タイトル:【愛】 実装かぞく14
ファイル:実装家族014.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:1658 レス数:0
初投稿日時:2009/11/05-00:13:31修正日時:2009/11/05-00:13:31
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第14話「公園の日2」

何はともあれ、俺たちは公園へやってきた。
初秋の清々しい気候の中での、久しぶりの公園であった。

「デッス〜ン♪ デッス〜ン♪」

公園では、あのデさんがまるで仔実装のようにはしゃいでいた。
リードを外すや否や、芝生の上を、左から右へ、右から左へ、両手を挙げて懸命に駆け始める。

「テェ!? テェ!?」

ボラギもデさんに習って、後を懸命に追いかけた。
家飼いであるデさんに取っては、この壁のない緑の空間は、実装石としての野生の本能を
どうしても、くすぐるらしい。

「テ!! デ!! デデェ!!」

芝生の上を転げ回る。
道ばたの草花に鼻を近づけて、鼻孔をピクピクと広げる。
これは蒲公英。これは菫草。この匂いは、煙草だ。臭い。
これは犬の糞。野良ではない、飼い犬。それも大型の部類。ゴールデンレトリバーか。

匂いを嗅ぎなら、デさんは、そんなことを考えているのでないか。
これは、俺の推測なのだが、デさんの嗅覚の実装石にしてみれば、相当発達していると思う。
近眼であるデさんが、私生活の中でそれを補うために、聴力や嗅覚を発達させるのは不思議な話ではない。
公園に来る度に、デさんは公園の中に漂う匂いを識別し、まるで自然とコミュニケーションを
図っているように、俺には見えるのだ。

「テェ!? テェ!?」

ボラギが珈琲の空き缶を見つけたのか、飲み口の隙間に溜まった珈琲を舌で舐めている。

「チュフ〜ン♪」

実装石にとっての、あまあまの汁。俺は甘い物はあまり与えない主義だからな。
そんな空き缶があちこちに落ちてる公園は、ボラギにとっては宝の山かもしれない。

「こらこら。アイス買ってやるから、拾い食いはやめろ」

空き缶で舌先を切ったのか、口元と白い前掛けを真っ赤に染めながら、
珈琲缶を抱いてやまないボラギを制して、俺が言う。

ボラギは始めて聞く「アイス」という単語を聞いて、?な顔をしてた。

◇

「ほらよ」

近くの行商のおっさんからアイスを購い、デさんたちに与えた。

「フガァ!! フガァ!!」

口周りをアイスだらけにしながら、がっつくデさん。
眼鏡にもアイスがついて、視界がぼやけているだろうに、お構いなしのようだ。
眼鏡についたアイスで視界が塞がれていたのにやっと気がついたのか、頬を赤らめながら、
眼鏡を両手で取って、フレームについた白濁した白い液体を、舌でぺろりと舐めている。

ボラギも同様。切った舌先から溢れる血を口周りに溢れさせながら、
アイスに顔を突っ込むようにして、意味不明な声を発していた。

ま、日頃、家飼いとして家に24時間監禁されているような生活を送っている彼女らにとって、
この公園が少しでもストレス発散の場になってくれれば、それはそれでよい。

「ん?」

俺は、じーとアイスを両手で見つめているモニカの奇異な様子に気づいて、声をかけようとした。

『アイチュテチ…』

リンガルにはそう流れていた。

!。そうか。
モニカの飼い主である虹裏さんと別れたのも、きっとこの公園だったのだろう。
虹裏さんは「アイスを買ってくるから待ってろ」と言って、二度と現れなかった、という話だったはずだ。
忠犬ハチ公のような実装石の話はよく聞くが、モニカも心の中では、ずっとアイスを持って走ってくる
虹裏さんを待っていたに違いない。

