第13話「公園の日」 「デスァ!! デスァ!!」 デさんが玄関前で、お出掛け用のポーチを肩に提げながら、唾を飛ばして叫んでいた。 「ホゲェ!! ホゲェ!!」 ははは。興奮しすぎて、咳き込んだりしている。 それもそのはず。ここ数週間は、ボラギやモニカの件があって、デさん楽しみの 我が家の習慣が飛ばされていたからだ。 今日は週末。そう公園の日である。 ◇ 「テェ!? テェェ!?」 まぁ、もともと野良出身のボラギにとっては、公園など珍しくも何ともあるまい。 しかし、親代わりのデさんが大興奮であることが、ボラギにとってこの上なく嬉しいらしい。 「ははは。おまえも行くか」 即決でボラギも両手を万歳。俺は、実装用のリードをつけるため、デさんにお出掛け用の首輪をつける。 「テェェッ!!」 ん。どうした? 俺がデさんに古びた首輪をつけると、ボラギが大声で叫び始める。そのうち、 「テェックッ!! テェックッ!! テェェェーーーーンッ」 と、泣き始めるではないか。 ふむ。そうか。俺がデさんを虐めているように見えたんだな。 俺はボラギの頭を撫でながら、首輪の説明をする。 家飼いであるデさんに、日常から首輪をする必要などないからな。 まさしく首輪は束縛の象徴である。俺がデさんを虐めていると勘違いしても仕方がない。 「テスン!! テスン!!」 事の次第を理解したボラギが、何とか泣き止む。 「そうだ」 俺は下駄箱からあるものを取り出した。 「あった。あった」 それはデさんが仔実装時代につけていた赤い首輪であった。 実装石の成長スピードは凄まじい。仔実装時代の服や首輪はすぐに使えなくなる。 この赤い首輪も、そう活躍したわけでもないので、まだまだ使えるのだが、 デさんが成長してしまったため、出番もなく、下駄箱の奥に眠っていたわけである。 被った埃を払いながら、 「ほら。首を出せ」 「テェ?」 そう言って俺はボラギの首に、デさんのお下がりである首輪をつけてやった。 「え〜と。鏡、鏡」 俺は近くの手鏡を取り出し、ボラギに見せた。 仔実装のボラギであれば、手鏡程度で、全身を映し出すことができる。 「テェ…テチュゥ〜〜ン♪」 鏡の中に映る自分を見て、右手を口元に添えるボラギ。 この仕草は、実装石の本能である。わずかに首を傾げながら、鏡の中の自分に見とれていた。 (これ私テチ?まるで飼い実装さんみたいテチ) 「デプ。デププ」 デさんも頬を赤らめながら、変身したボラギを見つめている。 「テチュ〜〜ン♪ テチュ〜〜ン♪」 鏡の中で、くるりくるりと回るボラギ。 そんな何でもない日常のシーンを、廊下の端から食い入るように見つめる視線があった。 「テー……」 柱の影から、片目だけを俺たちの方へ向けて、テーと低く唸っている。 モニカであった。 「モニカ。おまえも来るか」 「テ?」 「すまんな。おまえの首輪は今度買っておくよ」 「テスァ」 「何してる。日が暮れちまうぞ」 「テスゥ〜〜ン♪」 モニカがドタドタと玄関に向かって駆けて来たのは言うまでもなかった。 ◇ 「さぁ。公園に出発だ」 俺がデさんの首輪リードをつける。 ボラギの首輪につけたナイロンテープ性のお手製のリードは、デさんが持っていた。 愛護派でない俺でも、見ればクスリと微笑んでしまう光景だった。 「え〜と。モニカは」 見れば、庭先でごそごそとやっている。何してんだあいつは? 「おーい。モニカ。行くぞ〜って、うわぉ!」 「テッスゥ〜〜ン♪」(ブロロロロロ) 現れたモニカは、庭先に置いていたデスクーターに跨って現れた。 「デスァッ!? アッ!? アッ!?」 「チャァーーーッ!? ァッ!? ァッ!?」 庭から飛び出しながら、玄関前のアスファルトで、華麗にドリフトを決めて停止するモニカ。 「そうか。おまえ、これで行くか」 「テスン♪」 「デェェ!? デェェ!?」 眼鏡を鼻下へずらしながら、デさんが始めて見るデスクーターに驚いている。 「チュアァーー!! アッアッーー!!」 ボラギが俺のズボンを引っ張りながら、「何テチ?何テチ?」と興味津々であった。 「テフン」 モニカは、自慢そうに鼻先から息を吐き出す。 そして、見せびらかすように、2軒隣りまでデスクーターを走らせ、そして、こちらに戻ってくる。 「デスァ!! デスァ!!」 「テチュッ!! テチュッ!!」 「運転したいって?いや。だから、免許がいるんだよ」 デスクーターのポシェットには、モニカの運転免許が常備されている。 それを取り出して見せてやると、食い入るように見るデさんとボラギ。 実装用のデスクーターを乗る為には、やはり道路交通法を守らないと公道に出ることはできない。 飼い実装でも難関な試験なのである。 モニカは得意げにデスクーターを駆り、縦横無尽に道路を走っている。 「デスァ!! デスァ!!」 「テチュッ!! テチュッ!!」 「わかった。わかった。おまえ達も免許を取ったら乗ろうな」 まぁ。免許なんて不必要な物は取らせる予定は一切ないんだけどな。 とりあえず、誤魔化し続けよう。 そんなデさんとボラギを連れて、モニカを先頭に俺たちは公園へと向かった。 「しかし、公園も久しぶりだなぁ」 俺も少し気が緩んでいたのかもしれない。 俺はその時予想だにもしていなかった。 この公園で、あんな恐ろしい出来事が起こるとは……。 (つづく)
