ウメはさつきを暫く預かる事を、母実装に教える為に、朝早く公園に来ていた。 初夏とはいえ、朝の公園は半袖では涼しい位で、空気も澄んでいる。 『さて、さつきのママは何処にいるのかしら』 『実装石も少ないし、少し早かったかしら』 ウメは最初に会ったベンチの周りや、噴水付近を捜したが見つけられなかった。 『大体、実装石ってみんな同じ格好をしてるから、見分けがつきにくいわ』 『そうだ!マリモの家のダンボール近くって、言ってたっけ』 昔はあったであろう、ダンボールハウスの残骸付近を、ウメは調べた。 暫く捜すと、大き目のダンボールが植え込みと桜の木の根元に、 うまくカモフラージュされて、ひっそりとあった。 『ここかしら・・・これじゃー見つけにくいわね』 ウメはダンボールを軽くノックしてみる。 聞き耳を立てると、中で何かが動いている音がする。 するとダンボールの取っ手部分がパカッと開き、そこから実装石がこちらを見ていた。 ウメはしゃがんで、その窓であろう部分を覗きこむ。 『あなたは、さつきのママなの』 窓部分の実装石の目は驚いたように見開き、中で慌てているのが音で分かった。 ダンボールの切り口が少し開くと、実装石が顔を出す。 「人間さんは、この前の・・・」 安心したのか親実装はダンボールハウスを出てきた。 「子供達が、まだ帰ってきていないデス」 「人間さんの所に、まだいるデスか」 『その事で、あなたの所に来たの』 『さつきは、私が預かってるわ』 「良かったデス・・」 『すみれは・・・・マリモの所よ』 「やっぱり・・すみれも商店街に行ったデスか」 「さつきに言われて捜したデス、でも見つからなかったデス」 「すみれが何かしたデスか」 「さつきは・・・どうなったデス」 ウメは親実装に商店街であった事を、実装石でも分かりやすい様に話した。 話を聞く親実装の顔が、悲しそうになって行くのがウメにも分かった。 最後まで話を聞き終わると、親実装は涙を浮かべる。 「さつき・・・さつきが可哀相デス」 「ママはバカデス・・・さつきに責任を押し付けたデス」 『でもね・・・ああ何だか、釈然としないのよ!』 「・・・はいデス」 『だって、さつきは何もしていないのよ』 『悪いのはすみれ!さつきは悪くない』 『姉妹だからって、さつきに責任があるなんて、商店街の奴らったら』 ウメは鬱憤を親実装にぶつける、商店街の人間には話せない事も・・・ 何よりも自分を慕って、商店街まで遊びに来たさつき・・・ 自分の子供の様な感情が芽生えていた。 そんな様子を見ていた親実装は、人間なのに実装石ではなく、 人間に対して怒りを表しているウメに、 なぜさつきがこの人間を大好きなのか、分かった気がした。 今まで、何人もの愛護派の人間が、大人しく賢いさつきに興味を示した、 飴玉や金平糖を与えて、さつきを懐かせようとしたが、 さつきは飼い実装への線を、越えようとはしなかった。 自分を本気で怒ったり、心配したり、一緒に泣いて笑ってくれる、 そんなウメに、さつきは心を開いていった。 「人間さん・・お願いがあるデス」 「さつきを暫く人間さんの所に置いて下さい。」 『そのつもりだけど・・・』 「今この公園は、仔実装には危険な所デス」 「起きている事件が解決するまで、さつきをお願いデス」 『・・・理由を聞かせてくれる』 どうやら、最近の公園に、同属食いの実装石が隠れているらしい。 既に10匹近くの仔実装と、体の小さな成体実装2匹が姿を消している。 必ず夜に失踪があり、行動時間は夜に限定は出来ていた。 仔実装の失踪には形跡も無かったが、成体実装の時に明らかに食べられた形跡が見つけられた。 それ以来公園の実装同士で連携を取り、ここ3日は公園実装の失踪は見られない。 ただ犯人が見つかっていないので警戒はしている、自警団を10匹位で作り、 夜の公園を警戒して回った。 