「食い終わったら、砂場で遊ぼうぜ」

俺は、そっとモニカの頭を撫でてやった。
リンガルには、小さく『ご主人サマ…』と流れていた。

◇

「チャーッ!! チャーッ!!」

ボラギが砂場で作る土の城に大興奮していた。
デさんもモニカも、両手を砂で真っ白にしながら、競って城を造っている。

「水をかけると、砂は補強されて、もっと大きな城が造れるんだぜ」

俺はその場で落ちていた如雨露を見つけて、近場の水場で水を汲み、土の上へかけてやる。

「テェ……?」

みるみる色が変わっていく土。その上にまた砂を乗せて、固めて水をかけてやる。
何度もその作業を繰り返すと、土山は、まるで城塞のように高く育ち始めた。

昔、子供の頃、よくこうやって砂場で遊んだな。
妹にせがまれて、砂場の砂を全部使って、1mぐらいの城を造ったのは、俺の少年時代の勲章の一つである。

「どうだ。すごいだろ」

俺が童心に戻り、砂場で城を造ることに懸命になっていたが、
実装石たちの視線がどうも砂場の城に向いていないことに気づき始めた。

「どうした?お腹でも痛いのか」

「デェ…」

「え?これ?」

俺が手にした如雨露に羨望の眼差しを向ける実装石たち。
デさんたちに如雨露を渡すと、デさんは目を輝かせて、その如雨露を高く天に掲げた。

「デッス〜ン♪ デッス〜〜ン♪」

まだ水が残っている如雨露からこぼれる水を頭から被りながら、小躍りするデさん。

「テチュゥッ!! テチュゥッ!!」
「テスッ!! テスァッ!!」

残りの2匹が、デさんの手に群がるように、頬を赤らめながら、如雨露を奪うのに躍起だった。

「なるほど。如雨露か…」

俺は腰についた砂を払い、ベンチに座りながら、デさんたちのはしゃぐ様を眺めていた。
缶珈琲を口にしながら、暫し、如雨露で遊ぶデさんたちを愛でるように見つめた。

デさんが如雨露に残った水を、ボラギの頭の上にかけると、虹が出来上がった。

「ははは。うまいもんだ」

テェッ!! テェッ!!と、上からかかる水に片目を閉じながら「貸して貸して」と、
デさんに小さなジャンプを繰り返している。

ふむ。実装石にとって、如雨露は特別なアイテムであると聞くが、こいつらに
実物の如雨露を与えたのは始めてだったな。

猫に対する猫じゃらしのような効果なのだろうか。

必死に如雨露を奪いその姿が、彼女らにとって、
そのフォルムが絶対美のように映ることを証明しているようだった。

俺は煙草に火をつけて一服しながら、幸せな午後の一時を、実装石たちと噛みしめていた。

「うん。幸せだなぁ…」

その時だった。

「テスァ!!」

モニカが如雨露を奪った。
デさんの一瞬の隙を突いた一撃だった。
デさんが如雨露を独り占めしているのが気にくわなかったらしい。

「デェ!!」

奪われたデさんは、まるで我が子が奪われたかの如くの形相で、逆にモニカに襲いかかる。

「テェェェーーーーンッ!! テェェェーーーーンッ!!」

一向に順番が回ってこないボラギは、デさんのスカートに掴まり、貸せ貸せとせがんでいる。

「おいおい。仲良く順番に遊べよ」

俺の声が届いているのかどうか。
如雨露を手に後ずさるモニカ。追うデさん。
モニカが走った。デさんが追った。

脚力。腕力。中実装のモニカが成体実装であるデさんに勝てる要素は皆無である。
しかし、モニカには勝算があった。
モニカの駆ける先。それはデスクーターであった。

迫るデさんの手をかいくぐりながら、如雨露を片手にデスクーターに乗り込むと、
モニカは素早くキーを差し込む。

デさんがそうはさせじと、デスクーターの荷台にしがみつく。
モニカは構わず、アクセルを吹かした。

後輪が公園の土の上を何度も空回りしながら、後輪が地面を噛む瞬間に、デスクーターは急発進した。

「テスゥゥゥゥーーー!!」
「デスゥゥゥゥーーー!!」
「テチュゥゥゥゥゥーーーーー!!」

「お、おい!」

デスクーターの発信音に気づいた俺は、流石に事の重大さに気がついた。

「モニカ。ブレーキーだ。ブレーキ!!」

俺の声など、届くはずもなく、3匹を乗せたデスクーターは公園を猛スピードで駆けていく。

「モニカッ!! デさんッ!!」

俺が全力でデスクーターの後を追うも、デスクーターは、あっという間に、
俺の声が届かない所まで走り過ぎてしまった。そして、公園の西の出口から公道に出ると、
そのまま北の道路を猛スピードで駆けてしまった。

「ちょ、おま……」

残された俺は、呆然と立ちつくすしかなかった。

◇

近所の目撃者の話では、デスクーターはこの町のインターから高速に乗った所までは確認されたらしい。

1週間後。
長野の警察から「お宅の実装石を保護している」という電話があった。

すぐに、車で迎えに行ったのは言うまでもあるまい。
また帰りの車の中、彼女たちにこっぴどく説教をしたのも言うまでもあるまい。
途中のインターで与えたアイスクリームに、彼女たちが舌鼓を打ったのは、ここだけの話である。

今では笑い話であるが、公園で起こった恐ろしい出来事の顛末であった。

そうそう。その件の如雨露は、家の庭先に置いてある。
庭の花に水をやるための如雨露の奪い合いは、我が家での風物詩になっている。
ま、それもいいだろ。

(つづく)

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