タイトル:【愛】 実装かぞく12
ファイル:実装家族012.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:1615 レス数:0
初投稿日時:2009/10/30-23:59:39修正日時:2009/10/30-23:59:39
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第12話「御祓(みそぎ)」

「テステ…」

居間でモニカが正座をしている。
実装石の足の骨格で正座をするのは難しい。
しかし、それを敢えて慣行しているのは、モニカの反省の行為の表れかもしれない。

今朝、俺のことを「ニンゲン」と呼び、庭の茂みの揺れを
モニカの前の飼い主である虹裏さんであると勘違いし、家を飛び出したモニカ。
その茂みの揺れの主が、近所の野良猫であったとわかるや否や、俺に対する態度を一変させた。

その反省を、モニカが「正座」という行為で表している。
いや。それは、別に俺が強要したわけではない。
ましてや、実装石であるモニカが取った理不尽な行動を、一々俺が咎めたわけでもなかった。

「テー…」

モニカの本日の失態を責めた張本人。それは、誰でもない。デスアことデさんであった。

「なぁ、デさん。そろそろ許してやっても……」
「デスァ!!」

俺の意見も一蹴されてしまう程の気迫である。

「デスァ!! デスデスデェーッ!!」
「……テー」

デさんは、ソファーの上に座り、さながら牢屋主のように、黒縁眼鏡のレンズの奥から
反省の色を表しているモニカに、叱責の視線を送るのであった。

◇

この家の実装石たちの給餌は、成体実装石であるデさんが行っている。
実装石たちの主食である「お徳用・実装フード」の袋は、成体実装石であるデさんの背でしか
届かない棚の中に収められている。

「チュ〜〜ン♪」

ボラギノールの実装皿に実装フードをカラカラと盛るデさん。
ボラギノールに取っては、餌を与えてくれるデさんは、まさしく母親のように映っているだろう。

「テ……」

その日、デさんは、モニカの実装皿には給餌もせず、その日の給餌を終えた。

「テス…」

小さな声で直訴するも、デさんの人睨みで、モニカは窮してしまった。
責めることはできない。非はこちらにある。

「テチュ〜〜ン♪」

実装フードをまき散らしながら、実装フードを頬張るボラギノール。
デさんは、自分の実装フードを、ずれる眼鏡をなおしながら、黙々と食している。

「………テー」

俺はその姿をよそ目に、口を出すことはできなかった。
人間社会にルールがある通り、実装社会にもルールが存在する。
人間である俺が、とやかく口の出せるようなものでないような気がしたからだ。

ボラギノールが、ハムハムと口を咀嚼する度に、それを見ているモニカの口も、もごもごと動く。
ングッと、ボラギノールが嚥下すると、モニカも何もない口を、ングッと飲み込んだ。
空の口を、何度も動かしても、腹が満たされるわけもなかった。

モニカにとって、一時期は、嘔吐するほど口に合わなかった実装フードであるが、
実装石にとって、空腹ほど脅威なことはない。
野生の実装石の死因は、その殆どが飢餓による餓死である。
飼い実装とはいえ、空腹に対する恐怖心は、本能的に刷り込まれている。

デさんが、皿の実装フードに手をかける度に、モニカの血走った目がそれを追い、
その手にした実装フードが口に運ばれる度に、モニカも何もない手を口に運ぶ。
この時ほど、無味乾燥な実装フードを渇望したことは、モニカにとって記憶はなかったことだろう。

「………テスン」

モニカは滲む涙を拭いながら、空の実装皿を見つめた。
ベロリと舌で舐める。何も盛っていない皿だから、味がするはずもない。

「テスン… テスン…」

何度も何度も舐めるうちに、極限に達したのか、モニカの目に大粒の涙が溢れては流れた。
その涙が空の皿にぽとりぽとりと落ちる。

「テェ!?」

今までの無味だった皿に、塩辛い味がついたことに驚くモニカ。

「テェ!? テテェ!?」

自らの涙の味に驚いたのか、口の中に広がる塩の味に、モニカは舌鼓を打つ。

「テスゥ〜〜ン♪」

しかし、あっという間に涙は、自らの舌に舐め取られてしまった。

「……テー」

呆けるように皿を見つめるモニカが意を決したのは、デさんたちが食事をほぼ終えんとした時だった。

「テステ」

そう言って、モニカがデさんに向き合った。


◇

(ぶちり・ぶちり)

嫌な音が台所に響いた。
居間にいた俺の耳にも、その音は、はっきりと聞こえた。
それは、モニカが自ら、前髪を引き抜いた音であった。

数で言えば10本も満たない数であったが、抜けてしまうと二度と髪が生えない実装石にとって、
それは宝と言っていいものである。

それも、自らの手で抜いた。
俺は正直、そのような行動をとった実装石を見るのは始めてだった。

「テステス」

そう言って、モニカはその10本程度の髪を、デさんの前に献上した。

デさんは、黒縁眼鏡の縁からそれを見ながら、深いため息をする。
目配せをすると、ボラギノールがその毛を素早く回収した。
そして、テチテチとその髪を後生大事に抱え、東の和室へと向かった。
東の和室と言えば、デさんのあの秘密基地だろう。

「デス」

デさんはモニカにどう声をかけたかわからないが、
食べさしの実装皿をモニカに差し出した。

「テス…」

そして、モニカは涙を流しながら、その差し出された実装フードを口にした。

俺はその行為がどういう事を発端に行われたかは理解できなかったが、
きっとそれは実装社会において「御祓(みそぎ)」に近い行動であったのではと思っている。

現に、その日以来、モニカはデさんに認められたのか、
一緒に仲良く3匹で積み木で遊んでいるのを見かけるようになった。

飼い実装とはいえ、この狭いコミュニティーにも実装社会のルールがあるようである。
ふむ。まさに興味深い話ではないか。

「テスー」

積み木が積み上がったのか、モニカの声が聞こえる。
何はともあれ、ようやく実装家族に明るい声が響くようになった。

(つづく)

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