『私達も手伝いましょうか』 「実装石の事は、実装石が解決するデス」 「それがこの公園の実装石のルールデス」 「それよりマリモには、お礼が言いたいデス」 「さつきを守ってくれたデス」 『マリモはさつきのお姉ちゃんだもの、そんなの当たり前よ』 「それよりこれから話す事は、マリモに黙っていて欲しいデス」 「・・・マリモのママの事デス」 『マリモのママって、いなくなったんじゃ・・」 「マリモのママは公園に帰って来てるデス」 「あの姿だから・・・見た実装も間違いないって言ってたデス」 「他にも見られてるデス・・・・・ただ」 「今回の事件とマリモのママの目撃が、同じ位の日デス」 『それじゃ・・・子供を食べてる実装石って・・・』 「見た訳じゃないから、分からないデス」 「でも公園の実装石はみんな、マリモのママが犯人だって言ってるデス」 「私も・・・多分そうだと思うデス」 『ふーん・・・確かにマリモには話せないわね』 「見つけたら多分殺されるデス」 「マリモにはそんな所を、見せたくないデス」 『そうね・・・マリモが公園に近づかないようにするわ』 「でも・・おかしいデス・・」 「以前の、マリモのママを知ってるデスが、危険な実装石じゃなかったデス」 「マリモがいなくなる前は、この公園で一番賢かったデス」 「マリモがいなくなってから・・・変ったデスか?」 『どっちにしても、さつきは責任持って預かるから安心してね』 商店街に帰る道中ウメは考えていたのは、さつきよりもすみれの事だった。 このまま、すみれと一緒にいれば、さつきはいつか命を落とすような事件に巻き込まれる。 マリモは一体すみれに、どんな教育をするのか。 教育した所で賢くないすみれが、更正する事など無いのではないか。 実装石の行う間引き・・・すみれを見ていると、必要な事の用にウメも感じていた。 体中を紫色に腫らし、すみれは気絶したまま眠っていた。 何か良い匂いがする・・気が付くとマリモが朝ゴハンを食べている。 すみれは匂いに釣られて、マリモの横に座った。 手を出せば、横に置いてある竹串で突き刺される・・・ 今日の朝ゴハンは、海苔で巻かれた人間サイズの、おにぎりが1個置かれている。 マリモの顔をチラチラと見ながら、すみれは何かを訴えている。 重苦しい空気に我慢が出来ず、すみれが口を開いた。 「マ・・マリモお姉ちゃん・・」 マリモはすみれの言葉を無視して、おにぎりを食べていく。 段々と少なくなっていくおにぎりに、すみれが焦りだす。 「すみれも・・・すみれも食べたいレチ!」 「食べたいテチか」 「すみれ・・・お腹ペコペコレチィ・・」 「食べさせてやっても良いテチ」 「レチィィ!!」 マリモが話すや否や、すみれはおにぎりに飛びついた。 ドスゥゥッ!! 竹串がすみれの腕を貫通した。 「レッチャァァアア!!」 「意地汚い奴テチ」 「だ・・だって・・食べても良いって」 「食べろとは言ってないテチ」 すみれの股間を見ると、竹串を刺されたショックで糞を漏らしていた。 「糞は決まった場所でやるもんテチ」 腕から竹串を抜き取った。 ズボッ! 「チャッ!!・・・・い・・痛いレチィ」 マリモは抜いた竹串を、今度はすみれの太ももに突き立てた。 「糞を漏らしたお仕置きテチィィ!!」 ズブ!ズブゥゥウウ!! 「ヂヤァァァァアア!!」 ブッブババッブバッブリィィィイ!! あまりの痛さに糞を盛大に吹き上げた。 殺される・・・このままじゃ殺されてしまう。 すみれはマリモから逃げる為に、パンコンしながら後ずさった。 「糞を漏らすなって、言ったテチ」 「お前は糞蟲テチ」 「糞蟲は躾けなければ駄目テチ」 すみれは後ずさったが、狭い水槽の中、端まで来てしまう。 「マリモお姉ちゃん!やめてレチ」 「言う事をちゃんと聞くレチ」 実装石の本能なのか自然に媚ポーズをしてしまう。 「レチュゥーン、お姉ちゃん大好きレチ」 すみれは実装石お得意の、媚ポーズでマリモに精一杯媚びた。 マリモはその姿を見て、怒りの頂点に達してしまう。 「媚びるなぁぁああ!!」 バキ!! 「お前は今、実装石の一番やってはいけない事をしたレチ」 グシャ!! 「お前は何回言っても、糞を漏らすレチ」 ドス!! マリモはスミレの髪を掴んで引っ張り上げる。 「ハアハア、分かったテチか」 「なんとか言えテチィー!」 スミレはだらりと体を伸ばし、これ以上痛くされないよう、マリモにお願いする。 「わ・・わ・わ・分かったレチ!!分かったレチィー!!」 「もう痛いことはしないでレチ、痛い事はやめてレチィー!!」 掴んだ髪を引っ張り、スミレの漏らした糞に投げつける。 