する話ではなかっただろうか。 「テスン!! テスン!!」 モニカが何度も、下着から自らの糞を取り出し、口にしたり、顔を塗ったりしている。 何度、儀式を繰り返そうが、ピクリともしない俺に、大粒の涙を流して悲しんでいる。 嗚呼…。 俺は心の奥が暖まっていく感覚に身を包まれていた。 俺は、こいつらに心底愛されているんだな。まさに飼い主冥利に尽きると感じていた。 もう少し、この感覚を味わいたい!しかし、そう思ったのが間違いだった。 「デスン!! デスン!!」 3匹は倒れた俺をそのままに、続いて台所へと向かう。 何をしようとしてるんだ?俺は気づかれないように起きあがり、台所の様子を伺う。 見れば3匹が銘々前髪を掴み、何本も何本も前髪を引き抜いているではないか。 あれは確か「2匹はデスキュア」第98話。「タイムトラベル」の巻であった、時間逆行の方術。 3匹が引き抜いた髪の毛を床に置き、3匹が両手を繋ぎ合い輪になって 「ベントラ・ベントラ」と呪文を唱えながらマイムマイムを踊ることによって、過去に遡る術である。 いかん。いかん。 このまま放っておけば、「2匹はデスキュア劇場版」の秘技、「即身成仏の入仏」や 「2匹はデスキュア秋のスペシャル」であった「雪山で遭難。山小屋で触れ合う肌」まで再現しかねない! 俺は口のまわりの血を拭い、頃合いを見計らって、抜いた髪の毛の周りを回る3匹の元へと声をかけた。 「あれ。おまえたち。何してるんだ、こんなところで」 「デェェ!!」 「テスゥ〜〜ン♪」 「チャァ!! チャァ!!」 3匹には、時間逆行の方術が成功したかのように映っただろう。 涙を流して喜ぶ3匹。こうして、昼下がりのデスキュアごっこは無事に終わりを告げた。 ◇ これに懲りてか、彼女らはデスキュアごっこはしなくなった。 俺も悪ふざけが過ぎたのは反省である。そして、次の日曜日の午後。 「デスァ!! デスァ!!」 「テェ!! テェェェッ!!」 「テチュゥ〜〜ン!! ンッンッ〜〜ッ!!」 デスキュアの裏番。実装戦隊デスレンジャーを見て、唾を飛ばしているデさんたちの姿があった。 そして、俺は戦隊ごっこが始まらないうちに、こっそりと逃げ出すように自室に籠もるのだった。 やれやれ。 (つづく)