その時、ブチブチと髪の毛が、少し千切れてしまう。 ベチャッツ!! 「レッチー!!」 「か・か・・髪の毛が千切れたレチィー」 「もう生えてこないレチィー」 「ひどいレチ!ひどいレチ!マリモお姉ちゃんはひどいレチィー!」 「フン、少し千切れただけテチ」 「禿げになった訳じゃないテチ」 「う・うう・・ウワァーン!!」 スミレはいつも母実装に、髪の毛と服は生まれた時からの物で、 二度と元どうりにはならない、命の次に大事にしろと、教えられていた。 そそれなのに、服は脱がされ命の次に大事な髪の毛を引き千切られ、 ショックは相当な物だった。 「漏らした糞を食べろテチ」 「グスン・グスッ・・・レチャ?」 「食べろって言ったテチ」 「エッ・・?ウンチは、食べる物じゃないレチ」 「聞こえなかったテチか、また殴られたいテチ」 「・・レチィーー!」 「無理レチ!無理レチ!ウンチなんて食べたら、死んじゃうレチ!!」 「実装石が粗相をしたら、舐めてキレイにするのは当たり前テチ」 マリモは水槽の底にひりだされた糞を掴んで、スミレの顔になすり付ける。 「お前の糞テチ、キレイにするまで食べろテチ」 スミレは、口を閉じて首をブンブンと振って抵抗した。 言う事を聞かないスミレの腹を蹴り上げた。 ドズッゥゥ!! 「ゲボー!!」 「ブリッ!ブリリッ!!」 スミレは、糞とゲロを撒き散らしながら、転がっていく。 あれだけパンコンしても、まだスミレから糞が吹き上がる。 「糞を食えテチ!!」 スミレは慌てて自分の糞を、口に持っていって食べ始めた。 マ・・マズイ!・・でも食べなきゃ・・・マリモに殺される。 ゲロを吐いては、口に詰め込み、またゲロを吐いて、 口に詰め込んでを繰り返し、糞を食べた。 今まで糞を食べた事の無いスミレは、その不味さと、糞を食わされるみじめな自分が、 情けなくなり、泣きながら糞を口に詰め込んだ。 「・・良いテチか、キレイに舐め取るまで、やめては駄目テチ」 そう言うとマリモはヤスに連れられて、仕事に行った。 残ったスミレは一人黙々と、糞を食い続けた。 ウメは自分の家に戻って来ると、さつきが店の前で不安そうに待っていた。 ウメに気づくと、さつきの顔に安堵の表情が浮かんだ。 『今日はさつきも、お仕事するのよ』 「ウメおばちゃんのお手伝いテチか」 「さつき・・がんばるテチ」 『私の店じゃ無いの』 そう言うと、さつきの手を引きウメは歩き出した。 商店街を歩くさつきは不安だった、昨日の事がまだ頭に残っていて、 自分は商店街の店主達から、当然嫌われていると思っていた。 手を引かれて着いた先は、あの惣菜屋だった。 ここはすみれが昨日、迷惑をかけた店・・・ こんな所に連れて来て、一体どうするのか。 「ちょっとー、私よー・・あけて頂戴!」 ウメは惣菜屋のドアをドンドンと叩いている。 さつきは自分の心臓の鼓動が、早くなってくるのを感じた。 『あーウメさん・・こんな早くから何です』 惣菜屋が目を下に向けると、昨日の実装石がいる、とたんに惣菜屋の顔が険しくなる。 『ウメさん・・・一体何のつもりですか』 やっぱり自分は嫌われている、当たり前だ昨日あんなに無茶苦茶にされたお店、 その犯人は自分の妹、姉の自分も同じように嫌われて当然だ・・・ さつきは惣菜屋の顔を、まともに見れなかった。 『今日はねえ、この仔があなたのお店で働くのよ』 惣菜屋とさつきは、ウメの言葉に驚いてしまうが、総菜屋は噛み付いてきた。 『駄目だ!駄目だ!いくらウメさんでも、こればっかりは』 『大体な、実装石に何が出来るって』 ウメは惣菜屋の言う事が分かっていたのか、涼しい顔で答えた。 『3日前ね魚屋が競輪場に行ってきたの・・・知ってる』 総菜屋の顔が曇った・・・ヤバイ・・ばれたかな。 『魚屋が見たって、あなた何してたの・・奥さん知ってるかしら』 その時ドアから惣菜屋の女将が出てきた。 『あらウメさん・・・んっ・・マリモじゃない、今日は遊びに来たの』 『マリモじゃないわ、さつきって名前よ』 『ふーん・・・こんにちは、さつきちゃん』 さつきは頭をぺこりと下げて挨拶をした。 「こんにちはテチ・・よ・・宜しくお願いしますテチ」 『宜しくって・・何が?』 惣菜屋に隙を作らせずに、すかさずウメが答えた。 『この仔は今日ね、惣菜屋さんで仕事をしたいんだって』 『本当!さつきちゃんね・・宜しく』 『ふぅ・・しょうがないな・・一日だけですよ、ウメさん』 『そう言うと思ったわ・・でも・・あなた、マリモと区別が付かないわね』 『実装石なんて、おんなじ格好だから・・ちょっと待ってなさい』 店に戻ってウメは何かを持ってきた。 『リボンでも付けてあげるわ・・・・よし!』 さつきの右耳に赤いリボンが付けられた。 さつきはリボンを触り、嬉しそうに微笑んだ、どうやら気に入ったようだ。 惣菜屋の女将がさつきに話しかける。 『いらっしゃい・・・一緒にゴハンでもたべましょう』 女将はさつきの手を引き、家の中に消えていった。 仕事が始まったが、さつきは何をして良いのか分からずに、 通路の端で、邪魔にならないように立ち尽くしていた。 惣菜屋の店主も実装石に、何かをしてもらおうとは思っておらず、 さつきの事を気にも留めなかった。 さつきの心は複雑だった、実装石の自分に出来る事・・・ マリモお姉ちゃんのように、役に立ちたい・・・ 心は焦ってしまうが、何をして良いのか分からない。 このままじゃウメおばちゃんや、マリモお姉ちゃんにも迷惑が掛かる。 何より妹が迷惑を掛けたこのお店に、何か恩返しがしたい。 そんな事を考えている時、店主がおつりを落としてしまう。 おつりのコインが、さつきの足元に転がってきた。 さつきはコインを素早く拾い、店主の元へ持っていった。 「おじさん・・こ・・これ」 店主はムッとした顔を一瞬したが、実装石の好意に大人気ないなと思ってしまう。 『・・ありがとな・・さつき』 さつきは笑顔で答える、まっすぐな笑顔に怒っていた自分が恥ずかしくなった。 そんなやり取りを見ていた女将が、さつきの手を引いて、店の一番前につれて来た。 『ほら、亭主と同じ様にしてご覧』 『イラッシャイ!』 『毎度有り!』 『さつきも、やって見なさい』 さつきは店主に合わせて、お客に挨拶をする様になった。 「いらっしゃいテチィ!」 「まいどありぃテチ」 頭をペコリと下げさつきは一生懸命、挨拶を繰り返した。 仔実装の自分に出来る事・・・手は出せないが声は出せる。 「いらっしゃいテチィ!」 「まいどありぃテチ」 さつきは懸命に繰り返す、いつしか挨拶をする仔実装がいる・・・ その仔実装を見に来る客で、惣菜屋は繁盛した。 お昼を大分過ぎて、やっと総菜屋は暇になった。 店主が女将に話をする。 『今日は凄いな・・・昨日の損害も半日で取り戻しちまった』 『ふふ・・誰のお陰かしらねー・・」 『・・・分かってるよ』 店の前でお客を待っている、さつきに目をやった。 『一生懸命だったな・・・』 さつきの横に立ち、話し始める。 『今日はご苦労さん・・・昼にしようか』 『店の売り物なら、好きな物食べていいぞ』 さつきも店主を見上げ答える。 「おじさんが選んでテチ」 「おじさんが選んだ物なら何でも良いテチ」 『おじさんじってのは何だかな、店長って呼んでくれよ』 「分かったテチ・・店長さんテチ」 さつきの行動はウメと女将で、最初から話し合っていた事だ。 仔実装に店の手伝いなんて出来るはずが無い、だから仔実装に出来る事を、 ウメは考えていた、マリモを好きな女将に誘導してもらい、さつきに客の挨拶をさせた。 たださつきの頑張りは、女将の想像を超え店主にまで、さつきの存在を確立させてしまう。 これがさつきの特殊な何か・・・周りの者に好かれるひたむきな心が、さつきにはあった。 夕方を過ぎ、惣菜屋も店じまいを始める、 一日中挨拶を繰り返したさつきは、さすがに疲れていた。 その疲れは一生懸命やった自分にとって、心地良い疲れだった。 店主と別れる間際、意外な言葉を聞いた。 『さつき・・・悪かったな怒ったりして』 『妹がやったからって・・・さつきにまで、あたっちまった』 『さつきは、さつきだもんな』 「すみれの事は、さつきにも責任があるテチ」 「・・・さつきも悪いテチ」 「店長さんは、すぐにスミレを殺さなかったテチ」 「店長さんは良い人テチ」 「ゴハンおいしかったテチ」 「今日はありがとうテチ」 惣菜屋の店主と女将は、さつきに手を振った。 さつきも手を振って答え、ウメの店まで走っていった。
